ローラチェーン
【課題】チェーン走行経路上の全ての領域で潤滑不足を防止でき、潤滑不足に起因する摩耗促進などのトラブルを未然に防止できるローラチェーンを提供する。
【解決手段】1組のアウタープレート13からなるアウタープレート対及び1組のインナープレート14からなるアウタープレート対を長手方向に交互に列設して、回転可能なローラ17を備えたローラピン16により各プレート対を連結して環状のローラチェーン7を構成し、各インナープレート14の対向面に閉鎖突起18を設ける。閉鎖突起18によりローラ17間の間隙の一部を閉鎖し、オイルジェット10から噴射されて各ローラ17間に保持される潤滑油がチェーン外周側に急激に漏れるのを防止する。
【解決手段】1組のアウタープレート13からなるアウタープレート対及び1組のインナープレート14からなるアウタープレート対を長手方向に交互に列設して、回転可能なローラ17を備えたローラピン16により各プレート対を連結して環状のローラチェーン7を構成し、各インナープレート14の対向面に閉鎖突起18を設ける。閉鎖突起18によりローラ17間の間隙の一部を閉鎖し、オイルジェット10から噴射されて各ローラ17間に保持される潤滑油がチェーン外周側に急激に漏れるのを防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達を行うためのローラチェーンに係り、詳しくは潤滑油の保持性能を向上させたローラチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のローラチェーンは動力伝達のために各種分野で利用されており、例えば特許文献1に記載されたエンジンのカム駆動用のローラチェーンを挙げることができる。この特許文献1に記載されたローラチェーンは、所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレートからなるアウタープレート対、及び同じく所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレートからなるアウタープレート対を長手方向に互いに重なるように交互に列設して構成されている。
【0003】
隣接するアウタープレート対とインナープレート対との重なり箇所において、相対向するインナープレートにはブッシュの両端がそれぞれ固定され、このブッシュ内に挿入されたローラピンの両端が両アウタープレートにそれぞれ固定されている。これにより各プレート対はブッシュ及びローラピンを介して屈曲可能に連結されて、全体として環状をなすローラチェーンを構成している。各ブッシュには両インナープレート間においてローラが回転可能に支持され、これらのローラがスプロケットに噛合することにより動力伝達を可能としている。
【0004】
ローラチェーンはエンジンのクランク軸のスプロケットと吸排気カムシャフトのスプロケットとの間に張架され、各スプロケットにローラを噛合させてクランク軸の回転に同期して吸排気カムシャフトを回転駆動している。ローラチェーンはテンショナにより張力を付与されながらチェーンガイドに案内されて所定の経路上を走行すると共に、この走行経路上の一側に配設されたオイルジェットから潤滑油を供給されて潤滑される。
【0005】
オイルジェットから供給された潤滑油は、ローラチェーンの各ローラ間に保持されてローラチェーンの走行中に順次潤滑に供される。特許文献1では、アウタープレートとインナープレートとの対向面にブッシュ間を連結するようにオイル溝を形成し、これらのオイル溝を介して各ローラ間の潤滑油をブッシュとローラピンとの間に導いて潤滑に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−294089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように特許文献1に記載されたローラチェーンは、ブッシュとローラピンとの間の潤滑が不十分であるとの知見の下に、各ローラ間に保持されている潤滑油をオイル溝を経てブッシュとローラピンとの間に導いている。しかしながら、各ローラ間に対してブッシュは元々近接しているため、オイル溝がなくても潤滑油は自ずとブッシュ側に流れて潤滑作用を奏し、それほど有益な対策とは言い難かった。
【0008】
むしろ潤滑不足に陥り易いのはローラチェーンとチェーンガイドやテンショナとの間であり、これはチェーン走行経路の一点(オイルジェットの位置)で潤滑油を供給することに起因する根本的な問題となっている。即ち、上記のようにオイルジェットから供給された潤滑油はローラチェーンの各ローラ間に保持されながら、チェーン走行中にローラとスプロケットとの間などの潤滑に順次供されており、チェーンガイドやテンショナの潤滑については、各ローラ間からチェーン外周側に次第に漏れる潤滑油により行われる。
【0009】
ところが、ローラチェーンは本来目的とする動力伝達に必要な構成のみで成り立ち、各ローラ間に潤滑油を保持するための積極的な対策は何ら講じられていない。このため、オイルジェットから供給された直後から各ローラ間の潤滑油はチェーン外周側に漏れ出し、所定経路を経て再びオイルジェットの位置に到達するまでに各ローラ間の潤滑油が減少してしまう。よって、特にオイルジェットの直前の位置では潤滑油が不足しがちになって潤滑性能の低下を招き易く、ローラチェーン或いはチェーンガイドやテンショナの摩耗が促進されてしまうなどの課題があった。
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、チェーン走行経路上の全ての領域においてローラチェーンとチェーンガイドやテンショナなどの部材との間の潤滑不足を防止でき、潤滑不足に起因する摩耗促進などを未然に防止することができるローラチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレートからなるアウタープレート対、及び両アウタープレートの内側で幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレートからなるアウタープレート対を長手方向に互いに重なるように交互に列設し、隣接するアウタープレート対とインナープレート対との重なり箇所において、相対向するインナープレート間にスプロケットと噛合可能なローラをそれぞれ配設してローラピンにより回転可能に支持すると共に、各ローラピンの両端をインナープレート及びアウタープレートにそれぞれ貫通させて各プレート対を全体として環状をなすように連結し、オイル供給手段から供給される潤滑油により潤滑されながら動力伝達を行うローラチェーンにおいて、インナープレート対の少なくとも何れか一方のインナープレートにインナープレート対の他方側に向けて伸びて、ローラ間に形成された間隙の一部を閉塞して間隙の開口面積を縮小する閉鎖突起を設けたものである。
