説明

ロータアセンブリおよびステータアセンブリを試験する方法

【課題】磁気軸受を用いたロータアセンブリおよびステータアセンブリを、絶縁前に試験する方法を提供する。
【解決手段】気圧2バール以上の試験環境下で、絶縁前の前記ロータアセンブリおよびステータアセンブリを動作することを含む。なお、前記試験環境の雰囲気は、空気、導入ガス、または膨張極低温ガスであり得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気軸受を用いたロータアセンブリおよびステータアセンブリ、特に絶縁前にロータアセンブリおよびステータアセンブリを試験する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータアセンブリおよびステータアセンブリは、ターボエキスパンダ、ターボポンプ、コンプレッサ、電動機、発電機、または石油産業およびガス産業用の同様なターボ機械に用いられる。
【0003】
ターボエキスパンダは、供給ガス流の圧力を低下させる装置であり、圧力降下によって有効仕事量を増加させる。前記ターボエキスパンダからは、排出流れが生成され、前記流れは、分離器または蒸留塔を通過時、重い液体流を分離する。前記ターボエキスパンダには、回転機器が用いられるが、典型的な前記機器には、半径方向入口および軸出口を有するハウジング内に搭載する、放射状流入タービンロータが含まれるが、比較的高価である。前記タービンロータは、前記ロータに固定されたシャフトを介して軸受に回転可能に設けられている。上述のようなターボエキスパンダは、多種多様なガス流に対応し、例えば空気分離、天然ガス処理、天然ガス輸送、ガス膨張工程における圧力降下エネルギー回収、前記工程にかかる廃熱からの熱エネルギー回収などに用いられる。コンプレッサは、ターボエキスパンダと協働して仕事量を抽出するか、またはターボエキスパンダで発したエネルギーを消費する。
【0004】
上述のターボエキスパンダやコンプレッサをはじめとするターボ機械において、ロータシャフト支持に用い得る軸受は、主に磁気軸受、ころ軸受、および流体軸受の3つの型式であり、多くの型式の軸受はこれらの範疇にある。磁気軸受は、電磁気力によって可動シャフトを位置合わせし、支持する軸受である。なお、前記シャフトは、回転(旋回)シャフトまたは往復(平行移動)シャフトであり得る。一方、ころ軸受および流体軸受は、前記ロータシャフトと直接接合しており、油などの滑剤を必要とすることが典型的である。
【0005】
磁気軸受は、ころ軸受および流体軸受に比して秀でた性能を発揮する。磁気軸受は、比較的抵抗損失が少なく、剛性が高く、減衰特性が強く、また適当な負荷容量を有する。さらに磁気軸受は、その他の軸受とは異なり、滑剤を必要としない。従って、潤滑油、油ポンプ、油フィルタ、油冷却器などが不要となり、装置構造の複雑化やプロセス汚染に対する懸念が解消される。
【0006】
ここで、磁気軸受を配するロータアセンブリおよびステータアセンブリの一般的な構造を説明すると、複数の電磁石コイルを有するステータが、強磁性材料製のロータシャフトを取り囲み、前記電磁石コイルの各々は、前記ロータシャフトを引き付ける磁場を発生する。なお、前記電磁石コイルは、前記ロータを放射状に取り囲んでいることから、ラジアル磁気軸受と称される。これら可動ラジアル磁気軸受は、前記ステータ内で前記ロータシャフトに対して適切な位置にあり、前記ロータシャフトアセンブリを支持する。また、特定の磁石製の前記コイルを流れる電流の量を変化させることによって、前記引力を制御し、前記ロータを複数の前記磁石の中心に保持する。さらに、前記ステータ内の複数のセンサが前記ロータを取り囲み、前記ロータの前記中心位置に対する偏差を計測し、デジタル処理装置が前記センサからの信号を基に、いかに前記磁石の電流を調節し、前記ロータを複数の前記磁石間の中心に位置付けるかを決定する。なお、前記シャフトの位置を検出し、そのデータを処理し、複数の前記コイルの電流を調節する周期は、最高25,000回/秒の割合で繰り返される。前記ロータは前記磁石と接触することなく、間隙を介して「浮揚している」ので、いかなる滑剤も必要としない。
【0007】
電圧が印加されていないとき、前記ロータシャフトの端部各々に減摩軸受とともに軸受シールを設けることによって、前記シャフトを支持でき、さらに前記ロータシャフトおよびステータラジアル磁気軸受が接触することがない。これら補助軸受または「バックアップ」軸受は、乾式軸受または潤滑軸受であり得、通常動作中は無負荷状態である。
【0008】
石油産業およびガス産業において、前記ロータアセンブリおよびステータアセンブリをプロセスガス中で動作することがある。前記ガスは冷却材としても作用し、ガス圧が約10〜200バールの天然ガスであることが多い。ところが、天然ガスには不純物が多く含まれ、それに伴い硫化水素(HS)、水、二酸化炭素などの腐食剤が含まれており、最悪の場合、水とHSとが結合し、さらに腐食性の強い、いわゆる湿り酸性ガスが発生する可能性がある。
【0009】
磁気軸受の構成要素の温度を適正に保つには、典型的に冷却が必要となる。前記プロセスガスをそのまま冷却材として用いることができれば、軸受シールが不要となる。それに伴い、通常は上流で油やガスを使用できない緩衝ガスが不要となり、結果搭載するターボ機械の安全性および操作性が高まる。しかし、上述のような不純物を含むガス環境下で、前記磁気軸受アセンブリを冷却または使用すると、脆弱な構成要素が劣化・破損する恐れがある。
【0010】
