説明

ロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造

【課題】トルクコンバータをトランスミッションのインプットシャフトにスライド自在に組付け、エンジン側のドライブプレートに固定する前の状態でトルクコンバータがトランスミッション側の部材に当接しないようにすること。
【解決手段】インプットシャフト2の先端部からフロントカバー3の中心部3までの軸線方向距離D1が、トルクコンバータ1の任意の部分からトランスミッション側の何れかの部材までの軸線方向最短距離D2より小さくなるように各部の寸法を定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータは、一般に、ポンプインペラ、タービンおよびステータからなる3種の羽根車を内部に有している。ポンプインペラは、エンジンのクランクシャフトに繋がっており、タービンは、トランスミッションのインプットシャフトに繋がっている。ポンプインペラとタービンは互いに向かい合って配置されており、これらの間にステータが配置されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
図2は、従来より知られているロックアップクラッチ付トルクコンバータ100(以下単に「トルクコンバータ100」という。)の一例を示す断面図である。N−Nはインプットシャフト2A等の軸線NNを示しており、図2および図3では軸線NNより下側の図示を省略している。5はポンプインペラ、6はタービン、7はステータを示している。
【0004】
ポンプインペラ5は、フロントカバー3、ドライブプレート4等を介してエンジンのクランクシャフト9に連結される。ポンプインペラ5は、その回転中心側にインペラハブ53を一体に形成しており、当該インペラハブ53のトランスミッション側の端部に、オイルポンプ10のロータ(ギヤ)11に係合する爪部54が形成されている。爪部54はポンプインペラ5と一体に設けられているため、ポンプインペラ5の回転動力がオイルポンプ10を駆動させる。
【0005】
タービン6は、タービンシェル61と、このタービンシェル61内に固設された複数のタービンブレード62とを備えている。タービンシェル61の回転中心側には、タービンハブ63が締結されており、このタービンハブ63は、トランスミッションに回転動力を入力するインプットシャフト2Aにスプライン嵌合されている。
【0006】
ステータ7は、ポンプインペラ5とタービン6との間に配置され、ワンウェイクラッチ73を介して、ステータシャフト74の端部外周に支持されている。ワンウェイクラッチ73のインナーレース73aは、ステータシャフト74の端部外周にスプライン嵌合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−106402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記トルクコンバータ100は、最初にインプットシャフト2Aに組み付けられ、その後、ドライブプレート4を介してクランクシャフト9に連結される。しかし、トルクコンバータ100は、クランクシャフト9側に連結される前の状態では、軸線NN方向の位置が定まらない状態となる。つまり、トルクコンバータ100は、クランクシャフト9側に連結されるまでの間、インプットシャフト2Aに対して軸線NN方向に自在にスライドしてしまう。
【0009】
上記トルクコンバータ100は、インプットシャフト2Aに組付けられてトランスミッションとともにユニット化されて搬送されるが、この搬送時にはエンジンのクランクシャフト9側に連結されていない。このため、ユニットの搬送中にトルクコンバータ100がインプットシャフト2Aに対して軸線NN方向に勝手にスライドしないよう対策を講じる必要がある。具体的には、図3に示すように、トルクコンバータ100の一部(図3の例ではインペラシェル51)が隣接する他部材(図3の例では、オイルポンプアッシOA又はハウジングケースHC)に当接するまで、トルクコンバータ100をトランスミッション側に目一杯スライドさせ固定した状態で搬送される。なお、図3では、スライドさせたトルクコンバータ100を実線で示し、その他の部分を2点鎖線で示している。
【0010】
ところが、ユニットテスターでの評価時にトルクコンバータ100を回転させると、前記他部材と当接しているトルクコンバータ100の当接部(図3の例ではインペラシェル51)に傷が付くという問題があった。
【0011】
また、トルクコンバータ100とトランスミッション側にある他部材との当接位置のばらつきが大きい場合は、オイルポンプ10のロータ(ギヤ)11にインペラハブ53の爪部54が底付きして種々の弊害を引き起こすおそれがある。
