ロータリージョイント
【課題】 グリースの滞留部位を低減し、グリースの固化を有効に防止し得るロータリージョイントを提供することを目的とする。
【解決手段】 ケーシング33と、ケーシング33から突出して配置された管状のロータ35と、ロータ35をケーシング33に回転自在に支持する一対の軸受と、一対の軸受間に間隔を設けるスペーサ41と、ロータ35の内側に設けられた管状の内管43と、ロータ35の他端側端部に取り付けられたシートリング45と、ロータ35の他端側位置でシートリング45と協働してロータ35の内部を封止するシールリング47と、シールリング47を押圧付勢するバネ49と、が備えられたロータリージョイント1であって、スペーサ41は、その外側位置が少なくとも第一軸受37の転動体の中心位置よりも外側に位置し、各第一軸受37および第二軸受38に向けてグリースを流す流路が設けられていることを特徴とする。
【解決手段】 ケーシング33と、ケーシング33から突出して配置された管状のロータ35と、ロータ35をケーシング33に回転自在に支持する一対の軸受と、一対の軸受間に間隔を設けるスペーサ41と、ロータ35の内側に設けられた管状の内管43と、ロータ35の他端側端部に取り付けられたシートリング45と、ロータ35の他端側位置でシートリング45と協働してロータ35の内部を封止するシールリング47と、シールリング47を押圧付勢するバネ49と、が備えられたロータリージョイント1であって、スペーサ41は、その外側位置が少なくとも第一軸受37の転動体の中心位置よりも外側に位置し、各第一軸受37および第二軸受38に向けてグリースを流す流路が設けられていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールの温度(特に高温)調節に用いるロータリージョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロータリージョイントは、例えば、回転するロールの軸部に取り付けられ、ロールの内部に熱媒体あるいは冷媒体の流体を導入、排出し、ロールの温度を調節する用途に用いられる。
このロータリージョイントとして、例えば、特許文献1に示されるものが提案されている。
これは、ケーシングを備え、ケーシングは、ケーシングから伸びる外端部を有する管状のロータを回動自在に支持するように軸線方向に間隔を隔てた一対の軸受を有し、ロータの内部を貫通して配置された内管を支持している。ロータの内端部には、平らな面を有する環状シートリングが備えられ、ケーシングには、シートリングと対向して軸線方向に移動可能に設置されたシールリングが備えられ、ばねによってシールリングをシートリングの方向へ付勢することによってロータ内とケーシングの軸受部とをシールしている。
ロータの突出端が回転するロールに接続され、内管の一端はロール内に位置させられている。
内管の他端に接続された配管から供給された流体は、ロール内に供給され、ロータと内管との間を通って排出される。
【0003】
【特許文献1】特開平6−235486号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、ロータリージョイントでは、一対の軸受の潤滑にグリースが用いられている。高温の流体を扱うロータリージョイントでは、耐熱品といわれるウレアグリースがよく用いられている。
グリースは、軸受およびそれらの間にある空間に充填されている。ロータの回転によって、内輪およびスペーサが回転し、グリースが流動化し、潤滑の機能をする。そして、一部は軸受から外側に流れ出る。
この時、グリースは回転に抵抗することで自己発熱し、さらに高温の流体からの熱を受け、温度が上昇する。作業が終了すると冷却されて半固体状態に戻る。これが繰り返されることによってグリースは劣化し、ついには固化することになる。
また、連続運転に伴う長時間の連続加熱によって熱劣化し、固化することになる。
これらは回転体に接触する部分において始まり、それが徐々に外側に進行し、ついには軸受をロックさせる事態に発展する恐れがある。
また、軸受からシールリング側に流れ出たグリースが固化し、それが成長すると、シールリングをばねに抗して押すようになる、すなわち、固化したグリースがシールリングを固着させその動きを妨げるようになる。
これによってシールリングとシートリングとのシールが破れ、ロータ内を通過する流体が軸受部分に流入することとなる。
一方、反対に軸受から外部に流出したグリースが固化すると、見栄えが悪くなるし、グリース飛散による周囲の汚染を発生させ、なおかつ軸受をロックさせる事態に発展する恐れがある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、グリースの滞留部位を低減し、グリースの固化を有効に防止し得るロータリージョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるロータリージョイントは、一端側へ開放された開放空間を有するケーシングと、他端側端部が前記開放空間内に位置し、前記ケーシングから突出して配置された管状のロータと、該ロータを前記ケーシングに対して回転自在に支持する一対の軸受と、該一対の軸受の間に装着され、これらの間に間隔を設けるスペーサと、前記ロータの内側を貫通するように前記ケーシングに取り付けられた管状の内管と、前記ロータの他端側端部に取り付けられたシートリングと、前記ロータの他端側位置に前記ケーシングに対して軸線方向に移動可能に取り付けられ、前記シートリングと協働して前記開放空間と前記ロータの内部とを封止するシールリングと、該シールリングを前記シートリングに向けて押圧付勢するバネと、が備えられたロータリージョイントであって、前記スペーサは、その外側位置が少なくとも前記軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置し、前記各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられていることを特徴とする。
【0007】
このように、一対の軸受の間に間隔を設けるスペーサは、その外側位置が少なくとも軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置しているので、ケーシング、一対の軸受およびスペーサによって形成される空間は小さくなる。この空間が小さくなると、ここに滞留するグリースの量は少なくなるので、滞留する期間が短くなる。このため、劣化が進展して固化に到る可能性を大幅に低減することができる。
また、スペーサには各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられているので、流動化したグリースが軸受に向けて流れ易くなる。これにより、グリースは流動化した状態と半固体の状態との繰り返しが少なくなるので、劣化が進展して固化に到る可能性を一層低減することができる。
【0008】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記スペーサは、軸線方向に中高な形状とされ、外側表面が前記流路を構成していることを特徴とする。
【0009】
このように、スペーサは、軸線方向に中高な形状とされているので、ケーシング、一対の軸受およびスペーサによって形成される空間は一層小さくなる。また、スペーサの外表面は軸線方向中央部から軸受に向けて内側に傾斜して流路を形成しているので、流動化したグリースはこの傾斜を利用して軸受に供給される。
これにより、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性をさらに一層低減することができる。
【0010】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記スペーサの前記グリースに接触する部分は、フッ素樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0011】
このように、スペーサのグリースに接触する部分は、フッ素樹脂で形成されているので、グリースとの剥離性がよい。
このため、グリースの滞留が少なくなるので、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性をさらに一層低減することができる。
なお、フッ素樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好適である。
【0012】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記スペーサは、内側に配置され前記一対の軸受間の間隔を規定するスペーサ部と、該スペーサ部の外側に配置され前記グリースを前記各軸受に供給するグリース供給部とで構成されていることを特徴とする。
【0013】
このように、スペーサは、内側に配置され一対の軸受間の間隔を規定するスペーサ部と、スペーサ部の外側に配置されグリースを各軸受に供給するグリース供給部とで構成されているので、スペーサ部およびグリース供給部はそれぞれ適宜、適切な形状、材料で形成することができる。これにより、設計の自由度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明にかかるロータリージョイントは、他端側の前記軸受と前記シールリングとの間に、前記ロータの周囲を覆うように構成されたシール部材を設けていることを特徴とする。
【0015】
このように、他端側の軸受とシールリングとの間に、ロータの周囲を覆うように構成されたシール部材を設けているので、軸受から流出したグリースがシール部材によって止められ、シールリングの方へ流出しなくなる。
このため、グリースはシールリングとシートリングとの間に存在しなくなるので、ここで固化してシールリングを押圧する事態を防止できる。これにより、シールリングとシートリングとのシールが破れ、高温の流体が軸受の方へ流れ込むことを防止することができる。