酸性ガス環境下で用いる機械において長い耐用年数を実現できる、適合材料、熱処理条件および硬度レベルは限られているが、防蝕技術協会(NACE) MR−01−75規格「油田装置用耐硫化物ストレス腐食割れ金属材料」は、石油およびガス産業において広く普及している。非NACE適合材料を酸性ガスおよび/または湿り酸性ガスに曝すと、腐食が生じる可能性があるが、NACE適合材料または構成要素は、十分な耐食性を有している。例えば、溶接応力は通常腐食感受性を高める一因となるので、NACE規格による溶接後熱処理条件では、一切の溶接応力を除去する。しかし、NACE規格を満たす石油およびガス産業用の磁気軸受システムは目下存在しない。前記ロータシャフトアセンブリは、特に前記ロータシャフト自体が、前記ロータシャフト周囲の磁気ロータ積層体およびロータ接地スリーブといった、動作中、酸性ガス環境に曝され得る構成要素を含むので、NACE規格に準拠していることが望ましい。腐食感受性を示す一例として、前記ロータ積層体は、湿り酸性ガスに曝されると、水素脆化および応力腐食割れによって破損することが挙げられる。
【0011】
前記磁気ロータ積層体は、前記ロータシャフトに穿孔板を焼嵌めしたものであり、応力腐食割れが問題となる。通常速度動作中、これら構成要素には、焼嵌め応力および半径方向力によって、比較的高い機械応力がかかる。
【0012】
さらなる問題として、既存のロータアセンブリおよびステータアセンブリ用の磁気軸受システムには、合金鋼が含まれることが挙げられる。前記合金鋼は、ロータシャフトおよび/またはロータ積層体の形成時に用いられる。鋼組成は、酸性ガスに対して最も高い耐性を示すが、磁気特性に乏しい。従って、前記ロータシャフトにおける磁気損失が大きく、1.00W/cm(6.45W/in)超の熱負荷が生じると、前記鋼が高温による熱負荷を受け、酸性ガス腐食への耐性が低下する。前記構成要素を大型化することによって、熱負荷を小さくすることも考えられるが、構成要素の大型化は、費用的にも空間的にも実用的とは言えない。
【0013】
前記ロータシャフトアセンブリは、前記ロータシャフトおよびロータ積層体に加え、前記ロータシャフト端部の各々において、焼嵌め式接地スリーブを含む。ロータ接地時、前記接地スリーブは、バックアップころ軸受の内輪に係合するが、同時に前記磁気軸受が破損するので、前記バックアップ軸受が、続くシャットダウン処理の間中、前記ロータを支持することになる。既存のロータ接地スリーブの形成材料は、NACE規格に準拠しておらず、酸性ガス環境による腐食を受ける。
【0014】
磁気軸受ステータは、前記ロータアセンブリを浮揚させる磁場の磁気源となる、固定構成要素である。前記ステータおよびロータシャフト間には、空隙が介在する。機械的クリアランスは、前記ロータシャフトおよびステータ間に勿論必要であるが、磁場強度および浮遊力を最大化できるよう、ほぼミリメートル単位まで、前記空隙を極力狭くすることが典型的である。前記空隙が拡大すると、前記ロータを浮揚させるためには、前記ステータのコイルにさらなる電流が、またはステータ自体の大型化を伴って前記ステータにさらなる直径または軸長さが必要となる。前記ステータの大型化に限界がある場合、または機械的クリアランスとして必要以上に前記空隙が広い場合、前記浮遊力は弱くなる。
【0015】
既存のステータは、真空式または非真空式のいずれかであり、真空ステータについては、いわゆる「ステータキャン」によって、前記ガス環境から前記ステータ構成要素を保護している。既存のステータキャンは、同一材料で形成され、各々の端部において連結している2本の同軸チューブから成る。前記チューブ式キャン区画は、前記ステータおよびロータシャフト間の隙間に位置する。前記キャンの材料が非磁性である場合、機械的クリアランスの上端に、さらに磁気空隙が必要となり、従って支圧強度が低下する。よって、前記チューブ式キャン区画に磁性材料を用いて、支圧強度を維持すると良い。
【0016】
現在、前記ステータキャン区画を、NACE規格準拠の磁性合金製のそれぞれの前記チューブを溶接して形成している。前記合金の典型的な例としては、15〜18重量%のクロム、3〜5重量%のニッケル、および17−4PH(析出硬化)ステンレス鋼などの3〜5重量%の銅を含有するクロムニッケル合金が挙げられる。NACE規格に準拠するためには、前記溶接において、600℃超の溶接後熱処理が必要であるが、前記真空式電気ステータ構成要素および既存の製造方法における許容温度限界により、熱処理を全く施すことができない。すなわち、前記溶接は、NACE規格に準拠しておらず、酸性ガスへの暴露などによる腐食および破損を受ける。さらに、前記ステータ構成要素には、センサ、電源線および計装線など、前記キャンに覆われ保護されておらず、前記ガス処理環境に直接曝されるものもある。
【0017】
これより、添付図面を参照しながら、従来技術を説明する。
【0018】
図1に、従来技術による例示的なターボエキスパンダ型コンプレッサシステムを概略的に示す。参照番号10で示す前記システムは、ロータシャフト支持用の複数の磁気軸受を有するロータアセンブリおよびステータアセンブリを含み、前記システム10はまた、ハウジング16の両端にターボエキスパンダ12およびコンプレッサ14を対向させて含む。なお、ハウジング16は、ロータシャフト20支持用の複数の磁気軸受18を内包する。
【0019】
