説明

レーヨン繊維の製造方法

【課題】 人体の健康に良いとされるゲルマニウムを再生繊維に付着させ、その後の精錬、漂白、染色などの後工程でのゲルマニウムの溶解や脱落を抑える技術を提供する。
【解決手段】 本発明は金属ゲルマニウム及び/又は酸化ゲルマニウムにチタン化合物、ジルコニウム化合物の一種以上を混合し、加熱して出来た改質ゲルマニウムを再生繊維に担持することにより、ゲルマニウムの繊維からの脱落を紡糸できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人体の健康に良いとされるゲルマニウムを再生繊維に付着させ、その後の精錬、漂白、染色などの後工程でゲルマニウムの溶解や脱落を抑えるように改質したゲルマニウムを含有する再生繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲルマニウム化合物は遠赤外線を放射し、人体に照射することにより身体の内部に充血作用が起こり、血行を促進し、温熱作用があることが知られている。近年ゲルマニウム化合物の健康促進効果が見直され、肌着、靴下等の繊維製品、ブレスレッド等の装身具に利用されている。
【0003】
健康促進効果を得るためのゲルマニウム化合物は、無機ゲルマニウム、有機ゲルマニウムを問わず種々提案されている。
【0004】
特許文献1記載の技術には繊維中にP型のゲルマニウム微結晶を含む微粒子が混ぜ込まれていることを特徴とする遠赤外線による健康増進、治療効果をもった有機化学繊維が提案されている。特許文献2記載の技術には繊維中に有機ゲルマニウム化合物を含む微粒子が混ぜ込まれていることを特徴とする健康増進、治療機能を持った有機化学繊維が提案されている。特許文献3記載の技術にはゲルマニウム超微粒子を繊維表面に真空蒸着法・スパッタリング法などにより均一に被覆させることにより遠赤外線効果による肌の保護と健康促進に優れた繊維製品が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特許3449994号公報
【特許文献2】特許3449999号公報
【特許文献3】特開2005−113327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術は有機化学繊維にP型ゲルマニウムを練りこんでいるが、有機化学繊維の内、レーヨン、ベンベルグ、ポリノジックなどの再生繊維では繊維製造の後工程である高温・強アルカリによる精錬工程、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムによる漂白工程、高温・強アルカリ条件下での染色工程でゲルマニウムの溶解・脱落が著しく、実用的でない。
【0007】
特許文献2記載の技術は有機ゲルマニウムを有機化学繊維に混ぜ込んでいるが、再生繊維の場合は湿式紡糸であるため水溶性の有機ゲルマニウムは紡糸浴に溶出してしまうばかりか、精錬、漂白、染色工程ではさらに溶解・脱落する。特許文献3記載の技術では真空蒸着法・スパッタリング法などでゲルマニウム超微粒子を繊維の表面に均一に被覆させる方法であるが特殊な装置であるのと生産性に欠けるなど経済上好ましくない。
【0008】
従って本発明は再生繊維の後工程である精練、漂白、染色工程で繊維中に含有するゲルマニウムが溶解・脱落しない改質されたゲルマニウムを含有する再生繊維を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記問題点に鑑みて、種々検討を重ねた結果、金属ゲルマニウム及び/又は酸化ゲルマニウムにチタン化合物、ジルコニウム化合物の一種以上を混合し、加熱して出来た改質ゲルマニウムを再生繊維に練り込むことにより本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0010】
