説明

ロボット制御装置

【課題】状況に応じてツールセンターポイントの移動速度を操作子の操作により操作性良く調整すること。
【解決手段】操作子の原点からの操作量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量の特性データを、次のような特性に定義する。即ち、操作子の原点からの操作量が小さいレンジ(操作量=0〜±a1)では、操作子の操作量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量を相対的に小さくする。操作子の原点からの操作量が大きいレンジ(操作量=±a1〜±a2)では、操作子の操作量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量を相対的に大きくする。操作子を原点に近いところで操作した場合と、原点から離れたところで操作子を操作した場合とで、操作の変化量が同じでも後者の方が、ツールセンターポイントの移動速度の変化量が大きくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作レバー等の操作子の操作に応じて、ツールセンターポイントを移動させるための駆動信号を、ロボットのアクチュエータに対して出力するロボット制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両の製造ライン等においては、作業員が一人では運べないほど大きく重たいワークを取り扱うことが多い。そのような作業の省力化を図るために、従来からパワーアシスト装置が利用されている。このパワーアシスト装置では、ワークの重力方向の荷重の大半を装置に負担させて、作業員が負担するワークの荷重を軽くすることができる。
【0003】
上述したパワーアシスト装置では、作業員が操作子を操作してマニピュレータを動作させることで、マニピュレータの手先に保持されたワークを所望の姿勢や位置に動かすことになる。そのために、パワーアシスト装置においては、操作子に加わる作業員の操作力を力覚センサで検出し、検出した操作力から操作子の操作方向を判別する。そして、判別した操作子の操作方向にワークを動かす駆動信号を生成し、これをマニピュレータのアクチュエータに出力する(例えば、特許文献1,2)。
【0004】
上述した車両の製造ラインの場合、パワーアシスト装置によるワークの移動はアセンブリ工程で利用されることが多い。ワークをアセンブリ対象物の組付位置に移動させる場合には、アセンブリ対象物に近づくまでは大雑把にワークを移動させ、ある程度アセンブリ対象物に近づいた後はワークを細かく正確に組付位置に移動させることが望ましい。
【0005】
作業員が自力で移動させることができるワークの場合、ワークを大雑把に移動させようとしているのか、それとも、細かく移動させようとしているのかという、ワークの移動の仕方に関する作業員の意図は、作業員がワークに加える操作力に現れる。したがって、作業員がパワーアシスト装置を用いて操作子の操作によりワークを移動させる場合には、ワークの移動の仕方に関する作業員の意図は操作子の操作力に現れる。
【0006】
そこで、ワークの移動の仕方に関する作業員の意図を、力覚センサで検出される操作子の操作力から判断するには、少なくとも力覚センサの感度を上げる必要がある。しかし、力覚センサの感度を上げるのは、他軸干渉に起因して作業員の意図しない方向にワークが移動するのを防ぐ観点から、自ずと限界がある。また、力覚センサは元々高価なセンサであるため、これに対して高感度を要求するのは、コストの面からして現実的でない。
【0007】
また、上述したような操作子の操作力を力覚センサで検出する操作系の代わりに、ジョイスティックを傾動操作する操作系も提案されている(例えば、特許文献3)。しかし、この提案においても、ジョイスティックの傾倒角から、ワークの移動の仕方に関する作業員の意図を判断するような方法については、何ら言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−194758号公報
【特許文献2】特開2008−213119号公報
【特許文献3】特開2001−92546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、パワーアシスト装置において、操作子の操作力からワークをどのように移動させるのかという作業員の意図を判断するのは現実的に難しい。そこで、作業員の意図を判断する代わりに作業員の意図を推定することが考えられる。作業員の意図を推定するには、その意図が反映されるパラメータをセンシングし、センシングしたパラメータの内容から何某かの推定処理を行うことになる。この場合、推定精度が高くないと、却って作業員の意図とは異なる動作が行われて操作性を低下させる原因となってしまう。したがって、そのような推定処理を実行する装置は大がかりなものとなるのが必定であり、これも現実的とは言い難い。
