説明

ロチゴチンの多形体

本発明は、Cu−Kα照射(1.54060Å)で測定される、少なくとも1つの下記X線粉末回折ピーク:12.04、13.68、17.72および19.01±0.2(°2θ)により特徴付けられる新規ロチゴチンの多形体およびその製造方法に関し、これは、パーキンソン病および他のドーパミン関連障害の治療または軽減用の安定な医薬の製造に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン病および他のドーパミン関連障害の兆候を治療または軽減する安定な医薬の製造に有用である、ロチゴチンの新規多形体(形態II)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロチゴチンは、構造式:
【化1】

を有する化合物(−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノールの国際一般名(INN)である。
【0003】
ロチゴチンは、構造的にドーパミンを類似しており、同様の受容体プロファイルを有するが、より高い受容体アフィニティを有する非エルゴリンD1/D2/D3ドーパミンアゴニストである。
【0004】
他の非エルゴリンドーパミンアゴニストと対照的に、ロチゴチンは、有意なD1活性を有し、より大きな生理作用に寄与し得る。
エルゴリン化合物と対照的に、ロチゴチンは、5HTB受容体に対して非常に低いアフィニティしか有しておらず、かくして、線維症を誘発するリスクが低い。
【0005】
非ドーパミン作動性受容体に対する作用(例えば、5−HTAアゴニズムおよびA2Bアンタゴニズム)は、他の有益な効果、例えば抗運動障害活性、神経保護活性および抗鬱効果に寄与し得る。
【0006】
ロチゴチンは、パーキンソン病(WO2002/089777に記載されている)、パーキンソンプラス症候群(WO2005/092331に記載されている)、うつ病(WO2005/009424に記載されている)およびレストレスレッグス症候群(WO2003/092677に記載されている)を患っている患者の治療用、ならびにドーパミン性ニューロン喪失(O2005/063237に記載されている)の治療または予防用の活性剤として開示されている。
【0007】
公知のロチゴチン含有医薬組成物は、経皮治療システム(TTS)(WO99/49852に記載されている)、デポー形態(WO02/15903に記載されている)、イオントフォレシスデバイス(WO2004/050083に記載されている)および経鼻処方(WO2005/063236に記載されている)を含む。
上記した刊行物は、各々出典明示により本明細書に組み入れる。
【0008】
ロチゴチンの一の結晶形は既に公知であり、以下、多形体(I)と表す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
意外にも、この度、ロチゴチンのさらなる結晶多形(多形体(II))が同定され、非常に増強された熱力学的安定性および改善された保存性、ならびにハンドリングプロファイル、例えばフィルタリングプロファイル、流動性、静電気学的挙動等に関して、ニードル状粒子の多形体(I)よりも利点を有する立方晶形を示すことが見出された。
【0010】
ロチゴチンは80年代半ばから知られており、過去10年にわたってよく研究された市販の薬であったので、第二のロチゴチンの結晶多形の発見は特に驚くべきものである。さらに、第二のロチゴチンの結晶多形の存在を示すものは、処方の開発の間に行われてきた第一の多形体スクリーニングにおいても観察されなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ロチゴチン((−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノール)の新規多形体(形態II)を提供する。
【0012】
本発明の新規ロチゴチンの多形体は、少なくとも1つの下記特徴を有する:
Cu−Kα照射(1.54060Å)で測定された下記°2θアングル(±0.2):12.04、13.68、17.72および/または19.01での少なくとも1つのピークを含むX線粉末回折スペクトル;
