説明

ロック防止機構を備えた送りねじ装置

【課題】ロック状態の発生を防止する為に、高度な制御を必要とせず、且つ衝撃音の発生がなく、優れた耐久性を有する構造を実現する。
【解決手段】ナット16cとスクリュ17cと圧縮コイルばね49とにより送りねじ装置を構成する。このうちのナット16cの内周面の先端寄り部分にのみ雌ねじ部50を形成する。又、前記スクリュ17cの外周面の先端寄り部分にのみ、前記ナット16cの奥部52の軸方向寸法よりも小さい軸方向寸法を有する雄ねじ部51を形成する。又、この雄ねじ部51が前記雌ねじ部50から外れて前記奥部52に入り込んだ状態で、前記圧縮コイルばね49により、前記スクリュ17cにこのナット16cから抜け出る方向の弾力を付与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば電動式駐車ブレーキ装置を構成する送りねじ装置の改良に関する。具体的には、低コスト且つ優れた耐久性を有する構造で、端部まで変位させた状態でロックするのを確実に防止できる構造の実現を図るものである。
【背景技術】
【0002】
車両の制動を行う為に、ドラム式等のブレーキ装置が広く使用されている。又、運転者によるペダルの踏み込みにより、走行中の車両を減速乃至は停止させる所謂サービスブレーキ装置に対して、車両を停止状態に維持する為の駐車ブレーキ装置を組み込む事も、広く行われている。
【0003】
この様な構造として、特許文献1には、所謂リーディング・トレーリング式のドラム式サービスブレーキ装置に対して、リンク機構により機械的に作動する機械式の駐車ブレーキ装置を組み込んだ構造が記載されている。
この特許文献1に記載された構造のドラム式駐車ブレーキ装置の作動時には、運転者が駐車レバーや足踏みペダル等を操作する事により、駐車ブレーキケーブルを介して拡張レバーの先端部をバッキングプレートの中心側へ回動させる。そして、拡張レバーの先端部とストラットとを介して一対のブレーキシューの間隔を拡げ、これら両ブレーキシューのライニングの外周面をドラムの内周面に押し付ける事により、制動力を発生させる。尚、この様な特許文献1に記載されたドラム式のブレーキ装置は、前記一対のブレーキシュー、ドラム等のドラムブレーキの基本的構造を、前記サービスブレーキ装置と駐車ブレーキ装置とで共用している。
【0004】
この様な機械式の駐車ブレーキ装置に対して、近年に於ける車両の高度な制御化の流れを受けて、電気エネルギを軸力に変換する事により制動力を発生させる電動式駐車ブレーキ装置に就いても、各種構造が提案されている。この様な電動式駐車ブレーキ装置は、駐車ブレーキケーブルの設置スペース等が不要になり、コスト低減と設置の容易化とを図れる他、運転者による電気的なスイッチ操作によって作動させる事ができる為、手動駐車レバーや足踏みペダル等により、駐車ブレーキケーブルを牽引して作動させる機械式の駐車ブレーキ装置に対して、運転者の労力を低減する事ができる。
【0005】
図6〜8は、電動式駐車ブレーキ付ドラムブレーキ装置の構造として、本発明者が先に考えた構造の第1例を示している。この電動式駐車ブレーキ付ドラムブレーキ装置1は、前述した特許文献1に記載の機械式のドラム式駐車ブレーキ装置の構成部分のうち、拡張レバーを回動させる為の駆動装置を電気的に実現したものである。油圧式のサービスブレーキ装置の構造及び駐車ブレーキ装置の基本構造に就いては、前記特許文献1に記載される等して従来から広く知られている構造とほぼ同様であるので説明は簡略にし、以下に、本例の特徴部分である、駆動装置の構造及び作用を中心に説明する。
【0006】
前記電動式駐車ブレーキ付ドラムブレーキ装置1は、バックプレート2と、アンカ77と、ホイールシリンダ78と、一対のブレーキシュー3a、3bと、ドラム4と、拡縮装置5と、この拡縮装置5を駆動する為の駆動装置6とを備える。
このうちのバックプレート2は、ナックル、アクスルハウジング等の懸架装置の構成部材に支持固定されている。又、前記アンカ77は、前記バックプレート2の円周方向1箇所の径方向外寄り部分に支持固定されている。又、前記ホイールシリンダ78は、前記バックプレート2の外径寄り部分で、このバックプレート2の径方向に関して前記アンカ77と反対側位置に固定されている。前記ホイールシリンダ78は、シリンダ筒79の両端部に一対のピストンを油密に内嵌したもので、このシリンダ筒79の中央部内側に油圧を導入する事により、このシリンダ筒79の両端部からの前記両ピストンの突出量を増大させる(これら両ピストン同士の間隔を拡げる)様にしている。
【0007】
又、前記両ブレーキシュー3a、3bは、前記バックプレート2の径方向反対側2箇所位置に、このバックプレート2の径方向に関する変位を可能に支持している。前記両ブレーキシュー3a、3bはそれぞれ、大略円弧形のウェブ7a、7bと、このウェブ7a、7bの外周縁部にそれぞれの幅方向中央部を溶接等により固定した裏板8a、8bと、この裏板8a、8bの外周面に添着固定したライニング9a、9bとから成る。そして、それぞれのウェブ7a、7bの周方向一端縁を前記アンカ77に突き当てると共に、周方向他端縁を前記両ピストンの先端部に形成した係合溝の底面、及び、前記拡縮装置5に当接させている。更に、前記ドラム4は、鋳鉄等によりシャーレ状に形成されており、前記両ブレーキシュー3a、3bを覆う状態で設けられて車輪と共に回転する。
【0008】
又、前記拡縮装置5は、ストラット10と拡張レバー11とを備える。このうちのストラット10は、前記一対のブレーキシュー3a、3b同士の間に設けられており、先端部を、前記両ブレーキシュー3a、3bのうちの一方のブレーキシュー3aのウェブ7aに、このウェブ7aを径方向外方に押圧可能に係合させている。又、前記ストラット10は、送りねじ機構12により伸長する事で、前記ブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bの摩耗に拘らず、非制動状態での、これら両ライニング9a、9bの外周面と前記ドラム4の内周面との間の隙間(間隙)を適正値に保てる様にしている。
又、前記拡張レバー11は、中間部を前記ストラット10の基端部に枢支すると共に、先端部のうち、他方のブレーキシュー3bのウェブ7bと対向する面に形成した係合部13を、この他方のブレーキシュー3bのウェブ7bの内周縁と係合させている。
【0009】
又、前記駆動装置6は、前記拡縮装置5を駆動する為のものであり、電動モータ等の駆動源(図示省略)と、減速機14と、送りねじ装置15とから成る。このうちの送りねじ装置15は、互いに螺合するナット16とスクリュ17とから成る。
