説明

ロボット制御装置

【課題】操作者の操作によりワークを所望の姿勢や位置に移動させ易くすること。
【解決手段】操作レバーの操作によりロボット装置のツールセンターポイントを旋回させる際の回転中心となる回転軸を、回転軸切換スイッチのオンオフ状態の切り換えによって、ワーク101の中央に設定された第1の回転軸θ1と、ワーク101の右上の取付孔101dに設定された第2の回転軸θ2との間で切り換える。ワーク101の取付孔101dがボード201の取付ピン201dに対向する位置にワーク101を移動させた状態で、回転軸切換スイッチ11をオフからオンに切り換え、操作レバー8を右方向に傾動させてワーク101をボード201に対して右回転させると、ワーク101の取付孔101dがボード201の取付ピン201dに対向する位置を保ったまま、ワーク101の他の取付孔101a〜101cが対応するボード201の取付ピン201a〜201cに近づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークをツールでグリップするロボットを操作子の操作によって駆動する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2つの部品を相互に位置合わせしてはめ合う作業は、いかなる分野の組み立て作業においても存在する。例えば、車両の製造ライン等において、作業員が一人では運べないほど重たいワークや長尺のワークをはめ合う場合は、従来から以下のような方法や装置を用いている。
【0003】
第1は、非特許文献1に見られるような、クレーンやパワーアシスト、リフトアシストといった装置の利用である。つまり、ワークの重力方向の荷重の大半を装置に負担させて、作業員が負担するワークの荷重を軽くするというものである。この場合、作業員は装置を自力で押したり引いたりして動かしながら、ワークを所望の姿勢や位置に動かし、組付対象にはめ合わせることになる。
【0004】
第2は、ワークや組付対象の姿勢や位置をセンサで計測できるロボット装置による作業工程の全自動化である。この場合、作業員はワークの取り扱い作業から完全に解放される。
【0005】
第3は、作業員によって操作可能なロボットやアクチュエータを有するハンドガイド装置やパワーアシスト装置の利用である。この場合は、装置によってワークの重力方向の荷重が負担されるだけでなく、組付対象に対するワークの姿勢や位置合わせがロボットやアクチュエータによって行われる。したがって、作業員は単にロボットやアクチュエータの操作を行えば良いことになる。そのような装置は、例えば、特許文献1〜3や非特許文献2に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3872387号公報
【特許文献2】特開2008−194758号公報
【特許文献3】特開2008−213119号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】アイコクアルファ株式会社ホームページRH事業部(http://www.aikoku.co.jp/rh/index.html)
【非特許文献2】JIS B 8433:2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した第1の方式では、ワークの重力方向の荷重が装置によって負担されても、それ以外の方向については、作業員が自力で装置を動かした際に、ワークの荷重に応じた慣性力が装置に働いてそれが作業員に反力となって返ってくる。したがって、作業員がワークを所望の姿勢や位置に動かそうとしても、意図した姿勢や位置でワークを正確に止めることは難しい。そのため、ワークを組付対象に対して所望の姿勢や位置に合わせづらいという問題がある。
【0009】
次に、上述した第2の方式では、ワークや組付対象の形状が複雑でそれらの姿勢や位置をセンサで正確に計測できない場合があったり、計測失敗により装置が停止することで装置の稼働率が下がるという問題がある。また、この種の計測を行うために高度かつ高価なセンサが必要であったり、センサを配置するスペースがなくワークや組付対象の姿勢や位置をそもそもセンサで計測できない場合がある。したがって、ロボット装置による作業工程の全自動化が必ずしも実現できるとは限らない。
【0010】
また、全自動化が実現できた場合であっても、ワークや組付対象の姿勢や位置の計測精度が十分でないと、実際の姿勢や位置からずれた姿勢や位置のワークにロボット装置がアプローチする可能性がある。実際にそのような事象が起こると、ロボット装置が動作エラーにより短時間停止する「チョコ停」の発生が増えて、ロボット装置の稼働率が下がってしまう。
【0011】
