説明

ロープ

【課題】従来の石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維だけにて構成されたロープでは無く、バイオマス由来ポリマーからなる繊維を、ロープの少なくとも一部に用いることで、二酸化炭素発生量を低減し、かつバイオマス由来ポリマーよりなる繊維が石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維と比較して劣る強度を補うことができるロープを提供する。
【解決手段】複数本のストランド2が撚り合わされるかまたは組み合わされた構成のロープである。各ストランド2は、鞘ヤーン6と芯ヤーン5との二層構造を呈する。鞘ヤーン6の少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されているか、または芯ヤーン5の少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はロープに関し、特に複数本のストランドにて構成されたロープに関する。
【背景技術】
【0002】
従来一般的に使用されているロープには撚りロープやクロスロープ等があり、これらのロープは、従来公知の方法で構成されており、土木用途、建築用途、船舶係留用途等に幅広く使用されている。
【0003】
ロープの使用上における要求性能として、強度、耐摩耗性、クリープ性能等が挙げられる。これらの要求性能を満足するために、ロープに使用される合成繊維には、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチレン系等の汎用合成繊維や、いわゆるスーパー繊維などがある(特許文献1)。
【0004】
ところで、これらの合成繊維は、その大部分が石油などの限りある貴重な化石資源を原料としているが、近年、化石資源は、その資源不足が懸念されるだけでなく、二酸化炭素発生量についても社会に大きな影響を与えている。二酸化炭素の固定化は地球温暖化防止に効果があることが期待され、特に二酸化炭素の削減目標値を課した京都議定書に対し、二酸化炭素固定化物質は非常に注目度が高く、特に二酸化炭素固定化物質としてのバイオマス由来物質の積極的な使用が望まれている。バイオマス由来の合成繊維や合成樹脂を燃焼させた際に出る二酸化炭素は、もともと空気中にあったもので、大気中の二酸化炭素は増加しない。このことをカーボンニュートラルと称し、重要視する傾向となっている。
【0005】
しかしながら、バイオマス由来の合成繊維の多くは、強度が従来の石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維よりも劣っている。また、染色等の湿熱処理による重合度の低下が大きく、これによっても強度の低下が生じるという問題点がある。
【特許文献1】特開2004−211223号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような現状に鑑みてなされたもので、従来の石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維だけにて構成されたロープでは無く、バイオマス由来ポリマーからなる繊維を、ロープの少なくとも一部に用いることで、二酸化炭素発生量を低減し、かつバイオマス由来ポリマーよりなる繊維が石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維と比較して劣る強度等を補うことができるロープを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討した結果、ロープの少なくとも一部にバイオマス由来ポリマーよりなる繊維を用いたものであると、その強度等が石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維だけにて構成されたロープと実質的に同レベルである事実を見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明における課題を解決するための手段は、下記の通りである。
1.複数本のストランドが撚り合わされるかまたは組み合わされた構成のロープであって、各ストランドが鞘ヤーンと芯ヤーンとの二層構造を呈しており、前記鞘ヤーンの少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とするロープ。
【0009】
2.芯ヤーンが石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とする1.のロープ。
【0010】
3.中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されていることを特徴とする1.または2.のロープ。
【0011】
4.中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されているロープであって、前記ストランドの少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなるヤーンにて構成されていることを特徴とするロープ。
【0012】
5.繊維心が石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とする4.のロープ。
