説明

ロータリジョイント

【課題】フローティングシートの追従性の確保と大流量に対する許容能力を両立させることができるロータリジョイントを提供することを目的とする。
【解決手段】ハウジング部材10に設けられた嵌合孔10bにおいて固定軸部11bの側端部よりも上流側に軸方向の移動が許容された状態で装着され流体供給源から供給された流体を流路孔13aを介して通過させるとともに、この流体の流体力によって下流側へ移動する移動部材13を備え、流体供給開始時において移動部材13を固定軸部11bの側端面に当接させて下流側への押圧力を作用させる構成とする。これにより、フローティングシート11の下流側への移動を促進することができ、フローティングシートの追従性の確保と大流量に対する許容能力を両立させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転部に流体を送給するために用いられるロータリジョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸など作動時に回転状態にある回転軸に冷却用のクーラントなどの流体を送給する流体送給機構において、固定された流体送給配管を回転部の流路と接続する流体継手としてロータリジョイントが用いられる。ロータリジョイントは、回転部に結合されて回転する回転シールが設けられたロータと、流体送給配管に接続された嵌合孔に摺動自在に嵌合し回転シールと対向する固定シールが設けられたフローティングシートとを同軸に配置して軸方向に対向させ、それぞれの対向端面に装着されたシール面を相互に密着させることにより流体の漏洩を防止する構成となっている。これにより、流体送給配管から回転状態にある回転軸へ、所定圧力・所定流量の流体がロータリジョイントを介して連続的に供給される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−283361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような構成の流体送給機構は、工作機械のスピンドル軸など軸方向の往復動を伴う回転軸に装着されるため、ロータリジョイントにおいて回転シールと対向する固定シールには、回転軸の軸方向への移動に追従して軸方向にスライドすることが求められる。すなわち1つの作業動作が完了した後、固定シールが設けられたフローティングシートはスピンドル軸とともに移動するロータによって押し戻され、その後ロータが元の位置に復帰することにより、固定シールと回転シールは離隔した状態となる。そしてこの状態から次の作業動作が開始されると、フローティングシートがロータ側に進出してシール面が相互に密着する。
【0005】
一般にロータリジョイントにおいては、このフローティングシートの軸方向へのスライドは供給される流体の流体力を利用して行われる。すなわち、フローティングシートの側端面に作用する流体力により、フローティングシートはシール目的で装着されたOリングなどのシール部材の摺動抵抗に抗してロータ側に進出する。通常は始動時に流体の供給を開始した時点ではロータリジョイント内部では流体圧が規定圧力まで到達していないため、フローティングシートが進出を完了してシール面が閉じるまでには時間遅れを生じる。このため、上述の特許文献に示す例においては、流体圧が供給されていない状態においてはOリングの摺動抵抗が小さくなるような構成を採用している。
【0006】
しかしながら、このような構成によってもなお、始動時にフローティングシートを迅速に流体の供給に追従させる効果が十分ではない場合があった。すなわち上述のような流体送給機構においては、工作機械など被供給側の状態によっては、ロータリジョイントを介して供給される流量が大きく変動し、使用範囲として想定された流量範囲から外れた大流量の流体がロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。このような流量の大幅な変動を許容するためには、ロータやフローティングシートの流路径を十分に大きく設定しておけばよい。
【0007】
ところが装置サイズのコンパクト化の要請により、フローティングシートの外径寸法には制約があることから、流路径を大きくすると流体力を受ける受圧面積が減少し、流体力によってフローティングシートをロータに対して進出させる推力が減少する。また推力を確保しつつ流路径を大きくしようとすれば、必然的にフローティングシートの外径寸法を大きくせざるを得ず、周面シール用のOリングの周長が増して軸方向への摺動時の摩擦力が増大する。そして前述の推力の減少も摩擦力の増大も、いずれも始動時にフローティングシートを迅速に流体の供給に追従させることを阻害する要因となる。このように、従来のロータリジョイントには、フローティングシートの追従性の確保と大流量に対する許容能力を両立させることが困難であるという課題があった。
【0008】
