説明

ロジン系エマルジョン

【課題】ロジン類が化学的に結合してなるアクリル系重合体を微粒子として水に分散させてなるロジン系エマルジョンを提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリロイル基含有モノビニルエーテル化合物およびロジン類がヘミアセタール化反応してなるロジン誘導体(a−1)ならびに単官能ビニル化合物(a−2)が共重合反応してなるロジン系共重合体(A)を、乳化剤および水の存在下で乳化してなるロジン系エマルジョンを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロジン系エマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
ロジン系エマルジョンとは、一般的には、ロジンエステル等のロジン誘導体やロジンを、低分子乳化剤やアクリル系共重合体からなる高分子乳化剤の存在下で、微細な粒子として水に分散させてなるものであり、従来、ラベルやシート、テープ、包装、建材等の水系粘・接着剤の粘着付与剤として、或いは製紙用サイズ剤等として賞用されている。
【0003】
具体的には、例えば特許文献1には、スチレン類等を必須成分とする高分子乳化剤の存在下で無色ロジン類を乳化してなるエマルジョン型の粘着付与剤が記載されており、これをアクリル系重合体エマルジョン等に配合することにより、水系粘・接着剤が得られるとされている。また、特許文献2には、(メタ)アクリル酸エステル類およびアニオン性不飽和単量体等からなるアクリル系共重合体の存在下にロジン類を分散させてなるエマルジョン型の製紙用サイズ剤が記載されている。
【0004】
ところで、特許文献1や2に記載されたロジン系エマルジョンは、高分子乳化剤たるアクリル系共重合体とロジン類とが分離して、換言すれば両者が化学的結合を介さずして存在しているものである。そのため、ロジン類(をなす樹脂酸)を化学的に結合させてなるアクリル系共重合体が微粒子として分散したロジン系エマルジョンは、従来のものにはない作用機能を奏すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-331208号公報
【特許文献2】特開平2−33393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、樹脂酸が化学的に結合してなるアクリル系共重合体が微粒子として分散してなるロジン系エマルジョンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかるアクリル系共重合体として特定の(メタ)アクリロイル基含有ロジン誘導体を構成成分としてなるものを用いることにより、目的とするロジン系エマルジョンを提供できることを見出した。
【0008】
すなわち本発明は、(メタ)アクリロイル基含有モノビニルエーテル化合物およびロジン類がヘミアセタール化反応してなるロジン誘導体(a−1)(以下、(a−1)成分という。)ならびに単官能ビニル化合物(a−2)(以下、(a−2)成分という。)が共重合反応してなるロジン系共重合体(A)(以下、(A)成分という)が分散してなるロジン系エマルジョン、に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のロジン系エマルジョンは、樹脂酸を化学的に結合させてなるアクリル系共重合体が微粒子として水に分散したものであるため、従来のロジン系エマルジョンにはない作用機能を奏することが期待される。
【0010】
また、本発明のロジン系エマルジョンは、従来のロジン系エマルジョンと同様の用途(粘着付与剤、製紙用サイズ剤等)に供することができる。また、本発明のロジン系エマルジョンを含有する粘着付与剤を配合した水系粘・接着剤組成物は、テープ、シート、ラベル、包装、建材等の広範囲な用途に好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(a−1)成分は、(メタ)アクリロイル基含有モノビニルエーテル化合物およびロジン類がヘミアセタール化反応してなるロジン誘導体であり、例えば、特開2008−106047号に記載したものを用いることができる。
【0012】
(メタ)アクリロイル基含有モノビニルエーテル化合物としては、具体的には、例えば、アルキレンオキシ基含有モノビニルエーテル化合物〔(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸2−(1−メチル−2−ビニロキシエトキシ)エチル、(メタ)アクリル酸3−(2−ビニロキシエトキシ)プロピル等〕、アルキル基含有モノビニルエーテル化合物〔(メタ)アクリル酸2−ビニロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシプロピル、(メタ)アクリル酸1−メチル−2−ビニロキシエチル等〕、シクロアルキル基含有モノビニルエーテル化合物〔(メタ)アクリル酸4−ビニロキシシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸4−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸3−ビニロキシメチルシクロヘキシルメチル等〕、フェニル基芳香族基含有モノビニルエーテル化合物〔(メタ)アクリル酸p−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸m−ビニロキシメチルフェニルメチル、(メタ)アクリル酸o−ビニロキシメチルフェニルメチル等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、入手が容易であることからオキシアルキレン基含有モノビニルエーテル化合物、特に(メタ)アクリル酸2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルが好ましい。
