説明

ロボット・シーム溶接方法と装置

【課題】大きな質量や体積のワークの自動シーム溶接を可能にするロボット・シーム溶接方法と装置を提供すること。
【解決手段】ロボット・シーム溶接装置は、多関節ロボット1と、このロボットに搭載した一対の回転電極輪3a,3bとを含む。これら電極輪は被溶接物7または17を挟み、ロボット1が予め教示された被溶接物の溶接線9に沿って電極輪3a,3bを移動させながら、電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。可動の被溶接物支持テーブル5,6が設けられ、溶接線が電極輪3a,3bの溶接動作範囲に入るように被溶接物7または17を動かす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多関節ロボットを用いて被溶接物(以下、ワーク)にシーム溶接を行う方法と装置(以下、ロボット・シーム溶接方法と装置)に係り、特に、ロボットで把持するには大き過ぎる質量や体積のワークに適したロボット・シーム溶接方法と装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シーム溶接は、回転する一対の電極輪でワークを挟んで加圧し、ワークを電極輪の回転に合わせて移動させつつ、電極輪間に溶接電流を連続的に通電して溶接を行う。このようなシーム溶接は、気密性を要する容器類の接合に適していて、例えば自動車の燃料タンクの製造に用いられる。
このシーム溶接を自動化するものとして、定置式のシーム溶接機に、ワークを把持するロボットを併設したシーム溶接装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平07−241684号公報
【0003】
しかしながら、ロボットの可搬範囲を超えた質量のワークや、ロボットのアーム以上の長さを持つワークに対してはロボットを適用することができず、専用の倣い装置が必要となる。そのため、ワークの形状が異なる毎にワーク固定治具および倣い治具を製作しなければならず、特に倣い治具については、製作に多大な費用と期間が必要となる。
【0004】
これに対して、自動車の車体にシーム溶接を行うことを目的として、1対の対向回転溶接ローラを含む溶接ヘッドをロボットに取り付けたワイヤシーム溶接装置がある(例えば、特許文献2を参照)。しかし、係る構成であっても、ワークの大きさによっては、ロボットのアームが溶接ヘッドに適切な姿勢を採らせることができない。
このように、従来の装置では、1台のロボットを用いて大きなワークのすべての溶接線を溶接することが困難である。
【特許文献2】特開平09−234566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、大きな質量や体積のワークに対しても自動化したシーム溶接を可能にするロボット・シーム溶接方法と装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるロボット・シーム溶接方法では、多関節ロボットに搭載した一対の回転電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪が予め教示された被溶接物の溶接線に沿って移動するようにロボットを動かしながら、電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。この方法は、溶接線が電極輪の溶接動作範囲に入るように被溶接物を移動させることを特徴とする。
【0007】
また、本発明によるロボット・シーム溶接装置は、多関節ロボットと、このロボットに搭載した一対の回転電極輪とを含み、これら電極輪で被溶接物を挟んで、電極輪が予め教示された被溶接物の溶接線に沿って移動するようにロボットを動かしながら、電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行う。この装置は、溶接線が電極輪の溶接動作範囲に入るように被溶接物を動かす可動の被溶接物支持テーブルを設けたことを特徴とする。
【0008】
被溶接物の移動は、溶接中にロボットの移動と同期して行うことが好適である。こうすることにより、被溶接物の溶接部位を連続的に電極輪の溶接動作範囲に入れて、溶接を中断することなく連続して行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
これらの方法および装置によると、多関節ロボットによる電極輪の溶接動作範囲に溶接線が入るように被溶接物を移動させるので、ロボットの可搬質量を超えた質量のワークや、ロボットアーム長さ以上の長さのあるワークに対しても、従来要した専用の倣い装置などを用いること無く、自動シーム溶接が可能である。そのため、この種のワークの溶接作業効率を大きく向上することができる。
