説明

ロジウムブラックの製造方法

【課題】NOxを発生させることなく、また水処理への負荷を増大させることなく、亜硝酸ロジウムアンモニウムからロジウムブラックを製造する方法を提供する。
【解決手段】亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液またはその塩の溶液に、水およびアンモニウム塩を添加し、加熱すると共にpHを強酸性の範囲に調整して亜硝酸塩化ロジウムを生成させ、次いで、ギ酸を加えて亜硝酸塩化ロジウムを還元して金属ロジウム(ロジウムブラック)を生成させることを特徴とするロジウムブラックの製造方法であり、好ましくは、亜硝酸ロジウムアンモニウムの分解温度を60℃〜80℃、pHを1〜2に調整するロジウムブラックの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換法などで回収した亜硝酸ロジウムアンモニウムからロジウムブラック(ロジウム粉末)を効率良く製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排ガス制御用触媒などからロジウムを回収する方法として、イオン交換法によって不純物などを除去することにより亜硝酸ロジウムアンモニウムを回収し、この亜硝酸ロジウムアンモニウムからロジウムブラックを製造する技術が知られている。
【0003】
具体的には、図2のフローに示すように、先ず、亜硝酸ロジウムアンモニウム塩に水と濃塩酸を添加し、80℃程度に加熱した後、室温に達するまで放冷することにより、塩化ロジウム水溶液とし、次いで、これに塩化アンモニウムを添加して塩化ロジウムアンモニウムを生成する。この塩化ロジウムアンモニウムの溶解度が大きいので、エタノールを加えた後に、濾過して塩化ロジウムアンモニウムを回収する。この回収した沈殿物に水を加え、さらにギ酸を加えて80℃に加熱し、pH4程度の液性下で、塩化ロジウムアンモニウムを還元してロジウムブラック(金属ロジウム微粒子)を析出させ、これを濾過してロジウムブラックを回収する。
【0004】
また、ヘキサクロロロジウム酸アンモニウム水溶液にギ酸を加えて還元し、ロジウムブラックを回収し、これを還元雰囲気下で700℃〜900℃で焼成してロジウムスポンジを製造する方法が知られている(特開平2007−270228号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2007−270228号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術は、次のような問題点がある。
先ず、亜硝酸ロジウムが分解される際に大量のNOx(窒素酸化物)が発生するため、作業に危険を伴う。次に、塩化ロジウムアンモニウムを回収する際に、大量のエタノールを使用するので、濾液中に含まれるエタノールによって水処理への負荷が高まり、処理コストが嵩む。
【0007】
本発明は、従来技術の上記問題を解消したものであり、大量の窒素酸化物(NOx)を発生させることがなく、また、エタノールを用いないので、水処理への負荷を増大させることのない、ロジウムブラックの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成によって上記問題を解決したロジウムブラックの製造方法に関する。
〔1〕 亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液またはその塩の溶液に、水およびアンモニウム塩を添加し、加熱すると共にpHを強酸性の範囲に調整して亜硝酸塩化ロジウムを生成させ、次いで、ギ酸を加えて亜硝酸塩化ロジウムを還元して金属ロジウム(ロジウムブラック)を生成させることを特徴とするロジウムブラックの製造方法。
〔2〕 亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液またはその塩の溶液に、水およびアンモニウム塩を添加した後に、60℃〜80℃に加熱し、塩酸を加えてpH1〜2に調整する上記[1]に記載するロジウムブラックの製造方法。