その点、上述した第3の方式は、第1及び第2の各方式に比べて有利である。つまり、第1の方式のように作業員が装置を自力で動かす訳ではないから、ワークから装置に作用する慣性力が作業員に返ってくることもない。したがって、ロボットやアクチュエータを操作する作業員にとってワークを組付対象に対して所望の姿勢や位置に合わせるのは容易になる。
【0012】
また、作業員がワークや組付対象の姿勢や位置を自ら判断してロボットやアクチュエータを操作することから、ワークや組付対象の姿勢や位置を誤って認識することに起因する「チョコ停」のようなトラブルは、センサによりワークや組付対象の姿勢や位置を計測してロボット装置を全自動で動かす場合よりも、発生しにくくなる。
【0013】
但し、ハンドガイド装置やパワーアシスト装置を用いてワークを組付対象に組み付ける場合、ワークの全ての部分が同時に所望の姿勢や位置になるように作業員が装置を動かすのは極めて難しい。実際には、装置を動かしているうちにワークのどこか一部分が所望の姿勢や位置となったところで、その部分を目安にして、残りの部分が所望の姿勢や位置となるように装置を動かすことになる。
【0014】
その場合、ワークのどこか一部分が所望の姿勢や位置となった後、ワークの残りの部分を所望の姿勢や位置とするように装置を動かすと、せっかく所望の姿勢や位置となったワークの一部分が組付対象に対して移動してしまうことが多い。そうなってしまうと、ワークの組付対象に対する組み付け作業を最初からやり直さなければならない。
【0015】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、操作者の操作によりワークを所望の姿勢や位置に移動させ易くすることができるロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明のロボット制御装置は、
ワークをツールでグリップするロボットを操作子の操作によって駆動させる制御を行う装置であって、
前記ワークを回転させるための前記操作子の操作時に、所定の回転軸を回転中心として前記ワークが回転するように前記ロボットを駆動させる回転駆動信号を生成する信号生成手段と、
前記所定の回転軸の切換指示が入力される切換指示手段と、
前記切換指示手段に前記切換指示が入力される度に、前記信号生成手段が前記回転駆動信号の生成時に前記所定の回転軸とする回転軸を、それまでの回転軸とは位置が異なる別の回転軸に切り換える回転軸切換手段と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項1に記載した本発明のロボット制御装置によれば、切換指示手段に切換指示が入力されると、信号生成手段が回転駆動信号の生成時に所定の回転軸とする回転軸が、それまでとは位置が異なる別の回転軸に、回転軸切換手段によって切り換えられる。したがって、ワークを回転させるための操作を操作子で行った場合に、切換指示手段に切換指示が入力される前と後では、ワークが回転するときの回転中心が異なることになる。このため、ワークの位置の変化に応じてワークの回転による姿勢や位置の変更を異なる形態で行えるようにして、操作者による操作子の操作によりワークを所望の姿勢や位置に移動させ易くすることができる。例えば、ワークをアセンブリ対象物の組付位置に移動させる場合に、アセンブリ対象物に近づくまではデフォルトの回転軸を中心にワークを回転させ、ある程度アセンブリ対象物に近づいた後は、アセンブリ対象物とワークとの位置関係に応じて設定した別の回転軸を中心にワークを回転させて、アセンブリ対象物に組み付けるのに適した姿勢及び位置にワークを容易に移動させることができる。
【0018】
また、請求項2に記載した本発明のロボット制御装置は、請求項1に記載した本発明のロボット制御装置において、前記所定の回転軸の切り換えの指示操作が行われる指示操作手段をさらに備えており、該指示操作手段により前記指示操作が行われることで前記切換指示手段に前記切換指示が入力されることを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載した本発明のロボット制御装置によれば、請求項1に記載した本発明のロボット制御装置において、操作者が指示操作手段により指示操作を行うと、所定の回転軸とする回転軸が別の回転軸に切り換わる。したがって、ワークを回転させる場合の回転中心を操作者の意向によって任意のタイミングで切り換えることができる。
【0020】
