説明

ロックボルト用ナット

【目的】 ロックボルトの突出長さを短くできるロックボルト用ナットを提供する。
【構成】 地山に穿設したボアホールにロックボルトを打設したあと、ワッシャー30の丸穴31にナット40のシャフト部42を遊挿した状態で、ロックボルト20の手元側端部外面の雄ねじ部21にナット40の雌ねじ部41を嵌め込んでいく。嵌め込みの進行とともにナット40のシャフト部42はボアホール内に入り込み、ワッシャー30はナット40の頭部43によって地盤に押し当てられ、ロックボルト20が地盤に強固に定着される。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はトンネル工事等で地山の定着に用いるロックボルトにプレート、ワッシャー等の座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地山に固定するロックボルト用ナットに係り、とくに仮支保工なため後で切断が可能なように、FRPや樹脂などからなり、外周にねじを形成した、単位長さ当たりのねじ強度(ねじ山の引張強度)が低いロックボルトに好適なロックボルト用ナットに関する。
【0002】
【従来の技術】山岳等のトンネル工事で一般的なナトム工法(NATM工法)では、地山を掘削したあと(必要な場合は壁をセメントで固めた後)、壁から岩盤内部へ垂直に多数のロックボルトを打ち込み、セメント系或いは樹脂系等の所定の定着材で定着させるなどして、トンネルの壁近くの地盤を強固にするとともに岩盤内部の地盤で支持することで内壁周辺の崩落を防ぐようにしている(支保工)。ロックボルトには工事トンネルの側壁等に垂直に打ち込み定着させたあとそのまま地盤中に残して長期間、地盤の補強を行う支保工用と、工事トンネル先端の切羽鏡やサイロット等に打ち込み、定着させるが、一時的な補強を行うだけで後にトンネル掘進とともに切断される仮支保工用とが有る。
【0003】前者の支保工用の場合、構造部材としてなるべく高強度のものが望ましく鋼製のものが利用される。そして、打設後はプレート、ワッシャー等の座板とナットを用いて地盤への締めつけが行われ、長期間、強固に定着するようにしている。一方、後者の仮支保工の場合、後に切断可能なように、FRPや樹脂などからなり、外周にねじを形成した、単位長さ当たりのねじ強度(ねじ山の引張強度)が低い構造部材が用いられる。但し、仮設の場合、短期間の内に除去されることが多いので通常はナットによる締めつけはされず、単に地盤中に打設されるだけである。
【0004】ここで、工事トンネルの側壁に対し垂直かつ放射状に打設するパターンボルトの場合、後で拡幅しない場合は図4の右側に示す如く、鋼製のロックボルト1をプレート、ワッシャー等の座板とナットを用いて地盤に締めつけ支保工を行うが、後で拡幅のため掘削する予定が有る場合、FRPや樹脂などのように比較的強度の低いロックボルトで仮支保工を行う。但し、仮設期間が長くなるので、定着強度を上げるため図4の左側に示す如く、低強度のロックボルト2にプレート、ワッシャー等の座板と組み合わせたナットを嵌め込みたい場合が有る。ところが、FRPや樹脂などからなる構造部材では、鋼製ロックボルトの如く自在なピッチで外面に雄ねじ部を切削することが難しい。このことから、従来は、図5に示す如く、ロックボルト2の素材成型時にその外形を所謂ロープねじ状(鋼製ロックボルトに形成される雄ねじ部よりピッチが粗い)に加工するようにしていた。
【0005】ロープねじ加工されたロックボルト2に用いるナット3は、同じくロープねじの雌ねじ部を形成したものとなる。このようなロープねじ加工されたロックボルト2とナット3において、打設後のロックボルト2にプレート、ワッシャー等の座板4と組み合わせたナット3を嵌め込んでロックボルト2を地山5に締めつけ、定着させる場合に、ロックボルト2とナット3の嵌め合わせ部分のねじ山に掛かる引っ張り荷重を小さくし、ねじ山の引張強度の低い素材でも十分に耐えられるようにする必要がある。このため、図5に示す如く、ロックボルト2とナット3との嵌め合わせ長さLをかなり長くしなければならず、ナット3を長尺にして雌ねじ部に十分な長さを確保しなければならない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】けれども、従来のナット3では地山の内壁に当たるプレート、ワッシャー等の座板4をナット3の一端面で押さえるようになっているので、ナット3が長尺になるとそれだけナット3を含めたロックボルト2の端部がトンネル空間内に大きく突出してしまう。この結果、トンネル施工の途中において他の作業の邪魔になったり、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類6を敷設する場合、突出したロックボルト頭部に阻害されてシート類6に凸凹が生じ、所期のシート性能を発揮できなくなってしまうなどの問題があった。
