説明

ローストビーフ包装体の製造方法

【課題】ローストビーフをスライス処理しても、ローストビーフのスライス面の赤みが維持され、退色を防止することができるローストビーフ包装体の製造方法を提供する。
【解決手段】ローストビーフのスライス面が互いに密着した状態を維持するようにスライス処理した後、当該スライス面が直接包装材に触れないように、スライス処理されたローストビーフをガスバリア性の包装材により真空包装する。また、ローストビーフを長期保管すれば、スライス面の色調に影響が生じるが、真空包装後に緩慢凍結ではなく急速凍結処理を施せば、長期保管を行ってもスライス面の退色を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライス処理されたローストビーフの包装において、包装する際にガスバリア性の高い包装材を使用しなくともスライス面の退色を防止することができるローストビーフ包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ローストビーフは牛肉の塊をオーブンなどで焼き上げたものであり、食する際には薄くスライスするが、そのスライスの中心部が赤みを帯びていることが外観上の特徴である。
【0003】
ローストビーフの製造方法としては、食品衛生法により、(1)食肉原料の中心温度を63℃で30分以上加熱する(流通は10℃以下、またこの場合、製造過程で原料肉に調味液等の注射をすることが認められている) 製造方法、及び(2)中心温度を56℃、64分以上もしくは同等以上の加熱を行う特定加熱法(流通は4℃以下、原料肉に調味液等の注射は認められていない)による製造方法の2つの方法がある。ローストビーフにおいて、その本来の色を出そうとすると後者の特定加熱の製法で行う方が有利であり一般的に用いる製造方法である。
【0004】
消費者の個食化の背景もあり、ハム等の肉製品においてはスライスパックの需要が拡大しているが、ローストビーフをスライス包装すると、空気中の酸素の影響によりスライス面の退色が著しく商品価値を落とすため、ローストビーフはブロックの状態で販売されているのがほとんどである。スライスしたローストビーフをずらし重ねて含気包装する包装形態も見受けられるが、重なり合う部分は退色しないものの、重なり合わない部分は退色し、スライス面の見栄えが悪くなるという問題がある。そこで、ローストビーフをスライスされた状態でも消費者に提供できるよう、ローストビーフのスライス面の退色を防止する方法が望まれている。
【0005】
特許文献1では、ローストビーフの原料肉にアスコルビン酸ナトリウム又はクエン酸
ナトリウムの溶液を注入し、次いでこの原料肉を加熱加工することで退色防止できるローストビーフの製造方法が開示されている。特許文献2では、スライスされたローストビーフを、脱酸素剤と共に、酸素ガスバリア性材料からなる容器内に配置し、容器内を窒素ガス及び/または二酸化炭素ガス雰囲気に置換した後、容器を密封して、容器内の残存酸素濃度を0.01%以下に維持することで、ローストビーフの退色を防止する方法が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、退色防止効果が発揮されるのはせいぜい2日程度で
あり、しかも、ローストビーフを凍結又は解凍したりする際など保存温度の急激な変化によって退色が進行してしまうという問題点があることが判明した。また、特許文献2の方法では、スライスしトレイに並べる間、スライス面が酸素に触れるため、その間、酸素の影響を受けてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】第3115288号
【特許文献2】特開平10−327807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明においては、ローストビーフをスライス処理し、包装する際にガスバリア性が高い包装材を使用しなくとも、ローストビーフのスライス面の赤みが維持され、退色を防止することができるローストビーフ包装体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ローストビーフのスライス面が互いに密着した状態を維持するようにスライス処理した後、当該スライス面が直接包装材に触れないように、スライス処理されたローストビーフを真空包装することで、ローストビーフスライス面の退色を効果的に防止できるローストビーフ包装体の製造方法を見出し、本発明に至った。
【0010】
即ち、本発明は、(1)真空包装されたローストビーフ包装体の製造方法であって、ローストビーフを一括してスライス処理した後、当該スライス面同士を接触させることで、全体としてスライス処理前のローストビーフの形状を維持したまま、真空包装することを特徴とするローストビーフ包装体の製造方法。(2)前記真空包装後のローストビーフの中心温度が4℃以下であることを特徴とする(1)記載のローストビーフ包装体の製造方法。(3)前記真空包装の後に、さらに急速凍結処理を施すことを特徴とする(1)記載のローストビーフ包装体の製造方法。(4)前記(1)〜(3)の製造方法によって製造されることを特徴とするローストビーフ包装体、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のローストビーフ包装体の製造方法を採用することにより、ローストビーフスライス面の退色を効果的に防止することができる。本発明においては、ガスバリア性の高い包装材を使用しなくともスライス面の退色を防止することができるが、ローストビーフ両端においては切れ端が外れて包装材と表面外側のスライス面が接触する場合があるため、透過する酸素を遮断することに鑑みれば、ガスバリア性の高い包装材を使用することがより好ましい。また、ローストビーフを長期保管すれば、スライス面の色調に影響が生じるが、真空包装後に緩慢凍結ではなく急速凍結処理を施せば、長期保管を行ってもスライス面の退色を防止することができる。さらに、食味についても、ローストビーフのブロックを家庭でスライスしたものと同等である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例3で製造されたローストビーフ包装体において、経時変化によるa値の変化を示すグラフ。
