説明

ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の合成のための主要中間体

本発明は、一般的には、有機化学の分野に関し、具体的には、ロスバスタチンの調製における主要中間体である、N−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(I)、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(II)およびN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(III)の調製に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のための主要中間体として有用な、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドおよびN−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドの調製のための方法に関する。本発明はさらに、上に挙げた化合物が、中間体として使用される方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
(N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド)、(N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド)およびN−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドは、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の合成における可能な中間体である。ロスバスタチンカルシウムは、化学名をビス[(E)−7−[4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−2−[メチル(メチルスルホニル)アミノ]ピリミジン−5−イル](3R,5S)−3,5−ジヒドロキシへプト−6−エン酸]カルシウム塩といい、3−ヒドロキシ−3−メチルグルタリル−コエンザイムA(HMG−CoA)レダクターゼの阻害剤(HMG−CoAレダクターゼ阻害剤)として作用する合成脂質低下剤である。HMG−CoAレダクターゼ阻害剤は、一般に、「スタチン」と呼ばれる。スタチンは、心血管疾患のリスクがある患者の血流中の低密度リポタンパク質(LDL)粒子濃度を減少させるために使用される、治療上有効な薬である。したがって、ロスバスタチンカルシウムは、高コレステロール血症および混合型脂質異常症の治療に使用される。
【0003】
EP 521471 A1は、ロスバスタチンおよびこれの調製方法を開示し、とりわけ、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドを、これの適切なエステル誘導体を還元試薬としての水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL−H)で還元することによって、調製するステップを含む方法を開示している。さらに、WO2008/059519 A2も、それの適切なエステルをDIBAL−Hを用いて還元することによって得られる中間体としてのN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドを介する、ロスバスタチンの調製を記載している。
【0004】
国際特許出願WO2007/017117 A1は、中間体としてのN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドを介するロスバスタチンの調製を記載している。この中間体は、求核剤の供給源としてのHBrを用いたN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドの求核置換によって調製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第521471号
【特許文献2】国際公開第2008/059519号
【特許文献3】国際公開第2007/017117号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のために役立つ中間体を提供するために、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドおよびN−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドを調製するための改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
該目的は、請求項1、9、13および15に記載のN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドおよびN−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドの調製のための方法、請求項11および17に記載のロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のための方法、請求項18および19に記載の医薬組成物の調製、ならびに請求項20に記載のロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のためのN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドおよびN−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドの使用それぞれによって解決される。好ましい実施形態は、以下および従属請求項において述べられる。
【0008】
本発明によれば、驚いたことに、N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドおよびN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドそれぞれのより効率的で、より取り扱いやすい合成は、強力な、取り扱い困難なおよび/または高価な試薬を必要とせずに、所望の生成物に転換できる適切な出発材料を選択することによって、実施できることが発見された。さらに、調製のための該方法は、これによって、副生成物を少なくして生成物の純度を高め、収率を高める、および/または必要な反応ステップを少なくする有益な反応条件が可能になるので、より効率的である。さらに、本発明による方法は、穏和な反応剤を使用することができ、適用および保管上の必要な注意がより少ないという点、ならびに保護ガス雰囲気および/または無水溶媒などの特別な反応条件の必要性に関する注意がより少ないという点で、より容易な取り扱いにさらに寄与する。さらに、N−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミドを回収する効率的な方法が開示され、この方法は、ロスバスタチン合成方法全体の効率に好適な効果を与える。
【0009】
結果として、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製に望ましい主要中間体は、著しく改良された方法によって提供される。
【0010】
それぞれ単独でおよび組み合わさって、本発明の目的を解決することに特に寄与する、本発明の種々の態様、有利な特徴および好ましい実施形態は、以下の項目にまとめられる。
(1)式IIの化合物
【0011】
【化1】

を調製するための方法であって、
式Iの化合物
【0012】
【化2】

を用意するステップ、
および式Iの化合物を臭素化によって式IIの化合物に転換させるステップ
を含む方法。
(2)臭素化が、ラジカル反応によって進行する、項目(1)に記載の方法
(3)前記臭素化が、臭素化剤としてのN−ブロモアミド、好ましくはN−ブロモアセトアミド、N,N−ジブロモベンゼンスルホンアミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ブロモフタルイミド、N−ブロモグルタルイミド、3−ブロモ−ヒダントインおよび1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインからなる群から選択されるN−ブロモアミド、より好ましくはN−ブロモスクシンイミドを用いて行われる、項目(1)または(2)に記載の方法。
(4)臭素化剤の初期量が、化合物Iに基づく化学量論モル量の約1から約3倍、好ましくは約1.2から約2.5倍、より好ましくは約1.4から約2.2倍、特に約2倍である、項目(3)に記載の方法。
(5)HBrおよびPBrの使用を避ける、項目(1)から(4)のいずれか一項に記載の方法。
(6)臭素化反応が、アセトン、酢酸エチル、炭化水素、芳香族炭化水素およびアセトニトリルまたはそれらの混合物からなる群から選択される有機溶媒中で行われ、好ましくは有機溶媒がアセトニトリルである、項目(1)から(5)のいずれか一項に記載の方法。
(7)臭素化が、紫外線処理下で行われる、項目(1)から(6)に記載の方法。
(8)前記紫外線の波長が、約200−400nm、好ましくは約310nmである、項目(7)に記載の方法。
(9)前記紫外放射が、2から10時間、好ましくは約4時間行われる、項目(7)または(8)に記載の方法。
(10)臭素化が、0から90℃の間、好ましくは10から65℃の間、より好ましくは15から35℃の間、特に19から25℃の間の温度で行われる、項目(1)から(9)のいずれか一項に記載の方法。
(11)ラジカル形成剤(radical former)が全く適用されない、項目(1)から(10)のいずれか一項に記載の方法。
(12)ラジカル形成剤が適用され、ここでラジカル形成剤が、好ましくは有機過酸化物、有機過酸、有機ヒドロペルオキシドまたは有機アゾ化合物であり、より好ましくは、ラジカル形成剤が、過酸化ベンゾイルまたはアゾイソブチロニトリルである、項目(1)から(10)のいずれか一項に記載の方法。
(13)ラジカル形成剤の初期量が、化合物Iに基づいて約0から0.5化学量論モル量の間、好ましくは、化合物Iに基づいて約0から0.07化学量論モル量の間であり、より好ましくは、ラジカル形成剤が全く適用されない、項目(12)に記載の方法。
(14)好ましくは結晶化による、式IIの化合物の精製のステップをさらに含む、項目(1)から(13)のいずれか一項に記載の方法。
(15)結晶化が、MTBE/ヘキサン混合物を用いて、好ましくは、MTBEとヘキサンの体積比が、2対1、好ましくは1対1、より好ましくは2対3であるMTBE/ヘキサン混合物を用いて行われる、項目(14)に記載の方法。
(16)式Iの化合物
【0013】
【化3】