すなわち、金属ゲルマニウム及び/又は酸化ゲルマニウムにチタン化合物、ジルコニウム化合物の一種以上を混合し、加熱することにより、ゲルマニウム化合物の耐アルカリ性の向上、水溶性の低下、酸化剤に対する酸化抑制などの効果が得られた。この混合加熱生成物(以下改質ゲルマニウムと略称する)をレーヨン、ベンベルグ、ポリノジックなどの再生繊維に練り込みゲルマニウム含有再生繊維を作ったところ、後工程である精錬工程、漂白工程、染色工程を経てもゲルマニウムが溶解・脱落することなく再生繊維中に保持されることは産業上、環境面から見てもその効果は極めて大きい。すなわち、本発明の目的はゲルマニウム化合物を練りこんだ再生繊維を工業的有利に提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いるゲルマニウムは金属ゲルマニウム及び/又は酸化ゲルマニウムであり、微量の他金属をドーピングしたN型ゲルマニウムやP型ゲルマニウムでも良い。また加熱により酸化ゲルマニウムに変化する有機ゲルマニウムでも良い。改質ゲルマニウムの粒子径は3μm以下であることが繊維練り込み上から必要である。改質ゲルマニウムの粒子系が3μmより大きくなると再生繊維製造工程のろ過工程、口金面で詰まったり、糸切れが多発することが多い。好ましくは改質ゲルマニウムの粒子径は1μm以下である。
【0012】
本発明で使用されるチタン化合物は有機チタン、硫酸チタンである。有機チタンの代表例としては一般式〔Ti(OR)4〕で表されるチタンアルコキシドであり、例えばテトライソプロピルチタネート、テトラオクチルチタネートなどが挙げられる。本発明で使用されるジルコニウム化合物としては有機ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム等である。有機ジルコニウムの代表例としては一般式〔Zr(OR)4〕で表されるジルコニウムアルコキシドであり、例えば、テトラノルマルプロポキシジルコニウム、テトラノルマルブトキシジルコニウム等が挙げられる。
【0013】
本発明におけるゲルマニウムにチタン化合物やジルコニウム化合物を混合する方法は均一に混合すればよく、特に限定されない。例えば、微粒子ゲルマニウム粉体をアルコールなどに分散させチタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドと添加、攪拌する方法、微粒子ゲルマニウム粉体を攪拌してアルコールなどに溶解したチタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドを噴霧する方法、微粒子ゲルマニウム粉体を攪拌し、水に溶解させたジルコニウム化合物を噴霧又は滴下する方法、微粒子ゲルマニウム粉体を水に分散し、攪拌を行ないながら、前記ジルコニウム化合物を徐々に添加し混合する方法、水に分散した微粒子ゲルマニウム粉体にジルコニウム化合物を混合し、徐々に中和を行ないゲルマニウムの表面にジルコニウムを被覆する方法などが挙げられる。
【0014】
本発明におけるゲルマニウムとチタン化合物又はジルコニウム化合物の混合物の加熱方法としては、先ず低温で水、アルコールなどの溶媒を除去し、次に100〜1000℃の加熱処理をする。好ましい範囲は300〜600℃である。加熱はロータリーキルン型の炭化炉やバッチ式の炭化炉で30〜300分加熱する。加熱雰囲気は無酸素状態が好ましいが、希薄酸素状態であっても差し支えない。かくして得られた改質ゲルマニウムは通常の方法で粉砕する。粉砕装置としてはジェットミルなどの乾式粉砕装置やトロンミルなどの湿式粉砕装置、旋回渦流式粉砕装置などを用い3μm以下、好ましくは1μm以下の粒子径に粉砕する。
【0015】
本発明における再生繊維は通常の再生繊維と同様の原料及び製造工程で良い。例えば、レーヨン繊維の場合、レーヨン繊維の原料であるビスコースに本発明の改質ゲルマニウムを分散させ紡糸を行う。改質ゲルマニウムはビスコース製造工程のいずれの段階で添加しても可能であるが、硫化工程や熟成工程を終え、ビスコースが紡糸工程に入る直前に添加するのが好ましい。改質ゲルマニウム分散ビスコースから通常のレーヨン繊維製造と同様の紡糸工程を経てゲルマニウムが担持されたレーヨン繊維を得る。なお紡糸工程はセルロース再生工程や凝固工程などからなる。
【0016】
