説明

ロチゴチンの高い血漿レベルを誘導するパーキンソン氏病のための経皮吸収治療システム

【課題】パーキンソン氏病の治療または緩和に効果的なドーパミンレセプターアゴニストであるロチゴチン(INN)を十分な量かつ速度で誘導可能な経皮吸収治療システムの提供。
【解決手段】10〜40cmの大きさを有し、かつ、活性成分としてのロチゴチンを0.1〜3.15mg/cm含有するシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。高粘着性のシリコーン圧力感受性接着剤および中程度の粘着性のシリコーン圧力感受性接着剤は、シラノールエンドブロックポリジメチルシロキサンとシリケート樹脂を縮合反応させ、ついで、残ったシラノール官能基をトリメチルシリル基でキャッピングすることにより調製される。投与後24時間で、ロチゴチンを平均血漿濃度0.4〜2ng/mlで誘導できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキンソン氏病の症状を治療または緩和するための効果的な方法、およびドーパミンレセプターアゴニスト ロチゴチン(INN)を十分な量かつ十分な速度で誘導し、パーキンソン氏病の症状の治療的に有効な処置または緩和を提供する、経皮吸収治療システムの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン氏病は、主に、黒質のドーパミン系ニューロンの変性によって生じるものと考えられている。これは、結果として、持続的なドーパミン分泌の損失および尾状核での神経活性のドーパミンに関連する修飾が生じ、これによって、特定の脳領域におけるドーパミンの欠損が生じる。神経伝達物質 アセチルコリンおよびドーパミンの生じる不均衡は、結果として疾病に関連する症状を生じる。通常は、運動系障害とみなされているが、現在において、パーキンソン氏病は、運動系および非運動系の双方を包含するより複雑な障害であると考えられている。この衰弱させる疾病は、振戦、運動緩慢、固縮、ジスキネジア、歩行障害および言語障害を含む主要な臨床的特徴とよって特徴付けられる。いくらかの患者において、痴呆がこれらの症状に付随して生じることがある。自律神経系の関与は、起立性低血圧、発作性フラッシング、体温調節障害、便秘、および膀胱および括約筋調節不全を生じうる。モチベーションの欠如および鬱症状のような精神的障害もまた、パーキンソン氏病に付随するものである。
【0003】
パーキンソン氏病は、主に中高年の病気であり、かつ、男性および女性の双方に等しく生じる。パーキンソン氏病の最も高い割合は、70歳を超える年齢群でみられ、この場合、パーキンソン氏病は、人口の1.5〜2.5%でみられる。発症の平均年齢は、58〜62歳であり、最もパーキンソン氏病を発症する患者は50〜79歳の間である。米国においてはパーキンソン氏病だけで、約800,000人の患者が存在する。
【0004】
パーキンソン氏病の早期の運動障害は、黒質のドーパミン関連細胞の初発(incipient)変性に由来しうる。このニューロン変性は、黒質と線条体とを連結するドーパミン経路における欠陥を生じる。疾病が進行するにつれて、屈折した運動、自律神経および精神的異常が生じ、この場合、これは、線条体レセプター機構の段階変性を包含する。
【0005】
パーキンソン氏病の臨床的診断は、特徴的な身体的徴候の存在に基づく。この疾病は、発症時においては徐々に、ゆるやかに進行し、かつ多様な臨床的症状発現が知られている。線条体ドーパミン含量が、発症前に加齢に相当した制御下で、20%を下廻るレベルに減少することが示されることが明らかである。
【0006】
パーキンソン氏病の治療は、特に、L−ドーパ(レボドーパ)で試みられているが、これは依然として、パーキンソン氏病の治療の金字塔である。レボドーパは、ドーパミン前駆体として血液脳関門を通過し、その後に脳内でドーパミンに変換される。L−ドーパは、パーキンソン氏病の症状を改善するものであるが、しかしながら、深刻な副作用を生じうる。さらに、薬剤は、治療の最初の2、3年後にその効果を失う傾向にある。5〜6年後には、わずか25〜50%の患者のみが改善した状態を維持しているにすぎない。
【0007】