下記波数(±3cm−1):226.2、297.0、363.9、737.3、847.3、1018.7および/または1354.3cm−1での少なくとも1つのピークを含むラマンスペクトル;
10℃/分の加熱速度で測定し、97℃±2℃にTonsetを有する示差走査熱量測定(DSC)ピーク;
97℃±2℃の融点。
【0013】
一の具体例において、新規ロチゴチンの多形体は、Cu−Kα照射(1.54060Å)で測定した、2、3または4つの下記X線粉末回折ピーク(°2θ)(±0.2):12.04、13.68、17.72、19.01により特徴付けられる。
【0014】
一の具体例において、本発明の新規ロチゴチンの多形体は、ラマンスペクトルにおいて、波数297.0、847.3および1018.7±3cm−1でのピークにより特徴付けられる。
【0015】
本明細書に示される温度は、測定誤差、例えばDSC法の誤差のために、±2℃の誤差を含む。本明細書に示される°2θアングルは、測定誤差、例えばX線粉末回折法の誤差のために、±0.2の誤差を含む。最後に、本明細書に示される波数は、測定誤差、例えばラマン法の誤差のために、±3cm−1の誤差を含む。
【0016】
本発明はまた、少なくとも約5%、より好ましくは少なくとも約10%の上記した新規ロチゴチンの多形体を含むロチゴチン原薬を提供する。
【0017】
好ましい具体例において、ロチゴチン原薬は、少なくとも約50%、より好ましくは少なくとも約70%の上記したロチゴチンの新規多形体(II)を含む。最も好ましくは、ロチゴチン原薬中に存在する実質的にすべて、またはすべて(100%)のロチゴチンは新規多形体(II)である。「実質的にすべて」は、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%のロチゴチンが形態(II)として存在する形態II含有ロチゴチン原薬に言及することを意図する。
【0018】
本願の内容において、すべてのパーセンテージは、特記しない限り重量パーセントを意味する。
【0019】
さらに、本発明は、上記したロチゴチンの新規多形体(II)および少なくとも1つの医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0020】
本発明はまた、上記したロチゴチンの新規多形体(II)の製造方法であって、多形体(I)の固体ロチゴチンを少なくとも10日間40℃でテンパリングすることを含む方法を提供する。
【0021】
該テンパリングプロセスにおいて、多形体(I)のロチゴチンは、乾燥状態であってもスラリー状態であってもよい。スラリー状態である場合、該スラリーは、好ましくは、シクロヘキサンまたはエタノール中に調製される。
【0022】
本発明の他の好ましい具体例において、上記したロチゴチンの新規多形体(II)は、スラリー状態の多形体(I)のロチゴチンに、テンパリングプロセスまたはエタノール沈殿から得られた多形体(II)のロチゴチンの結晶を混ぜることにより、定量的に製造される。
【0023】
本発明の他の具体例において、上記したロチゴチンの新規多形体(II)は、乾燥状態の多形体(I)のロチゴチンに、40℃で、多形体(II)のロチゴチンの結晶を混ぜることにより定量的に製造される。用いた形態(II)のシード結晶は、エタノールスラリー法、エタノール沈殿または他のテンパリングプロセスから得ることができる。
【0024】
本発明の別の態様において、上記したロチゴチンの新規多形体(II)は、D2受容体アゴニストでの治療に感受的な疾患を患っている患者の治療に用いられる。
【0025】
本発明の種々の具体例において、上記したロチゴチンの新規多形体(II)は、パーキンソン病、パーキンソンプラス症候群、うつ病、線維筋痛またはレストレスレッグス症候群を患っている患者の治療において用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、ロチゴチンの新規多形体(II)のX線粉末回折を示す。
【図2】図2は、新規多形体(II)結晶におけるロチゴチン分子のH−結合ポリマー(ジグザグ)鎖を示す。
【図3】図3は、多形体(I)結晶におけるH−結合ポリマー(ジグザグ)鎖を示す。
【図4】図4は、ロチゴチンの多形体(I)のX線粉末回折を示す。
【図5】図5は、ロチゴチンの新規多形体(II)のラマンスペクトルを示す。
【図6】図6は、ロチゴチンの新規多形体(II)および多形体(I)のラマンスペクトルを重ね合わせたものを示す。
