説明

ロキソプロフェン含有製剤の製造方法

【課題】
ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する安定な医薬製剤を提供すること。
【解決手段】
ロキソプロフェン又はその塩を含有する固形製剤であって、ロキソプロフェン又はその塩、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び酸化マグネシウムを含有する粉体を、湿式造粒法を用いないで固形製剤とすることを特徴とする固形製剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する固形製剤の製造法に関するものである。さらに詳しくは、ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウム配合時に外観変化を抑制できる固形製剤の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロキソプロフェンはそのナトリウム塩が医療用医薬品として高い実績を誇るフェニルプロピオン酸系消炎鎮痛剤である。本成分は消炎鎮痛剤として医療用での使用実績が高く、またプロドラッグであるため、他のNSAIDsに多く見られる胃障害などの副作用が比較的軽いといった特徴を有している。
【0003】
ロキソプロフェンはその優れた薬理作用から、様々な薬物と配合された検討が既になされている。例えば、ケトチフェンフマル酸塩との配合による解熱作用の増強(特許文献1)や、チキジウム臭化物の配合による胃障害の軽減(特許文献2)、プソイドエフェドリン塩酸塩との配合によるくしゃみ防止(特許文献3)などが挙げられる。
一方、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは制酸剤としての機能に加え、賦形剤として固形製剤の製造において汎用されている成分である。ロキソプロフェン又はその塩及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを添加した例として、以下の特許文献が確認されている。
1)ロキソプロフェン又はその塩の製剤化において、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムをロキソプロフェンナトリウム100重量部に対して10〜80%添加することにより打錠障害を改善(特許文献4)
2)ロキソプロフェン又はその塩、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び酸化マグネシウムを配合した組成物(特許文献1、2及び5)
しかしながら、ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウム配合時に相互作用を生じることはこれまで知られておらず、示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004―83579号公報
【特許文献2】特開2000―26313号公報
【特許文献3】特開2004−2362号公報
【特許文献4】特開平10−279476号公報
【特許文献5】特開2004―59579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、ロキソプロフェン又はその塩及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する医薬用製剤を開発するため、まずはこれら混合品を製剤化させて保存安定性について検討したところ、意外にも、これらの化合物の間に相互作用が生じて褐色状への変色が認められ、商品価値の低下を招くおそれがあった。
【0006】
従って、本発明はロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有しても、外観変化を抑制できる固形製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する粉体に特定の成分を配合し、かつ湿式造粒法を用いないで製剤化させることにより上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、
(1)ロキソプロフェン又はその塩を含有する固形製剤であって、ロキソプロフェン又はその塩、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び酸化マグネシウムを含有する粉体を、湿式造粒法を用いないで固形製剤とすることを特徴とする固形製剤の製造方法、
(2)固形製剤の製造方法が直接打錠法であることを特徴とする、(1)に記載の固形製剤の製造方法、
(3)固形製剤の製造方法が乾式造粒法であることを特徴とする、(1)に記載の固形製剤の製造方法、
(4)固形製剤の製造方法が溶融造粒法であることを特徴とする、(1)に記載の固形製剤の製造方法、
(5)固形製剤の剤形が錠剤である(1)〜(4)に記載の固形製剤の製造方法、
(6)固形製剤の剤形が散剤である、(1),(3)又は(4)に記載の固形製剤の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明で製造された固形製剤は、ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウムの相互作用を抑制できる。従って、長期にわたって製剤の着色が防止されたロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する固形製剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1〜2の錠剤及び比較例1〜4の錠剤を65℃条件下に2週間保存したときの外観である。
【図2】実施例3及び比較例5の錠剤を65℃条件下に2週間保存したときの外観である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の固形製剤に用いられるロキソプロフェン又はその塩には、ロキソプロフェンの
みならず、ロキソプロフェンの薬学上許容される塩、さらには水やアルコール等との溶媒
和物が含まれる。これらは公知の化合物であり、公知の方法により製造できるほか、市販
のものを用いることができる。本発明において、ロキソプロフェン又はその塩としては、
ロキソプロフェンナトリウム水和物が好ましい。
【0011】
本発明の固形製剤中におけるロキソプロフェン又はその塩の含有量は、その薬効を示す量であれば特に限定されるものではないが、固形製剤全質量に対して、ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で1.7〜60.0質量%、好ましくは3.0〜50.0質量%、特に好ましくは4.0〜40.0質量%、最も好ましいのは5.0〜35.0質量%である。
【0012】