【0010】
また、上述した問題は、ツールがワークをグリップして移動する場合に限ったものではなく、例えば、操作子の操作によりロボットの溶接トーチ等のツールが溶接対象箇所に向けて移動する場合等にも共通するものである。
【0011】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、本発明の目的は、ロボットのツールセンターポイントを操作子の操作によって移動させる場合に、状況に応じてツールセンターポイントの移動速度を操作子の操作により操作性良く調整することができるロボット制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明のロボット制御装置は、
操作子の操作に応じて、ツールセンターポイントを移動させるための駆動信号をロボットに対して出力するロボット制御装置において、
前記操作子の原点からの操作量に対する前記ツールセンターポイントの移動速度の特性を示す特性データを保持する特性データ保持手段と、
前記操作子の操作時に出力する前記駆動信号の内容を、前記特性データに示された前記操作子の原点からの操作量に対応する移動速度で前記ツールセンターポイントが移動するように前記ロボットを駆動させる内容とする信号内容決定手段と、
を備えており、
前記操作子の原点からの操作量に関するレンジのうち前記操作子の最大操作量を少なくとも除くレンジ部分の前記特性は、前記操作子の原点からの操作量が小さい場合よりも大きい場合の方が、前記操作子の操作の変化量に対する前記ツールセンターポイントの移動速度の変化量が相対的に大きい特性である、
ことを特徴とする。
【0013】
請求項1に記載した本発明のロボット制御装置によれば、操作レバーの原点からの操作量が小さいと、操作子の操作量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量が小さく、操作子の原点からの操作量が大きいと、操作子の操作量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量が大きい。したがって、操作子が原点から遠い(原点からの操作量が大きい)ときには、操作子が原点に近い(原点からの操作量が小さい)ときに比べて、操作子の操作量が同じでもツールセンターポイントの移動速度が大きく変化する。これにより、ツールセンターポイントの移動速度を、操作者の操作による操作子の原点からの操作量によって、操作性良く調整することができる。例えば、ワークをアセンブリ対象物の組付位置に移動させる場合に、アセンブリ対象物に近づくまでは大雑把にワークを移動させ、ある程度アセンブリ対象物に近づいた後はワークを細かく正確に組付位置に移動させることができる。
【0014】
また、請求項2に記載した本発明のロボット制御装置は、請求項1に記載した本発明のロボット制御装置において、前記特性が、前記操作子の原点からの操作量を入力とした一変数多項式により定義される特性であることを特徴とする。この一変数多項式f(x)は、例えば、f(x)=a0+a1x+a2x+a3x+・・・+a(n−1)xn−1 +anxと表すことができる。したがって、例えばx以外の項の係数a1,a3〜anをいずれも「0」とした場合、一変数多項式f(x)は2乗関数となり、x以外の項の係数a1,a2,a4〜anをいずれも「0」とした場合、一変数多項式f(x)は3乗関数となる。
【0015】
請求項2に記載した本発明のロボット制御装置によれば、請求項1に記載した本発明のロボット制御装置において、操作子の原点からの操作量に対するツールセンターポイントの移動速度の特性が、操作子の原点からの操作量に関するレンジのうち最大操作量を少なくとも除くレンジ部分においては、操作子の原点からの操作量を入力とした一変数多項式により定義される特性となる。したがって、操作子が原点から遠い(原点からの操作量が大きい)ときには、操作子が原点に近い(原点からの操作量が小さい)ときに比べて、操作子の操作の変化量が同じでもツールセンターポイントの移動速度の変化量が大きくなる。このため、現在位置と移動先との位置関係に応じたワークのロボットによる移動速度の変化を、より顕著にすることができる。
【0016】
さらに、請求項3に記載した本発明のロボット制御装置は、請求項1又は2に記載した本発明のロボット制御装置において、前記特性が、前記レンジ部分を超える前記操作子の各操作量に対して、前記ツールセンターポイントの最大移動速度がそれぞれ割り当てられた特性であることを特徴とする。
【0017】