さらに、請求項3に記載した本発明のロボット制御装置は、請求項1又は2に記載した本発明のロボット制御装置において、前記回転軸切換手段が、前記所定の回転軸とする回転軸の切り換えを前記ロボットの停止中に行うことを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載した本発明のロボット制御装置によれば、請求項1又は2に記載した本発明のロボット制御装置において、切換指示の入力に伴う所定の回転軸の切り換えが、ロボットの停止中に行われる。したがって、ロボットの動作中に所定の回転軸が切り換わってワークの回転動作中にその回転中心が急に変わらないようにし、ワークが不測の移動を行わないようにすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のロボット制御装置によれば、操作者の操作によりワークを所望の姿勢や位置に移動させ易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るロボット制御装置とそれによって制御されるロボット装置の構成を示す模式的な側面図である。
【図2】図1の操作装置の構成を示す斜視図である。
【図3】図1のロボット装置の使用状態を示す正面図である。
【図4】図1のロボット装置の使用状態を示す平面図である。
【図5】図1のロボット制御装置の電気的な概略構成を示すブロック図である。
【図6】図1のコントローラがROMに格納された制御プログラムにしたがって実行する処理の概略を示すフローチャートである。
【図7】図1のコントローラがROMに格納された制御プログラムにしたがって実行する処理の概略を示すフローチャートである。
【図8】図1のコントローラがROMに格納された制御プログラムにしたがって実行する処理の概略を示すフローチャートである。
【図9】図1のロボット制御装置を用いてワークを目的地に移送する場合の組付作業を示す説明図である。
【図10】図1のロボット制御装置を用いてワークをボードに組み付ける場合の組付作業を示す説明図である。
【図11】図10の操作レバーの操作によってツールセンターポイントが左右方向に旋回する場合を示す説明図である。
【図12】図1の操作レバーの操作によってツールセンターポイントが左右方向に旋回する場合を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は本発明の一実施形態に係るロボット制御装置とそれによって制御されるロボット装置の構成を示す模式的な側面図である。
【0026】
図1に示す本実施形態のロボット制御装置によって制御されるロボット装置4は、例えば、マニピュレータ1を有し、このマニピュレータ1により、ワーク101の把持、運搬、加工及び他の部材への組立が可能となされているものである。
【0027】
マニピュレータ1は、複数のアームを接続した多関節型アームで構成されている。このマニピュレータ1は、後述するロータリアクチュエータ4a〜4f(図5参照)によって空間6自由度の位置及び姿勢を決定することができる。各ロータリアクチュエータ4a〜4fはコントローラ3によって制御される。
【0028】
マニピュレータ1の先端側には、ワーク101を把持したり加工したりするツール5が設けられている。このツール5は、コントローラ3によって制御される。
【0029】
図2は図1の操作装置の構成を示す斜視図である。操作装置6は、この実施の形態においては、図2に示すように、ロボット装置4の可動部(マニピュレータ1)に取り付けられている。ただし、この操作装置6は、後述するように、ロボット装置4から離れた位置に設置して用いてもよい。この操作装置6は、固定レバー7と操作レバー8と表示灯9とを有している。
【0030】
固定レバー7は、イネーブルスイッチ10と回転軸切換スイッチ11(請求項中の指示操作手段に相当)とを有している。イネーブルスイッチ10は、初期位置(以下、非押圧位置という。)と、図2中矢印Aで示すように、非押圧位置よりも押圧された押圧位置(以下、中間位置という。)と、中間位置よりも押圧された押込み位置との3つのポイントのいずれかとなされるようになっている。なお、イネーブルスイッチ10は、外力が加えられない場合には、非押圧位置に復帰するようになっている。回転軸切換スイッチ11は、押圧する度にオンオフ状態が切り換わる構造を有している。回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態が切り換わると、後述する操作レバー8の操作によってツールセンターポイントを旋回させる際の回転中心、即ち、回転軸の位置が切り換わる。
【0031】
そして、コントローラ3は、イネーブルスイッチ10が押圧位置であるときに、ロボット装置4のマニピュレータ1の手動操作を可能とする。この手動操作は、操作レバー8を操作することによって行われる。
【0032】