本発明の固形製剤中におけるメタケイ酸アルミン酸マグネシウムの含有量は、固形製剤全質量に対して1.0〜55.0質量%、好ましくは2.0〜35.0質量%である。
【0013】
また、本発明の固形製剤中における酸化マグネシウムの含有量は、3.0〜55.0質量%、好ましくは5.0〜35.0質量%含有するものが着色抑制の面で好ましい。
また、本発明の固形製剤中に含まれるロキソプロフェン又はその塩に対するメタケイ酸アルミン酸マグネシウムと酸化マグネシウムの含有比は、ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で1質量部に対し、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムは0.05〜8.3質量部、好ましくは0.10〜1.7質量部、酸化マグネシウムは0.27〜2.8質量部、好ましくは0.69〜1.4質量部含有するものが、着色抑制の面で好ましい。
【0014】
本発明の湿式造粒法を用いない固形製剤の製造方法としては、直接打錠法、乾式造粒法及び溶融造粒法という方法が挙げられる。
【0015】
直接打錠法とは、主薬単独あるいはそれに賦形剤、崩壊剤、粉末状の結合剤など適当な添加剤を加えた混合粉末に滑沢剤を加えたものを打錠機で強圧成形して圧縮体を製する方法である。上記固形製剤の直接打錠法による場合の具体的方法としては、例えば、ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で1質量部に対して0.10〜1.7質量部のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、0.69〜1.4質量部の酸化マグネシウムを混合し、これに適宜ステアリン酸マグネシウム等の添加剤を加え、これら混合粉末を打錠機で強圧成形する方法が挙げられる。
【0016】
乾式造粒法とは、主薬単独あるいはそれに賦形剤、崩壊剤、粉末状の結合剤など適当な添加剤を加えた混合粉末に滑沢剤を加え、これを打錠機で強圧成形して圧縮体を製し、ついでこれを粉砕、整粒する方法である。上記固形製剤の乾式造粒法による場合の具体的方法としては、例えば、ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で1質量部に対して0.10〜1.7質量部のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、0.69〜1.4質量部の酸化マグネシウムを混合し、これに適宜ステアリン酸マグネシウム等の添加剤を加え、これらを含む混合粉末を打錠機で強圧成形し、製した錠剤を粉砕する方法が挙げられる。
【0017】
溶融造粒法とは、主薬単独あるいはそれに賦形剤、崩壊剤など適宜添加剤を加えた混合粉末に低融点物質を加えて加熱処理を加えることにより、低融点物質を溶融させて造粒する方法である。上記固形製剤の溶融造粒法による場合の具体的方法としては、例えば、ロキソプロフェンナトリウム無水物換算で1質量部に対して0.10〜1.7質量部のメタケイ酸アルミン酸マグネシウム、0.69〜1.4質量部の酸化マグネシウムを加えた混合粉末に、0.1〜1.0質量部のマクロゴール6000もしくはショ糖脂肪酸エステルとタルク等を含む混合粉末を流動層造粒機にて流動させながら加熱して造粒する方法が挙げられる。
【0018】
本発明の医薬製剤には、ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウム以外にも、必要に応じて他の有効成分、例えば総合感冒薬や、解熱鎮痛剤等の配合が可能である。
【0019】
本発明の固形製剤の剤形は、特に限定されるべきものでないが、散剤、細粒剤、顆粒剤、丸剤、錠剤(フィルムコーティング錠、積層錠を含む)、カプセル剤、ドライシロップ剤等が挙げられる。
【0020】
本発明の医薬製剤は、ロキソプロフェン又はその塩と、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び酸化マグネシウムを配合し、必要に応じて他の公知の添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、抗酸化剤、コーティング剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、可塑剤等を混合して湿式造粒法を用いない方法、好ましくは直接打錠法、乾式造粒法もしくは溶融造粒法により製造することができる。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例及び比較例に基づきさらに詳細に説明する。尚、本発明の固形製剤の製造方法は実施例に記載された処方例に限定されるものではない。
(実施例1〜3及び比較例1〜5)
(1)製剤(錠剤)の製造方法
下記表1の配合比に従い、各種原料(ステアリン酸マグネシウムを除く)をビニールで混合した後、篩を通した。実施例1及び比較例1〜2の直接打錠法の場合、篩通過後の粉体100錠分に対してステアリン酸マグネシウムを添加・混合し、卓上簡易錠剤成型機(商品名:HANDTAB;市橋精機)を用いて錠剤径10mmの錠剤を得た。比較例3の湿式造粒法の場合、篩通過後の粉体100錠分に対して精製水を加えて乳鉢で練合させ、50℃条件下に2時間整置して十分乾燥させた後に、錠剤製造用の顆粒を得た。乾燥後、得た顆粒にステアリン酸マグネシウムを添加・混合し、卓上簡易錠剤成型機を用いて錠剤径10mmの錠剤を得た。実施例2及び比較例4の乾式造粒法の場合、篩通過後の粉体100錠分に対してステアリン酸マグネシウム(表1に示す配合量の半量)を添加・混合し、卓上簡易錠剤成型機を用いて、錠剤径が12mm径の錠剤を得た。得た錠剤を粗砕機(型式:KC-HUK;小西医療器)で粗砕し、これにステアリン酸マグネシウム(表1に示す配合量の半量)を添加・混合し、卓上簡易錠剤成型機を用いて錠剤径が10mmの錠剤を得た。実施例3及び比較例5の溶融造粒法の場合、篩通過後の粉体1500錠分を流動層乾燥機(商品名:FL-MINI;フロイント産業)に充てんし、給気温度90℃、給気風量0.3〜0.5m3/分の条件にて流動させながら2時間加熱して造粒を行った。造粒後、得た顆粒にステアリン酸マグネシウムを添加・混合し,卓上簡易錠剤成型機を用いて、錠剤径が10mmの錠剤を得た。得た錠剤は、25℃60%RH条件下に1日整置させた後にガラス瓶に入れて密閉し、65℃条件下に2週間保存させた後に製剤の外観評価を行った。
【0022】
(2)色差測定
実施例及び比較例で得られた錠剤について、直後品をコントロールとして65℃条件下に2週間保存させたサンプルの色差測定を実施した。色差の測定には分光測色計(商品名:SE6000;日本電色工業)を用い、以下の[数1]により算出した。各ポイントにつき5錠のサンプルについて色差を測定し、ΔE*(ab)が低いほど色調が変化していないことを示す。
【0023】
【数1】