磁気軸受18の各々は、ロータシャフト20周辺にステータ22を含む。ステータ22は、固定極、ステータ積層体、およびステータ巻線(いずれも図示せず)を含み、磁場を生成する。また、ロータシャフト20上には、複数のロータ積層体24が固定されている。なお、ロータ積層体24の各々は、ステータ22の各々に磁気連通的に位置合わせされている。適切に電圧を加えることによって、ステータ22が作用し、ロータ積層体24を引き付け、以ってロータシャフト20が浮揚し、半径方向に配置される。前記システム10はさらに、アキシャル磁気軸受26および28を含む。なお、アキシャル磁気軸受26および28は、磁気ロータスラスト円盤30への反発を利用して、ロータシャフト20の軸方向に位置合わせされている。前記ロータシャフトの端部各々には、複数のバックアップころ軸受32が配置されている。なお、バックアップころ軸受32は、前記磁気軸受が破損したとき、またはシステム10がオフ状態のとき、ロータシャフト20上のロータ接地スリーブ34に係合するよう位置合わせされている。ところで、前記スリーブ34について、幅を拡張し、いかなる軸方向運動にも対応させることで、前記システム10を、軸方向負荷またはスラスト負荷を許容するよう構成できる。前記バックアップ軸受32は、ころ軸受であることが典型的である。前記内輪および外輪が低摩耗性および長い軸受寿命を備えるためには、典型的にHRC40以上の、高硬度合金鋼が必要であるが、周知のように高硬度特性および耐食性の両方を満足するのは非常に難しい。従って、既存の高硬度合金鋼製の軸受内輪および外輪では、NACE防食規格に準拠できない。
【0020】
前記システム10はさらに、制御ユニット(図示せず)と電気的に連通する、複数のセンサ36、電源線および計装線(ワイヤ)38を含む。前記センサ36を用いて、典型的にはロータシャフト20上の軸方向および半径方向の不連続性を感知する。そして、前記制御ユニットを通して、前記シャフトの径方向および軸方向の変位量を測定し、その結果に基づいて前記ロータシャフト20に必要な磁気浮遊力が生成される。
【0021】
図2に、従来技術による例示的なロータアセンブリおよびステータアセンブリ50の部分断面図を示す。ロータアセンブリおよびステータアセンブリ50は、ロータシャフトアセンブリ52を含む。なお、ロータシャフトアセンブリ52には、ロータシャフト56に固定されたロータ積層体54が含まれる。真空ステータアセンブリ60は、ロータシャフトアセンブリ50を取り囲み構成され、ステータフレーム62、磁気ステータ積層体64、およびステータスリーブ68を含む。なお、磁気ステータ積層体64には、導電巻線66が巻き付けられている。また、ステータスリーブ68の厚さは通常、0.05〜5.0mmである。真空ステータアセンブリ60は、壁70で画定される密閉状態のキャン、およびステータスリーブ68を含む。なお、ステータスリーブ68の厚さは通常、約1cmである。前記キャンには、様々な型式の接合部72において溶接が施されているが、この溶接は、NACE規格に準拠するものではない。なお、ステータスロット、ステータ極、センサ、電源線および計装線については、本図面では示していない。空隙80は、ロータシャフトアセンブリ52とステータアセンブリ60とを分離する。ロータシャフト56は、動作中、ステータアセンブリ60が生成する磁場により浮揚する。
【特許文献1】米国特許第6,198,803B1号公報
【特許文献2】米国特許第6,310,414B1号公報
【特許文献3】米国特許第6,648,167B1号公報
【特許文献4】米国特許第6,712,912B2号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0034295A1号
【非特許文献1】“Sulfide Stress Cracking−NACA MR 0175”、Emerson Process Managementホームページ、インターネット<www.emersonprocess.com/regulators> 10頁
【非特許文献2】Metal Coatings Corporation、Metal Coatings Corporationホームページ、インターネット<www.metcoat.com> 18頁
【非特許文献3】“17−4 Stainless Steel Bar (Stainless Steel 630)”、National Specility Alloys, Inc.ホームページ、インターネット<www.nationalspecility.com/stainlesssteel174.php> 3頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
腐食環境下に磁気軸受システムを用いたロータアセンブリおよびステータアセンブリへの需要が拡大するにつれ、既存の磁気軸受が抱える上述のような課題の解決が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、磁気軸受を用いたロータアセンブリおよびステータアセンブリを絶縁前に試験する方法を提供する。磁気軸受を用いたロータアセンブリおよびステータアセンブリを試験する方法の一実施形態には、2バール以上の気圧下、−260〜40℃の冷却空気または導入ガス雰囲気を試験環境とし、前記環境下で前記ロータアセンブリおよびステータアセンブリを動作することが含まれる。また、前記方法のもう一つの実施形態には、低温流体を所望の温度および気圧に上昇させ、試験環境を創出すること、および前記試験環境において前記ロータアセンブリおよびステータアセンブリを動作することが含まれる。なお、前記所望の温度は、−260℃〜40℃であり、前記所望の気圧は2バール以上である。
【0024】
本発明によるロータアセンブリおよびステータアセンブリの構成要素および工程が有する特徴および利点は、添付図面を参照しながら以下の好ましい実施形態を含む詳細な説明を読むことによって、より良く理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本明細書に開示するロータアセンブリおよびステータアセンブリには、磁気軸受、および腐食環境に適合可能な磁気軸受を製作する工程が含まれる。上述の需要から、NACE規格に完全に準拠する磁気軸受アセンブリを提供することが望ましい。例えば、NACE規格準拠のロータシャフトアセンブリは、磁性鋼シャフトおよびロータ積層体をバリヤフィルムで覆うことで、実現できる。真空ステータアセンブリを採用した磁気軸受システムにおいて、NACE規格準拠のステータキャンは、磁性材料および非磁性材料を組み合わせて真空状態を創出することで実現可能である。なお、異素材間の接合部においてのみ、溶接後熱処理が必要となる。同様に、NACE規格準拠のロータ接地スリーブ、バックアップ軸受の内輪および外輪、ならびに電源線および計装線は、後述する特定の材料を用いることで実現可能である。