さらに、パーキンソン氏病に従来使用されている治療の主な欠点は、“揺動症候群(fluctuation syndrome)”の偶発的発現であり、この場合、これは、結果として、ジスキネジアを伴う運動性の“on”の期間と、無動またはアキネジアを伴う“off”の期間が交互に生じることによって特徴付けられる“all−or−none”な状態を生じる。抗パーキンソン氏病経口治療薬を用いた場合に、予期されないかまたは随伴性の“on−off”現象を示す患者は、L−ドーパおよび他のドーパミンアゴニストの静脈内投与に対する予測可能な有利な反応を有しており、この場合、これは、薬剤の血漿濃度の変動が“on−off”現象に対して反応性であることを示すものである。“on−off”変動の頻度は、さらにドーパミンレセプターアゴニスト アポモルフィンおよびリスリドの連続的な灌流によって改善させることができる。しかしながら、この投与様式は不便であり、したがって、より一定の血漿レベルを提供する他の投与様式、たとえば、局所適用は、有益であり、かつ従来示唆されているものである。
【0008】
前記に挙げられたように、パーキンソン氏病に関する一つの治療的アプローチは、ドーパミンレセプターアゴニストを包含する。ドーパミンレセプターアゴニスト(しばしばドーパミンアゴニストと呼称される)は、構造的にドーパミンとは異なってはいるものの、異なる亜型のドーパミンレセプターと結合し、ドーパミンの作用に匹敵する作用を担持する物質である。減少した副作用によって、物質が選択的にドーパミンレセプターの亜型、たとえばD2レセプターと結合する場合には有利である。
【0009】
パーキンソン氏病の症状の治療に使用されている一つのドーパミンレセプターアゴニストはロチゴチンである。これは、主に、塩酸塩の形で使用されている。ロチゴチンは、以下の構造を有する化合物(−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]1−ナフタレノールの国際一般的名称である。
【0010】
【化1】

【0011】
現在までに、ロチゴチンの投与のための種々の経皮吸収治療システム(TTS)が記載されている。WO94/07468では、二相のマトリスクス中の活性物質として、ロチゴチン塩酸塩を含有する経皮吸収治療システムを開示しており、この場合、この二相は、本質的に、連続相としての疎水性ポリマー材料、およびその中に包含され主に薬剤および水和シリカを含有する分散性の親水相によって形成されている。シリカは、親水性の塩を含むTTSの可能な最大装填量を増大させる。さらに、WO94/07468の配合は、通常は付加的な疎水性溶剤、浸透促進物質、分散剤および、特に、親油性ポリマー相で活性成分の水溶液を乳化するために必要とされる乳化剤を含有する。このような系を用いて製造されるTTSは、健康な対象およびパーキンソン氏病患者で試験されている。このシステムによって得られる平均薬剤血漿レベルは、10mgのロチゴチンを含有する20cmパッチ剤で、約0.15ng/mlである。このレベルは、パーキンソン氏病に関連する症状の実際に効果的な治療または緩和を達成するにはあまりにも低いと考えられる。
【0012】
さらに種々の経皮吸収治療システムが、WO99/49852で記載されている。この明細書中で使用されているTTSは、マトリックス成分に対して不活性の支持層、ロチゴチンおよびロチゴチン塩酸塩の効果的量を含有する自己接着性マトリックス層および使用前に取り除かれる保護フィルムを含む。マトリックスシステムは、非水性ポリマー接着系から成り、この場合、これは、アクリレートまたはシリコーンを基剤とするものであり、その際、少なくとも5%w/wのロチゴチン溶解度を有する。このようなマトリックスは、本質的に、無機ケイ酸塩粒子を不含である。WO99/49852の実施例1および2、さらには図1において、2個の経皮吸収治療システムが比較されている。これらは、アクリレートまたはシリコーン接着剤をそれぞれ含有するものである。WO99/49852では、シリコーンパッチ剤が、アクリレートパッチ剤とほぼ同量の活性成分の放出を皮膚を通しておこなうことが示されている。これは、使用された接着試験系とは別個に、イン ヴィトロ モデルでほぼ同一の薬剤流量(flux rate)で試験された。したがって、ヒトの皮膚を介しての同一の流量が予測される。
【0013】
WO99/49852で使用されたシリコーンパッチ剤の薬剤含量は、アクリレートパッチ剤の薬剤含量よりも低いことを挙げなければならない。しかしながら、これは単に、それぞれ例1および例2で使用された、それぞれのシリコーンポリマーおよびアクリレートポリマー接着剤中での薬剤溶解性の差異を反映しているにすぎない。双方の実施例で使用されたTTSは、それぞれの接着系中でほぼその飽和溶解状態で薬剤を含有していた。アクリレート系は、シリコーン系よりもより薬剤を溶解する能力を有するが、その後にシリコーンは、皮膚への薬剤の良好な放出を可能にする。これらの2つの効果が互いに補い合う場合には、WO99/49852で使用されたアクリレート系およびシリコーン系は、得られる薬剤血漿レベルにおいて、これによる薬剤効果においてほぼ等価である。