このうちのナット16は、内周面に雌ねじ18を形成しており、基端側端面をフランジ部23により塞いでいる。又、外周面を、前記減速機14のファイナルギヤ19と一体に回転できる様に、このファイナルギヤ19の内径側に螺着固定している。更に、このファイナルギヤ19の円筒部20に形成したねじ孔21に螺合させた止めねじ22の先端面を前記ナット16の外周面に突き当てて、このナット16と前記ファイナルギヤ14との螺合部の緩み止めを図っている。又、このナット16は、前記フランジ部23の一端面(図7〜8の左側端面)に設けた小径凸部24を、前記電動モータのホルダ28の支持孔29に内嵌固定したスリーブ30に係止する事で、このホルダ28に対し、回転自在に支持されている。
又、前記スクリュ17は、外周面に雄ねじ25を形成した軸部26と、この軸部26の基端部(図7〜8の右側端部)に設けられて、この軸部26の外周面から径方向外方に突出するフランジ部27とから成る。又、前記スクリュ17は、軸方向への変位が可能であり、且つこのフランジ部27の一端面(図7〜8の右側端面)に形成した係止部31を、前記拡張レバー11の基端部(図7〜8の上側端部)と係合させる事により、回転を阻止されている。
【0010】
上述の様に構成する電動式駐車ブレーキ付ドラムブレーキ装置1のうちの、走行中の車両を減速乃至停止させるサービスブレーキ装置を作動させる場合には、運転手のブレーキペダルの踏み込みによって前記ホイールシリンダ78内に油圧を導入し、前記シリンダ筒79からの前記両ピストンの突出量を増大させる。すると、これら両ピストンの先端部に突き当てた、前記両ウェブ7a、7bの周方向他端縁同士の間隔が拡がり、前記両ブレーキシュー3a、3bが、前記アンカ77を中心として径方向外方に揺動変位する。この結果、これら両ブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bの外周面が前記ドラム4の内周面に押し付けられて、制動が行われる。制動解除に伴って前記ホイールシリンダ78内の油圧を除くと、前記両ブレーキシュー3a、3bが、リターンスプリング80の弾力により、前記両ピストンを前記シリンダ筒79内に押し込みつつ、径方向内方に変位する。
【0011】
又、上述の様に構成する電動式駐車ブレーキ付ドラムブレーキ装置1のうちの車両を停止状態に維持する為の電動式駐車ブレーキ装置を作動させる場合には、運転者によるスイッチ等の操作により、駆動源である前記電動モータを作動させ、前記減速機14を介して前記ナット16を回転させる。すると、このナット16と前記スクリュ17との螺合により、このスクリュ17が軸方向一方(図7〜8の右方向)に変位して、このスクリュ17のフランジ部27が前記拡張レバー11を、この拡張レバー11の中間部を支点として、図7〜8の時計方向に回動させる。この回動に伴い、この拡張レバー11の先端部が、前記他方のブレーキシュー3bのウェブ7bを押圧し、このブレーキシュー3bを径方向外方に変位させる。又、この他方のブレーキシュー3bのウェブ7bと前記拡張レバー11の先端部に形成した係合部13との当接部が支点となり、この拡張レバー11の中間部が、図7の矢印イの方向に変位する。そして、前記ストラット10を介して前記一方のブレーキシュー3aのウェブ7aを押圧する事で、この一方のブレーキシュー3aを径方向外方に変位させる。この様にして、これら両ブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bの外周面をドラム4の内周面に押し付けて、制動を行う。
【0012】
一方、前記電動駐車ブレーキ装置の制動を解除する場合、前述したブレーキ作動時の場合と逆方向に、前記電動モータにより前記ナット16を回転させて、前記スクリュ17を軸方向他方(図7〜8の左方向)に変位させる。これにより、前記拡張レバー11が、図7〜8の反時計方向に回動し、前記両ブレーキシュー3a、3bへの押圧力が解除される。
【0013】
ところで、前記電動式駐車ブレーキ装置による制動を解除する場合、前記電動モータの作動時間が不足し、前記ナット16の回転量が不足すると、前記スクリュ17の軸方向他方への変位量が不足し、戻し不足により、前記ライニング9a、9bの外周面と前記ドラム4の内周面とが摺れ合ったままの状態となる、所謂ブレーキ引き摺りが発生してしまう。又、この様な戻し不足を解決する為に、前記電動モータの作動時間を十分に長くし、前記スクリュ17の軸方向他方への変位量を大きくすると、前記ドラム式電動駐車ブレーキ装置1を作動させる際に必要となる、前記スクリュ17の軸方向一方への変位量が大きくなり、制動力が発生するまでに要する時間が長くなってしまう。又、前記スクリュ17の軸方向他方への変位量が過大になり、このスクリュ17の先端面32が前記ナット16の奥面33と当接して、軸方向他方へのそれ以上の変位が阻止されている状態から、更に前記電動モータを回転させると、前記ナット16の雌ねじ18を構成する雌ねじ山の側面と、前記スクリュ17の雄ねじ25を構成する雄ねじ山の側面とがくさび作用により強く当接し合う、所謂噛み込み状態(ロック状態)が生じる。この様な、ロック状態が生じると、このロック状態を解除する為に前記電動モータに大きな電流(ロック解除電流)を流す必要が生じ、消費電力が増加する。又、この電動モータの始動トルクでこのロック状態を解除できない場合には、前記スクリュ17を図7〜8の右方向に移動させられなくなり、故障(制動不能)となってしまう。
【0014】
前述した様なスクリュ17の戻し不足や戻し過多の発生を防止する方法として、前記電動モータの作動時間を制御するシステムを設ける事が考えられる。但し、この様なシステムは、制御が難しく、十分な信頼性を確保しにくい。又、回転センサや押圧力センサを使用して、前記スクリュ17の軸方向位置を検出しつつ、前記電動モータへの通電を制御すれば、ロック防止の信頼性確保を図れる。但し、この場合には、前記両センサ等の高価な部品が必要となる為、コストが嵩んでしまう。
【0015】
次に、図9は、ディスク式電動駐車ブレーキ装置の構造として、本発明者が先に考えた、電動駐車ブレーキ装置の第2例を示している。尚、本例はディスク式電動駐車ブレーキ装置のみの構造であるが、油圧式のサービスブレーキ装置と組み合わせた構造にする事もできる。
このディスク式電動駐車ブレーキ装置34は、パッド35a、35bをブレーキロータ36に押し付ける為の押圧装置37の構造を電動式にした点に特徴がある。この他の基本構造は従来から知られているディスクブレーキ装置とほぼ同様の構造である。以下に、本例の特徴部分の構造及び作用に就いて説明する。
前記押圧装置37は、電動モータ38と送りねじ装置15aとを備える。このうちの送りねじ装置15aは、互いに螺合するナット16aとスクリュ17aとから成る。このナット16aは、内周面に雌ねじ18aを形成しており、前記電動モータ38のロータ39と一体に回転可能な状態で、軸受40により軸方向への変位を規制されている。又、前記スクリュ17aは、外周面に雄ねじ25aを形成しており、基端部(図9の左端部)にはフランジ部27aを設けている。又、前記スクリュ17aは、軸方向の変位を可能な状態で、且つインナ側のパッド35aとの係合等により回転を規制している。尚、本例では、電動モータ38と送りねじ装置15aとの間の減速機を省略しているが、必要に応じて減速機を設ける事もできる。