【0026】
本発明による腐食環境に適合可能な磁気軸受は、アキシャル軸受その他の型式の磁気軸受としても、エキスパンダ、ポンプ、コンプレッサ、モータ、発電機その他のターボ機械に適用可能である。
【0027】
これより、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態を、ターボエキスパンダを例にとって説明する。
【0028】
図3に、酸性ガスまたは湿り酸性ガス下などの腐食環境に適合可能な磁気軸受を有するロータアセンブリの一実施形態を示す。ロータシャフトアセンブリ100は、ロータシャフト102を含む。なお、前記シャフトの周囲にはロータ積層体104およびロータ接地スリーブ108が設置されている。本図面においては、バリヤ層106が前記ロータシャフトアセンブリの露出面全体に及んでいるが、代替的に、前記アセンブリ露出面の特定の領域においてのみ備わっていても良い。例えば、前記アセンブリで最も腐食を受けやすい領域に特定して、前記バリヤ層を備えることができる。前記の領域には、ロータシャフト、ロータ積層体、または積層してロータ積層体を形成する複数の穿孔板が含まれる。前記バリヤ層は、一実施形態として、耐食性が皆無または乏しいと言われるケイ素鉄(FeSi)製の積層体を含むロータに適用される。NACE規格準拠の17−4PHステンレス鋼などの合金は、十分に高い耐食性を備えるので、通常、ポリマー表面被覆加工を必要としない。
【0029】
代替的に、前記バリヤ層を、下塗り加工後に施しても良い。前記下塗り層の施工厚さは、使用するバリヤ材の種類によって異なり、通常、前記磁気軸受を用いる特定の環境に合わせて選択される。このように所望用途に応じて、ポリマー組成および前記層厚さを最適化することは、当業者には周知である。
【0030】
腐食環境からロータシャフトアセンブリを保護するバリヤ層106の適当材料としては、完全にフッ素化された(すなわちペルフルオロ化された)または部分的にフッ素化されたポリマーが挙げられるが、これに限定されない。前記完全にフッ素化されたポリマーには、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ペルフルオロアルコキシ−テトラフルオロエチレン共重合体(PFA)、およびフッ素化エチレン−プロピレン共重合体(FEP)などが含まれる。PFAは、テトラフルオロエチレン[CF=CF]とペルフルオロアルキルビニルエーテル[F(CF)nCFOCF=CF]との共重合体である。結果として得たポリマーは、ペルフルオロアルコキシ側鎖を有するPTFE特有のフッ化炭素骨格鎖を含む。前記バリヤ層として適当なPFAの典型的な構造の一つとして、テトラフルオロエチレン−ペルフルオロメチルビニルエーテル共重合体(MFA)が挙げられる。また、前記部分的にフッ素化されたポリマーには、クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、およびフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)が含まれる。
【0031】
また、ウィットフォードコーポレーション(Whitford Corporation)より発売のキシラン(商標)(Xylan(商標))、およびデュポン社(Dupont)より発売のテフロン(商標)(Teflon(商標))、テフロンS(商標)(Teflon−S(商標))といったフッ素重合体組成物も、バリヤ層材料として有効である。キシラン(商標)被覆材は、PTFE、PFAおよびFEPを、テフロン(商標)被覆材は、PTFE、PFA、FEPおよびETFEフッ化炭素樹脂を組成の一部に含む。テフロンS(商標)は、フッ化炭素族に近い被覆材であって、硬度、耐摩耗性およびその他所望の特性を付与する結合樹脂を含んでいる。
【0032】
前記バリヤ層組成に有効なその他の有機材料としては、例えばエポキシ樹脂粉、充填エポキシ樹脂、充填シリコンおよび充填ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)が挙げられる。代表的な熱硬化性エポキシ樹脂粉被覆材として、3Mコーポレーション(3M Corporation)より発売のスコッチコート(商標)(Scotchkote)134およびスコッチコート(商標)(Scotchkote)6258が挙げられるが、これらに限定されない。
【0033】
スコッチコート(商標)134融着エポキシ被覆剤(FBEC)は、単一樹脂の熱硬化性エポキシ被覆剤であって、組成の一部としてジ(4−ヒドロキシフェノール)イソプロピリデンジグリシジルエーテル−ジ(4−ヒドロキシフェノール)イソプロピリデン共重合体を含む。スコッチコート(商標)6258融着エポキシ被覆剤(FBEC)は、単一樹脂で熱硬化性エポキシ被覆剤であって、組成の一部としてジ(4−ヒドロキシフェノール)イソプロピリデンジグリシジルエーテル−ジ(4−ヒドロキシフェノール)イソプロピリデン共重合体、およびエピクロルヒドリン−o−クレゾール−ホルムアルデヒド重合体を含む。随意的に、乾燥粉末樹脂状態のスコッチコート(商標)134およびスコッチコート(商標)6258を、25.4μmフェノール下塗り樹脂上に254〜381μmの施工厚さに吹き付け、150〜250℃の温度条件下で最長30分間熱養生する。