そこで本発明は、フローティングシートの追従性の確保と大流量に対する許容能力を両立させることができるロータリジョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のロータリジョイントは、軸方向の回転流路が設けられ回転軸に装着される回転部および軸方向の固定流路が設けられケーシング部材に装着される固定部を同軸配置して成り、流体供給源から供給される流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して送給するロータリジョイントであって、前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成された固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、前記固定部の本体を構成するハウジング部材に設けられ前記固定軸部が前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する嵌合孔と、前記嵌合孔において前記固定軸部の他方側の側端部よりも前記流体の流れ方向における上流側に前記軸方向の移動が許容された状態で装着され、前記流体供給源から供給された流体を通過させるとともにこの流体の流体力によって前記流れ方向における下流側へ移動する移動部材とを備え、前記流体供給源から前記嵌合孔内へ前記流体を供給することにより前記移動部材を前記流体力によって下流側へ移動させ、次いでこの移動部材を前記固定軸部の他方側の側端面に当接させて押圧力を作用させることにより前記固定シール部の下流側への移動を促進し、さらに前記固定軸部に前記流体力を作用させて前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ハウジング部材に設けられた嵌合孔において固定軸部の他方側の側端部よりも流体の流れ方向における上流側に軸方向の移動が許容された状態で装着され流体供給源から供給された流体を通過させるとともに、この流体の流体力によって流れ方向における下流側へ移動する移動部材を備え、流体供給開始時においてこの移動部材を固定軸部の他方側の側端面に当接させて押圧力を作用させる構成とすることにより、フローティングシートに設けられた固定シール部の下流側への移動を促進することができる。したがって、大流量時におけるフローティングシートの管路抵抗の増大に起因する過大なシール面圧の発生を防止するためにフローティングシートの管路径を大きく設定した場合においても、フローティングシートの追従性の確保と大流量に対する許容能力を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第1実施例)の断面図
【図2】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第1実施例)の動作説明図
【図3】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第2実施例)の断面図
【図4】本発明の一実施の形態におけるロータリジョイント(第2実施例)の動作説明図
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず図1を参照して、ロータリジョイント1(第1実施例)の全体構成を説明する。図1において、ロータリジョイント1は、工作機械のスピンドル軸などの回転軸へ冷却用の流体を送給する流体供給機構に用いられるものであり、軸方向の回転流路が設けられた回転部1aおよび軸方向の固定流路が設けられた固定部1bを同軸配置して構成される。
【0013】
回転部1aは回転軸であるスピンドル軸2の流路孔2aに締結されており、スピンドル軸2は、スピンドルに内蔵されたモータによって回転駆動されて軸心A廻りに回転するとともに、クランプ/アンクランプシリンダによって軸方向の進退動作を行う。また固定部1bは、円筒ブロック形状のケーシング部材3に設けられた嵌合孔10bに嵌合して装着されており、スピンドル軸2が挿通するフレーム(図示省略)にボルトなどの締結手段によってケーシング部材3を着脱自在に締結することにより、固定部1bは回転部1aと同軸に配置される。嵌合孔10bには、流体供給部(図示省略)より液体クーラントや冷却用のエアなどの気体が選択的に送給される(矢印a)。
【0014】
次に、ロータリジョイント1の詳細構造を説明する。図1において回転部1aは、スピンドル軸2に装着されたロータ4を主体としている。ロータ4は、回転軸部4aの一方側の端部に回転軸部4aよりも外径が大きいフランジ部4bを設け、さらに軸心部に回転流路4e(流路径d1)を軸方向に設けた形状となっている。流路径d1は、例えばφ16mm以下の範囲で設定される。回転軸部4aの外面には雄ねじ部4dが設けられており、流路孔2aの内面には雌ねじ部2bが設けられている。雄ねじ部4dを雌ねじ部2bに螺合させることにより、ロータ4はスピンドル軸2にねじ締結され、Oリング6によってねじ締結部が密封される。これにより、回転流路4eはスピンドル軸2の流路孔2aと連通する。