操作レバー8(請求項中の操作子に相当)は、本実施形態では、作業員(以下、「操作者」という。)によって操作される略円柱形のジョイスティックを用いて構成されている。この操作レバー8は、原点から360°の各方向に平行移動及び傾動させることができる。また、操作レバー8は、原点に対して操作レバー8の中心軸方向に移動させることができる。さらに、操作レバー8は、原点に対して操作レバー8の中心軸の周りに回転可能に構成されている。操作レバー8を前後左右又は上下に移動させると、ツール5のツールセンターポイントが前後左右又は上下に移動する。操作レバー8を前後左右に傾動させるとツールセンターポイントが前後左右に旋回する。操作レバー8をその中心軸の周りに回転させると、ツールセンターポイントが水平面内で旋回する。操作レバー8の移動や傾動、回転とその操作量は、力覚センサ8aによって検出することができる。操作者が操作を止めると、操作レバー8は原点に復帰する。
【0033】
力覚センサ8aは、操作者による操作レバー8の操作量を操作方向別に検出するためのものである。本実施形態では、力覚センサ8aとして6軸力覚センサを用いている。この力覚センサ8aは、力覚センサ8aに加わる力3成分(Fx,Fy,Fz)とモーメント3成分(θx,θy,θz)をそれぞれ検出して、それぞれに応じた内容の信号を出力する。
【0034】
上述した固定レバー7の回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態を切り換えると、操作レバー8を前後左右に傾動(θx又はθy方向)させたり操作レバー8の中心軸の周りに回転(θz方向)させた際の、ツールセンターポイントの前後左右又は水平面内での旋回中心、つまり、旋回の回転軸の位置が切り換わる。なお、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態によって切り換わる回転軸は、モーメント3成分(θx,θy,θz)をそれぞれ検出して、それぞれに応じた内容の信号を出力する。
【0035】
表示灯9は、ロボット装置4の手動操作が可能であることを告知するものである。この表示灯9は、イネーブルスイッチ10が押圧位置にあるときに点灯し、ロボット装置4の手動操作が可能となっていることを告知(表示)する。このとき、操作者は、表示灯9が点灯したことを確認し、操作レバー8によりロボット装置4を手動操作することができることを認識してから、操作レバー8によりロボット装置4を手動操作することができる。
【0036】
そして、操作者がイネーブルスイッチ10を離して、イネーブルスイッチ10が非押圧位置へ移動した場合、または、操作者がイネーブルスイッチ10をさらに押し、イネーブルスイッチ10が押込み位置へ移動した場合には、ロボット装置4は、手動操作不可能となる。このとき、表示灯9は消灯し、ロボット装置4の手動操作が不可能となっていることを告知(表示)する。操作者の意図しない力加減によって、イネーブルスイッチ10が中間位置より外れた場合にも、表示灯9が消灯することにより、操作者は、手動操作が不可能となったことを認識することができる。
【0037】
また、例えば、自動運転中など、ロボット装置4が操作装置6による手動操作を受け付けない状態であるときには、操作者がイネーブルスイッチ10を押して中間位置へ移動させたとしても、ロボット装置4は手動操作可能とならない。この場合には、イネーブルスイッチ10が中間位置であったとしても、表示灯9は点灯しない。操作者は、表示灯9が点灯しないことにより、ロボット装置4が手動操作不可能な状態であることを認識することができる。
【0038】
このようなロボット装置4は、図3及び図4に示すように、操作者がワーク101を運ぶときのパワーアシスト装置となる。したがって、図3に示すように、ツール5は、マニピュレータ1の先端側に基端部が連結される長尺のメインフレーム5aと、メインフレーム5aの先端から出没するスライドフレーム5bとを有している。そして、メインフレーム5aとスライドフレーム5bとにそれぞれ取り付けられたグリッパ5c,5dによって、コントローラ3によってワーク101を把持するように構成されている。このツール5は、コントローラ3によって制御される。
【0039】
上述したツール5を有するロボット装置4をパワーアシスト装置として用いる操作者は、操作装置6のイネーブルスイッチ10や操作レバー8の操作によって、ツール5にグリップされたワーク101を任意の位置に任意の姿勢で移動することができる。ロボット装置4のツール5やアクチュエータ4a〜4f(図5参照)は、コントローラ3の制御によって駆動される。
【0040】
そして、本実施形態に係るロボット制御装置は、コントローラ3と、このコントローラ3に接続された操作装置6とから構成される。
【0041】