【0012】
本発明は既述の問題に鑑みて創案されたものであり、トルクコンバータをトランスミッションのインプットシャフトにスライド自在に組付け、エンジン側のドライブプレートに固定する前の状態で、トルクコンバータがトランスミッション側にある部材に当接しないようにすることを可能とするロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するために、本発明のロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造は、インプットシャフトの軸線と交差する中心部を有し、エンジンのクランクシャフトにドライブプレートを介して連結されるフロントカバーと、前記フロントカバーよりもトランスミッション側に配置され、同フロントカバーと回転一体に設けられたポンプインペラと、前記フロントカバーと前記ポンプインペラとの間に、ポンプインペラと互いのブレード側を対向させて配置されたタービンと、前記ポンプインペラと前記タービンとの間に配置されたステータと、を備え、前記フロントカバーが前記ドライブプレートを介してクランクシャフトに連結される前に、前記インプットシャフトに対して軸線方向にスライド自在に取り付けられる、ロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造であって、前記インプットシャフトの先端部から前記フロントカバーの前記中心部までの軸線方向距離が、前記トルクコンバータの任意の部分から前記トランスミッション側の何れかの部材までの軸線方向最短距離より小さくなるように各部の寸法が定められていることを特徴とするものである。
【0014】
かかる構成を備えるロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造によれば、インプットシャフトの先端部からフロントカバーの中心部までの軸線方向距離が、トルクコンバータの任意の部分からトランスミッション側にある何れかの部材までの軸線方向最短距離より小さいので、フロントカバーの中心部をインプットシャフトの先端部に当接させて固定した状態で搬送することで、トルクコンバータは、トランスミッション側にある何れの部材にも当接せず、ユニットテスターでの評価時などで、トルクコンバータを回転させてもトルクコンバータの外観に傷が付くことがなくなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のロックアップクラッチ付トルクコンバータによれば、フロントカバーの中心部をインプットシャフトの先端部に当接させて固定した状態で搬送することで、トルクコンバータは、トランスミッション側にある何れの部材にも当接せず、ユニットテスターでの評価時などにおいて、トルクコンバータを回転させてもトルクコンバータの外観に傷が付くことがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係るロックアップクラッチ付トルクコンバータを軸線を含む平面で切断して表した断面図である。
【図2】従来例に係るロックアップクラッチ付トルクコンバータを軸線を含む平面で切断して表した断面図である。
【図3】従来例に係るロックアップクラッチ付トルクコンバータを軸線を含む平面で切断して表した断面図であって、ロックアップクラッチ付トルクコンバータをトランスミッション側へ軸線方向に目一杯スライドさせた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態に係るロックアップクラッチ付トルクコンバータ(以下単に「トルクコンバータ」という。)の取付構造について図面を参照しながら説明する。
【0018】
図1は、トルクコンバータ1を示す断面図である。N−Nはインプットシャフト2等の軸線(以下「軸線NN」という。)を示している。この図1では軸線NNより下側の図示を省略している。トルクコンバータ1は、フロントカバー3、ポンプインペラ5、タービン6、ステータ7、ロックアップクラッチ8等で構成されている。
【0019】
フロントカバー3は、エンジンのクランクシャフト9にドライブプレート4を介して連結され、クランクシャフト9と一体に回転する。図1に例示するフロントカバー3は、インプットシャフト2の軸線NNと直交する略円板状の中心部31と、この中心部31の周縁から連続して軸線方向トランスミッション側(図中左側)に延出した円筒部32と、この円筒部32の基部から径方向に延在した円盤部33と、円盤部33の外縁部からトランスミッション側に形成された外周壁部34と、ドライブプレート4との接合面および雌ねじ部を有して上記円盤部33に固設された接続部35とで構成されている。図1では、フロントカバー3の接続部35は、ボルトBにてドライブプレート4に締結されている。