【0034】
図3に示すバリヤ層106に有効な組成としてはさらに、酸化物被膜、リン酸塩被膜、クロム酸塩被膜などの化成被覆材、具体的には、サーマテック社(Sermatech)より発売のサーマロン(商標)、サーマロイ(商標)、サーマガード(商標)、およびサーメテル(商標)が挙げられる。
サーマロン(商標)は、アルミニウム主体のクロム酸塩/リン酸塩接着材料の下塗り層、高温適合性重合樹脂防食被覆材による中塗り層、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)含有の上塗り層を含む、施工厚さが100〜150μmの被覆材料である。サーマロイ(商標)は、高濃度シリコン外層を有するニッケルアルミナイド金属間化合物から成る。サーメテル(商標)は、無機被覆材料の一種であり、金属/セラミックス複合材料複合材料を形成する金属に適用される。サーマガード(商標)は、セラミック結合剤を用いた、アルミニウムを含有する水ベースの被覆材料であり、この場合のポリマーバリヤ層106の施工厚さは、2〜600μmである。前記ポリマーバリヤ層106は、分散液状または粉状で担体(すなわち、ロータアセンブリの露出面全体または特定領域)に施工可能である。その仕組みとは、ポリマー材料を含有する水または溶剤懸濁液を、スプレー法および焼付け法によって前記担体に拡散処理し、それによって形成された層が、前記ポリマー材料の溶融温度を超える環境になると消耗し、犠牲的被覆として前記担体を保護する、というものである。既知の粉末ポリマー材料塗布方法の例として、静電ガン、静電流動床または電着ガンなどを用いた粉末スプレー法や、前記粉末を、ポリマー材料の溶融温度超に熱した担体に吹き付け、塗工層を形成する溶射法、担体を回転させながら炉熱などで担体およびポリマー材料を溶融温度超まで熱し均質な塗工層を形成する「ロトライニング」と呼ばれる方法が挙げられる。
【0035】
上述のように、バリヤ層106を、ロータシャフトアセンブリ100の露出表面上で、少なくとも一箇所の所望領域に施すことができる。なお、前記露出表面には、ロータ積層体104、ロータシャフト102、ロータ接地スリーブ108、その他のロータアセンブリ表面、またはロータ100の完成形に画定される1箇所以上の表面領域が含まれる。
【0036】
本発明の目的の一つは、ロータアセンブリの一部または全体を被覆し保護することで、酸性ガス環境への暴露による腐食を阻止することである。
【0037】
前記ロータシャフトアセンブリの構成要素は、磁性鋼製であることが典型的である。前記ロータ積層体は、一実施形態において、ケイ素鉄(FeSi)製であり、前記ポリマーバリヤにより被覆される。
【0038】
さらなる実施形態において、前記ロータ積層体は、40〜90重量%の耐水素性ニッケルをその総重量に対して含有するニッケル基合金を含む、バリヤ層に被覆される。なお、記号XおよびYを数字とすると、「X〜Y重量%」という表現は、「X重量%〜Y重量%」を表すものとする。耐水素性ニッケル基合金として、ヘインズ社(Haynes International)より発売の、ハステロイ(商標)C22(商標)(HASTELLOY(商標)C22(商標))が挙げられる。前記ニッケル基合金は、その総重量に対して、約56重量%ニッケル、約2.5重量%コバルト、約22重量%クロム、約13重量%モリブデン、約3重量%タングステン、約3重量%鉄、約0.5重量%マンガン、約0.08重量%シリコン、約0.35重量%バナジウム、および約0.010重量%炭素を含有する。
【0039】
さらなる実施形態において、前記ロータシャフトは、磁性鋼である17−4PHステンレス鋼合金、10〜20重量%のクロムをその総重量に対して含有する析出硬化マルテンサイトステンレス鋼、および銅−ニオブ合金を含み形成される。より詳細には、前記析出硬化マルテンサイトステンレス鋼は、その総重量に対して、約16.5重量%のクロム、約4.5重量%のニッケル、約3.3重量%の銅、約0.3重量%のニオブを含有する。前記磁性鋼は、小型ロータシャフトアセンブリ形成に有効である。前記ポリマーバリヤ層またはハステロイ(商標)C22(商標)による被覆を、前記ロータ積層体に適用することで、酸性ガスへの暴露による腐食への耐性をさらに強化できる。しかし、17−4PH合金などの酸性ガス耐性を有する合金を使用すると、例えばケイ素鉄合金(FeSi)に比して、前記ロータの磁気特性が損なわれ、特にAPI(米国石油協会)規格が組立機械分野において定める外気試験において問題が生じる。外気は、加圧処理ガスに比して、著しく低気圧である上、温度特性および輸送特性に劣るので、著しく冷却能力が低い。そこで、大型化によりロータの露出表面領域を拡大することで、前記表面における熱流束を低減し、冷却能力向上を図ることも考えられるが、前記磁気軸受の引力が必要であることから、合理的とは言えない。前記ロータ寸法拡大の無い場合、ロータ表面における熱流束は1W/cm超となり、外気試験においては、温度が異常に上昇し、積層ロータ断熱材の許容温度を容易に超えてしまう。全くこれらの問題に直面せずに済むためには、空気または窒素その他のガスを十分に加圧した条件下、および/または温度を軸受構成要素の適正温度に低下させた条件下において、組立機械を試験すると良い。しかし、必要とみなす気圧および温度の精密な兼ね合いについては、ロータの設計により異なり、試験条件下における圧力損失を予測する技量を必要とするので、適切な判断は難しい。前記ロータ積層体の形成には、ウェスタンエレクトリック社(Western Electric Company)より発売のパーマロイ(商標)(PERMALLOY(商標))、およびアレゲニー・ラドラム社(Allegheny Ludlum Corporation)より発売のモリパーマロイ(商標)(MOLY PERMALLOY(商標))といった17−4PH合金以外の合金、低炭素マルテンサイトステンレス鋼、またはその他同様の材料を用いることも可能である。パーマロイ(商標)およびモリパーマロイ(商標)は、その総重量に対して、約80重量%のニッケル、約14重量%の鉄、約4.8重量%のモリブデン、約0.5重量%のマンガン、約0.3重量%のシリコンを含有する。低炭素マルテンサイトステンレス鋼は、その総重量に対して、約11.5〜17.0重量%のクロム、約3.5〜6.0重量%のニッケル、および約0.060重量%の炭素を含有する。