【0016】
前記ディスク式電動駐車ブレーキ装置34を作動させる場合、前記電動モータ38を作動させて前記ナット16aを回転させる。このナット16aの回転に伴い、前記スクリュ17aが軸方向一方(図9の左方向)へと変位して、このスクリュ17aのフランジ部27aが前記一対のパッドのうちのインナ側のパッド35aを前記ブレーキロータ36のインナ側面に押し付ける。すると、この押し付け力の反作用としてキャリパ41のキャリパ爪42が、アウタ側のパッド35bを、前記ブレーキロータ36のアウタ側面に押し付ける。
【0017】
一方、前記ディスク式電動駐車ブレーキ装置34の制動力を解除する場合、前述した作動の場合とは逆方向に前記電動モータ38を作動させて、前記ナット16aを回転させる。この回転に伴い、前記スクリュ17aが軸方向他方(図9の右方向)に変位する。この際、このスクリュ17aの軸方向他方への変位量が大きくなると、前記第1例の場合と同様に、戻し過多によりブレーキ作動までの時間が増加してしまう。又、前記スクリュ17aの先端面32aと、前記キャリパ41のキャップ部材43の内面(図9の左面)中央部に設けられた凹部44の底面とが当接した状態から、更に前記電動モータ38を回転させると、前記ナット16aの雌ねじ18aとスクリュ17aの雄ねじ25aとの螺合部がロック状態となってしまう。
【0018】
図10は、前述した様な電動駐車ブレーキ装置1、34の制動力を解除する際にロック状態となるのを防止すべく、スクリュの戻し量を規制する為の従来構造を示している。この構造は、ナット16bの先端面(図10の右上側端面)に、この先端面を円周方向に半周ずつ螺旋状に切り欠く事で一対の係止部45、45を形成している。又、スクリュ17bの外周面の軸方向中間部で雄ねじ25bを形成していない部分の、径方向に関して対称となる位置に、一対の係止凸部46、46を形成している。
この様な従来構造の場合、前記ナット16bの回転に伴い前記スクリュ17bが前記ナット16bに対し、軸方向一方(図10の左下方向)に変位する場合に、所定量だけ変位した状態で、図10(B)に示す様に、前記係止部45、45と係止凸部46、46とが係合し、それ以上、前記ナット16bとスクリュ17bとが相対回転しない状態となる。この為、これらナット16bとスクリュ17bとがそれ以上軸方向に相対変位する事もなくなり、このスクリュ17bの軸方向一方への戻し量が過剰になって、前記ロック状態が発生する事を防止できる。
【0019】
図10に示した構造は、ロック防止の面からは効果があるが、前記係止部45、45と係止凸部46、46とが係合する際の衝突により、衝撃音が発生する。又、この衝突の際の衝撃により、前記ナット16b及びスクリュ17bの耐久性が低下する可能性がある。一方、この耐久性を向上させる為に各部材16b、17bの剛性を高くすると、これら各部材16b、17bの重量が嵩んでしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上述の様な事情に鑑みて、高度な制御を必要とせずに低コストで構成でき、且つ、衝撃音の発生がなく耐久性に優れた、ロック防止機構を備えた送りねじ装置を実現すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のロック防止機構を備えた送りねじ装置は、第一部材と第二部材との間に設けられてこれら第一、第二両部材同士を遠近動させる為、互いに同心に且つ相対回転を可能に設置されて互いに螺合する、雄ねじ部材と雌ねじ部材とを備える。
【0022】
特に、本発明のロック防止機構を備えた送りねじ装置の場合には、前記雌ねじ部材は、内周面のうちの軸方向の一部に雌ねじ部を形成している。
又、前記雄ねじ部材は、外周面のうちの軸方向の一部に雄ねじ部を形成している。
又、これら雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とのうちの、一方のねじ部材を前記第一部材に、回転可能且つこの第一部材に対する軸方向の変位を阻止した状態で支持して、駆動源により前記一方のねじ部材を両方向に回転駆動可能にしている。
又、他方のねじ部材を前記第二部材に、この他方のねじ部材の軸方向の変位を可能且つ回転を阻止した状態で係合している。
又、これら両ねじ部材を前記送りねじ装置のストロークの一端部にまで相対変位させた状態で、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部との螺合が外れる。
又、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部とがロックする事を防止する為に、この螺合が外れた状態で、前記他方のねじ部材を、前記ストロークの一端方向への変位を可能(実際には、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との螺合が外れている為、これ以上前記一端方向へ変位する事はない。)にしている。
更に、前記螺合が外れた状態で、この雄ねじ部とこの雌ねじ部とが噛み合う方向への弾力を付与する弾性部材を設けている。
【0023】
上述の様な本発明のロック防止機構を備えた送りねじ装置を実施する場合の具体的構造として、例えば請求項2〜4に記載した発明の様な構造を採用できる。
このうちの請求項2に記載した発明の構造の場合には、前記雌ねじ部材の内周面の先端寄り部分にのみ、雌ねじ部を形成する。又、この雌ねじ部材の奥部の内径を、この雌ねじ部の内径よりも大きくする。尚、この奥部とは、前記雌ねじ部材自体の内周面で形成される空間、又は、この雌ねじ部材の内周面と別部材(例えば、前記図9に示した構造のキャップ部材43等)の内周面とにより形成される空間を言う。
又、前記雄ねじ部材の外周面の先端寄り部分にのみ、前記雌ねじ部材の奥部の内径よりも小さな外径及び前記奥部の軸方向寸法よりも小さな軸方向寸法を有する雄ねじ部を形成する。又、基部の外径を、この雄ねじ部の外径及び前記雌ねじ部の内径よりも小さくする。
更に、前記ストローク収縮側端部にまで前記雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とが相対変位した状態で、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部との螺合が外れる構造とする。
【0024】
又、請求項3に記載した発明の構造の場合には、前記一方のねじ部材を、外周面の基端寄り部分にのみ雄ねじ部を形成した雄ねじ部材とする。
