説明

ローヤルゼリー中の10−ヒドロキシ−2−デセン酸の安定化方法及びその方法によって得られるローヤルゼリーの粉末

【課題】ローヤルゼリーに含まれる10-ヒドロキシ-2-デセン酸を安定化する方法及びその方法によって得られるローヤルゼリーの粉末を提供する。
【解決手段】ローヤルゼリーに環状デキストリンを配合し、粉末化する。かかる方法によれば、環状デキストリンによってデセン酸が包接されることで、デセン酸の安定性が高まることとなる。このため、得られるローヤルゼリーの粉末は、室温保管で長期に保管することができ、製剤に配合しても10-ヒドロキシ-2-デセン酸が安定であるため、製剤品質を長期にわたり維持できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローヤルゼリーに含まれる10-ヒドロキシ-2-デセン酸の安定化方法及びその方法によって得られるローヤルゼリーの粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
ローヤルゼリーは滋養強壮を主な目的に、健康食品から医薬品まで数多くの製品に配合される素材である。このローヤルゼリーに含まれる10-ヒドロキシ-2-デセン酸(以下デセン酸と略称する)は、重要な品質指標として定量管理される成分である(例えば特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2005−006629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、生ローヤルゼリーやその凍結乾燥粉末に含まれるデセン酸は不安定で、冷凍保管などの特殊な環境に保管する必要がある。またローヤルゼリーを固形製剤に配合する場合、製剤中に含まれる自由水の影響を受けて、デセン酸含量が著しく低下することが知られている。そこで、硅酸カルシウムやメタ硅酸アルミン酸マグネシウム等を大量に添加することで自由水の影響を抑える方法がとられてきた。
【0005】
本発明は、かかる問題の解決を試みたものであり、ローヤルゼリーに含まれるデセン酸を好適に安定化する方法及びその方法によって得られるローヤルゼリーの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ローヤルゼリーに環状デキストリンを配合し、粉末化することによってデセン酸の安定性が高められることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、ローヤルゼリーに環状デキストリンを配合し、粉末化することからなるローヤルゼリー中の10-ヒドロキシ-2-デセン酸の安定化方法である。かかる方法によるデセン酸の安定性の向上は、ローヤルゼリー中のデセン酸が環状デキストリンに包接されたことによるものと考えられる。本発明の安定化方法によって得られるローヤルゼリーの粉末は、デセン酸の安定性が高いため室温条件下で保管できる。また、かかる粉末は、製剤に配合した場合でも、デセン酸の安定性は維持されるため、硅酸カルシウムやメタ硅酸アルミン酸マグネシウム等を大量に添加する必要がない。
【0007】
本発明の安定化方法においては、環状デキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及びクラスターデキストリンの群から選ばれる少なくとも1種を含むことが望ましい。また、かかる場合には、ローヤルゼリーに含まれる10-ヒドロキシ-2-デセン酸のモル数に対し、α-シクロデキストリンをNα倍モル、β-シクロデキストリンをNβ倍モル、γ-シクロデキストリンをNγ倍モル、及びクラスターデキストリンをNc倍モル配合する場合に、以下の関係を満足することが望ましい。
Nα/1.5+Nβ/1.5+Nγ/0.5+Nc/0.005≧1
