説明

ロールイン用可塑性油脂組成物及び層状小麦粉膨化食品

【課題】製造後長時間にわたってサクサクとした食感を維持でき、且つ口溶けの良好な層状焼成パンを得ることのできるロールイン用可塑性油脂組成物、及び該ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品を提供すること。
【解決手段】油相中に油脂A、油脂B及び油脂Cを含有するロールイン用可塑性油脂組成物であって、前記油脂Aは、該油脂Aを構成する全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を20〜60質量%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を40〜80質量%含有したエステル交換油脂であり、前記油脂Bは、該油脂Bを構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25〜38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5〜6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40〜60質量%含有し、前記油脂Cは液状油である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロールイン用に適した可塑性油脂組成物及び該可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品に関する。
【背景技術】
【0002】
ロールイン用可塑性油脂組成物は、デニッシュペストリー、クロワッサン、パイ等のサクサクとした食感を有する層状小麦粉膨化食品の製造に使用されるものである。ロールイン用可塑性油脂組成物は、これら層状小麦粉膨化食品の製造時に、生地の間に挟み込まれ、折り畳み、圧延を繰り返すことにより、生地中に薄い油脂の層を多数作る。これらの油脂の層は、折り畳み、圧延時に小麦粉生地層の相互の付着を防止し、また、焼成中にはこれらの油脂の層が、生地から発生する水蒸気や炭酸ガスの発散をさえぎることにより、生地は層状に膨張する。更に、層状に折り込まれたロールイン用可塑性油脂組成物は、最終的に溶けて生地に吸収され、ロールイン用可塑性油脂組成物を吸収した生地は、生地中のでんぷんが糊化し、またタンパク質が熱変性することによって凝固する。その結果、層状小麦粉膨化食品には、独特の層構造が形成されると共にサクサクとした食感が付与される。
【0003】
これらのロールイン用可塑性油脂組成物には、融点の高い、硬い油脂を用いた方が、焼成時の初期から中期にかけて油脂が溶解しにくく、油脂の層間に水蒸気や炭酸ガスがよく保持されて浮きがよくなることが知られている。一方、折り畳み、圧延工程等におけるロールイン用可塑性油脂組成物の伸展性を確保するために、上記の硬い油脂と液状油とを混合することも知られている。
このようなロールイン用可塑性油脂組成物として、極度硬化パーム核油及び極度硬化パーム油の混合物をエステル交換してなる油脂、パームステアリン、及び液体油からなるロールイン用油脂組成物(特許文献1参照)や、特定の極度硬化植物性油脂と液状油とからなるロールイン用油脂組成物(特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平10−1691号公報
【特許文献1】特開昭57−74041号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、これらの層状小麦粉膨化食品は、焼成直後にはサクサクとした食感を有するが、焼成後、時間の経過と共に水分を吸収して、サクサクとした食感が失われてしまうという問題があった。このサクサクとした食感の喪失は、特に層状小麦粉膨化食品にジャムやクリーム等のフィリングを用いた際に顕著である。
この点、特許文献1記載のロールイン用油脂組成物においては、極度硬化油脂及びパームステアリンを用いることにより、サクサクとした食感を長時間維持することは可能となっているが、製造された層状小麦粉膨化食品は口溶けの悪いものとなってしまっていた。
一方、特許文献2記載のロールイン用油脂組成物は、液状油の配合量を多くすることによって、製造された層状小麦粉膨化食品の口溶けを良好にしているが、時間の経過と共にサクサクとした食感が失われてしまうという問題は解決されていなかった。
【0005】
従って、本発明は、製造後長時間にわたってサクサクとした食感を維持でき、且つ口溶けの良好な層状小麦粉膨化食品を得ることのできるロールイン用に適した可塑性油脂組成物、及び該ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ロールイン用可塑性油脂組成物の油相中に、特定の脂肪酸組成を有する2種類の油脂と液状植物油とを用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
