説明

ロングアーク型放電ランプ

【課題】発光管内に一対の電極が対向配置され、該発光管は両端で箔シール構造により封止されてなるロングアーク型放電ランプにおいて、封止部への封入物質の侵入を阻止し、金属箔の腐食を防止して、封止部からの封入物質のリークを抑制したランプを提供することにある。
【解決手段】ランプの電位傾度が8V/cm以下であり、ランプ入力電力が80W/cm以上であり、発光長が50cm以上であり、封入物は水銀又は水銀以外の金属と、ハロゲンとの組み合わせであって、波長450nm以下の光の放射を有し、点灯時の動作圧が負圧となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ロングアーク型放電ランプに関するものであり、特に、水銀又は水銀以外の金属と、ハロゲンとが封入され、両端が箔シール構造によって封止されているロングアーク型放電ランプに係わるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水銀や水銀以外の金属と、ハロゲンとが封入されたロングアーク型放電ランプ、例えばメタルハライドランプは、紫外線を放射する放電ランプとして、例えば、樹脂、接着剤、インク、フォトレジストの硬化や、乾燥、溶融、あるいは軟化といった様々な処理の用途に幅広く用いられている。
【0003】
このようなロングアーク型放電ランプは、石英ガラスからなる発光管とその両端の封止部とからなり、該封止部内には金属箔が埋設され、該金属箔にタングステンからなる電極が接続されている構造を持つものが一般的である。
封止部構造には種々のものがあるが、板状または扁平形状のガラス部材を該封止部内に埋設して、該ガラス部材を利用して封止するものが知られている。
この構造では、電極の封止部側後端が扁平に形成されるとともに、その後端側に板状または扁平ガラス部材が配設されていて、前記金属箔は、該電極の扁平部の上下面に接合されて、ガラス部材の上下面に延び、その後端で外部リードと接合される。
【0004】
特開2006−134710号公報にはそのような構造のロングアーク型放電ランプが開示されており、このランプでは前記発光管の内部には、所定量の希ガスと、ハロゲンと、水銀と、鉄が封入されており、点灯時には主に波長365nm近辺の紫外線を照射することができるものである。
そして、この特許文献では、電極の胴部に小径の部位を形成して、封止部側でのハロゲンが凝固することを防ぐという発明が記載されている。
【0005】
ところで、かかるロングアーク型放電ランプにおいては、上記したように、封止部近傍はアークからの距離が大きくなるため発光部に比べて、どうしても温度が低くなりハロゲンが集まりやすくない。また、この種のランプは一般的に動作時の圧力が大気圧より高く、前記ハロゲンが封止部の内部に進入しやすい。
封止部のモリブデン箔の温度は、ランプの設計や冷却条件により異なるが少なくとも500℃以上にはなっておりモリブデンとハロゲンの反応が進行する状況にあり、封止部材のモリブデンからなる金属箔はやがてハロゲンに侵食され、モリブデンと石英ガラスの密着していた界面が高圧によってガラスと剥離させられる、いわゆる、「箔浮き」現象が発生する。そして、さらにこの箔浮きが進行すると、最終的にはランプ内の封入物が外部に流出(リーク)する原因となり、内部の水銀が流出するなど、不所望の現象が生じることになる。
【0006】
このようなリークの原因は主に点灯時の動作圧による。この種のロングアーク型放電ランプで発光長が50cm以上あるものについては、ランプ入力は80W/cm以上となることから、少なくとも4kW以上の高入力ランプになる。そのため、点灯時は封入物が完全に蒸発して動作され、その動作圧は少なくとも1atm以上であり、いわゆる高圧放電ランプと呼ばれるものに該当していた。これらのランプでは点灯中には封止部に常にこの動作圧がかかることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−134710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて、発光管内に一対の電極が対向配置され、該発光管は両端で箔シール構造により封止されてなるロングアーク型放電ランプにおいて、発光管内に封入したハロゲンが封止部内に進入して金属箔を侵食したり、該ハロゲンによって箔浮きが生じて封入物が外部に流出したりすることがないようにしたロングアーク型放電ランプを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明に係るロングアーク型放電ランプでは、電位傾度が8V/cm以下であり、ランプ入力電力が80W/cm以上であり、発光長が50cm以上であり、封入物は水銀又は水銀以外の金属と、ハロゲンとの組み合わせであって、波長450nm以下の光の放射を有し、点灯時の動作圧が負圧となることを特徴とする。