【0020】
ポンプインペラ5は、フロントカバー3の外周壁部34から連続して一体に設けられたインペラシェル51と、このインペラシェル51内に固設された複数のインペラブレード52と、インペラシェル51の回転中心側に形成されたインペラハブ53とを備えている。インペラハブ53には爪部54が形成されており、この爪部54は、インペラハブ53よりトランスミッション側に設置されたオイルポンプ10のロータ11の係合部12に係合している。つまり、ポンプインペラ5の回転動力がオイルポンプ10のロータ11に伝達され、オイルポンプ10が駆動されるようになっている。
【0021】
タービン6は、タービンシェル61と、タービンシェル61内に固設された複数のタービンブレード62と、タービンシェル61の回転中心側に回転一体に締結具64にて締結されたタービンハブ63と、を備えている。タービンハブ63は、インプットシャフト2にスプライン嵌合(又はセレーション嵌合)されている。したがって、タービン6は、インプットシャフト2と一体に回転するが、軸線NN方向については、所定範囲内でスライド自在となっている。もちろん、タービン6は、ポンプインペラ5と互いのブレード52,62を対向させた状態でフロントカバー3とポンプインペラ5との間に配置されている。
【0022】
ステータ7は、ポンプインペラ5とタービン6との間の回転中心軸線寄りに配置されている。ステータ7は、ステータキャリア71と、ステータキャリア71の外径側に設けられ、タービン6からインペラ5へと戻される作動油の方向を調整するための複数のステータブレード72とを備えている。このステータ7は、ワンウェイクラッチ73を介して、ステータシャフト74に支持されている。なお、ステータキャリア71と、インペラシェル51の内径側およびタービンハブ63との間にはそれぞれスラストベアリング75が介設されている。
【0023】
ワンウェイクラッチ73のインナーレース73aはステータシャフト74の外周にスプライン嵌合されている。このため、ステータ7は、ステータシャフト74に対して軸線NN方向にスライド自在となっている。上記ステータシャフト74は、中空状部材からなり、その中空部に、ブッシュ等を介してインプットシャフト2を回転自在支持している。なお、ステータシャフト74は、基部がトランスミッションのハウジングHに固定されている。
【0024】
ロックアップクラッチ8は、フロントカバー3とタービン6との間で、タービンハブ63の外周側に設置されている。
【0025】
以下、上記トルクコンバータ1の取付構造の特徴的部分について説明する。既述の構成を備えるトルクコンバータ1は、そのフロントカバー3がドライブプレート4を介してクランクシャフト9に連結される前に、インプットシャフト2に対して軸線NN方向にスライド自在に取り付けられるものであるが、インプットシャフト2の先端部が、従来例と比較して軸線NN方向エンジン側に長くなっている(但し、スプライン嵌合部Sの位置および長さは変わらず、従来例と同様である。)。そして、インプットシャフト2の先端部からフロントカバー3の中心部31までの軸線NN方向距離D1が、トルクコンバータ1の任意の部分からトランスミッション側の何れかの部材までの軸線NN方向最短距離より小さくなるように各部の寸法が定められている。本実施形態では、上記軸線NN方向最短距離D2は、インペラシェル51とハウジングケースHC(又はオイルポンプアッシOA)との軸線方向距離となっており、D1<D2の関係が満たされるようになっている。
【0026】
インプットシャフト2の延長された部分の外径、つまり、スプライン嵌合部Sよりエンジン側部分(先端側部分)の外径は、インプットシャフト2のスプライン嵌合部Sよりトランスミッション側でタービンハブ63内に嵌合している部分(以下「嵌合部T」ともいう。)の外径よりも小さくなっている。また、タービンハブ63の先端部も従来例と比較して軸線NN方向エンジン側に長くなっており、その延長された部分の内径が、タービンハブ63のスプライン嵌合部Sよりエンジン側でインプットシャフト2に嵌合している部分(嵌合部T)の内径よりも小さくなっている。
【0027】