を調製するための方法であって、
式Iの化合物を得るために、
式IXまたはIX’の化合物を、
【0014】
【化4】

(式中、PおよびPはそれぞれ、同一または異なるヒドロキシ保護基を示し、Rは、アルキルまたはアリールから選択される。)
式XまたはX’の化合物
【0015】
【化5】

(式中、Zは、
【0016】
【化6】

からなる群から選択され、
ならびにここで、Rx、RyおよびRzは、同一でありまたは異なり、任意に置換されたC−CアルキルまたはC−CシクロアルキルまたはC−CアルケニルまたはC−Cシクロアルケニルまたはアリール、好ましくはフェニルから選択され、Xは、アニオン、好ましくはハロゲンまたはカルボン酸アニオン、より好ましくは塩化物、臭化物またはトリフルオロアセテートである。)
と反応させるステップを含み、
前記反応において、式XまたはX’の化合物が、式IXまたはIX’の化合物よりもモル過剰で使用され、および/または反応が、水または他のプロトン性分子の存在下で行われる方法。
(17)式Iの化合物が、式XIまたはXI’
【0017】
【化7】

(式中、PおよびPは、上に定義した通りである。)
から選択される化合物とは別の生成物として得られ、
式XIおよびXI’から選択される前記化合物が、続いてロスバスタチンまたはこの塩への転換のために使用され、式Iの化合物が、請求項1に記載の方法において、前記化合物をもたらすために使用される、
項目(16)に記載の方法。
【0018】
このように、式Iの化合物は、ロスバスタチンまたはこの塩の調製のためのさらなる合成経路を実施するために、効率的にリサイクルすることができる。
(18)(a)式IXまたはIX’の化合物を、
【0019】
【化8】

(式中、PおよびPはそれぞれ、同一または異なるヒドロキシ保護基を示し、Rは、アルキルまたはアリールから選択される。)
式XまたはX’の化合物
【0020】
【化9】

(式中、Zは、次式
【0021】
【化10】

からなる群から選択され、
ならびにここで、Rx、RyおよびRzは、同一でありまたは異なり、任意に置換されたC−CアルキルまたはC−CシクロアルキルまたはC−CアルケニルまたはC−Cシクロアルケニルまたはアリール、好ましくはフェニルから選択され、Xは、アニオン、好ましくはハロゲンまたはカルボン酸アニオン、より好ましくは塩化物、臭化物またはトリフルオロアセテートである。)
と反応させるステップ、
(b)式Iの化合物
【0022】
【化11】

および
式XIまたは式XI’から選択される化合物
【0023】
【化12】

(式中、PおよびPは、上に定義する通りである。)
の反応生成物を得るステップ、
(c)ロスバスタチンまたはこの塩への転換のために、式XIおよび式XI’から選択される得られた化合物を使用するステップ、および
(d)ロスバスタチンを生成するためのリサイクル方法において、得られた式Iの化合物を請求項1に記載の方法において前記化合物をもたらすために、使用するステップ
を含む、ロスバスタチンを調製するための方法。
(19)ステップ(d)におけるそれぞれの使用の前に、ステップ(b)において得られた反応生成物が、式Iの化合物および式XIまたは式XI’から選択される化合物にそれぞれ分離される、項目(18)に記載の方法。
【0024】
項目(18)および(19)によって規定されるように、ロスバスタチンまたはこの塩の総収率を向上させるための、有利で、一般的に適用可能なリサイクル方法が提供される。
(20)式IIIの化合物
【0025】
【化13】

を調製するための方法であって、
式IIの化合物を、
【0026】
【化14】

加水分解によって式IIIの化合物に転換させるステップ
を含む方法。
(21)加水分解が、無機塩基、好ましくはアルカリまたはアルカリ土類の炭酸塩または炭酸水素塩、より好ましくはNaHCOの存在下で行われる、項目(20)に記載の方法。
(22)無機塩基が、飽和水溶液の形で反応混合物に加えられる、項目(21)に記載の方法。
(23)無機塩基の初期量が、化合物IIに基づく化学量論モル量の約1から10倍、好ましくは約3から7倍、より好ましくは5から6倍の間である、項目(21)−(22)のいずれか一項に記載の方法。
(24)式IIIの化合物
【0027】
【化15】

