説明

レーダ送受信機、及びレーダ装置

【課題】最小限の構成で、送受信信号の周波数差信号をサンプリングできるレーダ送受信機を提供する。
【解決手段】レーダ信号を送信信号として送信し、物体により反射された前記送信信号を受信信号として受信するアンテナ部と、前記送信信号と前記受信信号のいずれか一方をスイッチング周波数信号でスイッチングするスイッチング手段と、前記レーダ信号と前記受信信号の第1の周波数差信号を生成するミキサと、前記スイッチング周波数と同期して前記第1の周波数差信号のサンプリングを行い、前記レーダ信号と受信信号の第2の周波数差信号を検出するサンプリング部とを有するレーダ送受信機によれば、第1の周波数差信号から第2の周波数差信号を直接サンプリングできるので、第1の周波数差信号とスイッチング周波数信号との周波数差信号を生成するミキサ等を省略できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数変調されたレーダ信号を送信信号として送信し、物体により反射された前記送信信号を受信信号として受信するレーダ送受信機に関し、特に、送信用のレーダ信号と受信信号のいずれか一方をスイッチング周波数でスイッチングするレーダ送受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の相対距離と相対速度を検出するレーダ装置として、FM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)式のレーダ装置が知られている。
【0003】
図1は、FM−CW式のレーダ装置が、物体の相対距離と相対速度を検出する原理について説明する図である。FM−CW式のレーダ装置は、時間とともに周波数が漸次増減する周波数変調を施したレーダ信号(電磁波)を送信し、物体により反射されたレーダ信号を受信する。図1(A)は、送信信号Stと受信信号Srの、時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化を示す。図示するように、送信信号Stは、周波数fmの三角波に従って、中心周波数をfcとする周波数変調幅ΔFで周波数変調される。送信信号Stに対し、受信信号Srの周波数は、物体までの距離を往復する時間的遅れΔTとドップラシフトΔDを受けて変移する。よって、かかる周波数変移量から物体の相対距離と相対速度が求められる。
【0004】
かかる周波数変移量を求めるため、FM−CW式のレーダ装置は、送信信号Stの一部と受信信号Srを混合して両者の周波数差信号Sbを生成する。図1(B)は、周波数差信号Sbの周波数変化を示す。FM−CW式のレーダ装置は、送受信信号の周波数上昇期間と下降期間ごとの周波数差信号Sbの周波数(以下、ビート周波数という)fu、fdから、次式により物体の相対距離Rと相対速度Vを検出する。ここで、Cは光速である。
【0005】
R=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm)
V=C・(fd−fu)/(4・fc)
FM−CW式レーダ装置は、その回路構成は比較的小型かつ低廉であって移動体間の相対距離、相対速度が同時に求まるので、車載用レーダ装置として広く用いられる。
【0006】
図2は、FM−CW式レーダ装置の基本的な構成を示す図である。レーダ装置2は、レーダ送受信機4と信号処理装置6により構成される。レーダ送受信機4は、三角波の周波数変調信号を生成する変調信号生成部12と、周波数変調信号に従って周波数変調されたレーダ信号を出力する電圧制御発振器(VCO)14とを有し、さらに、レーダ信号の一部(送信信号)St1として増幅する増幅器15と、増幅した送信信号を送信する送信アンテナ16とを有する。なお、車載用のレーダ装置では、電波法の定めるところにより、ミリ波帯(76.0GHz〜77.0GHz)のレーダ信号が用いられる。
【0007】
また、レーダ送受信機4は、物体により反射された送信信号St1を受信信号Srとして受信する受信用のアンテナ18と、受信信号SrとVCO14が生成したレーダ信号の一部(以下、ローカル信号という)St2を混合して両者の周波数差信号Sb1を生成するミキサ20とを有する。ここで、ローカル信号St2と送信信号St1は同じ周波数であるので、周波数差信号Sb1の周波数は送信信号St1と受信信号Srの周波数差に対応する。
【0008】
