説明

ロープ

【課題】摩擦係数が適度にあって扱いやすく、なおかつ引張り張力も高いロープを提供する。
【解決手段】超高分子量ポリエチレン繊維4aとポリエステル繊維4bを混撚したヤーン3を複数本用いてストランド2の外皮部分を作り、超高分子量ポリエチレン繊維4aのみのヤーン3でストランド2の内芯部分を作り、得られたストランド2を複数本用いて作製したロープであって、ポリエステル繊維の配合比率が、3%〜50%である。ポリエステル繊維は超高分子量ポリエチレン繊維よりも摩擦係数が高いので、ポリエステル繊維が混撚されているロープは超高分子量ポリエチレン繊維のみのロープよりも、摩擦係数が高く、滑りにくいので固縛等の作業がやりやすくなる。しかも、超高分子量ポリエチレン繊維を含んでいることから、引張り強度は高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロープに関する。さらに詳しくは、縛着、固定、連結など様々な用途に使え、とくに船舶の係留に好適なロープに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の係留に好適なロープとして、本出願人は特許文献1のロープを提供している。
このロープは、超高分子量ポリエチレン繊維を主材とするものであり、軽いうえに高い引張り強度を有する点に特徴がある。そのため、従来のナイロンやポリプロピンなどの合成樹脂製ロープに比べると、重量をかなり低減できるので、船舶の係留作業時の労力も低減できるだろうと考えられた。
【0003】
しかるに、特許文献1のロープでは、張力は充分大きいが摩擦係数が小さいので、別の問題が発生した。すなわち、特許文献1のロープを係船柱(ボラードともいう)に巻き付けようとしたとき、滑りやすいので固縛しにくく、また、これまでの何倍も多重に巻き付ける必要がある。このため、係留作業に思いのほか時間がかかり、さほど労力の低減につながらなかったという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3894944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、摩擦係数が適度にあって扱いやすく、なおかつ引張り張力も高いロープを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明のロープは、超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚したことを特徴とする。
第2発明のロープは、第1発明において、超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚したヤーンを用いてストランドの外皮部分を作り、超高分子量ポリエチレン繊維のみのヤーンでストランドの内芯部分を作り、得られたストランドを複数本用いて作製したことを特徴とする。
第3発明のロープは、第1発明において、超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚したヤーンを複数本用いてストランドを作り、該ストランドを複数本用いて作製したことを特徴とする。
第4発明のロープは、第1発明、第2発明または第3発明において、前記ポリエステル繊維の配合比率が、3%〜50%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、ポリエステル繊維は超高分子量ポリエチレン繊維よりも摩擦係数が高いので、ポリエステル繊維が混撚されているロープは超高分子量ポリエチレン繊維のみのロープよりも、摩擦係数が高く、滑りにくいので固縛等の作業がやりやすくなる。しかも、超高分子量ポリエチレン繊維を含んでいることから、引張り強度は高い。
第2発明によれば、ストランドの外皮部分に超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維が混在しているので、ロープの外表面に、ポリエステル繊維が露出している。このため、ロープが外部部材に接触する部分には適切な摩擦力が発生することとなるので、扱いやすくほどけにくいロープとなる。
第3発明によれば、超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚したヤーンのみを用いているので、製造が容易となる。しかも、摩擦係数が高く滑りにくいという第1発明の性質は継承している。
第4発明によれば、ポリエステル繊維の配合割合が少なすぎることはないので適度な摩擦係数が与えられ、しかも超高分子量ポリエチレン繊維の配合割合が少なくなることもないので、充分な引張り強度も確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態に係るロープの説明図である。
【図2】図1のロープにおけるストランドの断面図とヤーンの混撚状態の説明図である。
【図3】(A)は摩擦試験測定装置の正面図、(B)は増おもり分銅と重り受台の説明図、(C)は増おもり型分銅を設置した状態の説明図である。
【図4】摩擦試験測定装置におけるボラードの説明図であって、(a)は0.5巻、(b)は1.5巻、(c)は2.5巻の説明図である。
【図5】(A)はバネ式手ばかりの外観図、(B)はバネ式手ばかりの使用状態説明図である。
【図6】(A)は比較例1〜3の摩擦係数を示すグラフ、(B)は実施例1〜3の摩擦係数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
つぎに、本発明の実施形態を説明する。
まず、ロープの一般的な構成を説明しておくと、つぎのとおりである。