請求項3に記載した本発明のロボット制御装置によれば、請求項1又は2に記載した本発明のロボット制御装置において、操作子の操作量が、操作子の最大操作量を少なくとも除くレンジ部分を超えると、ツールセンターポイントが最大速度で移動する状態が維持される。このため、操作子を厳密に最大操作量まで操作しなくても、それに近い操作量まで大まかに操作することで、ツールセンターポイントが大雑把に高速移動する状態にすることができる。
【0018】
また、請求項4に記載した本発明のロボット制御装置は、請求項1、2又は3に記載した本発明のロボット制御装置において、前記特性データ保持手段が、内容の異なる複数パターンの前記特性に対応して前記特性データを複数保持しており、又は、前記特性をパラメータ化した特性式を前記特性データとして保持しており、複数の前記特性データから所望の特性データを選択し、又は、前記特性式の変数に代入する変数値を選択する選択手段をさらに備えており、前記信号内容決定手段が、前記操作子の操作時に出力する前記駆動信号の内容を、前記選択手段が選択した所望の特性データによって示される前記特性に応じた内容、又は、前記選択手段が選択した変数値を変数に代入した前記特性式によって表される前記特性に応じた内容とすることを特徴とする。
【0019】
請求項4に記載した本発明のロボット制御装置によれば、請求項1、2又は3に記載した本発明のロボット制御装置において、選択手段により所望の特性データを選択するか、あるいは、所望の変数値を選択することで、操作子の操作量に対応するツールセンターポイントの移動速度が、操作者の好みに応じた特性となる。このため、例えば、複数の操作者でロボット制御装置を共有して使用する場合に、それぞれの操作者が自身の好みに応じた特性で操作子の操作によるツールセンターポイントの移動を行うことができる。
【0020】
また、請求項5に記載した本発明のロボット制御装置は、請求項1、2、3又は4に記載した本発明のロボット制御装置において、前記ロボットがワークの移動をアシストするパワーアシスト装置であることを特徴とする。
【0021】
請求項5に記載した本発明のロボット制御装置によれば、請求項1、2、3又は4に記載した本発明のロボット制御装置において、パワーアシスト装置によってワークを移送する場合に、操作者の操作による操作子の原点からの操作量によって、ワークの移動速度を操作性良く調整することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のロボット制御装置によれば、現在位置と移動先との位置関係に応じたワークのロボットによる移動を操作子の操作によって実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るロボット制御装置とそれによって制御されるロボット装置の構成を示す模式的な側面図である。
【図2】図1の操作装置の構成を示す斜視図である。
【図3】図1のロボット装置の使用状態を示す正面図である。
【図4】図1のロボット装置の使用状態を示す平面図である。
【図5】図1のロボット制御装置の電気的な概略構成を示すブロック図である。
【図6】図1の操作レバーの操作量に対するロボット装置のツールセンターポイントの移動速度の特性データを2乗関数と3乗関数とによってそれぞれ定義する場合を示す説明図である。
【図7】図6の特性データのうち図1の操作レバーの最大操作量近傍における操作レバーの操作の変化量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量を相対的に小さく定義する場合の説明図である。
【図8】図6の特性データのうち図1の操作レバーの最大操作量近傍における操作レバーの操作の変化量に対してツールセンターポイントの移動速度を不変に定義する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
図1は本発明の一実施形態に係るロボット制御装置とそれによって制御されるロボット装置の構成を示す模式的な側面図である。
【0026】
図1に示す本実施形態のロボット制御装置によって制御されるロボット装置4は、例えば、マニピュレータ1を有し、このマニピュレータ1により、ワーク101の把持、運搬、加工及び他の部材への組立が可能となされているものである。
【0027】
マニピュレータ1は、複数のアームを接続した多関節型アームで構成されている。このマニピュレータ1は、後述するロータリアクチュエータ4a〜4f(図5参照)によって空間6自由度の位置及び姿勢を決定することができる。各ロータリアクチュエータ4a〜4fは、ロボット制御装置を構成するコントローラ3によって制御される。
【0028】
マニピュレータ1の先端側には、ワーク101を把持したり加工したりするツール5が設けられている。このツール5は、コントローラ3によって制御される。
【0029】
