説明

ロボット制御装置

【課題】正確にパンチ先端の位置及びワークを把持するロボットのハンドの位置を予測し、ロボットハンドを移動させることができ、安定したプレス加工を行うことができる産業用ロボット制御装置を提供。
【解決手段】位置検出器でパンチが動作するパンチ速度vを演算し、
パンチ速度vにおけるパンチの位置PBに対応したハンドの位置 TBaに補正する補正量
f(v)= TBa−TB を算出するパンチ速度vにおける演算遅れに対する補正量f(v)を演算し、TBの位置に対するサーボ遅れ演算を
f(s)= TBa×位置ループゲイン×1/(1−T)とし(ただしTはサーボの積分定数)て演算し、ロボットのサーボ遅れを一次遅れで近似して求め、
最終同期位置 TB"=同期演算部で演算された予想位置TB+f(v)+f(s)
として、最終同期位置 TB"を演算するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボットを使用したプレスブレーキにおいて、ワークをハンドリングしながらプレスブレーキによる薄板加工を行うロボットの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の産業用ロボットを使用したプレスブレーキにおいて、ワークをハンドリングしながらプレスブレーキによる薄板加工を行うロボットの制御装置では、プレス加工開始位置をロボットの制御装置に教示してプレスへのローディング作業を行うが、ワークの大きさ、ダイの深さなどにより、プレス加工終了位置を教示することができなかった。仮にこれを予測できたとしても、プレスのパンチの降下速度にワークをハンドリングしたロボットのハンド位置が同期するようにされていないため、安定したプレス加工作業ができなかった。従来の産業用ロボット制御装置としては例えば特許文献1に開示するような、ワークを把持するロボットのハンドに特殊な機構をもたせ、プレス加工開始位置でパンチがワークをプレスし始めると、ロボットのハンドはワークを把持しながらロボットのアーム先端から分離してロボットのハンドだけがワークに吸着して追随してプレス加工が行われ、プレス加工が終了するとロボットのハンドがロボットのアーム先端に戻されるようにし、プレス加工中のワークに負荷がかからないようにしたものがある。又、例えば特許文献2に開示するように、ワークを把持するロボットのハンドの軌跡として複数の点を、プレスブレーキのパンチ、ダイの溝、ワークを把持するロボットのハンドのNCデータ、ロボットの制御データ、及びプレス加工開始時のパンチ先端位置PAとロボットのハンド位置TAを入力して、図4のプレスブレーキのパンチ先端位置とロボットのハンド位置との関係を示す説明図でみたパンチの予想位置 PB,PCに対応したハンドの予想位置 TB,TCをロボットの制御装置で演算し、このハンドの予想位置 TB,TCに沿ってロボットのハンドを追従動作させることが提案されてきた。
【特許文献1】特開平7−116973号公報
【特許文献2】特開平6−122025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に産業用ロボットを使用したプレスブレーキにおいて、ワークをハンドリングしながらプレス加工を行うロボットを制御するためには、正確にパンチ先端の位置及びワークを把持するロボットのハンドの位置を予測し、ロボットハンドを移動させる必要がある。また加工精度を維持するためには、パンチ、ダイの溝に対しワークが常に正確な位置が保持される必要がある。特許文献1に開示するものでは、プレス加工開始位置でロボットのハンドはロボットのアーム先端から分離するので、パンチ、ダイの溝に対するワークの正確な位置を常に保持することができないので、加工精度を維持することができない。又、特許文献2に開示するような手段を用いても、ロボットはサーボ制御されており、パンチの位置をリアルタイムに監視し、検出したパンチの位置に対応したハンドの予想位置を演算し、指令値としてロボットに指令しても、サーボ制御装置のサーボ遅れによりロボットの動作が遅れるので、ハンドの位置がずれてワークやハンドに負荷がかかり、ワークの腰折れなどの不具合があった。
【0004】