次に、本実施形態のロボット制御装置の電気的な構成を説明する。図5は図1のロボット制御装置の電気的な概略構成を示すブロック図である。
【0042】
まず、コントローラ3は、機能ブロック的に表現すると、力覚センサ8aの力3成分(Fx,Fy,Fz)とモーメント3成分(θx,θy,θz)の各出力を、それぞれの初期値(操作レバー8が原点にあるときの力覚センサ8aの出力)を差し引いてゼロ点補正する機能を有している。これにより、力覚センサ8aに操作者から加えられた操作量(力3成分、モーメント3成分)が得られる。
【0043】
また、コントローラ3は、力覚センサ8aに操作者から加えられた操作量(力3成分、モーメント3成分)を、力覚センサ8aの位置を原点とする座標系から操作レバー8の操作者から操作力を受ける位置を原点とする座標系に、座標変換処理する機能を有している。これにより、操作レバー8に操作者から加えられた操作量の力3成分(Fx,Fy,Fz)及びモーメント3成分(Mx,My,Mz)が得られる。
【0044】
さらに、コントローラ3は、操作レバー8に操作者から加えられた操作量の力3成分(Fx,Fy,Fz)及びモーメント3成分(Mx,My,Mz)を、操作レバー8の操作者から操作力を受ける位置を原点とする座標系からツール5のツールセンターポイント(TCP)を原点とする座標系に、座標変換処理する機能を有している。これにより、操作者による操作レバー8の操作量に対応するツールセンターポイントの移動速度(x,y,z,θx,θy,θz)が得られる。この座標変換は、コントローラ3のメモリ(図示せず)に記憶されている、操作レバー8の操作量に対するツール5のツールセンターポイントの移動速度の特性データを参照して行われる。
【0045】
また、コントローラ3は、操作者による操作レバー8の操作量に対応する移動速度(x,y,z,θx,θy,θz)でツールセンターポイントが移動するように、マニピュレータ1の各ロータリアクチュエータ4a〜4fを駆動させるための、各ロータリアクチュエータ4a〜4fに対する駆動信号を生成し、ロボット装置4に出力する。したがって、本実施形態では、請求項中の回転駆動信号を生成する信号生成手段が、このコントローラ3によって構成されている。
【0046】
次に、コントローラ3が内蔵のROM(図示せず)に格納されたプログラムにしたがって実行する処理の概略を、図6乃至図8のフローチャートを参照して説明する。
【0047】
電源の投入によりコントローラ3が起動されると、コントローラ3は、図6のフローチャートに示すように、回転軸切換処理(ステップS1)と、アクチュエータ駆動処理(ステップS3)とを、周期的に実行する。
【0048】
このうち、ステップS1の回転軸切換処理では、コントローラ3は図7に示すように、マニピュレータ1(ロータリアクチュエータ4a〜4f)が停止中であるか否かを確認する(ステップS101)。マニピュレータ1が停止中でない場合は(ステップS101でNO)、回転軸切換処理を終了する。マニピュレータ1が停止中である場合は(ステップS101でYES)、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態を確認する(ステップS103)。
【0049】
回転軸切換スイッチ11がオフ状態である場合は(ステップS103でYES)、ツールセンターポイントを旋回させる際の回転軸(請求項中の所定の回転軸に相当)を第1の回転軸に設定する(ステップS105)。一方、回転軸切換スイッチ11がオン状態である場合は(ステップS103でNO)、ツールセンターポイントを旋回させる際の回転軸(請求項中の所定の回転軸に相当)を第2の回転軸に設定する(ステップS107)。第1の回転軸と第2の回転軸とは互いに異なる位置に設定されている。また、第1の回転軸と第2の回転軸は、モーメント3成分(θx,θy,θz)の各成分についてそれぞれ個別に設定されている。ツールセンターポイントを旋回させる際の回転軸を第1の回転軸又は第2の回転軸に設定した後、コントローラ3は、回転軸切換処理を終了する。
【0050】
また、図6に示すステップS3のアクチュエータ駆動処理では、コントローラ3は図8に示すように、力覚センサ8aからの出力信号に基づいて、操作レバー8が原点にあるか否か(操作されているか否か)を確認する(ステップS301)。操作レバー8が原点にある(操作されていない)場合は(ステップS301でNO)、アクチュエータ駆動処理を終了する。操作レバー8が原点にない(操作されている)場合は(ステップS301でYES)、操作レバー8の操作内容に対応する内容でツールセンターポイントが移動するようにマニピュレータ1のロータリアクチュエータ4a〜4fを駆動させるための駆動信号を生成し(ステップS303)、対応するロータリアクチュエータ4a〜4fに出力する(ステップS305)。その後、アクチュエータ駆動処理を終了する。
