説明

ローヤルゼリー抽出物及びヒト骨芽細胞増殖抑制剤

【課題】 ローヤルゼリーに含まれる新たな薬理活性成分を見出す。
【解決手段】 分子量2000以下に分画されたローヤルゼリーの水性抽出物に含まれている、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)から選ばれた少なくとも1種をヒト骨芽細胞増殖抑制剤の有効成分として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローヤルゼリー抽出物及びこれに含まれるヒト骨芽細胞増殖抑制成分を利用したヒト骨芽細胞増殖抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ミツバチの下咽頭腺や大顎腺から分泌されるローヤルゼリー(royal jelly)は、古くから滋養強壮や更年期障害の予防などの目的で健康食品として広く用いられている。ローヤルゼリーには種々の薬理活性成分が含まれていることが知られており、具体的には下記のような先行技術文献がある。
【0003】
特許文献1には、ローヤルゼリー抽出物からINF産生促進活性が高められた画分を得ることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ローヤルゼリー中の57キロダルトンのタンパク質が、細胞のDNA合成を促進する活性を示すことが記載されている。
【0005】
特許文献3には、エストロゲン様活性を有するローヤルゼリー抽出物が記載されている。
【0006】
特許文献4には、ローヤルゼリーから、不定愁訴の改善、自律神経失調症の改善、更年期障害の改善、滋養強壮作用、抗腫瘍作用、抗菌作用、血圧降下作用、インスリン用作用等に関連した効果を有する新規デセン酸誘導体を単離することが記載されている。
【0007】
特許文献5には、ローヤルゼリーに骨形成を促進させる作用のあることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平04−282323号公報
【特許文献2】特開2003−113095号公報
【特許文献3】特開2004−75543号公報
【特許文献4】特開2005−306848号公報
【特許文献5】特開2006−290813号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ローヤルゼリーには、従来明らかにされていない薬理活性成分が含まれている可能性がある。したがって、本発明の目的は、ローヤルゼリーに含まれる新たな薬理活性成分を見出すことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、ローヤルゼリーから、ヒト骨芽細胞の増殖を抑制する活性を有する成分を単離、同定し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、第1に、分子量2000以下に分画されたロイヤルゼリーの水性抽出物であって、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とするローヤルゼリー抽出物を提供する。
【0012】
本発明のローヤルゼリー抽出物によれば、ヒト骨芽細胞増殖抑制活性を有する成分を高含有で含有する天然物由来の組成物を提供することができる。ヒト骨芽細胞増殖抑制活性は、骨芽細胞の増殖を抑制して細胞周期を増殖サイクルから骨形成分化のサイクルへと促し、骨形成を促進する作用効果を有するので、骨粗しょう症の予防等に有用である。そして天然物由来の組成物であるので、副作用のおそれが少なく、医薬品、更には機能性食品や健康食品などの飲食品に配合するのにも適している。
【0013】
本発明は、第2に、前記ローヤルゼリー抽出物を有効成分として含有することを特徴とするヒト骨芽細胞増殖抑制剤を提供する。
【0014】
このヒト骨芽細胞増殖抑制剤によれば、天然物由来の組成物を有効成分とするので、副作用のおそれが少ない。ヒト骨芽細胞増殖抑制活性は、骨芽細胞の増殖を抑制して細胞周期を増殖サイクルから骨形成分化のサイクルへと促し、骨形成を促進する作用効果を有するので、骨粗しょう症の予防等に有用である。
【0015】
本発明は、第3に、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするヒト骨芽細胞増殖抑制剤を提供する。
【0016】
このヒト骨芽細胞増殖抑制剤によれば、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有するので、ヒト骨芽細胞の増殖を抑制する活性が高い。
【発明の効果】
【0017】
本発明のローヤルゼリー抽出物によれば、ヒト骨芽細胞増殖抑制活性を有する成分を高含有で含有する天然物由来の組成物を提供することができる。そして天然物由来の組成物であるので、副作用のおそれが少なく、医薬品、更には機能性食品や健康食品などの飲食品に配合するのにも適している。
【0018】