【0014】
WO94/07468のシリコーン配合物から製造されたむしろ思わしくない経験を考慮して、WO99/49852の例1のアクリレートを基剤とするTTSについて、臨床的試験(安全性および薬物動態試験)をおこなった。このTTSのイン ヴィトロにおける、ヒトの皮膚を通過する平均定常流量(mean stready flux)は、15.3μg/cm/hに達する。しかしながら、このTTSを用いて得られる血漿レベルは、依然として不十分であり、かつパーキンソン氏病の実際の効果的治療にはあまりにも低いことが示唆された。30mg(20cm)パッチ剤でのみ、0.12ng/mlの平均最大血漿濃度が得られるが、他方では、7.5mgを含有する5cmパッチ剤は、0.068ng/mlの平均最大血漿濃度であった。再度述べるが、このような値は、パーキンソン氏病の治療において、実際の治療的経過を提供するにはあまりにも低いものであると考えられる。したがって、WO94/07468の20cmシリコーンパッチ剤と、WO99/49852の20cmアクリレートパッチ剤の双方は、十分な治療的効果を提供する、十分な薬剤血漿レベルを誘導することができなかった。
【0015】
これらの試験から、シリコーンマトリックス中で遊離塩基の形でロチゴチンを含有する経皮吸収治療システムが、ロチゴチンの予期されない高い血漿レベルを提供することができるばかりか、さらにはパーキンソン氏病の経皮吸収システムにおける十分な治療効果をも提供することは驚異的であった。特に、遊離塩基の形でロチゴチンを含有するシリコーンを基剤とするTTSが、9mgのロチゴチンを含有する20cmのシリコーンパッチ剤に関してほぼ0.5ng/mlの範囲での平均最大薬剤血漿レベルを提供することが観察された。これは、従来の研究から予測される値の3倍を上廻るものであった。
【0016】
このような血漿値は、少ない副作用でパーキンソン氏病のための効果的な治療を供給することができる合理的な期待を可能にするには十分である。治療”の用語は、本明細書の範囲内においては、パーキンソン氏病を完全な治癒に導くための本質的な原因治療よりはむしろ、パーキンソン氏病の治療または改善を意味するものと解される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、抗パーキンソン氏病薬を製造するための、10〜40cmの大きさを有し、かつ活性成分としてロチゴチンを0.1〜3.15mg/cm含有する、シリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムの使用に関し、この場合、この抗パーキンソン氏病薬は、投与後24時間で、0.4〜2ng/mlのロチゴチン平均血漿濃度を誘導する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明において使用されたシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムは、少なくとも1個のアミン耐性シリコーン化合物を主成分として含有していなければならない。通常は、シリコーン化合物は、圧力感受性の接着剤またはその混合物であってよく、かつ、TTSの他の成分を包含するマトリックスを形成してもよい。さらに、1個または複数個の接着剤は、好ましくは、製薬学的に認容性であり、すなわち、生物学的適合性、非感受性および皮膚に対して非刺激性であるべきである。特に、本発明における使用に関しては、さらに以下の条件を満たすシリコーン接着剤が有利である:
通常の温度変化における湿分または発汗下で維持される接着特性および合着特性、配合物中で使用されるロチゴチンおよび他の助剤との良好な適合性;特に、接着剤は、ロチゴチン中に含有されるアミノ基と反応すべきではない。
【0019】
可溶性の重縮合ポリジメチルシロキサン(PDMS)/樹脂網状構造を形成する型の圧力感受性(pressure sensitive)接着剤は、そのヒドロキシ末端基が、たとえば、トリメチルシリル(TMS)でキャップされているものであって、本発明の実施に特に有用である。この種類の好ましい接着剤は、Dow Corning社によるBIO−PSA シリコーン圧力感受性接着剤、特にQ7−4201およびQ7−4301に相当する。しかしながら、同様に他のシリコーン接着剤が使用されてもよい。
【0020】