【図7】図7は、ロチゴチンの新規多形体(II)のDSCサーモグラムを示す。
【図8】図8は、ロチゴチンの多形体(I)のDSCサーモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、((−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノール)の新規結晶形態に関し、本明細書において形態IIと表す。形態IIは、((−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノール)の結晶格子の構造が、形態Iとは異なり、2つの形態は、X線粉末回折(XRD)パターン、ラマンスペクトルおよび示差走査熱量測定(DSC)サーモグラムにより区別される。
【0028】
ロチゴチンの形態Iは、約20.23±0.2(°2θ)でのピークを含むXRDパターンにより特徴付けられる。
【0029】
形態IIの特徴付けおよび形態Iのものとの区別は、当業者に公知の方法を用いて達成される。特に、形態IIが存在することの立証は、融点、赤外(IR)スペクトル、固相核磁気共鳴(SSNMR)またはラマンスペクトルのような方法を用いて行うことができる。示差走査熱量測定(DSC)およびX線回折(XRD)を含む方法もまた、多形体、特に形態Iと形態IIの区別に有用である。1またはそれ以上の上記した方法は、ロチゴチンの多形体の同定に用いることができる。
【0030】
形態Iおよび形態IIは、図1および4に示されるように、X線粉末回折パターンにおいて別個の特徴的なピークを有する。それらの少なくとも1つのピーク、好ましくは多くのピークが、所定の形態のX線粉末回折パターンに存在するだろう。
【0031】
本発明の一の具体例において、形態IIのXRDパターンは、13.68±0.2(°2θ)での特徴的なピークを示し、別の具体例において、形態IIのXRDパターンは、17.72±0.2(°2θ)で特徴的なピークを示し、さらに別の具体例において、形態IIのXRDパターンは、19.01±0.2(°2θ)で特徴的なピークを示す。好ましくは、形態IIのXRDパターンは、13.68および17.72±0.2(°2θ)での特徴的なピークを示す。より好ましくは、形態IIのXRDパターンは、13.68、17.72および19.01±0.2(°2θ)でのピークを含む。
【0032】
ロチゴチンの新規多形体(II)((−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノール)は、Cu−Kα照射(1.54060Å)で測定した、12.04、12.32、12.97、13.68、17.13、17.72、19.01、20.40、20.52、21.84、21.96、22.01、22.91および22.96±0.2(°2θ)の1つまたはそれ以上でのピークを含むX線粉末回折により特徴付けられる。特に、ロチゴチンの新規多形体(II)は、Cu−Kα照射(1.54060Å)(図1)で測定した、少なくとも1つの下記X線粉末回折ピーク:12.04、13.68、17.72および19.01±0.2(°2θ)により特徴付けられる。
【0033】
新規多形体(II)および多形体(I)間の結晶格子比較(図2および3)は、2つの場合における主な分子内水素結合が同じであることを示している。
【化2】

【0034】
しかしながら、大きな構造の違いが、チオフェン環の隣接するCH−CH鎖に対するねじれ角に関して見られる。2つの多形体間のこの約100°の違い(ねじれ角)により、より密度の高い充填となり、結晶対称性が変化する。
【0035】
結晶格子比較の結果を、下記表にまとめる:
【表1】

【0036】
これらの結果は、EtOH中の2つの多形体の異なる溶解度により支持されている。ロチゴチンの多形体(I)の室温でのEtOHへの溶解度は約500mg/mL(1:2[w/w])であるが、一方、ロチゴチンの新規多形体(II)のEtOHへの溶解度は約60〜100mg/mL(0、6−1:10[w/w])であり、すなわち、ロチゴチンの新規多形体(II)のEtOHへの溶解度は、ロチゴチンの多形体(I)のEtOHへの溶解度よりも少なくとも5倍低い。
【0037】