さらに、レーダ送受信機4は、発振器24が生成する所定のサンプリング周波数(例えば500kHz)信号Spで周波数差信号Sb1をサンプリングして、そのデジタルデータであるサンプリングデータDb1を生成するサンプリング部22を有する。そして、サンプリングデータDb1は、マイクロコンピュータを有する信号処理装置6にて処理される。
【0009】
信号処理装置6は、物体の相対距離と相対速度を検出するために、サンプリングデータDb1に対しFFT(高速フーリエ変換)処理を行って、その結果からビート周波数を検出する。ここで、送信信号St1、受信信号Srの周波数はミリ波帯であるのに対し、周波数差信号Sb1は、例えば、物体の相対距離数十メートルに対し数百kHz程度の低周波帯となる。すると、FFT処理結果からビート周波数を検出しようとするとき、種々の低周波雑音による信号対雑音比の低下が問題となる。かかる低周波雑音の例として、いわゆるFMAM雑音や1/f雑音があげられる。FMAM雑音は、VCO14が生成するレーダ信号の振幅が完全に平坦とならないことに起因して、振幅変動に対応した数百Hz程度の低周波信号がミリ波の送信信号St1に重畳することにより生じる雑音である。また、1/f雑音は、レーダ送受信機4の各回路素子に存在する雑音が周波数差信号Sb1に混入したものであり、周波数fに反比例して量が増大する。よって、低周波帯域に多く含まれる。
【0010】
このような問題を解決するために、送信信号St1と受信信号Srを1MHz程度のスイッチング周波数信号でスイッチングし、その結果周波数差信号に含まれるスイッチング周波数信号の側帯波としてビート周波数を検出する方法が提案されている。特許文献1には、かかる方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−172776号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図3は、上記方法を実行するレーダ装置の構成を示す。このレーダ装置2aのレーダ送受信機4aは、図2で示したレーダ送受信機4の構成(図2と同じ番号を付す)に加え、デューティ比50%の1MHzの矩形波であるスイッチング周波数信号Ssを生成する発振器26と、このスイッチング周波数信号Ssにより送信信号St1、受信信号Srをそれぞれスイッチングするスイッチ28、30を有する。さらに、レーダ送受信機4aは、第1のミキサ20により生成される周波数差信号Sb1からスイッチング周波数(1MHz)帯域を周波数差信号Sb2として抽出する第1の帯域通過フィルタ32と、周波数差信号Sb2とスイッチング周波数信号Ssとを混合して両者の周波数差信号Sb3を生成する第2のミキサ34と、いわゆるサンプリング定理におけるエイリアシングを防止するために、サンプリング周波数の2分の1以上の周波数信号を周波数差信号Sb3から除去する第2の帯域通過フィルタ36とを有する。そして、第2の帯域通過フィルタ36が出力する周波数差信号Sb4が、サンプリング部22にてサンプリングされ、サンプリングデータDb4が生成される。そしてサンプリングデータDb4が信号処理装置6に入力される。
【0012】
ここで、レーダ送受信機4aにより生成される各種信号について、図4、図5、及び図6を用いて説明する。
【0013】
まず、図4を用いて、送信信号St1、ローカル信号St2、及び受信信号Srについて説明する。図4(A)は、VCO14が生成した送信信号St1とローカル信号St2の周波数スペクトラムを示す。両信号の周波数スペクトラムは、ミリ波帯の周波数fcが周波数変調幅ΔFで周波数変調されたものである。以下では、説明の便宜のため、周波数上昇期間中のある時間での周波数スペクトラムを示す。
【0014】
次に、図4(B)は、送信信号St1を1MHzのスイッチング周波数信号Ssでスイッチングして得られる、送信信号St1の周波数スペクトラムを示す。送信信号St1は、1MHzのスイッチング周波数信号Ssで振幅変調されているので、周波数fc±1MHzの信号を有する。
【0015】
そして、図4(C)は、物体からの反射されて受信されるときの受信信号Srの周波数スペクトラムを示す。図4(C)は、図4(B)に示した周波数スペクトラムが物体の相対距離に応じた遅延時間分のアップビート周波数fu変移した周波数スペクトラムとなる。すなわち、図4(B)における周波数fc±1MHzの各信号は、図4(C)において周波数fc±1MHz-fuの各信号となる。なお、送信信号St1が送信されたときと受信信号Srが受信されたときとでは、ローカル信号St2の周波数は物体の相対距離に応じた遅延時間分変移するので、ローカル信号St2をスイッチング周波数信号Ssでスイッチングした場合における受信信号Srが受信されたときのローカル信号St2の周波数スペクトラムも、図4(C)で表される。