この時、本発明の改質ゲルマニウム中ゲルマニウム元素としての再生繊維への添加率は通常0.002〜1重量%、好ましくは0.005〜0.5重量%である。改質ゲルマニウム中ゲルマニウム元素としての添加量が0.002重量%より少ないと健康増進効果が充分でない場合があり、逆に多く添加すると健康増進効果は向上するがゲルマニウムが高価なために経済性に問題がある。また改質ゲルマニウムが多いと再生繊維の強伸度が低下して好ましくない。
【0017】
本発明における改質ゲルマニウムを含有する再生繊維は紡糸され、必要に応じて延伸、切断、乾燥その他の加工工程を経て製品となる。改質ゲルマニウムを含有する再生繊維の繊維径は1〜30μm程度が用いられる。改質ゲルマニウムを含有する再生繊維は一定の長さに切断された短繊維(ステープル)と、実質的に無限長の長繊維(フィラメント)の形態のいずれでも提供できる。短繊維の繊維長は通常51mm以下が多いが利用目的や要求性能により自由に設定できる。
得られた改質ゲルマニウムを含有する再生は他種類繊維とさまざまな形の混紡糸の製造に用いることが出来る。例えば木綿、麻などのセルロース繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの合成繊維、他の再生繊維及び羊毛、絹などの蛋白質系繊維等を挙げることが出来る。これらの繊維は単独で使用されたものでも、あるいは2種類以上の繊維の混紡、交織、交撚、交編織した混用繊維素材のいずれであってもよい。またこれらの繊維の携帯としては、フィラメント、ステープル、編織物、不織布、縫製品などいずれでも良い。
【実施例】
【0018】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定するものではないことは言うまでもない。
実施例1
金属ゲルマニウムの粉末をジェットミルに入れ粉砕を行い、平均粒子径1μmの微粒子の紛体を得た。この紛体10gをメタノール100mlに投入し室温で攪拌を行い、テトライソプロピルチタネート5gを別の容器にてメタノールで希釈、滴下し、常温で1時間攪拌後、1時間かけて50℃に昇温し6時間攪拌を続ける。その後ろ過し、常温で1日乾燥後、無酸素雰囲気で300℃3時間加熱処理を行い、再度ジェットミルに入れ粉砕を行い分球し1μm以下のチタンで改質されたゲルマニウムを得た。
【0019】
実施例2
実施例1のテトライソプロピルチタネート5gをテトラノルマルプロポキシジルコニウムに変えた以外は同様の操作を行い1μm以下のジルコニウムで改質されたゲルマニウムを得た。
【0020】
実施例3
平均粒子径1μmの微粒子金属ゲルマニウム10gを100mlの水に分散攪拌し、硫酸ジルコニウム10gを添加し50℃に昇温し温度を保ちながら、30分攪拌後、水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加しPHを7.0に保持しながら1時間攪拌し、ろ過、60℃で1日乾燥後、希薄酸素雰囲気で600℃3時間加熱処理を行った。その後ジェットミルに入れ粉砕を行い分球し1μm以下のジルコニウムで改質されたゲルマニウムを得た。
【0021】
実施例4
実施例3の金属ゲルマニウム10gを酸化ゲルマニウム15gに変えた以外は同様の操作を行いジルコニウムで改質されたゲルマニウムを得た。
【0022】
実施例5
実施例3の硫酸ジルコニウムを硫酸チタンに変更した以外は同様の操作を行い、チタンで改質されたゲルマニウムを得た。
【0023】
実施例6
平均粒子径1μmの微粒子金属ゲルマニウム10gを50mlの水に分散攪拌し、炭酸ジルコニウムアンモニウム(酸化ジルコニウム12%含有)水溶液15gを添加し、60℃で2時間攪拌を行い、冷却後ろ過、60℃で1日乾燥後、無酸素雰囲気下400℃2時間加熱処理を行った。その後ジェットミルに入れ粉砕を行い分球し1μm以下のジルコニウムで改質されたゲルマニウムを得た。
【0024】
実施例7
実施例6の加熱処理を900℃2時間に変更した以外は同様の操作を行い、ジルコニウムで改質されたゲルマニウムを得た。
【0025】
実施例8
実施例1〜7で得られた改質ゲルマニウムのゲルマニウム濃度10重量%の水分散液を用いて0.2%ゲルマニウム担持レーヨン繊維を製造した。レーヨン繊維の原料パルプを約18%の苛性ソーダに浸漬し、圧搾・粉砕によりアルカリセルロースを得た。アルカリセルロースを老成し、二硫化炭素を反応させて、セルロースザンテートを得た。セルロースザンテートを希釈苛性ソーダで溶解し、ビスコースを得た。ビスコースの性状はセルロース含有率8.9%、アルカリ含有率5.9%、粘度51秒(落球式)であった。
