説明

レール探傷装置

【課題】軌道レールに探触子より超音波を入射し内部欠陥を検査するレール探傷装置であって、特に、軌道レールが変形していても、レール探傷装置の探触子がレール腹部上に位置し、正しくレール全体に超音波が入射されるような可変幅式案内車輪を備えるレール探傷装置を提供する。
【解決手段】レール探傷装置の左右の案内車輪をそれぞれ独立可変とし、軌道レールの頭部の形状に合わせて、左右の案内車輪の幅方向位置を調整することにより、探傷時に探触子をレール腹部上に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道レールに超音波を入射し、軌道レールの内部欠陥を検査するレール探傷装置であって、特に、軌道レール頭部が幅方向に変形していても、レール探傷装置の探触子をレール腹部上に位置させ、レール全体の欠陥を正しく検知することができる可変式案内車輪を備えるレール探傷装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両で鉱石等の重量物を搬送する際に、当該搬送作業の安全確保にかかる検査の一つとして、軌道レールが健全であるか、すなわち、有害な欠陥が無いかを確認する検査があり、この検査は、超音波探傷で行うことが一般的である。
超音波探傷検査は、超音波を入射する探触子をレール頭部の上部に位置させて、軌道レール上を走行させて行うものであり、特に、レール継目が多く重量物を搬送する貨物用の軌道レールを検査する場合には、レール腹部の探傷が重要である。というのは、レール腹部に傷があった場合は、その部分の破損が一気に進み易く、その結果、運搬車両の脱線等の重大事故につながりかねないからである。
【0003】
しかしながら、精度の高い超音波探傷検査であっても、肝心の超音波を入射する探触子が軌道レールの頭部上面から見て、腹部上に位置していないと、正しくレール全体の探傷を行うことができない。実際の軌道レールでは、レール頭部の側面の摩耗や、レールフロー(レール頭部の縁が車輪の荷重により押しつぶされて拡がった状態)の発生によるレール頭部の変形等の影響で、超音波探触子が軌道レールの腹部上から外れることがある。
さらに、重量物を搬送する貨物専用の軌道レールでは、上記のレール頭部の側面の摩耗や、レールフローによる変形が大きいため、その傾向はますます顕著となる。
【0004】
上記した問題を解決するものとして、特許文献1には、レールの外側頭側面の相対的な横幅方向の位置を光学的に検出する光学的レール位置検出手段と、その光学的レール位置検出手段からの検出信号を用いて、レールの中央部を検知し、超音波探触子をサーボモータ等で動かすことからなる超音波探触子レール倣い装置が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、磁気を発する磁気発生部材と、その磁気に感応する磁気検出部材との位置関係を利用して、レールの中央部を検知し、超音波探触子の位置を制御する手段とからなるレール倣い装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−248692号公報
【特許文献2】特開2001−296276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2は、いずれもレールの中央部を検出し、サーボモータ等の駆動手段で超音波探触子の位置を制御する技術であるが、重量物を搬送する貨物専用の軌道レールでは、上記のレール頭部の側面の摩耗や、レールフローによる変形が、人貨搬送用の軌道レールのそれよりも大きいため、その超音波探触子の位置を制御する手段が有効に機能しないという問題があった。
この理由を、図1〜3に示す従来のレール探傷装置の図を用いて説明する。
【0008】
図1および2に示したように、従来のレール探傷装置は、案内車輪の間隔が75mm幅に固定されていて、若干のレール幅の誤差に対応するために、案内車輪1にテーパーが付けられている。
次に、レール頭部の側面の摩耗や、レールフローによる変形が生じた場合の問題点について説明する。
図3(a)に示したように、レール頭部の片側が減ったレールでは、レール探傷装置の探触子がレール腹部上から外れ、レール全体に正しく超音波を入射することができなくなる。
【0009】
また、図3(b)に示したように、レールフローによってレール頭部両側の幅が拡張したレールでは、案内車輪がレールに正しく乗ることができず、レール探傷装置の探触子がレール腹部上から外れ、この場合もまた、レール腹部に正しく超音波を入射することができなくなる。
すなわち、従来のレール探傷装置では、レール頭部の側面の摩耗や、レールフローによる変形に起因して探触子がレール腹部上から外れた場合には、正しく超音波を入射することができなくなり、精度よい測定は望めなかった。
さらに、案内車輪の間隔が75mm幅に固定されているため、クレーン用のレール等、幅の広い特殊軌道レールも超音波による探傷をすることはできなかった。
【0010】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、軌道レールに探触子から超音波を入射し、レールの内部欠陥を検査するレール探傷装置において、特に、軌道レールが変形していても、レール探傷装置の探触子をレール腹部上に位置させ、正しくレール全体に超音波を入射できるような可変式案内車輪を備えるレール探傷装置を提供することを目的とする。