を調製するためのワンポット方法であって、
式Iの化合物を、
【0028】
【化16】

式IIの非単離化合物
【0029】
【化17】

を介する反応によって、式IIIの化合物に転換させるステップ
を含む方法。
(25)式Iの化合物の式IIの化合物への転換が、項目(1)から(13)のいずれか一項の方法によって行われる、項目(24)に記載の方法。
(26)式IIの化合物の式IIIの化合物への転換が、項目(20)から(23)のいずれか一項に記載の方法によって行われる、項目(24)または(25)に記載の方法。
(27)式Iの化合物を式IIの化合物に転換させた後の反応バッチが、項目(6)に定義する通りの溶媒を用いて希釈される、項目(24)から(26)のいずれか一項に記載の方法。
(28)好ましくは結晶化による、式IIIの化合物の精製のステップをさらに含む、項目(20)から(27)のいずれか一項に記載の方法。
(29)結晶化が、MTBE/ヘキサン混合物を用いて、好ましくは、MTBEとヘキサンの体積比が、2対1、好ましくは1対1、より好ましくは2対3であるMTBE/ヘキサン混合物を用いて行われる、項目(28)に記載の方法。
(30)a)項目(16)に記載の式Iの化合物を調製するための方法を実施するステップ、および
b)式Iの化合物を、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を得るためにさらなる合成ステップにかけるステップ
を含む、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるロスバスタチンの塩の調製のための方法。
(31)a)項目(1)から(15)のいずれか一項に記載の式IIの化合物を調製するための方法を実施するステップ、および
b)式IIの化合物を、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を得るためにさらなる合成ステップにかけるステップ
を含む、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるロスバスタチンの塩の調製のための方法。
(32)a)項目(20)から(29)のいずれか一項に記載の式IIIの化合物を調製するための方法を実施するステップ、および
b)式IIIの化合物を、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を得るためにさらなる合成ステップにかけるステップ
を含む、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるロスバスタチンの塩の調製のための方法。
(33)a)項目(31)または(32)に記載の方法に従って、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を調製するステップ、および
b)こうして調製されたロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を、医薬として許容される少なくとも1種の賦形剤と混合するステップ
を含む、活性成分としてのロスバスタチンを含む医薬組成物の調製のための方法。
(34)a)項目(17)から(19)のいずれか一項に記載の方法に従って、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を調製するステップ、
b)こうして調製されたロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を、医薬として許容される少なくとも1種の賦形剤と混合するステップ
を含む、活性成分としてのロスバスタチンを含む医薬組成物の調製のための方法。
(35)ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のための、項目(1)から(15)のいずれか一項の方法に従って調製される式IIの化合物の使用。
(36)ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のための、項目(20)から(29)のいずれか一項の方法に従って調製される式IIIの化合物の使用。
(37)ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のための、項目(16)から(19)の方法のいずれか1つに従って調製される式Iの化合物の使用。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(発明の詳細な記述)
これ以降、本発明を、さらに好ましく、さらに有利な実施形態および実施例に言及することによって、より詳細に説明するが、これらの実施形態および実施例は、例示目的で提供されるに過ぎず、それらが本発明の範囲を限定するものと理解されてはならない。
【0031】
式IIの化合物(N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド)および式IIIの化合物(N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド)の調製のための方法を改良するために、有益な反応条件および/またはより少ない必要な反応ステップによって、調製を著しく簡単にしつつ、生成物収率を高め、副生成物を減らすのに特に適している重要な要素を見つけるために、本発明者らによって、広範な試験系列が実施された。
【0032】
従来から、式IIIの化合物は、次のスキームに図示する通り、多段階合成手順の後半または最後のステップにおいて、適切な還元剤を用いて、式IV(式中、Rは好ましくはメチルまたはエチル残基を示す。)の適切なエステル誘導体を還元することによって調製された。
【0033】
【化18】

しかし、この種の還元は、手順上の著しい欠点を有する。最も一般的には、還元は、還元剤としての水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL−H)によって行われるので、還元は、乾燥/無水条件下で、0℃前後または未満(好ましくは−70℃まで)の温度で行わねばならない。DIBAL−Hによる還元のさらなる欠点は、複合水素化物DIBAL−Hは、高価で危険な試薬であることである。一般的ではないが、還元は、還元剤としてのKBH/ZnClによって行われ、この還元も、乾燥/無水条件を必要とする。さらに、未反応の出発材料および副生成物の発生という問題が存在し、副生成物は、乾燥/無水条件が用いられなければ、次に続くロバスタチン合成ステップにおいてほとんど除去されず、反応は完了しない。
【0034】
次いで、従来から、式IIIの化合物は、次のスキームに示す通り、臭素を導入するためにHBrまたはPBrを使用する求核置換反応によって、式IIの化合物に転換された。
【0035】
【化19】

前記求核置換反応は、とりわけ、HBrが非常に腐食性で強力な試薬であり、この代替の反応剤PBrが有毒であり、腐食性のHBrを発生させ、水やアルコールと激しく反応し、これによって取り扱いが困難となるので、著しい欠点を有する。
【0036】
要するに、式IIIの化合物の上述した従来の調製、または式IVの化合物を介した式IIの化合物の従来の調製は、取り扱い困難な、危険および/または高価である反応剤を必要とすると言うことができる。さらに、式IIの化合物を得るためには、いくつかの反応ステップが必要であり、従来の方法は、ロスバスタチンのさらなる合成に影響を及ぼす重大な副生成物発生という欠点に見舞われる。
【0037】
本発明の一態様によれば、HBrまたはPBrを用いて臭素を導入する求核置換反応は使用されないが、式IIの化合物は、次のスキームに示す通り、式Iの化合物を臭素化によって式IIの化合物に転換させることによって調製される。
【0038】
【化20】