【0015】
ロータ4の右側(固定部1bと対向する側)の側端面には、回転流路4eの開孔面を囲む配置で円形状の凹部4cが形成されており、凹部4cには第1のシールリング5が固定されている。第1のシールリング5はセラミックなどの耐摩耗性に富む硬質材料を、中央部に開口部5aを有する円環形状に成形したものであり、平滑面に仕上げられた第1のシール面5bを外面側にした状態で凹部4cに固定される。そしてこの状態では、回転流路4eは開口部5aと連通して第1のシール面5bに開口する。
【0016】
次に、ケーシング部材3に装着される固定部1bの構造を説明する。ケーシング部材3の装着面3cには流路孔3bと連通して設けられた装着孔3aが開口しており、装着孔3aには固定部1bの本体を構成する円筒形状のハウジング部材10に設けられた装着凸部10aが嵌合する。ハウジング部材10はケーシング部材3の装着面3cにボルト(図示省略)によって締結され、外周面のOリング溝に装着されたOリング8によって装着凸部10aの嵌合部が密封される。ハウジング部材10の中心部には軸方向に貫通する嵌合孔10bが設けられており、さらに嵌合孔10bの内周面に設けられたOリング溝にはOリング7が装着されている。
【0017】
図2においてフローティングシート11は、一方側(図において回転部1aと対向する側)に円板形状のフランジ部11aが設けられ、他方側に固定流路11c(流路径d2)が軸方向に貫通して形成された固定軸部11bを有する形状となっている。流路径d2は、例えばφ16mm以下の範囲で設定される。そして固定軸部11bは、ハウジング部材10の嵌合孔10bに軸方向の移動が許容された状態で嵌合する。このとき、Oリング7によって固定軸部11bの嵌合部が密封される。本実施の形態においては、固定流路11cの流路径d2は、回転流路4eの流路径d1と同程度の大きさに設定している。この流路径d2を、同様の用途に用いられる従来型のロータリジョイントにおけるフローティングシートの固定流路の流路径と比較すると、流路断面積が従来のものと比較して2〜4倍程度大きくなるような径サイズに設定される。
【0018】
フランジ部11aの左側(回転部1aと対向する側)に設けられた凸部11dの側端面には、固定流路11cの開孔面を囲む配置で、円形状の凹部11eが形成されており、凹部11eには第2のシールリング12が固定されている。第2のシールリング12は第1のシールリング5と同様の硬質材料を中央部に開口部12aを有する円環形状に成形したものであり、平滑面に仕上げられた第2のシール面12bを外面側にした状態で凹部11eに固定される。そしてこの状態では、固定流路11cは開口部12aと連通して第2のシール面12bに開口する。
【0019】
すなわち第2のシールリング12が固定されたフローティングシート11は、固定流路11cが軸方向に貫通して形成された固定軸部11bを有し、側端面に回転流路12dが開口した第2のシール面12bを有する固定シール部となっている。フランジ部11aに設けられたねじ孔11fにはボルト14が螺設されており、ボルト14およびボルト14を外包する円筒カラー15は、ハウジング部材10に軸方向に設けられたガイド孔10c内を摺動自在となっている。これにより、フローティングシート11の軸方向の移動がガイドされるとともに、軸廻りの廻り止めが行われる。
【0020】
ここで、本実施の形態においてフローティングシート11の固定流路11cの流路径d2を従来よりも大きく設定することの技術的意義について説明する。すなわち一般にロータリジョイントを用いた流体送給機構においては、工作機械など被供給側の状態によっては、ロータリジョイントを介して供給される流量が大きく変動し、使用範囲として想定された流量範囲から外れた大流量の流体がロータリジョイントを通過して被供給側に流れる場合がある。このような流量の大幅な変動を許容するためには、ロータやフローティングシートの流路径を十分に大きく設定しておけばよい。これにより、大流量の流体がフローティングシートを通過する際の管路抵抗によってフローティングシートが大きな流体力で下流側に押しつけられることによる過大なシール面圧の発生を避けることができ、シールの損傷を低減することができる。
【0021】
しかしながらフローティングシートの流路径を大きく設定すると、流体力によってフローティングシートを下流に移動させる推力が減少する。このため、流体の供給を開始する始動時にフローティングシートを迅速に流体の供給に追従させることができないという不都合が生じる。このような不都合を解消するため、本実施の形態に示すロータリジョイント1においては、以下に説明する移動部材13をフローティングシート11の上流側に追加して配置し、始動時のフローティングシート11の移動を移動部材13が流体力を受けることで生じる推力によって促進するようにしている。
【0022】