【図2】実施例3で製造されたローストビーフ包装体において、経時変化によるドリップ量の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、ローストビーフを一括してスライス処理した後、当該スライス面同士を接触させることで、全体としてスライス処理前のローストビーフの形状を維持したまま、真空包装することを特徴とするローストビーフ包装体の製造方法、に関する。
【0014】
本発明におけるローストビーフは、原料肉の表面を焼成した後、所定の温度でオーブンにより加熱する製法や、原料肉を表面焼成後に、真空包装し加熱処理を行う真空調理製法等、常法により製造されたローストビーフであり、特に製法や使用する原料肉の部位は限定されない。
【0015】
本発明においてローストビーフを一括してスライスする方法としては、ワンオールスライサーや冷凍スライサーでローストビーフをスライスする方法が挙げられるが、一括してスライスできれば特にスライスの方法はこれらに限定されない。例えば、ワンオールスライサーの場合、多刃式であるため、ローストビーフの肉塊を一度の動作で複数枚にスライスでき、当該スライス処理後にスライス面同士を接着させることで、スライス間の酸素を排除させることができる。
【0016】
本発明においては、ガスバリア性の高い包装材を使用しなくともスライス面の退色を防止することができるが、本発明に使用する包装材としては、ローストビーフ両端の切れ端が外れて包装材と表面外側のスライス面が接触する場合があるため、退色の原因となる透過酸素を遮断することに鑑みればガスバリア性の高い材質であることが好ましく、さらには、ガスバリア性がより高いハイバリア性の包装材であればより好ましい。特に、包装材の酸素透過度30ml/m・d・MPa以下であれば、包装材と表面外側のスライス面が接触していても、退色防止により効果的である。しかし、酸素透過度が30ml/m・d・MPaを超えると、包装体の内部に酸素が透過し、包装材と表面外側のスライス面が接していれば、その部分が退色する場合がある。
【0017】
また、使用する包装材の材質、厚みも特に限定されない。ナイロン、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコールなどの単層フィルムから構成されているものや積層フィルムで構成されているもの等から任意に選択できる。
【0018】
前記スライス処理から包装までの時間は、5分以内であることが望ましく、より好ましくは3分以内である。5分以内であれば、ローストビーフのスライス面の退色を効果的に防止することができる。
【0019】
前記真空包装の手段としては、深絞り真空包装が好ましいが、スライス処理前のローストビーフの形状を維持したまま真空包装できれば、特に真空包装の手段は限定されない。
【0020】
本発明におけるローストビーフを包装する際は、包装材と当該スライス面とが接触していないことが望ましい。例えば、ローストビーフをスライス後に半分にして包装したり、ローストビーフ両端の切れ端を除いて包装するとスライス面がむき出しになるが、当該スライス面と包装材が接触していると、包装材から浸透するわずかな酸素の影響を受けてスライス面が退色する場合がある。
【0021】
真空包装後のローストビーフの中心温度は4℃以下、より好ましくは−1〜2℃になるように製造することが望ましい。4℃を超えるとローストビーフからドリップが生じ、スライス面の色調に影響を及ぼしてしまい好ましくない。
【0022】
ローストビーフは流通段階で凍結輸送、保管される場合があるが、一般的に凍結処理を施すことでローストビーフの色調に影響が出てしまうことが知られている。凍結処理には、緩慢凍結と急速凍結があるが、緩慢凍結とは、食肉や肉製品に最も品質に影響を与える最大氷結晶生成体(−1〜−5℃)をゆっくり通過させる凍結方法をいう。一方、急速凍結とは、最大氷結晶生成体(−1〜−5℃)を短い時間(約30分以内)に通過させる凍結方法をいう。本発明のローストビーフ包装体においては、緩慢凍結ではなく急速凍結により凍結処理を行えば、ローストビーフのスライス面が退色の影響を受けることはなく、冷凍保管が可能となる。
【0023】
以下、実施例をあげて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
(実施例1)包装材の酸素透過度による退色の影響
定法の真空調理法によりローストビーフ(260g)を製造し、中心が0℃となるよう1晩冷蔵庫に放置しテンパリング処理を行った。そして、表面殺菌を行ったローストビーフを、厚さ2.5mmとなるようスライス処理し、表1に示す性質の包装材により、ずらし重ねて深絞り真空包装を行った。ローストビーフをスライス処理してから真空包装を行うまでの時間は5分である。その後、真空包装したローストビーフを−25℃の冷凍庫に1週間冷凍保管し、冷蔵庫で解凍後ローストビーフスライス面の色調について評価を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
(色調評価)
8名のパネルに、試験区1及び2のローストビーフスライス面の色調について目視で評価してもらった。
【0027】
(結果)
試験区1で製造したローストビーフは、スライス面が赤色でほとんど退色せず色調が良好であったのに対して、試験区2で製造したローストビーフは、スライス面同士が重なっていない部分(包装材とスライス面が接触している部分)が少し退色しており色調はやや不良であった。
