説明

ロータハブの製造方法、ロータハブ及び情報記録再生装置

【課題】製造効率の向上及び低コスト化を図った上で、バリの発生を抑制できるロータハブの製造方法及びロータハブ、情報記録再生装置を提供する。
【解決手段】ディスクの中心孔内に挿入される挿入部43と、挿入部43から外側に向かって突設され、ディスクが載置されるディスク載置面46を有するフランジ部44と、挿入部43に形成され、ディスク載置面46との間でディスクを保持するボルトを取り付けるための雌ねじ孔54と、を有するロータハブの製造方法であって、挿入部43に雌ねじ孔54を形成する孔あけ工程と、挿入部43の外周面を切削する第2切削工程と、を有し、第2切削工程では、面粗さRaが0.5μm以上になるように切削することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータハブの製造方法、ロータハブ及び情報記録再生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種の情報をディスク(磁気記録媒体)に記憶・再生させるハードディスク等の情報記録再生装置では、そのディスクを回転させる駆動装置としてスピンドルモータが使用されている。この種のスピンドルモータとしては、コイルを有するステータと、ステータに対して回転可能に設けられるとともに、永久磁石を有するロータハブと、を備えている。
【0003】
上述したロータハブの製造方法として、例えば特許文献1に示されているような製造方法がある。具体的には、まず、アルミ合金等の被加工材から、鍛造等によりハブ用ブランクを取り出すブランク形成工程を行う。ハブ用ブランクは、最終形状に近い形状に粗加工されたものであり、その概略構成としては、有頂円筒形状の筒部と、その筒部の開口縁部から径方向外側に向かって突設されたフランジ部と、を備えている。
そして、ブランク形成工程の後、ハブ用ブランクの内周面を切削する第1切削工程を行い、次にフランジ部との間でディスクを挟み込む保持手段を取り付けるための取付孔を筒部の底部に形成する孔あけ工程を行う。
最後に、ハブ用ブランクの外周面を切削する第2切削工程を行う。
【0004】
ここで、上述した製造方法では、第2切削工程において、底部を切削する際に締結孔を通過するため、加工面が断続的になる。この際、底部と締結孔とでの切削抵抗が異なることにより、締結孔の開口縁に締結孔の内側に向けて突出するバリが発生し易い。この場合、情報記録再生装置として組み込んだ後に、締結孔の開口縁からバリが落下する等して情報記録再生装置内部に金属粉として存在することで、情報記録再生装置の性能が低下する虞がある。そのため、従来では、第2切削工程後にバリを除去するバリ除去工程を行う方法が知られている。
また、バリの発生を抑制するための技術としては、例えば、特許文献2に示されるように、締結孔の開口縁を予め面取りしておき、その後面取り部分が残るように切削する構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−224901号公報
【特許文献2】特開2003−154431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したバリ除去工程を行うことで、製造工数が増加するため、製造コストの増加や、製造効率の低下に繋がるという問題がある。また、上述した特許文献2の構成にあっても、未だにバリの発生を抑制しきれないという問題がある。
ここで、第2切削工程後に孔あけ工程を行うことも考えられるが、この場合には孔あけ加工によりロータハブに歪が発生してしまい、情報記録再生装置の性能が低下する虞がある。
【0007】
そこで本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、製造効率の向上及び低コスト化を図った上で、バリの発生を抑制できるロータハブの製造方法及びロータハブ、情報記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のロータハブの製造方法は、ディスクの孔内に挿入される挿入部と、前記挿入部から外側に向かって突設され、前記ディスクが載置されるディスク載置面を有するフランジ部と、前記挿入部に形成された穴と、を有するロータハブの製造方法であって、前記挿入部に前記穴を形成する穴あけ工程と、前記挿入部のうち前記穴の開口端面を切削する切削工程と、を有し、前記切削工程では、面粗さRaが0.5μm以上になるように切削することを特徴としている。なお、面粗さとは例えばJIS B 0601に規格化されている算術平均粗さRaの数値である。