また、本発明のヒト骨芽細胞増殖抑制剤によれば、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有するので、ヒト骨芽細胞の増殖を抑制する活性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ヒト骨芽細胞様MG63細胞の培養に際しローヤルゼリーA由来ローヤルゼリー水抽出物画分を培地に共存させたときの濃度−細胞増殖阻害曲線を示す図表である。
【図2】ローヤルゼリーA由来ローヤルゼリー水抽出物をHPLCに供したときの溶出パターンを示す図表である。
【図3】ローヤルゼリーA由来ローヤルゼリー水抽出物の各HPLC溶出フラクションを培地に共存させたときのヒト骨芽細胞様MG63細胞の増殖曲線を示す図表である。
【図4】ローヤルゼリーA由来ローヤルゼリー水抽出物のHPLCフラクションFr.1に含まれる成分(a)、Fr.2に含まれる成分(b)、Fr.3に含まれる成分(c)、及びFr.3pに含まれる成分(d)の質量分析の結果を示す図表である。
【図5】ローヤルゼリーA由来ローヤルゼリー水抽出物のHPLCフラクションFr.4に含まれる成分(a)、Fr.5に含まれる成分(b)、及びFr.6に含まれる成分(c)の質量分析の結果を示す図表である。
【図6】各ヌクレオチド及びヌクレオシドの標準品を培地に共存させたときのヒト骨芽細胞様MG63細胞の増殖に及ぼす影響を示す図表(a)及びアデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)の標準品を培地に共存させたときの濃度−細胞増殖阻害曲線を示す図表(b)である。
【図7】ローヤルゼリーG由来ローヤルゼリー水抽出物をHPLCに供したときの溶出パターンを示す図表(a)及び各HPLC溶出フラクションを培地に共存させたときのヒト骨芽細胞様MG63細胞の増殖に及ぼす影響を示す図表(b)である。
【図8】ローヤルゼリーG由来ローヤルゼリー水抽出物のHPLCフラクションFr.10に含まれる成分の質量分析の結果を示す図表である。
【図9】ローヤルゼリーG由来ローヤルゼリー水抽出物のHPLCフラクションFr.11に含まれる成分の質量分析の結果を示す図表である。
【図10】ローヤルゼリーG由来ローヤルゼリー水抽出物のHPLCフラクションFr.12に含まれる成分の質量分析の結果を示す図表である。
【図11】ヒト骨芽細胞様MG63細胞の培養に際しアデノシン(Adenosine)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、又はアデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)を培地に共存させたときの細胞周期の状態をフローサイトメトリーにより細胞中DNA含量を指標に解析した結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
ローヤルゼリーは、下咽頭腺や大顎腺から分泌される淡黄色、クリーム状の物質であり、女王バチを育てるための特別な餌となる。雌のハチの幼虫にこのローヤルゼリーを与えると女王バチになるが、これを与えないと普通の働きバチとなる。ローヤルゼリーは、タンパク質、糖質、脂質、蜜ロウ、無機塩を含み、微量にサイアミン、リボフラピン、ピリドキシン、ニコチン酸、パントテン酸、ピオチン、葉酸等のビタミン類、アセチルコリンなどを含んでいる。ローヤルゼリーは、健康食品として各社から市販されており、容易に入手することができる。
【0021】
本発明のローヤルゼリー抽出物を得るには、まず、ローヤルゼリーの水性抽出物を調製する。ここで、後述する実施例で示されるようにローヤルゼリー中に含まれるヒト骨芽細胞増殖抑制成分は親水性であるので、本発明において「水性抽出物」とは、これらの成分の他成分に対する相対含量が、抽出前よりも高くなるように、水、含水アルコール系溶媒、含水ケトン系溶媒などで抽出してなる抽出物を意味する。
【0022】
含水アルコール系溶媒としては、エタノール、メタノール、プロパノール等の含水溶媒を用いることができ、特に、含水エタノールが好ましい。また、含水ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、クロロアセトン等の含水溶媒を用いることができ、特に、含水アセトンが好ましい。
【0023】
本発明のローヤルゼリー抽出物を得るには、次に、上記水性抽出物を分子量2000以下に分画する。ここで、後述する実施例で示されるようにローヤルゼリー中に含まれるヒト骨芽細胞増殖抑制成分は分子量2000以下の低分子であるので、本発明において「分子量2000以下に分画する」とは、これらの成分の他成分に対する相対含量が、分画前よりも高くなるように分画することを意味する。分画手段としては、透析、限外ろ過、サイズ排除カラムクロマト、HPLC、イオン交換カラムクロマト、膜分離などを利用することができる。
【0024】
本発明のローヤルゼリー抽出物の形状としては、上記の方法で得られた抽出物の抽出溶媒を減圧留去、乾固して、固形状のものとすることができる。また、上記の方法で得られた抽出物を、そのまま又は濃縮して液体状のものとすることもできる。更に凍結乾燥又は噴霧乾燥により粉末化して粉末状のものとすることもできる。なお、抽出物の形状は限定されるものではない。
