説明

ロボットシステムにおけるロボットの停止方法およびロボットシステム

【課題】操作装置で選択したロボットが実際にどのロボットであるかを、ロボットの姿勢や設備環境のいかんにかかわらず識別できるようにする。
【解決手段】複数台のロボット2〜5を制御する制御装置6の教示装置7を操作して1台のロボットを選択すると、選択されたロボットが移動途中で停止し且つ戻る動作をする(告知動作)。この告知動作により、選択したロボットを識別できる。告知動作したロボットを停止させる場合、教示装置7を操作すると、そのロボットは停止される。告知動作したロボットと停止させようとしていたロボットが異なる場合、教示装置7を操作しないでおくと、その後、選択されたロボットは当初の停止位置に向かって移動し、また、他のロボットは減速して選択されたロボットと作業動作を終了する時点が同じ時期となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数台のロボットのうちから1台のロボットを選択して停止させる場合のロボットシステムにおけるロボットの停止方法およびロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
製造ラインに沿って複数台のロボットを設置し、これらロボットに組み立て作業などを行わせるシステムがある。このロボットシステムにおいて、例えば、調子の悪いロボットを発見したような場合、そのロボットを停止させて点検修理を行う必要がある。
複数台のロボットが1台の制御装置によって一括制御されている場合、複数台のロボットのうちから或る特定のロボットを停止させるには、制御装置に接続された教示装置により停止させたいロボットを選択して停止操作する。
【0003】
本発明とは直接の関係はないが、特許文献1には、ロボットアームに表示器を取り付け、教示装置によってロボットアームを動かす際に、表示器によって移動方向を表示し、これによってロボットアームの動作方向を事前に確認できるようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−878号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
教示装置で特定のロボットを選択するには、そのロボットが制御装置上で何番のロボットであるか知らないと、間違えて他のロボットを停止させてしまう恐れがある。しかし、記憶に頼ることは間違いの原因になり、好ましくない。かといって、動作中のロボットに近寄って何番かを確認することは、衝突の恐れがあって危険である。
【0006】
特許文献1に開示された技術を応用してロボットに表示器を設け、教示装置によって1台のロボットを選択すると、その選択されたロボットの表示器が選択されたことを表示するように構成することが考えられる。しかし、ロボットの姿勢や設備環境によっては教示装置のある位置からロボットの表示器が見えない場合があり、事前確認手段としては好ましいものではない。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的は、選択したロボットが実際にどのロボットであるかを、ロボットの姿勢や設備環境のいかんにかかわらず識別できるロボットシステムにおけるロボットの停止方法およびロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ユーザーが操作装置の選択手段により1台のロボットを選択すると、選択されたロボットが揺り戻し動作を行うので、この揺り戻し動作によってユーザーは操作装置上で選択した停止対象ロボットがどれであるかを知ることができる。
