ローヤルゼリー分解酵素含有物
【課題】ローヤルゼリーから、機能性ペプチド等の生理活性の高い分解物を効率よく得るために最適なローヤルゼリー分解酵素、及び、該ローヤルゼリー分解酵素含有物の提供。
【解決手段】西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物;(a)前記女王蜂幼虫の体組織懸濁物を6℃以下で遠心処理することにより、白色固形の上層、溶液の中層、沈殿による下層の3層に分離する工程(b)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程、該ローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いて調製されたローヤルゼリー分解物、及び、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法。
【解決手段】西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物;(a)前記女王蜂幼虫の体組織懸濁物を6℃以下で遠心処理することにより、白色固形の上層、溶液の中層、沈殿による下層の3層に分離する工程(b)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程、該ローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いて調製されたローヤルゼリー分解物、及び、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から調製したローヤルゼリー分解酵素含有物、該ローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されるローヤルゼリー分解酵素、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いて調製することを特徴とするローヤルゼリー分解物、並びに、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いるローヤルゼリーの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ローヤルゼリーは、女王蜂幼虫を生育させるために、働き蜂が下咽頭腺と大腮腺から分泌する乳白色ゼリー状の栄養物質である。女王蜂は働き蜂と遺伝的に同質であるため、ローヤルゼリー中には、女王蜂への分化を誘導する何らかの制御因子が含まれていると考えられているが、該物質は未だ明らかにされてはいない。該制御因子及び女王蜂への分化誘導機構の解明は、女王蜂の人工生産の効率化等に有用であり、世界中の研究者によって研究が進められている。
【0003】
ローヤルゼリーは、蜂群や品種、ミツバチが花蜜や花粉等を採取する花の種類等により変動するが、通常、生重量の約2/3が水分であり、タンパク質、糖質、及び脂肪酸を主成分とする。その他にも、ビタミンやミネラル等も多く含有されており、非常に栄養価に優れている。また、科学的に立証されてはいないものの、昔から、疲労回復作用、抗アレルギー作用、抗癌作用、免疫増強作用等の多くの薬理作用を有すると考えられている。このため、栄養補助食品や医薬品原料として広く用いられている。
【0004】
近年、ローヤルゼリーの乾燥重量の約40%を占めるタンパク質が、ローヤルゼリーの主要な生理活性物質として、注目されてきている。特に、ローヤルゼリータンパク質分解物の生理活性を用いた発明が、多く報告されている。例えば、(1)ローヤルゼリー中の蛋白質をプロテアーゼによって分解して得られる分子量3,000以下のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする感染防御機能増強剤に係る発明が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。該発明は、プロテアーゼによるローヤルゼリータンパク質分解物が、未分解のローヤルゼリータンパク質よりも感染防御機能が優れている上に、低粘度かつ水溶性であり、安定性に優れているため、食品への添加及び経口摂取が容易である、という知見に基づいた発明である。また、(2)ローヤルゼリー素材をトリプシンで処理してなるアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する蛋白分解物に係る発明も報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
その他、食品としての利用におけるローヤルゼリー分解物に係る発明として、(3)アレルギー性が低減された低アレルゲン化ローヤルゼリーであって、10−ハイドロキシデセン酸及びローヤルゼリー由来のペプチド性成分を含有し、該ペプチド性成分は分子量4.5kDa以下の成分から構成されていることを特徴とする低アレルゲン化ローヤルゼリーも報告されている(例えば、特許文献3参照。)。該発明は、蛋白質分解酵素処理と、β−マンノシダーゼを用いた糖分解酵素処理により、ローヤルゼリー由来のペプチド性成分のうち、アレルギーを引き起こしやすい分子量4.5kDaを超える成分が分解除去されることから、アレルギー性を低減させることが容易となる、という知見に基づいた発明である。
【0006】
このように、ローヤルゼリー分解物、特にローヤルゼリータンパク質分解物が有する多種多様な生理活性については、多くの報告があるが、具体的な生理活性物質や、その詳細な作用機序までもが解明されているものは非常に少ない。生理活性物質の特定や作用機序の解明は、ミツバチの分化機構の解明や、ヒト等の動物にとってより有効な医薬品や機能性食品等の開発に寄与するものであるから、ローヤルゼリー分解物についてのさらなる調査・研究が強く望まれている。そして、ローヤルゼリー分解物の調査等を効果的に行うためには、機能性ペプチド等の生理活性の高い分解物を豊富に含有するローヤルゼリー分解物を得ることが肝要である。
【特許文献1】特開平8−59499号公報
【特許文献2】特開2005−255670号公報
【特許文献3】特開2005−287411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記(1)の方法をはじめ、現在用いられている方法の多くは、ローヤルゼリータンパク質を汎用されているプロテアーゼ等を用いて適当に分解しているにすぎない。該汎用プロテアーゼ等は、ローヤルゼリーを本来の基質としているものではないため、不適当な箇所での分解により、本来有用であるペプチドの機能を失活させているおそれがある。ローヤルゼリーを基質とするプロテアーゼ等を用いることにより、該おそれは解決できるが、そのような酵素は未だ見つかってはいない。
【0008】
本発明は、ローヤルゼリーから、機能性ペプチド等の生理活性の高い分解物を効率よく得るために最適なローヤルゼリー分解酵素、及び、該ローヤルゼリー分解酵素含有物を提供することを目的とする。
また、本発明は、該ローヤルゼリー分解酵素含有物等を用いて調製することを特徴とするローヤルゼリー分解物、並びに、該ローヤルゼリー分解酵素含有物等を用いるローヤルゼリーの分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ローヤルゼリーを主食とし、かつ、ローヤルゼリーの摂食により女王蜂への分化が制御されている女王蜂幼虫は、先天的にローヤルゼリーの分解に最適な分解酵素を有していると考え、女王蜂幼虫の幼虫体液抽出物から、ローヤルゼリータンパク質の分解活性を有する酵素を含有する画分を分離することにより、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物を提供するものである。
(a)前記女王蜂幼虫の体組織懸濁物を6℃以下で遠心処理することにより、白色固形の上層、溶液の中層、沈殿による下層の3層に分離する工程。
(b)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
また、本発明は、前記遠心処理が、8,000〜12,000×g、5分以上の遠心処理であることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素含有物を提供するものである。
また、本発明は、西洋ミツバチの2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物を提供するものである。
(a’)前記女王蜂幼虫を氷冷生理食塩水にて洗浄した後、裏ごしすることにより、乳白色の体組織懸濁物を調製する工程。
(b’)前記体組織懸濁物をpH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈した後、10,000×g、5℃で10分間の遠心処理をすることにより、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離する工程。
(c’)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて調製されたローヤルゼリー分解物を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られる、下記の特徴を有するローヤルゼリー分解物を提供するものである。
(1)神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも軽減していること、
(2)アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分とほぼ同等であること、
(3)グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること、
(4)ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする抗酸化剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする細胞増殖剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする感染阻害剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする神経細胞死誘導抑制剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法を提供するものである。
また、本発明は、いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、酵素活性の至適pHが7又は9であることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素を用いて調製されたローヤルゼリー分解物を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のローヤルゼリー分解酵素含有物及びローヤルゼリー分解酵素により、ローヤルゼリーに含有されている機能性ペプチド等が有する生理活性を損なうおそれなく、ローヤルゼリーを分解することができる。
また、本発明のローヤルゼリー分解酵素含有物等により分解されたローヤルゼリー分解物は、生理活性の高い機能性ペプチド等を豊富に含有するため、ローヤルゼリーの生理活性の調査・研究において、非常に効率の良い試料を提供し得る。さらに、本発明のローヤルゼリー分解物を用いることにより、従来食されているローヤルゼリー含有食品等よりも、機能性と消化吸収性に優れた食品等を提供することができる。
その他、本発明のローヤルゼリー分解方法により、ローヤルゼリーを効率よく分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における女王蜂幼虫は、西洋ミツバチの2〜3日齢の女王蜂幼虫であれば、特に限定されるものではない。生きている新鮮な幼虫であってもよく、冷凍保存後の幼虫であってもよい。ローヤルゼリー(以下、RJと略記する。)分解酵素等の活性が高いと考えられるため、生きている新鮮な幼虫を用いることが好ましい。幼虫の冷凍保存は、常法により行うことができるが、RJ分解酵素の失活を防止するために、液体窒素等を用いて急冷後、−80℃で保存することが好ましい。
【0013】
本発明における体組織懸濁物とは、幼虫の体組織、主に内臓及び体液を懸濁したものを意味する。該内臓等は特に限定されるものではないが、幼虫個体の体組織全体を懸濁したものであることが好ましい。
【0014】
幼虫から体組織懸濁物を調製する方法は、通常、動物等から組織懸濁液を調製する方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、幼虫の体組織全体や内臓、又は体液を、メッシュ等を用いて裏ごししてもよく、すり鉢やミキサー、ホモジナイザー等を用いて調製してもよい。緩和な条件下で体組織懸濁物を調製することができるため、メッシュ等を用いて裏ごしすることが好ましい。該メッシュは、網目の粗さが、80メッシュ〜120メッシュであることが好ましい。ミキサー等を用いる場合には、熱の過剰発生を防止するために、生理食塩水等を添加して行うことが好ましい。なお、不純物の混入を防止するため、幼虫は、体組織懸濁物調製前に、冷凍保存する場合には保存前に、予め生理食塩水等で洗浄しておくことが好ましい。
【0015】
本発明のRJ分解酵素含有物を調製するためには、まず、工程(a)として、女王蜂幼虫の体組織懸濁物を、6℃以下で遠心処理をすることにより、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離する。遠心処理をする前に、中性かつ低濃度の緩衝液等を用いて希釈することにより、体組織懸濁物の粘度や濃度を適宜調整することが好ましい。体組織懸濁物の粘性や濃度が高い場合には、RJ分解酵素の抽出効率が低下するおそれや、作業性が悪化するおそれがあるためである。該緩衝液として、例えば、リン酸緩衝液(50mM、pH7.0)や生理食塩水等がある。なお、該上層は脂質成分であり、該下層は体組織の不溶性成分と推定される。
【0016】
該遠心処理の条件は、体組織懸濁物を3層に遠心分離することが可能である限り、特に限定されるものではないが、8,000〜12,000×g、6℃以下で5分以上の遠心処理であることが好ましい。10,000×g、5℃で10分間の遠心処理をすることが特に好ましい。遠心速度が低い場合や、遠心時間が短い場合には、3層にきれいに分離しないおそれがある。
【0017】
次に、工程(b)として、3層のうちの中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収することにより、本発明のRJ分解酵素含有物を調製することができる。該回収方法は、常法により行うことができる。抽出の精度を高めるため、該中層を工程(a)と同じ条件で再度遠心処理をすることが好ましい。
【0018】
工程(b)の後、該中層に混入した不溶性の組織片等の不溶物を取り除くため、該中層を濾過することが好ましい。微生物等によるコンタミネーションも防止できることから、該濾過には、0.2μmのフィルター等を用いることが好ましい。
【0019】
なお、幼虫体液抽出物の調製や、幼虫体液抽出物からのローヤルゼリー分解酵素含有物の調製は、幼虫体液抽出物に含まれている酵素が失活するおそれがあるため、遠心処理は3〜6℃で行うことが好ましい。また、その他の操作は氷冷下において行うことが好ましい。
【0020】
本発明のRJ分解物は、本発明のRJの分解方法により、すなわち、本発明のRJ分解酵素含有物を用いることにより、調製することができる。該RJは、生のRJであってもよく、乾燥粉末RJを還元したものであってもよい。また、該RJは、いずれの産地のものであってもよく、いずれの蜂種が産生したものであってもよい。さらに、該RJは、RJから常法により分画したタンパク質であってもよい。特にRJの水溶性タンパク質であることが好ましい。生理活性を有する物質が多く含有されていることが期待できるためである。
【0021】
RJの水溶性タンパク質の分画は、水溶性のタンパク質と疎水性のタンパク質を分離することができる方法であれば、いずれの方法を用いてもよい。該方法として、例えば、水溶性溶媒とRJを混合した懸濁液を、酢酸エチルやブタノール等の有機溶媒で分配処理して抽出精製する方法や、該懸濁液を、静置した後遠心処理をすることにより上清を得る方法等がある。
【0022】
例えば、RJやRJの水溶性タンパク質に、本発明のRJ分解酵素含有物を添加して、インキュベートする方法により、RJ分解物を調製することができる。RJ等は、予めリン酸緩衝液等を用いて希釈しておいてもよい。また、リン酸緩衝液等を用いてタンパク質濃度や粘度を調製したRJ分解酵素含有物を用いてもよい。
【0023】