【0012】
請求項2の発明は、閉鎖突起が、スプロケットの歯との干渉を防止すべくローラピン間を結ぶインナープレートの中心線に対してチェーン外周側にオフセット配置されているものである。
請求項3の発明は、閉鎖突起が、チェーン内周側の少なくとも一側にチェーン走行方向に面した保持面を有するものである。
【0013】
請求項4の発明は、閉鎖突起が、チェーン内周側に向けて凹となる断面形状をなしているものである。
請求項5の発明は、閉鎖突起が、金属板からなるインナープレートの一側を折曲して形成され、インナープレートのチェーン外周側の縁部よりも内周側に位置しているものである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように請求項1の発明のローラチェーンによれば、1組のアウタープレートからなるアウタープレート対と1組のインナープレートからなるアウタープレート対とを交互に列設して各プレートをローラピンにより環状をなすように連結し、インナープレート対の少なくとも一方のインナープレートの対向面に、ローラ間の間隙の開口面積を縮小する閉鎖突起を設けた。
【0015】
ローラチェーンはチェーンガイドやテンショナなどの案内により所定経路上を走行して動力伝達すると共に、その走行経路の一側に配設されたオイル供給手段から潤滑油が供給されてローラチェーンとチェーンガイドやテンショナとの間が潤滑される。供給された潤滑油は各ローラ間の間隙から徐々にチェーン外周側に漏れて潤滑に供されるが、本発明では、各ローラ間の間隙の開口面積が閉塞突起により縮小されているため、間隙からの急激な潤滑油の漏れが防止される。よって、再びオイル供給手段の位置に到達するまで各ローラ間の間隙から潤滑油を漏らし続けて潤滑を継続でき、もってチェーン走行経路上の全ての領域においてローラチェーンの潤滑不足、ひいては潤滑不足による摩耗の促進などを未然に防止することができる。
【0016】
請求項2の発明のローラチェーンによれば、インナープレートの中心線よりもチェーン外周側に閉鎖突起がオフセット配置されているため、閉鎖突起とスプロケットの歯との干渉を未然に防止することができる。
請求項3の発明のローラチェーンによれば、閉鎖突起のチェーン内周側の少なくとも一側にチェーン走行方向に面した保持面を設けた。各ローラ間に保持された潤滑油はチェーン走行方向に向かう力を受けながらローラチェーンと共に移送されるが、このときの力が保持面により効果的に潤滑油に伝達されるため、ローラチェーンの走行に対して潤滑油が取り残されて各ローラ間から漏れる事態をより確実に防止することができる。
【0017】
請求項4の発明のローラチェーンによれば、閉鎖突起をチェーン内周側に向かう凹断面とした。例えばチェーン走行経路のスプロケット外周領域ではローラチェーンに遠心力が作用するため、各ローラ間に保持された潤滑油がチェーン外周側に漏れ易くなるが、凹断面の閉鎖突起により潤滑油の急激な漏れを防止することができる。
請求項5の発明のローラチェーンによれば、閉鎖突起を金属板からなるインナープレートの一側を折曲して形成して、インナープレートのチェーン外周側の縁部よりも内周側に位置させた。従って、金属板を折曲形成するだけで閉鎖突起を備えたインナープレートを安価に製造できると共に、閉鎖突起がチェーン内周側に位置しているため、チェーンガイドやテンショナとの摩擦による閉鎖突起の摩耗を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のタイミングチェーンの張架状態をエンジン前方より見た正面図である。
【図2】タイミングチェーンの詳細を示す図1のA部分の拡大断面図である。
【図3】同じくタイミングチェーンの詳細を示す図2のB矢視図である。
【図4】図3に対応する方向から見たインナープレートを示す図である。
【図5】図2に対応する方向から見たインナープレートを示す図である。
【図6】中心線付近に閉鎖突起を配置したインナープレートの別例を示す図である。
【図7】閉鎖突起を断面円弧状としたインナープレートの別例を示す図である。
【図8】閉鎖突起を断面角形状としたインナープレートの別例を示す図である。
【図9】閉鎖突起を傾斜配置して保持面としたインナープレートの別例を示す図である。
【図10】閉鎖突起の後側に形成した突壁を保持面としたインナープレートの別例を示す図である。
【図11】折曲形成により閉鎖突起を形成したインナープレートの別例を示す図である。
【図12】折曲形成前のインナープレートの素材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をエンジンのカム駆動用のタイミングチェーンに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のタイミングチェーンの張架状態をエンジン前方より見た正面図である。
エンジン下部にはクランク軸1の前端に固定された駆動スプロケット2が配設され、エンジン上部には吸気カムシャフト3の前端に固定された吸気スプロケット4、及び排気カムシャフト5の前端に固定された排気スプロケット6が配設されている。これらの各スプロケット2,4,6間にタイミングチェーン7が張架され、タイミングチェーン7の左側にはテンショナ8が配設され、右側にはチェーンガイド9が配設されている。テンショナ8は、上端を支軸8aにより揺動可能に支持されてタイミングチェーン7に沿って上下方向に延設されたテンショナレバー8b、及びテンショナレバー8bをチェーン側に付勢する油圧ユニット8cから構成されている。また、チェーンガイド9は、タイミングチェーン7に沿って上下方向に延設された形状をなしている。
【0020】
図1に矢印で示すようにエンジン運転中においてクランク軸1と共に駆動スプロケット2は時計回りに回転し、それに伴ってタイミングチェーン7はテンショナ8により張力を付与されながらチェーンガイド9に案内されて、所定の経路上を時計回りに走行する。駆動スプロケット2の回転はタイミングチェーン7を介して吸排気スプロケット4,6に伝達され、これによりクランク軸1の回転に同期して吸排気カムシャフト3,5が回転駆動されて動弁機構の作動によりエンジンが運転されるようになっている。
【0021】