【0013】
6.複数本のストランドが撚り合わされるかまたは組み合わされた構成のロープであって、各ストランドが鞘ヤーンと芯ヤーンとの二層構造を呈しており、前記芯ヤーンの少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とするロープ。
【0014】
7.鞘ヤーンが石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とする6.のロープ。
【0015】
8.中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されていることを特徴とする6.または7.のロープ。
【0016】
9.中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されているロープであって、前記繊維心の少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とするロープ。
【0017】
10.各ストランドが石油系由来の汎用ポリマーからなるヤーンにて構成されていることを特徴とする9.のロープ。
【0018】
11.バイオマス由来のポリマーがポリ乳酸であることを特徴とする1.から10.までのいずれかのロープ。
【0019】
12.石油系由来の汎用ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする2.、3.、5.、7.、8.、10.、11.のいずれかのロープ。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来の石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維だけで構成されたロープでは無く、バイオマス由来ポリマーよりなる繊維を、ロープの断面における表面部のみに配したものであるため、二酸化炭素発生量を低減し、かつ石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維と比較してバイオマス由来ポリマーよりなる繊維が劣る強度を補うことができるロープを提供することができる。
【0021】
また本発明によれば、従来の石油系由来の汎用ポリマーなる繊維だけからなるロープでは無く、バイオマス由来ポリマーよりなる繊維を、ロープの断面における内側部のみに配したものであるため、二酸化炭素発生量を低減し、かつ石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維と比較してバイオマス由来ポリマーよりなる繊維が劣る耐摩耗性を補うことができるロープを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1に示すように、本発明のロープ1は複数本のストランド2から構成されており、各ストランド2は複数のヤーンを撚り合わせるか、または組み合わせることによって構成されている。ロープ1の構成の具体例としては、二つ撚りロープ、三つ撚りロープ、四つ撚りロープなどが挙げられるが、本発明はこれらに限定するものではない。たとえば、いわゆるクロスロープとすることも可能である。
【0023】
各ストランド2は、芯部3を形成する芯ヤーンと、鞘部4を形成する鞘ヤーンとから構成され、たとえば、図2に示すように、芯部3を形成する複数の芯ヤーン5の周囲が、鞘部4を形成する複数の鞘ヤーン6によって覆われている二層構造を呈する。各芯ヤーン5および各鞘ヤーン6は、単体の繊維もしくは複数本の繊維を合撚したもので構成される。
【0024】
本発明のロープ1は、十分な強度を発揮させる場合は、図1および図2に示すように、芯ヤーン5を構成する繊維に石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維を用い、また鞘ヤーン6の少なくとも一部に、バイオマス由来のポリマーよりなる繊維を用いる。
【0025】
図1および図2に示すストランド2を構成する芯ヤーン5と鞘ヤーン6とにおける、バイオマス由来のポリマーと石油系由来の汎用ポリマーとの比率は、質量比で2:8〜8:2であることが好ましく、特に好ましくは4:6〜6:4である。バイオマス由来のポリマーの比率が2未満以下となると、本発明の効果、すなわち燃焼させた際の二酸化炭素発生量の低減効果が得られにくくなり、またバイオマス由来のポリマーの比率が8を超えると、ロープの破断強力の低下に繋がる。
【0026】
また、図1および図2に示した構成以外に、図3に示すように、ロープ1の中心部に繊維心(心綱)7を配するとともに、繊維心7の周囲に複数のストランド2を配した構成とすることも可能である。繊維心7は、単体の繊維、もしくは複数本の繊維を合撚したものであっても良い。繊維心7に用いる繊維は、バイオマス由来のポリマーよりなる繊維と石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維とのどちらでもよい。
【0027】
図3の構成に代えて、図4に示すように、繊維心7に石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維を配するとともに、この繊維心7の周囲に配される複数のストランド2を構成する全てのヤーン8の繊維がバイオマス由来のポリマーよりなる繊維であるようにすることにより、ロープ1の全体が芯部(繊維心7)と鞘部(ストランド2)とで構成された二層構造であるようにすることも可能である。この時の芯部(繊維心7)と鞘部(ストランド2)との比率は、上述の場合と同様に、質量比で、2:8〜8:2であることが好ましく、特に好ましくは4:6〜6:4である。その理由は、上記の場合と同様である。