該インキュベートの温度や時間は、本発明のRJ分解酵素含有物のRJ分解活性が阻害されない条件であれば、特に限定されるものではないが、反応温度条件は30〜40℃が好ましく、34〜38℃が特に好ましい。また、pH6.5〜10が好ましく、pH7〜9.5が特に好ましい。pH7〜7.5の反応条件で行う場合には、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で約51kDaの位置にバンドとして表れるタンパク質が主に分解され、pH8.5〜9の反応条件で行う場合には、SDS−PAGEで約46kDaの位置にバンドとして表れるタンパク質が主に分解される。
【0024】
以下、本発明のRJの分解方法について、さらに詳細に説明する。
まず、後記実施例1に記載する方法により調製したRJ分解酵素含有物のタンパク質濃度を、BSAを標準物質としてLowry法を用いて測定した後、pH7の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈することにより、6mg/mLのRJ分解酵素溶液を調製した。
次に、8mLの緩衝液に、1mLの後記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液(30mg/mL)と、1mLの該RJ分解酵素溶液(6mg/mL)を添加して混合した酵素反応液を調製した。該酵素反応液を37℃で反応させ、氷冷して反応を停止させた後、SDS−PAGEによって、RJタンパク質の変化を確認した。分離したRJタンパク質は、CBB R−250を用いて染色した。緩衝液は、pH4、5、及び5.5の50mMの酢酸緩衝液、pH6、6.5、7、及び7.5の50mMのリン酸緩衝液、pH8及び9の50mMのTri−HCl緩衝液を、それぞれ用いた。
【0025】
図1は、SDS−PAGEの結果を、pH毎に示した図である。(a)はpH4、(b)はpH5、(c)はpH6、(d)はpH6.5、(e)はpH7、(f)はpH7.5、(g)はpH8、及び(h)はpH9である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を表している。また、Mは分子量マーカーを示している。後記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液をSDS−PAGEすると、約51kDaと約46kDaの位置に強いバンドが検出された。矢印アが約51kDaのバンドを示し、矢印イが約46kDaのバンドを示している。この結果、RJタンパク質がRJ分解酵素溶液による処理によって減少していること、及び、pHの上昇に伴い、分解速度が上がっていることが分かった。特に、pH7〜7.5の反応条件では、主に約51kDaのタンパク質が分解され、pH8.5〜9の反応条件では、主に約46kDaのタンパク質が分解されることが確認された。すなわち、後記実施例1に記載する方法により調製したRJ分解酵素含有物中には、RJタンパク質を分解する酵素が含有されていることが、図1の結果から明らかである。また、中性条件下とアルカリ性条件下で該RJ分解酵素含有物によるRJタンパク質分解パターンが異なっていることから、該RJ分解酵素含有物には少なくとも2種類の分解酵素が存在していると推定される。
【0026】
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、RJをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られたRJ分解物は、種々の生理活性を有している。該生理活性は、未酵素処理のRJ水溶性画分が有する生理活性と比べて、幾つかの特徴を有している。例えば、該RJ分解物は、アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のRJ水溶性画分とほぼ同等であるが、神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも軽減している。また、グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している。その他、ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している。
【0027】
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、RJをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られたRJ分解物は、抗酸化活性をも有している。したがって、該RJ分解物は抗酸化剤としても用いることができる。例えば、該RJ分解物は、その抗酸化活性により、一酸化塩素(ClO・)等のラジカルによるタンパク質分解を抑制することができる。RJは古くから摂食されている食品であることから、該RJ分解物も非常に安全であり、アスコルビン酸等と同様に、飲食品へ添加される抗酸化剤や、生体を酸化ストレスから保護することを目的として接食されるサプリメントの有効成分等としても有用であることが期待できる。
【0028】
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、RJをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られたRJ分解物は、上記のような生理活性を有しているため、抗酸化剤、細胞増殖剤、感染阻害剤、神経細胞死誘導抑制剤等の有効成分とすることができる。これらの生理活性剤は、サプリメント等の飲食品として単独で摂食されてもよく、他の飲食用組成物や医薬用組成物と同様に、飲食品や医薬品への添加剤として用いることもできる。
【0029】
該RJ分解物を有効成分としたこれらの生理活性剤の製造方法は、該RJ分解物の生理活性を阻害しないものであれば特に限定されるものではなく、通常、RJ又はRJ分解物を含有する飲食用組成物又は医薬用組成物を製造する場合に使用される方法を用いて製造することができる。これらの生理活性剤の剤型は、特に限定されるものではないが、経口剤に適した剤型であることが好ましい。例えば、ソフトカプセル剤であってもよく、ハードカプセル剤であってもよく、錠剤であってもよく、シロップ剤等であってもよい。また、これらの生理活性剤に含まれる該RJ分解物量は、該RJ分解物の生理活性が作用効果を奏し得る量であれば、特に限定されるものではなく、原料とするRJの種類、期待する該RJ分解物の生理活性、剤型等を考慮して、適宜決定することができる。
【0030】
該RJ分解物を有効成分としたこれらの生理活性剤の摂取量は、該RJ分解物の生理活性が作用効果を奏し得る量であれば、特に限定されるものではなく、摂取する人や動物の体重、年齢、性別等により適宜決定することができる。例えば、一日当たり300mg〜3gを、1度に又は数回に分けて摂取することが好ましい。
【実施例】
【0031】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[参考例1] 幼虫懸濁物の調製
約15gの3日齢の西洋ミツバチの女王蜂幼虫を、採取した後、氷冷した生理食塩水で洗浄した。その後、ポリエステル製の平均100メッシュの布(「テトロン」、東レ社製)を用いて女王蜂幼虫を裏ごしすることで、幼虫の表皮を破り、体液及び内臓を搾り出した。これにより、乳白色の幼虫懸濁物を調製した。
【0033】
[参考例2]RJタンパク質溶液の調製
RJ(中国産)10mLに、pH7.0の50mMリン酸緩衝液20mLを加えて混合して、RJ希釈溶液を調製した。該RJ希釈溶液を、25,000×g、5℃で20分間遠心した後、不溶性成分を除去し、上清を回収した。その後、該上清を、pH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈し、30mg/mLのRJタンパク質溶液を調製した。
【0034】
[実施例1]
1.RJ分解酵素含有物の調製
参考例1に記載する方法により調製した幼虫懸濁物を、pH7の50mMリン酸緩衝液を用いて2倍希釈した後、10,000×g、5℃で10分間遠心した。該遠心処理により、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離された。該上層は脂質分、該下層は不溶性の体組織等と推定される。該中層を回収した後、さらに10,000×g、5℃で10分間遠心して3層に分離し、中層をRJ分解酵素含有物として回収した。該RJ分解酵素含有物を、除去しきれなかった不溶性の組織片を除去し、かつ滅菌するために、0.2μmのセルロースアセテート系フィルター(DISMIC−25CS、ADVANTEC社製)を用いて濾過した。これにより、黄色透明なRJ分解酵素含有物を得た。
【0035】
2.RJタンパク質の分解
該RJ分解酵素含有物のタンパク質濃度を、BSAを標準物質としてLowry法を用いて測定し、pH7の50mMリン酸緩衝液を用いて、3mg/mLのRJ分解酵素溶液を調製した。
8mLの緩衝液に、1mLの前記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液(30mg/mL)と、前記実施例1に記載する方法により調製した1mLのRJ分解酵素溶液(6mg/mL)を添加して混合した酵素反応液を調製した。該緩衝液として、pH7の50mMのリン酸緩衝液、若しくは、pH9の50mMのTri−HCl緩衝液を用いた。該酵素反応液を37℃で反応させ、氷冷して反応を停止させた後、SDS−PAGEによって、RJタンパク質を分離した。CBB R−250を用いて染色したゲルを乾燥させた後、蛍光スキャナーTyphoon 9400(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて染色像を得た。
【0036】
図2は、SDS−PAGEの結果を、pH毎に示した図である。(a)はpH7、(b)はpH9の染色像である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDa、矢印ウが約33kDa、及び矢印エが約25kDaのバンドをそれぞれ示している。この結果、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質が分解されていることが確認された。特に、pH9において、反応開始後4時間という短時間において、約46kDaのタンパク質が、検出できない程分解されていることが分かった。また、pH7において、反応時間の経過と共に、約33kDaと約25kDaのタンパク質が検出されるようになった。
【0037】
画像解析ソフトImageQuant(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて、図2の染色像の各バンドのバンド強度を定量した。図3は、反応開始0時間でのバンド強度を1として、反応時間経過に伴うバンド強度の変化を示したものである。(a)は約51kDaのバンドの強度比を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、(c)は約33kDa及び約25kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。(a)と(b)の図中の●はpH7のバンドを、○はpH9のバンドを、それぞれ示している。また、(c)の図中の△はpH7における約33kDaのバンドを、▲はpH7における約25kDaのバンドを、それぞれ示している。
【0038】
図3の(a)と(b)で示されているように、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質が分解されていることが、定量的にも確認することができた。また、図3の(c)の結果から、pH7において、反応開始後16時間まで、約33kDaと約25kDaのタンパク質が増加していることが確認された。この結果から、約33kDaと約25kDaのタンパク質は、約51kDa又は約46kDaのタンパク質が、RJ分解酵素溶液中に含有されているRJ分解酵素により、分解されてできた分解物である可能性が示唆される。
【0039】
[実施例2]
反応時間を60分までとした以外は、全て実施例1のpH9の条件下における反応と同様にして、RJタンパク質を分解し、SDS−PAGEによって、RJタンパク質を分離して、各バンドの強度を定量した。図4の(a)はゲルの染色像を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。図中のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。また、矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDaをそれぞれ示している。
【0040】
この結果、約46kDaのタンパク質が、RJ分解酵素溶液中に含有されているRJ分解酵素により、反応開始後1時間という短時間に、およそ80%が分解されていることが確認された。なお、図(b)により、反応開始後5分の時点では、分解がほとんど生じていない結果となったが、これは、RJ分解酵素による酵素反応を開始する前に、RJタンパク質溶液を37℃でプレインキュベートしなかったために、酵素反応が開始するまでにタイムラグが発生してしまったためではないかと推察される。
【0041】
[実施例3]
反応時間を24時間までとした以外は、全て実施例1のpH7の条件下における反応と同様にして、RJタンパク質を分解した。その後、氷冷して反応を停止させた酵素反応液を、Superdex 200 HR 10/30(ファルマシア社製)を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、該酵素反応溶液中に含有されるタンパク質を分画した。ゲル濾過クロマトグラフィーは、溶離液として0.15Mの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH7)を用いて、流速0.5mL/min、5℃の条件で行った。分画されたタンパク質を検出するために、UV検出器を用いて280nmの吸光度を測定した。
【0042】
図5は、実施例3において測定した280nmの吸光度の結果を表した図である。(a)は反応開始前、(b)は反応開始後8時間、(c)は反応開始後16時間、及び(d)は反応開始後24時間の結果である。また、図中の矢印アが約350kDa、矢印イが約60kDa、矢印ウが約5kDa、矢印エが約3kDa、及び範囲オが数百Daのタンパク質の画分をそれぞれ示している。
反応時間の経過に伴い、約350kDa及び約60kDaのタンパク質が減少する一方、約5kDa、約3kDa、及び数百Daのタンパク質が増加していることが、図5の結果から明らかである。増加している約5kDa等のタンパク質は、約350kDa等のタンパク質の分解物であることが推察される。つまり、本発明のRJ分解酵素含有物により、RJの高分子タンパク質が分解されることが、ゲル濾過クロマトグラフィーによる分画の結果からも確認できた。
【0043】
[実施例4]
参考例2と同様にしてRJタンパク質溶液(30mg/mL)を調製した。また、希釈後の濃度を3mg/mLとした以外は全て実施例1と同様にしてRJ分解酵素溶液(3mg/mL)を調製した。
8mLの緩衝液に、1mLの該RJタンパク質溶液(30mg/mL)と、1mLの該RJ分解酵素溶液(3mg/mL)を添加して混合した酵素反応液を調製した。該緩衝液として、pH7の50mMのリン酸緩衝液、若しくは、pH9の50mMのTri−HCl緩衝液を用いた。該酵素反応液を4、20、37、及び50℃で、それぞれ反応させ、氷冷して反応を停止させた。各温度の恒温槽で該酵素反応液を混合した時点を反応開始時点とし、反応時間を4、16、24時間とした。氷冷後の該酵素反応液を、実施例1と同様にRJタンパク質を分離することにより、反応温度の影響を観察した。
【0044】
この結果、37℃では、実施例2と同様に、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質の分解が観察された。特に、pH9においては、反応開始4時間の時点で約46kDaのタンパク質は検出限界以下まで分解され、約51kDaのタンパク質も反応開始16時間の時点で検出限界以下まで分解された。
これに対し、4℃では、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質の分解はほとんど観察されなかった。20℃では、37℃の場合と比較し、分解反応の進行はゆるやかであったものの、約51kDaと約46kDaのタンパク質の分解が観察された。一方、50℃では、37℃よりもさらに分解反応は速やかであり、pH7及び9の双方において、反応開始4時間の時点で大部分のタンパク質が分解されていることが確認された。
【0045】