他の好ましい態様において、本発明は、このような使用のために、主要な接着成分として2個またはそれ以上のシリコーン接着剤を含有する、シリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムを提供する。このようなシリコーン接着剤の混合物が、少なくとも1個の高粘着性の接着剤と、少なくとも1個の中程度の粘着性の接着剤とを含有し、良好な接着性と、わずかな低温溶融(cold flux)との最適なバランスを提供することは有利であってもよい。過剰な低温溶融は、パッチ剤を軟らかくしすぎるために、パッケージまたは患者の被覆に容易に接着しうる。さらに、このような接着剤の混合物は、特に、効果的な経皮吸収治療システムを得るために有用であると考えられている。前記に挙げられたQ7−4201(中程度の粘着性)およびQ7−4301(高い粘着性)のアミン耐性シリコーン圧力感受性接着剤のほぼ等量での混合物は、本発明の実施において特に有用であることが証明されている。
【0021】
他の好ましい態様において、シリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムはさらに可溶化剤を含む。いくつかの界面活性剤様物質または両親媒性物質は、可溶化剤として使用することができる。これらは、製薬学的に認容性であるべきであり、かつ医薬品での使用に認容される。さらに、可溶化剤が、経皮吸収治療システムの合着を改善することは有利である。このような安定化剤の特に好ましい例は、可溶性ポリビニルピロリドンである。ポリビニルピロリドンは、たとえば、商標Kollidon(R)(Bayer AG)として、商業的に入手可能である。他の例は、ポリビニルピロリドンと、酢酸ビニル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセロールおよびグリセロールの脂肪酸エステル、あるいは、エチレンと酢酸ビニルとのコポリマーである。
【0022】
本発明で使用するためのシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムは、1質量%未満の無機ケイ酸塩、特に好ましくは無機ケイ酸塩を全く含まないものである。
【0023】
本発明において使用される経皮吸収治療システム中の含水量は、好ましくは、TTS製造中での水の蒸発が必要でない程度に、十分に低いものである。典型的には、新鮮に製造されたパッチ剤の含水量は2質量%を下廻り、より好ましくは1質量%以下である。
【0024】
本発明の特に好ましい実施態様において、経皮吸収治療システムは、10〜30cmの表面積、より好ましくは20〜30cmの表面積を有する。言うまでもなく、20cmの表面積を有するTTSは、1cm当たり同量の薬剤含量を有する2個の10cmのパッチ剤または4個の5cmパッチ剤と、製薬学的に同等であり、かつ置換可能である。したがって、本明細書中で示した表面積は、患者に対して同時に投与されたすべてのTTSsの総表面積であるとみなされる。
【0025】
本発明による1個または複数個の経皮吸収治療システムの提供および適用は、経口的治療を上廻る製薬学的利点を有し、この場合、これは、極めて迅速かつ正確に、たとえば、患者に提供するパッチ剤の数または大きさを簡単に増加させることによって、それぞれの患者のための最適量を、医師によって滴定されることを可能にする。したがって、個々の最適量は、しばしば、低い副作用でたったの3週間の期間の後に決定することができる。
【0026】
パッチ剤当たりのロチゴチンの好ましい含量は、0.1〜2.0mg/cmの範囲である。さらに好ましくは、ロチゴチン 0.4〜1.5mg/cmである。7日のパッチ剤が好ましい場合には、より高い薬剤濃度が一般には必要とされる。0.4〜0.5質量%の範囲でのロチゴチン含量は、TTS中に含まれる薬剤の最適使用量を提供する、すなわち、投与後のTTS中にわずかな薬剤量のみが残留する場合に、特に有利であることが見出された。このようなTTSを用いて投与された仮の投与量は、通常は、50%またはそれ以上であり、かつ、TTS中に本来含まれる薬剤量の80〜90%と高いものであってもよい。
【0027】
本発明で記載されたシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムが、10〜30cmの表面積、特に10または20cmと小さい表面積で、かつ約0.4〜0.5mg/cm、特に約0.45g/cmと低い薬剤含量であってさえも、パーキンソン氏病の症状に対して著しい治療効果を提供することができるといった事実は、本発明によって提供されたさらなる利点であると考えられる。
【0028】