また、本発明によると、大小各種のワークを作業対象とし得るので、汎用的なロボット・シーム溶接装置を比較的安価に提供することができる。
【実施例】
【0010】
以下、添付図面に示す実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施例によるロボット・シーム溶接装置を示している。この装置は、多関節ロボット1と、ワーク7を支持するためのテーブル5と、この装置の動作を制御するロボット制御ユニット8とを有する。
【0011】
ロボット1は、アーム先端に溶接ヘッド2を搭載している。溶接ヘッド2は、移動可能に設けた電極輪3aと、この可動電極輪を受ける定置側の電極輪3bと、それぞれの電極輪を駆動するモータ4a,4bと、これらモータを電極輪につなぐ減速機およびドライブシャフト(図示なし)とを備えている。加えて、溶接ヘッド2には、電極輪3aを電極輪3bに対して押し付けてワーク7の溶接部分を挟むための加圧動作を行うエアシリンダ等の加圧機構を設けており、電極輪3aは、この加圧機構に接続している。
溶接ヘッド2にはまた、電極輪に溶接電流を通すための溶接トランス(図示なし)を設置しているが、この溶接トランスは溶接ヘッドの外に設けてもよい。溶接電流を制御する溶接機(図示なし)は定置している。
【0012】
テーブル5は、ロボット1と同じ基礎床面に設置され、サーボ制御の下に回転可能となっている。テーブル5上に、サーボ制御で水平方向に移動可能なXYテーブル6が搭載されている。XYテーブル6は固定具を備え、このテーブル上に載せられたワーク7を保持する。
本実施例では、ワーク7の支持用に2つのテーブル5,6を設けているが、溶接作業を行うのに必要なければ、回転テーブル5またはXYテーブル6のうちのいずれか一方を省いてもよい。また、基礎床面に平行な軸を中心に回動してワーク7を傾けるように構成したテーブルを、上記支持テーブルの一部として設けることもできる。
【0013】
ロボット制御ユニット8は、予めロボット1に教示した、ワーク7の溶接に必要な移動経路やテーブル5,6の位置、ワーク7の溶接部位、速度などの溶接条件を含む動作プログラムを内蔵し、このプログラムを再生し、動作指令をロボット1やテーブル5,6に発して運転制御を行う。
【0014】
続いて、本例の装置によるシーム溶接作業を説明する。
この作業では、ワーク7を、ロボット1のアームの移動だけで溶接が行える位置に回転テーブル5およびXYテーブル6により移動させて、溶接を行う。例えば、ワーク7が四角形で、その4辺を一辺ずつ溶接する場合、ロボット制御ユニット8は、まず最初の一辺を溶接するための位置にロボット1を移動させ、ワーク7の一辺上の溶接開始点を、ロボット1に搭載した溶接ヘッド2の電極輪3a,3bの間に位置決めする。次いで、電極輪3aを電極輪3bへ向けて押し付けて、ワーク7の溶接部分をこれら電極輪の間に挟む。
【0015】
ワークの挟持が完了したら、制御ユニット8は、電極輪3a,3bがワーク7の一辺の溶接線に沿って動くようにロボット1の移動を開始させ、同時に電極輪3a,3bの回転を始める。また、ロボットおよび電極輪の動作開始と同時に、シーム溶接機に対して溶接信号および溶接条件信号を出力し、ワーク7の一辺のシーム溶接を行う。
【0016】
電極輪3a,3bが溶接終了位置に到達すると、ロボット制御ユニット8は、溶接信号および溶接条件信号をオフさせ、ロボット1と電極輪3a,3bを停止させる。その後、電極輪3aの加圧を止めてワーク7を解放し、ロボット1を移動させて、回転テーブル5およびXYテーブル6の動作に干渉しない位置に退避させる。制御ユニット8は、ロボット1の退避が完了したら、回転テーブル5を90度旋回させ、さらに、XYテーブル6の駆動により、ワーク7をロボット1の動作範囲内となる位置に移動させる。
こうして、ワーク7は次の一辺の溶接が可能な状態となり、上述した電極輪3a,3bの位置決め動作を経て、装置は溶接を再開する。その後、同様な作業をワーク7の残る二辺に行うことにより、ワーク7のシーム溶接が完了する。
【0017】
次に、上述したロボット・シーム溶接装置の変更例を説明する。
この変更例は、溶接作業中にワークの支持テーブルも動かしてワークのすべての溶接部位を連続的にシーム溶接可能にするものである。本例ではこのような変更をロボット制御ユニットの動作プログラムで行っており、装置の構成要素は図1の実施例と同様でよい。
以下の説明では、変更点のみを延べ、同様な構成部分については同じ参照符号を用いて詳細な説明と図示を省略する。
【0018】
本例のロボット制御ユニット8には、予め、ロボット1、回転テーブル5およびXYテーブル6の物理的な位置関係を登録し、連続したシーム溶接を行うように教示された溶接軌跡を維持するためにロボット1、回転テーブル5、XYテーブル6がどのように動作すべきかを計算できるようにする。