つまり、20〜50℃の温度範囲においては、本発明のRJ分解酵素含有物はRJを分解することができること、及び、該温度範囲においては、温度が高くなればなるほど、本発明のRJ分解酵素含有物によるRJの分解反応の進行は速やかであることが明らかである。但し、一般的に、50℃においては、RJの褐変化やRJタンパク質の変性等が起こる可能性がある。このため、本発明のRJ分解酵素含有物によりRJを分解する場合には、37℃付近の温度で行うことが好ましい。
【0046】
[実施例5]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する、脳神経細胞への生理活性を調べた。具体的には、初代培養したマウス胎児海馬神経細胞の、アミロイドによる神経細胞死誘導に対するRJ分解物の影響を調べた。なお、マウス胎児海馬神経細胞は、マウス胎児から常法により採取した海馬神経細胞を、グリア細胞を培養した96穴マルチウェルプレートに、4.0×104cells/wellとなるようにまき、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。細胞培養液として、B27サプリメント含有ニューロバーサルメディウム(ギブコ社製)を用いた。実験には、培養後1週間経過後の細胞を用いた。
【0047】
まず、RJ(中国産)5mLに、pH7.0の50mMリン酸緩衝液15mLを加えて混合して、RJ希釈溶液を調製した。該RJ希釈溶液を、25,000×g、5℃で20分間遠心した後、不溶性成分を除去し、上清を回収した。その後、該上清を凍結乾燥することにより、RJ水溶性粗分画を得た。該RJ水溶性粗分画を、pH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈し、30mg/mLのRJ水溶性粗分画溶液を調製した。
次に、前記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液に代えて、該RJ水溶性粗分画溶液を用いたこと、及び、反応時間を4時間としたこと以外は、全て実施例1と同様にして、該RJ水溶性粗分画溶液中に含有されるRJタンパク質を分解し、RJ分解物を得た。
【0048】
マウス胎児海馬神経細胞が培養された96穴マルチウェルプレートに、アミロイドペプチド(ペプチド研究所製)とRJ水溶性粗分画溶液又はRJ分解物を添加した後、48時間培養した。アミロイドペプチドは、2mg/mLの濃度で37℃、48時間保温した後、最終濃度が20μg/mLとなるように添加した。また、RJ水溶性粗分画溶液、pH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物は、各タンパク質の細胞培養液中の最終濃度が、それぞれ0、31.25、62.5、125、250、500、又は1,000μg/mLとなるように添加した。アミロイドペプチドとRJ分解物等のいずれも添加せず、等量の細胞培養液を添加したものをコントロールとして用いた。
その後、抗Map2抗体を用いた免疫染色やヘキスト33342色素染色により死細胞を識別し、各ディッシュ中のマウス胎児海馬神経細胞の生存数、グリア細胞の生存数をそれぞれ測定した。さらに、顕微鏡観察により、細胞変形が観察されたマウス胎児海馬神経細胞数を測定した。なお、細胞変形とは、神経細胞が、樹状突起を有する細胞体と軸索からなる神経細胞特有の形態から変化することを意味する。該変化には、例えば、突起形成、軸索の萎縮、多軸索化、神経細胞同士の凝集、神経細胞の死滅等がある。
【0049】
【表1】
【0050】
表1は、マウス胎児海馬神経細胞数等の測定結果を示したものである。生存神経細胞数及び変性神経細胞数は、コントロールの神経細胞数を100%として、また、グリア細胞数は、コントロールのグリア細胞数を100%として、それぞれ表している。初代培養したマウス胎児海馬神経細胞に、アミロイドペプチドを添加すると、約60%の神経細胞が死滅し、生存率は約40%であった。アミロイドペプチドと共にRJ水溶性粗分画溶液を添加すると、RJ水溶性粗分画溶液は、アミロイドによる神経細胞死誘導を容量依存的に阻害した。最大生存率は、60〜70%にまで回復した。RJ水溶性粗分画溶液による該効果は、62.5〜250μg/mLの低濃度においても認められた。但し、1,000μg/mL以上のRJ水溶性粗分画溶液を添加すると、非特異的な神経細胞変形作用が観察された。
【0051】
pH7で分解して得たRJ分解物を添加した場合には、RJ水溶性粗分画溶液を添加した場合とほぼ同様の効果が観察された。一方、pH9で分解して得たRJ分解物を添加した場合にも、RJ水溶性粗分画溶液と同様に、アミロイドによる神経細胞死誘導阻害効果が観察された。さらに、RJ水溶性粗分画溶液等と比較し、非特異的な神経細胞変形作用が低下し、グリア細胞への細胞増殖作用が増大していた。これは、グリア細胞等の増殖が促進される結果、神経保護効果がより強く発揮されるため、RJ水溶性粗分画溶液が有する非特異的な神経細胞変形作用が低下するためではないかと推察される。
【0052】
表1の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で4時間以上で酵素処理をすることにより得られるRJ分解物は、アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分とほぼ同等であり、神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも著しく軽減しており、かつ、グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している、という特徴を有していることが明らかである。
【0053】
[実施例6]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する、ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害活性を調べるため、中和活性試験を行った。具体的には、アカゲザルの胎児腎臓由来のMA104細胞の細胞培養液中に、ヒトロタウィルスと共に、RJ若しくはRJ分解物を添加することにより、ヒトロタウィルス感染に対するRJ分解物の影響を観察した。RJとして、実施例4と同様にして調製したRJ水溶性粗分画溶液を用いた。また、RJ分解物として、反応時間を24時間とした以外は全て実施例4と同様にして調製したpH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物を、それぞれ用いた。なお、MA104細胞は、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。細胞培養液として、10%FCS(牛胎児血清)及び10%TPB(トリプトースホスフェートブロース)含有Eagle’ MEM培地(日水製薬社製)に、若干量の抗生物質等を添加したものを用いた。
【0054】
まず、24cm2TCフラスコに5.0×105cells/flaskとなるようにまいて5日間培養したMA104細胞を用いて調製した細胞懸濁液に、ヒトロタウィルス溶液(宮城がんセンター製)と、RJ水溶性粗分画溶液又はRJ分解物を添加した。ヒトロタウィルス溶液は、最終濃度が6.5×104FCFU/mLとなるように添加した。また、RJ水溶性粗分画溶液、pH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物は、各タンパク質の細胞培養液中の最終濃度が表2記載の濃度となるようにそれぞれ添加した。RJ分解物等に代えて、等量の細胞培養液を添加したものをコントロールとして用いた。その後、22時間培養した後、一次抗体としてハトロタウィルス株PO−13 VP6を認識するP3−1を、二次抗体としてFITC標識ヤギ抗マウスIgGを、それぞれ用いた間接蛍光抗体法により、ヒトロタウィルスに感染したMA104細胞数を測定した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2は、ヒトロタウィルスの中和活性試験の結果を示した図である。感染細胞数は、コントロールの感染細胞数を100%として、それぞれ表している。RJ水溶性粗分画溶液を添加した場合には、約300μg/mL以上の濃度でウィルス感染が促進され、約300μg/mL以下の濃度ではウィルス感染が抑制される傾向が観察された。つまり、高濃度では感染を促進し、低濃度では感染を抑制するという、作用の二面性を有する可能性が示唆された。
【0057】
一方、pH7で分解して得たRJ分解物は、37μg/mL以上の濃度でウィルス感染が促進され、18.5μg/mL以下の濃度ではウィルス感染が抑制される傾向が観察された。つまり、pH7で分解して得たRJ分解物は、RJ水溶性粗分画溶液と同様に、高濃度では感染を促進し、低濃度では感染を抑制するが、感染抑制から促進へ転換するタンパク質濃度が低濃度側にシフトしていた。これに対して、40μg/mL以下の濃度のpH9で分解して得たRJ分解物を添加した場合には、RJ水溶性粗分画溶液を添加した場合よりも大きな感染阻害効果を示した。特に、pH9で分解して得たRJ分解物は、16.5μg/mL以下の濃度では、タンパク質濃度依存的に感染阻害効果を示した。また、反応時間が4時間以上である場合には、反応時間が長いRJ分解物ほど、低濃度における感染抑制効果の濃度依存性が顕著であった。
【0058】
表2の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で4時間以上で酵素処理をすることにより得られるRJ分解物は、ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している、という特徴を有していることが明らかである。
【0059】
[実施例7]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する、細胞増殖活性を調べるため、ラットの小腸由来のIEC−6細胞を用いてWST−1法を行った。具体的には、IEC−6細胞を2.0×105cells/mLとなるようにまいて24時間培養した後、培養液をRJ分解物含有培養液に交換して、さらに24時間培養する。その後、培養液中に、テトラゾリウム塩WST−1(和光純薬工業社製)を添加して2時間培養した後、細胞培養液の450nmの吸光度を測定することにより、フォルマザン産物の産生量を測定した。RJ分解物として、反応時間を24時間とした以外は全て実施例4と同様にして調製したpH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物を、それぞれ用いた。なお、IEC−6細胞の培養は常法により行った。
この結果、pH7で分解して得たRJ分解物では、RJ分解物の濃度が1mg/mL以下である場合には、細胞増殖促進傾向が、1mg/mL以上である場合には、細胞増殖抑制傾向が、それぞれ観察された。
【0060】
実施例6及び7の結果から、実施例6においてRJタンパク質の濃度依存的にウィルス感染の促進及び抑制という二面性が観察された理由の一つとして、RJタンパク質の細胞増殖促進効果による可能性があると推察される。つまり、細胞増殖のコントロールを一因として、RJタンパク質及びそのペプチドフラグメントが、ヒトロタウィルス感染をコントロールする作用を示す可能性が示唆された。
【0061】
[実施例8]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する細胞増殖活性をより詳細に解析するために、RJ分解物を脱塩処理した後の細胞増殖活性を調べた。
1.脱塩処理
まず、反応時間を24時間とした以外は全て実施例4と同様にして、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH7で酵素処理して得たRJ分解物(以下、RJ分解物(pH7)ということがある。)、及びpH9で酵素処理して得たRJ分解物(以下、RJ分解物(pH9)ということがある。)を、それぞれ調製した。
得られたRJ分解物(pH7)とRJ分解物(pH9)を、それぞれ、Hi Trap Desaltingカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてサイズ分画を行った。吸光度(280nm)及び伝導率を測定して得られた溶出パターンに従って、脱塩したフラクション(以下、フラクションD1)と塩を含むフラクション(以下、フラクションD2)の2つのフラクションを分取した。
図6は、Hi Trap Desaltingカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(280nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がRJ分解物(pH9)の吸光度、点線がRJ分解物(pH7)の吸光度、二点鎖線がRJ分解物(pH9)の伝導率、一点鎖線がRJ分解物(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「D1」がフラクションD1として分取した画分であり、「D2」がフラクションD2として分取した画分である。
【0062】
2.細胞増殖活性の測定
細胞の培養液として、FCS等の増殖因子を含有しない培養液(対照培養液)にRJ分解物(pH9)のフラクションD1(フラクションD1(pH9))を含有させた培養液又は対照培養液にRJ分解物(pH7)のフラクションD1(フラクションD1(pH7))を含有させた培養液を用いた以外は、実施例7と同様にして、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を測定した。ポジティブコントロールとして10%FCS含有培養液を、ネガティブコントロールとして対照培養液を、それぞれ用いた。各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量は、対照培養液を添加した場合に産生されたフォルマザン産物量に対する、各培養液を添加した場合に産生されたフォルマザン産物量の比率で表した。
図7は、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。図7(a)は、フラクションD1(pH9)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果であり、図7(b)は、フラクションD1(pH7)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションD1由来のタンパク質濃度を示している。
図7(a)の結果に示されるように、培養液中のフラクションD1(pH9)濃度依存的に、細胞増殖量が増大することが分かった。特にフラクションD1(pH9)濃度が50.5μg/mLの培養液を用いて培養した場合には、10%FCS含有培養液を用いた場合とほぼ同程度に細胞増殖が促進されていた。但し、フラクションD1(pH9)濃度が84.2μg/mL以上の培養液の場合には、濃度依存的に細胞増殖量が減少する傾向が観察されたことから、フラクションD1(pH9)による細胞増殖促進効果(細胞増殖活性)には、至適濃度があることが示唆された。
一方で、図7(b)の結果に示されるように、培養液にフラクションD1(pH7)を含有させた場合には、細胞増殖量はほとんど変化せず、フラクションD1(pH7)は細胞増殖に著しい影響を与えることはないことが明らかになった。
すなわち、実施例8の結果からも、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で酵素処理して得たRJ分解物は細胞増殖活性を有することが明らかである。
【0063】
[実施例9]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する細胞増殖活性をより詳細に解析するために、RJ分解物を粗精製した後の細胞増殖活性を調べた。
1.粗精製
実施例8において調製したRJ分解物(pH9)のフラクションD2(フラクションD2(pH9))及びRJ分解物(pH7)のフラクションD2(フラクションD2(pH7))を、Cosmosil(登録商標)5C18−ARカラム(ナカライテスク社製)を用いて、粗精製を行った。吸着バッファーとして、0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)溶液を、溶出バッファーとして、0.05%TFA含有90%アセトニトリル溶液を、それぞれ用いた。吸光度(215nm及び280nm)及び伝導率を測定して得られた溶出パターンに従って、非吸着フラクション(以下、フラクションC1)と吸着フラクション(以下、フラクションC2)の2つのフラクションを分取した。