【0024】
ΔL*=65℃2週間保存品のL*値−直後品のL*値(L*:明度 +は白方向,−は黒方向)
Δa*=65℃2週間保存品のa*値−直後品のa*値(a*:色度 +は赤方向,−は緑方向)
Δb*=65℃2週間保存品のb*値−直後品のb*値(b*:色度 +は黄方向,−は青方向)
【0025】
(3)官能評価
実施例及び比較例で得られた錠剤について、専門パネラー3名による外観評価を実施した。製剤の外観の評価は、65℃環境下に2週間保存したサンプルと直後品との相対比較により行い、以下に記す5段階評価することによって行った。外観変化の許容の判定基準を平均値「2.0」以下とし、さらに好ましくは「1.0」以下と設定した。
色差測定結果及び官能評価結果を表1に示す。
《判定基準》
0:変化なし
1:わずかに変化を認める
2:変化を認めるが許容できる
3:明らかな変化を認める(許容できない)
4:著しい変化を認める

【0026】
【表1】

【0027】
試験結果から明らかなように、ロキソプロフェンとメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含有する錠剤は色差結果及び官能評価結果ともに高い値を示し、褐色状への著しい変色が認められた(比較例1,比較例4及び比較例5)。これに対し、実施例1,実施例2及び実施例3で示した錠剤は色差結果及び官能評価結果ともに低い値を示し、外観変化が抑制された錠剤であった。また、ロキソプロフェン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び酸化マグネシウムを含有する粉体に精製水を添加し、練合させた顆粒を用いて製した錠剤は著しく変色し(比較例3)、練合操作を加えると色調変化を抑制できないことが判明した。
【0028】
(4)下記表2の配合比に従い、各種原料(ステアリン酸マグネシウムを除く)を80錠分ビニールで混合した後、篩を通した。篩通過後の粉体に対してステアリン酸マグネシウムを添加・混合し、卓上簡易錠剤成型機(商品名:HANDTAB;市橋精機)を用いて直接打錠法により径10mmの錠剤を得た。
【0029】
【表2】


【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明により、ロキソプロフェン又はその塩とメタケイ酸アルミン酸マグネシウムとの相互作用の抑制が可能となった。従って、保存安定性が優れた、ロキソプロフェン又はその塩及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムを含む固形製剤を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロキソプロフェン又はその塩を含有する固形製剤であって、ロキソプロフェン又はその塩、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム及び酸化マグネシウムを含有する粉体を、湿式造粒法を用いないで固形製剤とすることを特徴とする固形製剤の製造方法。
【請求項2】
固形製剤の製造方法が直接打錠法であることを特徴とする、請求項1に記載の固形製剤の製造方法。
【請求項3】
固形製剤の製造方法が乾式造粒法であることを特徴とする、請求項1に記載の固形製剤の製造方法。
【請求項4】
固形製剤の製造方法が溶融造粒法であることを特徴とする、請求項1に記載の固形製剤の製造方法。
【請求項5】
固形製剤の剤形が錠剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の固形製剤の製造方法。
【請求項6】
固形製剤の剤形が散剤である、請求項1、3又は4に記載の固形製剤の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−6830(P2013−6830A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−114426(P2012−114426)
【出願日】平成24年5月18日(2012.5.18)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】