式Iの化合物(N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−メチル−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド)が、出発材料として使用されるので、化合物II(N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド)は、臭素化による1つのステップのみで得ることができる。この反応は、UV照射および/または必要に応じてラジカル形成剤の使用により助長されるラジカル臭素化反応によって、最も効率的に行うことができる。
【0039】
上述した臭素化は、特にラジカル反応で進行したときに、求核置換反応を用いる臭素の導入とは著しく異なる(例えば、式IIIの化合物が、式IIの化合物に転換される場合)。求核置換反応は、例えば、式IIIの化合物の−OHなどの脱離基を必要とする。それに対して、式Iの化合物は、こうした脱離基を必要としない。
【0040】
本発明の上述した臭素化反応では、好ましくは、N−ブロモアミドなどの臭素化剤が使用される。有利なことに、N−ブロモアミドは、反応の間、反応混合物中で一定の低濃度の臭素を提供する。より好ましくは、前記N−ブロモアミドは、N−ブロモアセトアミド、N,N−ジブロモベンゼンスルホンアミド;N−ブロモスクシンイミド、N−ブロモフタルイミド、N−ブロモグルタルイミド、3−ブロモ−ヒダントインおよび1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインなどのN−ブロモイミド、からなる群から選択される。N−ブロモスクシンイミドは、市販品として容易に入手できる経済的な価格であるので、最も好ましい臭素化剤である。有利なことに、前述の臭素化剤は、副生成物が少なくなる穏やかな反応条件を提供する。強力で、取り扱い困難な反応剤であり、このことによって、式IIの化合物の純度および収率に悪影響を及ぼすと思われるHBrおよびPBrは、避けることができる。
【0041】
前記臭素化剤の初期量は、化合物Iに基づく化学量論モル量の約0.1から約3倍、好ましくは約0.9から約2.5倍、より好ましくは約1.4から約2.2倍、特に約2倍である。このように、経済的な量の臭素化剤を使用しながら、高収率の化合物IIをもたらす効率的な臭素化が提供される。
【0042】
上に挙げた臭素化反応は、好ましくはアセトン、酢酸エチル、炭化水素、芳香族炭化水素およびアセトニトリルからなる群から選択される、有機溶媒中で適切に行われる。最も好ましくは、アセトニトリルが、有機溶媒として使用される。前述の有機溶媒は、反応剤の適切な可溶化および有利な反応速度を提供する。さらに、これらの有機溶媒は、芳香族基質の炭化水素側鎖のラジカル臭素化に一般的に使用されている四塩化炭素またはクロロベンゼンよりも、はるかに毒性が低い。
【0043】
好ましくは、式Iの化合物を臭素化剤と反応させて式IIの化合物を与えるステップは、紫外線処理下で実施され、ここでは、前記紫外線の波長は、好ましくは約200から400nm、より好ましくは約310nmである。前記紫外放射は、好ましくは2から10時間、より好ましくは約4時間行われる。
【0044】
本発明の特に好ましい実施形態では、臭素化反応は、適切な温度で、好ましくは0から90℃の間、より好ましくは10から65℃の間、さらにより好ましくは15から35℃の間の温度で、特に19から25℃の間の周囲温度で行われる。このように、有益な穏やかな反応条件を設定することができ、このことは、高い反応温度が使用される臭素を導入する求核置換反応と比較して、副生成物の形成を少なくすることにさらに寄与する。より高い収率が得られ、精製が容易になり、ロスバスタチンを得るためのさらなる合成ステップは、重大な副生成物による影響が少なくなる。
【0045】
驚いたことに、式Iの化合物を出発化合物として使用すると、上述したラジカル臭素化は、ラジカル形成剤が全く適用されなくても、比較的短い反応時間内で、高い収率で進行する。ラジカル形成剤が存在しないことは、有利である。なぜなら、ラジカル形成剤は、非常に反応性であり、したがって化合物を取り扱うのは危険であるので、作業の安全性という点で、反応がより安全になるからである。さらに、ラジカル形成剤のためのコストを抑えることができる。したがって、ラジカル形成剤を用いずに臭素化を行うことが好ましい。加えて、ラジカル形成剤が全く使用されなければ、反応の間、不純物はほとんど形成されない。
【0046】
それでもやはり、臭素化反応をさらに促進させたいのであれば、ラジカル形成剤を適用することができる。使用される場合、ラジカル形成剤は、好ましくは有機過酸化物、有機過酸、有機ヒドロペルオキシドまたは有機アゾ化合物である。これらのラジカル化剤(radical performers)は、ラジカル反応を促進/補助するのに適している。より好ましくは、ラジカル形成剤は、過酸化ベンゾイルまたはアゾイソブチロニトリルから選択される。なぜならば、これらのラジカル化剤は、市販品として容易に入手でき、安価であるからである。
【0047】
ラジカル形成剤が、臭素化反応に適用される場合、ラジカル形成剤の初期量が、化合物Iに基づいて約0から0.5化学量論モル量の間、好ましくは、化合物Iに基づいて約0から0.07化学量論モル量の間であり、より好ましくは、ラジカル形成剤が全く適用されない。ラジカル形成剤の前述の量は、安定で安全な反応を依然として提供しつつ、反応を有利に促進させる。
【0048】
一実施形態によれば、式IIの化合物は、好ましくは結晶化によって、単離および精製される。このように、多くの労力、時間および材料を要するカラムクロマトグラフィーと比較して、簡単で有効な精製法が適用される。臭素化反応は、穏やかな条件下で行われるので、副生成物はより少なく、したがって、結晶化は、有利に純粋な生成物を提供するのに十分である。さらに、MTBE/ヘキサン混合物を用いて、詳細には、MTBEとヘキサンの体積比が、2対1、好ましくは1対1、より好ましくは2対3であるMTBE/ヘキサン混合物を用いて行われる結晶化が、特に有利であることが判明した。
【0049】
式Iの化合物は、標的合成によって得ることができる。または、好ましい実施形態によれば、式Iの化合物は、ロスバスタチン中間体の調製における副産物として得られ、ここでは、式Iの化合物は、ロスバスタチンの対応する複素環のホスホニウム塩、ホスフィンオキシドまたはホスホネート(式Xの化合物)−または、(ホスホニウム塩に関しては)対応するイリドもしくはホスホラン形、または(ホスフィンオキシドまたはホスホネートに関しては)対応するカルバニオン(式X’の化合物)にそれらが転換された試薬−と、キラルなスタチン側鎖との間のウィティッヒ反応において形成される。実例となる反応系は、下のスキーム1によって表すことができる。
【0050】
スキーム1では、式XおよびX’の化合物中のZは、ホスホニウム塩部分、ホスフィンオキシド部分またはホスホネート部分からなる群から選択される。
【0051】
【化21】