図2は図1の操作装置の構成を示す斜視図である。操作装置6は、この実施の形態においては、図2に示すように、ロボット装置4の可動部(マニピュレータ1)に取り付けられている。ただし、この操作装置6は、後述するように、ロボット装置4から離れた位置に設置して用いてもよい。この操作装置6は、固定レバー7と操作レバー8と表示灯9とを有している。
【0030】
固定レバー7は、イネーブルスイッチ10と緊急停止スイッチ11とを有している。イネーブルスイッチ10は、初期位置(以下、非押圧位置という。)と、図2中矢印Aで示すように、非押圧位置よりも押圧された押圧位置(以下、中間位置という。)と、中間位置よりも押圧された押込み位置との3つのポイントのいずれかとなされるようになっている。なお、イネーブルスイッチ10は、外力が加えられない場合には、非押圧位置に復帰するようになっている。緊急停止スイッチ11は、押圧するとロボット装置4の動作が即座に停止するようになっている。
【0031】
そして、コントローラ3は、イネーブルスイッチ10が押圧位置であるときに、ロボット装置4のマニピュレータ1の手動操作を可能とする。この手動操作は、操作レバー8を操作することによって行われる。
【0032】
操作レバー8(請求項中の操作子に相当)は、本実施形態では、作業員(以下、「操作者」という。)によって操作されるジョイスティックを用いて構成されている。この操作レバー8は、原点から360°の各方向に平行移動及び傾動させることができる。また、操作レバー8は、原点に対して操作レバー8の中心軸方向に移動させることができる。さらに、操作レバー8は、原点に対して操作レバー8の中心軸の周りに回転可能に構成されている。操作レバー8を前後左右又は上下に移動させると、ツール5のツールセンターポイントが前後左右又は上下に移動する。操作レバー8を前後左右に傾動させるとツールセンターポイントが前後左右に旋回する。操作レバー8をその中心軸の周りに回転させると、ツールセンターポイントが水平面内で旋回する。操作レバー8の移動や傾動、回転とその操作量は、力覚センサ8aによって検出することができる。操作者が操作を止めると、操作レバー8は原点に復帰する。
【0033】
力覚センサ8aは、操作者による操作レバー8の操作量を操作方向別に検出するためのものである。本実施形態では、力覚センサ8aとして6軸力覚センサを用いている。この力覚センサ8aは、力覚センサ8aに加わる力3成分(Fx,Fy,Fz)とモーメント3成分(θx,θy,θz)をそれぞれ検出して、それぞれに応じた内容の信号を出力する。
【0034】
表示灯9は、ロボット装置4の手動操作が可能であることを告知するものである。この表示灯9は、イネーブルスイッチ10が押圧位置にあるときに点灯し、ロボット装置4の手動操作が可能となっていることを告知(表示)する。このとき、操作者は、表示灯9が点灯したことを確認し、操作レバー8によりロボット装置4を手動操作することができることを認識してから、操作レバー8によりロボット装置4を手動操作することができる。
【0035】
そして、操作者がイネーブルスイッチ10を離して、イネーブルスイッチ10が非押圧位置へ移動した場合、または、操作者がイネーブルスイッチ10をさらに押し、イネーブルスイッチ10が押込み位置へ移動した場合には、ロボット装置4は、手動操作不可能となる。このとき、表示灯9は消灯し、ロボット装置4の手動操作が不可能となっていることを告知(表示)する。操作者の意図しない力加減によって、イネーブルスイッチ10が中間位置より外れた場合にも、表示灯9が消灯することにより、操作者は、手動操作が不可能となったことを認識することができる。
【0036】
また、例えば、自動運転中など、ロボット装置4が操作装置6による手動操作を受け付けない状態であるときには、操作者がイネーブルスイッチ10を押して中間位置へ移動させたとしても、ロボット装置4は手動操作可能とならない。この場合には、イネーブルスイッチ10が中間位置であったとしても、表示灯9は点灯しない。操作者は、表示灯9が点灯しないことにより、ロボット装置4が手動操作不可能な状態であることを認識することができる。
【0037】
このようなロボット装置4は、図3及び図4に示すように、操作者がワーク101を運ぶときのパワーアシスト装置となる。したがって、操作者は、操作装置6のイネーブルスイッチ10や操作レバー8の操作によって、ツール5にグリップされたワーク101を任意の位置に任意の姿勢で移動することができる。ロボット装置4のツール5やアクチュエータ4a〜4f(図5参照)は、コントローラ3の制御によって駆動される。
【0038】
そして、本実施形態に係るロボット制御装置は、コントローラ3と、このコントローラ3に接続された操作装置6とから構成される。
【0039】
次に、本実施形態のロボット制御装置の電気的な構成を説明する。図5は図1のロボット制御装置の電気的な概略構成を示すブロック図である。