嵌合孔10bにおいて、固定軸部11bの他方側、すなわちフランジ部11aと反対側の側端部よりも流体の流れ方向における上流側には、移動部材13が軸方向の移動が許容された状態で装着されている。移動部材13は、嵌合孔10bに嵌合する円環形状の摺動部品であり、流体供給源から流路孔3bを介して嵌合孔10b内に供給された流体を中心部に設けられた流路孔13a(流路径d3)を介して下流側へ通過させるとともに、流路孔3b内に流体が供給されることにより移動部材13はこの流体の流体力によって流れ方向における下流側へ移動する。そして移動部材13が流体力によって下流側へ移動する過程において、移動部材13は固定軸部11bの側端面に当接し、フローティングシート11を下流側へ押圧する。流路径d3は、例えば流路孔13aの流路断面積と移動部材13の外径円の面積との比率が30%以下となるように設定される。
【0023】
次にロータリジョイント1の動作を説明する。流路孔3bを介して嵌合孔10b内に供給対象の流体が送給される(矢印a)ことにより、この流体の流体力は固定軸部11bに作用する。これにより、固定軸部11bは嵌合孔10b内で回転部1a側へスライドし、第2のシールリング12は第1のシールリング5に対して押圧される。この押圧力は第2のシール面12bと第1のシール面5bとを相互に密着させ、これにより固定流路11cから軸廻りに回転状態の回転流路4eへ送給される流体の漏洩を防止する面シール部9が形成される。
【0024】
すなわち、流体供給源から嵌合孔10b内へ流体を供給して固定軸部11bに流体力を作用させて、固定シール部であるフローティングシート11を回転シール部であるロータ4に対して押圧することにより、第1のシール面5bと第2のシール面12bとを相互に密着させて面シール部9を形成する。このフローティングシート11のスライドにおいて、フランジ部11aに螺設されたボルト14および円筒カラー15が、ハウジング部材10に設けられたガイド孔10c内を摺動することにより、フローティングシート11の軸方向の移動がガイドされるとともに、軸廻りの廻り止めが行われる。
【0025】
ロータリジョイント1の作動状態においては、送給される流体の流体力によるフローティングシート11の進出と、スピンドル軸2の進退動作によって、面シール部9のシール面の接離が行われる。すなわちフローティングシート11が後退して第1のシール面5bと第2のシール面12bとが相互に離隔した状態において、嵌合孔10b内に流体が送給されることによりフローティングシート11が前進(矢印b方向)し、第1のシール面5bが第2のシール面12bに当接して面シール部9が形成される。そしてスピンドル軸2が固定部1bに対して相対的に前進(矢印e方向)することにより、フローティングシート11は後退(矢印c方向)し、フランジ部11aがケーシング部材3に近接した位置に復帰する。そしてこの状態からスピンドル軸2を相対的に後退(矢印d方向)させることにより、第1のシール面5bと第2のシール面12bとが相互に離隔した状態に戻る。
【0026】
次に上述の流体力によるフローティングシート11の進出動作の詳細について、図2を参照して説明する。図2(a)は、フローティングシート11がケーシング部材3側に後退して第1のシールリング5と第2のシールリング12とが離隔した状態において、流路孔3bに流体供給源から流体の供給が開始された状態を示している(矢印f)。供給された流体は嵌合孔10b内に流入し、これにより移動部材13には、供給された流体の流体力によって下流側(図2において左側)へ移動させる力が作用する。この流体力には移動部材13の上流側の側端面13bに作用する流体圧による力に加えて、流体が流路孔13aを通過して下流側に移動する際に移動部材13に作用する流体摩擦力がある。そしてこの流体力により、移動部材13は下流側への移動を開始する。
【0027】
また流路孔13aを介して通過した流体の流体力は同様にフローティングシート11に作用する。この流体力にはフローティングシート11の側端面11gに作用する流体圧による力に加えて、流体が固定流路11cを通過して下流側に移動する際に固定流路11c内面に作用する流体摩擦力がある。このとき、固定流路11cの流路径d2は従来型のロータリジョイントと比べて大きく設定されていることから、フローティングシート11に作用する流体力による推力は従来型のものと比べて小さい。そしてこの推力がOリング7によってフローティングシート11を外周面側から捕捉する静止摩擦力よりも小さい場合には、フローティングシート11は移動を開始せず静止したままの状態を保つ。
【0028】
図2(b)は、流体力によって移動を開始した移動部材13が固定軸部11bの側端面11gに当接した状態を示している。移動部材13が流体力によって加速されて側端面11gに当接すると(矢印g)、移動部材13の運動エネルギーは固定軸部11bを下流側に移動させる方向に作用し、この力がOリング7による静止摩擦力を超えるとフローティングシート11は下流側へ移動を開始する(矢印h)。
【0029】