チェーンガイド9の下側位置にはオイルジェット10(オイル供給手段)が配設され、エンジン運転中にオイルジェット10からはタイミングチェーン7に向けて潤滑油(エンジンオイル)が連続的に噴射される。タイミングチェーン7はオイルジェット10から潤滑油を噴射された直後に駆動スプロケット2を経て上方に走行し、その後に吸排気スプロケット4,6を経て下方に走行して再びオイルジェット10の位置に到達し、以上のサイクルを繰り返す。
【0022】
図2はタイミングチェーン7の詳細を示す図1のA部分の拡大断面図、図3は同じくタイミングチェーン7の詳細を示す図2のB矢視図、図4は図3に対応する方向から見たインナープレートを示す図、図5は図2に対応する方向から見たインナープレートを示す図である。なお、図4ではインナープレートと共にローラピンなどの部材も部分的に示している。
【0023】
全体としてタイミングチェーン7は、幅方向(エンジン前後方向)に所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレート13からなるアウタープレート対と、同じく幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレート14からなるインナープレート対とを長手方向に交互に列設して構成されている。
アウタープレート14及びインナープレート14はそれぞれ金属板から製作された小判型をなしている。各アウタープレート対の1組のアウタープレート14の内側にインナープレート対の両インナープレート14が位置することにより、長手方向に隣接する各アウタープレート対と各インナープレート対とが互いに重なって配置されている。このアウタープレート対とインナープレート対との重なり箇所において、相対向するインナープレート14にはブッシュ15の両端がそれぞれカシメ固定されている。
【0024】
各ブッシュ15内にはそれぞれローラピン16が挿入され、各ローラピン16の両端はブッシュ15から幅方向に突出して相対向するアウタープレート13に対してカシメ固定されている。これにより各プレート対はブッシュ15及びローラピン16を介して屈曲可能に連結されて、全体として環状をなすタイミングチェーン7を構成している。各ブッシュ15には相対向するインナープレート14間においてローラ17が回転可能に支持され、これらのローラ17が上記した駆動スプロケット2や吸排気スプロケット4,6に噛合することによりタイミングチェーン7を介した動力伝達が行われる。
【0025】
オイルジェット10から噴射された潤滑油はタイミングチェーン7の各ローラ17間に保持されながらチェーン外周側に漏れ、タイミングチェーン7とチェーン走行経路の外周側に位置するチェーンガイド9やテンショナ8との間を潤滑する。しかし、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、各ローラ17間の潤滑油は急激にチェーン外周側に漏れ出し、再びオイルジェット10の位置に到達するまでに各ローラ17間の潤滑油が漏れ尽くして十分な潤滑作用が得られなくなるという問題がある。本実施形態の構成と照らし合わせると、オイルジェット10から潤滑油を噴射された直後に位置するテンショナ8は多量の潤滑油によりタイミングチェーン7との潤滑がなされるのに対し、オイルジェット10の直前に位置するチェーンガイド9は潤滑油が不十分で潤滑不足になってしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、タイミングチェーン7のインナープレート14の形状を工夫することで各ローラ17間の潤滑油の保持性能を向上させて潤滑油の急激な漏れを抑制しており、以下、当該対策について詳述する。
図2〜5に示すように、全てのインナープレート14の相手側への対向面には閉鎖突起18が設けられている。閉鎖突起18は基端をインナープレート14に対して溶接され、先端を相手側のインナープレート14に向けて突出させている。また、閉鎖突起18は四角平板状をなし、ローラピン16間を結ぶインナープレート14の中心線C(換言すればチェーン走行方向)に対して平行に、且つこの中心線Cに対して寸法aだけチェーン外周側にオフセットするように配置されている。相対向するインナープレート14の閉鎖突起18の先端は僅かな間隙を介して対応し、これらの閉鎖突起18により各ローラ17間の間隙の一部が閉塞されて、間隙のチェーン内周側への開口面積が縮小されている。ここで、図2,3に示すように各インナープレート14に設けられた閉鎖突起18は1つおきのローラ17間に存在し、閉鎖突起18を有するローラ17間で上記のような開口面積の縮小がなされている。
【0027】
オイルジェット10からタイミングチェーン7に潤滑油が噴射されると、閉鎖突起18が存在するローラ17間ではローラ17間の間隙の開口面積が縮小されているため、閉鎖突起18が存在しないローラ17間に比較して間隙からチェーン外周側への潤滑油の漏れ量が格段に減少する。よって、オイルジェット10から潤滑油を噴射されてタイミングチェーン7が駆動スプロケット2を経て上方に走行するとき、閉鎖突起18が存在するローラ17間では潤滑油の急激な漏れが防止され、その後に吸排気スプロケット4,6を経て下方に走行して再びオイルジェット10の位置に到達するまでローラ17間に潤滑油が保持され続け、チェーン外周側への潤滑油の漏れが継続される。
【0028】
結果として、従来は過剰傾向にあったオイルジェット10を起点とするチェーン走行経路の前半領域(テンショナ8位置を含む)での潤滑油の漏れ量が減少する一方、不足傾向にあったチェーン走行経路の後半領域(チェーンガイド9位置を含む)での潤滑油の漏れ量が増加し、チェーン走行経路上全体での潤滑油の漏れ量がより均一化される。このため従来から十分に潤滑可能であったテンショナ8については勿論、潤滑不足であったチェーンガイド9についても十分に潤滑でき、もってローラチェーン或いはチェーンガイド9やテンショナ8の摩耗促進などのトラブルを未然に防止することができる。
【0029】
しかも、本実施形態では、ローラピン16間を結ぶインナープレート14の中心線Cに対してチェーン外周側に閉鎖突起18をオフセット配置している。このため、特に図2に示すように、閉鎖突起18とスプロケット2,4,6の歯との間には常に間隙が形成されることになり、スプロケット2,4,6の歯が閉鎖突起18に干渉したときの異音発生などのトラブルを未然に防止することができる。
【0030】
ところで、本発明の閉鎖突起18は上記実施形態で述べた構成に限ることはなく種々に変更可能である。そこで、以下に閉鎖突起18の別例を述べる。