【0009】
この構成によれば、面粗さRaが0.5μm以上になるように切削することで、切削工程において隣接する切削加工部の重なり部分間の間隔が広くなるとともに、重なり部分の数も減少することになる。そのため、適切な材料せん断加工が行われ、バリの発生を抑制することができる。この場合、従来のように切削工程後のバリ除去工程を行う必要がないので、製造効率の向上、及び低コスト化を図ることができる。また、切削工程前に穴をあけるので、ロータハブに歪等が発生するのを抑制できる。
【0010】
また、前記穴は、前記ディスク載置面との間で前記ディスクを保持する保持手段を取り付けるための取付穴であることを特徴としている。
この構成によれば、上述したようにバリの発生を抑制できるので、保持手段を取り付ける際に穴の開口縁からバリが落下する等の虞がない。
【0011】
また、前記切削工程では、切込み深さを0.2mm未満に設定することを特徴としている。
この構成によれば、切削工程において、バリがかえらない適正な材料せん断加工が得られるので、バリの発生を抑制することができる。
【0012】
また、本発明のロータハブは、ディスクの孔内に挿入される挿入部と、前記挿入部から外側に向かって突設され、前記ディスクが載置されるディスク載置面を有するフランジ部と、前記挿入部に形成された穴と、を有し、前記挿入部のうち前記穴の開口端面は、面粗さRaが0.5μm以上に設定されていることを特徴としている。
この構成によれば、面粗さRaが0.5μm以上に設定することで、バリの少ないロータハブを提供することができる。
【0013】
また、本発明の情報記録再生装置は、情報記録媒体を回転可能に支持するモータと、前記磁気記録媒体に情報の記録及び再生を行うスライダと、前記スライダ及び前記モータを収容するハウジングと、を備え、前記モータは、ステータと、前記ステータに対して回転可能に支持された上記本発明のロータハブと、を備えていることを特徴としている。
この構成によれば、上記本発明のロータハブを備えているので、製造効率の向上、及び低コスト化を図るとともに、組付け後にバリが落下する等の虞もないので、信頼性の高い情報記録再生装置を提供できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るロータハブの製造方法、及びロータハブによれば、製造効率の向上及び低コスト化を図った上で、バリの発生を抑制できる。
また、本発明に係る情報記録再生装置によれば、上記本発明のロータハブを備えているので、製造効率の向上、及び低コスト化を図るとともに、組付け後にバリが落下する等の虞もないので、信頼性の高い情報記録再生装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】情報記録再生装置の斜視図である。
【図2】図1のA−A線における側面断面図である。
【図3】ロータハブの平面図である。
【図4】ロータハブの製造方法を説明するための説明図であり、図2に相当する断面図である。
【図5】実施形態における第2切削工程を説明するための説明図であって、(a)はロータハブのうち貫通孔周辺の拡大平面図であり、(b)はE−E線に沿う断面図である。
【図6】従来における第2切削工程を説明するための説明図であって、(a)はロータハブのうち貫通孔周辺の拡大平面図であり、(b)はF−F線に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(情報記録再生装置)
図1は情報記録再生装置の斜視図である。なお、図1には、説明を分かり易くするため、後述するスピンドルモータを簡略化して示している。
図1に示すように、この情報記録再生装置1は、記録層を有するディスク(磁気記録媒体)Dに対して、書き込み及び読み取りを行う装置である。情報記録再生装置1は、アーム8と、アーム8の先端側に支持されたヘッドジンバルアセンブリ4と、ヘッドジンバルアセンブリ4の先端に装着されたスライダ2と、ヘッドジンバルアセンブリ4をスキャン移動させるアクチュエータ(VCM:ボイスコイルモータ)6と、ディスクDを回転させるスピンドルモータ7と、情報に応じて変調した電流をスライダ2に供給する制御部5と、これら各構成品を内部に収容するハウジング9と、を備えている。