又、前記他方のねじ部材を、内周面の先端寄り部分にのみ雌ねじ部を形成した雌ねじ部材とする。
更に、前記ストロークの伸張側端部にまで前記雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とが相対変位して、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との螺合が外れた状態で、この雄ねじ部が、前記雌ねじ部材の内周面と干渉する事がなく、前記雌ねじ部材の基端面が、この基端面と対向する部分に当接する事がない構造とする。尚、この基端面と対向する部分とは、例えば、電動モータのホルダの内周面等が相当する。
【0025】
更に、請求項4に記載した発明の構造の場合には、前記一方のねじ部材を、内周面の先端寄り部分にのみ雌ねじ部を形成した雌ねじ部材とする。
又、前記他方のねじ部材を、外周面の先端寄り部分にのみ雄ねじ部を形成した雄ねじ部材とする。
更に、前記ストロークの伸張側端部にまで前記雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とが相対変位して、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との螺合が外れた状態で、この雄ねじ部が、前記雌ねじ部材の内周面と干渉する事がなく、前記雄ねじ部材の基端面が、この基端面と対向する部分に当接する事がない構造とする。
【発明の効果】
【0026】
上述の様に本発明のロック防止機構を備えた送りねじ装置の場合、前記雌ねじ部材は内周面のうちの軸方向の一部にのみ雌ねじ部を形成し、前記雄ねじ部材は外周面のうちの軸方向一部にのみ雄ねじ部を形成する事で、これら両部材同士の軸方向への相対変位量を、これら両部材同士が螺合する距離に規制している。この為、戻し量が過剰になる事を防止できる。
又、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部材との螺合が外れた状態で、前記他方のねじ部材を、前記送りねじ装置のストロークの一端方向への変位を可能(実際には、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との螺合が外れている為、これ以上前記一端方向へ変位する事はない。)にしている。この為、ロック状態が発生する事を防止できる。
又、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部材との螺合が外れた状態で、これら雄ねじ部材と雌ねじ部材とは、前記弾性部材により前記雄ねじ部と前記雌ねじ部とが噛み合う方向への弾力を付与されている。この為、これら両部材同士を相対変位させるべく、これら両部材を相対回転させる際に、これら両部材同士を、殆ど空回りせずに(最大でも1回転未満の空回りに止めて)螺合させる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、送りねじ装置の断面図。
【図2】この第1例の送りねじ装置を組み込んだドラム式電動駐車ブレーキを、ブレーキを解除した状態(A)と同じく作動させた状態(B)とで示す部分断面図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、図2と同様の図。
【図4】同第3例を示す、図2と同様の図。
【図5】同第4例を示す、図2と同様の図。
【図6】先発明の構造の第1例を、ドラム式電動駐車ブレーキに組み込んだ状態で示す正面図。
【図7】同じく、図6のX−X断面図。
【図8】図7のY部拡大図。
【図9】先発明の構造の第2例を、ディスク式電動駐車ブレーキに組み込んだ状態で示す断面図。
【図10】戻し過多を防止する為の従来構造を、ナットの係止部とスクリュの係止凸部とが係合する前の状態(A)と同じく係合した後の状態(B)とで示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[実施の形態の第1例]
図1〜2は、請求項1〜2に対応する、本発明の実施の形態の第1例を示している。尚、本例の特徴は、ドラム式電動駐車ブレーキ装置の拡張レバーを回動させる為の駆動装置を構成する送りねじ装置の構造にある。この送りねじ装置以外の、ドラム式電動駐車ブレーキ本体部分に就いては、前述の図6〜8に示した先発明の構造、更には、従来から広く知られているドラム式電動駐車ブレーキと同様に構成できる。そこで、前記先発明の構造と同等部分に関する図示並びに説明は、省略若しくは簡略にし、以下、本例の特徴部分を中心に説明する。
【0029】
本例の送りねじ装置15bは、雌ねじ部材であるナット16cと、雄ねじ部材であるスクリュ17cと、弾性部材である圧縮コイルばね49とを備える。
このうちのナット16cは、円筒部材47とキャップ部材48とから成る。この円筒部材47は、内周面の先端寄り部分(図1〜2の右側部分)にのみ、雌ねじ部50を形成している。又、この雌ねじ部50が形成されていない基端側内周面である、奥部52の内径D52を、この雌ねじ部50の内径D50よりも大きく(D52>D50)している。
又、前記キャップ部材48は、軸方向中央部にフランジ部53を設けている。又、このフランジ部53の一端側(図1〜2の右側)に、前記奥部52の内径D52とほぼ同じ外径を有する、大径凸部54を設けている。又、このフランジ部53の他端側(図1〜2の左側)に、この大径凸部54よりも小径な、小径凸部55を設けている。この様なキャップ部材48は、前記円筒部材47の基端側開口部に、前記大径凸部54を内嵌固定した状態で組み付けられている。
又、前記ナット16cは、前記キャップ部材48の前記小径凸部55を、電動モータのホルダ28の内周面に設けた支持孔29に内嵌したスリーブ30に内嵌する事で、このホルダ28に対して回転自在に支持されている。又、前記ナット16cは、前記円筒部材47の外周面を、減速機14のファイナルギヤ19の内周面に圧入固定する事により、このファイナルギヤ19の内径側に支持固定されており、このファイナルギヤ19と一体に回転する。更に、このファイナルギヤ19の円筒部20に形成したねじ孔21に螺着した止めねじ22の先端面を、前記円筒部47の外周面に突き当てて、前記ナット16cと前記ファイナルギヤ19との螺合部の緩み止めを図っている。
【0030】
又、前記スクリュ17cは、軸部26aとフランジ部27bとを備える。
このうちの軸部26aは、外周面の先端寄り部分(図1〜2の左側)にのみ、雄ねじ部51を形成している。この雄ねじ部51の外径D51は、前記ナット16cの奥部52の内径D52よりも小さい(D52>D51)。又、この雄ねじ部51の軸方向寸法L51は、前記奥部52の軸方向寸法(前記雌ねじ部50の軸方向基端側端縁から前記キャップ48の大径凸部54の先端面までの寸法)L52よりも小さい(L52>L51)。又、前記軸部26aの基部56の外径D56を、この雄ねじ部51の外径D51及び前記雌ねじ部50の内径D50よりも小さくしている(D51>D56、D50>D56)。