ロチゴチンの2つの多形体間の結晶学的相違は、図1および4に示されるように、X線回折を比較することにより、さらに明らかになる。
【0038】
ロチゴチンの新規多形体(II)はまた、ラマンスペクトル(図5)により特徴付けられる。
【0039】
さらに、示差走査熱量測定(DSC)データは、ロチゴチンの2つの多形体間の違いを明確にする(図7および8)。基本的には、ロチゴチンの新規多形体(II)は、高い融点および高い融解エンタルピーを示し、Burger−Rambergerの法則から、形態(II)が、形態(I)よりも、いずれの温度においても熱力学的により安定であると言える。したがって、ロチゴチンの2つの多形体は、単変的に関連することは明らかである。
【0040】
ロチゴチンの多形体形態IIは、さらに、示差走査熱量測定(DSC)により特徴付けられ、形態Iと区別することができる。形態IIのDSCサーモグラムを図7に与える。これは、当業者に公知のDSC法を用いて取得した。当業者は、形態IIのDSCサーモグラムを得るのに必要な条件を容易に決定することができるだろう。種々の示唆走査熱量計が当業者には入手可能であり、その装置および条件としては、約25℃〜約250℃、特に約30℃〜約140℃の温度を用い、1℃/分、10℃/分、20℃/分を含む種々の速度で温度を増加させる、Differential−Scanning−Calorimeter(Mettler Toledo(DSC822e))を含む。当業者は、DSCサーモグラムのピーク位置は、例えば加熱速度および粒子の大きさのような動的因子に応じて変化し得る。
【0041】
形態IIのDSCサーモグラムは、形態IのDSCサーモグラムとは異なり、約97℃±2℃のTonsetを有するピークを含む。形態IのDSCサーモグラムは、形態IIのDSCサーモグラムとは異なり、約77℃±2℃のTonsetを有するピークを含む。
【0042】
ロチゴチンの新規多形体(II)は、下記の方法により調製することができる。これらの方法において、「ロチゴチン」は、遊離塩基、すなわち、(−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノールを意味する。
【0043】
ロチゴチンの新規多形体(II)は、下記方法により実例的に調製することができる:
(i) 下記を含むテンパリングによるロチゴチンの新規多形体(II)の調製:
多形体(I)のロチゴチンをAlutheneバッグに入れる、
バックをシールし、38〜40℃で10日間貯蔵する;
(ii) 下記を含むエタノールスラリーからのロチゴチンの新規多形体(II)の調製:
多形体(I)のロチゴチンをエタノール中にスラリー化する、
50〜150rpmで2時間撹拌する、
所望により、多形体(I)のロチゴチンのエタノールスラリーに、多形体(II)のロチゴチンを混ぜ合わせる、
さらに、50〜150rpm、室温にて24時間撹拌する、
スラリーを濾過する、
多形体(II)のロチゴチンを重量が一定になるまで乾燥する。
【0044】
ロチゴチンの結晶形態は、実質的に単一、すなわち、例えば95%を超える形態IIを含む多形体として調製してもよく、あるいは、形態Iまたは他の多形体と組み合わせて結晶化してもよい。ある具体例において、ロチゴチンの結晶形態は、少なくとも50%の形態IIを含む。ある具体例において、ロチゴチンの結晶形態は、少なくとも70%の形態IIを含む。ある具体例において、ロチゴチンの結晶形態は、少なくとも80%の形態IIを含む。さらなる別の具体例において、ロチゴチンの結晶形態は、少なくとも90%の形態IIを含む。
【0045】
ロチゴチン多形体(II)は、治療活性物質として用いることができる。
【0046】
新規多形体(II)のロチゴチンを、D1/D2/D3ドーパミンアゴニスト、特にD2受容体アゴニストでの治療に感受的な疾患を患っている患者の治療に用いる場合、経口または非経口で投与してもよい。一般的には、非経口投与、例えば経皮治療システム(TTS)の形態で、注射で、例えばデポー懸濁液の形態で、イオントフォレシスデバイスで、または経鼻処方の形態で投与される。
【0047】
新規多形体(II)のロチゴチンで一般的に治療される疾患は、パーキンソン病、パーキンソンプラス症候群、うつ病、線維筋痛およびレストレスレッグス症候群である。それぞれの用量は、患者の兆候、年齢、性別、体重および重症度、投与方法、投与の回数および間隔、および医薬製剤などに応じて変化するだろう。したがって、用量に関する限定は特にない。