【0017】
ハウジング9は、アルミニウム等の金属材料からなり、上部に開口部を有する箱型形状のものであって、平面視四角形状の底壁9aと、底壁9aの周縁部から垂直に立設された周壁(不図示)と、で構成されている。周壁に囲まれたハウジング9の内側には、上述した各構成品を収容する凹部が形成される。底壁9aの略中心には、上述したスピンドルモータ7が取り付けられており、スピンドルモータ7に中心孔D1を嵌め込むことでディスクDが着脱自在に固定されている。
【0018】
ディスクDの側方には、軸受装置10が配置され、この軸受装置10にアーム8が回動可能に支持されている。軸受装置10を挟んでアーム8の延在方向に沿う一方側は、上述したアクチュエータ6に接続されている。またアーム8の延在方向に沿う他方側はディスクDの表面と平行に延設され、その先端にヘッドジンバルアセンブリ4が接続されている。ヘッドジンバルアセンブリ4は、サスペンション3と、サスペンション3の先端に装着され、ディスクDの表面に対向配置されたスライダ2とを備えている。スライダ2は、ディスクDに対する情報の書き込み(記録)を行う記録素子と、ディスクDから情報の読み取り(再生)を行う再生素子と、を備えている。
【0019】
上述のように構成された情報記録再生装置1において、情報の記録または再生を行うには、まずスピンドルモータ7を駆動して、中心軸L2の周りにディスクDを回転させる。またアクチュエータ6を駆動して、軸受装置10の中心軸L1の周りにアーム8を回動させる。これにより、ヘッドジンバルアセンブリ4の先端に配置されたスライダ2を、ディスクDの表面の各部にスキャン移動させることができる。そして、スライダ2の記録素子または再生素子を駆動することにより、ディスクDに対する情報の記録または再生を行うことができる。
【0020】
(スピンドルモータ)
図2は図1のA−A線における側面断面図である。
図2に示すように、スピンドルモータ7は、アウタロータ型のブラシレスモータであって、流体動圧軸受部11に回転可能に支持されたシャフト12と、シャフト12に固定されたロータハブ13と、ロータハブ13の内側に配置されたステータ14と、を備えている。なお、以下の説明では、スピンドルモータ7の中心軸L2に沿った方向を「軸方向」、「軸方向」に直交する方向を「径方向」、「軸方向」周りの方向を「周方向」という。
【0021】
流体動圧軸受部11は、筒状のスリーブ21と、スリーブ21の軸方向に沿う一端側(図2中下側)の開口部を閉塞する底壁部22と、を備えている。スリーブ21は、軸方向に沿う一端側に形成された大径部23と、軸方向に沿う他端側(図2中上側)に形成されるとともに、大径部23より小径の小径部24と、を備えている。
スリーブ21の内側には、シャフト12が挿入され、このシャフト12とスリーブ21の内周面との間にオイルが供給されることで、シャフト12が中心軸L2周りに回転可能に支持されている。シャフト12は、軸方向に沿う長さがスリーブ21よりも長く形成され、スリーブ21から軸方向の他端側に向けて突出した状態で流体動圧軸受部11に支持されている。
【0022】
また、スリーブ21のうち、大径部23の内側にはスラストプレート25が配置され、シャフト12における軸方向の一端側を支持している。スラストプレート25は、シャフト12の軸方向に沿う荷重を受けるとともに、シャフト12の摺動抵抗を低減している。
底壁部22は、外径が大径部23と同等に形成された板状の部材であり、底壁部22を介してスピンドルモータ7がハウジング9の底壁9aに固定されている。
【0023】
ステータ14は、円環状に形成されたステータコア31を有し、例えば上述したスリーブ21の大径部23に固定されている。ステータコア31は、磁性材料の金属板を軸方向に積層したものであって、コイル32を巻装するための複数のティース33が径方向外側に向かって突設されている。これらティース33は、周方向に等間隔で放射状に配設され、各々絶縁材であるインシュレータ(不図示)が装着され、このインシュレータ上にコイル32が巻装されている。
【0024】
図3はロータハブの平面図である。
図2,3に示すように、ロータハブ13は、有頂筒状のロータ本体41と、ロータ本体41の内側に配置された有頂筒状のバックアイアン42(図2参照)と、を備えている。