そして、ユーザーが停止させたいと思ったロボットが揺り戻し動作を行ったロボットと一致した場合、ユーザーはそのロボットを停止する操作を行う。揺り戻し動作を行ったロボットが、ユーザーが停止させたいと思ったロボットでなかった場合、ユーザーは停止操作をしない。揺り戻し動作を行ったロボットについて停止指示がされない場合には、その後、他のロボットが減速し、揺り戻し動作を行ったロボットと同じ周期となるように制御される。これにより、複数のロボットの動作関係が元通りとなり、次のロボット作業において全てのロボットが同じ時期に動作を開始できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態における告知動作と復旧動作の一例を示すもので、(a)は停止対象ロボットの速度パターン図、(b)は他のロボットの速度パターン図
【図2】告知動作と復旧動作の他の例を示すもので、(a)は停止対象ロボットの速度パターン図、(b)は他のロボットの速度パターン図
【図3】ロボットアーム先端の通常時と告知動作時の位置座標を示す図
【図4】主制御の内容を示すフローチャート
【図5】停止指示対応ルーチンの内容を示すフローチャート
【図6】告知動作準備ルーチンの内容を示すフローチャート
【図7】復旧動作準備ルーチンの内容を示すフローチャート
【図8】一般的な台形速度パターン図
【図9】作業サイクルの内容を示す速度パターン図
【図10】制御装置の電気的構成を示すブロック図
【図11】2台のロボットの共有範囲を示す模式図
【図12】ロボットシステムを示す概略図
【図13】ロボットシステムの電気的接続関係を示すブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面により説明する。本実施形態におけるロボットシステムは、図12および図13に示すように、製品を搬送するコンベア(製造ライン)1の両側に設置された複数台、この実施形態では4台のロボット2〜5と、これらロボット2〜5を一括して制御する制御装置6と、制御装置6に接続された操作装置としての教示装置7とから構成されている。なお、各ロボット2〜5を区別する場合には、第1〜第4の順番号を付して説明する。
【0011】
ロボット2〜5は、いずれも6軸の垂直多関節型ロボットとして構成されている。これらロボット2〜5は、ロボットアーム先端に、ワークを把持するハンドなどのエンドエフェクタ(図示せず)が取り付けられている。そして、各ロボット2〜5は、コンベア1が1ピッチ間欠的に送られる都度、自動供給装置8から定位置に供給される部品を把持してコンベア1上に搬送し、製品に組み付けるという作業を行う。
【0012】
教示装置7は主としてロボット2〜5を手動で操作する際に使用する。この教示装置7には、各種スイッチ11、表示器(表示手段)12が設けられている。上記スイッチ11には、教示モード、自動動作モードなどのモード選択を行うためのモード選択スイッチ、4台のロボット2〜5のうちから所望する1台のロボットを選択するためのロボット選択スイッチ(選択手段)、教示モード時にロボットアームを動かすための動作指示スイッチ、自動動作モードのとき選択したロボットを停止させるための停止スイッチ(停止指示手段)などが含まれている。そのうち、図13には、ロボット選択スイッチを符号11aで、停止スイッチを符号11bで示した。
【0013】
次に、制御装置6の構成を示す図10において、各ロボット2〜5は、アームを駆動するための6台のモータ13を有し、各モータ13には、当該モータ13の回転位置を検出して制御装置6に出力するロータリーエンコーダ14が連結されている。なお、図10では、制御装置6と1台のロボットとの関係を示し、また、1台のロボットにおいてもモータ13は1台のみ示した。
【0014】
制御装置6は、CPU15、記憶手段としてのROM16およびRAM17を備える他、モータ13の駆動回路18およびロータリーエンコーダ14からの回転位置検出信号によりロボットの各アームの回転位置を検出する位置検出回路19を備えている。ROM16には、ロボット2〜5を教示装置7により作成された動作プログラムに従って自動動作させるための制御プログラム、自動動作中のロボット2〜5を教示装置7からの指示によって停止させる際の制御プログラム、ロボット2〜5の速度制御や位置制御の際に用いられる各種のデータなどが記憶されている。また、RAM17には、教示装置7により作成された動作プログラムなどが記憶される。