【0051】
以上の説明からも明らかなように、本実施形態では、図7のフローチャートにおけるステップS103乃至ステップS107が、請求項中の回転軸切換手段に相当する処理となっている。また、本実施形態では、操作レバー8が前後左右に傾動された場合や操作レバー8の中心軸の周りに回転された場合の、図8のフローチャートにおけるステップS303が、請求項中の信号生成手段に相当する処理となっている。さらに、本実施形態では、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態が入力されるコントローラ3が、請求項中における切換指示手段に相当している。
【0052】
次に、上述した構成のコントローラ3が、操作レバー8の傾動や回転操作によりツールセンターポイントが旋回するようにマニピュレータ1のロータリアクチュエータ4a〜4fを駆動する際の、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態による動作の違いについて説明する。
【0053】
まず、操作レバー8をその中心軸の周りに回転させる場合について説明する。図9は、操作レバー8の操作によってツールセンターポイントが水平面内で旋回する場合を示す説明図である。回転軸切換スイッチ11のオフ状態においては、コントローラ3は、マニピュレータ1とツール5との連結部に設定された第1の回転軸θ1を回転中心として、ツールセンターポイントを旋回させる。したがって、操作レバー8をその中心軸の周りに回転させるとワーク101がマニピュレータ1の先端側を中心として揺動することになる。
【0054】
一方、回転軸切換スイッチ11のオン状態においては、コントローラ3は、ツール5のスライドフレーム5bの先端に設定された第2の回転軸θ2を回転中心として、ツールセンターポイントを旋回させる。したがって、操作レバー8をその中心軸の周りに回転させるとワーク101がスライドフレーム5bの先端を回転中心として揺動することになる。
【0055】
このため、図9に示すように、ツール5で把持したワーク101を、2つの壁部21,21の間の収納空間20に移送し挿入する場合には、まず、回転軸切換スイッチ11をオフ状態として、操作レバー8の操作により、収納空間20の入口付近までワーク101を移動させる。この移動の間にワーク101の通過の支障となる障害物がある場合には、操作レバー8をその中心軸の周りに回転させて第3のリンク1cを中心としてワーク101を揺動させ、これにより障害物をかわせばよい。
【0056】
そして、収納空間20の入口付近で回転軸切換スイッチ11をオン状態に切り換えて操作レバー8をその中心軸の周りに回転させ、スライドフレーム5bの先端を回転中心としてワーク101を揺動させる。これにより、収納空間20の入口でワーク101を容易に収納空間20への挿入方向に向けさせることができる。
【0057】
以上に、ワーク101を収納空間20に移送する場合について説明した。次に、ワーク101を組付対象のボード201に組み付ける場合について説明する。図10は、四隅に取付孔101a〜101dを有する矩形のワーク101をツール5で把持し、ワーク101のボード201に対して組み付ける場合の説明図である。ワーク101をボード201に組み付けるには、ボード201の四隅の取付ピン201a〜201dがワーク101の対応する取付孔101a〜101dにそれぞれ挿入されるように、ボード201に対してワーク101の姿勢や位置を合わせる必要がある。ワーク101をボード201に近づけて姿勢を調整する過程では、操作レバー8を左右に傾動させてワーク101をボード201に対して回転(左回転、右回転)させる動作が必要になる。
【0058】
そこで、操作レバー8を左右に傾動させる場合について説明する。図11及び図12は、操作レバー8の左右方向への傾動操作によってツールセンターポイントが左右方向に旋回(左回転又は右回転)する場合を示す説明図である。図11では、回転軸切換スイッチ11をオフ状態にしたまま、ワーク101をボード201に近づけて姿勢を調整する過程を続けた場合の、ボード201に対するワーク101の位置関係の変遷を、上下に並べて示している。図12では、回転軸切換スイッチ11を途中でオフ状態からオン状態に切り換えて、ワーク101をボード201に近づけて姿勢を調整する過程を続けた場合の、ボード201に対するワーク101の位置関係の変遷を、上下に並べて示している。
【0059】
図11及び図12の上側に示すように、回転軸切換スイッチ11のオフ状態においては、コントローラ3は、ワーク101の中央に設定された第1の回転軸θ1を回転中心として、ツールセンターポイントを旋回させる。したがって、操作レバー8を左右方向に傾動操作するとワーク101が自身の中央を中心として回転することになる。