【0016】
次に、周波数差信号Sb1〜Sb4について、図5、図6を用いて説明する。まず、図5(A)は、ミキサ20により生成される、周波数差信号Sb1の周波数スペクトラムを示す。周波数差信号Sb1の周波数は、ローカル信号St2と受信信号Srの周波数差に対応する。よって、図5(A)の周波数スペクトラムは、図4(A)と図4(C)の差分に対応する。ここにおいて、図4で示したミリ波帯から、1MHz前後の中間周波数へダウンコンバートされる。そして、図示するように、周波数差信号Sb1は、低周波帯域におけるビート周波数fuの信号と、1MHzの側帯波の一部としての1MHz±fuの信号を含む。
【0017】
ここで、周波数差信号Sb1には、上述した低周波雑音LNが含まれ、ビート周波数fuの信号の検出に支障を来たす。よって、スイッチング周波数帯域MFが第1の帯域通過フィルタ32で抽出されることで、低周波雑音LNの影響を受けない周波数差信号Sb2が得られる。
【0018】
ここで、図6(A)に周波数差信号Sb2の波形を示す。この波形は、図6(B)に示すビート周波数fuの信号波形に、図6(C)に示すスイッチング周波数信号Ssの波形が重畳したものである。
【0019】
そして、第2のミキサ34により、周波数差信号Sb2とスイッチング周波数信号Ssの周波数差信号Sb3が生成され、さらに低周波帯へダウンコンバートされる。そして、周波数差信号Sb3の比較的周波数が低い部分が、第2の帯域通過フィルタ36により周波数差信号Sb4として抽出される。
【0020】
図5に戻ると、図5(B)は、周波数差信号Sb4の周波数スペクトラムを示す。図示するように、ビート周波数fuの信号を含んだものとなる。これは、図5(A)における1MHz±fuの信号と1MHzのスイッチング周波数信号Ssとの差分に対応する。
【0021】
また、ここで、図6(D)に周波数差信号Sb4の波形を示す。これは、図6(A)の周波数差信号Sb2から図6(C)のスイッチング周波数信号Ssの波形が除去されたものであり、図6(B)に示した、求めるビート周波数fuの信号の波形と一致する。
【0022】
そして、この周波数差信号Sb4は、図6(E)に示すサンプリング周波数信号Spでサンプリングされて、図6(F)に示すサンプリングデータDb4が生成される。信号処理装置6は、このサンプリングデータDb4をFFTすることで、低周波雑音の影響を受けずにビート周波数を検出する。
【0023】
ところで、上述した構成では、第2のミキサ34と帯域通過フィルタ32、36が追加されることにより、回路構成が増大し、コスト高となる。すると、車載用レーダ装置においては、設置スペース上の制約による小規模化の要請と低コスト化の要請が大きいので、問題となる。
【0024】
特に、上述した構成を、複数の受信アンテナにおける受信信号の位相差に基づいて物体の方位角を検出する電子スキャン式(あるいは位相モノパルス式)レーダ装置に適用する場合において、ミキサ20、34、帯域通過フィルタ32、36、サンプリング部22からなる受信系の回路構成を受信アンテナごとに備えようとすると、回路規模の増大量が大きくなる。すると、コストの増加量も大きくなる。
【0025】
そこで、本発明の目的は、最小限の構成で、送受信信号の周波数差信号をサンプリングできるレーダ送受信機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0026】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、周波数変調されたレーダ信号を生成するレーダ信号生成部と、第1の前記レーダ信号を送信信号として送信し、物体により反射された前記送信信号を受信信号として受信するアンテナ部と、前記第1のレーダ信号と前記受信信号のいずれか一方をスイッチング周波数信号でスイッチングするスイッチング手段と、第2の前記レーダ信号と前記受信信号の第1の周波数差信号を生成するミキサと、前記スイッチング周波数信号と同期して前記第1の周波数差信号のサンプリングを行い、前記レーダ信号と受信信号の第2の周波数差信号を検出するサンプリング部とを有するレーダ送受信機が提供される。
【0027】
上記側面の好ましい態様によれば、前記スイッチング周波数信号を整数分の1に分周する分周器をさらに有し、前記サンプリング部は、前記分周されたスイッチング周波数信号により前記サンプリングを行うことを特徴とする。
【0028】