ここで、Rx、RyおよびRzは、同一でありまたは異なり、任意に置換されたC−CアルキルまたはC−CシクロアルキルまたはC−CアルケニルまたはC−Cシクロアルケニルまたはアリール、好ましくはフェニルから選択され、Xは、アニオン、好ましくはハロゲンまたはカルボン酸アニオン、より好ましくは塩化物、臭化物またはトリフルオロアセテートである。
【0052】
さらにスキーム1では、PおよびPは独立に、従来のヒドロキシル保護基を示す。保護基PおよびPは、例えば、アルキル、分枝アルキル、アシル、シリルまたは類似の基からなる群から独立に選択される、より詳細には、アセトニド、アセチル(Ac)、ピバロイル(Piv)、p−トルエンスルホニル(TOS)、β−メトキシエトキシメチルエーテル(MEM)、メトキシメチルエーテル(MOM)、p−メトキシベンジルエーテル(PMB)、メチルチオメチルエーテル、t−ブチル、テトラヒドロピラニル(THP)、ベンジル(Bn)、ジフェニルメチルまたはトリフェニルメチル基から選択される、ヒドロキシル基に従来から使用される任意の保護基でもよく、好ましくは、式SiR’R’R’(式中、R’R’R’は独立に、アルキル(好ましくはC−C)またはアリール(好ましくはC−C10)から選択される。)によって表すことができる、SiMe(TMS)、SiMeBu(TBDMS)、Si(i−Pr)(TIPS)、SiPhBu、SiMePhなどのシリル保護基でもよい。
【0053】
したがって、スキーム1に図示する通り、保護された最終のロスバスタチン中間体は、ロスバスタチンまたはこの塩を得るための最終の合成ステップを進行させるために使用することができる一方で、代替的または追加的に、式Iの化合物は、別の(同一または異なる)ロスバスタチン合成経路にリサイクルすることによって利用することができる。
【0054】
それぞれのさらなる使用の前に、ウィティッヒ反応において得られる反応生成物は、適切で既知の方法によって、式Iの化合物および式XIまたは式XI’から選択される化合物にそれぞれ分離することができる。
【0055】
【化22】

有利なことに、また、驚いたことに、式Iの化合物は、ウィティッヒ反応が、過剰のホスホニウム塩(またはこのイリドもしくはホスホラン)、ホスフィンオキシド(またはこのカルバニオン)またはホスホネート(またはこのカルバニオン)ウィティッヒ試薬(例えば、化合物IXまたはIX’よりも、適切には5%以上、好ましくは10%以上、特に15%以上のモル過剰の化合物XまたはX’)を用いて、プロトン性溶媒で失活させた後に、より有効に行われたとき、および/またはウィティッヒ反応が、水またはアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールおよびフェノール)などの他のプロトン性分子の存在下で行われたときに、より十分に形成される。水または他のプロトン性分子の存在は、水の添加によって、またはアルコールなどの一般に既知のプロトン性溶媒種の添加によって達成できるが、代替的には、これは、ウィティッヒ反応に導入される、例えば、未乾燥のもしくは湿ったまたは十分に乾燥していない溶媒(複数可)が、使用される場合、好ましく、十分である。別の効率的な実施形態によれば、式IXの出発化合物は、次の反応スキームに示す通り、適切な溶媒中で、放出される水分子を除去せずに、その水和物形から得ることができ、
【0056】
【化23】