【0028】
(まとめ)
本実施例より、ローストビーフスライス面と包装材が接していると、包装材の酸素透過度によっては、透過する酸素の影響によりスライス面が退色するため、スライスされたローストビーフをずらし重ねて真空包装する場合は、ガスバリア性の高い包装材を使用することが好ましいことが示された。
【0029】
(実施例2)ローストビーフ包装体の製造
定法の真空調理法によりローストビーフ(260g)を製造し、中心が0℃となるよう1晩冷蔵庫に放置しテンパリング処理を行った。そして、表面殺菌を行ったローストビーフをワンオールスライサー(商品名ワンオールML−2A型、(株)オシキリ製)で、厚さ2.5mmとなるよう一括スライス処理し、表1の試験区2で使用した包装材により、スライス前のローストビーフの形状を保持するよう深絞り真空包装を行った。ローストビーフをスライス処理してから真空包装を行うまでの時間は5分である。その後、真空包装したローストビーフを−25℃の冷凍庫に1週間冷凍保管し、冷蔵庫で解凍後ローストビーフスライス面の色調について評価を行った。
【0030】
(結果)
本実施例により製造されたローストビーフ包装体を開封し、8名のパネルにローストビーフスライス面の色調を評価してもらったところ、スライス面はほとんど退色せず赤色を保っており色調が良好であった。
【0031】
(まとめ)
スライスしたローストビーフをずらし重ねて真空包装を行った場合、包装材とスライス面の接触する部分が、透過する酸素の影響により退色する場合があるが、スライスしたローストビーフをスライス前の形状を保つように真空包装を行えば、スライス面と包装材が接触することがないため、ガスバリア性の高い包装材を使用しなくても、スライス面がほとんど退色せず赤色を維持することができることが示された。
【0032】
(実施例3)凍結ローストビーフ包装体の製造
実施例1と同様の方法で、ローストビーフをスライス処理し真空包装を行った。その後、緩慢凍結又は急速凍結による凍結処理を行い、1週間、2週間、1ヶ月間保管し、その後冷蔵庫で解凍処理を行い、ローストビーフスライス面の色調について評価を行った。緩慢凍結したローストビーフ包装体を試験区3、急速凍結したものを試験区4とする。一方、凍結処理を施さず4℃で、同様に1週間、2週間、1ヶ月間保管したものを試験区5とする。
【0033】
(色調評価)
試験区3(緩慢凍結)、試験区4(急速凍結)、試験区5(4℃冷蔵)のそれぞれについて、経時変化に伴うローストビーフスライス面の色調の変化は測色計を使用し、a値の測定することにより行った。a値が高いほど赤いことを表しており、その測定結果を図1に示す。
【0034】
(結果)
試験区3(緩慢凍結)と試験区4(急速凍結)との比較においては、いずれの保管期間においても急速凍結の方がa値が高い結果となり、1〜2週間の保管期間では試験区5(4℃冷蔵)とほぼ同じ値であった。1ヶ月経過すると、試験区4(急速凍結)が最も高い値となった。
【0035】
(ドリップ量の測定)
試験区3(緩慢凍結)、試験区4(急速凍結)、試験区5(4℃冷蔵)のそれぞれについて、経時変化に伴うローストビーフ100g当たりのドリップ量の変化を測定した。その測定結果を図2に示す。
【0036】
(結果)
いずれの試験区も2週間の保管期間が最もドリップが多く、特に試験区3(緩慢凍結)が最もドリップの量が多かった。一方、試験区4(急速凍結)と試験区5(4℃冷蔵)を比較すると1〜2週間まではほぼ同じドリップ量となった。
【0037】
(まとめ)
緩慢凍結と急速凍結を比較すると、急速凍結の方がすべての保管期間でa値が高く、かつ、ドリップも少ないことから、凍結処理としては急速凍結が効果的であることが示された。なお、1ヶ月の保管期間で4℃冷蔵のa値及びドリップ量が下がるのは、腐敗が進んだためと考えられる。即ち、長期保管が可能で、かつ、経時変化でa値が下がらないことから、ローストビーフ包装体にとって、急速凍結による凍結方法が有用であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、ローストビーフをスライス処理しても、ローストビーフのスライス面の赤みが維持され、退色を防止することができるローストビーフ包装体の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空包装されたローストビーフ包装体の製造方法であって、ローストビーフを一括してスライス処理した後、当該スライス面同士を接触させることで、全体としてスライス処理前のローストビーフの形状を維持するように、真空包装することを特徴とするローストビーフ包装体の製造方法。
【請求項2】
前記真空包装後のローストビーフの中心温度が4℃以下であることを特徴とする請求項1記載のローストビーフ包装体の製造方法。
【請求項3】
前記真空包装の後に、さらに急速凍結処理を施すことを特徴とする請求項1記載のローストビーフ包装体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3記載の製造方法によって製造されることを特徴とするローストビーフ包装体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−196174(P2012−196174A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62183(P2011−62183)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000118497)伊藤ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】