【0028】
図5および図6に示すように、本発明の別の態様のロープ11として、このロープ11に十分な耐摩耗性を発揮させる場合は、ストランド12の芯部13を形成する複数の芯ヤーン15の少なくとも一部に、バイオマス由来のポリマーよりなる繊維を用い、またストランド12の鞘部14を構成する繊維に石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維を用いる。
【0029】
図5および図6に示すストランド12を構成する芯ヤーン15と鞘ヤーン16とにおける、バイオマス由来のポリマーと石油系由来の汎用ポリマーとの比率は、質量比で2:8〜8:2であることが好ましく、特に好ましくは4:6〜6:4である。バイオマス由来のポリマーの比率が2未満以下となると、本発明の効果、すなわち燃焼させた際の二酸化炭素発生量の低減効果が得られにくくなり、またバイオマス由来のポリマーの比率が8を超えると、耐摩耗性を発揮させる効果が得られにくくなる。
【0030】
この場合も、同様に、図5および図6に示した構成以外に、図7に示すように、ロープ11の中心部に繊維心(心綱)17を配するとともに、繊維心17の周囲に複数のストランド12を配した構成とすることも可能である。繊維心17は、単体の繊維、もしくは複数本の繊維を合撚したものであっても良い。繊維心17に用いる繊維は、バイオマス由来のポリマーよりなる繊維と石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維とのどちらでもよい。
【0031】
図7の構成に代えて、図8に示すように、繊維心17にバイオマス由来のポリマーよりなる繊維を配するとともに、この繊維心17の周囲に配される複数のストランド12を構成する全てのヤーン18の繊維が石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維であるようにすることにより、ロープ11の全体が芯部(繊維心17)と鞘部(ストランド12)とで構成された二層構造であるようにすることも可能である。この時の芯部(繊維心17)と鞘部(ストランド12)との比率は、上述の場合と同様に、質量比で、2:8〜8:2であることが好ましく、特に好ましくは4:6〜6:4である。その理由は、上記の場合と同様である。
【0032】
次に本発明のロープにおいて使用される繊維について説明する。本発明で用いられる石油系由来の汎用ポリマーよりなる繊維は、溶融紡糸が可能であるものであれば良く、特に制限するものではない。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートに代表されるポリエステル;ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン11およびナイロン12に代表されるポリアミド;ポリプロピレンやポリエチレンに代表されるポリオレフィン;ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンに代表されるポリ塩化ポリマー;ポリ4フッ化エチレンならびにその共重合体、ポリフッ化ビニリデンなどに代表されるフッ素系繊維などが挙げられる。なかでも、低コストであるポリエステル系のものがよい。
【0033】
ポリエステル系ポリマーには、その粘度、熱的特性の点から、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸;アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオール;グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸;ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等を共重合していてもよい。
【0034】
本発明で用いられるバイオマス由来のポリマーよりなる繊維も、溶融紡糸が可能であるものであれば良く、特に制限されるものではない。具体的には、PLA(ポリ乳酸)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBS(ポリブチレンサクシネート)などバイオマスモノマーを化学的に重合してなるポリマー類や、ポリヒドロキシ酪酸等のPHA(ポリヒドロキシアルカノエート)などの微生物産生系のものを挙げることができる。なかでも、熱的に安定であるために耐熱性を有し、かつ比較的量産化されてきているポリ乳酸が良い。
【0035】
ポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸またはポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体が好ましい。
【0036】