図8は、Cosmosil(登録商標)5C18−ARカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(215nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がフラクションD2(pH9)の吸光度、点線がフラクションD2(pH7)の吸光度、二点鎖線がフラクションD2(pH9)の伝導率、一点鎖線がフラクションD2(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「C1(pH7)」がフラクションC1(pH7)として、「C1(pH9)」がフラクションC1(pH9)として、「C2(pH7)」がフラクションC2(pH7)として、「C2(pH9)」がフラクションC2(pH9)として、それぞれ分取した画分である。
【0064】
2.フラクションC1の細胞増殖活性の測定
細胞の培養液として、フラクションD2(pH9)のフラクションC1(フラクションC1(pH9))を希釈した培養液又はフラクションD2(pH7)のフラクションC1(フラクションC1(pH7))を希釈した培養液を用いた以外は、実施例7と同様にして、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を測定した。なお、フラクションC1(pH9)又はフラクションC1(pH7)の希釈には、対照培養液を用いた。
図9は、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。図9(a)は、フラクションC1(pH9)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果であり、図9(b)は、フラクションC1(pH7)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。
図9(a)と(b)の結果に示されるように、フラクションC1(pH9)とフラクションC1(pH7)のいずれを含有させた培養液においても、細胞増殖が促進されていた。両者を比較すると、フラクションC1(pH7)を含有させた場合よりも、フラクションC1(pH9)を含有させた場合のほうが、細胞増殖促進効果が高い傾向が観察された。
【0065】
3.フラクションC2の細胞増殖活性の測定
細胞の培養液として、対照培養液にフラクションD2(pH9)のフラクションC2(フラクションC2(pH9))を含有させた培養液又は対照培養液にフラクションD2(pH7)のフラクションC2(フラクションC2(pH7))を含有させた培養液を用いた以外は、実施例7と同様にして、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を測定した。
図10は、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。図10(a)は、フラクションC2(pH9)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果であり、図10(b)は、フラクションC2(pH7)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションC2由来のタンパク質濃度を示している。
この結果、培養液にフラクションC2(pH9)を含有させた場合には、培養液中の濃度が3.42μg/mL以下では、濃度依存的に細胞増殖量が増大し、3.42μg/mL超では、濃度依存的に細胞増殖量が減少する傾向が観察された。一方、培養液にフラクションC2(pH7)を含有させた場合には、培養液中の濃度が4.67μg/mL以下では、濃度依存的に細胞増殖量が増大し、4.67μg/mL超では、濃度依存的に細胞増殖量が減少する傾向が観察された。また、両者を比較すると、フラクションC2(pH7)を含有させた場合よりも、フラクションC2(pH9)を含有させた場合のほうが、細胞増殖促進効果が高い傾向が観察された。
【0066】
したがって、実施例9の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて酵素処理して得たRJ分解物は細胞増殖活性を有すること、及び、pH7の反応条件で酵素処理して得たRJ分解物よりも、pH9の反応条件で酵素処理して得たRJ分解物のほうが、高い細胞増殖活性を有することが明らかである。
【0067】
[実施例10]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する抗酸化活性を調べた。
1.RJ分解物の調製
RJ(中国産)に純水を加えて懸濁したものを、孔径10kDの透析膜を用いて、純水にて72時間透析した。透析膜内液を回収し、凍結乾燥した後、再び純水に懸濁し、30mg/mLのRJタンパク質溶液を調製した。
1mLの該RJタンパク質溶液に、1mLのRJ分解酵素含有物(3mg/mL)、8mLのトリス−塩酸バッファー(pH9.0)を加え、37℃で24時間インキュベートした。その後、孔径500Daの透析膜を用いて、純水にて5日間透析した。透析膜内液を回収し、凍結乾燥したものを、RJ分解物とした。なお、RJ分解酵素含有物は、実施例1と同様にして調製したものを用いた。
【0068】
2.抗酸化活性測定
RJ分解物の抗酸化活性は、柳内ら(日本食品科学工学会誌、第51巻第5号、第238〜246ページ、2004年)の方法に従い、一酸化塩素(ClO・)によるBSA分解に対するRJ分解物の影響を調べることにより測定した。
具体的には、まず、BSA含有PBS(リン酸緩衝生理食塩水)に、PBSを用いて希釈したRJ分解物を添加することにより、BSA(最終濃度40μg/mL)及びRJ分解物(最終濃度0、0.3、0.5、1.0、又は2.0μg/mL)を含有するPBS試料溶液を調製した。該PBS試料溶液に、最終濃度1.7mMとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加え、37℃で30分間インキュベートした。その後、SDS−PAGEによって、PBS試料溶液中のタンパク質を分離し、CBB染色することにより検出した。CBB染色像をスキャナーで取り込んだ後、BSAに相当するバンドの濃度を解析した。各PBS試料溶液のBSA濃度は、次亜塩素酸ナトリウムを添加しなかったPBS試料溶液をブランクとし、ブランクのBSA濃度を1とした場合の相対濃度を調べた。なお、バンドの濃度解析は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)が提供する解析ソフトImageJを用いて行った。また、RJ分解物に代えて、公知の抗酸化剤であるアスコルビン酸(最終濃度0、3.0、4.0、5.0、又は7.5mM)又はカルノシン(最終濃度0、2.5、5.0、7.5、又は10.0mM)を添加したPBS試料溶液についても、同様にBSA濃度を調べた。
図11は、各PBS試料溶液のBSA濃度の結果を示した図である。図11(a)はRJ分解物を添加した場合の結果であり、図11(b)はアスコルビン酸を添加した場合の結果であり、図11(c)はカルノシンを添加した場合の結果である。この結果、RJ分解物を添加しなかった場合には、BSAはCBB染色によりバンドが検出されず、ほぼ全てのBSAが、分解されていた。これに対して、RJ分解物を添加した場合には、アスコルビン酸やカルノシンと同様に、PBS試料溶液への添加量依存的にBSAの相対濃度は大きくなった。これは、次亜塩素酸ナトリウムから産生された一酸化塩素によるBSAの分解が、RJ分解物により抑制されたためであると推察される。
また、図11の結果を元に、一酸化塩素によるBSA分解を50%まで抑制する濃度を算出したところ、RJ分解物では0.92±0.24mg/mLであり、アスコルビン酸では0.67±0.01mg/mL(3.83±0.08mM)であり、カルノシンでは0.84±0.10mg/mL(3.65±0.32mM)であった。すなわち、一酸化塩素によるBSA分解に対する抗酸化力において、RJ分解物は混合物であるにもかかわらず、公知の抗酸化剤であるアスコルビン酸やカルノシンに匹敵する抗酸化力を有していることが認められた。
これら実施例10の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で酵素処理して得たRJ分解物は抗酸化活性を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のRJ分解酵素含有物は、女王蜂幼虫が有する、RJを本来の基質とするRJ分解酵素が含有されているものであり、RJの分解に最適であることから、RJの生理活性の研究や、RJを用いた医薬品及又は食品の開発等の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】RJタンパク質溶液と該RJ分解酵素溶液を添加して混合した酵素反応液を、37℃で反応させた後、該酵素反応液中のRJタンパク質を分離するためにSDS−PAGEをした結果得られた染色像を、pH毎に示した図である。(a)はpH4、(b)はpH5、(c)はpH6、(d)はpH6.5、(e)はpH7、(f)はpH7.5、(g)はpH8、及び(h)はpH9である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を表している。また、Mは分子量マーカーを示している。矢印アは約51kDaのバンドを、矢印イは約46kDaのバンドを、それぞれ示している。
【図2】実施例1において、SDS−PAGEの結果を、pH毎に示した図である。(a)はpH7、(b)はpH9の染色像である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDa、矢印ウが約33kDa、及び矢印エが約25kDaのバンドをそれぞれ示している。
【図3】実施例1において、図2の染色像のバンドの強度を測定し、反応開始0時間でのバンド強度を1として、反応時間経過に伴うバンド強度の変化を示したものである。(a)は約51kDaのバンドの強度比を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、(c)は約33kDa及び約25kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。(a)と(b)の図中の●はpH7のバンドを、○はpH9のバンドを、それぞれ示している。また、(c)の図中の△はpH7における約33kDaのバンドを、▲はpH7における約25kDaのバンドを、それぞれ示している。
【図4】実施例2において、pH9の条件下においてRJタンパク質を分解した結果を表した図である。(a)は、SDS−PAGEの結果得られたゲルの染色像を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。図(a)中のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。また、矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDaをそれぞれ示している。
【図5】実施例3において、測定した280nmの吸光度の結果を表した図である。(a)は反応開始前、(b)は反応開始後8時間、(c)は反応開始後16時間、及び(d)は反応開始後24時間の結果である。また、図中の矢印アが約350kDa、矢印イが約60kDa、矢印ウが約5kDa、矢印エが約3kDa、及び範囲オが数百Daのタンパク質の画分をそれぞれ示している。
【図6】実施例8のHi Trap Desaltingカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(280nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。吸光度(280nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がRJ分解物(pH9)の吸光度、点線がRJ分解物(pH7)の吸光度、二点鎖線がRJ分解物(pH9)の伝導率、一点鎖線がRJ分解物(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「D1」がフラクションD1として分取した画分であり、「D2」がフラクションD2として分取した画分である。
【図7】実施例8において、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。(a)は、フラクションD1(pH9)を含有させた培養液を添加した場合の結果であり、(b)は、フラクションD1(pH7)を含有させた培養液を添加した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションD1由来のタンパク質濃度を示している。
【図8】実施例9のCosmosil(登録商標)5C18−ARカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(215nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がフラクションD2(pH9)の吸光度、点線がフラクションD2(pH7)の吸光度、二点鎖線がフラクションD2(pH9)の伝導率、一点鎖線がフラクションD2(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「C1(pH7)」がフラクションC1(pH7)として、「C1(pH9)」がフラクションC1(pH9)として、「C2(pH7)」がフラクションC2(pH7)として、「C2(pH9)」がフラクションC2(pH9)として、それぞれ分取した画分である。
【図9】実施例9において、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。(a)は、フラクションC1(pH9)を含有させた培養液を添加した場合の結果であり、(b)は、フラクションC1(pH7)を含有させた培養液を添加した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。
【図10】実施例9において、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。(a)は、フラクションC2(pH9)を含有させた培養液を添加した場合の結果であり、(b)は、フラクションC2(pH7)を含有させた培養液を添加した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションC2由来のタンパク質濃度を示している。
【図11】実施例10において、各PBS試料溶液のBSA濃度の結果を示した図である。(a)はRJ分解物を添加した場合の結果であり、(b)はアスコルビン酸を添加した場合の結果であり、(c)はカルノシンを添加した場合の結果である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から調製したローヤルゼリー分解酵素含有物、該ローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されるローヤルゼリー分解酵素、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いて調製することを特徴とするローヤルゼリー分解物、並びに、該ローヤルゼリー分解酵素含有物又は該ローヤルゼリー分解酵素を用いるローヤルゼリーの分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ローヤルゼリーは、女王蜂幼虫を生育させるために、働き蜂が下咽頭腺と大腮腺から分泌する乳白色ゼリー状の栄養物質である。女王蜂は働き蜂と遺伝的に同質であるため、ローヤルゼリー中には、女王蜂への分化を誘導する何らかの制御因子が含まれていると考えられているが、該物質は未だ明らかにされてはいない。該制御因子及び女王蜂への分化誘導機構の解明は、女王蜂の人工生産の効率化等に有用であり、世界中の研究者によって研究が進められている。
【0003】
ローヤルゼリーは、蜂群や品種、ミツバチが花蜜や花粉等を採取する花の種類等により変動するが、通常、生重量の約2/3が水分であり、タンパク質、糖質、及び脂肪酸を主成分とする。その他にも、ビタミンやミネラル等も多く含有されており、非常に栄養価に優れている。また、科学的に立証されてはいないものの、昔から、疲労回復作用、抗アレルギー作用、抗癌作用、免疫増強作用等の多くの薬理作用を有すると考えられている。このため、栄養補助食品や医薬品原料として広く用いられている。
【0004】
近年、ローヤルゼリーの乾燥重量の約40%を占めるタンパク質が、ローヤルゼリーの主要な生理活性物質として、注目されてきている。特に、ローヤルゼリータンパク質分解物の生理活性を用いた発明が、多く報告されている。例えば、(1)ローヤルゼリー中の蛋白質をプロテアーゼによって分解して得られる分子量3,000以下のペプチドを有効成分として含有することを特徴とする感染防御機能増強剤に係る発明が報告されている(例えば、特許文献1参照。)。該発明は、プロテアーゼによるローヤルゼリータンパク質分解物が、未分解のローヤルゼリータンパク質よりも感染防御機能が優れている上に、低粘度かつ水溶性であり、安定性に優れているため、食品への添加及び経口摂取が容易である、という知見に基づいた発明である。また、(2)ローヤルゼリー素材をトリプシンで処理してなるアンジオテンシン変換酵素阻害作用を有する蛋白分解物に係る発明も報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