ロータ本体41は、アルミ合金(例えば、A6061等)により一体的に形成されたものであって、ディスクDの中心孔D1内に挿入可能な挿入部43と、挿入部43における軸方向の一端側から径方向の外側に向けて突設されたフランジ部44と、フランジ部44の外周縁から軸方向の一端側に向けて延在する筒部45と、を備えている。
【0025】
まず、フランジ部44のうち、軸方向の他端側に位置する面は、ディスクDの内周部分が当接してディスクDが載置されるディスク載置面46となっており、本実施形態ではスペーサ47を間に挟んで二枚のディスクDが載置されている。なお、スペーサ47は、中心孔48を有する環状の部材であり、内径がディスクDの内径と同等に形成されるとともに、外径がロータ本体41の筒部45の外径と同等に形成されている。
【0026】
挿入部43は、軸方向に沿う円柱状に形成され、ディスクD及びスペーサ47の中心孔D1,48内に挿入されている。また、挿入部43における軸方向の一端面のうち、径方向の中央部分には、軸方向の他端側に向けて窪んだ凹部51が形成されている。この凹部51の内側には、上述したスリーブ21の小径部24が収容されている。また、凹部51における径方向の中央部分には、軸方向に沿って貫通する貫通孔52が形成されている。この貫通孔52内には、シャフト12における軸方向の他端側が嵌合されている。これにより、ロータハブ13は、シャフト12ともに中心軸L2周りに回転可能に構成されている。
【0027】
また、挿入部43の外周部分には、上述した貫通孔52を取り囲むように複数の貫通孔(穴)53が周方向に間隔をあけて配設されている。これら貫通孔53は、内周面に雌ねじが形成された雌ねじ孔(取付穴)54と、図示しない錘が収容される錘収容孔55と、を備え、これらが周方向に沿って交互に配設されている。
雌ねじ孔54には、軸方向に沿う他端側からばね座金56を介してボルト57が螺着されている。これにより、ボルト57の頭部と、挿入部43及びスペーサ47における軸方向の他端面と、の間にばね座金56が挟持され、ばね座金56とフランジ部44との間でディスクD及びスペーサ47を保持している。
なお、錘収容孔55内には図示しない錘が収容されるようになっており、これによりロータハブ13の重量バランスが調整されている。
【0028】
ここで、ロータハブ13の外周面のうち、挿入部43における軸方向の他端面(取付穴の開口端面)は、面粗さRaが0.5(μm)以上に設定されている。一方、面粗さRaの上限値については、可能な限り小さい値が好ましく、客先の仕様に合わせて例えば0.8(μm)以下や1.6(μm)以下に設定されている。なお、本実施形態において、面粗さとは例えばJIS B 0601に規格化されている算術平均粗さRaの数値である。
【0029】
図2に示すように、バックアイアン42は、鉄等の磁性材料からなり、上述したロータハブ13の内側に接着剤等により固定されている。具体的に、バックアイアン42は、軸方向に沿って延在する筒部61と、筒部61における軸方向の他端側から径方向の内側に向けて突設された内フランジ部62と、を備えている。
【0030】
筒部61は、上述したロータハブ13の筒部45と同軸上に配置されている。筒部61のうち、軸方向における他端側の外周面は、上述したロータハブ13における筒部45の内周面に接着剤等により固定され、軸方向における一端側は、ロータハブ13における筒部45よりも軸方向の一端側に向けて突出している。また、バックアイアン42における筒部61の内周面には、例えばフェライトマグネット等のマグネット63が、周方向に沿って磁極が交互となるように複数配設されている。マグネット63は、バックアイアン42における筒部61の内周面と略同一の曲率半径を有する略円弧形状に形成されており、例えば接着剤等により取り付けられている。そして、マグネット63は、上述したティース33(図2参照)と径方向で対向した状態となっている。
【0031】
内フランジ部62は、軸方向に沿う他端面が上述したロータハブ13におけるフランジ部44の内周面に当接した状態で、フランジ部44に固定されている。フランジ部44の内側には、上述したスリーブ21の小径部24、及びシャフト12が配置されている。
【0032】
上述したスピンドルモータ7では、コイル32に電流を供給してティース33を励磁させ、磁界を発生させる。この磁界により、マグネット63及びロータハブ13を中心軸L2周りに回転させて、ディスクDを回転させることができる。
【0033】
(ロータハブの製造方法)
次に、上述したスピンドルモータ7のうち、ロータハブ13の製造方法について説明する。図4はロータハブの製造方法を説明するための説明図であり、図2に相当する断面図である。