ポリ乳酸には、上記のようにL−乳酸とD−乳酸が単独で用いられているものや、両者が併用されているものもあるが、なかでも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であるものが、耐熱性の観点から好適である。すなわち、複数本のストランドが撚り合わされるか、または組み合わされたロープは、使用中に緩みが発生しないように、製造工程において、高周波や乾熱や湿熱でセットされる工程を通過することが通例である。このセット工程は、繊維物性を低下させない範囲の高温で行われるため、繊維に上記のような耐熱性を付与することが好適である。またロープとして使用される際に壁やコンクリート等と接触して発生する摩擦熱による損傷を受けにくくするためにも、繊維に上記のような耐熱性を付与することが好適である。
【0037】
ポリ乳酸のホモポリマーであるL−乳酸やD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合は、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、その融点はおよそ130℃程度となる。
【0038】
さらに、共重合体において、D−乳酸とL−乳酸とのいずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られ難くなるという問題が生じたり、たとえ繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなるという問題が生じたりする。そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有比(モル比)であるL/DまたはD/Lが、82以上/18以下であるものが好ましく、中でも90以上/10以下、さらには95以上/15以下であるものが好ましい。
【0039】
ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体である場合において、ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。中でもヒドロキシカプロン酸またはグリコール酸を用いることが、コスト面から好ましい。ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。このようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸は、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となって、結晶性が低くなりやすい。
【0040】
ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられる、ASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重21.2N(2160g)で測定したメルトフローレートが、1〜100[g/10分]であることが好ましく、より好ましくは5〜50[g/10分]である。メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度、湿熱分解性、耐摩耗性が向上する。また、ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0041】
上述のように、鞘ヤーン6や芯ヤーン15は、その少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されていることが必要であるが、その残部を構成する繊維としては、既述の石油系由来の汎用ポリマーを用いることができる。用いる方法としては、芯鞘複合繊維やサイドバイサイド複合繊維のような複合繊維として用いる方法や、バイオマス由来の繊維と共撚して用いる方法などが挙げられる。
【0042】
上述の石油系由来の汎用ポリマーおよびバイオマス由来のポリマーには、必要に応じて、充填剤、増粘剤、結晶核剤などとして効果を示す公知の各種添加剤を添加することができる。具体的には、カーボンブラック、炭酸カルシウム、酸化ケイ素およびケイ酸塩、亜鉛華、ハイサイトクレー、カオリン、塩基性炭酸マグネシウム、マイカ、タルク、石英粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素、ベヘン酸アミド等の脂肪族アミド系化合物、脂肪族尿素系化合物、ベンジリデンソルビトール系化合物、架橋高分子ポリスチレン、ロジン系金属塩、ガラス繊維、ウィスカー等があげられる。これらは、そのまま添加してもよいし、ナノコンポジットとするために必要な処理の後に添加することもできる。低価格性や良好な物性バランスを達成するためには、無機の充填剤の配合が好ましい。また、結晶核剤を配合することが好ましい。
【0043】
さらに、石油系由来の汎用ポリマーおよびバイオマス由来のポリマーには、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じて、顔料、染料などの着色剤;活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤;バニリン、デキストリン等の香料;酸化防止剤、紫外線吸収剤などの安定剤;滑剤;離型剤;撥水剤;抗菌剤;艶消剤;耐光剤;耐候剤;抗菌剤;界面活性剤;難燃剤;表面改質剤;各種無機および有機電解質や、その他の副次的添加剤を配合することができる。
【0044】
