説明

ロキソプロフェン及びペパーミント抽出物を含有する頻尿治療用組成物

【課題】有効性が高く、かつ副作用の少ない優れた下部尿路症状の予防及び/又は治療用の医薬組成物を提供する。
【解決手段】ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物、及び、ペパーミント抽出物、を含有する下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物を含有する、頻尿等の下部尿路症状(LUTS)を予防又は治療する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国の高齢化の進行に伴い、排尿に関して様々症状を訴える患者が増えている。最近では、排尿に関する症状は、蓄尿症状、排尿症状、排尿後症状の3つに分類されており、これらの症状を総称して、下部尿路症状(Lower Urinary Tract Symptoms:LUTS)と呼ばれている。下部尿路症状には、頻尿、尿意切迫感、尿失禁、排尿遅延、残尿感等の症状が含まれる。いずれの症状においても原因となりうる基礎疾患(前立腺肥大や高血圧など)がある場合にはまずその治療が行われるが、加齢による頻尿や切迫性尿失禁等の場合によく処方される抗コリン薬が追加される場合もある。しかし、抗コリン薬は、効果が高い反面、口渇や便秘等の副作用の発現率が高いという問題点があった。
【0003】
ロキソプロフェンナトリウムは、シクロゲオキシゲナーゼを阻害する非ステロイド系解熱鎮痛薬として知られており、有効性及び安全性に優れ、臨床で幅広く使用されている。また、ロキソプロフェンナトリウムは、夜尿症の治療や、夜間頻尿に対して排尿回数の減少効果があることが報告されている(例えば、特許文献1、非特許文献1〜3参照)。
【0004】
ペパーミントは、シソ科の多年生顕花植物で、その香油を採取するために国内外で広く栽培されている。ペパーミントの地上部位から得られるペパーミント抽出物(ペパーミントオイル)は、主に香料として用いられるほか、感冒の症状、激しい腹痛、頭痛、消化不良、関節痛、悪心など多くの症状に使用されている(例えば、非特許文献4)。
【0005】
しかしながら、ロキソプロフェンナトリウムと、ペパーミント抽出物を併用した場合の抗頻尿効果について知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7547688号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】臨床医薬 21巻 1号 89〜95頁 2005年
【非特許文献2】Acta.Med.Okayama,2004,Vol.58(1),45−49
【非特許文献3】Acta.Med.Okayama,2008,Vol.62(6),373−378
【非特許文献4】キャサリン・E.ウルブヒリト他 編 ハーブ&サプリメント 産調出版株式会社 2007年1月10日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、既存の抗コリン作用に基づく下部尿路症状の治療剤は、汎用されていて有効率が高いものの、副作用率が20.9%〜54.6%と高いという問題点がある。すなわち、本発明の課題は、有効性が高く、かつ副作用の少ない優れた下部尿路症状の予防及び/又は治療用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物、及びペパーミント抽出物を併用することにより、下部尿路症状に対して優れた効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(3)を提供するものである。
(1)ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物、及び、ペパーミント抽出物、を含有する、下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。
(2)ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物が、ロキソプロフェンナトリウム2水和物である、上記(1)に記載の下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。
(2a)ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とペパーミント抽出物の配合比が、ロキソプロフェンナトリウム無水物として1重量部あたり0.01〜100重量部である、上記(1)又は(2)に記載の下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。