まず、アルミ合金からなる被加工材を用意し、鍛造等により図4(a)に示すようなブランク材70を形成する。ブランク材70は、上述したロータ本体41の最終形状に近い形状に粗加工されたものであり、上述した挿入部43、フランジ部44、及び筒部45を備えている。
【0034】
続いて、上述したブランク材70の内周面を切削する第1切削工程を行う。具体的には、ブランク材70の外周面をチャッキングした状態で、ブランク材70をその軸線周り回転させるとともに、ブランク材70と工具(不図示)とを相対的に移動させ、ブランク材70の内周面を切削する。この際、図4(a)の矢印C1のように、ブランク材70のうち、筒部45、フランジ部44、凹部51、及び貫通孔52のそれぞれの内周面を順次切削していく。
【0035】
次に、図4(b)に示すように、ブランク材70とバックアイアン42とを組み付ける(組み付け工程)。具体的には、バックアイアン42の筒部61にブランク材70の筒部45を外挿し、バックアイアン42における筒部61の外周面と、ブランク材70における筒部45の内周面と、を接着剤等により固定する。なお、バックアイアン42とブランク材70とをカシメ固定しても構わない。
【0036】
次に、図4(c)に示すように、挿入部43の外周部分に周方向に沿って複数の貫通孔53を形成する(孔あけ工程)。具体的には、雌ねじ孔54と錘収容孔55とが周方向に沿って交互に配置されるように貫通孔53を形成する。
【0037】
次に、図4(d)に示すように、上述したブランク材70の外周面を切削する第2切削工程(切削工程)を行う。具体的には、ブランク材70の内周面(凹部51の内周面)をチャッキングした状態で、ブランク材70をその軸線周りに回転させるとともに、ブランク材70と工具とを相対的に移動させ、ブランク材70の外周面を主に切削する。この際、図4(d)の矢印C2のように、ブランク材70のうち、貫通孔52の内周面から挿入部43の外周面、フランジ部44、及び筒部45の外周面を順次切削していく。
【0038】
ここで、図4(d)に示すように、本実施形態の第2切削工程では、工具の送り量S(mm/Rev)と工具のノーズ半径R(mm)を調整し、第2切削工程後の挿入部43における軸方向の他端面(貫通孔53の上側の開口端面)の面粗さRaが0.5(μm)以上になるように切削する。なお、一般的に工具の送り量Sが増加するにつれ面粗さRaは増加傾向にあり、ノーズ半径Rが増加するにつれ面粗さRaは減少傾向にある。本実施形態では、ノーズ半径Rを一定にした状態で、送り量Sを変更することで面粗さRaを調整している。
【0039】
ここで、図5は本実施形態(面粗さRa≧0.5(μm))、図6は従来(面粗さRa<0.5(μm))における第2切削工程を説明するための説明図であって、(a)はロータハブのうち貫通孔周辺の拡大平面図であり、(b)は(a)の断面図をそれぞれ示している。なお、図5,6においては、説明を分かり易くするため、寸法等を誇張して示している。また、図6においては、図5と同様の構成には、同一の符号を付して説明する。
図5,6に示すように、上述した第2切削工程を行うと、挿入部43における軸方向の他端面には断面視円弧状の複数の切削加工部71が同心円状に形成される。この場合、図5のように、面粗さRaが大きくなると、径方向で隣接する切削加工部71の重なり部分72(切削加工部71の稜線部分)の間隔が、図6に比べて広くなるとともに、重なり部分72の数が減少することになる。図6に示す場合には、重なり部分72の間隔が狭いため、重なり部分72が限りなく連続的となる。その結果、重なり部分72でバリが成形され易い。
これに対して、図5に示す場合には、重なり部分72の間隔が広く、かつその数が少ないため、重なり部分72において、適切なせん断加工が行われる。その結果、バリの発生を抑制できる。
【0040】
また、本実施形態では、第2切削工程における切込み深さ(一回当りの加工代)T(mm)を0.2(mm)未満に設定することが好ましい。切込み深さTが0.2(mm)以上であると、適正な材料せん断加工が得られず、貫通孔53を通過する際等に開口縁近傍にバリが発生したり、欠けたりする等の虞があるため好ましくない。
【0041】
その後、ディスクD及びスペーサ47の中心孔D1,48内に挿入部43を挿入し、ばね座金56を介して雌ねじ孔54内にボルト57を螺着することで、上述したロータハブ13が完成する。