【0040】
図3に示すロータ接地スリーブ108は、一実施形態において、40〜70重量%のコバルトをその総重量に対して含有するコバルト基超合金鋼で形成される。コバルト基超合金鋼を用いると、有利にNACE規格準拠のロータ接地スリーブを形成できる。前記ロータ接地スリーブ形成に適当なコバルト基超合金鋼としては、これらに限定されないが例えば、ヘインズインターナショナル社(Haynes International Corp.)より発売の、アルティメット(商標)(ULTIMET(商標))およびヘインズアロイ(商標)No.6B(HAYNES(商標)6B)が挙げられる。アルティメット(商標)は、その総重量に対して、約54重量%のコバルト、約26重量%のクロム、約9重量%のニッケル、約5重量%のモリブデン、約3重量%の鉄、約2重量%のタングステン、約0.8重量%のマンガン、約0.3重量%のシリコン、約0.8重量%の窒素、約0.06重量%の炭素を含有する。ヘインズアロイ(商標)No.6Bは、その総重量に対して、約51重量%のコバルト、約10重量%のニッケル、約20重量%のクロム、約15重量%のタングステン、約3重量%の鉄、約1.5重量%のマンガン、約0.4重量%のシリコン、約0.10重量%の炭素を含有する。また、前記ロータ接地スリーブに適当な被覆材料の一例として、アーモロイ社(Armoloy Corporation)より発売のアーモロイ(商標)(Armoloy(商標))が挙げられる。アルティメット(商標)およびヘインズアロイ(商標)No.6Bは、主組成としてコバルト、クロムおよびニッケルを含む。これらコバルト基超合金には、極めて高いトライボロジー特性が認められるので、磁気軸受の故障が原因となり、前記ロータシャフトが前記バックアップころ軸受に落下する際の、前記ロータシャフト表面の損傷を防ぐことができる。さらに、MP35N合金など、ニッケル−コバルト基合金には、析出硬化により硬度および剛性が向上するものもあり、NACE規格準拠に適当である。図5に、バックアップころ軸受200の概略図を示す。前記軸受は、ロータシャフト202および接地スリーブ204について、内輪208および外輪206を含む。一実施形態において、前記バックアップころ軸受の内輪および外輪は窒素マルテンサイト系ステンレス鋼製であり、前記ステンレス鋼は、その総重量に対して、10〜20重量%のクロム、0.1〜1.0重量%の窒素を含有する。なお、前記鋼は典型的に、その総重量に対して、約0.25〜0.35重量%の炭素、約0.35〜0.45重量%の窒素、約0.5〜0.6重量%のシリコン、約14.5〜15.5重量%のクロム、および約0.95〜1.05重量%のモリブデンを含有する。入手可能な前記窒素マルテンサイト系ステンレス鋼としては、バーデン社(Barden Corporation)製クロニドール30(商標)(Cronidur−30(商標))または米国SKFベアリング社(SKF Bearings USA)製VC444が挙げられ、これらは前記バックアップころ軸受内輪および外輪に必要となる、HRC55よりも高硬度かつ優れた耐食性を実現している。
【0041】
一実施形態において、所望の露出表面領域をバリヤ材料で被覆することで、様々なステータ構成要素を腐食ガス環境から保護できる。これは、非真空ステータアセンブリに有効である。なお、前記表面領域には、ステータキャン表面、電源線、計装線、ステータセンサ、およびステータスリーブが含まれる。
【0042】
本明細書開示の試験方法として、一実施形態において、ロータ表面に工場環境下同様の1W/cm超の熱流束、および石油生産工程で生じるメタンガスまたは天然ガスなどの加圧空気雰囲気またはその他導入ガス雰囲気を条件に与え、実使用前の小型磁気軸受を動作させて試験する。前記空気またはその他導入空気は、冷却装置または熱交換器で予冷してから、または低温流体を所望の温度および圧力に上昇させてから、前記磁気軸受へ導入される。なお、許容可能な前記雰囲気温度は、−260〜40℃である。また、熱除去能力を向上させるとともに、前記ロータ温度を技術的許容温度に維持できる圧力は、2バール以上である。
【0043】
上述のように、前記ロータアセンブリおよびステータアセンブリは、本明細書において「ステータキャン」とも称する、真空ロータアセンブリを含み得る。一実施形態において、磁性鋼合金および非磁性鋼合金を組み合わせて、NACE規格準拠材料および溶接による前記ステータキャンを構成する。磁性鋼合金は、前記ステータキャンにおいて、前記ステータスリーブなど、その電磁特性が望まれる領域に用いられる。また、インコネル合金などの非磁性鋼合金は、比較的良好な耐食性を備え、溶接後熱処理が不要であることから、磁気特性が不要な領域に用いられる。
【0044】
一実施形態において、前記真空ステータに用いる磁性鋼合金は、10〜20重量%のクロムをその総重量に対して含有する析出硬化マルテンサイトステンレス鋼を含む。前記鋼は詳細には、その総重量に対して、約16.5重量%のクロム、約4.5重量%のニッケル、約3.3重量%の銅、約0.3重量%のニオブを含有する。一実施形態において、前記真空ステータに用いる非磁性材料は、40〜70重量%のニッケルをその総重量に対して含有するニッケル基合金を含む。前記合金は詳細には、その総重量に対して、約58重量%のニッケル、約21.5重量%のクロム、約9重量%のモリブデン、約5重量%の鉄を含有する。