【0048】
ロチゴチンの新規多形体(II)を含有する医薬製剤、例えば経皮治療システム、注射または錠剤等は、当該分野で一般的に知られている方法により調製される。
【0049】
本発明およびその実施のためのベストモードは、下記の非限定的な実施例においてより詳細に説明するだろう。
【実施例】
【0050】
[調製]
調製例1
ロチゴチンの多形体(I)の試料(バッチ16208652)を、小さなAluthene(登録商標)バッグ(2006製造 Bischoff+Klein)に入れた。試料をシールし、38〜40℃で10日間貯蔵した。このインキュベーション期間の後、1gの試料を2gのEtOH中に溶解するとすぐに、形態IIの沈殿が生じた。
【0051】
調製例2
5.277kgのロチゴチンの多形体(I)(バッチSPM5904)を、20Lプラスチックボトルに充填し、5.3LのEtOHでエタノールスラリーとした。スラリーを窒素フラッシュした反応器に移し、プラスチックボトルをさらに8.1LのEtOHで洗浄した。洗浄液を反応器に移し、得られた懸濁液を、75rpm、室温で、24時間撹拌した。ついで、結晶スラリーを反応器からガラス吸引フィルターを介して取り出した。ついで、反応器を2.6LのEtOHで洗浄し、ついで、洗浄液を用いて得られた濾液を洗浄した。最後に、濾液を4つの重さを量った金属シートに移し、43時間40℃で重量が一定になるまで乾燥した。
【0052】
両方の実施例において、多形体(II)のロチゴチンが成功裏に形成したことを、DSCおよびXRDからの分析データにより確認した。
【0053】
加えて、多形体(I)のエタノールスラリーに、多形体(II)のロチゴチンのシードを混ぜ合わせた場合の調製例2により、ロチゴチンの多形体(I)を、定量的にロチゴチンの多形体(II)に変換することができた。
【0054】
[ロチゴチンの多形体(I)と比較したロチゴチンの新規多形体(II)の特徴付け]
単結晶X線回折
回折に適した単結晶を、ロチゴチン多形体(II)(リファレンスバッチ7769396)のメタノール溶液を急速に蒸発させることにより得た。単結晶X線回折データ(OXFORD Gemini R Ultra,Mo−Kα照射(0.71073Å))は以下の通りである:C1925NOS,M=315.46,斜方晶系P2,a=8.4310(10)Å,b=13.620(2)Å,c=14.868(2)Å,α=β=γ90°,V[Å]=1707.3,Z=4,D[g/cm]=1.227,λ=1.54178Å。最終的な相違因子Rは4%である。
【0055】
ロチゴチンの多形体(II)の結晶充填の凝集力は、主に、塩基性窒素原子(N1)およびフェノール酸素(O1)による水素結合の多重ジグザグ鎖により構築される。
【0056】
この構造決定により、多形体(II)がロチゴチンの真の多形体であることを示し、立体配座の多形が生じていることを示す。
【0057】
ロチゴチンの多形体(II)の構造決定は、下記ピーク:8.82、12.06、12.34、13、13.7、14.32、17.18、17.76、19.04、20.44、22.06、23.02、24.26および27.76(°2θ)により特徴付けられる理論的な粉末X線パターン(水銀1.5)をシミュレートすることを可能にする。
【0058】
実験的X線粉末回折
X線分析を、Cu−Kα照射(1.54060Å)を備えたSTOE STADI−P粉末回折システムで行い、これは、ロチゴチンの多形体(II)の実験パターンが、シミュレートした粉末パターンと完全に一致することを示した。
【0059】
本発明の具体例によると、形態Iおよび形態IIのXRDパターンは、各々の形態に特異的なピークを含有する。形態IIのXRDパターンは、形態IのXRDパターンには存在しないピークを含み、約17.72±0.2(°2θ)でのピークを含む。別の具体例において、形態IIのXRDパターンは、形態IのXRDパターンとは異なり、約13.68±0.2(°2θ)でのピークを含む。別の具体例において、形態IIのXRDパターンは、形態IのXRDパターンとは異なり、約19.01±0.2(°2θ)でのピークを含む。他の具体例において、形態IIのXRDパターンは形態IのXRDパターンとは異なり、約17.72±0.2(°2θ)および19.01±0.2(°2θ)でのピークを含む。重要には、形態IIのXRDパターンは、約20.23±0.2(°2θ)でのピークを有さない。