また、従来のレール探傷装置では超音波探傷ができなかったクレーン用のレール等、幅の広い特殊軌道レールも超音波による探傷をすることも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.金属製の軌道レールの上を左右一対の案内車輪により走行する間に、探触子によりレール全体の欠陥を探傷するレール探傷装置であって、
左右の案内車輪をそれぞれ独立可変とし、
軌道レールの頭部の形状に合わせて、左右の案内車輪の幅方向位置を調整することにより、探傷時に探触子をレール腹部上に位置させることを特徴とするレール探傷装置。
【0012】
2.前記左右一対の案内車輪の間隔が、66〜146mmの範囲で変更可能であることを特徴とする前記1に記載のレール探傷装置。
【0013】
3.前記左右一対の案内車輪の固定を、それぞれロックピンで行うことを特徴とする前記1または2に記載のレール探傷装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明のレール探傷装置によれば、軌道レールの頭部が、レールフロー等によって変形していたとしても、レール探傷装置の探触子をレールの腹部上に正確に位置させることができる。その結果、常に、軌道レールの全体に正確に超音波を入射することができる。
また、本発明のレール探傷装置は、従来のレール探傷装置では超音波探傷ができなかったクレーン用のレール等、幅の広い特殊軌道レールに対しても好適に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】従来のレール探傷装置の側面図(a)および正面図(b)である。
【図2】従来のレール探傷装置の案内車輪の拡大図である。
【図3】軌道レールの頭部が摩耗した状態(a)、レールフローにより変形した状態(b)を示した図である。
【図4】本発明のレール探傷装置の側面図(a)および正面図(b)である。
【図5】本発明のレール探傷装置の案内車輪の拡大図である。
【図6】本発明に従うレール探傷装置の可変式案内車輪の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、図面を用いて具体的に説明する。
図4、5および6に、本発明のレール探傷装置を示す。
図4中、丸で囲んだ部分が本発明に従う可変式案内車輪を含む部分である。同図に示したとおり、本発明にかかるレール探傷装置は、可変式案内車輪部分を除いて、従来公知のレール探傷装置用の機器を使用することができる。
【0017】
図5および6に、本発明に従う可変式案内車輪2を示しているが、その特徴は、左右一対の案内車輪の間隔(以下、単に案内車輪の間隔という)が可変であること、案内車輪を固定する手段が左右独立して設けたロックピン3であることおよび案内車輪にテーパーがないことである。
【0018】
上記した特徴のうち、可変式案内車輪2の間隔は特に制限はされないが、66〜146mmの範囲が望ましい。というのは、現在、用いられている軌道レールや特殊軌道レールの幅を考えた場合、66〜146mmの範囲とすることで、摩耗による減少またはレールフローによるレール幅の拡張等によって大きく変形したレールであっても、本発明のレール探傷装置で、超音波探傷をすることが可能となるからである。
【0019】
また、案内車輪を止める手段が左右独立に動くロックピン3であることから、左右非対称の状態に変形している軌道レールであっても、それぞれのロックピン3により、案内車輪を固定する位置を調整することによって、その軌道レールに対して腹部上に探触子を配置することができ、その結果、軌道レールの全体に、正確に超音波を入射することができる。なお、上記した目的を達成するために、ロックピン3は、5mm毎に左右に変更可能であることが望ましい。
【0020】
さらに、案内車輪自身を可変としたことで、案内車輪にテーパーを設ける必要がなくなる。その結果、レール探傷装置が軌道レールの走行中に左右にぶれることもなく、常に正しく軌道レールの腹部に超音波を入射することができるのである。
なお、案内車輪の径および車輪幅は特に限定しないが、径:65mm程度、車輪幅:10mm程度が好ましい。また、案内車輪の材質は、特に限定はしないが、絶縁性、摩擦係数が少ないこと等を考慮するとプラスチックが好適である。
【0021】
また、本発明のレール探傷装置では、案内車輪の間隔を146mmと最大とすることで、通常の軌道レールの超音波探傷ができるのみならず、従来のレール探傷装置では、超音波探傷をすることができなかったクレーン用レール(例えば、120mm幅)等の超音波探傷も簡単かつ正確に行うことができる。
【0022】
次に、本発明のレール探傷装置の使用手順について説明する。
案内車輪の間隔の調整をする手順以外は、従来公知のレール探傷装置の使用手順に従えば良いが、以下に示す手順を適宜採用することで、より確実な探傷を行うことができる。
まず、探傷作業を実施する軌道レールを選定し、当該レールの頭部の変形状況を確認する。この確認方法に特別の制限はなく、目視による測定等、従来公知の方法で良い。
【0023】
次に、軌道レールの変形状況に合わせて、案内車輪の位置を決め、ロックピンで固定する。一般に、軌道レールは、ある程度の区間ごとに同様の変形をする。従って、同様の変形をしているレールの区間ごとに、ロックピンの位置をそれぞれ設定することで、本発明に従う探傷作業を実施することができる。