【0007】以上から本発明の目的は、ロックボルトの突出長さを短くできるロックボルト用ナットを提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記課題は本発明においては、外周に雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、地山に打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するロックボルト用ナットにおいて、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きい頭部から成り、頭部からシャフト部まで連続するように所定長の雌ねじ部を形成したことにより達成される。
【0009】
【作用】本発明によれば、ロックボルトを用いて仮設期間の長い仮支保工を行う場合、地山にボアホールを穿設しておく。そして、ロックボルトを打設したあと、座板の穴にナットのシャフト部を遊挿した状態で、ロックボルト頭部外面の雄ねじ部にナットの雌ねじ部を嵌め込んでいく。嵌め込みの進行とともにナットのシャフト部はボアホール内に入り込み、座板はナットの頭部によって地盤に押し当てられ、ロックボルトが地盤に強固に定着される。これにより、ロックボルトに座板と組み合わせたナットを嵌め込んだとき、ナットの大部分はボアホール内に入り込み、ほぼナットの頭部と座板を合わせた厚み分が外に出るだけなので、ロックボルトの突出長さを短くでき、他の作業の邪魔とならず、また、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類を敷設する場合に凸凹が小さくなるので所期のシート性能を発揮させることができる。
【0010】
【実施例】図1は本発明の一実施例に係わるロックボルトセットの外観斜視図、図2はワッシャーとナットの組み合わせ状態での斜視断面図である。ロックボルトセット10はロックボルト20と、該ロックボルト20を地山に締めつけるための角型のワッシャー30及びナット40の組み合わせからなる。ロックボルト20は後に切断ができるように、FRPや樹脂などからなる比較的低強度のものであり、外面には全長にわたってロープねじが螺旋状に形成されてなる雄ねじ部21が設けられている(雄ねじ部21のピッチは鋼製ロックボルトより粗い)。ロックボルト20の先端は斜めに切断加工されて地山への打設を円滑に行えるようになっている。
【0011】ワッシャー30とナット40はともに鋼製またはFRP製である。ワッシャー30には丸穴31が形成されており、丸穴31の中にナット40を遊挿可能になっている。一方、ナット40の内側には全長にわたってロックボルト20の雄ねじ部21に螺合する雌ねじ部41が形成されている(図2参照)。このナット40はロックボルト20との嵌め合わせた場合に、ねじ山に掛かる引っ張り荷重が小さくなるように十分な長さに形成されている。
【0012】ナット40は円筒状のシャフト部42と、シャフト部42の一端に設けられた頭部43とから成り、シャフト部42はナット40の大半の長さを占めている。シャフト部42はワッシャー30の丸穴31より僅かに小さな外径に形成されており、丸穴31の中にシャフト部42を遊挿可能になっている。これに対し、頭部43は丸穴31より遙かに大きく形成されており、シャフト部42に嵌め込まれたワッシャー30が抜けないようになっている。頭部43は六角になっており、締めつけ工具を嵌めて回転できるようになっている。
【0013】図3はロックボルトセット10の使用方法を示す説明図である。例えば、工事トンネルの内側壁に仮支保工を行う場合、まず、地山5にボアホール50を穿設し(図3(1)参照)、打ち込み機を用いてボアホール50の中にロックボルト20を打設する(図3(2)参照)。切羽鏡、サイロットなど短期間の仮設であればそのままで良いが、後で拡幅するなどのため仮設期間が比較的長い場合、ワッシャー30を組み合わせたナット40を嵌め合わせることで、強固な定着を図る。
【0014】すなわち、ロックボルト20の手元側端部がワッシャー30とナット40の頭部43を合わせた厚みより少し多い長さだけ突き出た位置まで打設したあと、ナット40のシャフト部42をワッシャー30の丸穴31に挿入した状態で、シャフト部42の先端側からロックボルト20の雄ねじ部21にナット40の雌ねじ部41を螺合させて嵌め込んでいく。この際、ナット40の頭部43に締めつけ工具を嵌めて回転させる。ナット40の嵌め込みの進行に伴い、シャフト部41はボアホール50の中に徐々に入り込んでいく。ワッシャー30はナット40の頭部43に押されて前進し、地盤51に当たったところで更にナット40を締め付けると、ロックボルト20が地盤51に固く定着する(図3(3)参照)。