(1) 油相中に油脂A、油脂B及び油脂Cを含有するロールイン用可塑性油脂組成物であって、前記油脂Aは、該油脂Aを構成する全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を20〜60質量%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を40〜80質量%含有したエステル交換油脂であり、前記油脂Bは、該油脂Bを構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25〜38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5〜6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40〜60質量%含有し、前記油脂Cは、液状油であることを特徴とするロールイン用可塑性油脂組成物。
【0008】
(2) 前記油脂Cは、液状植物油であることを特徴とする(1)記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0009】
(3) 前記油脂Aは、ラウリン系油脂とパーム系油脂との混合油をエステル交換及び水素添加して得られた油脂であり、該油脂Aのヨウ素価が0〜2であることを特徴とする(1)又は(2)記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0010】
(4) 前記油脂Aは、ヨウ素価10以下のラウリン系油脂とヨウ素価20以下のパーム系油脂との混合油をエステル交換して得られた油脂であり、該油脂Aのヨウ素価が17以下であり、非水素添加油であることを特徴とする(1)又は(2)記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0011】
(5) 前記油脂Bは、1つのパルミチン酸と2つのオレイン酸とを構成成分とするトリアシルグリセロール(PO2)と、2つのパルミチン酸と1つのオレイン酸とを構成成分とするトリアシルグリセロール(P2O)との合計の含有量が35質量%以上であり、PO2に対するP2Oの比(P2O/PO2)が1未満であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0012】
(6) 前記油脂Bは、パーム油から分別工程を経て得られたパーム油分別軟質部であり、且つヨウ素価が58〜75であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0013】
(7) 前記油脂Bは、液状植物油30〜55質量%とパーム系油脂45〜70質量%とのエステル交換油であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0014】
(8) 前記油脂Cは、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂であることを特徴とする(1)、(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0015】
(9) 前記油脂Cは、液状植物油と構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂との混合油脂であることを特徴とする(1)、(3)、(4)、(5)、(6)又は(7)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0016】
(10) 前記油脂Cは、5℃において液状であることを特徴とする(1)〜(9)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0017】
(11) 前記油相は、前記油脂Aを10〜50質量%、前記油脂Bを10〜50質量%、及び前記油脂Cを10〜50質量%含有していることを特徴とする(1)〜(10)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0018】
(12) トランス脂肪酸含有量が5質量%以下であることを特徴とする(1)〜(11)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0019】
(13) ロールイン用マーガリンであることを特徴とする(1)〜(12)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【0020】
(14) (1)〜(13)のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品。
【0021】
(15) 更に、フィリングを含むことを特徴とする(14)記載の層状小麦粉膨化食品。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造後長時間にわたってサクサクとした食感を維持でき、且つ口溶けの良好な層状小麦粉膨化食品を得ることのできるロールイン用可塑性油脂組成物、及び該ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物について詳しく説明する。
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、油相中に、油脂A、油脂B及び油脂Cを含有するものである。
【0024】