なお、具体的には、シール部材の内径と、ロータの外径とは、同程度とし、ロータの回転によってシール部材は若干磨耗してほとんど隙間は無い状態で落ち着くことになる。
【0016】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記シール部材は、前記ロータ側にグリースを案内する案内面を、下部にグリースの排出部を備えていることを特徴とする。
【0017】
このように、シール部材は、ロータ側にグリースを案内する案内面を備えているので、軸受から流出したグリースはシール部材の案内面によって案内され下部に移動し、下部から系外に排出される。
このため、グリースはシール部材によって滞留させられることがないので、この部分でも劣化が進み固化することを防止できる。
【0018】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記グリースは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いていることを特徴とする。
【0019】
このように、グリースは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いているので、劣化に伴う粘度上昇が非常に少なくなる。このため、固化に到るまでの時間に余裕ができるので、グリースが固化する恐れを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、一対の軸受の間に間隔を設けるスペーサは、その外側位置が少なくとも軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置しているので、滞留するグリースの量は少なくなり、劣化が進展して固化に到る可能性を大幅に低減することができる。
また、スペーサには各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられているので、劣化が進展して固化に到る可能性を一層低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態にかかるロータリージョイント1について、図1〜図9を用いて説明する。
本実施形態のロータリージョイント1は、二軸延伸フィルムシートを製造する押出成形機3に取り付けられている。
図1は、押出成形機3の全体概略構成を示す斜視図である。
押出成形機3には、押出機5と、ダイ7と、キャスティング9と、縦延伸機11と、横延伸機13と、引取機15と、巻取機17と、が備えられている。
【0022】
押出機5は、例えば、シリンダ内にスクリュを配置した構成とされている。
押出機5は、供給された成形材料である樹脂を回転させているスクリュによって搬送する間に加熱および加圧し、樹脂を可塑化し、さらに樹脂を均質化、計量、昇圧させてダイ7へ送る機能を奏する。
ダイ7は、例えば、隙間を空けて配置された一対の本体によってスリットが形成されている。
ダイ7は、このスリットの一端から可塑化された樹脂を供給し、他端から押し出すことによって、樹脂をスリット形状に沿ったシート状に成形する機能を奏する。
【0023】
キャスティング9は、例えば、回転する大口径の冷却ロールで構成されている。
冷却ロールの軸端には、後述するロータリージョイント1が設置されている。冷却ロールは、図示しない冷却水供給手段からの冷却水がロータリージョイント1を介して内部に供給されることによってロール周面を低温に維持している。
キャスティング9は、ダイ7で押し出された可塑化されたシート状の樹脂を冷却ロールの周面に接触させて案内し、これを急速に冷却し固化し、原反シート21を形成する機能を奏する。
キャスティング9としては、シート状に成形された樹脂を冷却水槽に浸漬走行させるもの、あるいは、複数の冷却ロールに通すもの等、種々の方式を用いることができる。
【0024】
縦延伸機11は、原反シート21をその進行方向に延伸、例えば、数倍に延ばしフィルム31とするものである。
縦延伸機11には、図2に示すように、原反シート21を順次案内する多数の昇温ロール23が備えられている。
昇温ロール23の一方の軸部25には、ロータリージョイント1が取り付けられている。(図3参照)
【0025】
昇温ロール23は、ロータリージョイント1から内部に蒸気あるいは熱水あるいは加温された油が供給され、高温、例えば、百数十℃に加温され、それを維持するように温度調節されている。
多数の昇温ロール23は、原反シート21の流れ方向下流側に行くほど、周速が早くなるように制御されている。
下流側の速度が速くなった昇温ロール21には、原反シート21を昇温ロール23に向かって押さえて、昇温ロール23が確実に原反シート21を駆動するようにするニップロール27が備えられている。
【0026】
横延伸機13は、縦延伸機11によって縦方向に延伸されたフィルム31をさらに加熱し、例えば、百数十℃まで加温し、横方向に延伸、例えば数倍幅に延ばすものである。
横延伸機13には、フィルム31の加熱手段と、フィルム31の両端部を保持するグリップと、グリップを進行させながら横方向に移動させるように案内するテンターレールとが備えられている。(図示省略)
引取機15は、フィルム31端部(耳部)の切断、厚み計29を用いたフィルム厚みの測定、フィルム31の表面処理等を行なうものである。
巻取機17は、引取機15から送られるフィルム31をロールに巻き取るものである。
【0027】
次に、ロータリージョイント1について、図4〜図8に基づいて説明する。
図4は、ロータリージョイント1の全体構成を示す縦断面図である。
ロータリージョイント1には、ケーシング33と、ロータ35と、第一軸受37および第二軸受38(一対の軸受)と、スペーサ41と、内管43と、シートリング45と、シールリング47と、バネ49と、潤滑シール(シール部材)51と、スクレーパ53とが備えられている。
【0028】
ケーシング33は、鋼製であり、径の異なる三個の円筒が大きさの順序で連なり、一端側(図4における右側)から大径部55、中径部57および小径部59を形成している。
大径部55には、一端側に開放された大径中空部(開放空間)61が設けられている。
ロータ35は、ステンレス製で、略円管状をしている。ロータ35は、大径中空部61と略同一軸線中心を有し、一端側に突出するように配置されている。
ロータ35は、第一軸受37および第二軸受38によってケーシング33に対して回転自在に支持されている。
【0029】
ロータ35の一端側には、軸部25へ取付けるためのフランジ39が溶接によって固定されている。
ロータ35の他端側(図4における左側)端部の外周には、所定範囲にネジ63が切られるとともに軸線方向に溝65が設けられている。(図5参照)
ロータ35の他端側端面には、内径がロータ35と略同一で、外径がそれよりも小さいシートリング45が嵌合されている。
シートリング45は、セラミック製で、他端側に平滑な摺動面67が設けられている。
【0030】
第一軸受37には、外輪69と、玉(転動体)71と、内輪73とが備えられている。
第二軸受38には、外輪70と、玉(転動体)72と、内輪74とが備えられている。
第一軸受37および第二軸受38は、内輪73,74の間に介装されたスペーサ41によって相互の間隔が規制されている。
第一軸受37の外輪69は、ケーシング33の内面に取り付けられたC形止め輪75によって、内輪73はロータ35の外周に設けられた突起によって、それぞれ一端側への動きを規制されている。
第二軸受38の外輪70は、ケーシング33の内面に設けられた突起によって位置を規制されている。
【0031】
第二軸受38の内輪74の他端側端部は、ロータ35のネジ63の一端側部分に位置している。
内輪74は、ロータ35の他端側に取り付けられる座金75と星型ナット77とによって他端側位置が規制される。
座金75は、薄いリング状をし、外周部に他端側に傾斜した複数の爪79が、内周部に溝65に嵌合するガイド部81が設けられている。
座金75は、ガイド部81が溝65に案内されて軸線方向に移動可能とされている。
星型ナット77は、リング状をし、座金75の爪79の根元部分に係合する外径を有し、外周部に軸線方向に貫通した複数の凹部83を備えている。
星型ナット77は、内周部のネジがロータ35のネジ63と螺合し、座金75を内輪74の他端側に押付けることで内輪74の他端側位置を規制する。
【0032】
スペーサ41は、鋼製で、略円筒形状をしている。
スペーサ41の内周面はロータ35の外周に係合している。
スペーサ41の外周面は、軸線方向の両端部が玉71,72の中心位置と略同一位置に位置し、軸線方向において中高になるように突出している。
スペーサ41は、軸線方向において中間位置が最も外側に突出し、そこから第一軸受37および第二軸受38に向けて内側に傾斜した傾斜面(流路)85が形成されていることになる。
なお、傾斜面85にフッ素樹脂、例えばPTEFをコーティングするようにしてもよい。こうすれば、グリースとの剥離性がよくなるので、グリースの流れが円滑となる。
ケーシング33には、スペーサ41の軸線方向中間位置に相当する位置において上部にグリースを供給するグリースニップル87が、下部にグリースを排出する部材を取付ける開口89が備えられている。
【0033】
中径部57には、大径中空部61と略同一軸線中心を有する中径中空部91が設けられている。
シールリング47は、特殊カーボン製で、管状をしている。シールリング47は中径中空部91の一端側に軸線方向に移動可能に嵌合し、ケーシング33に取り付けられたピン93によって軸線方向に案内されている。
シールリング47は、大径中空部61の方へ突出している。シールリング47の一端側端面は、平滑に形成されており、シートリング45の摺動面67に接触して封止部を形成している。
【0034】
シールリング47の他端側端部には、Oリング95がケーシング33の中径部57との間に装着されている。
Oリング95の他端側には、リング状のバネ受97が係合している。