【0015】
CPU15は、RAM17に記憶された動作プログラムから移動軌跡を演算し、ロボットアーム先端がこの軌跡に沿って移動するように当該ロボットアーム先端の位置と速度を制御する。
具体的には、GPU15は、ロボットアーム先端の移動速度を速度パターン、例えば台形速度パターンに当て嵌めて決定する。この場合、台形速度パターンは、図8に示すように、加速域、等速域、減速域からなるが、加速域における加速度+α、等速域における速度V、減速域における減速度−αは動作プログラムに記録されたパラメータから決定される。
【0016】
そして、CPU15は、移動開始時点Sから移動終了時点Eまでの間、台形速度パターンから所定のサンプリング周期(時間)Δt経過毎の速度を算出すると共に、移動開始時点Sからの移動距離を算出する。なお、移動距離は速度の積分値(サンプリング時間Δt毎の速度とΔt時間の積の総和)として求めることができる。
【0017】
CPU15は、サンプリング時間Δt経過毎に、移動開始時点Sからの移動距離だけ移動したときの位置(座標)を移動軌跡から算出し、求めたサンプリング時間Δt経過毎のロボットアーム先端の位置(指令位置)と速度(指令速度)から、各アームの位置と速度を演算し、これを各アームのサンプリング時間Δt経過毎の目標位置および目標速度とする。そして、CPU15は、位置検出回路19から取得した各アームの現在の位置および速度が、目標位置および目標速度となるように駆動回路18を介してモータ13を制御する。以上により、ロボットアーム先端が、動作プログラムにより定められた軌跡上を、台形速度パターンに従った速度で移動するように制御される。
【0018】
ここで、台形速度パターンにおいて、加速度+α、減速度−α、等速域での速度Vはロボットアームが強度上耐え得る最大加速度、最大減速度、最高速度に一定の安全率を見込んだ許容上限加速度+αmax、許容下限減速度−αmax、許容上限速度Vmax以下に定められる。なお、モータ13はロボットアームの駆動源であるが、同時に逆転トルク制動(逆転トルクを発生して制動)によってロボットアームを制動する制動手段としても機能する。
【0019】
図9は、ロボット2〜5の自動動作時におけるロボットアーム先端の速度パターンの一例を示している。図9において、T1〜T2は上昇動作時、T2からT3は横方向移動動作時、T3〜T4は下降動作時、T4〜T5は移動動作停止時、T5〜T6は上昇動作時、T6〜T7は横方向移動動作時、T7〜T8は下降動作時、T8〜T9=T1は移動動作停止時を示している。
この図9では、T1からT5までが第1の作業動作、T5からT9までが第2の作業動作で、この2つの作業動作を1作業サイクルとしている。そして、自動動作時には、この作業サイクルを繰り返し実行する。
【0020】
この図9の1作業サイクルを各ロボット2〜4に当てはめてみる。まず、第1のロボット2および第4のロボット5は、自動供給装置8から供給されるワークを把持してT1〜T2で上昇し、T2〜T3でワークを自動供給装置8からコンベア1上に搬送し、T3〜T4でコンベアの製品までワークを下降させ、T4〜T5の移動動作停止時でワークの把持を解除する(第1の作業動作)。その後、T5〜T6でコンベア1から上方に離れ、T6〜T7でコンベア1上から自動供給装置8上まで移動し、T7〜T8で自動供給装置8により定位置に供給されたワークまで下降し、T8〜T9の移動動作停止時でワークを把持する(第2の作業動作)。
【0021】
これに対し、第2のロボット3および第3のロボット4は、T1〜T2でコンベア1から上方に離れ、T2〜T3でコンベア1上から自動供給装置8上まで移動し、T3〜T4で自動供給装置8により定位置に供給されたワークまで下降し、T4〜T5の移動動作停止時でワークを把持する(第1の作業動作)。その後、T5〜T6でワークを把持したまま上昇し、T6〜T7でワークを自動供給装置8からコンベア1上に搬送し、T7〜T8でコンベアの製品までワークを下降させ、T8〜T9の移動動作停止時でワークの把持を解除する(第2の作業動作)。