まず、上記実施形態では、インナープレート14の中心線Cに対して閉鎖突起18をチェーン外周側にオフセット配置したが、スプロケット2,4,6の歯と干渉しなければ必ずしもオフセット配置する必要はない。従って、例えば図6に示すようにオフセット寸法aを減少させて、インナープレート14の中心線C付近に閉鎖突起18を配置したり、或いは完全に中心線Cと一致する位置に閉鎖突起18を配置したりしてもよい。これらの場合には、ローラ17間の間隙の閉塞に必要な閉鎖突起18のチェーン走行方向長さを短縮でき、結果として閉鎖突起18を設けたことによるタイミングチェーン7の重量増加を抑制できるという別の利点が得られる。
【0031】
また、上記実施形態では閉鎖突起18を四角平板状に形成したが、この形状に限ることはない。例えば図7に示すように、閉鎖突起18をチェーン内周側に向けて凹となる断面円弧状に形成してもよいし、図8に示すように、チェーン内周側に向けて凹となる断面角形状に形成してもよい。例えばチェーン走行経路のスプロケット外周に相当する領域ではタイミングチェーン7に遠心力が作用するため、各ローラ17間に保持された潤滑油がチェーン外周側に一層漏れ易くなるが、凹断面の閉鎖突起18内に潤滑油が保持されることから潤滑油の急激な漏れをより確実に防止できるという別の利点が得られる。
【0032】
また、例えば図9に示すように、閉鎖突起18のチェーン内周側の面を保持面21として、この保持面21がチェーン走行方向に面するように閉鎖突起18を傾斜配置してもよい。また、図10に示すように、閉鎖突起18のチェーン走行方向の後側にチェーン内周側に向けて突壁22を形成し、この突壁22のチェーン走行方向に面する面を保持面22aとしてもよい。
【0033】
各ローラ17間に保持された潤滑油はチェーン走行方向に向かう力を受けながらタイミングチェーン7と共に移送されるが、このときの力が保持面21,22aにより効果的に潤滑油に伝達される。このためタイミングチェーン7の走行に対して潤滑油が取り残される事態、ひいては取り残された潤滑油が各ローラ17間からチェーン外周側に漏れる事態を防止できる。また、オイルジェット10をエンジン下部に配置した上記実施形態では、潤滑油を噴射された直後にタイミングチェーン7が上方に走行して各ローラ17間の潤滑油に重力が作用する。この上方に走行する領域では特に潤滑油の漏れ防止が要求されるが、重力を受けることで上記した潤滑油の取り残し(潤滑油の落下)がより発生し易くなる。このような重力に起因する潤滑油の取り残しも保持面21,22aにより防止されることから、各ローラ17間からの潤滑油の漏れを一層確実に防止することができる。
【0034】
また、上記実施形態ではインナープレート14に対して閉鎖突起18を溶接したが、閉鎖突起18の形成方法をこれに限定されるものではなく種々に変更可能である。例えば折曲形成により閉鎖突起18を形成したり、インナープレート14と共に鋳造により一体的に閉鎖突起18を形成したりしてもよい。
図11は折曲形成により閉鎖突起18を形成したインナープレート14を示している。インナープレート14の製造工程において、まず、素材の金属板を図12に示す閉鎖突起18を含むインナープレート14の形状にプレスで打抜き成型し、続いてその閉鎖突起18の箇所を直角に折曲形成する。図12中に破線で示すように、このときの折曲線Lをインナープレート14のチェーン外周側の縁部、即ちチェーンガイド9やテンショナ8に対する摺接箇所よりも寸法bだけチェーン内周側に設定する。これにより折曲後の閉鎖突起18は、摺接箇所よりも寸法bだけチェーン内周側に位置する。従って、金属板を折曲形成するだけで閉鎖突起18を備えたインナープレート14を安価に製造できる上に、閉鎖突起18がチェーン内周側に位置しているため、チェーンガイド9やテンショナ8との摩擦による閉鎖突起18の摩耗を未然に防止できるという利点も得られる。
【0035】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、エンジンのカム駆動用のタイミングチェーン7に具体化したが、対象となるローラチェーンはこれに限らない。例えばエンジンのクランク軸1とオイルポンプ軸とを連結するオイルポンプ駆動用のローラチェーンに具体化してもよい。
また、上記実施形態では、チェーン長手方向の全てのインナープレート14に閉鎖突起18を設けたが、一部のインナープレート14のみ、例えば1つおきのインナープレート14のみに閉鎖突起18を設けてもよい。また、インナープレート対を構成する1組のインナープレート14にそれぞれ閉鎖突起18を設けたが、何れか一方のインナープレート14のみに閉鎖突起18を設けてもよい。その場合、閉鎖突起18を相対向するインナープレート14に向けて延設すれば、ローラ17間の間隙を所期の開口面積まで縮小させることができる。
【符号の説明】
【0036】
2 駆動スプロケット
4 吸気スプロケット
6 排気スプロケット
10 オイルジェット(オイル供給手段)
13 アウタープレート
14 インナープレート
16 ローラピン
17 ローラ
18 閉鎖突起
21,22a 保持面
C 中心線
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝達を行うためのローラチェーンに係り、詳しくは潤滑油の保持性能を向上させたローラチェーンに関する。
【背景技術】
【0002】
この種のローラチェーンは動力伝達のために各種分野で利用されており、例えば特許文献1に記載されたエンジンのカム駆動用のローラチェーンを挙げることができる。この特許文献1に記載されたローラチェーンは、所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレートからなるアウタープレート対、及び同じく所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレートからなるアウタープレート対を長手方向に互いに重なるように交互に列設して構成されている。
【0003】
隣接するアウタープレート対とインナープレート対との重なり箇所において、相対向するインナープレートにはブッシュの両端がそれぞれ固定され、このブッシュ内に挿入されたローラピンの両端が両アウタープレートにそれぞれ固定されている。これにより各プレート対はブッシュ及びローラピンを介して屈曲可能に連結されて、全体として環状をなすローラチェーンを構成している。各ブッシュには両インナープレート間においてローラが回転可能に支持され、これらのローラがスプロケットに噛合することにより動力伝達を可能としている。
【0004】