【0060】
さらに、結果は、2つのロチゴチン多形体間の違いを明確に示している(図1および4)。ロチゴチンの新規多形体(II)の実験X線回折パターンは、12.04、12.32、12.97、13.68、17.72、19.01、20.40、20.52、21.84、21.96、22.01、22.91および22.96の回折角(°2θ)のピークにより特徴付けられるが、一方、多形体(I)の実験パターンは、10.83、12.68、14.66、15.32、16.66、16.68、20.23、22.67、25.17、25.47、26.27、27.75および29.55の回折角(°2θ)のピークにより特徴付けられる。各々のピークは、それぞれ単独または他方と組み合わせて、形体(I)または形体(II)のロチゴチンを特徴付ける基礎として考えることができる。
【0061】
ラマンスペクトル
ロチゴチンの試料をカバーガラスに置き、ついで、ただ1つの結晶に基づいて、試料を10xおよび50x-WDでフォーカライズした:Raman HJY ARAMIS,レーザー784.9nm,4x20秒,obj.10X+50X−WD,ホール 500μm,スリット100μm。4x20秒、50x−WDで取得した。
【0062】
結果を図5および6に示す。図5は、ロチゴチンの多形体(II)のスペクトルを示し、一方、図6は、バッチ7769396(リファレンス多形体(II))およびWE11664PS−7(主に多形体(I))を重ねたものを示す。この重ね合わせにより、これら2つのバッチのいくつかの異なるピークが強調される。ロチゴチンの新規多形体(II)は、226.2、297.0、363.9、710.0、737.3、743.3、750.8、847.3、878.3、1018.7、1075.6、1086.2、1214.3、1255.1、1278.2、1330.7、1354.3および1448.7±3cm−1から選択される波数(cm−1)での少なくとも1つのピーク、好ましくは少なくとも2つのピーク、少なくとも3つまたは少なくとも4つのピークを含み、一方、多形体(I)は、238.4、277.3、307.6、445.9、682.6、747.2、882.2、1027.2、1039.4、1081.6および1324.3±3cm−1の波数(cm−1)で特徴的なピークを示す。ロチゴチンの新規多形体(II)((−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノール)は、710.0、737.3、743.3、847.3、1018.7、1214.3、1278.2、1354.3±3cm−1の波数(cm−1)での少なくとも1つのピーク、好ましくは少なくとも2つ、少なくとも3つまたは少なくとも4つのピークを含むラマンスペクトルにより特徴付けられる。特に、ロチゴチンの新規多形体(II)は、少なくとも1つの下記ピーク:226.2、297.0、363.9、737.3、847.3、1018.7および1354.3±3cm−1により特徴付けられる。
【0063】
示差走査熱量測定(DSC)
多形体(I)(バッチ1608726)および多形体(II)(バッチ7769396)のロチゴチンの熱挙動試験を、Mettler Toledo DSCシステムおよびTA Instrument(Q−1000)で行った。分析は、10℃/分の加熱速度で、30℃〜140℃の範囲の温度での貫通アルミニウムるつぼにおいて行った。
【0064】
結果を図7および図8にまとめる。新規多形体(II)のDSCサーモグラムは、97±2℃でのTonsetおよび98℃±2℃でのTpeakを有する吸熱ピークを示し、一方、多形体(I)の吸熱ピークの開始は、同条件下で77±2℃である。両方の多形体に関して、ただ一つだけのシングルピークがサーモグラムで観察され、これは、それぞれ他の多形体が、DSC感度において、不純物を含んでいないことを示している。
【0065】
要するに、ロチゴチンの2つの多形体は、それぞれの融点および溶融エンタルピーにより区別することができる。これら両方について新規多形体(II)のほうが高いので、Burger−Ramberger法則を用いることにより、多形体(II)が、すべての温度で、多形体(I)よりも熱力学的により安定であることが示される。したがって、ロチゴチンの2つの多形体は、ほぼ確実に単変的に関連する。