又、前記フランジ部27bは、前記軸部26aの基端側(図1〜2の右側)に、この軸部26aの外周面から径方向外方へ突出した状態で設けられている。又、このフランジ部27bの一端面(図1〜2の右側面)には、拡張レバー11を係止する為の係止部31を形成している。又、このフランジ部27bの外周面の他端寄り部分には、前記圧縮コイルばね49の基端部を支持する為の、支持部57を形成している。
この様なスクリュ17cは、軸方向への変位を可能に設置されており、前記フランジ部27bの係止部31に前記拡張レバー11の基端部を係合させる事により、回転を阻止されている。
【0031】
又、前記圧縮コイルばね49は、前記フランジ部27bの支持部57に基端部を支持した状態で、中間部から先端部をこのフランジ部27bよりも他方向(図1〜2の左方向)に突出している。
【0032】
前述した様な本例の送りねじ装置15bを組み込んだドラム式電動駐車ブレーキ装置は、次の様に作用して制動力を発生する。運転者によるスイッチ等の操作により、電動モータを作動させ、前記減速機14を介して前記ナット16cを作動方向へ回転させる。すると、前記スクリュ17cは、軸方向一方(図2の右方向)に、図2(A)の状態から図2(B)の状態になるまで変位し、前記スクリュ17cのフランジ部27bにより前記拡張レバー11を押圧して、この拡張レバー11を図2の時計方向に回動させる。この回動に伴い、前述の図6〜7に示した先発明のドラム式電動駐車ブレーキ装置と同様に、一対のブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bの外周面をドラム4(図6〜7参照)の内周面に押し付ける事で制動を行う。
【0033】
一方、本例のドラム式電動駐車ブレーキ装置の制動を解除する場合、運転者によるスイッチ等の操作により、電動モータを、前述したブレーキを作動させる場合とは逆方向に回転させ、前記減速機14を介して前記ナット16cを解除方向へ回転させる。この回転に伴い、前記スクリュ17cが軸方向他方(図2の左方向)に、図2(B)の状態から図2(A)の状態になるまで変位する。すると、前記拡張レバー11が図2の反時計方向に回動し、前記ブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bによるドラム4(図6〜7参照)への押し付けが解除される。この様に制動が解除された図2(A)の状態(前記送りねじ装置15bのストロークの収縮側端部にまで前記スクリュ17cと前記ナット16cとが相対変位した状態)では、前記雄ねじ部51が前記雌ねじ部50から外れて前記ナット16cの奥部52に入り込んだ状態となる。この為、このナット16cの回転に拘らず、それ以上、このスクリュ17cが軸方向他方へ変位する事がなくなる。又、前記雄ねじ部51の軸方向寸法L51は、前記奥部52の軸方向寸法L52よりも小さく規制されている。この為、前記キャップ48の大径凸部54の一端面とこのスクリュ17cの先端面32bとの間には隙間58が残る。又、前記ナット16cの先端面と、前記スクリュ17cのフランジ部27bの他端面との間にも隙間が残る。この様に、このスクリュ17cを実質的に軸方向他方に変位する事を可能(実際には、前記雄ねじ部51と前記雌ねじ部50との螺合が外れている為、これ以上前記軸方向他方へ変位する事はない。)な状態としている。従って、前記雌ねじ部50のねじ山の側面と、前記雄ねじ部51のねじ山の側面とが、強く押し付けられる事はなく、前述した様なロック状態となる事はない。そして、ロック状態が発生しない為、ロック電流による消費電力の増加も防止できる。更に、ロック状態を解除不能になる事もなく、ロックにより制動不能になる故障の発生も防止できる。
【0034】
又、前記図2(A)の状態では、前記スクリュ17cのフランジ部27bに支持した圧縮コイルばね49は、前記電動モータのハウジング28と前記フランジ部27bとの間で圧縮されている。従って、前記スクリュ17cは、前記ナット16cから抜け出る方向(図2の右方向であり、前記雄ねじ部51と前記雌ねじ部50とが噛み合う方向)への弾力を付与されている。この為、このナット16cを、ブレーキを作動させる方向に回転させると、前記雌ねじ部50と前記雄ねじ部51とが、殆ど空回りする事なく、直ちに螺合する。この為、制動状態を、迅速且つ確実に実現できる。
又、前記スクリュ17cの戻し量を、ナット16cとスクリュ17cのねじ部50、51の長さにより規制している為、前記電動モータの作動時間を制御する様な高価なシステムを設ける必要がない。
更に、前記図10に示した従来構造の様に、前記ナット16bの係止部45、45及び前記スクリュ17bの係止凸部46、46を設ける必要がない。この為、衝突音が発生する事もなく、衝突によりナット及びスクリュの耐久性が低下する事もなく、部品の重量が嵩む事もない。
【0035】
[実施の形態の第2例]
図3は、請求項1〜2に対応する、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の送りねじ装置15cは、雌ねじ部材であるナット16dと、雄ねじ部材であるスクリュ17dと、弾性部材である圧縮コイルばね49とを備える。
【0036】
このうちのスクリュ17dは、外周面の先端寄り部分に雄ねじ部51aを形成している。又、このスクリュ17dの基端側に大径軸部59を結合固定して、これらスクリュ17dと大径軸部59とが一体の部材として回転する様にしている。又、この大径軸部59の他端側(図3の左側)に、凸部60を設けている。
又、前記スクリュ17dは、前記凸部60を、電動モータのホルダ28の内周面に設けた支持孔29に内嵌したスリーブ30に内嵌する事で、このホルダ28に対して回転自在に支持されている。又、前記スクリュ17dは、前記大径軸部59を、減速機14のファイナルギヤ19の中心孔に圧入固定する事により、このファイナルギヤ19の中心部に支持固定されており、このファイナルギヤ19と共に回転する。更に、このファイナルギヤ19の円筒部20に形成したねじ孔21に螺着した止めねじ22の先端面を、前記大径軸部59の外周面に突き当てて、前記スクリュ17dと前記ファイナルギヤ19との回り止め及び抜け止めを確実にしている。
【0037】
又、前記ナット16dは、円筒部61とフランジ部62とを備える。
このうちの円筒部61は、内周面の先端寄り部分(図3の左側)にのみ、雌ねじ部50aを形成している。