【0013】
ロジン類としては、具体的には、例えば、天然ロジン〔ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジン等〕、天然ロジンを各種公知の方法で処理してなる安定化ロジン〔水素化ロジン、不均化ロジン等〕、天然ロジンおよび安定化処理ロジンを精製(再結晶法等)してなる精製ロジンなどが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、ロジン類はガードナー比色法(JISK0071−2)で色数3以下のものが好ましい。ロジン類としては、水素化ロジンが好ましい。なお、かかるロジン類には、樹脂酸として、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマール酸、ピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、テトラヒドロアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、およびジヒドロアビエチン酸等が含まれる。
【0014】
ヘミアセタールエステル化反応は、具体的には、例えば、(メタ)アクリロイル基含有モノビニルエーテル化合物とロジン類を、触媒およびラジカル重合禁止剤の存在下または不存在下において、通常30〜150℃程度(好ましくは50〜120℃)、通常10分〜6時間程度(好ましくは20分〜5時間)、反応させることにより行う。また、反応の際に後述の有機溶剤を使用してもよい。
【0015】
両原料の使用量は特に制限されないが、化学量論的な見地より、通常は、ロジン類のカルボキシル基1モルに対して、(メタ)アクリロイル基含有モノビニルエーテル化合物のビニルエーテル基が0.5〜3.0モル程度(好ましくは1.0〜2.0モル)となる範囲であるのが好ましい。
【0016】
触媒としては、具体的には、例えば、リン酸ジ−n−ブチル、リン酸2−エチルヘキシル、リン酸モノオクチル等のリン酸エステル系酸触媒等が挙げられる。また、その使用量は特に限定されないが、通常は(a−1)成分をなす原料の合計100重量部に対して、0.01〜3重量部程度(好ましくは0.1〜1.5重量部)である。
【0017】
ラジカル重合禁止剤としては、具体的には、例えば、キノン系重合禁止剤〔メトキノン、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン等〕、アミン系重合禁止剤〔アルキル化ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、その使用量は特に限定されないが、通常は(a−1)成分をなす原料の合計100重量部に対し、0.0005〜0.5重量部程度の範囲である。また、ラジカル重合禁止剤とともに、エアバブリング等の重合禁止手段を採りうる。
【0018】
このようにして得られる(a−1)成分には、必要に応じて各種精製処理(ろ過、蒸留、溶剤抽出、カラム分離、再沈殿等)を適用することもできる。
【0019】
(a−1)成分と共重合反応する(a−2)成分としては、具体的には、例えば、スチレン類〔スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン等〕、α,β不飽和カルボン酸類〔(メタ)アクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、マレイン酸半エステル、イタコン酸、イタコン酸無水物等〕、アルキル基の炭素数が1〜18程度の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類〔(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル等〕、アクリロイルモルホリンなどが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。(a−2)成分としては、スチレン類およびアクリロイルモルホリンを含むものが好ましい。
【0020】
(a−1)成分と(a−2)成分の使用重量比は特に限定されないが、通常は30/70〜70/30程度であるのが好ましい。
【0021】
共重合反応(具体的には、ラジカル重合反応)は、各種重合開始剤、連鎖移動剤および有機溶剤の存在下または不存在下、両成分を通常100〜150℃の温度で、30〜3時間程度反応させればよい。
【0022】
重合開始剤としては、具体的には、例えば、アゾ系化合物〔2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート等〕、無機過酸化物類〔過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等〕、有機過酸化物類〔t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は特に限定されないが、通常は(a−1)成分と(a−2)成分の合計100重量部に対し、0.01〜5重量部程度である。
【0023】
連鎖移動剤は、(A)成分の分子量を調整する目的で利用することができ、例えば、ドデシルメルカプタン、2−メルカプトベンゾチアゾール、ブロムトリクロルメタンなどが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は特に限定されないが、通常は、(a−1)成分と(a−2)成分の合計100重量部に対し、0.01〜5重量部程度である。