本発明の課題は、かかる従来技術の課題を解決した、産業用ロボットを使用したプレスブレーキにおいて、ワークをハンドリングしながらプレス加工を行うロボット制御において、パンチ、ダイの溝に対しワークが常に正確な位置に保持されながら、正確にパンチ先端の位置及びワークを把持するロボットのハンドの位置を予測し、ロボットハンドを移動させることができ、安定したプレス加工を行うことができる産業用ロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このため本発明によると、プレスブレーキの本体に設けられパンチの位置を検出する位置検出器、及び、ワークを把持するロボットのハンドの軌跡を、プレスブレーキのNCデータ、ワークを把持するロボットの諸元データを入力して、プレス加工時のパンチ先端の位置に対応したハンドの位置を演算する同期演算部、を有し、
前記位置検出器でパンチの現位置PBを検出し、
前記位置検出器で検出したパンチの現位置PBデータを前記同期演算部に入力してパンチの現位置PBに対応し追従したハンドの指令位置TBを演算し、前記ハンドの指令位置TBをサーボ制御装置に入力してロボットのハンドを追従動作させ、
前記位置検出器で前記パンチが動作するパンチ速度vを演算し、
前記追従動作させるサーボ制御装置の動作遅れを予め経験値として入力されたパンチ速度vと補正量(rad又はmm) とのテーブルから、前記パンチ速度vにおけるパンチの位置PBに対応したハンドの位置 TBaに補正する補正量 f(v)= TBa−TB を算出するパンチ速度vにおける演算遅れに対する補正量f(v)を演算し、
TBの位置に対するサーボ遅れ演算を
f(s)= TBa×位置ループゲイン×1/(1−T)とし(ただしTはサーボの積分定数)て演算し、
ロボットのサーボ遅れを一次遅れで近似して求め、
最終同期位置 TB"=同期演算部で演算された予想位置TB+f(v)+f(s)
として、最終同期位置 TB"を演算するようにしたことを特徴とする産業用ロボット制御装置によって上述の本発明の課題を解決した。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、位置検出器でパンチが動作するパンチ速度vを演算し、
追従動作させるサーボ制御装置の動作遅れを予め経験値として入力されたパンチ速度vと補正量(rad又はmm) とのテーブルから、前記パンチ速度vにおけるパンチの位置PBに対応したハンドの位置 TBaに補正する補正量 f(v)= TBa−TB を算出するパンチ速度vにおける演算遅れに対する補正量f(v)を演算し、
TBの位置に対するサーボ遅れ演算を
f(s)= TBa×位置ループゲイン×1/(1−T)とし(ただしTはサーボの積分定数)て演算し、ロボットのサーボ遅れを一次遅れで近似して求め、
最終同期位置 TB"=同期演算部で演算された予想位置TB+f(v)+f(s)
として、最終同期位置 TB"を演算するようにしたので、サーボ制御装置のサーボ遅れが補正され、正確にパンチ先端の位置及びワークを把持するロボットのハンドの位置を予測し、ロボットハンドを移動させることができ、プレスとの同期ずれがないロボットを可能にし、パンチ、ダイの溝に対しワークが常に正確な位置に保持されながら、安定したプレス加工を行うことができる産業用ロボット制御装置を提供するものとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明を実施するための最良の形態につき図1を参照して説明する。図1(a)は産業用ロボットを使用したプレスブレーキによるプレス加工システムの概念図、図1(b)は本発明を実施するための最良の形態の産業用ロボット制御装置が使用されるプレスブレーキのパンチとワークを把持するロボットのハンドとの位置関係を加工前の状態で示す説明図、図1(c)は図1(b)と同様なプレスブレーキのパンチとワークを把持するロボットのハンド位置との関係をプレス加工時の状態で示す説明図、図2は本発明の産業用ロボット制御装置のフローチャート、図3は図2のフローチャートで使用されるパンチ速度vにおけるパンチの位置PBに対応したハンドの位置 TBaに補正する補正量を算出するテーブル、図4は図1(c)のプレス加工時のパンチ先端の位置とワークを把持するロボットのハンドの位置とのそれぞれの軌跡を示す説明図である。
【0008】