【0008】
また、本発明の安定化方法においては、ローヤルゼリーと環状デキストリンを含水アルコールに混合した後に、乾燥して、粉末を得ることが望ましい。
【0009】
また、本発明の別の態様は、上記安定化方法によって得られるローヤルゼリーの粉末である。
【0010】
また、本発明の別の態様は、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及びクラスターデキストリンの群から選ばれる少なくとも1種を含み、含有する10-ヒドロキシ-2-デセン酸のモル数に対し、含有するα-シクロデキストリンをNα倍モル、β-シクロデキストリンをNβ倍モル、γ-シクロデキストリンをNγ倍モル、及びクラスターデキストリンをNc倍モルとした場合に、以下の関係を満足することを特徴とするローヤルゼリーの粉末である。
Nα/1.5+Nβ/1.5+Nγ/0.5+Nc/0.005≧1
【発明の効果】
【0011】
以上に述べたように、本発明の安定化方法によれば、ローヤルゼリーに含まれるデセン酸を好適に安定化できる。また、かかる安定化方法によって得られるローヤルゼリーの粉末は、保管する場合に冷凍条件などを必要とせず、室温条件下で保管できるため、コスト上及びスペースの確保上有利である。また、かかるローヤルゼリーを配合してなる製剤は、硅酸カルシウムやメタ硅酸アルミン酸マグネシウム等を大量に添加する必要がないことから、製剤設計上の自由度が上がり、かつデセン酸の安定性にすぐれることから長い有効期間が保証できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に使用される環状デキストリンの形態は、特に限定されるものではないが、粉末状や液状が好ましい。また、各種の環状デキストリンの純度は任意の割合でよい。本発明において、環状デキストリンを配合するローヤルゼリーとしては、ペースト状の「生ローヤルゼリー」と呼ばれるものや、生ローヤルゼリーを凍結乾燥又はその他の乾燥方法によって乾燥して得られる乾燥ローヤルゼリー及び乾燥ローヤルゼリー抽出物が挙げられる。
【0013】
デセン酸の安定化にあたっては、ローヤルゼリーに含まれるデセン酸のモル数に対し、一定倍モルの環状デキストリンを秤量し、含水エタノールに溶解又は懸濁させ、そこにローヤルゼリーを添加・攪拌した後、濃縮・乾燥することにより粉末化する。このとき乾燥しやすくする目的で、無水硅酸などの添加剤を添加してもよい。含水エタノール中のアルコール濃度は任意の割合で良いが、好ましくは3〜30v/v%濃度が好ましい。
【0014】
本発明のローヤルゼリーの粉末は、医薬品であれば経口可能な形態、例えば、粉末、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、ムース剤などの剤型にすることができ、食品であれば経口可能なさまざまな形態に使用できる。
【0015】
以下、本発明を実施例によって説明する。但し、本発明の範囲は以下に示される実施例のみに限定されるものではない。
【0016】
α‐シクロデキストリン15.7gを30v/v%含水エタノールに加温溶解若しくは懸濁させ、これに50gの生ローヤルゼリー(デセン酸1gを含有)を添加して、30分間攪拌・混合した。そして、これを減圧濃縮してアルコールを留去させた後、凍結乾燥してα‐シクロデキストリンを含有するローヤルゼリーの粉末を得た。これを実施例1とする。
【0017】
環状デキストリンの種類や配合量を変化させる他は実施例1と同様にして、実施例2〜17のローヤルゼリーの粉末を得た。また、環状デキストリン(α‐シクロデキストリン)を配合しない他は実施例1と同様にして、比較例のローヤルゼリーの粉末を得た。実施例1〜17及び比較例における環状デキストリンの配合比を表1に示す。
【0018】
【表1】