バネ受97は、中径中空部91内に配置されたバネ49によって一端側に付勢され、Oリング95を圧縮する。
これにより、Oリング95を介してシールリング47は軸線方向に押圧され、シールリング47の摺動面67へ押付けられる。
【0035】
小径部59には、中径中空部91と略同一軸線中心を有する小径中空部99が貫通するように設けられている。
小径中空部99には、内管43の他端側が回転可能に支持されている。
内管43は、ステンレス製で、管状をしている。内管43は、ロータ35に一体的に支持されている。内管43の一端側には、連結管101が取り付けられている。
連結管101には、昇温ロール23内に位置するロール内管103がOリングを介して取り付けられている。
【0036】
小径部59の他端側端部には、供給管105が取付管107によって取り付けられている。
供給管105は図示しない熱媒体発生源と接続され、蒸気あるいは熱水あるいは加温された油を内管43、連結管101およびロール内管103を経由して昇温ロール23内に供給する。
中径部57には、中径空間部91に連通するように排出空間部109が設けられている。
排出空間部109は、ロータ35と内管43との間を通る昇温ロール23から流出する蒸気あるいは熱水あるいは加温された油の排出口として機能を奏する。
【0037】
次に、図6および図7も参照して潤滑シール51について説明する。
潤滑シール51は、リング状をし、内周部がロータ35の他端側に嵌合している。
潤滑シール51の外周部は、一端側に突出し、徐々に径が拡がるような空間111を形成している。この空間111を形成する潤滑シール51の一端側面が本発明の案内面113を構成している。
潤滑シール51の一端側端面115は、第二軸受38の外輪70に当接するように配置されている。
潤滑シール51の上部には、ピン穴117が設けられている。潤滑シール51は、ケーシング33を通してピン穴117に挿入されるピン119によって位置決めされる。
潤滑シール51の下部には、突出部を切り欠いた排出部121が設けられている。
【0038】
大径部55の一端側下部には、スクレーパ53が取り付けられている。
スクレーパ53は、板材であり、上部が第一軸受37の一端側に接するように取り付けられている。
スクレーパ53の一端側には、スクレーパ53に案内されたグリースを受けるグリース受125が取り付けられている。
グリース受123は、上下方向に延在して配設された案内板125と、案内板125の他端側下部に直交して取り付けられたコ字形断面のグリース受皿127とから構成されている。
案内板125は、スクレーパ53に略直交して取り付けられている。
グリース受皿127は、大径部55の軸線方向略全長にわたり設けられている。
【0039】
以上説明した本実施形態にかかるロータリージョイント1を用いた押出成形機3の動作について説明する。
成形材料である樹脂は、押出機5によって加熱および加圧され、可塑化される。押出機5は、この樹脂をさらに均質化し、所要量に計量し、昇圧させてダイ7へ送る。
ダイ7に送られた樹脂は、ダイ7のスリット形状に沿ったシート状に成形される。
このシート状の樹脂は、キャスティング9の大径ロールに沿って移動する間に、冷却された大径ロールによって急速に冷却され、固化される。
このようにして、原反シート21が形成される。
【0040】
原反シート21は、縦延伸機11に送られる。
昇温ロール23の軸部25に取り付けられたロータリージョイント1によって図示しない熱媒体発生源から蒸気あるいは熱水あるいは加温された油が昇温ロール23内部に供給され、昇温ロール23は百数十℃に維持されている。
原反シート21は、昇温ロール23の周面に接触して運ばれる間に加温され軟化する。
多数の昇温ロール23は、原反シート21の流れ方向下流側に行くほど、周速が早くなるように制御されているので、軟化した原反シート21は下流側の昇温ロールに順次引っ張られ、流れ方向に延伸される。
縦延伸機11は、このようにして原反シート21をその進行方向に延伸、例えば、数倍に延ばしフィルム31とする。
【0041】
縦延伸機11で進行方向に延伸されたフィルム31は、横延伸機13に送られる。
フィルム31は、両端部をグリップによって保持されて搬送される。
フィルム31は、加熱手段によって、例えば、百数十℃まで加温される。次いで、フィルム31はグリップがテンターレールに沿って横方向に移動することによって横方向に延伸、例えば3倍幅に延ばされる。
このフィルム31は、引取機15によって、所要幅になるように両端部(耳部)を切断され、厚み計29によって厚みを測定され、さらに表面処理等を行なわれる。
フィルム31は、巻取機17のロールに巻き取られる。
【0042】
次に、縦延伸機11の昇温ロール23におけるロータリージョイント1の動作について説明する。
ロータ35に固定したフランジ39が、昇温ロール23の軸部25の端面にボルト止めされているので、ロータ35および内管43は昇温ロール23と同一角速度で回転する。
ケーシング33は、ロータ35を回転自在に支持しているので、ロータ35の回転に拘わらず固定されている。また、ケーシング33に取り付けられたシールリング47、スクレーパ53およびグリース受123等も固定した位置に留まる。
【0043】
供給管105によって図示しない熱媒体発生源から供給された蒸気あるいは熱水あるいは加温された油は、内管43を通って、連結管101およびロール内管103を経由して昇温ロール23の内部空間に導入される。
導入された蒸気あるいは熱水あるいは加温された油は、昇温ロール23を加温した後、ロータ35と内管43との間を通り、排出空間部109から系外に排出される。
シールリング47の一端側端面は、バネ49によってロータ35の他端側端部に取り付けられたシールリング45の回転する摺動面67に押付けられている。これにより、シールリング47およびシートリング45は、第一軸受37等が位置する大径中空部61とロータ35の内部空間とを封止し、ロータ35内を通る蒸気あるいは熱水あるいは加温された油がこの大径中空部61へ進入するのを防止している。
【0044】
第一軸受37および第二軸受38を潤滑するため、例えば、リチウムコンプレックス系のグリースが用いられている。グリースは第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間と第一軸受37および第二軸受38とに充填されている。
このグリースは、第一軸受37および第二軸受38の内輪73,74とスペーサ41との回転に伴い、流動化し、第一軸受37および第二軸受38の潤滑を行う。
この時、第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間で流動化したグリースは、傾斜面85に沿って流れ、第一軸受37あるいは第二軸受38に供給される。
【0045】
このように、スペーサ41が軸線方向において中高に形成され、かつ、最も径の小さい軸線方向における両端部が玉71,72の中心位置よりも外側に位置しているので、第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間は、従来のスペーサに比べて格段に小さくなっている。
この空間が小さくなると、ここに滞留するグリースの量は少なくなるので、滞留する期間が短くなる。このため、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性を大幅に低減することができる。
【0046】
また、グリースは、傾斜面85に沿って流れるので、流動化したグリースが軸受に向けて流れ易くなる。これにより、グリースは流動化した状態と半固体の状態との繰り返しが少なくなるので、劣化が進展して固化に到る可能性を一層低減することができる。
さらに、スペーサ41の傾斜面85にPTFEでコーティングしている場合には、グリースとの剥離性がよいので、グリースの滞留が一層少なくなり、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性をさらに一層低減することができる。
【0047】
流動化したグリースは、第二軸受38の他端側から流出する。この流出したグリースは潤滑シール51の案内面113に案内されて下方へ移動し、排出部121からグリース受皿127へ排出される。
このように、グリースは潤滑シート51によって滞留させられることがないので、この部分でも劣化が進み固化することを防止できる。
【0048】
また、ロータ35の他端部に設けられた潤滑シート51が第二軸受38から流出したグリースを封止し、系外へ排出するので、グリースはシールリング47の方へ流出しなくなる。
このため、グリースはシールリング47とシートリング45との間に存在しなくなるので、ここで固化してシールリング47を他端側へ押圧する事態を防止できる。
これにより、シールリング47とシートリング45とのシールが破れ、高温の流体が第二軸受38の方へ流れ込むことを防止することができる。
【0049】
流動化したグリースは、第一軸受37の一端側から流出する。
このように、一端側の軸受からケーシング外に流出するグリースはスクレーパ53および案内板125に案内され、下方に移動し、グリース受皿127へ排出される。
このため、ケーシング33の外部にグリースが固化することはないので、見栄えが改善されるし、第一軸受37がロックする事態を防止できる。
【0050】
グリースの選定について説明する。
表1に示す4種の耐熱性のグリースについて、耐熱試験を行なった。耐熱試験は、グリースを150℃に維持し、その時の粘度変化を調べた。
【表1】
【0051】
耐熱試験の結果を図9に示す。図9には、実機において事故が発生した時のグリースの粘度(1.5×106Pa・S)を比較のために記載している。
これをみると、シェルスタミナRL2は、事故が起きた時の粘度に漸近しており、不適合と判定される。
その他の3種については、粘度はシェルスタミナRL2に比べて十分の一以下であり、十分使用できる。