その他、食品としての利用におけるローヤルゼリー分解物に係る発明として、(3)アレルギー性が低減された低アレルゲン化ローヤルゼリーであって、10−ハイドロキシデセン酸及びローヤルゼリー由来のペプチド性成分を含有し、該ペプチド性成分は分子量4.5kDa以下の成分から構成されていることを特徴とする低アレルゲン化ローヤルゼリーも報告されている(例えば、特許文献3参照。)。該発明は、蛋白質分解酵素処理と、β−マンノシダーゼを用いた糖分解酵素処理により、ローヤルゼリー由来のペプチド性成分のうち、アレルギーを引き起こしやすい分子量4.5kDaを超える成分が分解除去されることから、アレルギー性を低減させることが容易となる、という知見に基づいた発明である。
【0006】
このように、ローヤルゼリー分解物、特にローヤルゼリータンパク質分解物が有する多種多様な生理活性については、多くの報告があるが、具体的な生理活性物質や、その詳細な作用機序までもが解明されているものは非常に少ない。生理活性物質の特定や作用機序の解明は、ミツバチの分化機構の解明や、ヒト等の動物にとってより有効な医薬品や機能性食品等の開発に寄与するものであるから、ローヤルゼリー分解物についてのさらなる調査・研究が強く望まれている。そして、ローヤルゼリー分解物の調査等を効果的に行うためには、機能性ペプチド等の生理活性の高い分解物を豊富に含有するローヤルゼリー分解物を得ることが肝要である。
【特許文献1】特開平8−59499号公報
【特許文献2】特開2005−255670号公報
【特許文献3】特開2005−287411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記(1)の方法をはじめ、現在用いられている方法の多くは、ローヤルゼリータンパク質を汎用されているプロテアーゼ等を用いて適当に分解しているにすぎない。該汎用プロテアーゼ等は、ローヤルゼリーを本来の基質としているものではないため、不適当な箇所での分解により、本来有用であるペプチドの機能を失活させているおそれがある。ローヤルゼリーを基質とするプロテアーゼ等を用いることにより、該おそれは解決できるが、そのような酵素は未だ見つかってはいない。
【0008】
本発明は、ローヤルゼリーから、機能性ペプチド等の生理活性の高い分解物を効率よく得るために最適なローヤルゼリー分解酵素、及び、該ローヤルゼリー分解酵素含有物を提供することを目的とする。
また、本発明は、該ローヤルゼリー分解酵素含有物等を用いて調製することを特徴とするローヤルゼリー分解物、並びに、該ローヤルゼリー分解酵素含有物等を用いるローヤルゼリーの分解方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ローヤルゼリーを主食とし、かつ、ローヤルゼリーの摂食により女王蜂への分化が制御されている女王蜂幼虫は、先天的にローヤルゼリーの分解に最適な分解酵素を有していると考え、女王蜂幼虫の幼虫体液抽出物から、ローヤルゼリータンパク質の分解活性を有する酵素を含有する画分を分離することにより、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物を提供するものである。
(a)前記女王蜂幼虫の体組織懸濁物を6℃以下で遠心処理することにより、白色固形の上層、溶液の中層、沈殿による下層の3層に分離する工程。
(b)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
また、本発明は、前記遠心処理が、8,000〜12,000×g、5分以上の遠心処理であることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素含有物を提供するものである。
また、本発明は、西洋ミツバチの2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物を提供するものである。
(a’)前記女王蜂幼虫を氷冷生理食塩水にて洗浄した後、裏ごしすることにより、乳白色の体組織懸濁物を調製する工程。
(b’)前記体組織懸濁物をpH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈した後、10,000×g、5℃で10分間の遠心処理をすることにより、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離する工程。
(c’)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて調製されたローヤルゼリー分解物を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られる、下記の特徴を有するローヤルゼリー分解物を提供するものである。
(1)神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも軽減していること、
(2)アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分とほぼ同等であること、
(3)グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること、
(4)ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする抗酸化剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする細胞増殖剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする感染阻害剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする神経細胞死誘導抑制剤を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法を提供するものである。
また、本発明は、いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、酵素活性の至適pHが7又は9であることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素を用いて調製されたローヤルゼリー分解物を提供するものである。
また、本発明は、前記いずれか記載のローヤルゼリー分解酵素を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のローヤルゼリー分解酵素含有物及びローヤルゼリー分解酵素により、ローヤルゼリーに含有されている機能性ペプチド等が有する生理活性を損なうおそれなく、ローヤルゼリーを分解することができる。
また、本発明のローヤルゼリー分解酵素含有物等により分解されたローヤルゼリー分解物は、生理活性の高い機能性ペプチド等を豊富に含有するため、ローヤルゼリーの生理活性の調査・研究において、非常に効率の良い試料を提供し得る。さらに、本発明のローヤルゼリー分解物を用いることにより、従来食されているローヤルゼリー含有食品等よりも、機能性と消化吸収性に優れた食品等を提供することができる。
その他、本発明のローヤルゼリー分解方法により、ローヤルゼリーを効率よく分解することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における女王蜂幼虫は、西洋ミツバチの2〜3日齢の女王蜂幼虫であれば、特に限定されるものではない。生きている新鮮な幼虫であってもよく、冷凍保存後の幼虫であってもよい。ローヤルゼリー(以下、RJと略記する。)分解酵素等の活性が高いと考えられるため、生きている新鮮な幼虫を用いることが好ましい。幼虫の冷凍保存は、常法により行うことができるが、RJ分解酵素の失活を防止するために、液体窒素等を用いて急冷後、−80℃で保存することが好ましい。
【0013】
本発明における体組織懸濁物とは、幼虫の体組織、主に内臓及び体液を懸濁したものを意味する。該内臓等は特に限定されるものではないが、幼虫個体の体組織全体を懸濁したものであることが好ましい。
【0014】
幼虫から体組織懸濁物を調製する方法は、通常、動物等から組織懸濁液を調製する方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、幼虫の体組織全体や内臓、又は体液を、メッシュ等を用いて裏ごししてもよく、すり鉢やミキサー、ホモジナイザー等を用いて調製してもよい。緩和な条件下で体組織懸濁物を調製することができるため、メッシュ等を用いて裏ごしすることが好ましい。該メッシュは、網目の粗さが、80メッシュ〜120メッシュであることが好ましい。ミキサー等を用いる場合には、熱の過剰発生を防止するために、生理食塩水等を添加して行うことが好ましい。なお、不純物の混入を防止するため、幼虫は、体組織懸濁物調製前に、冷凍保存する場合には保存前に、予め生理食塩水等で洗浄しておくことが好ましい。
【0015】
本発明のRJ分解酵素含有物を調製するためには、まず、工程(a)として、女王蜂幼虫の体組織懸濁物を、6℃以下で遠心処理をすることにより、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離する。遠心処理をする前に、中性かつ低濃度の緩衝液等を用いて希釈することにより、体組織懸濁物の粘度や濃度を適宜調整することが好ましい。体組織懸濁物の粘性や濃度が高い場合には、RJ分解酵素の抽出効率が低下するおそれや、作業性が悪化するおそれがあるためである。該緩衝液として、例えば、リン酸緩衝液(50mM、pH7.0)や生理食塩水等がある。なお、該上層は脂質成分であり、該下層は体組織の不溶性成分と推定される。
【0016】
該遠心処理の条件は、体組織懸濁物を3層に遠心分離することが可能である限り、特に限定されるものではないが、8,000〜12,000×g、6℃以下で5分以上の遠心処理であることが好ましい。10,000×g、5℃で10分間の遠心処理をすることが特に好ましい。遠心速度が低い場合や、遠心時間が短い場合には、3層にきれいに分離しないおそれがある。
【0017】
次に、工程(b)として、3層のうちの中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収することにより、本発明のRJ分解酵素含有物を調製することができる。該回収方法は、常法により行うことができる。抽出の精度を高めるため、該中層を工程(a)と同じ条件で再度遠心処理をすることが好ましい。
【0018】
工程(b)の後、該中層に混入した不溶性の組織片等の不溶物を取り除くため、該中層を濾過することが好ましい。微生物等によるコンタミネーションも防止できることから、該濾過には、0.2μmのフィルター等を用いることが好ましい。
【0019】
なお、幼虫体液抽出物の調製や、幼虫体液抽出物からのローヤルゼリー分解酵素含有物の調製は、幼虫体液抽出物に含まれている酵素が失活するおそれがあるため、遠心処理は3〜6℃で行うことが好ましい。また、その他の操作は氷冷下において行うことが好ましい。
【0020】
本発明のRJ分解物は、本発明のRJの分解方法により、すなわち、本発明のRJ分解酵素含有物を用いることにより、調製することができる。該RJは、生のRJであってもよく、乾燥粉末RJを還元したものであってもよい。また、該RJは、いずれの産地のものであってもよく、いずれの蜂種が産生したものであってもよい。さらに、該RJは、RJから常法により分画したタンパク質であってもよい。特にRJの水溶性タンパク質であることが好ましい。生理活性を有する物質が多く含有されていることが期待できるためである。
【0021】
RJの水溶性タンパク質の分画は、水溶性のタンパク質と疎水性のタンパク質を分離することができる方法であれば、いずれの方法を用いてもよい。該方法として、例えば、水溶性溶媒とRJを混合した懸濁液を、酢酸エチルやブタノール等の有機溶媒で分配処理して抽出精製する方法や、該懸濁液を、静置した後遠心処理をすることにより上清を得る方法等がある。
【0022】
例えば、RJやRJの水溶性タンパク質に、本発明のRJ分解酵素含有物を添加して、インキュベートする方法により、RJ分解物を調製することができる。RJ等は、予めリン酸緩衝液等を用いて希釈しておいてもよい。また、リン酸緩衝液等を用いてタンパク質濃度や粘度を調製したRJ分解酵素含有物を用いてもよい。
【0023】
該インキュベートの温度や時間は、本発明のRJ分解酵素含有物のRJ分解活性が阻害されない条件であれば、特に限定されるものではないが、反応温度条件は30〜40℃が好ましく、34〜38℃が特に好ましい。また、pH6.5〜10が好ましく、pH7〜9.5が特に好ましい。pH7〜7.5の反応条件で行う場合には、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で約51kDaの位置にバンドとして表れるタンパク質が主に分解され、pH8.5〜9の反応条件で行う場合には、SDS−PAGEで約46kDaの位置にバンドとして表れるタンパク質が主に分解される。
【0024】
以下、本発明のRJの分解方法について、さらに詳細に説明する。
まず、後記実施例1に記載する方法により調製したRJ分解酵素含有物のタンパク質濃度を、BSAを標準物質としてLowry法を用いて測定した後、pH7の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈することにより、6mg/mLのRJ分解酵素溶液を調製した。
次に、8mLの緩衝液に、1mLの後記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液(30mg/mL)と、1mLの該RJ分解酵素溶液(6mg/mL)を添加して混合した酵素反応液を調製した。該酵素反応液を37℃で反応させ、氷冷して反応を停止させた後、SDS−PAGEによって、RJタンパク質の変化を確認した。分離したRJタンパク質は、CBB R−250を用いて染色した。緩衝液は、pH4、5、及び5.5の50mMの酢酸緩衝液、pH6、6.5、7、及び7.5の50mMのリン酸緩衝液、pH8及び9の50mMのTri−HCl緩衝液を、それぞれ用いた。
【0025】
図1は、SDS−PAGEの結果を、pH毎に示した図である。(a)はpH4、(b)はpH5、(c)はpH6、(d)はpH6.5、(e)はpH7、(f)はpH7.5、(g)はpH8、及び(h)はpH9である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を表している。また、Mは分子量マーカーを示している。後記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液をSDS−PAGEすると、約51kDaと約46kDaの位置に強いバンドが検出された。矢印アが約51kDaのバンドを示し、矢印イが約46kDaのバンドを示している。この結果、RJタンパク質がRJ分解酵素溶液による処理によって減少していること、及び、pHの上昇に伴い、分解速度が上がっていることが分かった。特に、pH7〜7.5の反応条件では、主に約51kDaのタンパク質が分解され、pH8.5〜9の反応条件では、主に約46kDaのタンパク質が分解されることが確認された。すなわち、後記実施例1に記載する方法により調製したRJ分解酵素含有物中には、RJタンパク質を分解する酵素が含有されていることが、図1の結果から明らかである。また、中性条件下とアルカリ性条件下で該RJ分解酵素含有物によるRJタンパク質分解パターンが異なっていることから、該RJ分解酵素含有物には少なくとも2種類の分解酵素が存在していると推定される。
【0026】
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、RJをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られたRJ分解物は、種々の生理活性を有している。該生理活性は、未酵素処理のRJ水溶性画分が有する生理活性と比べて、幾つかの特徴を有している。例えば、該RJ分解物は、アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のRJ水溶性画分とほぼ同等であるが、神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも軽減している。また、グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している。その他、ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している。