上記油脂Aは、該油脂Aを構成する全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を20〜60質量%、好ましくは25〜40質量%、更に好ましくは28〜35質量%含有し、且つ炭素数16〜18の飽和脂肪酸を40〜80質量%、好ましくは46〜70質量%、更に好ましくは52〜68質量%含有したエステル交換油脂である。尚、炭素数12〜14の飽和脂肪酸及び炭素数16〜18の飽和脂肪酸が上記を満たす範囲で、油脂Aにはその他の脂肪酸が含まれていてもよい。
【0025】
上記油脂Aを構成する脂肪酸の組成及び含有量が上記範囲外となった場合には、得られるロールイン用可塑性油脂組成物は適正な硬さが得られず、伸展性が悪くなったり、該ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品がサクサクとした食感を長時間維持できないものとなってしまう。また、油脂Aがエステル交換処理されていない場合は、物性が極度に硬く、ロールイン用として適度な可塑性が得られないだけでなく、口溶けも非常に悪いものとなってしまう。
尚、油脂中の構成脂肪酸の分析は、AOCS Ce1f−96に準じて行うことができる。
【0026】
上記油脂Aとしては、例えば、ラウリン系油脂及び炭素数16〜18の脂肪酸が豊富な植物油脂(菜種油、大豆油、パーム油等)を混合して得た混合油を、特に、ウラリン系油脂及びパーム系油脂を混合して得た混合油脂をエステル交換した後、水素添加を行ってヨウ素価を0〜2まで低くした油脂を好ましく用いることができる。
ここで、ラウリン系油脂とは、該油脂の構成脂肪酸中におけるラウリン酸含有量が30質量%以上ものをいい、パーム核油や、やし油及びこれらの分別油等が挙げられる。また、パーム系油脂とは、パーム油及びパーム油を原料に分別されてできるパーム油分別硬質部、パーム油分別軟質部等が挙げられる。
【0027】
更に、上記油脂Aの例としては、例えば、ヨウ素価10以下のラウリン系油脂であるラウリン系油脂分別硬質部と、ヨウ素価20以下のパーム系油脂であるパーム分別硬質部とを混合して得た混合油脂をエステル交換したものを使用することができる。得られたエステル交換油のヨウ素価は17以下が好ましく、更には13以下が好ましい。この場合は、水素添加をしなくても使用できる。
ここで、ラウリン系油脂分別硬質部とは、パーム核油又はやし油を分別して得られるものであり、一般に融点の高い画分であり、一般にパーム核油ステアリン、やし油ステアリン等と呼ばれるものに分類される。また、パーム分別硬質部は、パーム油から分別して得られるものであり、一般にステアリン、パームステアリン等と呼ばれるものに分類されるものである。
【0028】
エステル交換の方法に特に制限はなく、例えば、上記ラウリン系油脂及びパーム油又はパーム分別油の混合油脂に触媒としてナトリウムメトキシド等のアルカリ触媒、又はリパーゼ等の酵素を用いて反応させる方法が挙げられる。エステル交換は、位置特異的なエステル交換であっても、ランダムエステル交換であってもよい。
また、水素添加の方法にも特に制限はない。水素添加は、例えば、ニッケル触媒の元、160〜200℃の条件にて行うことができる。この水素添加は、ヨウ素価が2以下になるまで行うことが好ましく、ヨウ素価が0になるまで行う完全水素添加を行うことがより好ましい。
エステル交換と水素添加の順序は逆であってもよく、ラウリン系油脂及びパーム油を水素添加した後に、エステル交換を行ってもよい。
【0029】
上記油脂Bは、該油脂Bを構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸、炭素数18の飽和脂肪酸及び炭素数18のモノ飽和脂肪酸を含有するものである。
上記炭素数16の飽和脂肪酸の含有量は、25〜38質量%、好ましくは28〜38質量%、更に好ましくは30〜38質量%である。
上記炭素数18の飽和脂肪酸の含有量は0.5〜6質量%、好ましくは3〜6質量%、更に好ましくは3〜5質量%である。
上記炭素数18のモノ不飽和脂肪酸の含有量は40〜60質量%、好ましくは40〜55質量%、更に好ましくは43〜50質量%である。
【0030】
また、上記油脂Bは、1つのパルミチン酸と2つのオレイン酸とを構成成分とするトリアシルグリセロール(PO2)と、2つのパルミチン酸と1つのオレイン酸とを構成成分とするトリアシルグリセロール(P2O)との合計の含有量が35質量%以上であり、PO2に対するP2Oの比(P2O/PO2)が1未満であることが好ましい。
ここで、本発明におけるPO2及びP2Oは、それらを構成する脂肪酸の結合位置を特に限定しない。即ち、本発明におけるPO2は、POO(1−パルミトイル−2,3ジオレオイルグリセリン)のみから構成されていてもよく、またOPO(2−パルミトイル−1,3ジオレオイルグリセリン)のみから構成されていてもよい。更には、POO及びOPOの両者を含むものであってもよい。
同様に、本発明におけるP2Oは、OPP(1−オレオ−2,3ジパルミトイルグリセリン)のみから構成されていてもよく、またPOP(2−オレオ−1,3ジパルミトイルグリセリン)のみから構成されていてもよい。更にはOPP及びPOPの両者を含むものであってもよい。
本発明においては、上記の如くPO2及びP2Oを構成する脂肪酸の結合位置を特に限定しない。
尚、油脂中のPO2及びP2Oの含量は、JAOCS,vol170,11,1111−1114(1993)に準じて分析できる。
【0031】