【0045】
図4に、NACE規格準拠のステータキャン製造工程を概略的に示す。工程150には、接合部156によって、ステータスリーブ154に非磁性ステータスリーブ拡張部152を溶接することが含まれる。ステータ構成要素に頼らず前記スリーブ部分を形成すると、前記接合部を溶接後熱処理し、前記接合部およびその他熱影響域にHRC33未満という低硬度を保証できるので、NACE規格準拠の溶接を達成できる。なお、異種材料どうしの溶接による応力を軽減し、HRC33未満の低硬度を実現できる溶接後熱処理であれば、いかなる既知の溶接プロセスも前記接合部の形成方法として適用できる。溶接プロセスとしては例えば、自走式電子ビーム溶接、フィルタを用いた電子ビーム溶接、レーザ溶接、TIG(タングステン不活性ガス)溶接、MIG(金属不活性ガス)溶接、トーチ溶接、およびこれらの中のいずれかを組み合わせたプロセスが挙げられる。例示的に、前記ステータスリーブ拡張部152は、非磁性超合金鋼を含み得、17−4PH系磁性鋼含有の前記ステータスリーブ154の端部各々に溶接される。前記非磁性超合金鋼は詳細には、40〜70重量%のニッケルをその総重量に対して含有するニッケル基合金を含み得、適当かつ入手可能な前記合金として、インコアロイ社(Inco Alloys International)より発売のインコネル625(商標)(Inconel 625(商標))が挙げられる。なお、インコネル625(商標)は、その総重量に対して、約58重量%のニッケル、約21.5重量%のクロム、約9重量%のモリブデン、約5重量%の鉄を含有する。こうして形成されたユニットは、接合部156がNACE規格に準拠するよう熱処理される。溶接後熱処理として適当なプロセスとしては、以下の2つのNACE MR0175規格による2段硬化プロセス、すなわち(1)溶剤を1040±14℃で焼成し、32℃未満まで空冷または液体急冷して焼結した後、620±14℃で4時間以上焼成し、32℃未満まで空冷または液体急冷して焼結(第1析出硬化サイクル)し、さらにもう1度、620±14℃で4時間以上焼成し、32℃未満まで空冷または液体急冷して焼結(第2析出硬化サイクル)するプロセス、または(2)溶剤を1040±14℃で焼成し、32℃未満まで空冷または液体急冷して焼結した後、760±14℃で4時間以上焼成し、32℃未満まで空冷または液体急冷して焼結(第1析出硬化サイクル)し、さらにもう1度、620±14℃で2時間以上焼成し、32℃未満まで空冷または液体急冷して焼結(第2析出硬化サイクル)するプロセスの、いずれか一つである。
【0046】
次に、ステータフレーム160などの前記ステータ構成要素を前記ユニットに取り付けた後、接合部166によってステータキャン区画164を溶接し、前記ステータキャンが完成する。なお、前記ステータフレーム160には、導電巻線162を巻き付けた磁気ステータ積層体158が含まれる。ところで、前記キャン区画164には、上述のインコネル(商標)625超合金鋼などの非磁性鋼または同等の材料を適用する。というのも、同種材料を用いると、溶接後熱処理を必要とせずNACE規格準拠の接合部166を形成できるので、有利だからである。こうして、NACE規格に準拠した、内部の電気部品が熱損傷することのない真空ステータキャンが組み立てられる。
【0047】
次に、前記電源線および計装線を、前記ステータ構成要素に取り付ける。前記電源線および計装線は、前記キャンに保護されていないが、NACE規格に準拠させることで、その耐食性を最大限に発揮できる。なお、前記電源線および計装線は、導電性材料を取り囲む、非磁性耐食合金製のワイヤスリーブを含む。NACE規格準拠の金属線としては例えば、ワイヤスリーブの材料としても用いるインコネル合金製のワイヤなどが挙げられる。前記ワイヤスリーブは、加圧条件下で秀でた電気絶縁性を発揮する、例えば酸化マグネシウム(MgO)などのセラミックスで絶縁された、導電体を封入している。
【0048】
これより、本発明による試験方法の具体的な実施例を示す。ただし、これらはあくまでも説明目的によるものであり、特許請求の範囲を限定するものではないことを理解されたい。
【実施例1】
【0049】
試料としてスコッチコート(商標)6258熱硬化性エポキシを、加熱養生被覆材料として、150〜246℃に予熱しておいた施工部位に、300〜327μmの施工厚さに吹き付け、177℃で30分間硬化させた。オートクレーブ装置にプロセスガスを用いて試験することで、前記被覆材料の酸性ガス環境への適合性を判定する。一連の試験は、温度が30〜130℃の範囲で、また天然ガス中の硫化水素量が6,000〜20,000ppmの範囲で、水分レベルが50ppm〜飽和量の範囲で変化する環境下で行われた。硫化水素および79℃未満の水に曝した前記試料からは、腐食の形跡は全く検出されなかった。
【実施例2】
【0050】
試料として粉状のスコッチコート(商標)134を、150〜246℃に予熱しておいた外径2〜3インチの小型ロータに、300〜327μmの施工厚さに吹き付け、177℃で30分間硬化させた。オートクレーブ装置にプロセスガスを用いて試験することで、前記被覆材料の酸性ガス環境への適合性を判定する。一連の試験は、温度80℃で、また6,000〜20,000ppmの高レベル硫化水素下で、50ppm〜飽和量の範囲の水分レベルで変化する環境下で行われたが、前記試料からは、腐食の形跡は全く検出されなかった。
【実施例3】
【0051】