本発明において使用された経皮吸収治療システムは、通常は、少なくともその中心部分に薬剤を含有する連続的な接着剤マトリックスを有するパッチ剤である。しかしながら、このようなパッチ剤と経皮吸収的に等価なものは、同様に本発明中に含まれ、たとえば、薬剤が、不活性であるが非粘着性のシリコーンマトリックス中において、TTSの中心部分に存在し、かつ、パッチ剤の周縁部の接着部分によって包囲されているような実施態様をも含む。
【0029】
他の実施態様において、本発明は、10〜40cmの大きさを有し、かつ活性成分としてロチゴチンを0.1〜3.15mg/cmを含有する、シリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムを、これを必要とするパーキンソン氏病患者に適用することによる、パーキンソン氏病を治療するための方法に関し、この場合、この経皮吸収治療システムは、投与後24時間で、0.4〜2ng/mlの平均血漿濃度を誘導する。
【0030】
明確に別記しない限りは、本明細書中および特許請求の範囲におけるロチゴチンに関する任意の記載は、その遊離塩基の形でのロチゴチンを意味する。いくつかの場合において、ロチゴチン塩酸塩の痕跡量が、ロチゴチン中に含有されていてもよいが、しかしながら、これらの痕跡量は、典型的には、遊離塩基の量に対して5質量%を超えることはない。より好ましくは、塩酸塩不純物の含量は、2質量%未満、好ましくは1質量%未満であるべきであり、かつ最も好ましくは、本発明中で使用されるロチゴチンは、0.1質量%未満の量で含むか、あるいは塩酸塩不純物を全く含まない。
【0031】
本発明によって、パーキンソン氏病患者のドーパミンレセプターの一定のレセプター刺激を可能にする、血漿レベルを達成することができる。本発明の一つの実施態様において、本発明による以下の製造例にしたがって製造され、かつ、9mgのロチゴチンを含有する1個の20cmシリコーンパッチ剤を用いて、投与開始後23時間で、0.491±0.515ng/mlの平均最大血漿濃度を生じる。24時間後の平均血漿濃度は0.473±0.116ng/mlであった。測定された個々の最大血漿濃度は、0.562±0.191ng/mlであり、かつ算定されたAUC(0−t)は、11.12±4.05ng/mlであった。
【0032】
これらのパラメータは、14人の健康な男性被験者を含むパイロット試験(pilot study)で測定され、この場合、これらの被験者は、それぞれ、本発明の製造例で記載されたような1個または2個のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムか、あるいは、WO99/49852によるアクリレート系経皮吸収剤を、単一中心(single-center)オープンラベルの、3系交差の、部分的に無作為のデザインで投与された。個々の薬剤血漿レベルを、有効な通常のLC−MS−MSアッセイ、すなわち、10pg/mlの定量限界を有するタンデム型質量分析計を備えた液体クロマトグラフィーによって測定した。薬物動態的変数は、測定された最大濃度(Cmax)、観察された最大時間(tmax)およびAUC(0−tz)であり、すなわち、これは、定量可能な濃度を有する最終試料までの、直線状の台形公式によって算定された濃度/時間曲線下での領域である。個々の被験者における結果に基づいて、平均濃度、標準偏差、メジアンおよび分布幅を測定し、かつ、それぞれのパラメータの記述統計のために使用した。
【0033】
さらに試験は、被験者に投与した薬剤量と、観察されたロチゴチン平均血漿濃度との間のほぼ直線的な相関を示した。前記に示したように同種の2個のシリコーンパッチ剤の投与後に、血漿濃度は、24時間内に、約2倍に増加し、0.951±0.309ng/mlであった。
【0034】
この試験に関する詳細については、以下の実施例において記載されており、これは、10〜40cmの大きさを有し、かつロチゴチン0.1〜3.15g/cmを含有するシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムの投与後24時間において、0.4〜2.0ng/mlのロチゴチン平均血漿濃度が実際に期待されることを確認した。
【0035】
健康な男性ボランティアにおける付加的な臨床試験は、本発明によって得られる血漿レベルが、概して、生体内で同様の経皮吸収治療システムのさらなる投与(通常は、一日一回)で維持されることを示した。たとえば、本発明によるロチゴチン9mgを含有する20cmのパッチ剤の3ヶ月に亘っての投与の後に得られる平均血漿レベルが、0.49±0.23ng/mlであることが示された。したがって、単独投与に関し、かつその後24時間に亘って測定された本明細書中で示された血漿レベルは、定常値(steady state values)を示すものとみなすことができる。したがって、長期間に亘っての、高いロチゴチン血漿レベルの達成および維持は、本発明の他の態様である。本発明によるTTSによって提供された高い定常値は、典型的に、経口的治療に伴うオン−オフ−の変動を回避するのに効果的である。