【0060】
このため、図11及び図12の上側に示すように、ワーク101の右上の取付孔101dがボード201の対応する取付ピン201dに対向する位置にワーク101を移動させた状態で、回転軸切換スイッチ11をオフ状態にしたまま、ワーク101をボード201に近づけて姿勢を調整する過程を行うと、ワーク101のボード201に対する位置関係が、図11の下側に示すように変化する。即ち、操作レバー8を右方向に傾動させてワーク101をボード201に対して右回転させると、ワーク101の他の取付孔101a〜101cが対応するボード201の取付ピン201a〜201cに近づく代わりに、ワーク101の取付孔101dがボード201の取付ピン201dに対向する位置からずれてしまう。
【0061】
そこで、図11及び図12の上側に示すように、ワーク101の右上の取付孔101dがボード201の対応する取付ピン201dに対向する位置にワーク101を移動させた状態で、回転軸切換スイッチ11をオフからオンに切り換える。回転軸切換スイッチ11のオン状態においては、図12の下側に示すように、コントローラ3は、ワーク101の右上の取付孔101dに設定された第2の回転軸θ2を回転中心として、ツールセンターポイントを旋回させるようになる。
【0062】
このため、操作レバー8を右方向に傾動させてワーク101をボード201に対して右回転させると、図12の下側に示すようになる。即ち、ワーク101の取付孔101dがボード201の取付ピン201dに対向する位置を保ったまま、ワーク101の他の取付孔101a〜101cが対応するボード201の取付ピン201a〜201cに近づくことになる。このため、ワーク101の姿勢をボード201に対して容易に合わせることができる。
【0063】
このように、本実施形態によれば、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態を切り換えることによって、操作レバー8を前後左右に傾動させた場合やその中心軸の周りに回転させた場合のツールセンターポイントの旋回中心を、第1の回転軸θ1と第2の回転軸θ2との相互間で切り換えることができる。このため、ワーク101の移送先との位置関係やワーク101の組付対象との位置関係に応じて、マニピュレータ1によりワーク101を回転させる際の回転中心の位置を切り換えて、操作レバー8の操作によりワーク101を所望の姿勢や位置に容易に移動させることができる。
【0064】
なお、上述した実施形態では、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態の切り換えに伴う第1の回転軸θ1と第2の回転軸θ2との切り換えを、マニピュレータ1の停止中に限定して行うようにした。これにより、ロボット装置4の動作中に所定の回転軸が切り換わってワーク101の回転動作中にその回転中心が急に変わらないようにし、ワーク101が不測の移動を行わないようにすることができる。
【0065】
しかし、そのような手当をする必要性がない場合は、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態の切り換えに伴う第1の回転軸θ1と第2の回転軸θ2との切り換えを、マニピュレータ1の停止中に限らず行うようにしても良い。その場合は、図7のフローチャートにおけるステップS101を省略することになる。
【0066】
また、マニピュレータ1が停止中であるか否かに拘わらず、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態が切り換わったかどうかを常時監視し、切り換わった場合に、マニピュレータ1の動作中には切替フラグを立てて、その後にマニピュレータ1が停止したときに、回転軸切換スイッチ11の切り換わった後のオンオフ状態に応じた回転軸に所定の回転軸を切り換えるようにしても良い。また、回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態が切り換わった場合に、マニピュレータ1が停止中であれば、その時点で、回転軸切換スイッチ11の切り換わった後のオンオフ状態に応じた回転軸に所定の回転軸を切り換えれば良い。
【0067】
さらに、上述した実施形態では、所定の回転軸の切り換え候補が第1の回転軸θ1と第2の回転軸θ2との2つである場合を例に取って説明した。しかし、所定の回転軸の切り換え候補は3つ以上であっても良く、その場合には、回転軸切換スイッチ11を、どの回転軸に切り換えるかを操作者の操作で特定できる形態のものとすれば良い。
【0068】