石油系由来の汎用ポリマーおよびバイオマス由来のポリマーには、本発明の効果を阻害しない範囲で可塑剤を併用することも可能である。可塑剤を使用することで、加熱加工時、特に押出加工時の溶融粘度を低下させて、剪断発熱等による分子量の低下を抑制することが可能である。かつ、場合によっては結晶化速度の向上も期待できる。可塑剤としては、特に限定は無いが、以下のものを例示できる。たとえば、バイオマス由来のポリマーが脂肪族ポリエステル系の生分解性ポリエステルである場合には、可塑剤として、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤、フタル酸系可塑剤、リン系可塑剤などが好ましく、ポリエステルとの相溶性に優れる点から、エーテル系可塑剤、エステル系可塑剤がより好ましい。エーテル系可塑剤としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール等を挙げることができる。エステル系可塑剤としては、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族アルコールとのエステル類等を挙げることができる。このうち、脂肪族ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、コハク酸、セバシン酸、アジピン酸等を挙げることができる。脂肪族アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ヘキサノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、n−ドデカノール、ステアリルアルコール等の一価アルコール;エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、3−ブタンジオール、1、5−ペンタンジオール、1、6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール等の二価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリストール等の多価アルコールを挙げることができる。また、上記エーテル系可塑剤とエステル系可塑剤との2種以上の組み合わせからなる共重合体や、ジ−コポリマー、トリ−コポリマー、テトラ−コポリマーなど、またはこれらのホモポリマー、コポリマー等から選ばれる2種以上のブレンド物が挙げられる。さらにエステル化されたヒドロキシカルボン酸等も挙げられる。上記可塑剤は、少なくとも1種用いることができる。
【実施例】
【0045】
次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例および比較例における各種の値の測定および評価は、次のようにして行った。
【0046】
(1)引張強伸度
JIS L−1013に従い、島津製作所社製オートグラフAG−I型を用い、試料長25cm、引張速度30cm/分で測定した。
【0047】
(2)耐摩耗性
ベルト摩耗試験機にて、JIS D4604「自動車部品シートベルト」の耐摩耗性試験に準じ、荷重1.96N(200g)、ストローク長330±30mm、SIANOR#1600のサンドペーパーを巻きつけた六角棒(角の半径0.5±0.1mm、二面幅は6.35±0.03mm)に85±2度の角度で接触させ、ストローク速度30±1回/minの速度条件で往復摩擦させ、ロープが破断に至るまでの摩擦回数を測定した。
【0048】
(実施例1)
ポリ乳酸(以下、「PLA」と略称する)として、L−乳酸/D−乳酸の比率がモル比で99/1であり、メルトフローレートが7g/10分であり、融点が168℃であり、融解熱が38J/gである、ポリL/D乳酸(ネイチャーワークス社製)を用いた。これを200℃で紡出し、延伸することで、繊維化した。
【0049】
ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略称する)として、フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として濃度0.5g/デシリットル、温度20℃での極限粘度が1.05のエチレンジオールとテレフタル酸との重合物を用いた。これを290℃で紡出し、延伸することで、繊維化した。
【0050】
1100dtex/192フィラメントのPETマルチフィラメント3本を、撚数S−120T/Mで合撚して芯ヤーンを形成し、この芯ヤーン10本を撚数S−100T/Mで合撚して芯部を得た。次いで、1100dtex/140フィラメントのPLA繊維3本を、撚数S−120T/Mで合撚して鞘ヤーンを形成し、この鞘ヤーン10本を用いて芯ヤーンの周囲を撚数S−100T/Mで覆い、ストランドを得た。このストランドを撚数Z−40T/Mで3本合撚することによって、外径5mmの実施例1のロープを得た。
【0051】
(実施例2)
実施例1と同じPLA、PETを用いた。そして、1100dtex/192フィラメントのPETマルチフィラメント3本を、撚数S−120T/Mで合撚してヤーンを形成し、このヤーン12本を撚数S−100T/Mで合撚して繊維心を得た。次いで1100dtex/140フィラメントのPLAマルチフィラメント2本を撚数S−120T/Mで合撚してヤーンを形成し、このヤーン4本を撚数S−100T/Mで合撚してストランドを得た。このストランド3本を用いて繊維心の周囲を撚数Z−40T/Mで覆うことによって、外径5mmの実施例2のロープを得た。