【0040】
まず、コントローラ3は、機能ブロック的に表現すると、力覚センサ8aの力3成分(Fx,Fy,Fz)とモーメント3成分(θx,θy,θz)の各出力を、それぞれの初期値(操作レバー8が原点にあるときの力覚センサ8aの出力)を差し引いてゼロ点補正する機能を有している。これにより、力覚センサ8aに操作者から加えられた操作量(力3成分、モーメント3成分)が得られる。
【0041】
また、コントローラ3は、力覚センサ8aに操作者から加えられた操作量(力3成分、モーメント3成分)を、力覚センサ8aの位置を原点とする座標系から操作レバー8の操作者から操作力を受ける位置を原点とする座標系に、座標変換処理する機能を有している。これにより、操作レバー8に操作者から加えられた操作量の力3成分(Fx,Fy,Fz)及びモーメント3成分(Mx,My,Mz)が得られる。
【0042】
さらに、コントローラ3は、操作レバー8に操作者から加えられた操作量の力3成分(Fx,Fy,Fz)及びモーメント3成分(Mx,My,Mz)を、操作レバー8の操作者から操作力を受ける位置を原点とする座標系からツール5のツールセンターポイント(TCP)を原点とする座標系に、座標変換処理する機能を有している。これにより、操作者による操作レバー8の操作量に対応するツールセンターポイントの移動速度(x,y,z,θx,θy,θz)が得られる。この座標変換は、コントローラ3のメモリ(図示せず)に記憶されている、操作レバー8の操作量に対するツール5のツールセンターポイントの移動速度の特性データを参照して行われる。
【0043】
また、コントローラ3は、操作者による操作レバー8の操作量に対応する移動速度(x,y,z,θx,θy,θz)でツールセンターポイントが移動するように、マニピュレータ1の各ロータリアクチュエータ4a〜4fを駆動させるための、各ロータリアクチュエータ4a〜4fに対する駆動信号を生成し、ロボット装置4に出力する。
【0044】
操作レバー8の操作量に対するツール5のツールセンターポイントの移動速度の特性データは、例えば、図6の説明図に示すように定義することができる。なお、図6では1つの成分について示しているが、力3成分及びモーメント3成分の各成分について、それぞれ図6に示すように特性データを定義することができる。
【0045】
図6では、操作レバー8の原点からの操作量を横軸に取り、ツールセンターポイントの移動速度を縦軸に取って、特性データの内容を示している。図6に示す特性データでは、操作レバー8の原点からの操作量の全範囲(プラス側マイナス側それぞれ)に亘って、べき乗を含む多項式関数を用いて定義しても良い。この場合、例えは図6中実線で示す2乗の指数関数よりも、同じく破線で示す3乗の指数関数の方が、操作レバー8の原点からの操作量が小さいレンジと大きいレンジとで、操作レバー8の操作量の変化に対するツールセンターポイントの移動速度の変化の度合いを、大きく変化させることができる。なお、図6ではべき乗を含む多項式関数による曲線を用いて特性データを定義しているが、べき乗関数、多項式関数、又は、指数関数による曲線や、ベジェ曲線、あるいは、正弦曲線等によって、特性データが定義されるものとしてもよい。
【0046】
図7は、上述したような曲線を用いて定義された、コントローラ3の不図示のメモリに記憶される特性データの内容を示す説明図である。この特性データは、操作レバー8の原点に対する操作量のプラス側もマイナス側も、それぞれ、操作レバー8の原点からの操作量が0〜a1(0〜−a1)までのレンジ、a1〜a2(−a1〜−a2)までのレンジ、a2〜1(−a2〜−1)までのレンジ(但し、0<a1<a2<1,−1<−a2<−a1<0)の3つに大きく分けることができる。
【0047】
このうち、操作レバー8の原点からの操作量が最も小さいレンジ(操作量=0〜±a1)では、操作レバー8の操作の変化量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量が相対的に最も小さい。次に、操作レバー8の原点からの操作量が中程度のレンジ(操作量=±a1〜±a2)では、操作レバー8の操作の変化量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量が相対的に最も大きい。最後に、操作レバー8の原点からの操作量が最も大きいレンジ(操作量=±a2〜±1)では、操作レバー8の操作の変化量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量が相対的に中程度である。なお、操作レバー8の原点からの操作量が最も大きいレンジ(操作量=±a2〜±1)だけが、操作レバー8の操作の変化量が大きくなればなるほど、ツールセンターポイントの移動速度の変化量が徐々に小さくなる。他の2つのレンジ(操作量=0〜±a1,±a1〜±a2)では、操作レバー8の操作の変化量が大きくなればなるほど、ツールセンターポイントの移動速度の変化量が徐々に大きくなる。