(3)経口投与用である、上記(1)、(2)、(2a)のいずれか1に記載の下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、有効性と安全性を兼ね備えた下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明における「ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物」は、ロキソプロフェンナトリウム、ロキソプロフェンナトリウム1水和物、ロキソプロフェンナトリウム2水和物を含む。本発明においては、ロキソプロフェンナトリウム2水和物が好ましく、かかるロキソプロフェンナトリウム2水和物は、第15改正日本薬局方に収載されており、容易に入手可能である。
【0012】
本発明における「ペパーミント抽出物」は、ペパーミントの葉や茎等の地上部位を水やアルコール又はその混合物で抽出したものである。かかる「ペパーミント抽出物」は、市販されているペパーミントオイルをさらに水やアルコール又はその混合物で抽出したもの、或いはペパーミントの葉や茎又はそれらの抽出物を水蒸気蒸留にてさらに抽出したものを含む。ペパーミント抽出物は、ペパーミントエッセンスやペパーミントパウダーとして医薬品添加物事典2005に収載されており、市販されているため、容易に入手可能である。
また、ペパーミント抽出物は、予めミントフレーバーとして加工されたものを使用してもよい。ミントフレーバーは、医薬品添加物事典2005に収載されており、市販されているため、容易に入手可能である。
本発明における「ペパーミント抽出物」としては、市販されているミントフレーバー、ペパーミントエッセンス、又はペパーミントパウダーが好ましい。これら「ペパーミント抽出物」に含まれる成分として下記の(1)〜(7)に列記したものが知られている。
(1)炭化水素類として、(1−a)モノテルペン類のαピネン、βピネン、リモネン、メンテン、フェランドレン、サビネン、ミルセン、シス‐オシメン、ρシメン、テルピノレン、αテルピネン、γテルピネン、(1−b)セスキテルペン類のβカリオフィレン、トランスβファルネセン、αムウロレン、ゲルマクレンD、γカジネン、βボールボネン;
(2)アルコール類として、(2−a)モノテルペノ‐ル類のメントール、イソメントール ネオ‐メントール、ピペリトール、ピペリテノール、イソピペリテノール、α‐テルピネオール、リナロール、テルピネン‐4‐オール、(2−b)セスキテルペノ‐ル類のビリテ゛ィフロロール、10‐α‐カジノール、(2−c)その他アルコール類の3‐オクタノ‐ル;
(3)ケトン類として、メントン、イソ‐メントン、ネオメントン、ピペリトン、イソピペリトン、プルゴン;
(4)酸化物として、1,8‐シネオール、メントフラン、ピペリテノン、トランス‐ピペリトンオキサイド、カリオフィレンオキサイド;
(5)エステル類として、メンチルアセテート、ネオメンチルアセテート、イソメンチルアセテート、メンチルブチレート、メンチルイソバレレート;
(6)クマリン類として、エスクレチン;
(7)その他の成分として、メントフラン
上記の成分中、「ペパーミント抽出物」に高含有率で含まれる成分として、メントール(L−メントール)、メントン(L−メントン)、メンチルアセテート、1,8‐シネオール、ネオ‐メントール、イソ‐メントン、メントフラン、リモネン、βカリオフィレン、プルゴン等を挙げることができるが、本発明の「ペパーミント抽出物」はなんらこれらの高含有率成分を含むもののみに限定されるものではない。
【0013】
本発明の組成物における、ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物とペパーミント抽出物の含有比率は、ロキソプロフェンナトリウム(無水物)に換算した1重量部あたりのペパーミント抽出物の含有比率として、通常0.001〜1000重量部の範囲であり、0.01〜100重量部の範囲が好ましく、0.1〜20重量部がより好ましい。
さらに、本発明の組成物は、ロキソプロフェンナトリウムまたはその水和物およびペパーミント抽出物以外の、下部尿路症状の予防又は治療の効果を有する成分、例えば、グリシンやグルタミン酸またはその塩等を配合することも可能である。
【0014】
本発明の組成物は、下部尿路症状の予防及び/又は治療に用いられるものである。下部尿路症状には、蓄尿症状として頻尿、尿失禁(尿漏れ)、尿意切迫感があり、排尿症状には、尿の勢いが弱くなる、排尿遅延、腹圧排尿等があり、排尿後症状には、残尿感等がある。本発明の組成物は、蓄尿症状及び排尿後症状の予防又は治療に使用されるのが好ましく、頻尿、尿失禁、尿意切迫感、残尿感の予防又は治療に対して使用されるのがより好ましく、頻尿の予防及び/又は治療に対して使用されるのが特に好ましい。