ビスコースを紡糸する直前に、前記工程で得られた改質ゲルマニウムの分散液を、インジェクションポンプを用いて、ビスコースに含まれる繊維に対して表―1の如くなるように定量的に添加して、ビスコースと改質ゲルマニウムとを均一に混合した。改質ゲルマニウムが配合されたビスコースを、0.05mmΦの孔径、孔数10,000の紡糸口金を用い、紡糸速度70m/分で紡糸して凝固・再生浴に送った。凝固・再生浴は、硫酸:110g/リットル、ボウ硝:350g/リットルの組成を有し、温度45℃に設定した。通常の二浴緊張紡糸法によって、延伸・切断を行い1.7dtx、カット長38mmのゲルマニウム担持レーヨン繊維ステープルを得た。
【0026】
比較例1
金属ゲルマニウムの粉末をジェットミルに入れ粉砕を行い、平均粒子径1μmの微粒子の紛体を得、実施例8に従いゲルマニウム担持レーヨン繊維ステープルを得た。
【0027】
比較例2
酸化ゲルマニウムの粉末をジェットミルに入れ粉砕を行い、平均粒子径1μmの微粒子の紛体を得、実施例8に従いゲルマニウム担持レーヨン繊維ステープルを得た。
【0028】
比較例3
実施例6の400℃2時間加熱処理を行なわず、60℃で2日間乾燥後、ジェットミルに入れ粉砕を行い分球し1μm以下のジルコニウムで改質されたゲルマニウムを得、実施例8に従いゲルマニウム担持レーヨン繊維ステープルを得た。
【0029】
実施例8で得られたゲルマニウム担持レーヨン繊維ステープルをソーピング、過酸化水素漂白、染色処理を行いゲルマニウムの残存率をICP発光分光分析装置を用い測定した。その結果を表1に示す。各処理条件は以下のとおりです。
ソーピング :浴比 1:20 浸透剤2g/L 80℃x30分
漂白(ソーピング後)
:浴比 1:20 過酸化水素5g/L
:ケイ酸ソーダ4g/L 水酸化ナトリウム1g/L
:80℃x20分 湯洗−水洗−絞り−乾燥
染色(ソーピング、漂白後)
:反応染料 2%o.w.f. 浸透剤 1g/L
:硫酸ナトリウム 40g/L 炭酸ナトリウム 10g/L
:80℃x60分 湯洗−水洗
Ge分析
:ICP発光分光分析装置(島津製:ICPS-1000III)
比較例1、2、3では、ソ−ピング−過酸化水素漂白−染色処理を行う事により、ゲルマニウム担持レーヨン繊維ステープル中のゲルマニウムが90%以上脱落し、高価なゲルマニウムが無駄に使用される。また他の繊維素材と混紡等し、健康増進効果を得るためには、多くのゲルマニウムを添加する必要があり、再生繊維の強伸度が低下する。実施例1〜7ではどの様な処理方法でもゲルマニウムは50%以上保持されている。
【産業上の利用可能性】
【0030】
ゲルマニウム化合物は遠赤外線を放射し、人体に照射することにより身体の内部に充血作用が起こり、血行を促進し、温熱作用があることが知られている。本発明の改質ゲルマニウムは、吸湿性の優れた再生繊維に担持され、肌着、靴下等の繊維製品に利用され、健康増進効果を与える。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ゲルマニウム及び/又は酸化ゲルマニウムにチタン化合物、ジルコニウム化合物の一種以上を混合し、加熱して出来た改質ゲルマニウムを含有する再生繊維及びその製造方法。

【公開番号】特開2007−126788(P2007−126788A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320986(P2005−320986)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【特許番号】特許第3829989号(P3829989)
【特許公報発行日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000177014)三木理研工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】