細いフィラメント(繊維)を集めて撚りをかけてヤーン(単糸)を作り、この単糸を数本ないし数十本集めて撚りをかけてストランド(子縄)を作り、このストランドを三つから八つを撚り合わせるか又は組むことによってロープに作られる。
本発明のロープも基本的な構成は、上記一般的な構成を踏襲しているが、ヤーンを作るフィラメントの数や、ストランドを作るヤーンの数や、ロープを作るストランドの数は任意である。また、撚り合わせ方や組み方も任意である。
【0010】
図1に示すロープは、2本一組のストランドを4組用いて組んだものであるが、あくまで一実施形態であって、本発明はこれに限られるものではない。
図1において、符号1はロープ全体を示している。ロープ1は、2本組みのストランド2を4組み用いている。1本のストランド2は複数本のヤーン3からなり、1本のヤーン3は複数本のフィラメント4からなる。
【0011】
図1に示す実施形態では、ストランド2の外皮部分を、超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚したフィラメントからなるヤーンで構成し、内芯部分つまり外皮以外の部分を超高分子量ポリエチレン繊維のフィラメントからなるヤーンで作製したものである。
図2に基づき詳細に説明すると、ストランド2の外皮部分は、超高分子量ポリエチレン繊維4aとポリエステル繊維4bを混撚したフィラメント4からなるヤーン3Aで構成されており、内芯部分つまり外皮以外の部分は超高分子量ポリエチレン繊維4aのフィラメント4からなるヤーン3Bで作製されている。
【0012】
混撚の形態は、図1の実施形態では、フィラメントのレベルで混撚しているが、この代りに、ヤーン同士の混撚であってもよい。つまり、超高分子量ポリエチレン繊維のみのヤーン3とポリエステル繊維のみのヤーン3とを作っておき、ヤーンのレベルで混撚してもよい。
【0013】
図示はしていないが、超高分子量ポリエチレン繊維4aとポリエステル繊維4bを混撚したヤーンのみでストランドの全部、つまり外皮部分も内芯部分もを作ったロープも、本発明に含まれる。
この場合は、単一種類のヤーンを用いるので、製作は容易である。もちろん、ポリエステル繊維4bを含んでいることにより、適度な摩擦係数が得られるという利点もある。
【0014】
要するに、本発明では、超高分子量ポリエチレン繊維4aとポリエステル繊維4bを混撚したもので、この点に特徴がある。
そして、本発明のロープ1は、超高分子量ポリエチレン繊維4aを主材として用いることで、軽量と高い引張り強度を達成しているが、これに摩擦係数の高いポリエステル繊維4bを混撚することで、ロープ全体としても適度な摩擦係数を確保したものである。
【0015】
ポリエステル繊維4bの配合割合は、基本的には制限なく、必要とする引張り強度と摩擦係数から、適切な値を選択すればよい。
ただし、本発明において、ポリエステル繊維の配合比率は3%〜50%位が好ましい。その理由は、ポリエステル繊維の配合割合が少なすぎることはないので適度な摩擦係数が与えられ、しかも超高分子量ポリエチレン繊維の配合割合が少なくなることもないので、充分な引張り強度も確保できるからである。
本明細書でいうポリエステル繊維の配合比率は、下記式で求めたものであり、AとBの数値は本数である。
B/(A+B)・・・・・・式1
ただし、A=超高分子量ポリエチレン繊維4a
B=ポリエステル繊維4b
【0016】
つぎに、本発明のロープが適度な摩擦係数を有していることを確認した摩擦試験について説明する。
(供試体)
(1)実施例1
図1および図2に示すロープ構成であって、ロープ径が12mm、ロープ原糸が超高分子量ポリエチレン繊維4aとポリエステル繊維4bであって、ポリエステル繊維4bの配合割合が41.3%であるロープである。
(2)実施例2
ポリエステル繊維4bの配合割合を32%とした以外は、実施例1と同じロープである。
(3)実施例3
ポリエステル繊維4bの配合割合を19%とした以外は、実施例1と同じロープである。
(4)比較例1
ロープ原糸をポリエステル繊維100%とした以外は、実施例1と同じロープである。
(5)比較例2
ロープ原糸を超高分子量ポリエチレン繊維100%とした以外は、実施例1と同じロープである。
(6)比較例3
ロープ原糸をナイロン繊維100%とした以外は、実施例1と同じロープである。
【0017】
(試験装置)
試験装置を図2に示す。図3(A)に示す架構の上部に2基のボラード1,2を前方に突出させて固定している。このボラード1,2に実施例1〜3や比較例1〜3のロープを巻き掛け、そのロープの両端に重り受台を結んでいる。図3(B)は増おもり分銅を示しており、図3(C)に示すように、任意の枚数の増おもり分銅を重り受台にのせて重量を調整できるようにしている。
【0018】
(試験方法)
図4(a)は、ロープをボラード1に1/4巻きし、ボラード2にも1/4巻きして、計0.5巻きとした状態を示している。
図4(b)は、ロープをボラード1に1/4巻きし、ボラード2に1巻きに続いて1/4巻きして、計1.5巻きとした状態を示している。
図4(c)は、ロープをボラード1に1巻きに続いて1/4巻きし、ボラード2にも1巻きに続いて1/4巻きした状態を示している。
以上のように、各ボラードに実験対象の各種ロープを、0.5巻、1.5巻、2.5巻の各巻数にて巻きつけ、ロープの両端に結んだ重り受台に、増おもり型分銅(10kg/枚)をまずはそれぞれ1枚づつ乗せる。
均等の重量にした状態から、一方に増重り型分銅を加えていき、ロープが滑り始めた重量の値を記録していく。この際、増おもり型分銅は10kg単位の為、より細かい値を求める為10kg未満の重量を測定できる図5(A)に示す「バネ式手ばかり」を使用し、増おもり型分銅を1枚加えた時点で滑り始める場合は、増おもりを加えずに手ばかりで引っ張って、滑り始めるときの重量を記録した。