その中で、マルテンプET−100Kは、当初粘度が一番低いのに、途中から急に上昇し、長期使用に問題がある。これは、酸化劣化によって、ちょう度(粘度)が変化し、硬化、軟化、硬化の過程を経て固化にいたるものと推定される。
【0052】
また、NOXLUBについても、マルテンプET−100K程ではないが、途中から粘度の上昇速度が大きくなり、略2300時間のところで、粘度はダフニーエポネックスSR2よりも大きくなり、時間が経つに連れてその差が大きくなっている。
これは、増ちょう剤として用いているフッ素は基油を蒸発させ易い性質があり、この影響で時間が経過するに連れて基油が蒸発して粘度が上昇していくものと推定される。また、フッ素グリースは高価である。
したがって、長期使用という観点からは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いているダフニーエポネックスSR2が最も好ましいという結果となった。
【0053】
実機に従来用いられていたシェルスタミナRL2と耐熱試験の結果が良好であったダフニーエポネックスSR2とについて、潤滑性能を試験した。試験は、SRV試験機によるものと、高速四球式試験機によるものの2種類をおこなった。
SRV試験機では、80℃の雰囲気で、30秒ごとに50Nずつ荷重を増加させるステップ荷重をかけ、焼付荷重を測定した。
高速四球式試験機は、実機に即して、1800rpmの高速回転で、融着荷重を測定した。
その結果を図10に示す。これを見ると、ダフニーエポネックスSR2の耐焼付荷重は、シェルスタミナRL2のそれに比べて略2倍位大きくなっており、潤滑性能にも優れていることが判明した。
【0054】
このように、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いているグリースは、劣化に伴う粘度上昇が少ない。このグリースを第一軸受37および第二軸受38の潤滑に用いた場合、グリースが劣化し固化するまでの時間に余裕ができるので、グリースが固化する恐れを防止することができる。
また、潤滑性能を向上させることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、スペーサ41は一体構造としているが、これに限定されるものではなく、例えば、図11に示すように、スペーサ部129とスペーサ部の外側に配置されたグリース供給部131とに分割されていてもよい。
スペーサ部129は、金属製、例えば鋼製で、第一軸受37および第二軸受38間の間隔を規定する。
グリース供給部131は、第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間を縮小させるとともに第一軸受37および第二軸受38へグリースを供給する。グリース供給部131は、例えば、PTFE製とし、グリースとの剥離性を向上させている。
このようにすると、スペーサ部129およびグリース供給部131はそれぞれ適切な形状、材料で形成することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0056】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図12〜図14を用いて説明する。
本実施形態では、第一実施形態と基本的構成は同様であり、スペーサ41の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、この相違点について説明し、その他の部分については重複した説明を省略する。
なお、第一実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0057】
本実施形態では、スペーサ41は、スペーサ部133とグリース供給部135とで構成されている。
スペーサ部133は、鋼製の円筒であり、第一軸受37および第二軸受38間の間隔を強固に保持する。
グリース供給部135は、PTFE製の円筒であり、スペーサ部133の外周に隙間を空けて取り付けられている。グリース供給部135は、大径部55に回転しないように保持されている。
グリース供給部135の外径は、大径中空部61の内径と略同一であるので、スペーサ41は、第一軸受37と第二軸受38との間の空間をほぼ占有している。
【0058】
グリース供給部135の外周には、軸線方向の略中間位置に潤滑溝137が周囲を囲繞するように設けられている。潤滑溝137は、グリースニップル87およびグリースを排出する部材を取付ける開口89に対応する位置に設けられている。
潤滑溝137の底部には、内側に向けた複数、例えば6個のグリース供給穴139が周方向に略等間隔に設けられている。
グリース供給穴139の底部分には、第一軸受37側へ連通するグリース供給小穴141あるいは第二軸受38側へ連通するグリース供給小穴143が設けられている。
グリース供給小穴141およびグリース供給小穴143は、周方向に交互に設けられている。
潤滑溝137、グリース供給穴139およびグリース供給小穴141,143が、本発明の流路を構成している。
【0059】
このように構成された本実施形態にかかるロータリージョイント1の動作について説明する。
ロータリージョイント1の動作については、第一実施形態と同様であるので重複した説明を省略し、スペーサ41の動作について説明する。
グリースニップル87から潤滑溝137へグリースが供給される。このグリースは、潤滑溝137から、各グリース供給穴139に流れる。
そして、グリースは各グリース供給穴139からグリース供給小穴141あるいはグリース供給小穴143を通って、第一軸受37あるいは第二軸受38に供給される。
【0060】
このように、スペーサ41は、第一軸受37と第二軸受38との間の空間をほぼ占有し、グリースはグリース供給部135の潤滑溝137、グリース供給穴139およびグリース供給小穴141,143の部分にしか存在しない。したがって、第一軸受37と第二軸受38との間に滞留するグリースは、前述の第一実施形態に比べて一層少なくなるので、グリースが滞留する期間が短くなり、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性を一層大幅に低減することができる。
また、これ以外の作用・効果については前述の第一実施形態と同様であるので、ここでは重複した説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる押出成形機の全体概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかる縦延伸機を示す正面図である。
【図3】本発明の第一実施形態にかかるロータリージョイントの取付状況を示す斜視図である。
【図4】本発明の第一実施形態にかかるロータリージョイントの全体概略構成を示す縦断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態にかかるロータの端部構造の組立状況を示す斜視図である。
【図6】本発明の第一実施形態にかかる潤滑シールを示す正面図である。
【図7】図6のX−X断面図である。
【図8】図4のY−Y視図である。
【図9】グリースの耐熱試験の結果を示すグラフ図である。
【図10】グリースの潤滑性能試験の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の第一実施形態にかかるスペーサの別の実施形態を示す断面図である。
【図12】本発明の第二実施形態にかかるロータリージョイントの全体概略構成を示す縦断面図である。
【図13】本発明の第二実施形態にかかるグリース供給部を示す正面図である。
【図14】図13のZ−Z断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ロータリージョイント
33 ケーシング
35 ロータ
37 第一軸受
38 第二軸受
41 スペーサ
43 内管
45 シートリング
47 シールリング
49 バネ
51 潤滑シール
53 スクレーパ
69,70 外輪
71,72 玉
85 傾斜面
113 案内面
129,133 スペーサ部
131,135 グリース供給部
137 潤滑溝
139 グリース供給穴
141,143 グリース供給小穴
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールの温度(特に高温)調節に用いるロータリージョイントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロータリージョイントは、例えば、回転するロールの軸部に取り付けられ、ロールの内部に熱媒体あるいは冷媒体の流体を導入、排出し、ロールの温度を調節する用途に用いられる。
このロータリージョイントとして、例えば、特許文献1に示されるものが提案されている。
これは、ケーシングを備え、ケーシングは、ケーシングから伸びる外端部を有する管状のロータを回動自在に支持するように軸線方向に間隔を隔てた一対の軸受を有し、ロータの内部を貫通して配置された内管を支持している。ロータの内端部には、平らな面を有する環状シートリングが備えられ、ケーシングには、シートリングと対向して軸線方向に移動可能に設置されたシールリングが備えられ、ばねによってシールリングをシートリングの方向へ付勢することによってロータ内とケーシングの軸受部とをシールしている。
ロータの突出端が回転するロールに接続され、内管の一端はロール内に位置させられている。
内管の他端に接続された配管から供給された流体は、ロール内に供給され、ロータと内管との間を通って排出される。
【0003】
【特許文献1】特開平6−235486号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような、ロータリージョイントでは、一対の軸受の潤滑にグリースが用いられている。高温の流体を扱うロータリージョイントでは、耐熱品といわれるウレアグリースがよく用いられている。
グリースは、軸受およびそれらの間にある空間に充填されている。ロータの回転によって、内輪およびスペーサが回転し、グリースが流動化し、潤滑の機能をする。そして、一部は軸受から外側に流れ出る。