又、前記フランジ部62は、前記円筒部61の基端側(図3の右側)に、この円筒部61の外周面から径方向外方へ突出した状態で設けられている。又、このフランジ部62の一端面(図3の右側面)に、拡張レバー11の基端部を係止する為の係止部63を形成している。又、このフランジ部62の外周面の他端寄り部分に、前記圧縮コイルばね49の基端部を支持する為の、支持部64を形成している。
この様なナット16dは、軸方向への変位を可能に設置されており、前記フランジ部62の係止部63に前記拡張レバー11の基端部を係合させる事により、回転を阻止されている。
【0038】
又、前記圧縮コイルばね49は、前記ナット16dのフランジ部62の支持部64に基端部を支持した状態で、中間部から先端部をこのフランジ部62よりも他方向(図3の左方向)に突出している。
本例の構造は、前述した実施の形態の第1例の構造に対して、雄ねじ部材と雌ねじ部材とを逆にした構造である。その他の部分の構成及び作用に就いては、上述した実施の形態の第1例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【0039】
[実施の形態の第3例]
図4は、請求項1、3に対応する、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例の送りねじ装置15dは、雌ねじ部材であるナット16eと、雄ねじ部材であるスクリュ17eと、弾性部材である圧縮コイルばね49とを備える。
【0040】
このうちのスクリュ17eは、外周面の基端寄り部分に雄ねじ部51bを形成している。又、このスクリュ17eの基端側に大径軸部59aを、このスクリュ17eと一体に、且つ、このスクリュ17eと同心に固設している。又、この大径軸部59aの他端側(図4の左側)に、凸部60を、この大径軸部59aと同心に設けている。
又、前記スクリュ17eは、前記凸部60を、電動モータのホルダ28の内周面に設けた支持孔29に、スリーブ30を介して内嵌する事により、このホルダ28に対して回転自在に支持されている。又、前記スクリュ17eは、前記大径軸部59aを、減速機14のファイナルギヤ19の中心孔に圧入固定する事により、このファイナルギヤ19の中心部に支持固定されており、このファイナルギヤ19と一体に回転する。更に、このファイナルギヤ19の円筒部20に形成したねじ孔21に螺着した止めねじ22の先端面を、前記大径軸部59aの外周面に突き当てて、前記スクリュ17eと前記ファイナルギヤ19との回り止め及び抜け止めを確実にしている。
【0041】
又、前記ナット16eは、先端部に設けた雌ねじ部50bの幅方向(図4の表裏方向)両端部と、基端部に設けた押圧部65の幅方向両端部とを、幅方向に間隔をあけて配置した一対の連結部76により連結して成る長矩形枠状に構成している。又、前記押圧部65の一端側(図4の右側)の側面には、この側面から突出した支持軸部66を設けている。
この様なナット16eは、先端寄り(図4の左寄り)部分を、電動モータのホルダ28に形成した支持孔67の内側に、スリーブ68を介して摺動可能に支持している。又、前記支持軸部66を前記ホルダ28に形成した支持孔69に、スリーブ70を介して摺動可能に支持している。尚、前記ナット16eは、拡張レバー11の基端部との係合により、回転する事はない。
【0042】
又、前記圧縮コイルばね49は、基端部を前記スクリュ17eの先端部の外周面に形成した係止溝71に係止した係止部材72に係止して、先端部をこのスクリュ17eの基端方向(図4の左方向)に向けた状態で、このスクリュ17eの先端部の外径側部分に装着している。
【0043】
前述した様な本例の送りねじ装置15dを組み込んだドラム式電動駐車ブレーキ装置は、次の様に作用して制動力を発生する。運転者によるスイッチ等の操作により、電動モータを作動させ、前記減速機14を介して前記スクリュ17eを作動方向へ回転させる。すると、前記ナット16eは、軸方向他方(図4の左方向)に、図4(A)の状態から図4(B)の状態になるまで変位し、前記ナット16eの押圧部65の内側面(図4の左側面)により前記拡張レバー11を押圧して、この拡張レバー11を図4の反時計方向に回動させる。この回動に伴い、前述の図6〜7に示した先発明のドラム式電動駐車ブレーキ装置と同様に、一対のブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bの外周面をドラム4(図6〜7参照)の内周面に押し付ける事で制動を行う。尚、本例の場合、ブレーキ作動時の前記拡張レバー11の回動方向は、前述した先発明のドラム式電動駐車ブレーキ装置、実施の形態の第1例、及び、第2例とは反対である。この為、ドラムブレーキの基本構造を、図6〜7に示す構造と、左右方向に関して逆にしている。
【0044】
一方、本例のドラム式電動駐車ブレーキ装置の制動を解除する場合、運転者によるスイッチ等の操作により、電動モータを、前述したブレーキを作動させる場合とは逆方向に回転させ、前記減速機14を介して前記スクリュ17eを解除方向へ回転させる。この回転に伴い、前記ナット16eが軸方向一方(図4の右方向)に、図4(B)の状態から図4(A)の状態になるまで変位する。すると、前記拡張レバー11が図4の時計方向に回動し、前記ブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bによるドラム4(図6〜7参照)への押し付けが解除される。この様に制動が解除された図4(A)の状態(前記送りねじ装置15dのストロークの伸長側端部にまで前記スクリュ17eと前記ナット16eとが相対変位した状態)では、前記雄ねじ部51bと前記雌ねじ部50bとの螺合が外れた状態となる。この為、前記スクリュ17eの回転に拘らず、それ以上、前記ナット16eが軸方向一方へ変位する事がなくなる。この状態で、このナット16eの押圧部65の外側面(図4の右側面)は、この側面と対向する前記電動モータのホルダ28にも、前記スリーブ70にも当接する事はなく、相手面との間に隙間が残る。この様に、前記ナット16eを実質的に軸方向一方に変位する事を可能(実際には、前記雄ねじ部51bと前記雌ねじ部50bとの螺合が外れている為、これ以上前記軸方向一方へ変位する事はない。)な状態としている。従って、前記雌ねじ部50bのねじ山の側面と、前記雄ねじ部51bのねじ山の側面とが、強く押し付けられる事はなく、前述した様なロック状態となる事はない。そして、ロック状態が発生しない為、ロック電流による消費電力の増加も防止できる。更に、ロック状態を解除不能になる事もなく、ロックにより制動不能になる故障の発生も防止できる。
【0045】
又、前記図4(A)の状態では、前記スクリュ17eの先端部に支持した圧縮コイルばね49は、前記雌ねじ部50bの端面とこのスクリュ17eの先端部に係止した係止部材72との間で圧縮されている。従って、前記ナット16eは、このナット16eの前記雄ねじ部51bと前記雌ねじ部50bとが螺合する方向への弾力を付与されている。