次いで、直接的に(すなわち、水を除去せずに)ウィティッヒ反応に導入される。次のこの反応に適した溶媒は、例えば、テトラヒドロフラン(THF)である。
【0057】
式Iの化合物の提供および利用は、ロスバスタチンの合成方法全体の効率に著しく好適な効果を与える。この分子の複素環部分は、例えば、EP 521471に開示されている通り、手間のかかる多くの合成ステップにおいて調製されるので、利用価値のある式Iの化合物を回収し、これを式IIまたはIIIの化合物に特異的に転換させることによってこの化合物を利用可能にすることは極めて有利であり、次いで、それらの化合物は、例えば、ウィティッヒ反応を介するロスバスタチン中間体の調製のためのさらなる出発材料に相当するホスホニウム塩、ホスフィンオキシドまたはホスホネートに再び転換させることによって(例えば、上のスキーム1に例示する通りに)、有益にさらに使用することができる。式IIの化合物は、ホスホニウム塩誘導体、ホスフィンオキシドまたはホスホネートに直接転化させることができる(例えば、US2005/0124639を参照されたい。)。代替的には、式Iの化合物は、式IIIの化合物に転化させることができ、この式IIIの化合物は、ホスホニウム塩誘導体、ホスフィンオキシドまたはホスホネートに転換させることができる(例えば、WO2007/017117を参照されたい。)。式IIの化合物は、先行技術の方法によって調製することができるが(例えば、WO2007/017117参照)、この方法は、ホスホニウム塩誘導体、ホスフィンオキシドまたはホスホネートに向けた化合物Iの回収のために適用することができない。同様に、EP521471に開示されている通りの、化合物IIIの調製のための先行技術の方法は、ホスホニウム塩誘導体、ホスフィンオキシドまたはホスホネートに向けた式Iの化合物の回収のために使用することができない。
【0058】
したがって、式Iの化合物の提供は、これ自体が有用であることに加えて、ロスバスタチン合成の総収率の顕著な向上に寄与することができる。
【0059】
本発明の別の態様によれば、式IIIの化合物は、次の反応スキームに表す通り、式IIの化合物を加水分解によって式IIIの化合物に転換させるステップを含む方法によって調製される。
【0060】
【化24】

好ましい実施形態によれば、上に挙げた転換は、無機塩基、好ましくはアルカリまたはアルカリ土類の炭酸塩または炭酸水素塩の存在下で行われ、より好ましくは、NaHCOが、無機塩基として使用される。さらに、前記無機塩基を飽和水溶液の形で反応混合物に加えることが好ましい。
【0061】
好ましくは、無機塩基の初期量は、化合物IIに基づく化学量論モル量の約1から10倍、好ましくは約3から7倍、より好ましくは5から6倍の間である。
【0062】
本発明の別の態様によれば、式IIIの化合物は、次のスキームに表す通り、式Iの化合物を式IIの非単離化合物を介して式IIIの化合物に転換させる、ワンポット合成によって調製される。
【0063】
【化25】

式IIの中間化合物を単離および精製せずに式IIIの化合物をもたらすことが、実現可能であることが判明した。したがって、方法のステップ数を減少させることができ、この減少によって、全合成経路が、実質的により効率的になる。
【0064】
好ましくは、前述のワンポット合成は、式Iの化合物を本発明による上述した臭素化によって式IIの化合物に転換させること、または/および式IIの化合物を本発明による上述した加水分解によって式IIIの化合物に転換させることによって行われる。
【0065】
さらに、式Iの化合物の式IIの化合物への転換が行われた後、得られた反応バッチに溶媒を加えて、反応バッチを希釈することが好ましい。式Iの化合物の式IIの化合物への転換は、例えば、薄層クロマトグラフィーまたは高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によってモニタリングすることができる。好ましくは、希釈のための前記溶媒は、上に挙げた臭素化反応のために記載した溶媒の群から選択され、より好ましくは、それは、臭素化反応において使用される溶媒と同じ溶媒である。それによって、式IIの化合物の有利な溶解度が得られ、ひいてはこの溶解度によって、高収率をもたらす円滑な加水分解がなされる。
【0066】
さらなる実施形態では、式IIIの化合物を調製するための方法は、好ましくは結晶化によって、式IIIの化合物を精製するステップをさらに含む。このように、多くの労力、時間および材料を要するカラムクロマトグラフィーと比較して、簡単で有効な精製法が適用される。加水分解反応は、式IIの化合物を式IIIの化合物に完全に転換させるので、結晶化は、有利に純粋な生成物を提供するのに十分である。さらに、MTBE/ヘキサン混合物を用いて、詳細には、MTBEとヘキサンの体積比が、2対1、好ましくは1対1、より好ましくは2対3であるMTBE/ヘキサン混合物を用いて行われる結晶化が、特に有利であることが判明した。
【0067】
次いで、当業者に既知のまたは当業者によって容易に考案可能な合成経路によって、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を得るために、式IIおよび式IIIの主要中間体化合物は、さらなる合成ステップにかけることができる。次のスキームに示す通り、下記の合成経路を適用することができる。
【0068】
【化26】

ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を活性成分として含む医薬組成物を調製するために、まず、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩が、上述した通りの方法によって提供される。
【0069】
次いで、こうして調製されたロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩は、医薬として許容される少なくとも1種の適切な賦形剤と適切に混合される。医薬として許容される賦形剤は、結合剤、希釈剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、滑沢剤、芳香剤、着香料、甘味料および薬学の技術分野で既知の他の賦形剤からなる群から選択することができる。
【0070】
好ましくは、賦形剤は、ラクトース、結晶セルロース、セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース)、ポリアクリレート、炭酸カルシウム、デンプン、コロイド状二酸化ケイ素、デンプングリコール酸ナトリウム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールおよび薬学の技術分野で既知の他の賦形剤からなる群から選択することができる。
【0071】
実験手順
【実施例1】
【0072】
N−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(I)の調製
【0073】
【化27】