この時、グリースは回転に抵抗することで自己発熱し、さらに高温の流体からの熱を受け、温度が上昇する。作業が終了すると冷却されて半固体状態に戻る。これが繰り返されることによってグリースは劣化し、ついには固化することになる。
また、連続運転に伴う長時間の連続加熱によって熱劣化し、固化することになる。
これらは回転体に接触する部分において始まり、それが徐々に外側に進行し、ついには軸受をロックさせる事態に発展する恐れがある。
また、軸受からシールリング側に流れ出たグリースが固化し、それが成長すると、シールリングをばねに抗して押すようになる、すなわち、固化したグリースがシールリングを固着させその動きを妨げるようになる。
これによってシールリングとシートリングとのシールが破れ、ロータ内を通過する流体が軸受部分に流入することとなる。
一方、反対に軸受から外部に流出したグリースが固化すると、見栄えが悪くなるし、グリース飛散による周囲の汚染を発生させ、なおかつ軸受をロックさせる事態に発展する恐れがある。
【0005】
本発明は、上記問題点に鑑み、グリースの滞留部位を低減し、グリースの固化を有効に防止し得るロータリージョイントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかるロータリージョイントは、一端側へ開放された開放空間を有するケーシングと、他端側端部が前記開放空間内に位置し、前記ケーシングから突出して配置された管状のロータと、該ロータを前記ケーシングに対して回転自在に支持する一対の軸受と、該一対の軸受の間に装着され、これらの間に間隔を設けるスペーサと、前記ロータの内側を貫通するように前記ケーシングに取り付けられた管状の内管と、前記ロータの他端側端部に取り付けられたシートリングと、前記ロータの他端側位置に前記ケーシングに対して軸線方向に移動可能に取り付けられ、前記シートリングと協働して前記開放空間と前記ロータの内部とを封止するシールリングと、該シールリングを前記シートリングに向けて押圧付勢するバネと、が備えられたロータリージョイントであって、前記スペーサは、その外側位置が少なくとも前記軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置し、前記各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられていることを特徴とする。
【0007】
このように、一対の軸受の間に間隔を設けるスペーサは、その外側位置が少なくとも軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置しているので、ケーシング、一対の軸受およびスペーサによって形成される空間は小さくなる。この空間が小さくなると、ここに滞留するグリースの量は少なくなるので、滞留する期間が短くなる。このため、劣化が進展して固化に到る可能性を大幅に低減することができる。
また、スペーサには各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられているので、流動化したグリースが軸受に向けて流れ易くなる。これにより、グリースは流動化した状態と半固体の状態との繰り返しが少なくなるので、劣化が進展して固化に到る可能性を一層低減することができる。
【0008】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記スペーサは、軸線方向に中高な形状とされ、外側表面が前記流路を構成していることを特徴とする。
【0009】
このように、スペーサは、軸線方向に中高な形状とされているので、ケーシング、一対の軸受およびスペーサによって形成される空間は一層小さくなる。また、スペーサの外表面は軸線方向中央部から軸受に向けて内側に傾斜して流路を形成しているので、流動化したグリースはこの傾斜を利用して軸受に供給される。
これにより、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性をさらに一層低減することができる。
【0010】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記スペーサの前記グリースに接触する部分は、フッ素樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0011】
このように、スペーサのグリースに接触する部分は、フッ素樹脂で形成されているので、グリースとの剥離性がよい。
このため、グリースの滞留が少なくなるので、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性をさらに一層低減することができる。
なお、フッ素樹脂としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好適である。
【0012】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記スペーサは、内側に配置され前記一対の軸受間の間隔を規定するスペーサ部と、該スペーサ部の外側に配置され前記グリースを前記各軸受に供給するグリース供給部とで構成されていることを特徴とする。
【0013】
このように、スペーサは、内側に配置され一対の軸受間の間隔を規定するスペーサ部と、スペーサ部の外側に配置されグリースを各軸受に供給するグリース供給部とで構成されているので、スペーサ部およびグリース供給部はそれぞれ適宜、適切な形状、材料で形成することができる。これにより、設計の自由度を向上させることができる。
【0014】
また、本発明にかかるロータリージョイントは、他端側の前記軸受と前記シールリングとの間に、前記ロータの周囲を覆うように構成されたシール部材を設けていることを特徴とする。
【0015】
このように、他端側の軸受とシールリングとの間に、ロータの周囲を覆うように構成されたシール部材を設けているので、軸受から流出したグリースがシール部材によって止められ、シールリングの方へ流出しなくなる。
このため、グリースはシールリングとシートリングとの間に存在しなくなるので、ここで固化してシールリングを押圧する事態を防止できる。これにより、シールリングとシートリングとのシールが破れ、高温の流体が軸受の方へ流れ込むことを防止することができる。
なお、具体的には、シール部材の内径と、ロータの外径とは、同程度とし、ロータの回転によってシール部材は若干磨耗してほとんど隙間は無い状態で落ち着くことになる。
【0016】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記シール部材は、前記ロータ側にグリースを案内する案内面を、下部にグリースの排出部を備えていることを特徴とする。
【0017】
このように、シール部材は、ロータ側にグリースを案内する案内面を備えているので、軸受から流出したグリースはシール部材の案内面によって案内され下部に移動し、下部から系外に排出される。
このため、グリースはシール部材によって滞留させられることがないので、この部分でも劣化が進み固化することを防止できる。
【0018】
また、本発明にかかるロータリージョイントでは、前記グリースは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いていることを特徴とする。
【0019】
このように、グリースは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いているので、劣化に伴う粘度上昇が非常に少なくなる。このため、固化に到るまでの時間に余裕ができるので、グリースが固化する恐れを防止することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、一対の軸受の間に間隔を設けるスペーサは、その外側位置が少なくとも軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置しているので、滞留するグリースの量は少なくなり、劣化が進展して固化に到る可能性を大幅に低減することができる。
また、スペーサには各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられているので、劣化が進展して固化に到る可能性を一層低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図を参照して説明する。
[第一実施形態]
本発明の第一実施形態にかかるロータリージョイント1について、図1〜図9を用いて説明する。
本実施形態のロータリージョイント1は、二軸延伸フィルムシートを製造する押出成形機3に取り付けられている。
図1は、押出成形機3の全体概略構成を示す斜視図である。
押出成形機3には、押出機5と、ダイ7と、キャスティング9と、縦延伸機11と、横延伸機13と、引取機15と、巻取機17と、が備えられている。
【0022】
押出機5は、例えば、シリンダ内にスクリュを配置した構成とされている。
押出機5は、供給された成形材料である樹脂を回転させているスクリュによって搬送する間に加熱および加圧し、樹脂を可塑化し、さらに樹脂を均質化、計量、昇圧させてダイ7へ送る機能を奏する。
ダイ7は、例えば、隙間を空けて配置された一対の本体によってスリットが形成されている。
ダイ7は、このスリットの一端から可塑化された樹脂を供給し、他端から押し出すことによって、樹脂をスリット形状に沿ったシート状に成形する機能を奏する。
【0023】
キャスティング9は、例えば、回転する大口径の冷却ロールで構成されている。
冷却ロールの軸端には、後述するロータリージョイント1が設置されている。冷却ロールは、図示しない冷却水供給手段からの冷却水がロータリージョイント1を介して内部に供給されることによってロール周面を低温に維持している。