ローラチェーンはエンジンのクランク軸のスプロケットと吸排気カムシャフトのスプロケットとの間に張架され、各スプロケットにローラを噛合させてクランク軸の回転に同期して吸排気カムシャフトを回転駆動している。ローラチェーンはテンショナにより張力を付与されながらチェーンガイドに案内されて所定の経路上を走行すると共に、この走行経路上の一側に配設されたオイルジェットから潤滑油を供給されて潤滑される。
【0005】
オイルジェットから供給された潤滑油は、ローラチェーンの各ローラ間に保持されてローラチェーンの走行中に順次潤滑に供される。特許文献1では、アウタープレートとインナープレートとの対向面にブッシュ間を連結するようにオイル溝を形成し、これらのオイル溝を介して各ローラ間の潤滑油をブッシュとローラピンとの間に導いて潤滑に利用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−294089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように特許文献1に記載されたローラチェーンは、ブッシュとローラピンとの間の潤滑が不十分であるとの知見の下に、各ローラ間に保持されている潤滑油をオイル溝を経てブッシュとローラピンとの間に導いている。しかしながら、各ローラ間に対してブッシュは元々近接しているため、オイル溝がなくても潤滑油は自ずとブッシュ側に流れて潤滑作用を奏し、それほど有益な対策とは言い難かった。
【0008】
むしろ潤滑不足に陥り易いのはローラチェーンとチェーンガイドやテンショナとの間であり、これはチェーン走行経路の一点(オイルジェットの位置)で潤滑油を供給することに起因する根本的な問題となっている。即ち、上記のようにオイルジェットから供給された潤滑油はローラチェーンの各ローラ間に保持されながら、チェーン走行中にローラとスプロケットとの間などの潤滑に順次供されており、チェーンガイドやテンショナの潤滑については、各ローラ間からチェーン外周側に次第に漏れる潤滑油により行われる。
【0009】
ところが、ローラチェーンは本来目的とする動力伝達に必要な構成のみで成り立ち、各ローラ間に潤滑油を保持するための積極的な対策は何ら講じられていない。このため、オイルジェットから供給された直後から各ローラ間の潤滑油はチェーン外周側に漏れ出し、所定経路を経て再びオイルジェットの位置に到達するまでに各ローラ間の潤滑油が減少してしまう。よって、特にオイルジェットの直前の位置では潤滑油が不足しがちになって潤滑性能の低下を招き易く、ローラチェーン或いはチェーンガイドやテンショナの摩耗が促進されてしまうなどの課題があった。
【0010】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、チェーン走行経路上の全ての領域においてローラチェーンとチェーンガイドやテンショナなどの部材との間の潤滑不足を防止でき、潤滑不足に起因する摩耗促進などを未然に防止することができるローラチェーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレートからなるアウタープレート対、及び両アウタープレートの内側で幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレートからなるアウタープレート対を長手方向に互いに重なるように交互に列設し、隣接するアウタープレート対とインナープレート対との重なり箇所において、相対向するインナープレート間にスプロケットと噛合可能なローラをそれぞれ配設してローラピンにより回転可能に支持すると共に、各ローラピンの両端をインナープレート及びアウタープレートにそれぞれ貫通させて各プレート対を全体として環状をなすように連結し、オイル供給手段から供給される潤滑油により潤滑されながら動力伝達を行うローラチェーンにおいて、インナープレート対の少なくとも何れか一方のインナープレートにインナープレート対の他方側に向けて伸びて、ローラ間に形成された間隙の一部を閉塞して間隙の開口面積を縮小する閉鎖突起を設けたものである。
【0012】
請求項2の発明は、閉鎖突起が、スプロケットの歯との干渉を防止すべくローラピン間を結ぶインナープレートの中心線に対してチェーン外周側にオフセット配置されているものである。
請求項3の発明は、閉鎖突起が、チェーン内周側の少なくとも一側にチェーン走行方向に面した保持面を有するものである。
【0013】
請求項4の発明は、閉鎖突起が、チェーン内周側に向けて凹となる断面形状をなしているものである。
請求項5の発明は、閉鎖突起が、金属板からなるインナープレートの一側を折曲して形成され、インナープレートのチェーン外周側の縁部よりも内周側に位置しているものである。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように請求項1の発明のローラチェーンによれば、1組のアウタープレートからなるアウタープレート対と1組のインナープレートからなるアウタープレート対とを交互に列設して各プレートをローラピンにより環状をなすように連結し、インナープレート対の少なくとも一方のインナープレートの対向面に、ローラ間の間隙の開口面積を縮小する閉鎖突起を設けた。
【0015】
ローラチェーンはチェーンガイドやテンショナなどの案内により所定経路上を走行して動力伝達すると共に、その走行経路の一側に配設されたオイル供給手段から潤滑油が供給されてローラチェーンとチェーンガイドやテンショナとの間が潤滑される。供給された潤滑油は各ローラ間の間隙から徐々にチェーン外周側に漏れて潤滑に供されるが、本発明では、各ローラ間の間隙の開口面積が閉塞突起により縮小されているため、間隙からの急激な潤滑油の漏れが防止される。よって、再びオイル供給手段の位置に到達するまで各ローラ間の間隙から潤滑油を漏らし続けて潤滑を継続でき、もってチェーン走行経路上の全ての領域においてローラチェーンの潤滑不足、ひいては潤滑不足による摩耗の促進などを未然に防止することができる。
【0016】
請求項2の発明のローラチェーンによれば、インナープレートの中心線よりもチェーン外周側に閉鎖突起がオフセット配置されているため、閉鎖突起とスプロケットの歯との干渉を未然に防止することができる。
請求項3の発明のローラチェーンによれば、閉鎖突起のチェーン内周側の少なくとも一側にチェーン走行方向に面した保持面を設けた。各ローラ間に保持された潤滑油はチェーン走行方向に向かう力を受けながらローラチェーンと共に移送されるが、このときの力が保持面により効果的に潤滑油に伝達されるため、ローラチェーンの走行に対して潤滑油が取り残されて各ローラ間から漏れる事態をより確実に防止することができる。
【0017】