上記側面のさらに好ましい態様によれば、前記第1の周波数差信号から前記スイッチング周波数帯域を抽出する帯域通過フィルタをさらに有し、前記サンプリング部は、前記抽出された第1の周波数差信号に対し前記サンプリングを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
上記側面によれば、サンプリング部は前記スイッチング周波数信号と同期して前記第1の周波数差信号のサンプリングを行うので、スイッチング周波数信号が重畳した第1の周波数差信号から前記送信信号と受信信号の第2の周波数差信号を検出できる。よって、第1の周波数差信号とスイッチング周波数信号との周波数差信号を生成する第2のミキサ等を省略でき、最小限の構成で低周波雑音を除去して送受信信号の第2の周波数差信号をサンプリングできる。
【0030】
上記の好ましい態様によれば、分周器によってスイッチング周波数信号をサンプリング部の処理速度に合わせた周波数に分周するので、処理速度が遅い廉価なサンプリング部を用いた場合であっても、前記送信信号と受信信号の第2の周波数差信号を検出できる。
【0031】
上記のさらに好ましい態様によれば、前記第1の周波数差信号から前記スイッチング周波数帯域を抽出する帯域通過フィルタをさらに有するので、低周波雑音を除去してからサンプリングが行える。よって、低周波雑音の影響を受けずに、前記送信信号と受信信号の第2の周波数差信号を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0033】
[第1の実施形態]
図7は、第1の実施形態におけるレーダ装置の構成を示す図である。このレーダ装置2bは、周波数変調したミリ波をレーダ信号として用いるFM−CW式レーダ装置である。レーダ装置2bは、レーダ信号の送受信を行うレーダ送受信機4bと、レーダ送受信機4bから出力されるサンプリングデータを処理して物体の相対距離、相対速度を検出する信号処理装置6とを有する。なお、本図において、図1、図3で示した構成と同じ構成には同じ符号が付してある。
【0034】
レーダ送受信機4bの構成において、変調信号生成部12と、VCO14が「レーダ信号生成部」に対応し、送信用アンテナ16と、受信用アンテナ18が「アンテナ部」に対応する。
【0035】
また、1MHzのスイッチング周波数信号Ssを生成する発振器26と、送信信号St1をスイッチング周波数信号Ssでスイッチングするスイッチ28と、受信信号Srをスイッチング周波数信号Ssでスイッチングするスイッチ30が「スイッチング手段」に対応する。なお、送信信号St1をスイッチングするスイッチング周波数信号Ssと受信信号Srをスイッチング周波数信号Ssとは、逆相の信号が用いられる。各信号のタイミング図を図8に示すと、スイッチング周波数信号Ss(図8(A))によりスイッチングされた送信信号St1は、時間軸においてΔT遅延した受信信号Sr(図8(B))として受信される。この受信信号Srが逆相のスイッチング周波数信号Ss(図8(C))によりスイッチングされると、ミキサ20に入力される受信信号Srは図8(D)となる。ここで、物体の相対距離が小さくなるほど遅延時間ΔTは小さくなり、その結果、スイッチング周波数信号Ssの1周期でミキサ20に入力される受信信号Sr(図8(D))の電力が低下する。すると、検出精度が低下してしまう。よって、スイッチング周波数信号Ssの周波数を高く(1MHz)することで、近距離の物体から得られる時間あたりの受信電力を大きくし、検出精度の低下を防ぐことができる。
【0036】
そして、本実施形態のレーダ送受信機4bは、図3で示した構成と比べたとき、第2のミキサ34と第2の帯域通過フィルタ36を有さないという点と、サンプリング部23がスイッチング周波数信号Ssに同期して、帯域通過フィルタ32が出力する周波数差信号Sb2のサンプリングを行うという点に特徴を有する。
【0037】
図9は、第1の実施形態における周波数差信号Sb2のサンプリングについて説明する図である。図9(A)は周波数差信号Sb2、図9(B)はスイッチング周波数信号Ssの波形をそれぞれ示し、図9(C)は周波数差信号Sb2をスイッチング周波数信号Ssでサンプリングを行って得られるサンプリングデータDb2を示す。
【0038】