キャスティング9は、ダイ7で押し出された可塑化されたシート状の樹脂を冷却ロールの周面に接触させて案内し、これを急速に冷却し固化し、原反シート21を形成する機能を奏する。
キャスティング9としては、シート状に成形された樹脂を冷却水槽に浸漬走行させるもの、あるいは、複数の冷却ロールに通すもの等、種々の方式を用いることができる。
【0024】
縦延伸機11は、原反シート21をその進行方向に延伸、例えば、数倍に延ばしフィルム31とするものである。
縦延伸機11には、図2に示すように、原反シート21を順次案内する多数の昇温ロール23が備えられている。
昇温ロール23の一方の軸部25には、ロータリージョイント1が取り付けられている。(図3参照)
【0025】
昇温ロール23は、ロータリージョイント1から内部に蒸気あるいは熱水あるいは加温された油が供給され、高温、例えば、百数十℃に加温され、それを維持するように温度調節されている。
多数の昇温ロール23は、原反シート21の流れ方向下流側に行くほど、周速が早くなるように制御されている。
下流側の速度が速くなった昇温ロール21には、原反シート21を昇温ロール23に向かって押さえて、昇温ロール23が確実に原反シート21を駆動するようにするニップロール27が備えられている。
【0026】
横延伸機13は、縦延伸機11によって縦方向に延伸されたフィルム31をさらに加熱し、例えば、百数十℃まで加温し、横方向に延伸、例えば数倍幅に延ばすものである。
横延伸機13には、フィルム31の加熱手段と、フィルム31の両端部を保持するグリップと、グリップを進行させながら横方向に移動させるように案内するテンターレールとが備えられている。(図示省略)
引取機15は、フィルム31端部(耳部)の切断、厚み計29を用いたフィルム厚みの測定、フィルム31の表面処理等を行なうものである。
巻取機17は、引取機15から送られるフィルム31をロールに巻き取るものである。
【0027】
次に、ロータリージョイント1について、図4〜図8に基づいて説明する。
図4は、ロータリージョイント1の全体構成を示す縦断面図である。
ロータリージョイント1には、ケーシング33と、ロータ35と、第一軸受37および第二軸受38(一対の軸受)と、スペーサ41と、内管43と、シートリング45と、シールリング47と、バネ49と、潤滑シール(シール部材)51と、スクレーパ53とが備えられている。
【0028】
ケーシング33は、鋼製であり、径の異なる三個の円筒が大きさの順序で連なり、一端側(図4における右側)から大径部55、中径部57および小径部59を形成している。
大径部55には、一端側に開放された大径中空部(開放空間)61が設けられている。
ロータ35は、ステンレス製で、略円管状をしている。ロータ35は、大径中空部61と略同一軸線中心を有し、一端側に突出するように配置されている。
ロータ35は、第一軸受37および第二軸受38によってケーシング33に対して回転自在に支持されている。
【0029】
ロータ35の一端側には、軸部25へ取付けるためのフランジ39が溶接によって固定されている。
ロータ35の他端側(図4における左側)端部の外周には、所定範囲にネジ63が切られるとともに軸線方向に溝65が設けられている。(図5参照)
ロータ35の他端側端面には、内径がロータ35と略同一で、外径がそれよりも小さいシートリング45が嵌合されている。
シートリング45は、セラミック製で、他端側に平滑な摺動面67が設けられている。
【0030】
第一軸受37には、外輪69と、玉(転動体)71と、内輪73とが備えられている。
第二軸受38には、外輪70と、玉(転動体)72と、内輪74とが備えられている。
第一軸受37および第二軸受38は、内輪73,74の間に介装されたスペーサ41によって相互の間隔が規制されている。
第一軸受37の外輪69は、ケーシング33の内面に取り付けられたC形止め輪75によって、内輪73はロータ35の外周に設けられた突起によって、それぞれ一端側への動きを規制されている。
第二軸受38の外輪70は、ケーシング33の内面に設けられた突起によって位置を規制されている。
【0031】
第二軸受38の内輪74の他端側端部は、ロータ35のネジ63の一端側部分に位置している。
内輪74は、ロータ35の他端側に取り付けられる座金75と星型ナット77とによって他端側位置が規制される。
座金75は、薄いリング状をし、外周部に他端側に傾斜した複数の爪79が、内周部に溝65に嵌合するガイド部81が設けられている。
座金75は、ガイド部81が溝65に案内されて軸線方向に移動可能とされている。
星型ナット77は、リング状をし、座金75の爪79の根元部分に係合する外径を有し、外周部に軸線方向に貫通した複数の凹部83を備えている。
星型ナット77は、内周部のネジがロータ35のネジ63と螺合し、座金75を内輪74の他端側に押付けることで内輪74の他端側位置を規制する。
【0032】
スペーサ41は、鋼製で、略円筒形状をしている。
スペーサ41の内周面はロータ35の外周に係合している。
スペーサ41の外周面は、軸線方向の両端部が玉71,72の中心位置と略同一位置に位置し、軸線方向において中高になるように突出している。
スペーサ41は、軸線方向において中間位置が最も外側に突出し、そこから第一軸受37および第二軸受38に向けて内側に傾斜した傾斜面(流路)85が形成されていることになる。
なお、傾斜面85にフッ素樹脂、例えばPTEFをコーティングするようにしてもよい。こうすれば、グリースとの剥離性がよくなるので、グリースの流れが円滑となる。
ケーシング33には、スペーサ41の軸線方向中間位置に相当する位置において上部にグリースを供給するグリースニップル87が、下部にグリースを排出する部材を取付ける開口89が備えられている。
【0033】
中径部57には、大径中空部61と略同一軸線中心を有する中径中空部91が設けられている。
シールリング47は、特殊カーボン製で、管状をしている。シールリング47は中径中空部91の一端側に軸線方向に移動可能に嵌合し、ケーシング33に取り付けられたピン93によって軸線方向に案内されている。
シールリング47は、大径中空部61の方へ突出している。シールリング47の一端側端面は、平滑に形成されており、シートリング45の摺動面67に接触して封止部を形成している。
【0034】
シールリング47の他端側端部には、Oリング95がケーシング33の中径部57との間に装着されている。
Oリング95の他端側には、リング状のバネ受97が係合している。
バネ受97は、中径中空部91内に配置されたバネ49によって一端側に付勢され、Oリング95を圧縮する。
これにより、Oリング95を介してシールリング47は軸線方向に押圧され、シールリング47の摺動面67へ押付けられる。
【0035】
小径部59には、中径中空部91と略同一軸線中心を有する小径中空部99が貫通するように設けられている。
小径中空部99には、内管43の他端側が回転可能に支持されている。
内管43は、ステンレス製で、管状をしている。内管43は、ロータ35に一体的に支持されている。内管43の一端側には、連結管101が取り付けられている。
連結管101には、昇温ロール23内に位置するロール内管103がOリングを介して取り付けられている。
【0036】
小径部59の他端側端部には、供給管105が取付管107によって取り付けられている。
供給管105は図示しない熱媒体発生源と接続され、蒸気あるいは熱水あるいは加温された油を内管43、連結管101およびロール内管103を経由して昇温ロール23内に供給する。
中径部57には、中径空間部91に連通するように排出空間部109が設けられている。
排出空間部109は、ロータ35と内管43との間を通る昇温ロール23から流出する蒸気あるいは熱水あるいは加温された油の排出口として機能を奏する。
【0037】
次に、図6および図7も参照して潤滑シール51について説明する。
潤滑シール51は、リング状をし、内周部がロータ35の他端側に嵌合している。
潤滑シール51の外周部は、一端側に突出し、徐々に径が拡がるような空間111を形成している。この空間111を形成する潤滑シール51の一端側面が本発明の案内面113を構成している。
潤滑シール51の一端側端面115は、第二軸受38の外輪70に当接するように配置されている。
潤滑シール51の上部には、ピン穴117が設けられている。潤滑シール51は、ケーシング33を通してピン穴117に挿入されるピン119によって位置決めされる。
潤滑シール51の下部には、突出部を切り欠いた排出部121が設けられている。
【0038】
大径部55の一端側下部には、スクレーパ53が取り付けられている。
スクレーパ53は、板材であり、上部が第一軸受37の一端側に接するように取り付けられている。
スクレーパ53の一端側には、スクレーパ53に案内されたグリースを受けるグリース受125が取り付けられている。
グリース受123は、上下方向に延在して配設された案内板125と、案内板125の他端側下部に直交して取り付けられたコ字形断面のグリース受皿127とから構成されている。
案内板125は、スクレーパ53に略直交して取り付けられている。
グリース受皿127は、大径部55の軸線方向略全長にわたり設けられている。
【0039】
以上説明した本実施形態にかかるロータリージョイント1を用いた押出成形機3の動作について説明する。
成形材料である樹脂は、押出機5によって加熱および加圧され、可塑化される。押出機5は、この樹脂をさらに均質化し、所要量に計量し、昇圧させてダイ7へ送る。
ダイ7に送られた樹脂は、ダイ7のスリット形状に沿ったシート状に成形される。
このシート状の樹脂は、キャスティング9の大径ロールに沿って移動する間に、冷却された大径ロールによって急速に冷却され、固化される。
このようにして、原反シート21が形成される。
【0040】
原反シート21は、縦延伸機11に送られる。
昇温ロール23の軸部25に取り付けられたロータリージョイント1によって図示しない熱媒体発生源から蒸気あるいは熱水あるいは加温された油が昇温ロール23内部に供給され、昇温ロール23は百数十℃に維持されている。