【0036】
本発明およびこれを実施するための最良の形態は、以下の制限のない例によって詳細に説明することができる。
[実施例]
【0037】
製造例
シリコーン−型の圧力感受性接着剤の組合せ物を用いての経皮吸収治療システムは、以下のようにして製造された。
【0038】
(−)−5,6,7,8−テトラヒドロ−6−[プロピル−[2−(2−チエニル)エチル]−アミノ]−1−ナフタレノール塩酸塩(ロチゴチン塩酸塩、150g)を、エタノール 218g中のNaOH 17.05gの溶液(96%)に添加した。生じる混合物を、約10分に亘って撹拌した。その後に、リン酸ナトリウム緩衝液 23.7g(水90.3g中のNa2HPO4x2H2O 8.35gおよびNaH2PO4x2H2O 16.7g)を添加した。不溶性固体または沈殿した固体を、濾過によって混合物と分離した。フィルターをエタノール60.4g(96%)でリンスし、遊離塩基の形の粒子不含ロチゴチン/エタノール溶液が得られた。
【0039】
エタノール中のロチゴチン遊離塩基溶液(346.4g)(35%w/w)を、エタノール 36.2g(96%)と一緒に混合した。得られた溶液を、25質量% ポリビニルピロリドン(KOLLIDON (R) 90F)、0.077質量% 重亜硫酸ナトリウム水溶液(10質量%)、0.25質量% アスコルビル酸パルミテート、および0.63質量% DL−α−トコフェノールを含有するエタノール溶液 109gと一緒に、均一になるまで混合した。混合物に対して、アミン耐性高粘着性シリコーン接着剤(BIO−PSA(R)Q7−4301 mfd.Dow Corning社)(ヘプタン中の74質量%溶液)、アミン耐性中粘着性シリコーン接着剤(BIO−PSA(R)Q7−4201 mfd.Dow Corning社)(ヘプタン中の71質量%溶液)および石油エーテル(ヘプタン) 205.8gを添加し、かつすべての成分を、均一な分散液が得られるまで撹拌した。
【0040】
分散液を、適したポリエステル剥離ライナー(release liner)(SCOTCHPAK(R)1022)上に、適したドクターナイフで塗布し、かつ溶剤を、連続的に乾燥炉中で、80℃までの温度で、約30分に亘って除去し、薬剤を含有する50g/m2の被覆重量の接着剤マトリックスを得た。乾燥したマトリックスフィルムを、ポリエステル型の支持箔(backing-foil)(SCOTCHPAK(R)1109)で積層した。独立したパッチ剤は、完全な積層を好ましい大きさ(たとえば、10cm、20cm、30cm)に打ち抜くことによって得られ、かつ、窒素流下で、パウチに密封した。
【0041】
以下の表は、2個のシリコーン型PSAの組合わせ物を有する本発明による経皮吸収治療システム中の組成を、mg/20cmで示したものである。
【0042】
【表1】


臨床試験
前記に示した経皮吸収治療システムは、単独投与後の比較バイオアベイラビリティーおよび用量−比例に関して、薬物動態試験で試験した。試験は、14人の健康な男性被験者を含み、この場合、これらの被験者は、それぞれ、1個または2個のシリコーンを基剤とするロチゴチン経皮吸収治療剤か、またはアクリレートを基剤とするロチゴチン経皮吸収治療システムを投与される。11人の対象者が試験を完了した。
【0043】
試験デザインは、それぞれロチゴチン9mgを含有する20cmのシリコーンパッチ剤の使用を含む。この用量は、WO99/49852のアクリレート系経皮吸収治療システムでの早期の試験に基づいて選択され、それというのも、このアクリレートパッチ剤を用いて得られたような同様の血漿レベルが予測されたためである。用量レベルは、Ethikkommission of Aeratekammer Nordrheinによって示された。試験に参加した被験者に対して、投薬前に、早期の臨床試験においては、ロチゴチンでの処置によってもたらされうる強い副作用が観察されていないことを説明した。
【0044】
シリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムは、30mgのロチゴチンを含有する20cmのパッチ剤を含む、WO99/49852の例1によるアクリレートTTSと比較した。試験デザインはオープンであり、部分的に無作為な、以下のスケジュールによる単独投与を含む、3系交差試験であった:
【0045】
【表2】

【0046】