請求項4の発明のローラチェーンによれば、閉鎖突起をチェーン内周側に向かう凹断面とした。例えばチェーン走行経路のスプロケット外周領域ではローラチェーンに遠心力が作用するため、各ローラ間に保持された潤滑油がチェーン外周側に漏れ易くなるが、凹断面の閉鎖突起により潤滑油の急激な漏れを防止することができる。
請求項5の発明のローラチェーンによれば、閉鎖突起を金属板からなるインナープレートの一側を折曲して形成して、インナープレートのチェーン外周側の縁部よりも内周側に位置させた。従って、金属板を折曲形成するだけで閉鎖突起を備えたインナープレートを安価に製造できると共に、閉鎖突起がチェーン内周側に位置しているため、チェーンガイドやテンショナとの摩擦による閉鎖突起の摩耗を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態のタイミングチェーンの張架状態をエンジン前方より見た正面図である。
【図2】タイミングチェーンの詳細を示す図1のA部分の拡大断面図である。
【図3】同じくタイミングチェーンの詳細を示す図2のB矢視図である。
【図4】図3に対応する方向から見たインナープレートを示す図である。
【図5】図2に対応する方向から見たインナープレートを示す図である。
【図6】中心線付近に閉鎖突起を配置したインナープレートの別例を示す図である。
【図7】閉鎖突起を断面円弧状としたインナープレートの別例を示す図である。
【図8】閉鎖突起を断面角形状としたインナープレートの別例を示す図である。
【図9】閉鎖突起を傾斜配置して保持面としたインナープレートの別例を示す図である。
【図10】閉鎖突起の後側に形成した突壁を保持面としたインナープレートの別例を示す図である。
【図11】折曲形成により閉鎖突起を形成したインナープレートの別例を示す図である。
【図12】折曲形成前のインナープレートの素材を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をエンジンのカム駆動用のタイミングチェーンに具体化した一実施形態を説明する。
図1は本実施形態のタイミングチェーンの張架状態をエンジン前方より見た正面図である。
エンジン下部にはクランク軸1の前端に固定された駆動スプロケット2が配設され、エンジン上部には吸気カムシャフト3の前端に固定された吸気スプロケット4、及び排気カムシャフト5の前端に固定された排気スプロケット6が配設されている。これらの各スプロケット2,4,6間にタイミングチェーン7が張架され、タイミングチェーン7の左側にはテンショナ8が配設され、右側にはチェーンガイド9が配設されている。テンショナ8は、上端を支軸8aにより揺動可能に支持されてタイミングチェーン7に沿って上下方向に延設されたテンショナレバー8b、及びテンショナレバー8bをチェーン側に付勢する油圧ユニット8cから構成されている。また、チェーンガイド9は、タイミングチェーン7に沿って上下方向に延設された形状をなしている。
【0020】
図1に矢印で示すようにエンジン運転中においてクランク軸1と共に駆動スプロケット2は時計回りに回転し、それに伴ってタイミングチェーン7はテンショナ8により張力を付与されながらチェーンガイド9に案内されて、所定の経路上を時計回りに走行する。駆動スプロケット2の回転はタイミングチェーン7を介して吸排気スプロケット4,6に伝達され、これによりクランク軸1の回転に同期して吸排気カムシャフト3,5が回転駆動されて動弁機構の作動によりエンジンが運転されるようになっている。
【0021】
チェーンガイド9の下側位置にはオイルジェット10(オイル供給手段)が配設され、エンジン運転中にオイルジェット10からはタイミングチェーン7に向けて潤滑油(エンジンオイル)が連続的に噴射される。タイミングチェーン7はオイルジェット10から潤滑油を噴射された直後に駆動スプロケット2を経て上方に走行し、その後に吸排気スプロケット4,6を経て下方に走行して再びオイルジェット10の位置に到達し、以上のサイクルを繰り返す。
【0022】
図2はタイミングチェーン7の詳細を示す図1のA部分の拡大断面図、図3は同じくタイミングチェーン7の詳細を示す図2のB矢視図、図4は図3に対応する方向から見たインナープレートを示す図、図5は図2に対応する方向から見たインナープレートを示す図である。なお、図4ではインナープレートと共にローラピンなどの部材も部分的に示している。
【0023】
全体としてタイミングチェーン7は、幅方向(エンジン前後方向)に所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレート13からなるアウタープレート対と、同じく幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレート14からなるインナープレート対とを長手方向に交互に列設して構成されている。
アウタープレート14及びインナープレート14はそれぞれ金属板から製作された小判型をなしている。各アウタープレート対の1組のアウタープレート14の内側にインナープレート対の両インナープレート14が位置することにより、長手方向に隣接する各アウタープレート対と各インナープレート対とが互いに重なって配置されている。このアウタープレート対とインナープレート対との重なり箇所において、相対向するインナープレート14にはブッシュ15の両端がそれぞれカシメ固定されている。
【0024】
各ブッシュ15内にはそれぞれローラピン16が挿入され、各ローラピン16の両端はブッシュ15から幅方向に突出して相対向するアウタープレート13に対してカシメ固定されている。これにより各プレート対はブッシュ15及びローラピン16を介して屈曲可能に連結されて、全体として環状をなすタイミングチェーン7を構成している。各ブッシュ15には相対向するインナープレート14間においてローラ17が回転可能に支持され、これらのローラ17が上記した駆動スプロケット2や吸排気スプロケット4,6に噛合することによりタイミングチェーン7を介した動力伝達が行われる。
【0025】
オイルジェット10から噴射された潤滑油はタイミングチェーン7の各ローラ17間に保持されながらチェーン外周側に漏れ、タイミングチェーン7とチェーン走行経路の外周側に位置するチェーンガイド9やテンショナ8との間を潤滑する。しかし、[発明が解決しようとする課題]で述べたように、各ローラ17間の潤滑油は急激にチェーン外周側に漏れ出し、再びオイルジェット10の位置に到達するまでに各ローラ17間の潤滑油が漏れ尽くして十分な潤滑作用が得られなくなるという問題がある。本実施形態の構成と照らし合わせると、オイルジェット10から潤滑油を噴射された直後に位置するテンショナ8は多量の潤滑油によりタイミングチェーン7との潤滑がなされるのに対し、オイルジェット10の直前に位置するチェーンガイド9は潤滑油が不十分で潤滑不足になってしまう。