【0025】
上記の方法で得られたローヤルゼリー抽出物は、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、及び/又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)を含有する。
【0026】
上記化合物のうち、N1−オキシド構造を有するアデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)は下記の構造を有する。
【0027】
【化1】

【0028】
上記化合物のうち、N1−オキシド構造を有するアデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)は下記の構造を有する。
【0029】
【化2】

【0030】
上記化合物のうち、N1−オキシド構造を有するニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)は下記の構造を有する。
【0031】
【化3】

【0032】
本発明のローヤルゼリー抽出物の他の態様においては、上記の方法で得られたローヤルゼリーからの一次的抽出物を、更にイオン交換、サイズ排除カラムクロマト、HPLC、ゲルろ過、膜分離などにより分画、精製することができる。すなわち、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、及び/又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)を物質的指標にして分画、精製して、これらの成分の高められたローヤルゼリー抽出物とすることができる。
【0033】
本発明のローヤルゼリー抽出物に含まれる上記成分は、後述する実施例で示されるようにヒト骨芽細胞の増殖を抑制する効果を有する。ヒト骨芽細胞増殖抑制活性は、骨芽細胞の増殖を抑制して細胞周期を増殖サイクルから骨形成分化のサイクルへと促し、骨形成を促進する作用効果を有するので、骨粗しょう症の予防等に有用である。そしてローヤルゼリー抽出物は天然物由来の組成物であるので、副作用のおそれが少なく、医薬品、更には機能性食品や健康食品などの飲食品に配合するのにも適している。したがって、本発明のローヤルゼリー抽出物は、ヒト骨芽細胞増殖抑制剤の有効成分として好適に用いられる。その投与形態としては経口的に摂取すればよく、有効摂取量としては、上記化合物の合計換算で0.1μg〜100mg/kg体重/日程度である。
【0034】
本発明のローヤルゼリー抽出物をヒト骨芽細胞増殖抑制剤の有効成分として用いる場合、必要に応じて、薬学的に許容される基材や担体を添加して、錠剤、顆粒剤、散剤、液剤、粉末、顆粒、カプセル剤、ゼリー状剤等の形態にして利用することができる。
【0035】
本発明のローヤルゼリー抽出物は、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品等に配合して摂取することもできる。このような食品としては、例えば、チョコレート、ビスケット、ガム、キャンディー、クッキー、グミ、打錠菓子等の菓子類;シリアル;粉末飲料、清涼飲料、乳飲料、栄養飲料、炭酸飲料、ゼリー飲料等の飲料;アイスクリーム、シャーベットなどの冷菓が挙げられる。更に、そば、パスタ、うどん、そーめん等の麺類も好ましく例示できる。また、特定保健用食品や栄養補助食品等の場合であれば、粉末、顆粒、カプセル、シロップ、タブレット、糖衣錠等の形態のものであってもよい。
【0036】
一方、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、又はニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)は、後述する実施例で示されるようにそれぞれ単離された形態でもヒト骨芽細胞の増殖を抑制する効果を有する。したがって、これらの化合物は、単独で又は併用して、ヒト骨芽細胞増殖抑制剤の有効成分として好適に用いられる。その投与形態としては経口的に摂取すればよく、有効摂取量としては、上記化合物の合計換算で0.1μg〜100mg/kg体重/日程度である。
【実施例】
【0037】
以下実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0038】
ローヤルゼリーから、ヒト骨芽細胞の増殖を抑制する活性を有する成分を単離、同定する目的で、ヒト骨芽細胞様MG63細胞(財団法人ヒューマンサイエンス財団研究資源バンクより購入したもの)を用いて以下の試験を行なった。なお、試験では(方法1)MG63細胞の培養、(方法2)MG63 細胞の細胞増殖の測定、(方法4)ローヤルゼリー水抽出物の高極性成分のHPLCによる分離、(方法3)MG63 細胞のリアルタイムでの細胞増殖の測定、(方法5)構造解析について、以下のようにして行った。
【0039】
(方法1)MG63細胞の培養