そして流路孔3bを介して流体の供給が継続されることにより、固定軸部11bはさらに下流側へ移動し、図2(c)に示すように、第2のシール面12bが第1のシール面5bに当接して面シール部9が形成された状態で、フローティングシート11の移動が停止する。そしてこの状態において、流体供給源から供給される流体は、嵌合孔10b、流路孔13a、固定流路11cおよび面シール部9を介して回転流路4eに供給される。このとき、側端面11gに作用する流体力によって、第2のシール面12bが第1のシール面5b押しつけられて密着し、面シール部9からの流体のリークが防止される。
【0030】
この後、図2(a)に示す状態に戻り、同様の動作が反復される。すなわち、図2(c)に示す状態から、スピンドル軸2が固定部1bに対して相対的に前進することにより、フローティングシート11は後退(図1に示す矢印c方向)し、第1のシール面5bと第2のシール面12bとが相互に離隔した状態に戻る。このとき、移動部材13もフローティングシート11とともに移動し、フローティングシート11はスピンドル軸2の進出ストロークだけ移動した後、Oリング7の摺動摩擦によって停止する。これに対し、移動部材13は嵌合孔10bにフリーな状態で摺動自在となっているため、フローティングシート11が停止した後も後退方向に慣性力によって幾分移動した後に停止する。これにより、図2(a)に示すように、移動部材13はフローティングシート11から離隔した状態となる。
【0031】
すなわち上述の実施の形態に示すロータリジョイント1においては、流体供給源から嵌合孔10b内へ流体を供給することにより、移動部材13を供給された流体の流体力によって下流側へ移動させ、次いでこの移動部材13を固定軸部11bの他方側(第2のシールリング12と反対側)の側端面11gに当接させて押圧力を作用させることにより、フローティングシート11(固定シール部)の下流側への移動を促進するようにしている。そしてさらに固定軸部11bの側端面11gに流体力を作用させて、固定シール部であるフローティングシート11を回転シール部であるロータ4に対して押圧することにより、第1のシール面5bと第2のシール面12bとを相互に密着させて面シール部9を形成するようにしている。
【0032】
なお図1,図2に示す実施例においては、移動部材13を固定軸部11bと同一径で製作した例を示しているが、図3の第2実施例に示すように、固定軸部11bの上流側に配置される移動部材13Aを固定軸部11bよりも大きな径サイズで製作するようにしてもよい。すなわち、図3において、ハウジング部材10に流路径d4で設けられた嵌合孔10b1の上流部(装着凸部10aに対応する範囲)には、流路径d4よりも大きい流路径d5を有する嵌合孔10b2が設けられている。嵌合孔10b1と嵌合孔10b2との境界部に、径寸法が異なって段付きとなった段差部Eが設けられている。嵌合孔10b2には、移動部材13と同様に流路孔13aを有する円環形状の移動部材13Aが装着されている。移動部材13Aは嵌合孔10b2の範囲内でスライド自在となっているが、段差部Eよりも下流側への移動はできない。
【0033】
次に第2実施例におけるローティングシート11の進出動作の詳細について、図4を参照して説明する。図4(a)は、フローティングシート11がケーシング部材3側に後退して第1のシールリング5と第2のシールリング12とが離隔した状態において、流路孔3bに流体供給源から流体の供給が開始された状態を示している(矢印j)。供給された流体は嵌合孔10b内に流入し、これにより移動部材13Aには、第1実施例と同様に、供給された流体の流体力によって下流側(図2において左側)へ移動させる力が作用し、この流体力により、移動部材13Aは下流側への移動を開始する。また流路孔13aを介して通過した流体の流体力は同様にフローティングシート11に作用するが、第1実施例と同様に、フローティングシート11に作用する流体力による推力がOリング7によってフローティングシート11を外周面側から捕捉する静止摩擦力よりも小さい場合には、フローティングシート11は移動を開始せず静止したままの状態を保つ。
【0034】
図4(b)は、流体力によって移動を開始した移動部材13Aが固定軸部11bの側端面11gに当接した状態を示している。移動部材13Aが流体力によって加速されて側端面11gに当接すると(矢印k)、移動部材13Aの運動エネルギーは固定軸部11bを下流側に移動させる方向に作用し、この力がOリング7による静止摩擦力を超えるとフローティングシート11は下流側へ移動を開始する(矢印l)。このときの移動部材13Aの下流側への移動は、移動部材13Aの下流側の端部が段差部Eに当接するまで許容され、これ以降はフローティングシート11のみが単独で下流側へ移動する。
【0035】
そして流路孔3bを介して流体の供給が継続されることにより、フローティングシート11はさらに下流側へ移動し、図4(c)に示すように、第2のシール面12bが第1のシール面5bに当接して面シール部9が形成された状態でフローティングシート11の移動が停止する。そしてこの状態において、流体供給源から供給される流体は、嵌合孔10b、流路孔13a、固定流路11cおよび面シール部9を介して回転流路4eに供給される。このとき、側端面11gに作用する流体力によって、第2のシール面12bが第1のシール面5bに押しつけられて密着し、面シール部9からの流体のリークが防止される。