【0066】
ロチゴチンの新規多形体(II)の融点はまた、キャピラリー法(油/水浴中、ルーペを用いて)またはKofler Hotbenchで測定することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロチゴチン((−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノール)の多形体(II)。
【請求項2】
下記°2θアングル(±0.2):12.04、13.68、17.72、19.01での少なくとも1つのピークを含むX線粉末回折スペクトル;
下記波数(±3cm−1):226.2、297.0、363.9、737.3、847.3、1018.7、1354.3cm−1での少なくとも1つのピークを含むラマンスペクトル;
10℃/分の加熱速度で測定し、97℃±2℃にTonsetを有するDSCピーク;
97℃±2℃の融点;
の少なくとも1つを有するロチゴチンの多形体。
【請求項3】
下記X線粉末回折ピーク(°2θ)(±0.2):12.04、13.68、17.72、19.01の2、3または4つにより特徴付けられる、請求項2記載のロチゴチンの多形体。
【請求項4】
実質的に図1に示されるX線粉末回折スペクトルを有するロチゴチンの多形体。
【請求項5】
少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%の請求項1〜4いずれか1項記載のロチゴチンの多形体を含むロチゴチン原薬。
【請求項6】
少なくとも50%、より好ましくは少なくとも90%の請求項1〜4いずれか1項記載のロチゴチンの多形体を含むロチゴチン原薬。
【請求項7】
実質的にすべてのロチゴチンが請求項1〜4いずれか1項記載の多形体であるロチゴチン原薬。
【請求項8】
治療活性物質として用いるための請求項1〜7いずれか1項記載の結晶多形。
【請求項9】
請求項5〜7いずれか1項記載のロチゴチン原薬および少なくとも1つ医薬上許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項10】
ロチゴチン原薬が、少なくとも5%の請求項1〜4いずれか1項記載のロチゴチンの多形体を含む、請求項9記載の医薬組成物。
【請求項11】
経皮治療システムの形態である、請求項9または10記載の医薬組成物。
【請求項12】
D2受容体アゴニストでの治療に感受的な疾患を患っている患者の治療において用いるための、請求項1〜4いずれか1項記載のロチゴチンの多形体。
【請求項13】
パーキンソン病、パーキンソンプラス症候群、うつ病、線維筋痛およびレストレスレッグス症候群から選択される、D2受容体アゴニストでの治療に感受的な疾患を患っている患者の治療において用いるための、請求項1〜4いずれか1項記載のロチゴチンの多形体。
【請求項14】
D2受容体アゴニストでの治療に感受的な疾患を患っている患者の治療用の医薬の製造における、請求項1〜4いずれか1項記載のロチゴチンの多形体の使用。
【請求項15】
D2受容体アゴニストでの治療に感受的な疾患が、パーキンソン病、パーキンソンプラス症候群、うつ病、線維筋痛およびレストレスレッグス症候群から選択される、請求項13記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−504902(P2011−504902A)
【公表日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−535352(P2010−535352)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066137
【国際公開番号】WO2009/068520
【国際公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(510150167)ユセベ・ファルマ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (3)
【氏名又は名称原語表記】UCB PHARMA GMBH
【Fターム(参考)】