10%ウシ胎児血清を含むイーグルMEM 培地(以下「10%FCS-MEM」という。)を用いてCO2インキュベータ内で培養した。
【0040】
(方法2)MG63細胞の細胞増殖の測定
10% FCS-MEM に縣濁した2x103個/50μLのMG63細胞を96穴細胞培養用プレートに添加して24時間培養した後、被検査対象としてのロイヤルゼリー成分を、最終濃度の2倍濃い濃度で、その50μLを添加して72時間培養した。培養後、生細胞発色試薬である「tetracolor ONE」(商品名、生化学工業株式会社製)の10μLを添加してCO2インキュベータ内で2時間インキュベートした。反応後、生じたフォルマザンの量を490nm(対照波長620nm)の吸光度を測定して定量した。
【0041】
(方法3)ローヤルゼリー水抽出物の高極性成分のHPLCによる分離
HPLCによる分離条件は、以下のとおりとした。
・ カラム:Inertsil PREP-ODS(5μm, I.D.20×250mm)(GL Science社製)
・ カラム温度:室温
・ 溶出条件:
(i)流速 5 mL/min (0-1 min);0% アセトニトリル/0.1% トリフルオロ酢酸水溶液
(ii)流速 5-15 mL/min (1-5 min);0% アセトニトリル/0.1% トリフルオロ酢酸水溶液
(iii)流速 15 mL/min (5-30 min);0%→5% アセトニトリル/0.1% トリフルオロ酢酸水溶液
・ UV検出:254nm
【0042】
(方法4)MG63細胞のリアルタイムでの細胞増殖の測定
微細金電極センサーが底面に装着したプレートに10% FCS-MEMに縣濁した2x103個/100μLのMG63細胞を添加して24時間培養した後、被検査対象としてのロイヤルゼリー成分を、最終濃度の2倍濃い濃度で、その100μL添加し、リアルタイム細胞計測システム「RT-CES システム」(商品名、和光純薬工業株式会社製)を用いて、リアルタイムでの細胞増殖を測定した。
【0043】
(方法5)構造解析
分離した成分は、「Q-Tof micro;LockSpray option; ESI probe (+)」(Micromass社製)を用いて質量分析測定を行うと共に、「Unity INOVA 500; 500MHz; 3mm PFG probe」(Varian社製)を用いて1H-NMR分析を行ない、その構造を決定した。
【0044】
<試験例1> [ロイヤルゼリーの水抽出物の調製 その1]
市販の中国産ロイヤルゼリーであるロイヤルゼリーAを実験に用いた。凍結乾燥状のロイヤルゼリーA(以下、「RJ-A」ともいう。)0.5gに水5mLを添加し、遠心して不溶物を除いてロイヤルゼリーAの水抽出液(以下、「RJ-A-W」tともいう。)を得た。この水抽出液について、透析膜「Float-A-Lyzer (MWCO:2,000)」(商品名、Spectrum社製)を用いて、水500mLに対して一晩透析した。透析膜から溶出した分子量2,000以下の成分を含む水抽出液と、透析膜に残存した分子量2,000を超える成分を含む水抽出液とを、それぞれを凍結乾燥し、分子量2,000以下の成分を含む水抽出物(以下、「RJ-A-W <2,000」ともいう。)として0.290 mg(回収率58.0%)を得、分子量2,000を超える成分を含む水抽出物(以下、「RJ-A-W >2,000」ともいう。)として0.206 mg(回収率41.1%)を得た。
【0045】
<試験例2>
試験例1で得られた、分子量2,000カットの透析膜で分画されたロイヤルゼリー水抽出物「RJ-A-W <2,000」及び「RJ-A-W >2,000」について、又はその透析膜での分画前のロイヤルゼリー水抽出物(「RJ-A-W」)について、MG63細胞の増殖に及ぼす影響を調べた。
【0046】
具体的には、上記(方法2)に記載の方法において、培養液中に上記ロイヤルゼリー水抽出物を最終濃度0,0.25,0.75,1.0mg/mlの各濃度で添加して、細胞増殖を測定した。その結果を図1に示す。
【0047】
図1aに示すように、分子量2,000以下の成分を含む水抽出物「RJ-A-W <2,000」では、濃度に依存して細胞増殖を強く抑制した(50%阻害濃度:0.31mg/mL)。一方、分子量2,000を超える成分を含む水抽出物「RJ-A-W >2,000」にも濃度に依存した細胞増殖抑制作用が認められたが、その効果は「RJ-A-W <2,000」に比べて弱く、50%阻害濃度が、約3倍の0.85mg/mLであった。また、図1bに示すように、透析膜での分画前のロイヤルゼリー水抽出物(「RJ-A-W」)に換算した濃度でプロットすると、「RJ-A-W <2,000」についての濃度阻害曲線は、分画前のロイヤルゼリー水抽出物(「RJ-A-W」)についての濃度阻害曲線とがほぼ一致した。
【0048】
以上から、ロイヤルゼリーの水抽出成分のうち、分子量2,000以下の低分子量成分が、MG63細胞の増殖抑制に深く関与していることが明らかとなった。
【0049】
<試験例3> [ロイヤルゼリーの水抽出物のHPLC分画物の調製 その1]