〔3〕 ギ酸を添加して還元を行う際、液温を60℃〜80℃に加熱し、pH3〜5に調整する上記[1]または上記[2]に記載するロジウムブラックの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液またはその塩の溶液に塩化アンモニウム等のアンモニウム塩を添加して、亜硝酸イオンをアンモニウムイオンと反応させて分解するので、亜硝酸イオンは窒素ガスになり、従来のような大量の窒素化合物(Nox)が発生しない。
【0010】
また、本発明の製造方法によれば、エタノールを使用しないので、水処理への負荷が小さく、処理コストを低減できるので、経済的に有利である。
【0011】
更に、本発明の製造方法によれば、亜硝酸ロジウムの分解工程とギ酸による還元工程を主な処理工程とし、従来の製造方法よりも処理工程が簡略であるので、ロジウムブラックを効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の製造方法の概略を示すフローチャート。
【図2】従来の製造方法の概略を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を、図1を参照して具体的に説明する。
図1は本発明に係る製造方法の概略を示すフローチャートである。図示するように、本発明の製造方法は、亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液またはその塩の溶液に、水およびアンモニウム塩を添加し、加熱すると共にpHを強酸性の範囲に調整して亜硝酸塩化ロジウムを生成させ、次いで、ギ酸を加えて亜硝酸塩化ロジウムを還元して金属ロジウム(ロジウムブラック)を生成させることを特徴とするロジウムブラックの製造方法である。
【0014】
亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液に水およびアンモニウム塩を添加することにより、次式[1]に示すように、亜硝酸イオンがアンモニウムイオンと反応して分解される。なお、亜硝酸ロジウムアンモニウム塩溶液、例えばNa塩溶液〔Na(NH4)2[Rh(NO2)6]〕を用いた場合には、Naイオンが生成する以外は次式[1]と同様の分解反応が進む。
(NH4)3[Rh(NO2)6] + 5MH4Cl → RhCl5(NO2)3- + 5N2 + 10H2O + 3NH4+…[1]
【0015】
上記亜硝酸ロジウムアンモニウムの分解は加熱下で行う。具体的には、60℃以上が適当であり、60℃〜80℃が好ましい。液温が60℃より低いと工業的に必要な反応速度が得られない。
【0016】
亜硝酸ロジウムアンモニウムの分解反応は、溶液を強酸性に調整するのが好ましい。具体的には、溶液のpHを1〜2に調整すると良い。pHが1未満であると、NOxが発生し易くなり、また、pHが2より大きいと、工業的に必要な反応速度を得難くなる。
【0017】
亜硝酸ロジウムアンモニウム塩の分解後、ギ酸を加えることにより、次式[2]に示すように、亜硝酸塩化ロジウムがギ酸によって還元され、金属ロジウム(ロジウムブラック)が析出する。
2RhCl5(NO2) +3HCOOH +2NH4+ → 2Rh↓+5Cl- +2N2 +4H2O +6H+ +3CO2 …〔2〕
【0018】
ギ酸による還元は、反応温度60℃〜80℃、pH3〜5、望ましくは、pH3.5〜4.5に調整すると良い。反応温度が60℃より低いと工業的に必要な反応速度を得難くなり、80℃より高いと反応槽の耐久性に影響が大きく、工業的な実施が困難になる。また、pHが上記範囲より低いと、微細なコロイド状のロジウムブラックが生成し、濾過回収するのが難しく、pHが上記範囲より高いと、工業的に必要な反応速度を得られない。
【0019】
ギ酸の添加量は、亜硝酸塩化ロジウムに含まれるロジウム量の12倍当量以上が好ましい。ギ酸の量が12倍当量より少ないと亜硝酸塩化ロジウムの還元が不十分になる。上記還元処理によって析出したロジウムブラックを固液分離して回収する。
【実施例】
【0020】
本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、各例において、原料の亜硝酸ロジウムアンモニウムに含まれるロジウム含有量は何れも23wt%である。
【0021】
〔実施例1〕