【0042】
このように、本実施形態では、第2切削工程において、ロータハブ13における外周面の面粗さRaを0.5(μm)以上に設定する構成とした。
この構成によれば、面粗さRaが0.5(μm)以上になるように切削することで、上述したようにバリの発生を抑制することができる。
この場合、従来のように第2切削工程後のバリ除去工程を行う必要がないので、製造効率の向上、及び低コスト化を図ることができる。また、第2切削工程前に貫通孔53をあけるので、ロータハブ13に歪等が発生するのを抑制できる。
そして、上述したようにバリの発生を抑制できるので、雌ねじ孔54にボルト57を螺着する際に雌ねじ孔54の開口縁からバリが落下する等の虞がない。
【0043】
さらに、第2切削工程における切込み深さを0.2(mm)未満に設定することで、第2切削工程において、バリがかえらない適正な材料せん断加工が得られるので、バリの発生を確実に抑制することができる。
そして、本実施形態の情報記録再生装置1によれば、上述したロータハブ13を有しているので、製造効率の向上、及び低コスト化を図るとともに、組付け後にバリが落下する等の虞もないので、信頼性の高い情報記録再生装置を提供できる。
【0044】
ここで、本願発明者は、面粗さRaの最適な範囲を測定するために、面粗さRaとバリの発生との関係について測定する試験を行った。
表1は、ノーズ半径Rを0.1(mm)、切込み深さTを0.1(mm)で一定にした状態で、送り量Sを0.01(mm/Rev)〜0.05(mm/Rev)の範囲で変更した場合における面粗さRaとバリの発生との関係を表している。なお、本試験において、面粗さRaは実測値であり、バリ発生の有無は顕微鏡(倍率10倍)を用いて観察した。その結果、バリが発見されなかった場合を「○」、バリが発見された場合を「×」として示している。
【0045】
【表1】

【0046】
表1に示すように、実施例1〜3の条件、すなわち面粗さRaが0.5以上の場合には、バリは発見されずロータ本体41の外周面を良好に切削することができた。これは、上述したように第2切削工程において隣接する切削加工部71の重なり部分72間の間隔が広くなるとともに、その数も減少することで、適切な材料せん断加工が行われたためであると考えられる。
一方で、比較例1,2のように面粗さRaが0.5未満の場合には、貫通孔53の開口縁等にバリの発生が確認された。
【0047】
表2は、ノーズ半径Rを0.1(mm)で一定にした状態で、送り量Sを0.01(mm/Rev)〜0.05(mm/Rev)、及び、切込み深さTを0.01(mm)〜0.2(mm)の範囲で変更した場合における面粗さRaとバリの発生との関係を表している。なお、バリの観察方法、及び試験結果の表示方法は上述した表1と同様である。
【0048】
【表2】

【0049】
表2に示すように、実施例4〜6の条件、すなわち面粗さRaが0.5以上であって、切込み深さが0.2(mm)未満の場合には、バリは発見されず挿入部43における軸方向の他端面を良好に切削することができた。一方で、比較例3,4のように面粗さRaが0.5未満の場合には、切込み深さTが0.2(mm)未満の場合であっても、上述した表1と同様に貫通孔53の開口縁等にバリの発生が確認された。また、比較例5,6のように切込み深さTが0.2(mm)以上の範囲では、面粗さRaに関わらずバリが発見された。これは、切込み深さTを0.2(mm)以上とすることで、ロータ本体41の外周面と貫通孔53等との間での切削抵抗が増加したためと考えられる。
【0050】
以上、本発明の技術範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、上述した実施形態では、穴として貫通孔53を形成した場合について説明したが、挿入部43における軸方向の他端面に開口していれば貫通させなくても構わない。すなわち、挿入部43における軸方向の他端面に開口していれば、袋穴であっても構わない。
また、上述した実施形態では、穴として雌ねじ孔54と錘収容孔55を形成した場合について説明したが、バランス取り用や、回転止め用、位置決め用等、穴の用途は限られない。
【0051】
また、上述した実施形態では、取付穴に取り付けられる保持手段としてボルト57及びばね座金56を採用した場合について説明したが、これに限られない。