【0022】
従って、第1のロボット2と第2のロボット3、第3のロボット4と第4のロボット5とは、通常は、コンベア1に対し、一方が近付くときは、他方が遠ざかるという動作関係を保持するように制御装置6よって制御されるので、衝突の恐れはない。しかし、第1のロボット2と第2のロボット3、第3のロボット4と第4のロボット5とは、図10に示すようにコンベア1上で動作範囲(楕円で示す)を共有する領域(共有領域)Uがあるので、動作のタイミングがずれると、共有領域Uで衝突する可能性が生ずる。
【0023】
ところで、ロボット2〜5の自動動作中、例えばユーザーが異常だと感じたロボットがあった場合、異常の程度によっては、そのロボットを停止させて、点検を行うことが必要になってくる。この場合、ロボットの停止操作は教示装置7によって行う。例えば、第1のロボット2を停止させる場合、選択スイッチ11aを操作して第1のロボット2に割り当てられている番号を選択し、停止スイッチ11aを操作する。
【0024】
しかし、第1のロボット2が教示装置7上でも第1番のロボットであるかは確かではない。例えば、図11において、第1のロボット2の位置に設置されたロボットが第1番、第2のロボット3の位置に設置されたロボットが第2番に定められるとした場合、実際に工場に据え付ける際に、何らかの理由で、互いに逆の位置に設置(第1のロボット2の位置に第2のロボット3が設置、第2のロボット3の位置に第1のロボット2が設置)されることもある。この場合、第1のロボット2を停止させたいとして、第1番のロボットを選択して停止操作を行うと、第2のロボット3が停止してしまうという不具合を生ずる。
【0025】
このような不具合の発生を防止し、停止させるべきロボットを間違いなく停止させることができるようにするために、本発明では、教示装置7上で停止させるものとして選択されたロボット(操作装置上での停止対象ロボット)に、選択されたことを告知する告知動作を行わせ、ユーザーが停止させたいと思ったロボットと告知動作したロボットとが一致した場合、停止操作を行うようにしている。
【0026】
次に、ロボット2〜5の自動動作中に、1台のロボットを停止させる場合の制御装置6の制御内容を図4〜図7のフローチャートをも参照しながら説明する。自動動作モードにおいて、各ロボット2〜5は、複数の移動動作を含む複数の作業動作からなる作業サイクル、つまり図9に示された上昇・横方向移動・下降の移動動作を含む第1の作業動作と第2の作業動作からなる作業サイクルを繰り返し実行している。
【0027】
この自動動作時において、制御装置6は、各ロボット2〜5のロボットアーム先端の位置と速度を、前述のように指令位置と指令速度によって制御する図4の主制御ルーチンを実行すると共に、図5に示す停止指示対応ルーチンを実行する。図4の主制御ルーチンと、図5の停止指示対応ルーチンとは、並列処理により行われる。
【0028】
以下に停止指示対応ルーチンによる制御内容を説明する。即ち、ロボット2〜5が自動動作中にあるとき、例えば調子の悪いロボットを見つけ、そのロボットを停止させる場合、ユーザーは教示装置7の選択スイッチ11aを操作し、停止したいロボットのものと思われるロボット番号を選択する。すると、制御装置6は、図5のステップA1で「YES」と判断して告知動作準備ルーチン(告知動作準備手段)A2に移行する。この告知動作準備ルーチンA2の詳細は図6に示されている。
【0029】
告知動作準備ルーチンA2に移行すると、制御装置6は、選択されたロボット番号から停止対象ロボットを決定し、選択操作タイミング(図1(a)に示す停止対象ロボットの台形速度パターン上で時点p1)を記憶する(ステップB1)。次に、制御装置6は、現在進行中の移動動作の台形速度パターン(図1(a)のPt)を基に、所定の減速度、例えば−αmaxで減速させたとき、現在(選択操作タイミング時点p1)から停止(図1(a)の時点p2)に至るまで間の移動距離(制動距離)を演算し、当該制動距離だけ移動したときの停止位置(座標)を移動軌跡に基づいて算出する(ステップB2)。