この試験においてプラセボは使用されなかった。2個のシリコーン系パッチ剤または1個のアクリレート系パッチ剤の投与を含む処理IIおよび処理IIIのどちらかにするかは、無作為に決定された。
【0047】
個々の薬剤血漿レベルは、有効な通常のLC−MS−MSアッセイ、すなわち、10pg/mlの定量限界を有する、タンデム型質量分析計を備えた液体クロマトグラフシステムによって測定した。薬物動態的変数は、測定された最大濃度(Cmax)、観察された最大の時間(Tmax)およびAUC(0−tz)であり、すなわち、定量化された濃度で最終試料までの、直線状の台形公式によって算定された、濃度/時間曲線下の領域である。個々の被験者における結果に基づいて、平均濃度、標準偏差、メジアンおよび分布幅を測定し、かつ、それぞれのパラメータの記述統計学のために使用した。
結果:
1個のシリコーンパッチ剤を用いての平均血漿レベルは、24時間内に、0.473±0.116ng/mlまで増加した。おおよその遅延時間は3時間であった。1個のシリコーンパッチ剤の投与後に測定された平均血漿濃度の最大値は、投与開始後23時間で0.491±0.151ng/mlであった。個々の最大血漿濃度は、0.562±0.191ng/mlであり、かつ算定されたAUC(0−t)は、11.12±4.05ng/ml・hであった。1個のシリコーンパッチ剤を除去した後の終末半減期は、5.3±0.7時間であった。
【0048】
2個のシリコーンパッチ剤の投与後に、血漿濃度は、24時間内で、0.951±0.309ng/mlに増加した。おおよその遅延時間は3時間であった。2個のシリコーンパッチ剤を投与した後の測定された平均血漿濃度の最大値は、投与開始後15時間で、1.076±0.37ng/mlであった。個々の最大血漿濃度は1.187±0.349ng/mlであり、かつ算定されたAUC(0−t)は23.73±8.51ng/ml/hであった。2個のシリコーンパッチ剤の除去後のロチゴチンの終末半減期は、5.1±0.4時間であった。
【0049】
1個のアクリレートパッチ剤を使用した場合の血漿濃度は、24時間内に、0.197±0.079ng/mlまで増加した。おおよその遅延時間は4時間であった。1個のアクリレートパッチ剤を投与した場合の測定されたロチゴチン平均血漿濃度の最大値は、投与開始後23時間で、0.202±0.095ng/mlであった。個々の最大血漿濃度は、0.228±0.109ng/mlであり、かつ算定されたAUC(0−t)は4.15±2.17ng/ml・hであった。1個のアクリレート系パッチ剤の除去後のロチゴチンの終末半減期は、4.9±1.5時間であった。
【0050】
1個のシリコーンパッチ剤の投与後に測定された仮の用量(使用後のパッチ剤中の残留濃度を測定することよって得られた)は、5.18±1.23mgであった。2個のシリコーンパッチ剤後の相当する用量は10.24±2.74mgであり、1個のアクリレート系パッチ剤の後には、24時間当たり2.56±1.27mgであった。仮の用量でのパラメータCmaxまたはAUL(0−t)は、良好な相関、すなわち、被験者に投与された薬剤量と、観察されたロチゴチンの血漿濃度との間にはほぼ直線の相関がみられた。
【0051】
仮の同等性によれば、インヴィトロ条件下での、20cmのシリコーンパッチ剤およびWO99/49852で試験されたアクリレートパッチ剤の、皮膚と通過する薬剤の浸透性において、本発明で使用されたシリコーンパッチ剤を用いることによって得られた生体内血漿濃度がより高いことは、驚異的なことであると考えられる。
【0052】
本発明によって得られる著しく高い血漿レベルは、薬物動態学的関係を有するであろうものと予測される。これは、前記に示された研究から明白であり、健康なボランティア、すなわち、参加した正常なドーパミンレベルを有することが明らかである被験者であっても、この処理からは利益を得ることができなかった。これとは対照的に、処置を受けた健康な被験者が、試験がデザインされた時点で予期されたよりも、薬剤に関連するより大きい副作用を経験したことが明らかになった。実際に、それぞれのボランティアは、少なくとも一つの副作用を経験しており、ほとんどがいくつかの副作用を経験している。すべての副作用は、軽度のものから重度のものであって、かつ、試験の終了時には完全に解消された。しかしながら、14人のボランティアのうちの2人に関しては、副作用によって、早期に試験を終了することとなった。観察された最も頻度の高い副作用は、うとうと状態、傾眠、悪心、嘔吐および頭痛である。
【0053】