((4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−2−(N−メチルメチルスルホンアミド)ピリミジン−5−イル)メチル)トリフェニルホスホニウムブロミド(814mg、1.20mmol)のテトラヒドロフラン(25mL)中冷却撹拌懸濁液(−42℃)に、THF中のヘキサメチルジシラザンナトリウム(1.0M、1.20mmolの1.2mL)を加える。反応混合物を、−42℃で45分間撹拌し、−82℃に冷却し、放出される水を除去せずに水和物(284mg、1.03mmol)を15mLのテトラヒドロフラン中に溶解することによって得られる(2S,4R)−4−(tert−ブチルジメチルシリルオキシ)−6−オキソ−テトラヒドロ−2H−ピラン−2−カルバルデヒド(266mg、1.03mmol)の溶液で処理する。30分の撹拌後、この溶液を、−53から−58℃に温め、さらに6時間撹拌する。次いで、この混合物を、100分で周囲温度に温まるようにして、飽和塩化アンモニウム溶液(40mL)を用いて処理する。10℃で10分間撹拌した後、水相を、20mLの水および40mLの飽和ブライン溶液を用いて処理する。生成物を、t−BuMeO(50mL+4×30mL)で抽出する。合わせた有機層を乾燥(MgSO)させ、40℃で減圧下(11mbar)で濃縮して、白色固体を得る。残渣を、シリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/AcOEt=3:1混合物で溶離)によって精製し、170mg(42%)のN−(4−(4−フルオロフェニル)−6−イソプロピル−5−メチルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(I)を得る。R(ヘキサン/AcOEt=3:1)=0.42。白色固体m.p.113−114℃。H NMR(300MHz、CDCl、25℃):δ=7.56(m,2H)、7.14(m,2H)、3.55(s,3H)、3.51(s,3H)、3.31(sept,J=6.7Hz,1H)、2.28(s,3H)、1.30(d,J=6.7Hz,6H)ppm。13C NMR(75MHz、CDCl、25℃):δ=175.3、164.6、163.8(d,JC−F=249Hz)、156.7、134.7(d,JC−F=3.4Hz)、131.1(d,JC−F=8.3Hz)、118.6、115.1(d,JC−F=21.5Hz)、42.2、33.0、31.8、21.2、14.1ppm。MS(ESI+)m/z(%):338(MH,100)。C1620FNSについての分析計算値:C 56.95、H 5.97、N 12.45。実測値:C 56.95、H 5.85、N 12.45。
【実施例2】
【0074】
【化28】

N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−メチル−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(112.5mg、0.33mmol、1当量)およびN−ブロモスクシンイミド(NBS)(126mg、0.72mmol、2.1当量)を、2mLのアセトニトリルに溶解させた。混合物を、波長λ=310nmの光を用いて、周囲温度(約20℃)で4時間照射した。次いで、水(10mL)を加えて、この混合物をCHCl(3×10mL)で抽出した。合わせた有機相を10mLのブラインを用いて洗浄し、得られた溶液をNaSOで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去して、138.6mgの粗製N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(II)を得た。この粗製物は、H−NMR積分によって決定された通り、93%のN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ブロモメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(II)を含有していた。この生成物を、MTBE/ヘキサン混合物からの結晶化によってさらに精製し、純粋な材料を得ることができる。
【実施例3】
【0075】
【化29】

N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−メチル−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(112.5mg、0.33mmol、1当量)およびN−ブロモスクシンイミド(NBS)(118.7mg、0.66mmol、2当量)を、2mLのアセトニトリルに溶解させた。混合物を、波長λ=310nmの光を用いて、周囲温度(約20℃)で4時間照射した。得られた黄色溶液を、1mLのアセトニトリルを用いて希釈した。2mLの飽和NaHCO溶液を加えた後、得られた混合物を、還流下で4時間さらに撹拌した。次いで、混合物を室温に冷却し、水(10mL)を加えて、この混合物を、CHCl(3×10mL)で抽出した。合わせた有機相を10mLのブラインを用いて洗浄し、得られた溶液をNaSOで乾燥させた。溶媒を減圧下で除去して、110.8mg(95%)の粗製N−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(III)を得た。この粗製物は、H−NMR積分によって決定された通り、77%のN−(4−(4−フルオロフェニル)−5−(ヒドロキシメチル)−6−イソプロピルピリミジン−2−イル)−N−メチルメタンスルホンアミド(III)を含有していた。この生成物を、MTBE/ヘキサン混合物からの結晶化によってさらに精製し、T=140−141℃の純粋な材料(HPLC面積%=99.6)を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IIの化合物
【化1】

を調製するための方法であって、
式Iの化合物
【化2】

を用意するステップ、
および式Iの化合物を臭素化によって式IIの化合物に転換させるステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記臭素化が、臭素化剤としてのN−ブロモアミド、好ましくはN−ブロモアセトアミド、N,N−ジブロモベンゼンスルホンアミド、N−ブロモスクシンイミド、N−ブロモフタルイミド、N−ブロモグルタルイミド、3−ブロモ−ヒダントインおよび1,3−ジブロモ−5,5−ジメチルヒダントインからなる群から選択されるN−ブロモアミド、より好ましくはN−ブロモスクシンイミドを用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
臭素化剤の初期量が、化合物Iに基づく化学量論モル量の約1から約3倍、好ましくは約1.2から約2.5倍、より好ましくは約1.4から約2.2倍、特に約2倍である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
臭素化反応が、アセトン、酢酸エチル、炭化水素、芳香族炭化水素およびアセトニトリルまたはそれらの混合物からなる群から選択される有機溶媒中で行われ、好ましくは有機溶媒がアセトニトリルである、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
HBrおよびPBrの使用を避ける、請求項1から4に記載の方法。
【請求項6】
前記紫外線の波長が、約200から400nm、好ましくは約310nmである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
臭素化が、0から90℃の間、好ましくは10から65℃の間、より好ましくは15から35℃の間、特に19から25℃の間の温度で行われる、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
好ましくは結晶化による、より好ましくはMTBE/ヘキサン混合物を用いて行われる結晶化による、式IIの化合物の精製のステップをさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
式Iの化合物
【化3】