【0052】
(実施例3)
芯ヤーンのマルチフィラメントを形成するポリマーとして、実施例1のPETに代えて実施例1と同じPLAを使用した。そして、それ以外は実施例1と同様にして、外径5mmの実施例3のロープを得た。
【0053】
(実施例4)
実施例1と同じPLAを用いた。また、PETとして、実施例1のPETに融点217℃のイソフタル酸を15モル%共重合したものを用いた。そして、それぞれのポリマーのチップを減圧乾燥した後に、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給し、PETを芯部に配するとともにPLAを鞘部に配し、複合比が質量比で50/50となるようにして、240℃で溶融紡糸を行った。続いて、得られた複合繊維100dtex/96フィラメントを、撚数S−120T/Mで合撚して芯ヤーンを形成し、この芯ヤーン10本を撚数S−100T/Mで合撚して芯部を得た。次いで、上記の複合繊維3本を撚数120T/Mで合撚して鞘ヤーンを形成し、この鞘ヤーン10本を用いて芯部の周囲を撚数S−100T/Mで覆い、ストランドを得た。このストランドを撚数Z−40T/Mで3本合撚することにより、外径5mmの実施例4のロープを得た。
【0054】
(実施例5)
実施例1と同じPLAを用いてPLA繊維1100dtex/140フィラメントを3本用意し、これを撚数S−120T/Mで合撚して芯ヤーンを形成し、この芯ヤーン10本を撚数S−100T/Mで合撚して芯部を得た。そして、この芯部の周囲を、実施例1で得られたストランドにて20T/Mで6本合撚することにより、実施例5のロープを得た。
【0055】
(実施例6)
実施例1と同じPETを用いてPET繊維100dtex/192フィラメントを3本用意し、これを撚数S−120T/Mで合撚して芯ヤーンを形成し、この芯ヤーン10本を撚数S−100T/Mで合撚して芯部を得た。
【0056】
また、実施例1と同じPLAを用いて、1100dtexのPLA繊維3本を撚数S−120T/Mで合撚して芯ヤーンを形成し、この芯ヤーン10本を撚数S−100T/Mで合撚して芯部を得た。次いで、1100dtex/192フィラメントのPETマルチフィラメント3本を撚数S−120T/Mで合撚して鞘ヤーンを形成し、この鞘ヤーン10本によって、芯ヤーンの周囲を撚数S−100T/Mで覆い、ストランドを得た。
【0057】
上記のPET繊維にて構成された芯部の周囲を、上記のPLA繊維にて構成されたストランドにて20T/Mで6本合撚することにより、実施例6のロープを得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同じPETを用いて、1100dtex/192フィラメントのPETマルチフィラメント6本を、撚数S−120T/Mで合撚してヤーンを形成し、このヤーン10本を撚数S−100T/Mで合撚してストランドを得た。これによって得たストランドを撚数Z−40T/Mで3本合撚することによって、外径5mmの比較例1のロープを得た。
【0059】
実施例1〜6および比較例1のロープの特性値を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1に示すように、実施例1〜4のロープの強力は、比較例1のロープの強力には劣るものの、ある程度のレベルを有するものであった。実施例5および実施例6のロープの強力は、比較例1のロープの強力よりも優れたものであった。比較例1のロープは、ロープ強力は優れているものの、PLAを含まないことから、燃焼させた際の二酸化炭素発生量の低減効果が得られにくく、本発明の効果を発揮しないものであった。
【0062】
以上を踏まえて、実施例1〜6のロープは、本発明の効果を十分に発揮するものであった。
【0063】
(実施例7)
実施例6で得たストランドを撚数Z−40T/Mで3本合撚することによって、外径5mmの実施例7のロープを得た。
【0064】
(実施例8)
実施例1と同じPLA、PETを用いた。そして、1100dtexのPLA繊維2本を撚数S−120T/Mで合撚してヤーンを形成し、このヤーン12本を撚数S−100T/Mで合撚して繊維心を得た。次いで1100dtexのPET繊維2本を撚数S−120T/Mで合撚してヤーンを形成し、このヤーン6本を撚数S−100T/Mで合撚してストランドを得た。このストランド3本を用いて繊維心の周囲を撚数Z−40T/Mで覆うことによって、外径5mmの実施例8のロープを得た。
【0065】
(実施例9)
実施例1と同じPLA、PETを用いた。そして、1100dtexのPLA繊維6本を撚数S−120T/Mで合撚して芯ヤーンを形成し、この芯ヤーン9本を撚数S−100T/Mで合撚して芯部を得た。次いで、1100dtexのPET繊維を単体で撚数S−120T/Mで撚糸して鞘ヤーンを形成し、この鞘ヤーン6本を用いて芯ヤーンの周囲を撚数S−100T/Mで覆い、ストランドを得た。このストランドを撚数Z−40T/Mで3本合撚することによって、外径5mmの実施例9のロープを得た。
【0066】
(実施例10)
実施例7におけるPETに代えて、実施例1と同じPLAを使用した。そして、それ以外は実施例7と同様にして、外径5mmの実施例10のロープを得た。
【0067】
(比較例2)