また、本実施形態では、操作者が回転軸切換スイッチ11のオンオフ状態を切り換えることで所定の回転軸の切り替えを行う構成とした。しかし、例えば図9の収納空間20にワーク101を移送する場合を例に取ると、壁部21への接近を検出するセンサを例えばツール5に取り付け、そのセンサが壁部21への接近を検出したことをトリガとして、コントローラ3が制御によって所定の回転軸を自動的に切り換える構成としても良い。その場合には、回転軸切換スイッチ11は省略しても良いし、省略せず手動による切り換えと併用する構成としても良い。
【0069】
さらに、操作子は、本実施形態で説明したようなジョイスティックによる操作レバー8に限定されない。即ち、操作子の操作によってツールセンターポイントを移動させる対象のロボットにおける、可動部分の自由度に応じた数の動きを入力できるものであれば、ジョイスティックのような操作レバー以外のものであっても良い。また、ワーク101やツール5の形態は、上述した実施形態で示したものに限定されず任意である。即ち、ツールはワークを挟持するタイプのものに限定されない。
【0070】
また、本実施形態では、対象物に組み付けたり目的地に搬送するワーク101の移動をアシストするパワーアシスト装置として使用するロボット装置4の駆動を制御する際に、本発明を適用した場合を例に取って説明した。しかし、本発明は、パワーアシスト装置として利用するロボット以外にも、ワークをツールでグリップして操作子の操作により動くロボットであれば、その駆動制御に広く適用可能である。例えば、単にワークを搬送するロボットの制御や、研磨、加工用のサンダー(砥石)にワークを当て付けるロボットの制御にも、本発明を適用することができる。即ち、本発明は、ワークを持ち運ぶ作業を行うロボット全般の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 マニピュレータ
3 コントローラ
4 ロボット装置
4a ロータリアクチュエータ
4b ロータリアクチュエータ
4c ロータリアクチュエータ
4d ロータリアクチュエータ
4e ロータリアクチュエータ
4f ロータリアクチュエータ
5 ツール
5a メインフレーム
5b スライドフレーム
5c グリッパ
5d グリッパ
6 操作装置
7 固定レバー
8 操作レバー(操作子)
8a 力覚センサ
9 表示灯
10 イネーブルスイッチ
11 回転軸切換スイッチ
20 収納空間
21 壁部
101 ワーク
101a 取付孔
101b 取付孔
101c 取付孔
101d 取付孔
201 ボード
201a 取付ピン
201b 取付ピン
201c 取付ピン
201d 取付ピン
θ1 第1の回転軸
θ2 第2の回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークをツールでグリップするロボットを操作子の操作によって駆動させる制御を行う装置であって、
前記ワークを回転させるための前記操作子の操作時に、所定の回転軸を回転中心として前記ワークが回転するように前記ロボットを駆動させる回転駆動信号を生成する信号生成手段と、
前記所定の回転軸の切換指示が入力される切換指示手段と、
前記切換指示手段に前記切換指示が入力される度に、前記信号生成手段が前記回転駆動信号の生成時に前記所定の回転軸とする回転軸を、それまでの回転軸とは位置が異なる別の回転軸に切り換える回転軸切換手段と、
を備えることを特徴とするロボット制御装置。
【請求項2】
前記所定の回転軸の切り換えの指示操作が行われる指示操作手段をさらに備えており、該指示操作手段により前記指示操作が行われることで前記切換指示手段に前記切換指示が入力されることを特徴とする請求項1記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記回転軸切換手段は、前記所定の回転軸とする回転軸の切り換えを前記ロボットの停止中に行うことを特徴とする請求項1又は2記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記ロボットが前記ワークの移動をアシストするパワーアシスト装置であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のロボット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−264538(P2010−264538A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117543(P2009−117543)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】