【0024】
有機溶剤としては、具体的には、例えば、芳香族炭化水素類〔ベンゼン、トルエン、キシレン等〕、エステル類〔酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等〕、ケトン類〔アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
このようにして得られる(A)成分には、必要に応じて精製処理(再沈殿等)を適用することもできる。
【0026】
(A)成分の物性は特に限定されないが、通常は、軟化点が70〜150℃程度、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値)が1,000〜10,000程度である。
【0027】
本発明のロジン系エマルジョンは、(A)成分が分散してなるものである。その製法は特に限定されないが、具体的には、例えば、(A)成分を乳化剤および水の存在下で乳化することにより得ることができる。
【0028】
乳化する方法は特に制限されず、各種公知の方法(高圧乳化法、反転乳化法等)を採用できる。例えば高圧乳化法の場合には、(A)成分を有機溶剤(ベンゼン、トルエン等)に溶解したのち、これに乳化剤および水の存在下、各種公知の高圧乳化機を用いて強制乳化した後、減圧下に溶剤を除去すればよい。
【0029】
乳化剤としては、アニオン系乳化剤〔α−オレフィンスルホン化物、アルキルサルフェート、アルキルフェニルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアラルキルフェニルエーテルのスルホコハク酸のハーフエステル塩等〕、ノニオン系乳化剤〔ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等〕などが挙げられ、これらは1種を単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、乳化剤の使用量は特に限定されないが、通常は(A)成分100重量部に対して固形分換算で1〜10重量部程度、好ましくは1〜5重量部である。また、水としては市水や脱イオン水、イオン交換水、軟水等が利用できる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
<(a−1)成分の合成>
分水管を備えた300mlのフラスコに、荒川化学工業(株)製の水素化ロジン(樹脂酸として、主にデヒドロアビエチン酸、ジヒドロアビエチン酸、テトラヒドロアビエチン酸を含む)150g、メトキノン0.23g、フェノチアジン0.23gを仕込み、撹拌下に反応系を120℃に昇温して、これらを溶融させた。次いで、アクリル酸2−(ビニロキシエトキシ)エチル(商品名「VEEA」、日本触媒(株)製)82.9gを滴下ロートから15分を要して反応系に滴下し、次いでリン酸2−エチルヘキシル(商品名「AP−8」、大八化学工業(株)製)0.15gを仕込み、100℃で1時間保温し、アクリロイル基含有ロジン誘導体を得た。
【0032】
<ロジン系共重合体(A)の製造>
撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応容器に、キシレン90部を仕込み、約133℃まで昇温した。次いで、滴下ロートより、前記アクリロイル基含有ロジン誘導体25部、スチレン65部、アクリロイルモルホリン10部、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(商品名「ABN−E」、(株)日本ファインケム製)3.5部およびキシレン10部からなる混合液を、1.5時間かけて滴下した。次いで反応系を室温まで冷却した後、ヘキサン400部を加えて30分撹拌した。次いで、デカンテーションによりロジン系共重合体(A)を分離し、100℃で2時間、次いで90℃で2時間乾燥させた。ロジン系共重合体は、軟化点が97.5℃、重量平均分子量が9,400(測定機器:製品名「HLC−8120GPC」、東ソー(株)製)であった。
【0033】
<ロジン系エマルジョンの製造>
実施例1
ロジン系共重合体(A)100部をトルエン60部に100℃にて約1時間溶解した後、80℃まで冷却してアニオン系乳化剤(ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム)を3部および水160部を添加し、75℃にて1時間強撹拌し予備乳化を行った。得られた予備乳化物を高圧乳化機(マントンガウリン社製)により29.4MPaの圧力で高圧乳化して乳化物を得た。次いで、減圧蒸留装置に乳化物200部を仕込み、50℃、133hPaの条件下に6時間減圧蒸留を行い、固形分50%のロジン系エマルジョンを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリロイル基含有モノビニルエーテル化合物およびロジン類がヘミアセタール化反応してなるロジン誘導体(a−1)ならびに単官能ビニル化合物(a−2)が共重合反応してなるロジン系共重合体(A)が分散してなるロジン系エマルジョン。
【請求項2】
ロジン類が水素化ロジンである、請求項1のロジン系エマルジョン。
【請求項3】
単官能ビニル化合物(a−2)がスチレン類およびアクリロイルモルホリンを含む、請求項1または2のロジン系エマルジョン。



【公開番号】特開2010−235766(P2010−235766A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85159(P2009−85159)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】