上記トルクコンバータ1の取付構造によれば、インプットシャフト2にトルクコンバータ1を軸線NN方向にスライド自在に組付け、ドライブプレート4にフロントカバー3を締結する前の状態で搬送する場合は、フロントカバー3の中心部31をインプットシャフト2の先端部に当接させて固定した状態で搬送することが望ましい。この場合、上記D1<D2の関係が満たされることから、トルクコンバータ1は、トランスミッション側の何れの部材にも当接せず、ユニットテスターでの評価時にトルクコンバータ1を回転させてもトルクコンバータ1の外観に傷が付くことはない。フロントカバー3の中心部31の内面には、インプットシャフト2の先端部と当接することで、多少の傷が付くことは考えられるが、インプットシャフト2の先端部やフロントカバー3の中心部31の内周面は、比較的加工精度が高く、これらを完全に面接触させることも容易であるため、中心部31およびインプットシャフト2の先端部に生じる傷はトルクコンバータ1の機能上問題とならない程度で済む。
【0028】
ところで、トルクコンバータ1の内部には作動油が流れる油路が形成されており、運転中(特にロックアップクラッチ8の締結中)は、タービンハブ63のエンジン側の油室とタービンハブ63のトランスミッション側の油室との差圧が大きくなる。タービンハブ63とインプットシャフト2とは、従来例に係るトルクコンバータ100では、スプライン嵌合部Sよりトランスミッション側の嵌合部Tで、特にシール部材などを設けることなく、オイル漏れを抑制していたが、オイル漏れは、油圧を作動させる上でできるだけ少ない方が好ましいため、インプットシャフト2とタービンハブ63の嵌合部Tにおける隙間(インプットシャフト2の内径とタービンハブ63の内径との差)を小さくすることが望ましい。しかし、当該隙間を小さくし過ぎると、組み付け性を損なってしまう。
【0029】
しかしながら、本実施形態に係るトルクコンバータ1の取付構造によれば、延長されたタービンハブ63の先端側部分の内径と、インプットシャフト2の延長された先端側部分の外径は、スプライン嵌合部Sよりトランスミッション側の嵌合部Tにおける内外径よりも小さくなっている。このため、スプライン嵌合部Sよりトランスミッション側の嵌合部Tと、スプライン嵌合部Sより先端側の嵌合部Uとにおける、インプットシャフト2の外径とダービンハブ63の内径との差が同程度であっても、内外径が小さくなっている分、流路断面積が小さくなる(円周が長くなる)ので、オイル漏れを抑制することができ、上記組付け性を損なうこともない。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、例えば、自動車に搭載されるロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造に適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 ロックアップクラッチ付トルクコンバータ
2 インプットシャフト
3 フロントカバー
4 ドライブプレート
5 ポンプインペラ
6 タービン
7 ステータ
8 ロックアップクラッチ
9 クランクシャフト
52 インペラブレード
62 タービンブレード
31 中心部
D1 軸線方向距離
D2 軸線方向最短距離
NN 軸線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプットシャフトの軸線と交差する中心部を有し、エンジンのクランクシャフトにドライブプレートを介して連結されるフロントカバーと、
前記フロントカバーよりもトランスミッション側に配置され、同フロントカバーと回転一体に設けられたポンプインペラと、
前記フロントカバーと前記ポンプインペラとの間に、ポンプインペラと互いのブレード側を対向させて配置されたタービンと、
前記ポンプインペラと前記タービンとの間に配置されたステータと、
を備え、
前記フロントカバーが前記ドライブプレートを介してクランクシャフトに連結される前に、前記インプットシャフトに対して軸線方向にスライド自在に取り付けられる、ロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造であって、
前記インプットシャフトの先端部から前記フロントカバーの前記中心部までの軸線方向距離が、前記トルクコンバータの任意の部分から前記トランスミッション側の何れかの部材までの軸線方向最短距離より小さくなるように各部の寸法が定められていることを特徴とするロックアップクラッチ付トルクコンバータの取付構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−113422(P2013−113422A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262904(P2011−262904)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)