【0019】
<デセン酸の安定性試験>
上記実施例1〜17及び比較例のローヤルゼリーの粉末をそれぞれアルミスタンドパックに2個ずつ小分け充填し、一方を60℃の恒温槽内に、もう一方を5℃の冷蔵庫内に4日間保管し、その後、各サンプルのデセン酸の含有量を測定した。デセン酸の分析法は常法に従い行った。冷蔵庫保管したサンプルのデセン酸の含有量を100%として、恒温槽保管した各サンプルのデセン酸の残存率を表2に示す。
【0020】
【表2】



【0021】
表2に示されるように、環状デキストリンを配合した実施例1〜17のローヤルゼリーの粉末は、比較例よりもデセン酸の残存率がいずれも高く、環状デキストリンの配合によってデセン酸が安定化したことがわかる。特に、各種類の環状デキストリン単体を以下の配合量としたものは、比較例に比べてデセン酸の残存率が極めて高く、デセン酸の安定性が大幅に向上したと考えられる。
α-シクロデキストリン:1.5倍モル以上
β-シクロデキストリン:1.5倍モル以上
γ-シクロデキストリン:0.5倍モル以上
クラスターデキストリン:0.005倍モル以上
【0022】
また、3種の環状デキストリンを配合した実施例16,17においても、比較例に比べてデセン酸の残存率が極めて高かった。それぞれの配合量を、各種類の環状デキストリンを単体で配合した際の最低ラインで除して合算したところ
実施例16:0.5 / 1.5 + 0.5 / 1.5 + 0.2 / 0.5 = 1.06
実施例17:0.375 / 1.5 + 0.125 / 0.5 + 0.0025 / 0.005=1.0
となり、1に近似した数字であることがわかった。この結果から、ローヤルゼリーに含まれるデセン酸に対する環状デキストリン配合量を
α-シクロデキストリン:Nα倍モル
β-シクロデキストリン:Nβ倍モル
γ-シクロデキストリン:Nγ倍モル
クラスターデキストリン::Nc倍モル
とした時、先の最低ラインで除して合算した数値が1以上である場合、すなわちNα,Nβ,Nγ,Ncが以下の関係を満足する場合に、デセン酸の高い安定化効果が期待できると考えられる。
Nα/1.5 + Nβ/1.5 + Nγ/0.5 + Nc/0.005 ≧ 1
(Nα,Nβ,Nγ,Ncはいずれも0以上)
【0023】
<製剤配合時の安定性試験>
上記実施例1,実施例8及び比較例のローヤルゼリーの粉末を用いてそれぞれ錠剤を製造した。処方内容は表3の通りである。
【0024】
【表3】

【0025】
各ローヤルゼリーの粉末を用いた3種類の錠剤を夫々アルミスタンドパックに二分し、一方を60℃の恒温槽に、もう一方を5℃の冷蔵庫にそれぞれ4日間保管し、その後、各サンプルのデセン酸の含有量を測定した。デセン酸の分析法は常法に従い行った。冷蔵庫保管したサンプルのデセン酸の含有量を100%として、恒温槽保管した各サンプルのデセン酸の残存率を表4に示す。
【0026】
【表4】

【0027】
この結果より、環状デキストリンを配合したローヤルゼリーの粉末は、製剤した場合でもデセン酸の安定性が担保できていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のローヤルゼリーの粉末は、デセン酸の優れた安定性を示すことから、緩和な条件下での長期にわたる保存が可能であり、かつ製剤配合時の安定性にも優れることから、産業上の利用の可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリーに環状デキストリンを配合し、粉末化することからなるローヤルゼリー中の10-ヒドロキシ-2-デセン酸の安定化方法。
【請求項2】
環状デキストリンが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及びクラスターデキストリンの群から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1記載のローヤルゼリー中の10-ヒドロキシ-2-デセン酸の安定化方法。
【請求項3】
ローヤルゼリーに含まれる10-ヒドロキシ-2-デセン酸のモル数に対し、α-シクロデキストリンをNα倍モル、β-シクロデキストリンをNβ倍モル、γ-シクロデキストリンをNγ倍モル、及びクラスターデキストリンをNc倍モル配合する場合に、以下の関係を満足することを特徴とする請求項2記載のローヤルゼリー中の10-ヒドロキシ-2-デセン酸の安定化方法。
Nα/1.5+Nβ/1.5+Nγ/0.5+Nc/0.005≧1
【請求項4】
ローヤルゼリーと環状デキストリンを含水アルコールに混合した後に、乾燥して、粉末を得ることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のローヤルゼリー中の10-ヒドロキシ-2-デセン酸の安定化方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の方法によって得られる、環状デキストリンを含有するローヤルゼリーの粉末。
【請求項6】
α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン及びクラスターデキストリンの群から選ばれる少なくとも1種を含み、
含有する10-ヒドロキシ-2-デセン酸のモル数に対し、含有するα-シクロデキストリンをNα倍モル、β-シクロデキストリンをNβ倍モル、γ-シクロデキストリンをNγ倍モル、及びクラスターデキストリンをNc倍モルとした場合に、以下の関係を満足するローヤルゼリーの粉末。
Nα/1.5+Nβ/1.5+Nγ/0.5+Nc/0.005≧1


【公開番号】特開2009−82016(P2009−82016A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252526(P2007−252526)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000187471)松浦薬業株式会社 (7)
【Fターム(参考)】