亜硝酸ロジウムアンモニウム3.2gと、水50mlを混合し、これに塩化アンモニウム4.2gを添加した。次いで、これを加熱しながら塩酸を添加し、液温80℃、pH1.1に調整し、30分混合し反応させた。この反応によって亜硝酸ロジウム塩が分解し、透明な黄色い液が得られた。この間、NOxは発生しなかった。次いで、ギ酸を加え、温度80℃、pH4に調整し、1時間混合した。pHはアンモニアと塩酸を逐次加えることによって制御した。その結果、液中のロジウムイオンが還元され、ロジウムブラック0.72g(乾燥重量)を得た。回収率は97.33%であった。
【0022】
〔実施例2〕
亜硝酸ロジウムアンモニウムの分解工程において、加熱温度を70℃、pH1.8に調整した以外は実施例1と同様にしてロジウムブラックを回収した。回収率は97.3%であった。また、亜硝酸ロジウムアンモニウムの分解工程でNOxは発生しなかった。
【0023】
〔実施例3〕
亜硝酸ロジウムアンモニウムの分解工程において、塩化アンモニウム添加量を6.3gとした以外は実施例1と同様にしてロジウムブラックを回収した。回収率は98.5%であった。また、亜硝酸ロジウムアンモニウムの分解工程でNOxは発生しなかった。
【0024】
〔比較例1〕
亜硝酸ロジウムアンモニウム3.2gと、水50mlを混合し、加熱しながら塩酸を添加し、液温80℃、pH1〜2に調整し、30分混合したが、亜硝酸ロジウムアンモニウムは分解せず、透明な黄色液体に変化しなかった。塩化アンモニウムを添加しないので、亜硝酸イオンとアンモニウムイオンとの反応による亜硝酸イオンの分解が行われなかったと推察される。次いで、ギ酸を加え、温度80℃、およびpH4に調整し、1時間混合した。pHはアンモニアと塩酸を逐次加えることによって制御した。しかし、ロジウムブラックは生成しなかった。
【0025】
〔比較例2〕
亜硝酸ロジウムアンモニウム3.2gと、水50mlを混合し、これに塩化アンモニウム4.2gを添加した。次いで、これを加熱して液温80℃にし、pHを調整せず、30分混合したが、亜硝酸ロジウムアンモニウムは分解せず、透明な黄色液体に変化しなかった。溶液が強酸性になるようにpHを調整しないので、亜硝酸イオンとアンモニウムイオンとの反応による亜硝酸イオンの分解が行われなかったと推察される。次いで、ギ酸を加え、温度80℃、pH4に調整し、1時間混合した。pHはアンモニアと塩酸を逐次加えることによって制御した。しかし、ロジウムブラックは生成しなかった。
【0026】
〔比較例3(図2参照)〕
亜硝酸ロジウムアンモニウム3.2gに水25ml、塩酸25mlを混合し、80℃に加熱して赤色の塩化ロジウム水溶液を得た。しかし、多量のNOxが発生した。放冷後、これに塩化アンモニウム5gを添加して混合し、塩化ロジウムアンモニウムを生成させた。このままでは塩化ロジウムアンモニウムの溶解度が大きいことから、エタノール75mlを加えて濾過し、濾液125mlを分離し、塩化ロジウムアンモニウムを回収した。この回収物に水50ml混合し、ギ酸を加え、温度80℃、pH4に調整し、1時間混合した。pHはアンモニアと塩酸を逐次加えることで制御した。その結果、乾燥量1.0gのロジウムブラックを回収した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液またはその塩の溶液に、水およびアンモニウム塩を添加し、加熱すると共にpHを強酸性の範囲に調整して亜硝酸塩化ロジウムを生成させ、次いで、ギ酸を加えて亜硝酸塩化ロジウムを還元して金属ロジウム(ロジウムブラック)を生成させることを特徴とするロジウムブラックの製造方法。
【請求項2】
亜硝酸ロジウムアンモニウム溶液またはその塩の溶液に、水およびアンモニウム塩を添加した後に、60℃〜80℃に加熱し、塩酸を加えてpH1〜2に調整する請求項1に記載するロジウムブラックの製造方法。
【請求項3】
ギ酸を添加して還元を行う際、液温を60℃〜80℃に加熱し、pH3〜5に調整する請求項1または請求項2に記載するロジウムブラックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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