【0036】
ここに示す例においては、面シール部9の形成時に移動部材13Aは側端面11gとは当接しておらず、第2のシール面12bを第1のシール面5bに押しつける面圧付与には寄与していない。したがって、大流量の流体が流れる場合において、移動部材13Aに作用する流体力が側端面11gに伝達されることがなく、過大なシール面圧の発生をより確実に防止することが可能となっている。換言すれば、図3,図4に示す第2実施例においては、移動部材13Aはフローティングシート11のOリング7による静止摩擦力に抗してフローティングシート11を起動させる際にのみ、移動促進の機能を発揮するようになっている。
【0037】
上記説明したように本発明は、軸方向の回転流路が設けられた回転部および軸方向の固定流路が設けられた固定部を同軸配置した構成のロータリジョイントにおいて、ハウジング部材に設けられた嵌合孔において固定軸部の他方側の側端部よりも流体の流れ方向における上流側に軸方向の移動が許容された状態で装着され、流体供給源から供給された流体を通過させるとともにこの流体の流体力によって流れ方向における下流側へ移動する移動部材を備え、流体供給開始時においてこの移動部材を固定軸部の他方側の側端面に当接させて押圧力を作用させる構成としたものである。
【0038】
これにより、フローティングシートに設けられた固定シール部の下流側への移動を促進することができる。したがって、大流量時におけるフローティングシートの管路抵抗の増大に起因する過大なシール面圧の発生を防止するためにフローティングシートの管路径を大きく設定した場合においても、フローティングシートの追従性の確保と大流量に対する許容能力を両立させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のロータリジョイントは、フローティングシートの追従性の確保と大流量に対する許容能力を両立させることができるという効果を有し、工作機械の主軸などの回転部に液体クーラントやエアなどの流体を送給する用途に有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 ロータリジョイント
1a 回転部
1b 固定部
2 スピンドル軸
3 ケーシング部材
4 ロータ
4e 回転流路
5 第1のシールリング
5b 第1のシール面
9 面シール部
10 ハウジング部材
10b 嵌合孔
11 フローティングシート
11b 固定軸部
11c 固定流路
12 第2のシールリング
12b 第2のシール面
13、13A 移動部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の回転流路が設けられ回転軸に装着される回転部および軸方向の固定流路が設けられケーシング部材に装着される固定部を同軸配置して成り、流体供給源から供給される流体を軸心廻りに回転する前記回転部の回転流路へ前記固定流路を介して送給するロータリジョイントであって、
前記回転部に設けられ側端面に前記回転流路が開口した第1のシール面を有する回転シール部と、
前記固定流路が前記軸方向に貫通して形成された固定軸部を有し、一方側の側端面に前記固定流路が開口した第2のシール面を有する固定シール部と、
前記固定部の本体を構成するハウジング部材に設けられ前記固定軸部が前記軸方向の移動が許容された状態で嵌合する嵌合孔と、
前記嵌合孔において前記固定軸部の他方側の側端部よりも前記流体の流れ方向における上流側に前記軸方向の移動が許容された状態で装着され、前記流体供給源から供給された流体を通過させるとともにこの流体の流体力によって前記流れ方向における下流側へ移動する移動部材とを備え、
前記流体供給源から前記嵌合孔内へ前記流体を供給することにより前記移動部材を前記流体力によって下流側へ移動させ、次いでこの移動部材を前記固定軸部の他方側の側端面に当接させて押圧力を作用させることにより前記固定シール部の下流側への移動を促進し、さらに前記固定軸部に前記流体力を作用させて前記固定シール部を前記回転シール部に対して押圧することにより、前記第1のシール面と第2のシール面とを相互に密着させて面シール部を形成することを特徴とするロータリジョイント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−102611(P2011−102611A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257668(P2009−257668)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(000179328)リックス株式会社 (33)
【Fターム(参考)】