を調製するための方法であって、
式Iの化合物を得るために、
式IXまたはIX’の化合物を、
【化4】

(式中、PおよびPはそれぞれ、同一または異なるヒドロキシ保護基を示し、ならびにRは、アルキルまたはアリールから選択される。)
式XまたはX’の化合物
【化5】

(式中、Zは、
【化6】

からなる群から選択され、
ならびにここで、Rx、RyおよびRzは、同一でありまたは異なり、および任意に置換されたC−CアルキルまたはC−CシクロアルキルまたはC−CアルケニルまたはC−Cシクロアルケニルまたはアリール、好ましくはフェニルから選択され、ならびにXは、アニオン、好ましくはハロゲンまたはカルボン酸アニオン、より好ましくは塩化物、臭化物またはトリフルオロアセテートである。)
と反応させるステップを含み、
前記反応において、式XまたはX’の化合物が、式IXまたはIX’の化合物よりもモル過剰で使用され、および/または反応が、水または他のプロトン性分子の存在下で行われる方法。
【請求項10】
式Iの化合物が、式XIまたはXI’
【化7】

(式中、PおよびPは、請求項9に定義した通りである。)
から選択される化合物とは別の生成物として得られ、
式XIおよびXI’から選択される得られた化合物が、続いてロスバスタチンまたはこの塩に転換されるために使用され、ならびに式Iの化合物が、請求項1に記載の方法において、前記化合物をもたらすために使用される、
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(a)式IXまたはIX’の化合物を、
【化8】

(式中、PおよびPはそれぞれ、同一または異なるヒドロキシ保護基を示し、ならびにRは、アルキルまたはアリールから選択される。)
式XまたはX’の化合物
【化9】

(式中、Zは、
【化10】

からなる群から選択され、
ならびにここで、Rx、RyおよびRzは、同一でありまたは異なり、および任意に置換されたC−CアルキルまたはC−CシクロアルキルまたはC−CアルケニルまたはC−Cシクロアルケニルまたはアリール、好ましくはフェニルから選択され、ならびにXは、アニオン、好ましくはハロゲンまたはカルボン酸アニオン、より好ましくは塩化物、臭化物またはトリフルオロアセテートである。)
と反応させるステップ、
(b)式Iの化合物
【化11】

および
式XIまたはXI’から選択される化合物
【化12】

(式中、PおよびPは、上に定義する通りである。)
の反応生成物を得るステップ、
(c)ロスバスタチンまたはこの塩への転換のために、式XIおよびXI’から選択される得られた化合物を使用するステップ、および
(d)ロスバスタチンを生成するためのリサイクル方法において、得られた式Iの化合物を請求項1に記載の方法において前記化合物をもたらすために、使用するステップ
を含む、ロスバスタチンを調製するための方法。
【請求項12】
ステップ(d)におけるそれぞれの使用の前に、ステップ(b)において得られた反応生成物が、式Iの化合物および式XIまたはXI’から選択される化合物にそれぞれ分離される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
式IIIの化合物
【化13】

を調製するための方法であって、
式IIの化合物を、
【化14】

加水分解によって式IIIの化合物に転換させるステップ
を含む方法。
【請求項14】
加水分解が、無機塩基、好ましくはアルカリまたはアルカリ土類炭酸塩または炭酸水素塩、より好ましくはNaHCOの存在下で行われる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
式IIIの化合物
【化15】

を調製するためのワンポットの方法であって、
式Iの化合物を、
【化16】

式IIの非単離化合物
【化17】

を介する反応によって、式IIIの化合物に転換させるステップ
を含む方法。
【請求項16】
好ましくは結晶化によって、より好ましくはMTBE/ヘキサン混合物を用いて行われる結晶化によって、式IIIの化合物を精製するステップをさらに含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
a)請求項9に記載の式Iの化合物を調製するための方法を実施するステップ、請求項1から8のいずれか一項に記載の式IIの化合物を調製するための方法を実施するステップ、または請求項13から16のいずれか一項に記載の式IIIの化合物を調製するための方法を実施するステップ、および
b)式I、IIまたはIIIの化合物をそれぞれ、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を得るためにさらなる合成ステップにかけるステップ
を含む、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるロスバスタチンの塩の調製のための方法。
【請求項18】
a)請求項17に記載の方法に従って、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を調製するステップ、および
b)こうして調製されたロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を、医薬として許容される少なくとも1種の賦形剤と混合するステップ
を含む、活性成分としてのロスバスタチンを含む医薬組成物の調製のための方法。
【請求項19】
a)請求項10から12のいずれか一項に記載の方法に従って、ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を調製するステップ、および
b)こうして調製されたロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩を、医薬として許容される少なくとも1種の賦形剤と混合するステップ
を含む、活性成分としてのロスバスタチンを含む医薬組成物の調製のための方法。
【請求項20】
ロスバスタチンまたは医薬として許容されるこの塩の調製のための、請求項9、請求項1から8のいずれか一項または請求項13から16のいずれか一項の方法に従って調製される式I、IIまたはIIIの化合物の使用。

【公表番号】特表2012−516839(P2012−516839A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546865(P2011−546865)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051163
【国際公開番号】WO2010/086438
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(504359293)レツク・フアーマシユーテイカルズ・デー・デー (60)