また、さらに良好には電位傾度が8V/cm以下で、点灯時の動作圧が50kPa以下であることを特徴とし、更には、前記箔シール構造が2枚箔であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロングアーク型放電ランプに対して高入力でありながら、点灯時の動作圧が1atm未満の負圧となるので、発光管内の封入物、特にハロゲンが封止部内に侵入することがなく、従って金属箔の腐食がなく、箔浮が生じたり、封入物が外部に流出したりすることがないという効果を奏する。その結果、ランプの寿命が延びることになる。
【0011】
ところで、動作圧を負圧にするためには、水銀などの封入量を少なく設定することが必要であり、これにより電位傾度(電圧)が低く抑えられて電流が増えることになる。このランプ電流が増えると、モリブデン箔の電流容量を増やすため箔の厚みを増やすか、幅を広げる必要がある。
さらには、電流容量を増やす方法としては、モリブデン箔の枚数を増やす方法もある。しかしながら、モリブデン箔の枚数を増やす方法はモリブデン箔と電極との溶接箇所が増え、モリブデン箔の間にガラス部材を入れる必要もあり、電極周囲に出来る微小な空間が大きくなり、ハロゲンがその空間に侵入しやすくなり箔浮きを招きやすい。そのため、2枚箔以上の構造はハロゲンを封入しないキセノンランプやショートアークの超高圧水銀ランプで主に用いられ、ハロゲンを入れたランプでは通常は1枚のモリブデン箔で封止を行っていた。
これに対して、本発明では、前記したように、発光管内部が点灯時にも負圧であり、通常の高圧放電ランプよりも封止部での箔浮きが生じにくいという優位性から、2枚箔以上の構造を採用することができて、電流容量の増加に的確に対応できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るロングアーク型放電ランプの全体図。
【図2】図1の部分断面図。
【図3】実験に供した各種ランプ。
【図4】図3の各種ランプの照度維持率を表すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1はこの発明のロングアーク型放電ランプを示し、図2はその要部の拡大図である。
図において、ロングアーク型ランプ1は、石英ガラスよりなる発光管2の両端に封止部3を備えており、該発光管2内には一対の電極4、4が所定の距離、例えば500mmを隔てて対向配置される。
この実施例においては、上記電極4の非発光空間側の後端4aは、扁平形状に形成されており、その後方端には、該電極後端4aの形状に合わせて扁平形状とされた石英ガラス部材6が配設されている。
封止部3内において、前記電極4の扁平後端4aの上下面に溶接等により接合された2枚の金属箔5、5は、ガラス部材6の上下面に沿って延在し、その後方端で外部リード7に接続されている。該外部リード7は発光管2の外部に突出し、不図示の給電線に接続される。
【0014】
上記発光管2内には、所定の希ガスと、ハロゲンと、水銀と、鉄とが封入されており、この例では、点灯時には、例えば主に波長365nm付近の紫外線を放射する。
なお、封入物は上記に限られず、A:水銀又は水銀以外の金属+B:ハロゲンの全組み合わせであってよい。
【0015】
これら組み合わせの例として以下のようなものがある。
・Hg<水銀>+(I<沃素>、Br<臭素>)
・Zn(亜鉛)+(I、Br)
・Zn+FeI<沃化鉄>
・Hg+FeI
・金属α(Bi<ビスマス>、Sb<アンチモン>)+(I、Br)
【0016】
これらの発光物質が、ランプの電位傾度が8V/cm以下となるように封入される。
さらに、始動性を高めるための希ガスとして、例えばキセノンが封入される。
そして、電極間距離によって決まる発光長は500mm以上であり、ランプ入力電力は80W/cm以上である。
上記の発光物質を封入したランプは、主として波長340〜450nmの紫外線を放射するものであり、その用途としては、例えば、樹脂、接着剤、インク、フォトレジストの硬化や、乾燥、溶融、あるいは軟化といった様々な処理に用いられる。
【0017】
実験例について以下に示す。