具体的には、図5(B)に示すように、増おもり型分銅を1枚加えた瞬間、巻いているロープが滑り始める状態になった時、分銅を加えずに手ばかりを引っ掛けて引き上げる事によって、10kg未満の重量の値を測定する。
【0019】
測定した値から、静止摩擦係数を算出し、数値で滑りやすいか否かを判断する。尚、静止摩擦係数の値が大きい程、小さい値に比べ滑りにくいという事が導き出せる。
同様に、滑り始めてから下端に到達するまでの距離、時間を計測し、静止摩擦係数を速度で除して、動摩擦係数(運動摩擦係数)を算出した。
【0020】
本明細書でいう摩擦力と摩擦係数は、つぎの意味で用いている。
質量を持った物体が動いている時、その物体の進行方向逆向きに働く力を動摩擦力と言い、荷重をP、比例定数をμとすれば摩擦力FはF=μPである。この時の比例定数μを摩擦係数と呼び、面及び物体の材質や表面状態(凹凸など)によって定まる。尚、この値は動摩擦力と静摩擦力で異なる為、動摩擦係数、静摩擦係数(静止摩擦係数)とそれぞれ呼ぶ。
静止している物体を動かそうとする際に働く摩擦力を静止摩擦力と言い、荷重をP、比例定数をμとすれば摩擦力FはF=μPである。この時の比例定数μを摩擦係数と呼び、面及び物体の材質や表面状態(凹凸など)によって定まる。尚、この値は動摩擦力と静摩擦力で異なる為、動摩擦係数、静摩擦係数(静止摩擦係数)とそれぞれ呼ぶ。
【0021】
(試験結果)
図6(A)は実施例1〜3の実験結果を示し、図6(B)は、比較例1〜3の実験結果を示している。また、各記号の対応関係は下記のとおりである。
三角印、dypet41.3=実施例1
四角印、dypet32=実施例2
菱形印、dypet19=実施例3
三角印、pet=比較例1
四角印、Dy=比較例2
菱形印、Ny=比較例3
【0022】
図6(B)は、比較例1,2,3の各ロープを供試体とした実験結果である。比較例3(菱形印)の値の角度が最もついており、これは1cmあたりにかかる荷重(力)がx軸で示される値の際、y軸で示される重りの差(縦軸に示すA−B)で滑り始める事から重量差の値が大きい程滑りにくいと言う判断が出来る。比較例2(四角印)は、比較例3とは逆に値の角度が緩くなっているが、これは滑りやすいことを意味している。
従って、このグラフより読み取れる事は、比較例3が最も滑り難く、比較例2が最も滑り易いと言う推測が出来る。
【0023】
図6(A)は、超高分子量ポリエチレン繊維4aとポリエステル繊維4bを混撚した実施例1〜3のロープについてのグラフである。実施例1〜3の違いはポリエステル繊維の配合比率のみであるが、グラフを見ての通り、あまり差異は見受けられない。したがって、より多くポリエステル繊維の配合比率を変えてもほとんど違いが出ないと推測される。
【0024】
(評価)
上記実験結果において、比較例3(ナイロン繊維)のロープの静止摩擦係数の値が大きく、1番滑り難いということが明白となった。また当然ながら全てのロープにおいて、巻数が増えることによって、摩擦係数が大きくなる=滑り難いという構図になっている。
実施例1〜3(超高分子量ポリエチレン繊維4aとポリエステル繊維4bの混撚ロープ3種)においては、あまり数値に差異は見受けられず、配合率においては、それぞれの違いは明確にならなかった。
また、全ての供試体の中で、比較例2(超高分子量ポリエチレン繊維)が最も滑り易く、それ以外のロープは若干の違いはあるが、比較例2(超高分子量ポリエチレン繊維)よりは滑り難いと数値上示されるため、超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステルを混撚することにより、ロープの滑りを緩和できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
上記実施例1〜3に示すように、超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステルを混撚したロープは滑り難い性質があるので、ボラードに巻き掛けたときに緩みが生じにくく、船舶の係留作業が容易に行える。このように、本発明のロープは係船用に特に有用であるが、用途はこれに限ることなく、ロープとしてのあらゆる用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ボラード
2 ボラード
4 フィラメント
4a 超高分子量ポリエチレン繊維
4b ポリエステル繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚した
ことを特徴とするロープ。
【請求項2】
超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚したヤーンを用いてストランドの外皮部分を作り、超高分子量ポリエチレン繊維のみのヤーンでストランドの内芯部分を作り、得られたストランドを複数本用いて作製した
ことを特徴とする請求項1記載のロープ。
【請求項3】
超高分子量ポリエチレン繊維とポリエステル繊維を混撚したヤーンを複数本用いてストランドを作り、該ストランドを複数本用いて作製した
ことを特徴とする請求項1記載のロープ。
【請求項4】
前記ポリエステル繊維の配合比率が、3%〜50%である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載のロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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