本例では、図2に示すワーク17の周囲フランジ上の溶接線9をシーム溶接する。このとき、ロボット1の溶接動作可能範囲は点線10の内側であるものとする。
【0019】
図3に、本例のロボット1とテーブル5,6の溶接作業時の動作状況を示す。図中の参照符号11は、溶接ヘッド2の位置(電極輪3a,3bとワーク17の接触点)を示している。
まず、図3左上のワーク17の位置からシーム溶接を開始し、ロボット1を作動させて溶接ヘッド2をX方向に移動させる。ロボット1の移動と同時にXYテーブル6を−X方向に動作させる。その結果、溶接の進行に従って、ロボット1の溶接動作可能範囲10がワーク17の溶接部位に沿って移動する。
このとき、溶接速度はロボット1の移動速度+XYテーブル6の移動速度となるが、ロボット制御ユニット8でXYテーブル6も制御するため、ロボット動作プログラムを教示する際に溶接速度のみを記録することで、自動的にロボット1の移動速度+XYテーブル6の移動速度が溶接速度となる。
【0020】
ワーク17の最初の一辺を溶接し終わると、制御ユニット8は、そのままロボットアームを動かして溶接ヘッド2の姿勢を変更しながら、Y方向に溶接ヘッド2を移動させて、溶接を続行する。前述したX方向への溶接と同様に、Y方向に動作する場合も、ロボットアームにより溶接ヘッド2をY方向に移動させ、同時にXYテーブル6を−Y方向に動かす。以下、同様の動作をワーク17の残りの二辺について行うことで、ワーク17の周囲フランジ面をすべて一度に連続して溶接することができる。
なお、この例では、XYテーブル6のみを動作させているが、ワークの姿勢などに応じて適宜回転テーブル5を動作させてもよい。
【0021】
このように、多関節ロボットに溶接ヘッドを搭載することに加えてワーク支持テーブルを可動にすることにより、質量や体積が大きくて、従来のロボット・シーム溶接装置の適用が困難であったワークについても、シーム溶接の自動化が可能になる。
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明はこれら特定の形態のみに限定されるものではなく、添付した特許請求の範囲に記載する定義内で、説明した形態に種々の変更を加えることができ、或いは本発明が他の形態を採ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例によるロボット・シーム溶接装置の全体を概略的に示す図。
【図2】図1の装置の変更例における溶接作動範囲とワークの関係を示す図。
【図3】図2の変更例の動作を説明するための図。
【符号の説明】
【0023】
1 多関節ロボット
2 溶接ヘッド
3a,3b 電極輪
5 回転テーブル
6 XYテーブル
7,17 ワーク(被溶接物)
8 ロボット制御ユニット
9 溶接線
10 溶接動作範囲
11 溶接ヘッドの位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多関節ロボットに搭載した一対の回転電極輪で被溶接物を挟み、これら電極輪が予め教示された被溶接物の溶接線に沿って移動するようにロボットを動かしながら、電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行うロボット・シーム溶接方法において、
溶接線が電極輪の溶接動作範囲に入るように被溶接物を移動させることを特徴とするロボット・シーム溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、溶接中にロボットの移動と同期して被溶接物の移動を行って連続的に溶接する、ロボット・シーム溶接方法。
【請求項3】
多関節ロボットと、このロボットに搭載した一対の回転電極輪とを含み、これら電極輪で被溶接物を挟んで、電極輪が予め教示された被溶接物の溶接線に沿って移動するようにロボットを動かしながら、電極輪に溶接電流を通して被溶接物のシーム溶接を行うロボット・シーム溶接装置において、
溶接線が電極輪の溶接動作範囲に入るように被溶接物を動かす可動の被溶接物支持テーブルを設けたことを特徴とするロボット・シーム溶接装置。
【請求項4】
請求項3に記載の装置であって、ロボットと支持テーブルの動作を制御する制御ユニットをさらに備え、この制御ユニットは、溶接中にロボットの移動と同期して支持テーブルを動かす、ロボット・シーム溶接装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−82089(P2006−82089A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266277(P2004−266277)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】