上記油脂Bを構成する脂肪酸の組成と含有量、及びPO2とP2Oの合計含量と含量比とが上記範囲内である場合には、得られるロールイン用可塑性油脂組成物は適正な物性が得られて伸展性がよくなり、該可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品がよりサクサクとした食感のものとなる。
【0032】
上記油脂Bとしては、例えば、パーム油分別軟質部を好ましく用いることができる。
パーム油分別軟質部は、パーム油から分別して得られる低融点のものであり、一般にオレイン、スーパーオレイン、トップオレイン、シングルオレイン、ダブルオレイン、トリプルオレイン等と呼ばれるものに分類されるものである。
【0033】
パーム油分別軟質部の原料として用いられるパーム油は、例えば、以下の方法により得られる。アブラヤシの果房を蒸気で処理した後、圧搾法により採油する。採油された油は、遠心分離によって繊維や夾雑物を取り除き、乾燥する。その後、定法に従い精製工程を経る。精製方法としては、化学的精製や物理的精製等が挙げられる。このようにして得られたパーム油を以下のように分別して、パーム油分別軟質部を得る。
【0034】
パーム油分別軟質部を得るためのパーム油の分別方法には、特に制限はなく、冷却による自然分別法や、界面活性剤や溶剤等を用いて分別する方法を採用することができる。パーム油を分別して得られる中融点部分又は低融点部分が、一般にパーム油分別軟質部と呼ばれるものである。高融点部分は、一般にパームステアリンと呼ばれる。本発明においては、上記パーム油分別軟質部として、パーム油を分別して得られた低融点部分を用いることが好ましい。
【0035】
また、パーム油を分別して得られた上記パーム油分別軟質部は、そのヨウ素価が、好ましくは58〜75、更に好ましくは58〜68、最も好ましくは60〜65のものである。上記パーム油分別軟質部のヨウ素価が上記範囲内である場合には、得られるロールイン用可塑性油脂組成物のロールイン時の作業性がより優れたものとなる。
尚、上記パーム油分別軟質部のヨウ素価は、「社団法人 日本油化学会 基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996」の方法に準じて測定することができる。
【0036】
上記パーム油分別軟質部は、その構成脂肪酸としてパルミチン酸、オレイン酸を多く含有するものである。また、上記パーム油分別軟質部は、その構成脂肪酸としてパルミチン酸、及びオレイン酸に加えてリノール酸を含有していることも好ましい。上記パーム油分別軟質部に含まれるリノール酸の含有量は、該パーム油分別軟質部に含まれる全脂肪酸に対して、好ましくは5〜20質量%、更に好ましくは10〜15質量%である。
【0037】
油脂Bとして、上記パーム油分別軟質部を用いた場合には、得られるロールイン用可塑性油脂組成物は、特に層状小麦粉膨化食品の食感が優れたものとなる点で好ましい。この理由は、パーム分別軟質油が、硬質脂肪である油脂Aと液状油である油脂Cとのつなぎの役割を果たし、層状小麦粉膨化食品において油脂層の連続性を良好に保ち、水分の移行を効果的に防止するためであると考えられる。
【0038】
また、上記油脂Bとして、エステル交換油を用いることも好ましい。エステル交換油としては、パーム油分別軟質部単独、もしくは、液状植物油とパーム系油脂との混合油脂をエステル交換したものを好ましく用いることができる。混合油脂中における液状植物油の含有量は、好ましくは30〜55質量%、更に好ましくは35〜50質量%である。また、混合油脂中におけるパーム系油脂の含有量は、好ましくは45〜70質量%、更に好ましくは50〜65質量%である。
液状植物油としては、オレイン酸含量が50質量%以上のものを用いることができ、例えば、菜種油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックヒマワリ油等が例示できる。また、パーム系油脂としては、上述のものと同様のものを用いることができる。具体的には、油脂Bとして、パーム油と菜種油との混合油脂をエステル交換したものを用いることができる。
【0039】
混合油脂中における液状植物油の含有量が30質量%未満、又は55質量%を超えた場合には、オレイン酸の含量が過不足となり、PO2とP2Oの合計含量が35質量%に満たないおそれがある。
混合油脂中におけるパーム系油脂の含有量が45質量%未満、又は70質量%を超えた場合には、パルミチン酸の含量が過不足となり、PO2とP2Oの合計含量が35質量%に満たないおそれがある。
【0040】
油脂Bとして、上記エステル交換油を用いた場合には、得られるロールイン用可塑性油脂組成物は、長期間保存した際にも良好な伸展性を維持することができるものとなる点で好ましい。この理由は、エステル交換により、パーム油本来の経時的に硬くなるという結晶の性質が緩和されるからであると考えられる。
また、油脂Bとしては、前記のパーム油分別軟質部と上記エステル交換油との混合油についても好適に使用できる。
【0041】
本発明においては、上記油脂Cとして液状油を用いる。ここで、液状油とは、常温(25℃)で流動性を有する油脂をいう。液状油としては、液状植物油や構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂等が挙げられる。かかる液状油は、5℃においても液状であって、透明性を有するものがより好ましい。