【0026】
そこで、本実施形態では、タイミングチェーン7のインナープレート14の形状を工夫することで各ローラ17間の潤滑油の保持性能を向上させて潤滑油の急激な漏れを抑制しており、以下、当該対策について詳述する。
図2〜5に示すように、全てのインナープレート14の相手側への対向面には閉鎖突起18が設けられている。閉鎖突起18は基端をインナープレート14に対して溶接され、先端を相手側のインナープレート14に向けて突出させている。また、閉鎖突起18は四角平板状をなし、ローラピン16間を結ぶインナープレート14の中心線C(換言すればチェーン走行方向)に対して平行に、且つこの中心線Cに対して寸法aだけチェーン外周側にオフセットするように配置されている。相対向するインナープレート14の閉鎖突起18の先端は僅かな間隙を介して対応し、これらの閉鎖突起18により各ローラ17間の間隙の一部が閉塞されて、間隙のチェーン内周側への開口面積が縮小されている。ここで、図2,3に示すように各インナープレート14に設けられた閉鎖突起18は1つおきのローラ17間に存在し、閉鎖突起18を有するローラ17間で上記のような開口面積の縮小がなされている。
【0027】
オイルジェット10からタイミングチェーン7に潤滑油が噴射されると、閉鎖突起18が存在するローラ17間ではローラ17間の間隙の開口面積が縮小されているため、閉鎖突起18が存在しないローラ17間に比較して間隙からチェーン外周側への潤滑油の漏れ量が格段に減少する。よって、オイルジェット10から潤滑油を噴射されてタイミングチェーン7が駆動スプロケット2を経て上方に走行するとき、閉鎖突起18が存在するローラ17間では潤滑油の急激な漏れが防止され、その後に吸排気スプロケット4,6を経て下方に走行して再びオイルジェット10の位置に到達するまでローラ17間に潤滑油が保持され続け、チェーン外周側への潤滑油の漏れが継続される。
【0028】
結果として、従来は過剰傾向にあったオイルジェット10を起点とするチェーン走行経路の前半領域(テンショナ8位置を含む)での潤滑油の漏れ量が減少する一方、不足傾向にあったチェーン走行経路の後半領域(チェーンガイド9位置を含む)での潤滑油の漏れ量が増加し、チェーン走行経路上全体での潤滑油の漏れ量がより均一化される。このため従来から十分に潤滑可能であったテンショナ8については勿論、潤滑不足であったチェーンガイド9についても十分に潤滑でき、もってローラチェーン或いはチェーンガイド9やテンショナ8の摩耗促進などのトラブルを未然に防止することができる。
【0029】
しかも、本実施形態では、ローラピン16間を結ぶインナープレート14の中心線Cに対してチェーン外周側に閉鎖突起18をオフセット配置している。このため、特に図2に示すように、閉鎖突起18とスプロケット2,4,6の歯との間には常に間隙が形成されることになり、スプロケット2,4,6の歯が閉鎖突起18に干渉したときの異音発生などのトラブルを未然に防止することができる。
【0030】
ところで、本発明の閉鎖突起18は上記実施形態で述べた構成に限ることはなく種々に変更可能である。そこで、以下に閉鎖突起18の別例を述べる。
まず、上記実施形態では、インナープレート14の中心線Cに対して閉鎖突起18をチェーン外周側にオフセット配置したが、スプロケット2,4,6の歯と干渉しなければ必ずしもオフセット配置する必要はない。従って、例えば図6に示すようにオフセット寸法aを減少させて、インナープレート14の中心線C付近に閉鎖突起18を配置したり、或いは完全に中心線Cと一致する位置に閉鎖突起18を配置したりしてもよい。これらの場合には、ローラ17間の間隙の閉塞に必要な閉鎖突起18のチェーン走行方向長さを短縮でき、結果として閉鎖突起18を設けたことによるタイミングチェーン7の重量増加を抑制できるという別の利点が得られる。
【0031】
また、上記実施形態では閉鎖突起18を四角平板状に形成したが、この形状に限ることはない。例えば図7に示すように、閉鎖突起18をチェーン内周側に向けて凹となる断面円弧状に形成してもよいし、図8に示すように、チェーン内周側に向けて凹となる断面角形状に形成してもよい。例えばチェーン走行経路のスプロケット外周に相当する領域ではタイミングチェーン7に遠心力が作用するため、各ローラ17間に保持された潤滑油がチェーン外周側に一層漏れ易くなるが、凹断面の閉鎖突起18内に潤滑油が保持されることから潤滑油の急激な漏れをより確実に防止できるという別の利点が得られる。
【0032】
また、例えば図9に示すように、閉鎖突起18のチェーン内周側の面を保持面21として、この保持面21がチェーン走行方向に面するように閉鎖突起18を傾斜配置してもよい。また、図10に示すように、閉鎖突起18のチェーン走行方向の後側にチェーン内周側に向けて突壁22を形成し、この突壁22のチェーン走行方向に面する面を保持面22aとしてもよい。
【0033】
各ローラ17間に保持された潤滑油はチェーン走行方向に向かう力を受けながらタイミングチェーン7と共に移送されるが、このときの力が保持面21,22aにより効果的に潤滑油に伝達される。このためタイミングチェーン7の走行に対して潤滑油が取り残される事態、ひいては取り残された潤滑油が各ローラ17間からチェーン外周側に漏れる事態を防止できる。また、オイルジェット10をエンジン下部に配置した上記実施形態では、潤滑油を噴射された直後にタイミングチェーン7が上方に走行して各ローラ17間の潤滑油に重力が作用する。この上方に走行する領域では特に潤滑油の漏れ防止が要求されるが、重力を受けることで上記した潤滑油の取り残し(潤滑油の落下)がより発生し易くなる。このような重力に起因する潤滑油の取り残しも保持面21,22aにより防止されることから、各ローラ17間からの潤滑油の漏れを一層確実に防止することができる。
【0034】
また、上記実施形態ではインナープレート14に対して閉鎖突起18を溶接したが、閉鎖突起18の形成方法をこれに限定されるものではなく種々に変更可能である。例えば折曲形成により閉鎖突起18を形成したり、インナープレート14と共に鋳造により一体的に閉鎖突起18を形成したりしてもよい。