【0030】
続いて、制御装置6は、停止位置から移動軌跡上を移動開始地点に向かって戻る方向に、所定の加速度で所定時間移動し且つその後に所定の減速度で所定時間移動したとき、例えば+αmaxで1秒間移動し且つその後に−αmaxで1秒間移動したときのサンプリング時間Δt毎のロボットアーム先端の速度と位置を台形速度パターンPtおよび移動軌跡から算出すると共に、その間にチャック開閉動作があるか否かを動作プログラムから取得し、これら速度、位置、チャック開閉の有無を過去動作記録としてRAM17に記憶する(ステップB3)。そして、制御装置6は、過去動作記録中にチャック閉じ動作が含まれているか否かを判断する(ステップB4)。
【0031】
ステップB4で「NO」のとき、制御装置6は、上記の選択操作タイミング時点p1から−αmaxで減速停止し、この停止位置(p2時点)から+αmaxで1秒間加速し且つその後に−αmaxで1秒間減速し停止(このp2時点からの加減速停止動作を揺り戻し動作と称する。)したと仮定したときの動作不足量M0を算出する(ステップB5)。ここで、揺り戻し動作で停止した位置(p3時点)から当初の移動動作の停止位置に至るまでには、当初の台形速度パターンPtによる指令速度のまま移動させた場合に比べて移動距離が不足することとなるが、動作不足量とはこの移動距離の不足量を言う。図1(a)で左下がりの斜線を付した部分の面積が動作不足量M0となる。
【0032】
次に、制御装置6は、前記p2時点での停止位置から揺り戻し動作を終了(図1(a)のp3時点)する位置までの位置指令値(座標)を、図3に示すように、新しいものから古い物に向かって順にp2時点からの新位置指令値として書き換える(ステップB6)。なお、図3において、サンプリンタイム数nがp2時点の位置で、(n+1)〜(n+3)が告知動作時の新位置指令値を示している。
続いて、制御装置6は、現在実行中の移動動作の台形速度パターンPtのうち、p1時点以降を、揺り戻し動作となるように書き換えて告知動作パターンPt´を作成し(ステップB7)、リターンとなる。
【0033】
前記ステップB4で「YES」、即ち過去動作記録中にチャック開閉がある場合、制御装置6は、ステップB8に移行して選択操作タイミング時点p1を次の移動動作の加速域開始からq時間経過後に変更し、表示器12に「しばらくお待ち下さい」のメッセージを表示(ステップB9)して前述のステップB2〜B7を実行し、リターンとなる。これは、ワークを掴んだまま閉じ動作を行う位置へ戻る動作を行うと、事故発生の恐れがあるので、これを防止するためである。また、上記選択操作タイミング時点p1を次の移動動作の加速域開始からq時間経過後とする理由は、加速開始時点から揺り戻し動作を行うことはできないからである。なお、選択操作タイミング時点p1が移動停止時であった場合には、告知動作準備ルーチンはステップB8から開始される。
【0034】
以上により告知動作準備ルーチンA2を終了し、次に復旧動作準備ルーチン(復旧動作準備手段)A3に移行する。復旧準備ルーチンA3は図7に示されている。同ルーチンに入ると、制御装置6は、まず、揺り戻し動作の停止位置からp2時点での停止位置への復帰移動のために、過去動作記録の指令位置を古いものから新しいものに向かって並べ替え、揺り戻し動作の停止位置からの新指令位置をする(ステップC1)。なお、図3において、サンプリンタイム数nが(n+4)から(n+6)までが揺り戻し動作の停止位置からの復帰移動のための新位置指令値を示している。
【0035】
次に、制御装置6は、揺り戻し動作の終了位置(p3時点)から当初移動動作の終了位置(p4時点)までの新台形速度パターンPwを次のようにして作成する(ステップC2)。つまり、加速度を所定値、例えば+αmax、減速度を所定値、例えば−αmaxに定め、そして、等速域での速度Vを当該新台形速度パターンPwの面積が前記ステップB5で求めた動作不足量M0と同じ面積になるように定めて新台形速度パターンPw作成するものである。
【0036】