なお、上記したロックピンの位置を設定する際に、前掲した特許文献1および2に記載の技術のうち、レールの中央部を検知する技術を利用することができる。すなわち、特許文献1および2に記載のレールの中央部を検知する技術を用いて、レールの中心部や腹部の上部を確認し、そのデータをロックピンの位置の設定に使用することもできる。
【0024】
ついで、探触子の調整を行う。この時の主な調整項目は、探触子のレールとの接地確認、供給水量および送信パルスの強さである。探触子のレールとの接地は、軌道レールに対して、水が接触媒質になり直接摺動させるため、水ホルダーは十分に満たされていることが好ましい。また、途中の軌道レールの凹凸に対応するために、バネ等で探触子をレール面に押し付ける機構が備わっている。
また、送信パルスの強さの推奨値は、レール底面の反射エコー100%感度値である。
【0025】
さらに、送信パルスと形状パルスの標準状態を記録しておく。本発明にかかるレール探傷装置は、精度良くレール腹部上を走行することができるため、上記の標準状態がとても安定している。それ故に、欠陥パルスが生じた場合に、精度良く検知することが可能である。
【実施例1】
【0026】
65mm幅の鋼製レールと、レール頭部の左右両面にそれぞれ8.5mmのレールフローがある左右対称の82mm幅のレールと、レール頭部の左片面に5mmのレールフローおよび右片面に5mmの摩耗がある左右非対称の65mm幅のレールと、3種類のレールを用意した。いずれもボルト穴からの亀裂(ボルト穴:3箇所、亀裂長さ:15mm)のあるレールである。なお、レールの長さはそれぞれ3mである。
図1に示した従来式のレール探傷装置(以下、従来装置という)および図4に示した、本発明に従うレール探傷装置(以下、発明装置という)を用いて、上記した欠陥の超音波探傷を行った。
その結果、65mm幅の鋼製軌道レールは、従来装置および発明装置共に3箇所の欠陥を検知した。
【0027】
次に、82mm幅の左右対称レールに対し、発明装置はロックピンを操作し、左右両面をそれぞれ10mm広くして模擬した。従来装置はそのまま使用した。
その結果、発明装置は3箇所全ての欠陥を検知することができた。その理由は、発明装置の探触子が、レール腹部上に正しく位置することができていたためである。なお、従来装置では、測定不可能であった。
【0028】
さらに、65mm幅の左右非対称レールに対し、発明装置はロックピンを操作して、左片面を5mm広くし、右片面を5mm狭くした。従来装置はそのまま使用した。
その結果、従来装置は3箇所の欠陥全てを検知することができなかった。この原因は従来装置の探触子がレール腹部上から外れたためである。これに対し、発明装置は3箇所の欠陥を全て検知できた。その理由は、発明装置の探触子が、レール腹部上に正しく位置することができていたためである。
【実施例2】
【0029】
120mm幅、長さ:3mの鋼製クレーンレールの腹部に、人工欠陥を2箇所設けたものを用意した。
従来装置では測定不可能なため、図4に示した発明装置を用いて、上記した欠陥の超音波探傷を行った。その結果、2箇所の欠陥全てを検知した。
【0030】
以上の試験結果より、本発明に従うレール探傷装置を用いれば、変形した軌道レールのみならず、従来測定することができなかった広軌レールでも、簡単かつ正確にレール腹部の探傷ができることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のレール探傷装置は、重量物を搬送し、大きく変形した軌道レールだけでなく、従来のレール探傷装置では超音波探傷ができなかったクレーン用のレール等、幅の広い特殊軌道レールにも利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 従来の案内車輪
2 本発明に従う案内車輪
3 ロックピン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の軌道レールの上を左右一対の案内車輪により走行する間に、探触子によりレール全体の欠陥を探傷するレール探傷装置であって、
左右の案内車輪をそれぞれ独立可変とし、
軌道レールの頭部の形状に合わせて、左右の案内車輪の幅方向位置を調整することにより、探傷時に探触子をレール腹部上に位置させることを特徴とするレール探傷装置。
【請求項2】
前記左右一対の案内車輪の間隔が、66〜146mmの範囲で変更可能であることを特徴とする請求項1に記載のレール探傷装置。
【請求項3】
前記左右一対の案内車輪の固定を、それぞれロックピンで行うことを特徴とする請求項1または2に記載のレール探傷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−214986(P2011−214986A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−83170(P2010−83170)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(591205536)JFEシビル株式会社 (39)
【出願人】(504412451)東京計器レールテクノ株式会社 (14)
【Fターム(参考)】