【0048】
したがって、操作レバー8の原点からの操作量が最も小さいレンジ(操作量=0〜±a1)では、操作者が操作レバー8の操作量を変化させても、ツールセンターポイントの移動速度はさほど変化しない。なお、操作レバー8を原点に近いところで操作した場合と、原点から離れたところで操作レバー8を操作した場合とでは、操作の変化量が同じでも後者の方が、ツールセンターポイントの移動速度の変化量が大きくなる。
【0049】
また、操作レバー8の原点からの操作量が中程度のレンジ(操作量=±a1〜±a2)では、操作者が操作レバー8の操作量を変化させると、ツールセンターポイントの移動速度が大きく変化する。なお、操作レバー8をレンジの最小値である±a1に近いところで操作した場合と、レンジの最大値である±a2に近いところで操作レバー8を操作した場合とでは、操作の変化量が同じでも後者の方が、ツールセンターポイントの移動速度の変化量が大きくなる。
【0050】
さらに、操作レバー8の原点からの操作量が最も大きいレンジ(操作量=±a2〜±1)では、操作者が操作レバー8の操作量を変化させても、ツールセンターポイントの移動速度は、高速のままさほど変化しない。但し、操作レバー8をレンジの最小値である±a2に近いところで操作した場合と、レンジの最大値である±2に近いところで操作レバー8を操作した場合とでは、操作の変化量が同じでも前者の方が、ツールセンターポイントの移動速度の変化量が大きくなる。
【0051】
図7に示す特性データでは、操作レバー8の原点からの操作量が0から±a1までの部分も、±a1から±a2までの部分も、±a2から±1までの部分も、縦軸と横軸との関係が曲線によって定義される。なお、操作レバー8の原点からの操作量の各レンジの境界において、それぞれの特性がスムーズにつながるように、それぞれのレンジの特性を定義する曲線を選んでいる。
【0052】
図7に示す特性データによれば、操作レバー8の原点からの操作量が最も小さいレンジ(操作量=0〜±a1)においては、ツールセンターポイントの移動速度を低速としてツール5の移動速度の微調整を行いやすくすることができる。これに対し、操作レバー8の原点からの操作量が最も小さいレンジを超えるレンジ(操作量=±a1〜±1)においては、ツールセンターポイントの移動速度を高速としてツール5を大雑把に移動させることができる。このため、ツールセンターポイント(ツール5)が高速で移動する操作レバー8の操作レンジを拡げて、ツール5乃至ワーク101の大雑把な移動を行いやすくすることができる。
【0053】
なお、図7に示す特性データでは、操作レバー8の原点からの操作量が最も大きいレンジ(操作量=±a2〜±1)に対して曲線の特性を選択し、中程度のレンジ(操作量=±a1〜±a2)の特性とスムーズにつながるようにした。しかし、図8の説明図に示す特性データのように、操作レバー8の原点からの操作量が最も大きいレンジ(操作量=±a2〜±1)においては、操作レバー8の操作量が変化してもツールセンターポイントの移動速度が最高速度に固定されるようにしてもよい。このような特性データによっても、ツールセンターポイント(ツール5)が高速で移動する操作レバー8の操作レンジを拡げて、ツール5乃至ワーク101の大雑把な移動を行いやすくすることができる。しかも、操作レバー8を厳密に最大操作量まで操作しなくても、ツールセンターポイント(ツール5)が最大速度で移動するので、ツール5乃至ワーク101の大雑把な移動を操作レバー8の大まかな操作で実行することができる。
【0054】
このように、本実施形態によれば、操作者が操作装置6の操作レバー8を操作(平行移動、傾動、回転)してツールセンターポイントを移動させる場合、操作レバー8を原点に近いところで操作すれば、ツールセンターポイントを低い速度で移動させて操作レバー8の操作によりツールセンターポイントの移動速度を細かく調整することができる。また、操作レバー8を原点から離れたところで操作すれば、ツールセンターポイントを高速で移動させることができる。このため、ツール5にグリップされたワーク101を必要に応じて大雑把に移動させたり細かく移動させたりすることができる。
【0055】
即ち、本実施形態によれば、操作レバー8の原点からの操作量(平行移動量、傾動量、回転量)を変えると、操作レバー8の操作量に対するツールセンターポイントの移動速度の変化量が変わる。つまり、操作レバー8の操作によるツールセンターポイントの移動速度の分解能が変化することになる。したがって、操作レバー8の原点からの操作量の調整でツールセンターポイントの移動速度の分解能を容易に変更して、状況に応じてツールセンターポイントの移動速度を操作レバー8の操作によって操作性良く調整することができる。