原反シート21は、昇温ロール23の周面に接触して運ばれる間に加温され軟化する。
多数の昇温ロール23は、原反シート21の流れ方向下流側に行くほど、周速が早くなるように制御されているので、軟化した原反シート21は下流側の昇温ロールに順次引っ張られ、流れ方向に延伸される。
縦延伸機11は、このようにして原反シート21をその進行方向に延伸、例えば、数倍に延ばしフィルム31とする。
【0041】
縦延伸機11で進行方向に延伸されたフィルム31は、横延伸機13に送られる。
フィルム31は、両端部をグリップによって保持されて搬送される。
フィルム31は、加熱手段によって、例えば、百数十℃まで加温される。次いで、フィルム31はグリップがテンターレールに沿って横方向に移動することによって横方向に延伸、例えば3倍幅に延ばされる。
このフィルム31は、引取機15によって、所要幅になるように両端部(耳部)を切断され、厚み計29によって厚みを測定され、さらに表面処理等を行なわれる。
フィルム31は、巻取機17のロールに巻き取られる。
【0042】
次に、縦延伸機11の昇温ロール23におけるロータリージョイント1の動作について説明する。
ロータ35に固定したフランジ39が、昇温ロール23の軸部25の端面にボルト止めされているので、ロータ35および内管43は昇温ロール23と同一角速度で回転する。
ケーシング33は、ロータ35を回転自在に支持しているので、ロータ35の回転に拘わらず固定されている。また、ケーシング33に取り付けられたシールリング47、スクレーパ53およびグリース受123等も固定した位置に留まる。
【0043】
供給管105によって図示しない熱媒体発生源から供給された蒸気あるいは熱水あるいは加温された油は、内管43を通って、連結管101およびロール内管103を経由して昇温ロール23の内部空間に導入される。
導入された蒸気あるいは熱水あるいは加温された油は、昇温ロール23を加温した後、ロータ35と内管43との間を通り、排出空間部109から系外に排出される。
シールリング47の一端側端面は、バネ49によってロータ35の他端側端部に取り付けられたシールリング45の回転する摺動面67に押付けられている。これにより、シールリング47およびシートリング45は、第一軸受37等が位置する大径中空部61とロータ35の内部空間とを封止し、ロータ35内を通る蒸気あるいは熱水あるいは加温された油がこの大径中空部61へ進入するのを防止している。
【0044】
第一軸受37および第二軸受38を潤滑するため、例えば、リチウムコンプレックス系のグリースが用いられている。グリースは第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間と第一軸受37および第二軸受38とに充填されている。
このグリースは、第一軸受37および第二軸受38の内輪73,74とスペーサ41との回転に伴い、流動化し、第一軸受37および第二軸受38の潤滑を行う。
この時、第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間で流動化したグリースは、傾斜面85に沿って流れ、第一軸受37あるいは第二軸受38に供給される。
【0045】
このように、スペーサ41が軸線方向において中高に形成され、かつ、最も径の小さい軸線方向における両端部が玉71,72の中心位置よりも外側に位置しているので、第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間は、従来のスペーサに比べて格段に小さくなっている。
この空間が小さくなると、ここに滞留するグリースの量は少なくなるので、滞留する期間が短くなる。このため、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性を大幅に低減することができる。
【0046】
また、グリースは、傾斜面85に沿って流れるので、流動化したグリースが軸受に向けて流れ易くなる。これにより、グリースは流動化した状態と半固体の状態との繰り返しが少なくなるので、劣化が進展して固化に到る可能性を一層低減することができる。
さらに、スペーサ41の傾斜面85にPTFEでコーティングしている場合には、グリースとの剥離性がよいので、グリースの滞留が一層少なくなり、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性をさらに一層低減することができる。
【0047】
流動化したグリースは、第二軸受38の他端側から流出する。この流出したグリースは潤滑シール51の案内面113に案内されて下方へ移動し、排出部121からグリース受皿127へ排出される。
このように、グリースは潤滑シート51によって滞留させられることがないので、この部分でも劣化が進み固化することを防止できる。
【0048】
また、ロータ35の他端部に設けられた潤滑シート51が第二軸受38から流出したグリースを封止し、系外へ排出するので、グリースはシールリング47の方へ流出しなくなる。
このため、グリースはシールリング47とシートリング45との間に存在しなくなるので、ここで固化してシールリング47を他端側へ押圧する事態を防止できる。
これにより、シールリング47とシートリング45とのシールが破れ、高温の流体が第二軸受38の方へ流れ込むことを防止することができる。
【0049】
流動化したグリースは、第一軸受37の一端側から流出する。
このように、一端側の軸受からケーシング外に流出するグリースはスクレーパ53および案内板125に案内され、下方に移動し、グリース受皿127へ排出される。
このため、ケーシング33の外部にグリースが固化することはないので、見栄えが改善されるし、第一軸受37がロックする事態を防止できる。
【0050】
グリースの選定について説明する。
表1に示す4種の耐熱性のグリースについて、耐熱試験を行なった。耐熱試験は、グリースを150℃に維持し、その時の粘度変化を調べた。
【表1】
【0051】
耐熱試験の結果を図9に示す。図9には、実機において事故が発生した時のグリースの粘度(1.5×106Pa・S)を比較のために記載している。
これをみると、シェルスタミナRL2は、事故が起きた時の粘度に漸近しており、不適合と判定される。
その他の3種については、粘度はシェルスタミナRL2に比べて十分の一以下であり、十分使用できる。
その中で、マルテンプET−100Kは、当初粘度が一番低いのに、途中から急に上昇し、長期使用に問題がある。これは、酸化劣化によって、ちょう度(粘度)が変化し、硬化、軟化、硬化の過程を経て固化にいたるものと推定される。
【0052】
また、NOXLUBについても、マルテンプET−100K程ではないが、途中から粘度の上昇速度が大きくなり、略2300時間のところで、粘度はダフニーエポネックスSR2よりも大きくなり、時間が経つに連れてその差が大きくなっている。
これは、増ちょう剤として用いているフッ素は基油を蒸発させ易い性質があり、この影響で時間が経過するに連れて基油が蒸発して粘度が上昇していくものと推定される。また、フッ素グリースは高価である。
したがって、長期使用という観点からは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いているダフニーエポネックスSR2が最も好ましいという結果となった。
【0053】
実機に従来用いられていたシェルスタミナRL2と耐熱試験の結果が良好であったダフニーエポネックスSR2とについて、潤滑性能を試験した。試験は、SRV試験機によるものと、高速四球式試験機によるものの2種類をおこなった。
SRV試験機では、80℃の雰囲気で、30秒ごとに50Nずつ荷重を増加させるステップ荷重をかけ、焼付荷重を測定した。
高速四球式試験機は、実機に即して、1800rpmの高速回転で、融着荷重を測定した。
その結果を図10に示す。これを見ると、ダフニーエポネックスSR2の耐焼付荷重は、シェルスタミナRL2のそれに比べて略2倍位大きくなっており、潤滑性能にも優れていることが判明した。
【0054】
このように、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いているグリースは、劣化に伴う粘度上昇が少ない。このグリースを第一軸受37および第二軸受38の潤滑に用いた場合、グリースが劣化し固化するまでの時間に余裕ができるので、グリースが固化する恐れを防止することができる。
また、潤滑性能を向上させることができる。
【0055】
なお、本実施形態では、スペーサ41は一体構造としているが、これに限定されるものではなく、例えば、図11に示すように、スペーサ部129とスペーサ部の外側に配置されたグリース供給部131とに分割されていてもよい。
スペーサ部129は、金属製、例えば鋼製で、第一軸受37および第二軸受38間の間隔を規定する。
グリース供給部131は、第一軸受37、第二軸受38、スペーサ41およびケーシング33で形成される空間を縮小させるとともに第一軸受37および第二軸受38へグリースを供給する。グリース供給部131は、例えば、PTFE製とし、グリースとの剥離性を向上させている。
このようにすると、スペーサ部129およびグリース供給部131はそれぞれ適切な形状、材料で形成することができるので、設計の自由度を向上させることができる。
【0056】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態について、図12〜図14を用いて説明する。
本実施形態では、第一実施形態と基本的構成は同様であり、スペーサ41の構成が異なっている。よって、本実施形態においては、この相違点について説明し、その他の部分については重複した説明を省略する。
なお、第一実施形態と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0057】
本実施形態では、スペーサ41は、スペーサ部133とグリース供給部135とで構成されている。
スペーサ部133は、鋼製の円筒であり、第一軸受37および第二軸受38間の間隔を強固に保持する。