次に、制御装置6は、台形速度パターンPt´の終了時点p4´について、当初台形速度パターンPtの終了時点p4からの遅れ時間Ltを算出する(ステップC3)。この場合、停止対象ロボットが現在実行中の移動動作に続く移動動作があれば、図2(a)に示すように、後続の移動動作の台形速度パターンPsについては、当初台形速度パターンPsに対し前記遅れ時間Ltだけ遅らせて新台形速度パターンPs´を作成するものである。
続いて、制御装置6は、停止対象ロボット以外のロボット(以下、他のロボットという)の作業動作の終了時点が当初よりTd時間遅れるように他のロボットのp3時点以降の台形速度パターンを書き換える(ステップC3)。p2時点で実行中の移動動作に後続する移動動作がある場合、その後続の移動動作の台形速度パターンも書き換えの対象となる。
【0037】
即ち、図1(b)に示すように、他のロボットに、p3時点で実行中の移動動作に後続する移動動作がない場合、p3時点で実行中の移動動作の台形速度パターンPuのp3時点以降について、減速域の減速線を、その終了点p6が停止対象ロボットの新台形速度パターンPwの終了点p4´に一致するようにLtだけ遅らせてp6´に移るように並行移動させ、且つ、p2時点から所定の減速度、例えば当初台形速度パターンPuにおける減速域の減速度で減速させて当初速度V1からV2に変更したとき、p2時点から減速域の減速度で減速させて当初速度V1からV2に変更することによって生じた動作不足分(左下がりの斜線を付した部分)M1と減速域の終了時点をLtだけ遅らせることによって減速域で生じた動作増加分(右下がりの斜線を付した部分)M2とが等しくなるようにV2を定める。
【0038】
以上のようにしてV2を定めた後、p3時点から減速域と同じ減速度で速度V2まで減速する減速線を作成し、そして、当該V2で等速線を引き、減速域の減速線をp6´時点で終了するように作成することで、他のロボットの新台形速度パターンPu´を作成する。
【0039】
また、図2(b)に示すように、他のロボットに、p3時点で実行中の移動動作に後続する移動動作がある場合、現在(p3時点)実行中の作業動作を含めて残りの作業動作の数がN(2以上の整数)であったとすると、p3時点で実行中の作業動作の台形速度パターンPuの終了時点p6、後続の作業動作の終了時点p7をそれぞれLt/Nだけ遅らせる。そして、現在実行中の作業動作の台形速度パターンPuを、減速線の終了時点をTd/Nだけ遅らせ、図1(b)と同様にして動作不足量M1と動作増加量M2とが等しくなるように新台形速度パターンPu´を作成する。後続する作業動作の台形速度パターンについては、加速度および減速度は当初台形速度パターンPvと同じで、加速域の開始点P6がLt/Nだけ遅れたこと、および等速域の速度がV3からV4まで減少したことによる動作不足分(左下がりの斜線を付した部分)M3と、減速域の終了点がZ・Lt/N(Zは、後続の作業動作がp2時点で実行中の作業動作を含めてZ番目のものを示す。)だけ遅れることによる増加動作量M4とが等しくなるように新台形速度パターンPv´を作成する。なお、図2(b)は後続する作業動作が1(Nは2)である場合を示している。
【0040】
このようにして新台形速度パターンを生成すると、制御装置6は復旧動作準備ルーチンを終了し、リターンとなって図5の停止指示対応ルーチンのステップA4(告知動作制御手段)に移行する。
制御装置6は、ステップA4において、ステップB7で得た告知動作パターンPt´により、p1時点からp2時点を経て揺れ戻し動作するように、停止対象ロボットのロボットアーム先端の位置・速度を制御する。停止対象ロボットは、この揺れ戻し動作を、教示装置7上で停止させるべきロボットとして選択されたことを告知する動作(告知動作)とする。
そして、この告知動作をしたロボットを見つけたユーザーは、その告知動作をしたロボットが停止させたいと思ったロボットと一致したとき、停止スイッチ11bを操作する(ステップA5で「YES」)。
【0041】