以上から明らかであるように、本発明による試験中で使用されたシリコーンパッチ剤は、観察されたように、高い血漿レベルを生じうるが、前記に示された健康なボランティアの試験における用量の投薬計画は、このような副作用を回避するためにより低い量を選択することができる。また、ドーパミンレベル不全を患うパーキンソン氏病患者には、容易に認容され、かつ、実際に、特異的なドーパミンD2−レセプターアゴニスト、たとえばロチゴチンのこのような高い血漿レベルは有利である。したがって、ロチゴチンの増加した血漿レベルは、シリコーンTTSを使用した場合に得られ、この場合、これは、本発明の中心的な態様であり、さらには、治療的有意性を有する。この結果は、その後のパーキンソン氏病患者を含む臨床試験において確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
接着成分として高粘着性のシリコーン圧力感受性接着剤および中程度の粘着性のシリコーン圧力感受性接着剤の1:1混合物を含み、10〜40cmの大きさを有し、かつ、活性成分として遊離塩基形態のロチゴチンを0.1〜3.15mg/cm含有するシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムであって、投与後24時間において、対象における0.4〜2ng/mlのロチゴチンの平均血漿濃度を誘導するのに適したシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムであって、高粘着性のシリコーン圧力感受性接着剤および中程度の粘着性のシリコーン圧力感受性接着剤が、シラノールエンドブロックポリジメチルシロキサンとシリケート樹脂を縮合反応させ、ついで、残ったシラノール官能基をトリメチルシリル基でキャッピングすることにより調製され、これらの接着剤が下記表:
【表1】


に記載の物理特性を有する、経皮吸収治療システム。
【請求項2】
さらに可溶化剤を含有する、請求項1に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項3】
可溶化剤がポリビニルピロリドンである、請求項2に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項4】
1重量%未満の無機ケイ酸塩を含有する、請求項1〜3いずれか1項に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項5】
無機ケイ酸塩不含である、請求項4記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項6】
10〜30cmの大きさを有する、請求項1〜5いずれか1項に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項7】
ロチゴチン0.1〜1.5mg/cmを含有する、請求項1〜6いずれか1項に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項8】
10〜30cmの大きさを有し、かつ、マトリックス中にロチゴチンを0.4〜0.5mg/cm含有する、請求項1〜7いずれか1項に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項9】
対象における0.4〜2ng/mlのロチゴチンの平均血漿濃度が、経皮吸収治療システムのさらなる投与後少なくとも14日間に亘って維持される、請求項1〜8いずれか1項に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システム。
【請求項10】
請求項1〜9いずれか1項に記載のシリコーンを基剤とする経皮吸収治療システムを含む、抗パーキンソン氏病薬。

【公開番号】特開2010−106037(P2010−106037A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2209(P2010−2209)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【分割の表示】特願2002−586915(P2002−586915)の分割
【原出願日】平成14年5月6日(2002.5.6)
【出願人】(591071997)シュバルツ ファルマ アクチェンゲゼルシャフト (39)
【氏名又は名称原語表記】SCHWARZ PHARMA AKTIENGESELLSCHAFT
【住所又は居所原語表記】Alfred−Nobel−Strasse 10, D−40789 Monheim, Germany
【出願人】(300005035)エルテーエス ローマン テラピー−ジステーメ アーゲー (128)
【Fターム(参考)】