【0015】
本発明の組成物は、経口用又は非経口用のいずれでもよいが、経口用が好ましい。本発明の組成物が経口用である場合、その剤形は特に限定されないが、固形製剤が好ましい。
【0016】
本発明の組成物の剤形が固形製剤の場合、具体的には、第15改正日本薬局方に記載されている顆粒剤、散剤、カプセル剤、錠剤、又は丸剤等を挙げることができる。本発明の組成物の剤形は、顆粒剤、散剤、カプセル剤又は錠剤が好ましく、錠剤がより好ましい。かかる錠剤においては、口腔内崩壊錠やチュアブル錠、トローチ剤等も含まれる。
【0017】
かかる製剤を製造する際に使用される医薬品添加物として、薬学的に許容される担体、例えば、乳糖、マンニトール、ヒドロキシプロピルセルロース等の賦形剤;結晶セルロース等の結合剤;クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤を添加することができ、さらに必要に応じて、崩壊補助剤、流動化剤、光沢化剤、発泡剤、防湿剤、界面活性剤、安定化剤、乳化剤、抗酸化剤、充填剤、防腐剤、保存剤、甘味剤、矯味剤、清涼化剤、香料、芳香剤、着色剤、分散剤、消泡剤等を添加することができる。
【0018】
また、本発明の組成物の剤形が、顆粒剤又は錠剤の場合、水溶性の高分子などで顆粒剤や錠剤を、ヒプロメロース等のコーティング剤でコーティングしたものや、糖で錠剤をコーティングしたものも好適である。すなわち、フィルムコーティング顆粒、フィルムコーティング錠、糖衣錠等が好ましい顆粒剤及び錠剤の態様として挙げられる。
【0019】
本発明の組成物の製剤の製造方法は、特に限定されないが、例えば、第15改正日本薬局方製剤総則に記載の方法を用いて、製造することができる。
また、本発明の医薬組成物の剤形が錠剤の場合、有効成分と医薬品添加物をともに造粒し、必要に応じて医薬品添加物を添加して混合した後、打錠して錠剤を製造してもよい。ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物と、ペパーミント抽出物とは、同一の顆粒に含まれるように製造してもよいし、互いに接触しないように別顆粒に含まれるように製造してもよい。
【実施例】
【0020】
本発明をより詳細に説明するため、以下に実施例を記載するが、本発明はこれらになんら限定されるものではない。
【0021】
(試験例)排尿回数変化及び排尿量変化の検討
1.被験物質
ロキソプロフェンナトリウム2水和物は第一三共株式会社製のものを使用した。以下、ロキソプロフェンナトリウム2水和物の投与量はロキソプロフェンナトリウム無水物換算したものを示す。ペパーミント抽出物は、ペパーミントオイルとして0.5%含有する高砂香料株式会社製のミントフレーバー(ミントフレーバーHQ−3230)を「ミントフレーバー水溶液」として使用した。また、媒体は、0.5%トラガントゴム水溶液を使用した。
下記のロキソプロフェン投与各群は、ロキソプロフェンナトリウム無水物量に換算したロキソプロフェンナトリウム2水和物を秤量し、これを媒体である計算量の0.5%トラガントゴム水溶液に溶解又は懸濁して投与した。
【0022】
2.適格ラット選抜スクリーニング
SD雄性ラット(7週齢、チャールスリバー社)を代謝ゲージに収容し、消灯約30分前に、媒体(0.5%トラガントゴム水溶液)4.0mL/bodyを投与した。ゲージ下にデジタル天秤を設置して、天秤上の容器に累積的に排泄尿のみを蓄尿し、その重量変化をPowerLab(登録商標)(エイディ インスツルメンツ ピーティワイ リミテッド社製)を介してパソコンに記録した。投与から8時間分を解析し、排尿量(重量)、排尿回数及び排尿時刻(投与後時間)を算出した。測定中は、自由飲水、自由摂食とした。
算出された個別のラットのデータを基に、実施の適否を判断し、適格と判断されたラットを選抜した。選抜ラットのそれぞれの個体における媒体投与後4時間までの排尿量(重量)、排尿回数の数値を基礎として、それぞれの同一の個体(ラット)に下記の被験物質を投与したときの投与後4時間までの排尿量(重量)、排尿回数下記の(数1)及び(数2)を用いてそれぞれの個体(ラット)の排尿回数変化率(%)及び排尿量変化率(%)を求め、その平均で各投与群の変化率(%)を算出した。
【0023】
3.被験物質投与による測定
上記スクリーニングで選抜した適格ラットを上記2のスクリーニングの翌日に、表1の群に割付を行ったうえで代謝ケージに収容し、消灯約30分前に各群にそれぞれ被験物質を投与した。
【0024】
【表1】