制御装置6は、告知動作の開始時点p2からの経過時間をカウントし、この経過時点が所定時間n以内に停止スイッチ11bが操作されたとき(ステップA5で「YES」、ステップA6で「YES」)、モータ13に逆転トルクを発生させて停止対象ロボットを制動停止させる(ステップA8:停止制御手段)。これにより、停止対象ロボットは移動動作の終了地点に至る前で停止する。
【0042】
告知動作開始時点p2から所定時間n以内に停止スイッチ11bの操作がなかったとき(ステップA5で「NO」)、制御装置6は、p3時点以降の停止対象ロボットの速度を、前述のステップC4で作成した図1(a)の新台形速度パターンPt´、または図2(a)の新台形速度パターンPt´およびPs´に従って制御する。また、他のロボットを、前記ステップC4で作成した図1(b)の新台形速度パターンPu´、または図2(b)の新台形速度パターンPu´およびPv´に従って制御する(ステップA7:復旧制御手段)。
【0043】
この復旧動作によって、他のロボットは速度を遅らせ、これにより停止対象ロボットの作業動作の終了時点と同じ時期に作業動作を終了するようになされる。
このように本実施形態によれば、ユーザーが教示装置7によって停止させたいと思う1台のロボットを選択すると、選択されたロボットが揺り戻し動作するので、この揺り戻し動作(告知動作)によってユーザーは教示装置7で選択した停止対象ロボットが実際にどのロボットであるかを知ることができる。そして、ユーザーが停止させたいと思ったロボットと告知動作したロボットとが一致した場合、停止スイッチ11bを操作することで、その停止させたいと思ったロボットを停止させることができる。
【0044】
また、告知動作したロボットが、ユーザーの停止させたいロボットと異なる場合、ユーザーは停止操作をしない。すると、停止対象ロボットは揺り戻し動作した分だけ他のロボットに対し動作遅れを生ずるが、他のロボットが復旧動作、つまり、他のロボットが移動動作を遅らせて、揺り戻し動作による停止対象ロボットの遅れ分だけ他のロボットも動作遅れを呈し、4台のロボット共に同じ時期に作業動作を終了するようになる。
【0045】
そして、復旧動作により、全てのロボット2〜5が同時期に作業動作を停止するので、揺り戻し動作したロボットが作業動作の停止タイミングを常とは異ならせることによって共有領域で他のロボットと衝突するという危険性の発生をなくすことができる。
【0046】
なお、本発明は上記し且つ図面に示す実施形態に限定されるものではなく、次のような拡張或いは変更が可能である。
揺り戻し動作を行う移動動作は、選択スイッチ11aを操作した際に実施されている移動動作としたが、揺り戻し動作を行う移動動作を例えば横方向への移動動作に予め定めておいても良い。
横方向への移動動作は、水平方向移動に限られず、上下方向の移動を伴っていても良い。
移動動作の速度を表わすパターンとしては、台形に限られず、三角形であっても良い。特に、移動距離が短い場合には、加速域と減速域からなる三角速度パターンの方が好ましい。
【0047】
ロボットは垂直多関節型に限られない。
他のロボットの作業動作の停止時は、停止対象ロボットの作業動作の停止時と必ずしも正確に一致する必要はない。他のロボットが停止対象ロボットと衝突することを防止できる程度に停止の時点が同じ時期であれば、停止時点のばらつきはあっても支障はない。
複数(上記実施例では4台)のロボットの各移動動作の開始時点と終了時点は、それぞれ異なっていても良いが、複数のロボットの各移動動作の開始時点(T1〜T3、T5〜T7)と終了時点(T2〜T4、T6〜T8)は互いに同じ時点であることが新台形速度パターンの形成上好ましい。
【符号の説明】
【0048】
図面中、2〜5はロボット、6は制御装置(告知動作制御手段、停止制御手段、復旧制御手段)、7は教示装置(操作装置)、11aは選択スイッチ(選択手段)、11bは停止スイッチ(停止指示手段)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の移動動作を含む複数の作業動作からなる作業サイクルを繰り返し実行する複数台のロボットと、