図11は折曲形成により閉鎖突起18を形成したインナープレート14を示している。インナープレート14の製造工程において、まず、素材の金属板を図12に示す閉鎖突起18を含むインナープレート14の形状にプレスで打抜き成型し、続いてその閉鎖突起18の箇所を直角に折曲形成する。図12中に破線で示すように、このときの折曲線Lをインナープレート14のチェーン外周側の縁部、即ちチェーンガイド9やテンショナ8に対する摺接箇所よりも寸法bだけチェーン内周側に設定する。これにより折曲後の閉鎖突起18は、摺接箇所よりも寸法bだけチェーン内周側に位置する。従って、金属板を折曲形成するだけで閉鎖突起18を備えたインナープレート14を安価に製造できる上に、閉鎖突起18がチェーン内周側に位置しているため、チェーンガイド9やテンショナ8との摩擦による閉鎖突起18の摩耗を未然に防止できるという利点も得られる。
【0035】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、エンジンのカム駆動用のタイミングチェーン7に具体化したが、対象となるローラチェーンはこれに限らない。例えばエンジンのクランク軸1とオイルポンプ軸とを連結するオイルポンプ駆動用のローラチェーンに具体化してもよい。
また、上記実施形態では、チェーン長手方向の全てのインナープレート14に閉鎖突起18を設けたが、一部のインナープレート14のみ、例えば1つおきのインナープレート14のみに閉鎖突起18を設けてもよい。また、インナープレート対を構成する1組のインナープレート14にそれぞれ閉鎖突起18を設けたが、何れか一方のインナープレート14のみに閉鎖突起18を設けてもよい。その場合、閉鎖突起18を相対向するインナープレート14に向けて延設すれば、ローラ17間の間隙を所期の開口面積まで縮小させることができる。
【符号の説明】
【0036】
2 駆動スプロケット
4 吸気スプロケット
6 排気スプロケット
10 オイルジェット(オイル供給手段)
13 アウタープレート
14 インナープレート
16 ローラピン
17 ローラ
18 閉鎖突起
21,22a 保持面
C 中心線
【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレートからなるアウタープレート対、及び上記両アウタープレートの内側で幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレートからなるアウタープレート対を長手方向に互いに重なるように交互に列設し、隣接する上記アウタープレート対と上記インナープレート対との重なり箇所において、相対向する上記インナープレート間にスプロケットと噛合可能なローラをそれぞれ配設してローラピンにより回転可能に支持すると共に、各ローラピンの両端を上記インナープレート及び上記アウタープレートにそれぞれ貫通させて上記各プレート対を全体として環状をなすように連結し、オイル供給手段から供給される潤滑油により潤滑されながら動力伝達を行うローラチェーンにおいて、
上記インナープレート対の少なくとも何れか一方のインナープレートに該インナープレート対の他方側へ向けて伸びて、上記ローラ間に形成された間隙の一部を閉塞して該間隙の開口面積を縮小する閉鎖突起を設けたことを特徴とするローラチェーン。
【請求項2】
上記閉鎖突起は、上記スプロケットの歯との干渉を防止すべく上記ローラピン間を結ぶ上記インナープレートの中心線に対してチェーン外周側にオフセット配置されていることを特徴とする請求項1記載のローラチェーン。
【請求項3】
上記閉鎖突起は、チェーン内周側の少なくとも一側にチェーン走行方向に面した保持面を有することを特徴とする請求項1または2記載のローラチェーン。
【請求項4】
上記閉鎖突起は、チェーン内周側に向けて凹となる断面形状をなしていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか記載のローラチェーン。
【請求項5】
上記閉鎖突起は、金属板からなるインナープレートの一側を折曲して形成され、該インナープレートのチェーン外周側の縁部よりも内周側に位置していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか記載のローラチェーン。
【請求項1】
幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のアウタープレートからなるアウタープレート対、及び上記両アウタープレートの内側で幅方向に所定間隔をおいて相対向する1組のインナープレートからなるアウタープレート対を長手方向に互いに重なるように交互に列設し、隣接する上記アウタープレート対と上記インナープレート対との重なり箇所において、相対向する上記インナープレート間にスプロケットと噛合可能なローラをそれぞれ配設してローラピンにより回転可能に支持すると共に、各ローラピンの両端を上記インナープレート及び上記アウタープレートにそれぞれ貫通させて上記各プレート対を全体として環状をなすように連結し、オイル供給手段から供給される潤滑油により潤滑されながら動力伝達を行うローラチェーンにおいて、
上記インナープレート対の少なくとも何れか一方のインナープレートに該インナープレート対の他方側へ向けて伸びて、上記ローラ間に形成された間隙の一部を閉塞して該間隙の開口面積を縮小する閉鎖突起を設けたことを特徴とするローラチェーン。
【請求項2】
上記閉鎖突起は、上記スプロケットの歯との干渉を防止すべく上記ローラピン間を結ぶ上記インナープレートの中心線に対してチェーン外周側にオフセット配置されていることを特徴とする請求項1記載のローラチェーン。
【請求項3】
上記閉鎖突起は、チェーン内周側の少なくとも一側にチェーン走行方向に面した保持面を有することを特徴とする請求項1または2記載のローラチェーン。
【請求項4】
上記閉鎖突起は、チェーン内周側に向けて凹となる断面形状をなしていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか記載のローラチェーン。
【請求項5】
上記閉鎖突起は、金属板からなるインナープレートの一側を折曲して形成され、該インナープレートのチェーン外周側の縁部よりも内周側に位置していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか記載のローラチェーン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−24315(P2013−24315A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159020(P2011−159020)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
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