ここで、従来例では、第2のミキサ34により周波数差信号Sb2とスイッチング周波数信号Ssとの周波数差信号Sb3を生成し、その周波数差信号Sb3から第2の帯域通過フィルタ36により抽出した周波数差信号Sb4に対しサンプリングを行い、サンプリングデータDb4を生成していた(図6(F))。これに対し、本実施形態では、周波数差信号Sb2に対し直接サンプリングを行うが、スイッチング周波数信号Ssと同期してサンプリングを行う。これにより、得られたサンプリングデータDb4を補間した結果と、サンプリングデータDb2を補間した結果とが一致する。よって、信号処理装置6は、従来例ではサンプリングデータDb4からビート周波数を検出していたが、本実施形態ではサンプリングデータDb2から同じビート周波数を検出できる。
【0039】
また、図9(D)は、スイッチング周波数信号Ssを2分の1に分周したスイッチング周波数信号Ss1の波形を示し、図9(E)はそのとき得られるサンプリングデータDb4を示す。さらに、図9(F)は、スイッチング周波数信号Ssを3分の1に分周したスイッチング周波数信号Ss1の波形を示し、図9(G)はそのとき得られるサンプリングデータDb4を示す。いずれの場合においても、スイッチング周波数信号Ss1と同期してサンプリングを行うことで、得られるサンプリングデータDb2を補間した結果はサンプリングデータDb4を補間した結果と一致する。よって、信号処理装置6は、従来例でサンプリングデータDb4から検出したのと同じビート周波数をサンプリングデータDb2から検出できる。
【0040】
このように、本実施形態のレーダ送受信機4bによれば、第2のミキサ34、第2の帯域通過フィルタ36、サンプリング周波数信号Spを生成する発振器24を省略し、最小限の構成で送信信号St1と受信信号Srの周波数差信号、つまりビート周波数を含んだ信号をサンプリングできる。よって、回路規模の小型化と低廉化が可能となる。
【0041】
また、帯域通過フィルタ32により低周波雑音を除去することで、周波数差信号のサンプリングデータDb2から信号処理装置6がビート周波数を検出する際に、低周波雑音の影響を排除でき、精度のよいビート周波数の検出ができる。
【0042】
また、帯域通過フィルタ32の通過帯域を、サンプリングに用いるスイッチング周波数の2分の1以上の周波数信号を周波数差信号Sb1から除去するように設定することで、エイリアシングを防止できる。
【0043】
さらに、サンプリング周波数信号Spを生成する発振器24を省略することで、1つのレーダ送受信機内で複数の異なる周波数信号の発振を行うことにより生じる雑音の影響を回避できる。
【0044】
ところで、上記構成において、サンプリング部23の処理速度とスイッチング周波数信号Ssの周波数が乖離している場合、例えばサンプリング部23の処理速度が500KHzに対し、スイッチング周波数信号Ssが1MHzである場合には、さらに図10に示すように、スイッチング周波数信号Ssの周波数を整数分の1に分周する分周器40を設けて、分周されたスイッチング周波数信号Ss1を用いてサンプリング部23がサンプリングを行う構成としてもよい。そうすることで、サンプリング部23の処理速度に応じたサンプリングを行うことができる。そうすることで、サンプリング部23を低廉な部品で構成することができる。
【0045】
なお、上述の説明では、送信信号St1と受信信号Srの両方をスイッチングする構成を示した。しかし、本実施形態は、送信信号St1と受信信号Srの少なくともいずれか1つをスイッチングする場合にも適用できる。その場合においても、周波数差信号Sb2には、1MHzの側帯波の一部として1MHz±ビート周波数の信号が含まれる。よって、1MHzのスイッチング周波数信号Ssに同期してサンプリングを行うことで、得られるサンプリングデータDb2を補間した結果と、従来例で周波数差信号Sb4から得られたサンプリグデータDb4を補間した結果は一致する。
【0046】
ところで、本実施形態のレーダ装置により物体の方位角を検出する方法として、受信用アンテナを複数設けてレーダ信号を電子的に走査する電子スキャン式(あるいは位相モノパルス式)と、アンテナ部を機械的に回動させるメカニカルスキャン式があげられる。
【0047】
図11は、第1の実施形態のレーダ装置が、電子スキャン式(あるいは位相モノパルス式)のレーダ装置として用いられる場合の構成例を示す。レーダ送受信機4bには、複数の受信アンテナ18_n(n=1、2、…)が備えられるとともに、スイッチング周波数信号Ssに応答して各受信アンテナを順次増幅器19と接続するスイッチ30aが備えられる。
【0048】
そして、受信アンテナ18_nごとに生成される周波数差信号が順次信号処理装置6に取り込まれる。そして、信号処理装置6は、受信アンテナ18_nごとの周波数差信号の位相を解析し、受信アンテナ間の距離と受信位相差とから、受信信号Srの到来方位角を物体の方位角として算出する。