実施例1と同じPETを用いた。そして、1100dtexのPET繊維6本を撚数S−120T/Mで合撚してヤーンを形成し、このヤーン10本を撚数S−100T/Mで合撚してストランドを得た。このストランドを撚数Z−40T/Mで3本合撚することによって、外径5mmの比較例2のロープを得た。
【0068】
実施例7〜10および比較例2のロープの特性値および対磨耗性の評価結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示すように、実施例7、8のロープは、PLA繊維を含むものでありながら、その耐磨耗性は、PET繊維のみにて構成された比較例2のロープと比べて実質的な遜色がなく、同程度のレベルであるといえるものであった。これに対し、PLA繊維のみにて形成された実施例10のロープや、PLA繊維の比率の高い実施例9のロープは、耐磨耗性は低いが、燃焼させた際に発生する二酸化炭素発生量の低減効果が大きいものであった。比較例2のロープは、PET繊維のみにて構成されたものであったことから、燃焼させた際に発生する二酸化炭素発生量の低減効果が得られにくく、本発明の効果を発揮しないものであった。
【0071】
以上を踏まえて、実施例7〜10のロープは、本発明の効果を十分に発揮するものであった。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態のロープを示す図である。
【図2】図1のロープの断面構造を示す図である。
【図3】本発明の他の実施の形態のロープの断面構造を示す図である。
【図4】本発明のさらに他の実施の形態のロープの断面構造を示す図である。
【図5】本発明のさらに他の実施の形態のロープを示す図である。
【図6】図5のロープの断面構造を示す図である。
【図7】本発明のさらに他の実施の形態のロープの断面構造を示す図である。
【図8】本発明のさらに他の実施の形態のロープの断面構造を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
1 ロープ
2 ストランド
3 芯部
4 鞘部
5 芯ヤーン
6 鞘ヤーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本のストランドが撚り合わされるかまたは組み合わされた構成のロープであって、各ストランドが鞘ヤーンと芯ヤーンとの二層構造を呈しており、前記鞘ヤーンの少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とするロープ。
【請求項2】
芯ヤーンが石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とする請求項1記載のロープ。
【請求項3】
中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されていることを特徴とする請求項1または2記載のロープ。
【請求項4】
中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されているロープであって、前記ストランドの少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなるヤーンにて構成されていることを特徴とするロープ。
【請求項5】
繊維心が石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とする請求項4記載のロープ。
【請求項6】
複数本のストランドが撚り合わされるかまたは組み合わされた構成のロープであって、各ストランドが鞘ヤーンと芯ヤーンとの二層構造を呈しており、前記芯ヤーンの少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とするロープ。
【請求項7】
鞘ヤーンが石油系由来の汎用ポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とする請求項6記載のロープ。
【請求項8】
中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されていることを特徴とする請求項6または7記載のロープ。
【請求項9】
中心部の繊維心の周囲に複数のストランドが配置されているロープであって、前記繊維心の少なくとも一部がバイオマス由来のポリマーからなる繊維にて構成されていることを特徴とするロープ。
【請求項10】
各ストランドが石油系由来の汎用ポリマーからなるヤーンにて構成されていることを特徴とする請求項9記載のロープ。
【請求項11】
バイオマス由来のポリマーがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1から10までのいずれか1項記載のロープ。
【請求項12】
石油系由来の汎用ポリマーがポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項2、3、5、7、8、10、11のいずれか1項記載のロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−223177(P2008−223177A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64258(P2007−64258)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】