この為、このスクリュ17eを、ブレーキを作動させる方向に回転させると、前記雌ねじ部50bと前記雄ねじ部51bとが、殆ど空回りする事なく直ちに螺合する。この為、制動状態を、迅速且つ確実に実現できる。
又、前記ナット16eの戻し量を、このナット16eと前記スクリュ17eのねじ部50b、51bの長さにより規制している為、前記電動モータの作動時間を制御する様な高価なシステムを設ける必要がない。
更に、前記図10に示した従来構造の様に、前記ナット16bの係止部45、45及び前記スクリュ17bの係止凸部46、46を設ける必要がない。この為、衝突音が発生する事もなく、衝突によりナット及びスクリュの耐久性が低下する事もなく、部品の重量が嵩む事もない。
【0046】
[実施の形態の第4例]
図5は、請求項1、4に対応する、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例の送りねじ装置15eは、雌ねじ部材であるナット16fと、雄ねじ部材であるスクリュ17fと、弾性部材である圧縮コイルばね49とを備える。
【0047】
このうちのナット16fは、前述した実施の形態の第1例のナット16c(図1〜2)と同様の構造である。この為、詳しい説明は省略する。
又、前記スクリュ17fは、先端部に設けた雄ねじ部51cと、基端部に設けた長矩形枠部74とで構成している。この長矩形枠部74は、軸方向(図5の左右方向)に間隔をあけて配置した、矩形状部材75と円板状の押圧部65aの内側面(図5の左側面)とを、幅方向(図5の表裏方向)に間隔をあけて配置した一対の連結部76aにより連結して成る。又、前記押圧部65aは、外径を、この連結部76aの高さ方向(図5の上下方向)寸法よりも大きくしている。又、前記押圧部65aの外周面の一端寄り部分(図5の右端部)に、前記圧縮コイルばね49の基端部を支持する為の支持部73を、全周に亙り形成している。
又、前記押圧部65aの一端側(図5の右側)の側面には、この側面から突出した支持軸部66aを設けている。
この様なスクリュ17fは、前記雄ねじ部51cを、前記ナット16fの先端部に設けた雌ねじ部50cに螺合させている。又、前記支持軸部66aを、電動モータのホルダ28に形成した支持孔69に、スリーブ70を介して摺動可能に支持している。尚、前記スクリュ17fは、拡張レバー11との係合により、回転する事はない。
【0048】
又、前記圧縮コイルばね49は、基端部を前記押圧部65aの先端部の外周面に形成した支持部73に支持した状態で、中間部から先端部をこの押圧部65aよりも一方(図5の右方向)に突出している。
【0049】
上述した様な本例の送りねじ装置15eを組み込んだドラム式電動駐車ブレーキ装置は、次の様に作用して制動力を発生する。運転者によるスイッチ等の操作により、電動モータを作動させ、減速機14を介して前記ナット16fを作動方向へ回転させる。すると、前記スクリュ17fは、軸方向他方(図5の左方向)に、図5(A)の状態から図5(B)の状態になるまで変位し、前記スクリュ17fの押圧部65aの内側面により前記拡張レバー11を押圧して、この拡張レバー11を図5の反時計方向に回動させる。この回動に伴い、前述の図6〜7に示した先発明のドラム式電動駐車ブレーキ装置と同様に、一対のブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bの外周面をドラム4(図6〜7参照)の内周面に押し付ける事で制動を行う。尚、本例の場合も、前述の実施の形態の第3例と同様に、ドラムブレーキの基本構造を、図6〜7に示す従来構造と、左右方向に関して反対にしている。
【0050】
一方、本例のドラム式電動駐車ブレーキ装置の制動を解除する場合、運転者によるスイッチ等の操作により、電動モータを、前述したブレーキを作動させる場合とは逆方向に回転させ、前記減速機14を介して前記ナット16fを解除方向へ回転させる。この回転に伴い、前記スクリュ17fが軸方向一方(図5の右方向)に、図5(B)の状態から図5(A)の状態になるまで変位する。すると、前記拡張レバー11が図5の時計方向に回動し、前記ブレーキシュー3a、3bのライニング9a、9bによるドラム4(図3参照)への押し付けが解除される。この様に制動が解除された図5(A)の状態(前記送りねじ装置15eのストロークの伸長側端部にまで前記ナット16fと前記スクリュ17fとが相対変位した状態)では、前記雌ねじ部50cと雄ねじ部51cとの螺合が外れた状態となる。この為、このナット16fの回転に拘らず、それ以上、このスクリュ17fが軸方向一方へ変位する事がなくなる。この状態で、このスクリュ17fの押圧部65aの外側面(図5の右側面)は、この側面と対向する電動モータのホルダ28、又は、前記スリーブ70に当接する事なく隙間が残る。この様に、このナット16fを実質的に軸方向一方に変位する事を可能(実際には、前記雄ねじ部51cと前記雌ねじ部50cとの螺合が外れている為、これ以上前記軸方向一方へ変位する事はない。)な状態としている。従って、前記雌ねじ部50cのねじ山の側面と、前記雄ねじ部51cのねじ山の側面とが、強く押し付けられる事はなく、前述した様なロック状態となる事はない。そして、ロック状態が発生しない為、ロック電流による消費電力の増加も防止できる。更に、ロック状態を解除不能になる事もなく、ロックにより制動不能になる故障の発生も防止できる。
【0051】
又、前記図5(A)の状態では、前記押圧部65aの先端部に支持した、圧縮コイルばね49が、前記ホルダ28の内側面と、この前記押圧部65aの外側面との間で圧縮されている。
従って、前記スクリュ17fは、このスクリュ17fの雄ねじ部51cと前記ナット16fの雌ねじ部50cとが螺合する方向への弾力を付与されている。この為、このナット16fを、ブレーキを作動させる方向に回転させると、前記雌ねじ部50cと雄ねじ部51cとが、殆ど空回りする事なく直ちに螺合する。この為、制動状態を、迅速且つ確実に実現できる。尚、図5(A)に示した状態で、前記ナット16fの中心と前記スクリュ17fの中心とが一致した状態のままとなる様に、このナット16fの前端側から図5の右方に向けて、保持筒部を設ける事もできる。この保持筒部の内径は、前記雄ねじ部51cの外径(山径)よりも僅かに大きくする。
本例の構造は、前述の図4に示した実施の形態の第3例の構造に対して、雄ねじ部材と雌ねじ部材との配置を逆にして、圧縮コイルばねの位置を変更した構造である。その他の部分の構成及び作用に就いては、前記第3例と同様であるから、重複する説明は省略する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