【0025】
ケージ下にデジタル天秤を設置して天秤上の容器に累積的に排泄尿のみを蓄尿し、その重量変化を、PowerLab(登録商標)を介してパソコンに記録した。一晩を通じて測定し、投与から4時間後の排尿量(重量)、排尿回数及び排尿時刻(投与後時間)を算出した。測定中は、自由飲水、自由摂食とした。
なお、排尿回数変化率及び排尿量変化率は以下の式にて算出した。
【0026】
【数1】

【0027】
【数2】

【0028】
4.併用試験におけるロキソプロフェンの投与量の選択
ロキソプロフェンの投与量による変化率を確認する目的で、媒体投与群、ロキソプロフェン単独投与群(1mg/kg,3mg/kg,10mg/kg;それぞれロキソプロフェンナトリウム無水物換算量として)で試験を実施した。試験結果を表2に示した。表2に示したように、ロキソプロフェンの3mg/kgの投与では、排尿回数変化率(%)及び排尿量変化(%)の双方ともに、それぞれ溶媒投与群に対して約30%以上の抑制効果が発現し、10mg/kgでは、約60%の抑制効果が観察された。一方、ロキソプロフェンの1mg/kg投与群では、媒体投与群に比較した抑制効果が弱かったことから、併用試験の効果を確認するためのロキソプロフェンの投与量を1mg/kgに設定した。
【0029】
【表2】

【0030】
5.併用効果の確認試験
試験は2回に分けて行った。1回目の試験では媒体投与群、ロキソプロフェン単独投与群(1mg/kg)、ロキソプロフェン(1mg/kg)+ペパーミント抽出物併用投与群で実施し、2回目の試験では、媒体投与群、ペパーミント抽出物単独投与群で実施した。結果を表3及び表4に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
【表4】

【0033】
表3及び表4で示したように、ロキソプロフェン単独投与群及びペパーミント抽出物単独投与群の排尿回数変化率は、媒体投与群と比較して、それぞれ96%及び98%であり、ロキソプロフェンナトリウム2水和物、及びペパーミント抽出物の各薬剤の単独投与では、媒体群と差が無いものであった。
一方、ロキソプロフェン+ペパーミント抽出物併用投与群における排尿回数変化率は79%であり、約20%以上の抑制効果が観察された。このことから、ロキソプロフェンナトリウムと、ペパーミント抽出物を併用することにより、排尿回数が著明に減少することが判明した。
また、排尿量については、ロキソプロフェン単独投与群に比較して、ロキソプロフェン+ペパーミント抽出物併用投与群は、排尿量が明らかに減少した。この排尿量変化は、ペパーミント抽出物を単独で投与した群と比較しても、より減少したことがわかった。
以上の結果から、ロキソプロフェンナトリウムにペパーミント抽出物を併用投与することにより、下部尿路症状、特に頻尿に対するロキソプロフェンナトリウム単独に優る効果が期待できる。さらにロキソプロフェンナトリウムを減量した場合でも単独投与の場合と同等の効果をより高い安全性で実現できると推察された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、下部尿路症状を有する患者に対して、有効性と安全性を兼ね備えた治療用組成物として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物、及び、ペパーミント抽出物、を含有する、下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項2】
ロキソプロフェンナトリウム又はその水和物が、ロキソプロフェンナトリウム2水和物である、請求項1記載の下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。
【請求項3】
経口投与用である、請求項1又は2に記載の下部尿路症状の予防及び/又は治療用組成物。

【公開番号】特開2013−60427(P2013−60427A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182872(P2012−182872)
【出願日】平成24年8月22日(2012.8.22)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】