ロイヤルゼリー水抽出物中の活性成分をHPLCで分離し、その構造を明らかにすることを試みた。そのために、まず、試験例1と同様にして得られたロイヤルゼリーAの水抽出液(「RJ-A-W」)を、上記(方法3)に記載の条件でHPLCに供した。図2には得られた溶出パターンを示す。
【0050】
図2に示すように、UV吸収を示すいくつかのピークがみられたので、これらを分取しフラクションFr.1〜Fr.6とした。また、UV吸収をほとんど示さない溶出液のフラクションを集めてフラクションFr.0とした。更に、50%アセトニトリルによるカラム洗浄画分をフラクションFr.endとした。これらの各フラクションは凍結乾燥後、以下の試験に用いた。
【0051】
各フラクションについて、MG63細胞の増殖に及ぼす影響を調べた。具体的には、上記(方法4)に記載の方法において、培養液中に上記フラクションを最終濃度0.01〜0.1mg/mlの範囲内で任意に定めた各濃度で添加して、リアルタイムでの細胞増殖を測定した。その結果を図3に示す。
【0052】
その結果、Fr.0、Fr.3、Fr.4に強い増殖抑制が認められた(図3a, 3d, 3e)。一方、Fr.1、Fr.2、Fr.5、Fr.6では比較的弱い活性が認められた(図3b, 3c, 3f, 3g)。なお、フラクションFr.3とFr.4の間に存在するピークFr.3pは収量が非常に少なく,細胞増殖に及ぼす影響を調べることはできなかった。
【0053】
<試験例4> [各フラクションに含有する成分の同定 その1]
上記(方法5)に記載の方法で、試験例3で得られたフラクションに含まれる成分の構造解析を行った。その結果、下記表1に示す成分が同定された。
【0054】
【表1】

【0055】
図4a〜4dにはそれぞれフラクションFr.1、Fr.2、Fr.3、Fr.3pに含まれる成分の質量分析の結果を示す。また、図5a〜5cにはそれぞれフラクションFr.4、Fr.5、Fr.6に含まれる成分の質量分析の結果を示す。なお、フラクションFr.1に含まれる成分の構造は未同定であるが糖類であると考えられた。
【0056】
下記には、フラクションFr.3pに含まれる、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)の構造を示す。
【0057】
【化4】

【0058】
<試験例5> [同定成分の活性の確認]
試験例4で得られた結果を確認するため、各ヌクレオチド及びヌクレオシドの標準品について、MG63細胞の増殖に及ぼす影響を調べた。
【0059】
具体的には、上記(方法2)に記載の方法において、培養液中に化学合成品の各ヌクレオチド及びヌクレオシドの標準品を最終濃度1mM、又は図6b中に示す濃度で添加して、細胞増殖を測定した。その結果を図6a, 6bに示す。
【0060】
その結果、図6aに示すように、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、及びアデノシンで増殖抑制が認められ、その他のヌクレオチド及びヌクレオシドには活性が認められなかった。
【0061】
また、図6bに示すように、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)の活性が最も高く、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、又はアデノシンに比べて、およそ1/200の50%阻害濃度を与えた。なお、試験例4ではadenosine が含まれているFr.5 に抑制作用が認められなかったが、これはFr.5 の収量が少なく、十分な量を添加できなかったことが原因と思われる。
【0062】
一方、増殖抑制が認められたグアノシン−5’−モノフォスフェイト(5’GMP)が含まれているフラクションFr.4に、増殖抑制活性が認められたが、この活性は、主成分の5’GMPによるものではなく、僅かに混在するAMP N1-oxideによるものと考えられた。
【0063】
<試験例6> [ロイヤルゼリーの水抽出物の調製 その2]
以下の実験では、中国産のロイヤルゼリーであるロイヤルゼリーG(産地:吉林省、由来:リンデン)を用いた。凍結乾燥状のロイヤルゼリーG(以下、「RJ-G」ともいう。)から、試験例1と同様にして、ロイヤルゼリーGの水抽出液(以下、「RJ-G-W」ともいう。)を得た。
【0064】
<試験例7> [ロイヤルゼリーの水抽出物のHPLC分画物の調製 その2]
試験例6で得られたロイヤルゼリーGの水抽出液(「RJ-G-W」)を、上記(方法3)に記載の条件でHPLCに供した。図7aには得られた溶出パターンを示す。図7aに示す各フラクションを分取し、凍結乾燥後、以下の試験に用いた。
【0065】
各フラクションについて、MG63細胞の増殖に及ぼす影響を調べた。具体的には、上記(方法2)に記載の方法において、培養液中に上記フラクションを最終濃度として図7b中に示す濃度で添加して、細胞増殖を測定した。その結果を図7bに示す。
【0066】
<試験例8> [各フラクションに含有する成分の同定 その2]