【0027】
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、RJをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られたRJ分解物は、抗酸化活性をも有している。したがって、該RJ分解物は抗酸化剤としても用いることができる。例えば、該RJ分解物は、その抗酸化活性により、一酸化塩素(ClO・)等のラジカルによるタンパク質分解を抑制することができる。RJは古くから摂食されている食品であることから、該RJ分解物も非常に安全であり、アスコルビン酸等と同様に、飲食品へ添加される抗酸化剤や、生体を酸化ストレスから保護することを目的として接食されるサプリメントの有効成分等としても有用であることが期待できる。
【0028】
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、RJをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られたRJ分解物は、上記のような生理活性を有しているため、抗酸化剤、細胞増殖剤、感染阻害剤、神経細胞死誘導抑制剤等の有効成分とすることができる。これらの生理活性剤は、サプリメント等の飲食品として単独で摂食されてもよく、他の飲食用組成物や医薬用組成物と同様に、飲食品や医薬品への添加剤として用いることもできる。
【0029】
該RJ分解物を有効成分としたこれらの生理活性剤の製造方法は、該RJ分解物の生理活性を阻害しないものであれば特に限定されるものではなく、通常、RJ又はRJ分解物を含有する飲食用組成物又は医薬用組成物を製造する場合に使用される方法を用いて製造することができる。これらの生理活性剤の剤型は、特に限定されるものではないが、経口剤に適した剤型であることが好ましい。例えば、ソフトカプセル剤であってもよく、ハードカプセル剤であってもよく、錠剤であってもよく、シロップ剤等であってもよい。また、これらの生理活性剤に含まれる該RJ分解物量は、該RJ分解物の生理活性が作用効果を奏し得る量であれば、特に限定されるものではなく、原料とするRJの種類、期待する該RJ分解物の生理活性、剤型等を考慮して、適宜決定することができる。
【0030】
該RJ分解物を有効成分としたこれらの生理活性剤の摂取量は、該RJ分解物の生理活性が作用効果を奏し得る量であれば、特に限定されるものではなく、摂取する人や動物の体重、年齢、性別等により適宜決定することができる。例えば、一日当たり300mg〜3gを、1度に又は数回に分けて摂取することが好ましい。
【実施例】
【0031】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
[参考例1] 幼虫懸濁物の調製
約15gの3日齢の西洋ミツバチの女王蜂幼虫を、採取した後、氷冷した生理食塩水で洗浄した。その後、ポリエステル製の平均100メッシュの布(「テトロン」、東レ社製)を用いて女王蜂幼虫を裏ごしすることで、幼虫の表皮を破り、体液及び内臓を搾り出した。これにより、乳白色の幼虫懸濁物を調製した。
【0033】
[参考例2]RJタンパク質溶液の調製
RJ(中国産)10mLに、pH7.0の50mMリン酸緩衝液20mLを加えて混合して、RJ希釈溶液を調製した。該RJ希釈溶液を、25,000×g、5℃で20分間遠心した後、不溶性成分を除去し、上清を回収した。その後、該上清を、pH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈し、30mg/mLのRJタンパク質溶液を調製した。
【0034】
[実施例1]
1.RJ分解酵素含有物の調製
参考例1に記載する方法により調製した幼虫懸濁物を、pH7の50mMリン酸緩衝液を用いて2倍希釈した後、10,000×g、5℃で10分間遠心した。該遠心処理により、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離された。該上層は脂質分、該下層は不溶性の体組織等と推定される。該中層を回収した後、さらに10,000×g、5℃で10分間遠心して3層に分離し、中層をRJ分解酵素含有物として回収した。該RJ分解酵素含有物を、除去しきれなかった不溶性の組織片を除去し、かつ滅菌するために、0.2μmのセルロースアセテート系フィルター(DISMIC−25CS、ADVANTEC社製)を用いて濾過した。これにより、黄色透明なRJ分解酵素含有物を得た。
【0035】
2.RJタンパク質の分解
該RJ分解酵素含有物のタンパク質濃度を、BSAを標準物質としてLowry法を用いて測定し、pH7の50mMリン酸緩衝液を用いて、3mg/mLのRJ分解酵素溶液を調製した。
8mLの緩衝液に、1mLの前記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液(30mg/mL)と、前記実施例1に記載する方法により調製した1mLのRJ分解酵素溶液(6mg/mL)を添加して混合した酵素反応液を調製した。該緩衝液として、pH7の50mMのリン酸緩衝液、若しくは、pH9の50mMのTri−HCl緩衝液を用いた。該酵素反応液を37℃で反応させ、氷冷して反応を停止させた後、SDS−PAGEによって、RJタンパク質を分離した。CBB R−250を用いて染色したゲルを乾燥させた後、蛍光スキャナーTyphoon 9400(アマシャムバイオサイエンス社製)を用いて染色像を得た。
【0036】
図2は、SDS−PAGEの結果を、pH毎に示した図である。(a)はpH7、(b)はpH9の染色像である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDa、矢印ウが約33kDa、及び矢印エが約25kDaのバンドをそれぞれ示している。この結果、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質が分解されていることが確認された。特に、pH9において、反応開始後4時間という短時間において、約46kDaのタンパク質が、検出できない程分解されていることが分かった。また、pH7において、反応時間の経過と共に、約33kDaと約25kDaのタンパク質が検出されるようになった。
【0037】
画像解析ソフトImageQuant(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて、図2の染色像の各バンドのバンド強度を定量した。図3は、反応開始0時間でのバンド強度を1として、反応時間経過に伴うバンド強度の変化を示したものである。(a)は約51kDaのバンドの強度比を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、(c)は約33kDa及び約25kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。(a)と(b)の図中の●はpH7のバンドを、○はpH9のバンドを、それぞれ示している。また、(c)の図中の△はpH7における約33kDaのバンドを、▲はpH7における約25kDaのバンドを、それぞれ示している。
【0038】
図3の(a)と(b)で示されているように、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質が分解されていることが、定量的にも確認することができた。また、図3の(c)の結果から、pH7において、反応開始後16時間まで、約33kDaと約25kDaのタンパク質が増加していることが確認された。この結果から、約33kDaと約25kDaのタンパク質は、約51kDa又は約46kDaのタンパク質が、RJ分解酵素溶液中に含有されているRJ分解酵素により、分解されてできた分解物である可能性が示唆される。
【0039】
[実施例2]
反応時間を60分までとした以外は、全て実施例1のpH9の条件下における反応と同様にして、RJタンパク質を分解し、SDS−PAGEによって、RJタンパク質を分離して、各バンドの強度を定量した。図4の(a)はゲルの染色像を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。図中のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。また、矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDaをそれぞれ示している。
【0040】
この結果、約46kDaのタンパク質が、RJ分解酵素溶液中に含有されているRJ分解酵素により、反応開始後1時間という短時間に、およそ80%が分解されていることが確認された。なお、図(b)により、反応開始後5分の時点では、分解がほとんど生じていない結果となったが、これは、RJ分解酵素による酵素反応を開始する前に、RJタンパク質溶液を37℃でプレインキュベートしなかったために、酵素反応が開始するまでにタイムラグが発生してしまったためではないかと推察される。
【0041】
[実施例3]
反応時間を24時間までとした以外は、全て実施例1のpH7の条件下における反応と同様にして、RJタンパク質を分解した。その後、氷冷して反応を停止させた酵素反応液を、Superdex 200 HR 10/30(ファルマシア社製)を用いてゲル濾過クロマトグラフィーを行い、該酵素反応溶液中に含有されるタンパク質を分画した。ゲル濾過クロマトグラフィーは、溶離液として0.15Mの塩化ナトリウムを含む50mMのリン酸緩衝液(pH7)を用いて、流速0.5mL/min、5℃の条件で行った。分画されたタンパク質を検出するために、UV検出器を用いて280nmの吸光度を測定した。
【0042】
図5は、実施例3において測定した280nmの吸光度の結果を表した図である。(a)は反応開始前、(b)は反応開始後8時間、(c)は反応開始後16時間、及び(d)は反応開始後24時間の結果である。また、図中の矢印アが約350kDa、矢印イが約60kDa、矢印ウが約5kDa、矢印エが約3kDa、及び範囲オが数百Daのタンパク質の画分をそれぞれ示している。
反応時間の経過に伴い、約350kDa及び約60kDaのタンパク質が減少する一方、約5kDa、約3kDa、及び数百Daのタンパク質が増加していることが、図5の結果から明らかである。増加している約5kDa等のタンパク質は、約350kDa等のタンパク質の分解物であることが推察される。つまり、本発明のRJ分解酵素含有物により、RJの高分子タンパク質が分解されることが、ゲル濾過クロマトグラフィーによる分画の結果からも確認できた。
【0043】
[実施例4]
参考例2と同様にしてRJタンパク質溶液(30mg/mL)を調製した。また、希釈後の濃度を3mg/mLとした以外は全て実施例1と同様にしてRJ分解酵素溶液(3mg/mL)を調製した。
8mLの緩衝液に、1mLの該RJタンパク質溶液(30mg/mL)と、1mLの該RJ分解酵素溶液(3mg/mL)を添加して混合した酵素反応液を調製した。該緩衝液として、pH7の50mMのリン酸緩衝液、若しくは、pH9の50mMのTri−HCl緩衝液を用いた。該酵素反応液を4、20、37、及び50℃で、それぞれ反応させ、氷冷して反応を停止させた。各温度の恒温槽で該酵素反応液を混合した時点を反応開始時点とし、反応時間を4、16、24時間とした。氷冷後の該酵素反応液を、実施例1と同様にRJタンパク質を分離することにより、反応温度の影響を観察した。
【0044】
この結果、37℃では、実施例2と同様に、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質の分解が観察された。特に、pH9においては、反応開始4時間の時点で約46kDaのタンパク質は検出限界以下まで分解され、約51kDaのタンパク質も反応開始16時間の時点で検出限界以下まで分解された。
これに対し、4℃では、pH7及び9の双方において、約51kDaと約46kDaのタンパク質の分解はほとんど観察されなかった。20℃では、37℃の場合と比較し、分解反応の進行はゆるやかであったものの、約51kDaと約46kDaのタンパク質の分解が観察された。一方、50℃では、37℃よりもさらに分解反応は速やかであり、pH7及び9の双方において、反応開始4時間の時点で大部分のタンパク質が分解されていることが確認された。
【0045】
つまり、20〜50℃の温度範囲においては、本発明のRJ分解酵素含有物はRJを分解することができること、及び、該温度範囲においては、温度が高くなればなるほど、本発明のRJ分解酵素含有物によるRJの分解反応の進行は速やかであることが明らかである。但し、一般的に、50℃においては、RJの褐変化やRJタンパク質の変性等が起こる可能性がある。このため、本発明のRJ分解酵素含有物によりRJを分解する場合には、37℃付近の温度で行うことが好ましい。
【0046】
[実施例5]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する、脳神経細胞への生理活性を調べた。具体的には、初代培養したマウス胎児海馬神経細胞の、アミロイドによる神経細胞死誘導に対するRJ分解物の影響を調べた。なお、マウス胎児海馬神経細胞は、マウス胎児から常法により採取した海馬神経細胞を、グリア細胞を培養した96穴マルチウェルプレートに、4.0×104cells/wellとなるようにまき、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。細胞培養液として、B27サプリメント含有ニューロバーサルメディウム(ギブコ社製)を用いた。実験には、培養後1週間経過後の細胞を用いた。
【0047】
まず、RJ(中国産)5mLに、pH7.0の50mMリン酸緩衝液15mLを加えて混合して、RJ希釈溶液を調製した。該RJ希釈溶液を、25,000×g、5℃で20分間遠心した後、不溶性成分を除去し、上清を回収した。その後、該上清を凍結乾燥することにより、RJ水溶性粗分画を得た。該RJ水溶性粗分画を、pH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈し、30mg/mLのRJ水溶性粗分画溶液を調製した。
次に、前記参考例2に記載する方法により調製したRJタンパク質溶液に代えて、該RJ水溶性粗分画溶液を用いたこと、及び、反応時間を4時間としたこと以外は、全て実施例1と同様にして、該RJ水溶性粗分画溶液中に含有されるRJタンパク質を分解し、RJ分解物を得た。
【0048】
マウス胎児海馬神経細胞が培養された96穴マルチウェルプレートに、アミロイドペプチド(ペプチド研究所製)とRJ水溶性粗分画溶液又はRJ分解物を添加した後、48時間培養した。アミロイドペプチドは、2mg/mLの濃度で37℃、48時間保温した後、最終濃度が20μg/mLとなるように添加した。また、RJ水溶性粗分画溶液、pH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物は、各タンパク質の細胞培養液中の最終濃度が、それぞれ0、31.25、62.5、125、250、500、又は1,000μg/mLとなるように添加した。アミロイドペプチドとRJ分解物等のいずれも添加せず、等量の細胞培養液を添加したものをコントロールとして用いた。
その後、抗Map2抗体を用いた免疫染色やヘキスト33342色素染色により死細胞を識別し、各ディッシュ中のマウス胎児海馬神経細胞の生存数、グリア細胞の生存数をそれぞれ測定した。さらに、顕微鏡観察により、細胞変形が観察されたマウス胎児海馬神経細胞数を測定した。なお、細胞変形とは、神経細胞が、樹状突起を有する細胞体と軸索からなる神経細胞特有の形態から変化することを意味する。該変化には、例えば、突起形成、軸索の萎縮、多軸索化、神経細胞同士の凝集、神経細胞の死滅等がある。
【0049】
【表1】
【0050】
表1は、マウス胎児海馬神経細胞数等の測定結果を示したものである。生存神経細胞数及び変性神経細胞数は、コントロールの神経細胞数を100%として、また、グリア細胞数は、コントロールのグリア細胞数を100%として、それぞれ表している。初代培養したマウス胎児海馬神経細胞に、アミロイドペプチドを添加すると、約60%の神経細胞が死滅し、生存率は約40%であった。アミロイドペプチドと共にRJ水溶性粗分画溶液を添加すると、RJ水溶性粗分画溶液は、アミロイドによる神経細胞死誘導を容量依存的に阻害した。最大生存率は、60〜70%にまで回復した。RJ水溶性粗分画溶液による該効果は、62.5〜250μg/mLの低濃度においても認められた。但し、1,000μg/mL以上のRJ水溶性粗分画溶液を添加すると、非特異的な神経細胞変形作用が観察された。
【0051】