グリース供給部135は、PTFE製の円筒であり、スペーサ部133の外周に隙間を空けて取り付けられている。グリース供給部135は、大径部55に回転しないように保持されている。
グリース供給部135の外径は、大径中空部61の内径と略同一であるので、スペーサ41は、第一軸受37と第二軸受38との間の空間をほぼ占有している。
【0058】
グリース供給部135の外周には、軸線方向の略中間位置に潤滑溝137が周囲を囲繞するように設けられている。潤滑溝137は、グリースニップル87およびグリースを排出する部材を取付ける開口89に対応する位置に設けられている。
潤滑溝137の底部には、内側に向けた複数、例えば6個のグリース供給穴139が周方向に略等間隔に設けられている。
グリース供給穴139の底部分には、第一軸受37側へ連通するグリース供給小穴141あるいは第二軸受38側へ連通するグリース供給小穴143が設けられている。
グリース供給小穴141およびグリース供給小穴143は、周方向に交互に設けられている。
潤滑溝137、グリース供給穴139およびグリース供給小穴141,143が、本発明の流路を構成している。
【0059】
このように構成された本実施形態にかかるロータリージョイント1の動作について説明する。
ロータリージョイント1の動作については、第一実施形態と同様であるので重複した説明を省略し、スペーサ41の動作について説明する。
グリースニップル87から潤滑溝137へグリースが供給される。このグリースは、潤滑溝137から、各グリース供給穴139に流れる。
そして、グリースは各グリース供給穴139からグリース供給小穴141あるいはグリース供給小穴143を通って、第一軸受37あるいは第二軸受38に供給される。
【0060】
このように、スペーサ41は、第一軸受37と第二軸受38との間の空間をほぼ占有し、グリースはグリース供給部135の潤滑溝137、グリース供給穴139およびグリース供給小穴141,143の部分にしか存在しない。したがって、第一軸受37と第二軸受38との間に滞留するグリースは、前述の第一実施形態に比べて一層少なくなるので、グリースが滞留する期間が短くなり、グリースの劣化が進展して固化に到る可能性を一層大幅に低減することができる。
また、これ以外の作用・効果については前述の第一実施形態と同様であるので、ここでは重複した説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる押出成形機の全体概略構成を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態にかかる縦延伸機を示す正面図である。
【図3】本発明の第一実施形態にかかるロータリージョイントの取付状況を示す斜視図である。
【図4】本発明の第一実施形態にかかるロータリージョイントの全体概略構成を示す縦断面図である。
【図5】本発明の第一実施形態にかかるロータの端部構造の組立状況を示す斜視図である。
【図6】本発明の第一実施形態にかかる潤滑シールを示す正面図である。
【図7】図6のX−X断面図である。
【図8】図4のY−Y視図である。
【図9】グリースの耐熱試験の結果を示すグラフ図である。
【図10】グリースの潤滑性能試験の結果を示すグラフである。
【図11】本発明の第一実施形態にかかるスペーサの別の実施形態を示す断面図である。
【図12】本発明の第二実施形態にかかるロータリージョイントの全体概略構成を示す縦断面図である。
【図13】本発明の第二実施形態にかかるグリース供給部を示す正面図である。
【図14】図13のZ−Z断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 ロータリージョイント
33 ケーシング
35 ロータ
37 第一軸受
38 第二軸受
41 スペーサ
43 内管
45 シートリング
47 シールリング
49 バネ
51 潤滑シール
53 スクレーパ
69,70 外輪
71,72 玉
85 傾斜面
113 案内面
129,133 スペーサ部
131,135 グリース供給部
137 潤滑溝
139 グリース供給穴
141,143 グリース供給小穴
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側へ開放された開放空間を有するケーシングと、
他端側端部が前記開放空間内に位置し、前記ケーシングから突出して配置された管状のロータと、
該ロータを前記ケーシングに対して回転自在に支持する一対の軸受と、
該一対の軸受の間に装着され、これらの間に間隔を設けるスペーサと、
前記ロータの内側を貫通するように前記ケーシングに取り付けられた管状の内管と、
前記ロータの他端側端部に取り付けられたシートリングと、
前記ロータの他端側位置に前記ケーシングに対して軸線方向に移動可能に取り付けられ、前記シートリングと協働して前記開放空間と前記ロータの内部とを封止するシールリングと、
該シールリングを前記シートリングに向けて押圧付勢するバネと、
が備えられたロータリージョイントであって、
前記スペーサは、その外側位置が少なくとも前記軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置し、前記各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられていることを特徴とするロータリージョイント。
【請求項2】
前記スペーサは、軸線方向に中高な形状とされ、外側表面が前記流路を構成していることを特徴とする請求項1に記載のロータリージョイント。
【請求項3】
前記スペーサの前記グリースと接触する部分は、フッ素樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のロータリージョイント。
【請求項4】
前記スペーサは、内側に配置され前記一対の軸受間の間隔を規定するスペーサ部と、該スペーサ部の外側に配置され前記グリースを前記各軸受に供給するグリース供給部とで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のロータリージョイント。
【請求項5】
他端側の前記軸受と前記シールリングとの間に、前記ロータの周囲を覆うように構成されたシール部材を設けていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のロータリージョイント。
【請求項6】
前記シール部材は、前記ロータ側にグリースを案内する案内面を備えていることを特徴とする請求項5に記載のロータリージョイント。
【請求項7】
前記グリースは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のロータリージョイント。
【請求項1】
一端側へ開放された開放空間を有するケーシングと、
他端側端部が前記開放空間内に位置し、前記ケーシングから突出して配置された管状のロータと、
該ロータを前記ケーシングに対して回転自在に支持する一対の軸受と、
該一対の軸受の間に装着され、これらの間に間隔を設けるスペーサと、
前記ロータの内側を貫通するように前記ケーシングに取り付けられた管状の内管と、
前記ロータの他端側端部に取り付けられたシートリングと、
前記ロータの他端側位置に前記ケーシングに対して軸線方向に移動可能に取り付けられ、前記シートリングと協働して前記開放空間と前記ロータの内部とを封止するシールリングと、
該シールリングを前記シートリングに向けて押圧付勢するバネと、
が備えられたロータリージョイントであって、
前記スペーサは、その外側位置が少なくとも前記軸受の転動体の中心位置よりも外側に位置し、前記各軸受に向けてグリースを流す流路が設けられていることを特徴とするロータリージョイント。
【請求項2】
前記スペーサは、軸線方向に中高な形状とされ、外側表面が前記流路を構成していることを特徴とする請求項1に記載のロータリージョイント。
【請求項3】
前記スペーサの前記グリースと接触する部分は、フッ素樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のロータリージョイント。
【請求項4】
前記スペーサは、内側に配置され前記一対の軸受間の間隔を規定するスペーサ部と、該スペーサ部の外側に配置され前記グリースを前記各軸受に供給するグリース供給部とで構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のロータリージョイント。
【請求項5】
他端側の前記軸受と前記シールリングとの間に、前記ロータの周囲を覆うように構成されたシール部材を設けていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のロータリージョイント。
【請求項6】
前記シール部材は、前記ロータ側にグリースを案内する案内面を備えていることを特徴とする請求項5に記載のロータリージョイント。
【請求項7】
前記グリースは、増ちょう剤としてリチウムコンプレックスを用いていることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載のロータリージョイント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2007−120694(P2007−120694A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−316043(P2005−316043)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(505406154)株式会社昭和技研工業 (1)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(505406154)株式会社昭和技研工業 (1)
【Fターム(参考)】
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