上記(方法5)に記載の方法で、試験例7で得られたフラクションのうち、フラクションFr.10、Fr.11、Fr.12に含まれる成分の構造解析を行った。その結果、下記表2に示す成分が同定された。
【0067】
【表2】

【0068】
なお、図8〜図10にはそれぞれフラクションFr.10、Fr.11、Fr.12に含まれる成分の質量分析の結果を示す。図8に示されるように、フラクションFr.10ではニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)の分子量663.43に対応するシグナルが認められるのが分かる。また、図9に示されるように、フラクションFr.11ではニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)の分子量679.43に対応するシグナルが認められるのが分かる。下記には、フラクションFr.11に含まれる、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)の構造を示す。
【0069】
【化5】

【0070】
また、図10に示されるように、フラクションFr.12ではアデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)の分子量283.24に対応するシグナルが認められるのが分かる。下記には、フラクションFr.12に含まれる、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)の構造を示す。
【0071】
【化6】

【0072】
以上、試験例1〜8の結果から、ローヤルゼリーの水抽出物は、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)を含み、これらの成分はそれぞれヒト骨芽細胞の増殖を抑制する活性を有することが明らかとなった。また、これらのうち、アデノシンN1位がオキシド化された化合物の活性が、いずれも有意に高かった。
【0073】
<試験例9> [細胞周期への影響]
試験例1〜8により、ローヤルゼリーには、ヒト骨芽細胞の増殖を抑制する成分が含まれていることが明らかとなったので、これらの成分がヒト骨芽細胞の細胞周期に与える影響について調べた。具体的には、ヒト骨芽細胞様MG63細胞の培養に際しアデノシン(Adenosine)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、又はアデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)を、それぞれ最終濃度1mM、10μM、1mMで培地に共存させたときの細胞周期の状態を、常法に従い、細胞中DNA含量を指標にフローサイトメトリーにより解析した。その結果を図11に示す。
【0074】
その結果、アデノシン(Adenosine)又はアデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)では、細胞周期をG0/G1期にとどめた。一方、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)の共存下で培養した細胞では、G0/G1期からS期の移行とS期からG2/M期への移行が抑制された。
【0075】
これらの結果から、骨芽細胞の増殖を抑制することにより細胞周期を増殖サイクルから骨形成分化のサイクルへと促すことができるものと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子量2000以下に分画されたローヤルゼリーの水性抽出物であって、アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とするローヤルゼリー抽出物。
【請求項2】
請求項1のローヤルゼリー抽出物を有効成分として含有することを特徴とするヒト骨芽細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
アデノシン(Adenosine)、アデノシンN1−オキシド(Adenosine N1-oxide)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト(5’AMP)、アデノシン−5’−モノフォスフェイト−N1−オキシド(AMP N1-oxide)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド−N1−オキシド(NAD+ N1-oxide)から選ばれた少なくとも1種を有効成分として含有することを特徴とするヒト骨芽細胞増殖抑制剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−32187(P2011−32187A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178099(P2009−178099)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【Fターム(参考)】