【0015】ワッシャー30と組み合わせたナット40の締めつけが完了したとき、ロックボルト20とナット40の嵌め合い長さ(図3(3)の符号L参照)が十分に長いので、ねじのピッチが粗くてもねじ山に掛かる引っ張り荷重は小さく、ねじ山の引張強度が比較的低いロックボルト20でも十分に耐えることができる。また、ロックボルト20の内、地盤から突出する長さはワッシャー30とナット40の頭部43を合わせた厚みより少し長いだけの短いものとなる。従って、工事トンネルで他の作業をする場合の邪魔になることはなく、また、図3R>3(4)に示す如くロックボルト20の定着後に防水シート、アイソレーションシート等のシート類52を張る場合にも、シート類52に生じる凸凹を小さくでき、所期のシート性能を良好に発揮させることができる。
【0016】仮設期間が終わり、トンネル拡幅などのためロックボルト20の打設箇所を掘削する場合には、該ロックボルト20がFRPや樹脂などからなるので容易に切断することができ、機械掘削の妨げとならない。
【0017】この実施例によれば、ワッシャー30と組み合わせたナット40をロックボルト20に螺合し、嵌め合わせると、ワッシャー30はナット40のシャフト部42に嵌まった状態で頭部43に押さえられて地盤に当接し、ナット40を締めつけると反作用でロックボルト20が地盤に固く定着する。ナット40の嵌め込みが進行するとき、シャフト部42は先端からボアホール50の中に入り込んでいくので、ロックボルト20の内、外部に突出するのはワッシャー30と頭部43を合わせた厚み程度となるので、突出長さが非常に短くなり、工事トンネルで他の作業をする場合の邪魔になることはなく、また、ロックボルト20の定着後に防水シート、アイソレーションシート等のシート類52を張る場合にも、シート類52に生じる凸凹を小さくでき、所期のシート性能を良好に発揮させることができる。
【0018】なお、上記した実施例ではロックボルトはFRPや樹脂などからなり、外周にねじを形成したものとしたが、他の材質を用いたロックボルトであっても良く、また、座板としてワッシャーを用いたが、プレート(ベアリングプレートなど)を用いても良い。
【0019】
【発明の効果】以上本発明のロックボルト用ナットによれば、座板の穴にナットのシャフト部を遊挿した状態で、ロックボルト頭部外面の雄ねじ部にナットの雌ねじ部を嵌め込んでいくと、嵌め込みの進行とともにナットのシャフト部はボアホール内に入り込み、座板はナットの頭部によって地山に押し当てられ、ロックボルトが地盤に締めつけられるように構成したので、ロックボルトに座板と組み合わせたナットを嵌め込んだとき、ナットの大部分はボアホール内に入り込み、頭部が外に出るだけなので、ロックボルトの突出長さを短くでき、他の作業の邪魔とならず、また、次工程で防水シート、アイソレーションシート等のシート類を敷設する場合に凸凹が小さくなるので所期のシート性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例に係るロックボルトセットの外観斜視図である。
【図2】ワッシャーとナットの組み合わせ状態での斜視断面図である。
【図3】ロックボルトセットの使用方法の説明図である。
【図4】パターンボルトの施工状態の説明図である。
【図5】従来の仮支保工用ロックボルトセットの問題点の説明図である。
【符号の説明】
10 ロックボルトセット
20 ロックボルト
21 雄ねじ部
30 ワッシャー
31 丸穴
40 ナット
41 雌ねじ部
42 シャフト部
43 頭部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 外周に雄ねじ部の形成されたロックボルトに螺合可能な所定長の雌ねじ部を有し、地山に打ち込まれたロックボルトに座板と組み合わせて嵌め込むことで、ロックボルトを地盤に固定するロックボルト用ナットにおいて、座板の穴に遊挿可能なシャフト部と、シャフト部の手元側に固着され、座板の穴より大きい頭部から成り、頭部からシャフト部まで連続するように所定長の雌ねじ部を形成したこと、を特徴とするロックボルト用ナット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平9−13898
【公開日】平成9年(1997)1月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−161811
【出願日】平成7年(1995)6月28日
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)