図示の実施の形態の構造は、ドラム式の電動駐車ブレーキ装置に本発明の送りねじ装置を適用した構造であるが、本発明の送りねじ装置は、例えば、図5に示したディスク式の電動駐車ブレーキに適用する事もできる。又、電動駐車ブレーキに限らず、各種機械装置に適用する事で、前記実施例と同様の作用・効果を得る事もできる。
又、ナットとスクリュとの間に設ける弾性部材は、圧縮コイルばねに限定されるものではなく、他のばね構造や、ゴム等のエラストマーとする事もできる。又、弾性部材を設ける位置に就いても、前述した構造に限定されるものではなく、送りねじ装置を構成する雄ねじ部材と雌ねじ部材とが離れる方向への弾力を付与できる各種構造を採用する事ができる。
【符号の説明】
【0053】
1 電動式駐車ブレーキ付ドラムブレーキ装置
2 バックプレート
3a、3b ブレーキシュー
4 ドラム
5 拡縮装置
6 駆動装置
7a、7b ウェブ
8a、8b 裏板
9a、9b ライニング
10 ストラット
11 拡張レバー
12 送りねじ機構
13 係合部
14 減速機
15、15a、15b、15c、15d、15e 送りねじ装置
16、16a、16b、16c、16d、16e、16f ナット
17、17a、17b、17c、17d、17e、17f スクリュ
18、18a 雌ねじ
19 ファイナルギヤ
20 円筒部
21 ねじ孔
22 止めねじ
23 フランジ部
24 小径凸部
25、25a、25b 雄ねじ
26、26a 軸部
27、27a、27b フランジ部
28 ホルダ
29 支持孔
30 スリーブ
31 係止部
32、32a、32b 先端面
33 奥面
34 ディスク式電動駐車ブレーキ装置
35a、35b パッド
36 ブレーキロータ
37 押圧装置
38 電動モータ
39 ロータ
40 軸受
41 キャリパ
42 キャリパ爪
43 キャップ部材
44 凹部
45 係止部
46 係止凸部
47 円筒部材
48 キャップ
49 圧縮コイルばね
50、50a、50b、50c 雌ねじ部
51、51a、51b、51c 雄ねじ部
52 奥部
53 フランジ部
54 大径凸部
55 小径凸部
56 基部
57 支持部
58 隙間
59、59a 大径軸部
60 凸部
61 円筒部
62 フランジ部
63 係止部
64 支持部
65、65a 押圧部
66、66a 支持軸部
67 支持孔
68 スリーブ
69 支持孔
70 スリーブ
71 係止溝
72 係止部材
73 支持部
74 長矩形枠部
75 矩形状部材
76、76a 連結部
77 アンカ
78 ホイールシリンダ
79 シリンダ筒
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開2009−168228号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一部材と第二部材との間に設けられてこれら第一、第二両部材同士を遠近動させる為、互いに同心に且つ相対回転を可能に設置されて互いに螺合する雄ねじ部材と雌ねじ部材とを備えた送りねじ装置であって、
前記雌ねじ部材は、内周面のうちの軸方向の一部に雌ねじ部を形成しており、
前記雄ねじ部材は、外周面のうちの軸方向の一部に雄ねじ部を形成しており、
これら雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とのうちの、
一方のねじ部材を前記第一部材に、回転可能且つこの第一部材に対する軸方向の変位を阻止した状態で支持して、駆動源により前記一方のねじ部材を両方向に回転駆動可能にすると共に、
同じく他方のねじ部材を前記第二部材に、この他方のねじ部材の軸方向の変位を可能且つ回転を阻止した状態で係合しており、
これら両ねじ部材を前記送りねじ装置のストロークの一端部にまで相対変位させた状態で、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部との螺合が外れるものであり、
前記雌ねじ部と前記雄ねじ部とがロックする事を防止する為に、前記螺合が外れた状態で、前記他方のねじ部材は、前記ストロークの一端方向への変位を可能としており、
前記螺合が外れた状態で、この雄ねじ部とこの雌ねじ部とが螺合する方向への弾力を付与する弾性部材を設けた事を特徴とするロック防止機構を備えた送りねじ装置。
【請求項2】
前記雌ねじ部材は、内周面の先端寄り部分にのみ雌ねじ部を形成して、奥部の内径をこの雌ねじ部の内径よりも大きくしたものであり、
前記雄ねじ部材は、外周面の先端寄り部分にのみ、前記雌ねじ部材の奥部の内径よりも小さな外径及びこの奥部の軸方向寸法よりも小さな軸方向寸法を有する雄ねじ部を形成して、基部の外径をこの雄ねじ部の外径及び前記雌ねじ部の内径よりも小さくしたものであり、前記ストローク収縮側端部にまで前記雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とが相対変位した状態で、前記雌ねじ部と前記雄ねじ部との螺合が外れる、請求項1に記載したロック防止機構を備えた送りねじ装置。
【請求項3】
前記一方のねじ部材が、外周面の基端寄り部分にのみ雄ねじ部を形成した雄ねじ部材であり、
前記他方のねじ部材が、内周面の先端寄り部分にのみ雌ねじ部を形成した雌ねじ部材であり、
前記ストロークの伸張側端部にまで前記雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とが相対変位して、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との螺合が外れた状態で、この雄ねじ部が、前記雌ねじ部材の内周面と干渉する事がなく、前記雌ねじ部材の基端面が、この基端面と対向する部分に当接する事がない、請求項1に記載したロック防止機構を備えた送りねじ装置。
【請求項4】
前記一方のねじ部材が、内周面の先端寄り部分にのみ雌ねじ部を形成した雌ねじ部材であり、
前記他方のねじ部材が、外周面の先端寄り部分にのみ雄ねじ部を形成した雄ねじ部材であり、
前記ストロークの伸張側端部にまで前記雄ねじ部材と前記雌ねじ部材とが相対変位して、前記雄ねじ部と前記雌ねじ部との螺合が外れた状態で、この雄ねじ部が、前記雌ねじ部材の内周面と干渉する事がなく、前記雄ねじ部材の基端面が、この基端面と対向する部分に当接する事がない、請求項1に記載したロック防止機構を備えた送りねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−149536(P2011−149536A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−13002(P2010−13002)
【出願日】平成22年1月25日(2010.1.25)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】