図3に、実験に供した各種のロングアーク型放電ランプを示しており、各ランプは、発光管の形状・寸法、封止部構造、発光長などは共通しており、封入物と点灯時の電圧、動作圧が異なるものである。
実施例1に示すランプは、中央部分の内径が22mmで、内容積が400cmの発光管を用い、水銀130mg、ヨウ化水銀10mgおよびキセノンガスの封入圧が8kPaとなるよう封入され、1,000mmの電極間距離で電極4が配置された放電ランプであり、定格点力16,000W、ランプ電圧795Vである。
実施例2に示すランプは、中央部分の内径、内容積が実施例1のランプと同じ発光管を用い、水銀73mg、ヨウ化水銀2mgおよびキセノンガスの封入圧が4kPaとなるよう封入された、実施例1と同じ定格点力16,000Wのランプであるがランプ電圧は585Vである。
従来例に示すランプは、中央部分の内径、内容積が実施例1のランプと同じ発光管を用い、水銀825mg、ヨウ化水銀2mgおよびキセノンガスの封入圧が4kPaとなるよう封入された、実施例1と同じ定格点力16,000Wのランプであるがランプ電圧は1,357Vである。
そして、上記従来例のランプの電位傾度が、13.6(V/cm)であるのに対して、本発明の実施例1のランプでは電位傾度が7.95(V/cm)、実施例2のランプでは5.85(V/cm)と小さい。
これと相関して、各ランプの動作圧を検証すると、ランプ内部の平均ガス温度を2,000Kとしたときの水銀、ヨウ素、及びキセノンのそれぞれの圧力を、
“気体の状態方程式”: P=nRT/V
但し、P:動作圧、n:モル数、R:気体定数、T:絶対温度=平均ガス温度、
V:ランプ内容積
で求め、それらを合計して動作圧を求めた。
こうして求められた動作圧は、従来例では1.90(atm)であるのに対して、本発明の実施例1では0.81(atm)、実施例2では0.41(atm)であり、本発明のいずれのランプにおいても、ランプ内部は点灯状態でも負圧となっていることが分かる。
【0018】
図4は、上記各ランプの寿命点灯試験を行い、照度維持率についてプロットしたグラフである。縦軸は初期照度に対する照度維持率(%)、横軸は点灯経過時間である。
実験結果から、各ランプは点灯経過するともに、同じ点灯時間でほぼ同様に照度が低下した。しかしながら、まず従来例のランプが点灯時間4,500時間近辺で封止部からリークしたが、実施例1、2はその後も、ともに照度を低下させながらも点灯を維持した。特に実施例2は、8,000時間を超えて点灯を維持した。実施例2のランプでは点灯時のランプの内圧がより低いため、箔浮きの進行が遅くなったものと考察される。また、リーク時にもリークとほぼ同時に大気がランプ内部に流入して、点灯することが不能となり、外部への封入物の流出は殆ど見られなかった。
これらは、ハロゲンを封入したランプの点灯時の動作圧に起因する問題であって、水銀の有無には関係はなく、ハロゲンと他の金属を入れた場合にも同様の傾向が見られる。
【0019】
以上のように、同じ発光管形状、封止部構造を有するランプにおいても、発光管内の動作圧が大気圧以上となる従来ランプに対して、動作圧が大気圧未満の負圧となる本発明のランプでは、封止部での封入物質のリークの発生が長時間に及んで抑制されており、大幅な長寿命化が図られていることが分かる。
【符号の説明】
【0020】
1 ロングアーク型放電ランプ
2 発光管
3 封止部
4 電極
4a 扁平な電極後端
5 金属箔
6 ガラス部材
7 外部リード



【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光管内に一対の電極が対向配置され、該発光管は両端で箔シール構造により封止されてなるロングアーク型放電ランプにおいて、
電位傾度が8V/cm以下であり、ランプ入力電力が80W/cm以上であり、発光長が50cm以上であり、封入物は水銀又は水銀以外の金属と、ハロゲンとの組み合わせであって、波長450nm以下の光の放射を有し、点灯時の動作圧が負圧となることを特徴とするロングアーク型放電ランプ。
【請求項2】
前記点灯時の動作圧が50kPa以下であることを特徴とする請求項1に記載のロングアーク型放電ランプ。
【請求項3】
前記箔シール構造が2枚箔であることを特徴とする請求項1に記載のロングアーク型放電ランプ。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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