常には、前記各ロボットの前記各作業動作における前記各移動動作の開始点から終了点までの動作速度を、加速域から等速域を経て減速域に至る台形速度パターン、または加速域と減速域とからなる三角速度パターンに従って制御することにより、前記複数台のロボットの現在実行中の作業動作が全て同じ時期に終了するように制御する1台の制御手段と、
前記制御装置に接続され前記複数台の各ロボットに対して手動による動作指示を行うための1台の操作装置と
を備えたロボットシステムにおいて、
前記操作装置に、前記複数台のロボットのうちから所望のロボットを選択するための選択手段と、この選択手段により選択されたロボットを停止させるための停止指示手段と
を設け、
前記制御装置は、
前記複数台のロボットのうち1台のロボットが前記選択手段により前記操作装置上での停止対象ロボットとして選択されると、前記複数台のロボットのうち前記停止対象ロボットを実行中の前記移動動作または予め定められた移動動作において当該移動動作の前記開始点に向かって戻り動作させた後、前記終了点に向かって移動させる揺り戻し動作を行わせてこの揺り戻し動作を前記停止対象ロボットとしての告知動作となし、この告知動作後所定時間内に前記停止指示手段が操作された場合には、前記停止対象ロボットを停止させ、前記告知動作後所定時間内に前記停止手段が操作されなかった場合には、前記複数台のロボットのうち前記停止対象ロボットを除く他のロボットを減速して当該他のロボットの現在実行中の前記作業動作の終了時期が前記停止対象ロボットの前記告知動作を行った現在実行中の前記作業動作の終了時期と同じになるようにした
ことを特徴とするロボットの停止方法。
【請求項2】
複数の移動動作を含む複数の作業動作からなる作業サイクルを繰り返し実行する複数台のロボットと、
常には、前記各ロボットの前記各作業動作における前記各移動動作の開始点から終了点までの動作速度を、加速域から等速域を経て減速域に至る台形速度パターン、または加速域と減速域とからなる三角速度パターンに従って制御することにより、前記複数台のロボットの現在実行中の作業動作が全て同じ時期に終了するように制御する1台の制御手段と、
前記制御装置に接続され前記複数台の各ロボットに対して手動による動作指示を行うための1台の操作装置と
を備えたロボットシステムにおいて、
前記操作装置に、前記複数台のロボットのうちから所望のロボットを選択するための選択手段と、この選択手段により選択されたロボットを停止させるための停止指示手段と
を設け、
前記制御装置に、
前記複数台のロボットのうち1台のロボットが前記選択手段により前記操作装置上での停止対象ロボットとして選択されると、前記複数台のロボットのうち前記停止対象ロボットを実行中の前記移動動作または予め定められた移動動作において当該移動動作の前記開始点に向かって戻り動作させた後、前記終了点に向かって移動させる揺り戻し動作を行わせてこの揺り戻し動作を前記停止対象ロボットとしての告知動作となす告知動作制御手段と、
前記告知動作後所定時間内に前記停止指示手段が操作されたとき、前記停止対象ロボットを停止させる停止制御手段と、
前記告知動作後所定時間内に前記停止手段が操作されなかったとき、前記複数台のロボットのうち前記停止対象ロボットを除く他のロボットを減速して当該他のロボットの現在実行中の前記作業動作の終了時期が前記停止対象ロボットの前記告知動作を行った現在実行中の前記作業動作の終了時期と同じになるように制御する復旧制御手段と
を設けたことを特徴とするロボットシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−71235(P2013−71235A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214512(P2011−214512)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(501428545)株式会社デンソーウェーブ (1,155)
【Fターム(参考)】