図1(a)に示すように、プレス加工システムはプレスブレーキ10、プレスブレーキのNC装置13、ロボット11、ロボットコントローラ12からなる。プレスブレーキにはプレスブレーキ本体17にパンチ2及びパンチ2の位置を検出するパンチ位置検出器1が設けられ、テーブル15にバックストッパ16及びダイ4が設けられており、ロボットはアーム先端6に支持されたハンド5を有する。図1(b)のプレス加工前のプレスブレーキのパンチとワークを把持するロボットのハンドとの位置関係に示すように、パンチ2の下方のダイ4の溝7上にロボットのアーム先端6に軸61の回りに回転可能に支持されたハンド5の吸着部51に吸着されて把持されたワーク3が位置決めされて置かれている。図1(c)に示すように、パンチ2が下降しパンチ先端21がワーク3をダイ4の溝7に押し付けてプレス加工が行われる。実線で示すパンチ下降途中の状態では、パンチ先端21とハンドの位置52とは直線上にあり、図4に示すように、ダイ4の溝7の縁部8を支点として、パンチ先端21位置とハンドの位置52とはPA〜PC、TA〜TCのような軌跡を描き、ロボットのハンドの位置52はワーク3の曲げ動作に追従して動作するよう制御される。
【0009】
プレス加工前に、プレスブレーキのNC装置13にはワーク、ダイなどのNCデータが入力され、NC装置13はこれらデータに基づきプレスブレーキ10を駆動するNCプログラムを自動作成し、NCプログラムに沿ってプレスブレーキ10を駆動する。ロボットコントローラ12には、パンチ先端21の軌跡位置 (PA〜PC) に対応するハンドの軌跡位置 52(TA〜TC) を補間演算するに必要な、前記ワーク、ダイなどのNCデータ、ロボット諸元データが入力され、ロボットコントローラ12はこれらデータに基づきロボット11を駆動するロボットプログラムを自動作成し、ロボットプログラムに沿ってロボット11を駆動する。
【0010】
図2の本発明の産業用ロボット制御装置のフローチャートに沿ってパンチ先端21の下降位置に対するワークを把持するハンドの位置52を同期演算する手順を図4のパンチ先端21位置とハンドの位置52とのPA〜PC、TA〜TCのような軌跡の説明図を参照して説明する。
図4に示すように、パンチ先端21位置がPAに、ハンドの位置52がTAに、あるときからスタートする。
ステップS1で、パンチ先端21がPAからPBに下降すると、パンチ2に取り付けられた位置検出器1からの信号がカウンター回路18に入力され、カウンター回路18のデータに変換され、それをロボットコントローラ12の位置制御部に入力され、読み取ったパンチの現位置PBを演算する。
ステップS2で、パンチの現位置PBデータを、同期演算部に入力し、同期演算部では、プレスブレーキのNCデータ、ワークを把持するロボットの諸元データ、及びプレス加工開始時のパンチ先端位置PAとロボットのハンド位置TAを入力して、パンチ先端の現位置PBに対応したハンドの位置TBを演算する。
その結果はサーボ指令TBとしてサーボ制御部に送られ、ロボットが同期動作を行う。 ここまでは、特許文献1などに記載する従来技術である。しかしながらかかる従来技術では、サーボ制御部のサーボ遅れが存在し、同期すべきハンドの位置TBから進んだ位置 TB"まで動作してしまい、ハンドの位置TBが位置 TB"までずれてしまう。
即ちロボットの動作する軌跡は、図4のパンチ先端21の位置がPA-PB-PCと下降していくと、ロボットが動作すべきハンドの位置の軌跡は「TA-TB-TC」を描く。パンチ先端21がPAの位置にあるときに、位置検出器1から読み取ったパンチ2の現位置PBから同期演算部で演算された結果のハンドの予想位置TBを演算するが、その位置TBをサーボ制御部に送りロボットが実際に追従するときは、ハンドの位置52は TB"の位置へ移動するために実際のロボットハンドの位置はTBから TB"までずれてしまう。
【0011】
本発明では、以下の手順で最終同期位置 TB"演算を実施する。
まずステップS3で、パンチの先端21がPAの位置にあるときに、パンチ2の動作しているパンチ速度vを算出する。
ステップS4で、ロボットコントローラ12のサーボ遅れ補正演算部に追従動作させるサーボ制御装置の動作遅れを予め経験値として入力された、図3に示すようなパンチ速度vと補正量(rad又はmm) とのテーブルから、パンチ速度vにおけるパンチの位置PBに対応したハンドの位置 TBaに補正する補正量 f(v)= TBa−TB を算出するパンチ速度vにおける演算遅れに対する補正量f(v)を演算し、
ステップS5で、TBの位置に対するサーボ遅れ演算を
f(s)= TBa×位置ループゲイン×1/(1−T)とし(ただしTはサーボの積分定数)て演算し、
ロボットのサーボ遅れを一次遅れで近似して求め、
最終同期位置 TB"=同期演算部で演算された予想位置TB+f(v)+f(s)