【0049】
図12は、第1の実施形態のレーダ装置が、電子スキャン式(あるいは位相モノパルス式)のレーダ装置として用いられる場合の別の構成例を示す。この構成では、受信アンテナ18_nごとに、スイッチ30_n、増幅器19_n、ミキサ20_n、帯域通過フィルタ32_n、サンプリング部23_nが設けられる。
【0050】
このような構成により、レーダ送受信機4bは、すべての受信アンテナ18_nで同時に受信信号Srを受信できる。よって、図11の構成では時分割で受信されていた受信信号Srがすべての受信アンテナ18_n同時に受信されるので、時間差に基づく受信位相の誤差を少なくでき、精度よい方位角検出が可能となる。
【0051】
さらに、このような構成の場合に、図3で示した従来例では受信アンテナ数に応じて第2のミキサ、第2の帯域通過フィルタを設ける必要があったのに対し、これらをすべて省略できる。よって、本実施形態によれば回路規模の小型化、低廉化が可能となる。
【0052】
図13は、第1の実施形態のレーダ装置が、メカニカルスキャン式のレーダ装置として用いられる場合の構成例を示す。レーダ送受信機4bには、送信アンテナ16と受信アンテナ18とを有するアンテナ部50が回動可能に設けられる。そして、レーダ送受信機4bは、アンテナ部を回動させるモータと、アンテナ部50の回動角度を検出するエンコーダとを有するアンテナ回動部52を有する。アンテナ回動部52は、信号処理装置6からの制御信号に応答してアンテナ部50を回動させるともに、その回動角度を信号処理装置6に出力する。これにより、信号処理装置6は、受信信号が得られたときの回動角度から物体の方位角を検出する。
【0053】
[第2の実施形態]
図14は、第2の実施形態におけるレーダ装置の構成を示す。この構成では、レーダ送受信機4bは、送受兼用アンテナ16aを有し、スイッチ28、30により送信動作と受信動作を切り替える。ここで、送信信号St1をスイッチングするスイッチング周波数信号Ssと受信信号Srをスイッチング周波数信号Ssとは、逆相の信号が用いられる。
【0054】
かかる構成によれば、第1の実施形態の場合よりアンテナ数を減らすことができ、さらに低廉化を図ることができる。また、サンプリングに際しては、サンプリング部23の処理速度がスイッチング周波数以下の場合であっても、分周器40によりスイッチング周波数信号Ssを適宜分周したスイッチング周波数差信号Ss2を生成し、これによりサンプリングを行う。そうすることで、サンプリング部23を低廉な部品で構成することができる。
【0055】
図15、図16は、第2の実施形態におけるレーダ装置が、電子スキャン式(あるいは位相モノパルス式)のレーダ装置として用いられる場合の構成例を示す。図15の構成例と図11の構成例、及び、図16の構成例と図12の構成例とをそれぞれ比べたとき、受信アンテナの1つが送信アンテナと兼用されている点がそれぞれ異なる。いずれの場合も、アンテナ数を減らすことができ、さらに低廉化を図ることができる。
【0056】
なお、図14で示した構成において、図12と同様のアンテナ回動部52を設けてアンテナ16aを回動させることにより、メカニカルスキャン式のレーダ装置が実現できる。
【0057】
[レーダ装置の使用例]
図17は、第1、第2の実施形態におけるレーダ装置が、車両に搭載されて用いられる使用状況を説明する図である。レーダ装置2bは、車両1の前部フロントグリル内あるいはバンパー部分などに搭載され、フロントグリルやバンパー前面に形成されるレドームを透過してレーダ信号の送信と、物体により反射されたレーダ信号の受信とを行う。そして、レーダ装置2bは、物体の相対距離、相対速度、及び方位角とを検出する。
【0058】
ここで、物体としては、車両1の先行車両、対向車などが含まれる。そして、これらの物体についての検出結果に基づいて、車両1の図示されない制御装置が、先行車両に追従走行したり、対向車両との衝突を回避したりするように車両1の各種アクチュエータを制御する。
【0059】
なお、レーダ装置4は、車両1の側部や後部に搭載し、側方や後方の物体を検出するために用いてもよい。また、車両以外の移動体に搭載し、他の移動体を検出するために用いても良い。
【0060】
以上の説明においては、レーダ信号の周波数変調方式としてFM−CW方式を例に説明した。しかし、周波数変調方式はこれに限られず、送受信信号の周波数差に基づいて物体の情報を得るレーダ装置であれば、本実施形態が適用される。