pH7で分解して得たRJ分解物を添加した場合には、RJ水溶性粗分画溶液を添加した場合とほぼ同様の効果が観察された。一方、pH9で分解して得たRJ分解物を添加した場合にも、RJ水溶性粗分画溶液と同様に、アミロイドによる神経細胞死誘導阻害効果が観察された。さらに、RJ水溶性粗分画溶液等と比較し、非特異的な神経細胞変形作用が低下し、グリア細胞への細胞増殖作用が増大していた。これは、グリア細胞等の増殖が促進される結果、神経保護効果がより強く発揮されるため、RJ水溶性粗分画溶液が有する非特異的な神経細胞変形作用が低下するためではないかと推察される。
【0052】
表1の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で4時間以上で酵素処理をすることにより得られるRJ分解物は、アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分とほぼ同等であり、神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも著しく軽減しており、かつ、グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している、という特徴を有していることが明らかである。
【0053】
[実施例6]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する、ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害活性を調べるため、中和活性試験を行った。具体的には、アカゲザルの胎児腎臓由来のMA104細胞の細胞培養液中に、ヒトロタウィルスと共に、RJ若しくはRJ分解物を添加することにより、ヒトロタウィルス感染に対するRJ分解物の影響を観察した。RJとして、実施例4と同様にして調製したRJ水溶性粗分画溶液を用いた。また、RJ分解物として、反応時間を24時間とした以外は全て実施例4と同様にして調製したpH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物を、それぞれ用いた。なお、MA104細胞は、37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。細胞培養液として、10%FCS(牛胎児血清)及び10%TPB(トリプトースホスフェートブロース)含有Eagle’ MEM培地(日水製薬社製)に、若干量の抗生物質等を添加したものを用いた。
【0054】
まず、24cm2TCフラスコに5.0×105cells/flaskとなるようにまいて5日間培養したMA104細胞を用いて調製した細胞懸濁液に、ヒトロタウィルス溶液(宮城がんセンター製)と、RJ水溶性粗分画溶液又はRJ分解物を添加した。ヒトロタウィルス溶液は、最終濃度が6.5×104FCFU/mLとなるように添加した。また、RJ水溶性粗分画溶液、pH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物は、各タンパク質の細胞培養液中の最終濃度が表2記載の濃度となるようにそれぞれ添加した。RJ分解物等に代えて、等量の細胞培養液を添加したものをコントロールとして用いた。その後、22時間培養した後、一次抗体としてハトロタウィルス株PO−13 VP6を認識するP3−1を、二次抗体としてFITC標識ヤギ抗マウスIgGを、それぞれ用いた間接蛍光抗体法により、ヒトロタウィルスに感染したMA104細胞数を測定した。
【0055】
【表2】
【0056】
表2は、ヒトロタウィルスの中和活性試験の結果を示した図である。感染細胞数は、コントロールの感染細胞数を100%として、それぞれ表している。RJ水溶性粗分画溶液を添加した場合には、約300μg/mL以上の濃度でウィルス感染が促進され、約300μg/mL以下の濃度ではウィルス感染が抑制される傾向が観察された。つまり、高濃度では感染を促進し、低濃度では感染を抑制するという、作用の二面性を有する可能性が示唆された。
【0057】
一方、pH7で分解して得たRJ分解物は、37μg/mL以上の濃度でウィルス感染が促進され、18.5μg/mL以下の濃度ではウィルス感染が抑制される傾向が観察された。つまり、pH7で分解して得たRJ分解物は、RJ水溶性粗分画溶液と同様に、高濃度では感染を促進し、低濃度では感染を抑制するが、感染抑制から促進へ転換するタンパク質濃度が低濃度側にシフトしていた。これに対して、40μg/mL以下の濃度のpH9で分解して得たRJ分解物を添加した場合には、RJ水溶性粗分画溶液を添加した場合よりも大きな感染阻害効果を示した。特に、pH9で分解して得たRJ分解物は、16.5μg/mL以下の濃度では、タンパク質濃度依存的に感染阻害効果を示した。また、反応時間が4時間以上である場合には、反応時間が長いRJ分解物ほど、低濃度における感染抑制効果の濃度依存性が顕著であった。
【0058】
表2の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で4時間以上で酵素処理をすることにより得られるRJ分解物は、ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大している、という特徴を有していることが明らかである。
【0059】
[実施例7]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する、細胞増殖活性を調べるため、ラットの小腸由来のIEC−6細胞を用いてWST−1法を行った。具体的には、IEC−6細胞を2.0×105cells/mLとなるようにまいて24時間培養した後、培養液をRJ分解物含有培養液に交換して、さらに24時間培養する。その後、培養液中に、テトラゾリウム塩WST−1(和光純薬工業社製)を添加して2時間培養した後、細胞培養液の450nmの吸光度を測定することにより、フォルマザン産物の産生量を測定した。RJ分解物として、反応時間を24時間とした以外は全て実施例4と同様にして調製したpH7で分解して得たRJ分解物、又はpH9で分解して得たRJ分解物を、それぞれ用いた。なお、IEC−6細胞の培養は常法により行った。
この結果、pH7で分解して得たRJ分解物では、RJ分解物の濃度が1mg/mL以下である場合には、細胞増殖促進傾向が、1mg/mL以上である場合には、細胞増殖抑制傾向が、それぞれ観察された。
【0060】
実施例6及び7の結果から、実施例6においてRJタンパク質の濃度依存的にウィルス感染の促進及び抑制という二面性が観察された理由の一つとして、RJタンパク質の細胞増殖促進効果による可能性があると推察される。つまり、細胞増殖のコントロールを一因として、RJタンパク質及びそのペプチドフラグメントが、ヒトロタウィルス感染をコントロールする作用を示す可能性が示唆された。
【0061】
[実施例8]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する細胞増殖活性をより詳細に解析するために、RJ分解物を脱塩処理した後の細胞増殖活性を調べた。
1.脱塩処理
まず、反応時間を24時間とした以外は全て実施例4と同様にして、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH7で酵素処理して得たRJ分解物(以下、RJ分解物(pH7)ということがある。)、及びpH9で酵素処理して得たRJ分解物(以下、RJ分解物(pH9)ということがある。)を、それぞれ調製した。
得られたRJ分解物(pH7)とRJ分解物(pH9)を、それぞれ、Hi Trap Desaltingカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いてサイズ分画を行った。吸光度(280nm)及び伝導率を測定して得られた溶出パターンに従って、脱塩したフラクション(以下、フラクションD1)と塩を含むフラクション(以下、フラクションD2)の2つのフラクションを分取した。
図6は、Hi Trap Desaltingカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(280nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がRJ分解物(pH9)の吸光度、点線がRJ分解物(pH7)の吸光度、二点鎖線がRJ分解物(pH9)の伝導率、一点鎖線がRJ分解物(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「D1」がフラクションD1として分取した画分であり、「D2」がフラクションD2として分取した画分である。
【0062】
2.細胞増殖活性の測定
細胞の培養液として、FCS等の増殖因子を含有しない培養液(対照培養液)にRJ分解物(pH9)のフラクションD1(フラクションD1(pH9))を含有させた培養液又は対照培養液にRJ分解物(pH7)のフラクションD1(フラクションD1(pH7))を含有させた培養液を用いた以外は、実施例7と同様にして、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を測定した。ポジティブコントロールとして10%FCS含有培養液を、ネガティブコントロールとして対照培養液を、それぞれ用いた。各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量は、対照培養液を添加した場合に産生されたフォルマザン産物量に対する、各培養液を添加した場合に産生されたフォルマザン産物量の比率で表した。
図7は、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。図7(a)は、フラクションD1(pH9)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果であり、図7(b)は、フラクションD1(pH7)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションD1由来のタンパク質濃度を示している。
図7(a)の結果に示されるように、培養液中のフラクションD1(pH9)濃度依存的に、細胞増殖量が増大することが分かった。特にフラクションD1(pH9)濃度が50.5μg/mLの培養液を用いて培養した場合には、10%FCS含有培養液を用いた場合とほぼ同程度に細胞増殖が促進されていた。但し、フラクションD1(pH9)濃度が84.2μg/mL以上の培養液の場合には、濃度依存的に細胞増殖量が減少する傾向が観察されたことから、フラクションD1(pH9)による細胞増殖促進効果(細胞増殖活性)には、至適濃度があることが示唆された。
一方で、図7(b)の結果に示されるように、培養液にフラクションD1(pH7)を含有させた場合には、細胞増殖量はほとんど変化せず、フラクションD1(pH7)は細胞増殖に著しい影響を与えることはないことが明らかになった。
すなわち、実施例8の結果からも、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で酵素処理して得たRJ分解物は細胞増殖活性を有することが明らかである。
【0063】
[実施例9]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する細胞増殖活性をより詳細に解析するために、RJ分解物を粗精製した後の細胞増殖活性を調べた。
1.粗精製
実施例8において調製したRJ分解物(pH9)のフラクションD2(フラクションD2(pH9))及びRJ分解物(pH7)のフラクションD2(フラクションD2(pH7))を、Cosmosil(登録商標)5C18−ARカラム(ナカライテスク社製)を用いて、粗精製を行った。吸着バッファーとして、0.05%TFA(トリフルオロ酢酸)溶液を、溶出バッファーとして、0.05%TFA含有90%アセトニトリル溶液を、それぞれ用いた。吸光度(215nm及び280nm)及び伝導率を測定して得られた溶出パターンに従って、非吸着フラクション(以下、フラクションC1)と吸着フラクション(以下、フラクションC2)の2つのフラクションを分取した。
図8は、Cosmosil(登録商標)5C18−ARカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(215nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がフラクションD2(pH9)の吸光度、点線がフラクションD2(pH7)の吸光度、二点鎖線がフラクションD2(pH9)の伝導率、一点鎖線がフラクションD2(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「C1(pH7)」がフラクションC1(pH7)として、「C1(pH9)」がフラクションC1(pH9)として、「C2(pH7)」がフラクションC2(pH7)として、「C2(pH9)」がフラクションC2(pH9)として、それぞれ分取した画分である。
【0064】
2.フラクションC1の細胞増殖活性の測定
細胞の培養液として、フラクションD2(pH9)のフラクションC1(フラクションC1(pH9))を希釈した培養液又はフラクションD2(pH7)のフラクションC1(フラクションC1(pH7))を希釈した培養液を用いた以外は、実施例7と同様にして、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を測定した。なお、フラクションC1(pH9)又はフラクションC1(pH7)の希釈には、対照培養液を用いた。
図9は、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。図9(a)は、フラクションC1(pH9)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果であり、図9(b)は、フラクションC1(pH7)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。
図9(a)と(b)の結果に示されるように、フラクションC1(pH9)とフラクションC1(pH7)のいずれを含有させた培養液においても、細胞増殖が促進されていた。両者を比較すると、フラクションC1(pH7)を含有させた場合よりも、フラクションC1(pH9)を含有させた場合のほうが、細胞増殖促進効果が高い傾向が観察された。
【0065】
3.フラクションC2の細胞増殖活性の測定
細胞の培養液として、対照培養液にフラクションD2(pH9)のフラクションC2(フラクションC2(pH9))を含有させた培養液又は対照培養液にフラクションD2(pH7)のフラクションC2(フラクションC2(pH7))を含有させた培養液を用いた以外は、実施例7と同様にして、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を測定した。
図10は、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。図10(a)は、フラクションC2(pH9)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果であり、図10(b)は、フラクションC2(pH7)を含有させた培養液を用いて培養した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションC2由来のタンパク質濃度を示している。
この結果、培養液にフラクションC2(pH9)を含有させた場合には、培養液中の濃度が3.42μg/mL以下では、濃度依存的に細胞増殖量が増大し、3.42μg/mL超では、濃度依存的に細胞増殖量が減少する傾向が観察された。一方、培養液にフラクションC2(pH7)を含有させた場合には、培養液中の濃度が4.67μg/mL以下では、濃度依存的に細胞増殖量が増大し、4.67μg/mL超では、濃度依存的に細胞増殖量が減少する傾向が観察された。また、両者を比較すると、フラクションC2(pH7)を含有させた場合よりも、フラクションC2(pH9)を含有させた場合のほうが、細胞増殖促進効果が高い傾向が観察された。
【0066】
したがって、実施例9の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて酵素処理して得たRJ分解物は細胞増殖活性を有すること、及び、pH7の反応条件で酵素処理して得たRJ分解物よりも、pH9の反応条件で酵素処理して得たRJ分解物のほうが、高い細胞増殖活性を有することが明らかである。
【0067】
[実施例10]
本発明のRJ分解酵素含有物を用いて得られたRJ分解物が有する抗酸化活性を調べた。
1.RJ分解物の調製
RJ(中国産)に純水を加えて懸濁したものを、孔径10kDの透析膜を用いて、純水にて72時間透析した。透析膜内液を回収し、凍結乾燥した後、再び純水に懸濁し、30mg/mLのRJタンパク質溶液を調製した。