【0042】
液状植物油とは、上述のように、常温(25℃)で流動性を有する植物性油脂をいい、好ましくは5℃において流動性及び透明性を有する植物性油脂をいう。
液状植物油としては、大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、並びにそれら単独の油又は複数混合油の水素添加油、それら単独の油又は複数混合油のエステル交換油、及びそれら単独の油又は複数混合油の分別油等の加工油等が挙げられる。これらの中でも、入手の容易性及び価格の観点から、大豆油、菜種油、コーン油を用いることが好ましい。
【0043】
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂とは、グリセリン骨格に少なくとも1つの中鎖脂肪酸がエステル結合したトリグリセリドを含有する油脂のことをいう。構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂中のかかるトリグリセリドの含量は、4〜100質量%であることが好ましく、10〜100質量%であることが更に好ましく、15〜100質量%であることが最も好ましい。
【0044】
ここで、中鎖脂肪酸とは炭素数6〜10の脂肪酸であり、具体的には、n−ヘキサン酸、n−オクタン酸、及びn−デカン酸等が挙げられる。
構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂としては、具体的には、グリセリン骨格にエステル結合した3つの脂肪酸のすべてが中鎖脂肪酸である中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)や、グリセリン骨格に1つ又は2つの中鎖脂肪酸がエステル結合し、残りの脂肪酸として長鎖脂肪酸がエステル結合しているトリグリセリド(MLCT)を含有する油脂がある。5℃においても液状で透明性を有する中鎖脂肪酸トリグリセリドとしては、例えば、日清オイリオグループ株式会社製の商品:ODOが挙げられる。
【0045】
また、MLCTを含有する油脂としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)と上述の液状植物油とを、10:90〜90:10の質量比に混合した混合油をエステル交換したエステル交換油脂を挙げることができる。MLCTを含有する油脂の場合、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリドの含量は、20〜80質量%であることが好ましく、30〜70質量%であることが更に好ましく、40〜60質量%であることが最も好ましい。
【0046】
油脂Cに用いられる液状油として、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を含有するトリグリセリド含有油脂を使用した場合、層状小麦粉膨化食品の食感が更に軽く、ソフトになるので好ましい。
上記油脂Cとしては、上述した液状油のうち2種以上を混合して用いることもできる。
【0047】
尚、MLCT含量の分析及び計算方法は、当技術分野に周知の方法を用いることができ、詳しくはR.J.VANDER WALの総説(Jarnal of American Oil Chemists’ Society 40, 242−247 (1963))等を参照できる。
【0048】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物における油相は、上記油脂Aを10〜50質量%、上記油脂Bを10〜50質量%、及び上記油脂Cを10〜50質量%含有していることが好ましく、上記油脂Aを30〜40質量%、上記油脂Bを30〜40質量%、及び上記油脂Cを30〜40質量%含有していることが更に好ましい。上記油相における油脂A、油脂B、油脂Cの含有量が上述した範囲内にある場合には、得られるロールイン用可塑性油脂組成物の伸展性がよりよくなり、該ロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品が、サクサクとした食感を長時間維持できる。
【0049】
更に、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲において、油相に上記油脂A、油脂B、油脂C以外のその他の油脂を含有させてもよい。その他の油脂の配合量は、油相中、好ましくは35質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、最も好ましくは10質量%以下であり、乳脂等が例として挙げられる。
【0050】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、油相の含有量が、好ましくは60〜100質量%、更に好ましくは80〜98質量%であり、水相の含有量が、好ましくは0〜40質量%、更に好ましくは2〜20質量%である。油相含有量が100質量%の場合はショートニングタイプであり、水相を含有する場合はマーガリンタイプである。
【0051】
また、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。