【0056】
なお、操作子は、本実施形態で説明したようなジョイスティックによる操作レバー8に限定されない。即ち、操作子の操作によってツールセンターポイントを移動させる対象のロボットにおける、マニピュレータの自由度に応じた数の動きを入力できるものであれば、ジョイスティックのような操作レバー以外のものであっても良い。
【0057】
また、ワーク101やツール5の形態は、上述した実施形態で示したものに限定されず、任意である。例えば、ツールが溶接トーチであって、操作子の操作により溶接トーチを目的の溶接箇所に移動させる場合等にも、本発明は広く適用可能である。
【0058】
さらに、本実施形態では、ワーク101の移動をアシストするパワーアシスト装置として使用するロボット装置4の駆動を制御する際に、本発明を適用した場合を例に取って説明した。しかし、本発明は、パワーアシスト装置として利用するロボット以外にも、ワークをツールでグリップして操作子の操作により動くロボットであれば、その駆動制御に広く適用可能である。例えば、単にワークを搬送するロボットの制御や、研磨、加工用のサンダー(砥石)にワークを当て付けるロボットの制御にも、本発明を適用することができる。即ち、本発明は、ワークを持ち運ぶ作業を行うロボット全般の制御に適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 マニピュレータ
3 コントローラ
4 ロボット装置
4a ロータリアクチュエータ
4b ロータリアクチュエータ
4c ロータリアクチュエータ
4d ロータリアクチュエータ
4e ロータリアクチュエータ
4f ロータリアクチュエータ
5 ツール
6 操作装置
7 固定レバー
8 操作レバー(操作子)
8a 力覚センサ
9 表示灯
10 イネーブルスイッチ
11 緊急停止スイッチ
101 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作子の操作に応じて、ツールセンターポイントを移動させるための駆動信号をロボットに対して出力するロボット制御装置において、
前記操作子の原点からの操作量に対する前記ツールセンターポイントの移動速度の特性を示す特性データを保持する特性データ保持手段と、
前記操作子の操作時に出力する前記駆動信号の内容を、前記特性データに示された前記操作子の原点からの操作量に対応する移動速度で前記ツールセンターポイントが移動するように前記ロボットを駆動させる内容とする信号内容決定手段と、
を備えており、
前記操作子の原点からの操作量に関するレンジのうち前記操作子の最大操作量を少なくとも除くレンジ部分の前記特性は、前記操作子の原点からの操作量が小さい場合よりも大きい場合の方が、前記操作子の操作の変化量に対する前記ツールセンターポイントの移動速度の変化量が相対的に大きい特性である、
ことを特徴とするロボット制御装置。
【請求項2】
前記特性は、前記操作子の原点からの操作量を入力とした一変数多項式により定義される特性であることを特徴とする請求項1記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記特性は、前記レンジ部分を超える前記操作子の各操作量に対して、前記ツールセンターポイントの最大移動速度がそれぞれ割り当てられた特性であることを特徴とする請求項1又は2記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記特性データ保持手段は、内容の異なる複数パターンの前記特性に対応して前記特性データを複数保持しており、又は、前記特性をパラメータ化した特性式を前記特性データとして保持しており、複数の前記特性データから所望の特性データを選択し、又は、前記特性式の変数に代入する変数値を選択する選択手段をさらに備えており、前記信号内容決定手段は、前記操作子の操作時に出力する前記駆動信号の内容を、前記選択手段が選択した所望の特性データによって示される前記特性に応じた内容、又は、前記選択手段が選択した変数値を変数に代入した前記特性式によって表される前記特性に応じた内容とすることを特徴とする請求項1、2又は3記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記ロボットがワークの移動をアシストするパワーアシスト装置であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のロボット制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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