1mLの該RJタンパク質溶液に、1mLのRJ分解酵素含有物(3mg/mL)、8mLのトリス−塩酸バッファー(pH9.0)を加え、37℃で24時間インキュベートした。その後、孔径500Daの透析膜を用いて、純水にて5日間透析した。透析膜内液を回収し、凍結乾燥したものを、RJ分解物とした。なお、RJ分解酵素含有物は、実施例1と同様にして調製したものを用いた。
【0068】
2.抗酸化活性測定
RJ分解物の抗酸化活性は、柳内ら(日本食品科学工学会誌、第51巻第5号、第238〜246ページ、2004年)の方法に従い、一酸化塩素(ClO・)によるBSA分解に対するRJ分解物の影響を調べることにより測定した。
具体的には、まず、BSA含有PBS(リン酸緩衝生理食塩水)に、PBSを用いて希釈したRJ分解物を添加することにより、BSA(最終濃度40μg/mL)及びRJ分解物(最終濃度0、0.3、0.5、1.0、又は2.0μg/mL)を含有するPBS試料溶液を調製した。該PBS試料溶液に、最終濃度1.7mMとなるように次亜塩素酸ナトリウムを加え、37℃で30分間インキュベートした。その後、SDS−PAGEによって、PBS試料溶液中のタンパク質を分離し、CBB染色することにより検出した。CBB染色像をスキャナーで取り込んだ後、BSAに相当するバンドの濃度を解析した。各PBS試料溶液のBSA濃度は、次亜塩素酸ナトリウムを添加しなかったPBS試料溶液をブランクとし、ブランクのBSA濃度を1とした場合の相対濃度を調べた。なお、バンドの濃度解析は、アメリカ国立衛生研究所(National Institutes of Health)が提供する解析ソフトImageJを用いて行った。また、RJ分解物に代えて、公知の抗酸化剤であるアスコルビン酸(最終濃度0、3.0、4.0、5.0、又は7.5mM)又はカルノシン(最終濃度0、2.5、5.0、7.5、又は10.0mM)を添加したPBS試料溶液についても、同様にBSA濃度を調べた。
図11は、各PBS試料溶液のBSA濃度の結果を示した図である。図11(a)はRJ分解物を添加した場合の結果であり、図11(b)はアスコルビン酸を添加した場合の結果であり、図11(c)はカルノシンを添加した場合の結果である。この結果、RJ分解物を添加しなかった場合には、BSAはCBB染色によりバンドが検出されず、ほぼ全てのBSAが、分解されていた。これに対して、RJ分解物を添加した場合には、アスコルビン酸やカルノシンと同様に、PBS試料溶液への添加量依存的にBSAの相対濃度は大きくなった。これは、次亜塩素酸ナトリウムから産生された一酸化塩素によるBSAの分解が、RJ分解物により抑制されたためであると推察される。
また、図11の結果を元に、一酸化塩素によるBSA分解を50%まで抑制する濃度を算出したところ、RJ分解物では0.92±0.24mg/mLであり、アスコルビン酸では0.67±0.01mg/mL(3.83±0.08mM)であり、カルノシンでは0.84±0.10mg/mL(3.65±0.32mM)であった。すなわち、一酸化塩素によるBSA分解に対する抗酸化力において、RJ分解物は混合物であるにもかかわらず、公知の抗酸化剤であるアスコルビン酸やカルノシンに匹敵する抗酸化力を有していることが認められた。
これら実施例10の結果から、本発明のRJ分解酵素含有物を用いて、pH9で酵素処理して得たRJ分解物は抗酸化活性を有することが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のRJ分解酵素含有物は、女王蜂幼虫が有する、RJを本来の基質とするRJ分解酵素が含有されているものであり、RJの分解に最適であることから、RJの生理活性の研究や、RJを用いた医薬品及又は食品の開発等の分野で利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】RJタンパク質溶液と該RJ分解酵素溶液を添加して混合した酵素反応液を、37℃で反応させた後、該酵素反応液中のRJタンパク質を分離するためにSDS−PAGEをした結果得られた染色像を、pH毎に示した図である。(a)はpH4、(b)はpH5、(c)はpH6、(d)はpH6.5、(e)はpH7、(f)はpH7.5、(g)はpH8、及び(h)はpH9である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を表している。また、Mは分子量マーカーを示している。矢印アは約51kDaのバンドを、矢印イは約46kDaのバンドを、それぞれ示している。
【図2】実施例1において、SDS−PAGEの結果を、pH毎に示した図である。(a)はpH7、(b)はpH9の染色像である。各図のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDa、矢印ウが約33kDa、及び矢印エが約25kDaのバンドをそれぞれ示している。
【図3】実施例1において、図2の染色像のバンドの強度を測定し、反応開始0時間でのバンド強度を1として、反応時間経過に伴うバンド強度の変化を示したものである。(a)は約51kDaのバンドの強度比を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、(c)は約33kDa及び約25kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。(a)と(b)の図中の●はpH7のバンドを、○はpH9のバンドを、それぞれ示している。また、(c)の図中の△はpH7における約33kDaのバンドを、▲はpH7における約25kDaのバンドを、それぞれ示している。
【図4】実施例2において、pH9の条件下においてRJタンパク質を分解した結果を表した図である。(a)は、SDS−PAGEの結果得られたゲルの染色像を、(b)は約46kDaのバンドの強度比を、それぞれ示したものである。図(a)中のレーンの上の数字は、それぞれの反応時間を、Mは分子量マーカーを表している。また、矢印アが約51kDa、矢印イが約46kDaをそれぞれ示している。
【図5】実施例3において、測定した280nmの吸光度の結果を表した図である。(a)は反応開始前、(b)は反応開始後8時間、(c)は反応開始後16時間、及び(d)は反応開始後24時間の結果である。また、図中の矢印アが約350kDa、矢印イが約60kDa、矢印ウが約5kDa、矢印エが約3kDa、及び範囲オが数百Daのタンパク質の画分をそれぞれ示している。
【図6】実施例8のHi Trap Desaltingカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(280nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。吸光度(280nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がRJ分解物(pH9)の吸光度、点線がRJ分解物(pH7)の吸光度、二点鎖線がRJ分解物(pH9)の伝導率、一点鎖線がRJ分解物(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「D1」がフラクションD1として分取した画分であり、「D2」がフラクションD2として分取した画分である。
【図7】実施例8において、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。(a)は、フラクションD1(pH9)を含有させた培養液を添加した場合の結果であり、(b)は、フラクションD1(pH7)を含有させた培養液を添加した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションD1由来のタンパク質濃度を示している。
【図8】実施例9のCosmosil(登録商標)5C18−ARカラムを用いたカラムクロマトグラフィーにおいて、吸光度(215nm)及び伝導率を測定した結果得られたチャート図である。実線がフラクションD2(pH9)の吸光度、点線がフラクションD2(pH7)の吸光度、二点鎖線がフラクションD2(pH9)の伝導率、一点鎖線がフラクションD2(pH7)の伝導率を、それぞれ示している。図中、「C1(pH7)」がフラクションC1(pH7)として、「C1(pH9)」がフラクションC1(pH9)として、「C2(pH7)」がフラクションC2(pH7)として、「C2(pH9)」がフラクションC2(pH9)として、それぞれ分取した画分である。
【図9】実施例9において、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。(a)は、フラクションC1(pH9)を含有させた培養液を添加した場合の結果であり、(b)は、フラクションC1(pH7)を含有させた培養液を添加した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を、「PC」は10%FCS含有培養液を、それぞれ示している。
【図10】実施例9において、各培養液を用いて培養した場合の細胞増殖量を示した図である。(a)は、フラクションC2(pH9)を含有させた培養液を添加した場合の結果であり、(b)は、フラクションC2(pH7)を含有させた培養液を添加した場合の結果である。図中、「NC」は対照培養液を示している。また、各濃度は、各培養液中のフラクションC2由来のタンパク質濃度を示している。
【図11】実施例10において、各PBS試料溶液のBSA濃度の結果を示した図である。(a)はRJ分解物を添加した場合の結果であり、(b)はアスコルビン酸を添加した場合の結果であり、(c)はカルノシンを添加した場合の結果である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物。
(a)前記女王蜂幼虫の体組織懸濁物を6℃以下で遠心処理することにより、白色固形の上層、溶液の中層、沈殿による下層の3層に分離する工程。
(b)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
【請求項2】
前記遠心処理が、8,000〜12,000×g、5分以上の遠心処理であることを特徴とする請求項1記載のローヤルゼリー分解酵素含有物。
【請求項3】
西洋ミツバチの2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物。
(a’)前記女王蜂幼虫を氷冷生理食塩水にて洗浄した後、裏ごしすることにより、乳白色の体組織懸濁物を調製する工程。
(b’)前記体組織懸濁物をpH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈した後、10,000×g、5℃で10分間の遠心処理をすることにより、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離する工程。
(c’)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて調製されたローヤルゼリー分解物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られる、下記の特徴を有するローヤルゼリー分解物。
(1)神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも軽減していること、
(2)アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分とほぼ同等であること、
(3)グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること、
(4)ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする細胞増殖剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする感染阻害剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする神経細胞死誘導抑制剤。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素。
【請求項12】
酵素活性の至適pHが7又は9であることを特徴とする請求項11記載のローヤルゼリー分解酵素。
【請求項13】
請求項11又は12記載のローヤルゼリー分解酵素を用いて調製されたローヤルゼリー分解物。
【請求項14】
請求項11又は12記載のローヤルゼリー分解酵素を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法。
【請求項1】
西洋ミツバチ (Apis mellifera) の2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物。
(a)前記女王蜂幼虫の体組織懸濁物を6℃以下で遠心処理することにより、白色固形の上層、溶液の中層、沈殿による下層の3層に分離する工程。
(b)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
【請求項2】
前記遠心処理が、8,000〜12,000×g、5分以上の遠心処理であることを特徴とする請求項1記載のローヤルゼリー分解酵素含有物。
【請求項3】
西洋ミツバチの2〜3日齢の女王蜂幼虫から、下記工程を有する方法で調製されたローヤルゼリー分解酵素含有物。
(a’)前記女王蜂幼虫を氷冷生理食塩水にて洗浄した後、裏ごしすることにより、乳白色の体組織懸濁物を調製する工程。
(b’)前記体組織懸濁物をpH7.0の50mMリン酸緩衝液を用いて希釈した後、10,000×g、5℃で10分間の遠心処理をすることにより、白色固形の上層、黄白色に濁った溶液の中層、白色からやや褐色の沈殿による下層の3層に分離する工程。
(c’)前記中層をローヤルゼリー分解酵素含有物として回収する工程。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて調製されたローヤルゼリー分解物。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られる、下記の特徴を有するローヤルゼリー分解物。
(1)神経細胞に対する非特異的な細胞変性作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも軽減していること、
(2)アミロイドによる神経細胞死誘導に対する抑制作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分とほぼ同等であること、
(3)グリア細胞に対する細胞増殖作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること、
(4)ヒトロタウィルス感染に対する感染阻害作用が、未酵素処理のローヤルゼリー水溶性画分よりも増大していること。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする抗酸化剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする細胞増殖剤。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする感染阻害剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いて、ローヤルゼリーをpH9で4時間以上酵素処理することにより得られるローヤルゼリー分解物を有効成分とする神経細胞死誘導抑制剤。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法。
【請求項11】
請求項1〜3のいずれか記載のローヤルゼリー分解酵素含有物に含有されることを特徴とするローヤルゼリー分解酵素。
【請求項12】
酵素活性の至適pHが7又は9であることを特徴とする請求項11記載のローヤルゼリー分解酵素。
【請求項13】
請求項11又は12記載のローヤルゼリー分解酵素を用いて調製されたローヤルゼリー分解物。
【請求項14】
請求項11又は12記載のローヤルゼリー分解酵素を用いることを特徴とするローヤルゼリーの分解方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−228727(P2008−228727A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24453(P2008−24453)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(398062998)株式会社秋田屋本店 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(398062998)株式会社秋田屋本店 (5)
【Fターム(参考)】
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