サーマロン(商標)を試料とし、標準的なサイズのロータを178〜406μmの施工厚さに被覆し、実動環境下で試験した。前記ロータに施した被覆材料は、腐食性ガス環境下に2000時間以上曝されたが、担体である金属材料を酸性ガスから保護し、前記試料からは、腐食の形跡は全く検出されなかった。
【実施例4】
【0052】
バックアップ軸受輪の代表的材料であるクロニドール30を試材として、NACEによる実動環境下評価試験を行った。前記材料について、バックアップ軸受輪にかかる標準的応力下、NACETM0177溶液A浴による、720時間耐久試験を行ったところ、腐食の形跡は全く検出されなかった。
【実施例5】
【0053】
バックアップ軸受接地スリーブの代表的材料であるヘインズ6−Bを試材として、NACE実環境試験を行った。前記材料について、バックアップ軸受接地スリーブにかかる標準的応力下、NACETM0177溶液A浴による、720時間耐久試験を行ったところ、腐食の形跡は全く検出されなかった。
【実施例6】
【0054】
ステータキャン接合部の代表的材料であるインコネル(商標)625および17−4PHステンレス鋼を接合試材として用い、NACE実環境試験を行った。前記材料について、ステータキャンにかかる標準的応力下、NACETM0177溶液A浴による、720時間耐久試験を行ったところ、腐食の形跡は全く検出されなかった。
【0055】
上述の種々の実施例を組み合わせて、酸性ガス環境への暴露といった腐食要因に対して、秀でた耐久性を発揮する磁気軸受を提供することも可能である。
【0056】
特に断りが無い限り、数詞がないことや「前記」の用語は複数の場合も含まれる。同じ特徴的構成やコンポーネントに用いられるすべての範囲の終点は、独立して組み合わせ可能であり、記載された終点において包括的に含まれる。
【0057】
以上、本明細書において、好ましい実施形態を含めて本発明を説明した。当業者には明らかなように、本明細書または図面に記載の技術は、単独でまたは様々な組み合せによって実行可能であり、また複数の目的を同時に達成し得、そのうち一つの目的を達成すること自体に技術的有用性を持つものである。特許請求の範囲の精神には、当業者が連想し得るその他の実施形態または特許請求の範囲の記載と同等とみなし得る構成要素も含む。
【図面の簡単な説明】
【0058】
添付図面を通じて、同様の参照番号で同様の要素を示す。
【図1】従来技術による磁気軸受システムの概略図である。ここでは、エキスパンダコンプレッサなどにおける、磁気軸受を用いたロータアセンブリおよびステータアセンブリを示す。
【図2】従来技術による真空ステータの概略図である。ここでは、ロータアセンブリ用の、NACE規格に準拠しない溶接によるステータキャンを示す。
【図3】ポリマーバリヤで被覆されたロータアセンブリの概略図である。
【図4】NACE規格準拠のステータキャンの製作工程を示す概略図である。
【図5】ロータシャフトおよびロータ接地スリーブに設けた、バックアップころ軸受の概略図である。
【符号の説明】
【0059】
10 磁気軸受システム
12 ターボエキスパンダ
14 コンプレッサ
16 ハウジング
18 磁気軸受
20 ロータシャフト
22 ステータ
24 ロータ積層体
26 アキシャル磁気軸受
28 アキシャル磁気軸受
30 磁気ロータスラスト円盤
32 バックアップころ軸受
34 ロータ接地スリーブ
36 センサ
38 電源線および計装線(ワイヤ)
50 ステータアセンブリ
52 ロータシャフトアセンブリ
54 ロータ積層体
56 ロータシャフト
60 真空ステータアセンブリ
62 ステータフレーム
64 ロータ積層体
66 導電巻線
68 ステータスリーブ
70 壁
72 接合部
80 空隙
100 ロータシャフトアセンブリ
102 ロータシャフト
104 ロータ積層体
106 バリヤ層
108 ロータ接地スリーブ
150 工程
152 非磁性ステータスリーブ拡張部
154 ステータスリーブ
156 接合部
158 磁気積層体
160 ステータフレーム
162 導電巻線
164 ステータキャン区画
166 接合部
200 バックアップ軸受
202 ロータシャフト
204 接地スリーブ
206 外輪
208 内輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験環境を創出する気圧が2バール以上で、温度−260℃〜40℃の冷却空気雰囲気または導入ガス雰囲気と、前記試験環境下でロータアセンブリおよびステータアセンブリを動作することとを含む、前記ロータアセンブリ表面の熱流束は1W/cm超である、磁気軸受を用いた前記ロータアセンブリおよびステータアセンブリを試験する方法。
【請求項2】
前記雰囲気は熱交換器内で冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記雰囲気は冷却装置内で冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
低温流体を所望の温度および気圧まで上昇させ、気圧が2バール以上で、温度−260℃〜40℃の試験環境を創出することと、前記試験環境下でロータアセンブリおよびステータアセンブリを動作することとを含む、前記ロータアセンブリ表面の熱流束は1W/cm超である、磁気軸受を用いた前記ロータアセンブリおよびステータアセンブリを試験する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−2930(P2009−2930A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−55653(P2008−55653)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】