また、挿入部43に雌ねじ孔54を設けない構造としても構わない。このような構造としては、センターロックを介してシャフト12に押さえ板を固定し、この押さえ板とフランジ部44との間でディスクDを保持する等、適宜設計変更が可能である。
【0052】
さらに、上述した実施形態では、面粗さRaを0.5(μm)以上に設定するために、送り量Sを調整する場合について説明したが、これに限らず、ノーズ半径R等を調整しても構わない。何れにしても面粗さRaが0.5(μm)以上に設定すれば、適宜変更が可能である。
また、上述した実施形態では、ロータ本体41の外周面全体の面粗さRaを0.5(μm)以上に設定する構成について説明したが、少なくとも挿入部43における貫通孔53周辺の面粗さRaを0.5(μm)以上に設定すれば構わない。さらに、面粗さRa及び切込み深さTのうち、少なくとも面粗さRaを0.5(mm)以上に設定すれば構わない。
また、情報記録再生装置1の具体的な構成は、実施形態の構成に限られない。また、スピンドルモータ7(ロータハブ13)の具体的な形状も、実施形態の形状に限られない。例えば、上述した実施形態では、シャフト12の一端側が流体動圧軸受部11に支持された、いわゆる片軸構造のスピンドルモータ7について説明したが、これに限らず、シャフトの両端が軸受部に支持された両軸構造のスピンドルモータ(ロータハブ)についても適用可能である。
また、上述した実施形態では、A6061からなるロータハブ13の製造方法について説明したが、これに限られない。
【符号の説明】
【0053】
1…情報記録再生装置 2…スライダ 7…スピンドルモータ(モータ) 9…ハウジング 13…ロータハブ 43…挿入部 44…フランジ部 46…ディスク載置面 53…貫通孔(穴) 54…雌ねじ孔(取付穴) 55…錘収容孔(穴) 56…ばね座金(保持手段) 57…ボルト(保持手段) D…ディスク D1…中心孔(孔)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの孔内に挿入される挿入部と、
前記挿入部から外側に向かって突設され、前記ディスクが載置されるディスク載置面を有するフランジ部と、
前記挿入部に形成された穴と、を有するロータハブの製造方法であって、
前記挿入部に前記穴を形成する穴あけ工程と、
前記挿入部のうち前記穴の開口端面を切削する切削工程と、を有し、
前記切削工程では、面粗さRaが0.5μm以上になるように切削することを特徴とするロータハブの製造方法。
【請求項2】
前記穴は、前記ディスク載置面との間で前記ディスクを保持する保持手段を取り付けるための取付穴であることを特徴とする請求項1記載のロータハブの製造方法。
【請求項3】
前記切削工程では、切込み深さを0.2mm未満に設定することを特徴とする請求項1または請求項2記載のロータハブの製造方法。
【請求項4】
ディスクの孔内に挿入される挿入部と、
前記挿入部から外側に向かって突設され、前記ディスクが載置されるディスク載置面を有するフランジ部と、
前記挿入部に形成された穴と、を有し、
前記挿入部のうち前記穴の開口端面は、面粗さRaが0.5μm以上に設定されていることを特徴とするロータハブ。
【請求項5】
情報記録媒体を回転可能に支持するモータと、
前記磁気記録媒体に情報の記録及び再生を行うスライダと、
前記スライダ及び前記モータを収容するハウジングと、を備え、
前記モータは、ステータと、前記ステータに対して回転可能に支持された請求項4記載のロータハブと、を備えていることを特徴とする情報記録再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−97824(P2013−97824A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237041(P2011−237041)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(503105088)セイコーインスツルメンツ(タイランド)リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】Seiko Instruments(Thailand)Ltd.
【住所又は居所原語表記】60/83 Moo 19  Nava−Nakorn  Industrial Estate Zone 3 Klong Nueng  Klong Luang Pathumthani 12120 Thailand
【Fターム(参考)】