として、最終同期位置 TB"を演算する。
その後でサーボ指令 TB"を入力し実行させる。
これにより、パンチの先端21がPBの位置にあるときに、最終同期補正位置 TB"がサーボに指令されることで、サーボ遅れが補正され、プレスとの同期ずれがないロボットが可能となる。
〔本発明の最良の実施形態の効果〕
【0012】
本発明の最良の実施形態では位置検出器でパンチが動作するパンチ速度vを演算し、
追従動作させるサーボ制御装置の動作遅れを予め経験値として入力されたパンチ速度vと補正量(rad又はmm) とのテーブルから、前記パンチ速度vにおけるパンチの位置PBに対応したハンドの位置 TBaに補正する補正量 f(v)= TBa−TB を算出するパンチ速度vにおける演算遅れに対する補正量f(v)を演算し、
TBの位置に対するサーボ遅れ演算を
f(s)= TBa×位置ループゲイン×1/(1−T)とし(ただしTはサーボの積分定数)て演算し、ロボットのサーボ遅れを一次遅れで近似して求め、
最終同期位置 TB"=同期演算部で演算された予想位置TB+f(v)+f(s)
として、最終同期位置 TB"を演算するようにしたので、サーボ制御装置のサーボ遅れが補正され、正確にパンチ先端の位置及びワークを把持するロボットのハンドの位置を予測し、ロボットハンドを移動させることができ、プレスとの同期ずれがないロボットを可能にし、パンチ、ダイの溝に対しワークが常に正確な位置に保持されながら、安定したプレス加工を行うことができる産業用ロボット制御装置を提供するものとなった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は産業用ロボットを使用したプレスブレーキによるプレス加工システムの概念図、(b)は本発明を実施するための最良の形態の産業用ロボット制御装置が使用されるプレスブレーキのパンチとワークを把持するロボットのハンドとの位置関係を加工前の状態で示す説明図、(c)は(b)と同様なプレスブレーキのパンチとワークを把持するロボットのハンド位置との関係をプレス加工時の状態で示す説明図。
【図2】本発明の産業用ロボット制御装置のフローチャート。
【図3】図2のフローチャートで使用されるパンチ速度とワークを把持するロボットのハンドの位置補正量との関係を示すテーブル。
【図4】図1(c)のプレス加工時のパンチ先端の位置とワークを把持するロボットのハンドの位置とのそれぞれの軌跡を示す説明図である。
【符号の説明】
【0014】
1:位置検出器 2:パンチ 3:ワーク 5:ロボットのハンド 6:ロボットのアーム f(v) :パンチ速度vにおける演算遅れに対するサーボ遅れ補正量
TB":最終同期位置 v:パンチ速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスブレーキの本体に設けられパンチの位置を検出する位置検出器、及び、ワークを把持するロボットのハンドの軌跡を、プレスブレーキのNCデータ、ワークを把持するロボットの諸元データを入力して、プレス加工時のパンチ先端の位置に対応したハンドの位置を演算する同期演算部、を有し、
前記位置検出器でパンチの現位置PBを検出し、
前記位置検出器で検出したパンチの現位置PBデータを前記同期演算部に入力してパンチの現位置PBに対応し追従したハンドの指令位置TBを演算し、前記ハンドの指令位置TBをサーボ制御装置に入力してロボットのハンドを追従動作させ、
前記位置検出器で前記パンチが動作するパンチ速度vを演算し、
前記追従動作させるサーボ制御装置の動作遅れを予め経験値として入力されたパンチ速度vと補正量(rad又はmm) とのテーブルから、前記パンチ速度vにおけるパンチの位置PBに対応したハンドの位置 TBaに補正する補正量 f(v)= TBa−TB を算出するパンチ速度vにおける演算遅れに対する補正量f(v)を演算し、
TBの位置に対するサーボ遅れ演算を
f(s)= TBa×位置ループゲイン×1/(1−T)とし(ただしTはサーボの積分定数)て演算し、
ロボットのサーボ遅れを一次遅れで近似して求め、
最終同期位置 TB"=同期演算部で演算された予想位置TB+f(v)+f(s)
として、最終同期位置 TB"を演算するようにしたことを特徴とする産業用ロボット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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