【0061】
また、スイッチング周波数信号は、低周波雑音の影響を受けずにビート周波数を側帯波として検出できるような周波数であれば1MHz以外を用いることも可能である。また、サンプリング部23の処理速度に応じて適宜スイッチング周波数信号を分周することで、スイッチング周波数信号に同期したサンプリングを行うことができる。
【0062】
以上説明したように、本実施形態によれば、最小限の構成で送受信信号の周波数差信号をサンプリングできるレーダ送受信機とこれを備えたレーダ装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】FM−CW式のレーダ装置が、物体の相対距離と相対速度を検出する原理について説明する図である。
【図2】FM−CW式レーダ装置の基本的な構成を示す図である。
【図3】従来例のレーダ装置の構成を示す。
【図4】送信信号St1等について説明する図である。
【図5】周波数差信号Sb1等について説明する図である。
【図6】周波数差信号Sb2等について説明する図である。
【図7】第1の実施形態におけるレーダ装置の構成を示す図である。
【図8】スイッチング周波数信号Ss等のタイミング図である。
【図9】変形例におけるレーダ装置の構成を示す図である。
【図10】第1の実施形態における周波数差信号Sb2のサンプリングについて説明する図である。
【図11】第1の実施形態のレーダ装置が、電子スキャン式のレーダ装置として用いられる場合の構成例を示す図である。
【図12】第1の実施形態のレーダ装置が、電子スキャン式のレーダ装置として用いられる場合の別の構成例を示す図である。
【図13】第1の実施形態のレーダ装置が、メカニカルスキャン式のレーダ装置として用いられる場合の構成例を示す図である。
【図14】第2の実施形態におけるレーダ装置の構成を示す。
【図15】第2実施形態のレーダ装置が、電子スキャン式のレーダ装置として用いられる場合の構成例を示す図である。
【図16】第2実施形態のレーダ装置が、電子スキャン式のレーダ装置として用いられる場合の構成例を示す図である。
【図17】レーダ装置の使用状況を説明する図である。
【符号の説明】
【0064】
2b:レーダ装置、4b:レーダ送受信機、6:信号処理装置、16、18:アンテナ、20:ミキサ、23:サンプリング部、26:発振器、32:帯域通過フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調されたレーダ信号を生成するレーダ信号生成部と、
前記レーダ信号を送信信号として送信し、物体により反射された前記送信信号を受信信号として受信するアンテナ部と、
前記送信信号と前記受信信号のいずれか一方をスイッチング周波数信号でスイッチングするスイッチング手段と、
前記レーダ信号と前記受信信号の第1の周波数差信号を生成するミキサと、
前記スイッチング周波数信号と同期して前記第1の周波数差信号のサンプリングを行い、前記レーダ信号と受信信号の第2の周波数差信号を検出するサンプリング部とを有するレーダ送受信機。
【請求項2】
請求項1において、
前記スイッチング周波数信号を整数分の1に分周する分周器をさらに有し、
前記サンプリング部は、前記分周されたスイッチング周波数信号により前記サンプリングを行うことを特徴とするレーダ送受信機。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記第1の周波数差信号から前記スイッチング周波数帯域を抽出する帯域通過フィルタをさらに有し、
前記サンプリング部は、前記抽出された第1の周波数差信号に対し前記サンプリングを行うことを特徴とするレーダ送受信機。
【請求項4】
請求項1または2において、
前記アンテナ部は前記受信信号を受信する受信用アンテナを複数有し、
前記受信用アンテナごとに前記ミキサと前記サンプリング部とを有するレーダ送受信機。
【請求項5】
請求項1乃至4のレーダ送受信機と、前記サンプリングされた第2の周波数差信号を処理して前記物体の相対距離または相対速度を検出する信号処理装置とを有するレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−281882(P2009−281882A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−134555(P2008−134555)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】