水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、これによって得られる水素添加油脂は、完全水素添加油脂を除いて、通常構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸がほとんど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているに過ぎない。近年、トランス脂肪酸の過剰摂取の健康への影響が問題視されており、実質的にトランス脂肪酸を含有しないマーガリン等の可塑性油脂組成物が求められている。
【0052】
ここで、「実質的にトランス脂肪酸を含有しない」とは、トランス脂肪酸含有量が、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物を構成する油相中の全構成脂肪酸中、好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%未満、最も好ましくは2質量%未満であることを意味する。
本発明では、ロールイン用可塑性油脂組成物は、油脂Aに水素添加油脂を用いることが好ましいが、油脂Aは、ヨウ素価が0〜2というほぼ完全水素添加油脂であり、トランス脂肪酸を実質的に含有しない。また、その他の油脂B及び油脂Cには、水素添加油脂を使用する必要はない。従って、本発明では、実質的にトランス脂肪酸を含有しないロールイン用可塑性油脂組成物を得ることができる。
尚、油脂中のトランス脂肪酸含量は、AOCS Ce1f−96に準じて分析できる。
【0053】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、上記油相及び水相以外のその他の成分を含有することができる。他の成分としては、乳化剤、増粘安定剤、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β‐カロテン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、香料、乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0054】
上記乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、縮合リシノレイン脂肪酸エステル、グリセリドエステル等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の合成乳化剤でない乳化剤が挙げられる。
【0055】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられる。
【0056】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物において、上記その他の成分の含有量は、好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0057】
次に、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物の製造方法を説明する。
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、その製造方法が特に制限されるものではなく、上記油脂A、油脂B及び油脂Cを含有する油相を溶解し、冷却し、結晶化することによって得ることができる。
具体的には、先ず、上記油相を溶解し、必要により水相を混合乳化する。そして次に殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
【0058】
次に、冷却し、結晶化させる。好ましくは冷却可塑化する。冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、更に好ましくは−5℃/分以上とする。この際、除冷却より急冷却の方が好ましい。
冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組合せが挙げられる。
【0059】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、マーガリンとして用いられる場合、その乳化形態が油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれであってもよい。
【0060】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、その形状として、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状等様々な形状とすることができる。その中でも、加工の容易性の観点から、シート状とすることが好ましい。
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物をシート状とした場合の好ましい大きさは、その幅が50〜1000mm、その長さが50〜1000mm、その厚さが1〜50mmである。
【0061】
本発明のロールイン用油脂組成物は、マーガリン及びショートニングとして好ましく使用できる。特に、デニッシュペストリー、クロワッサン、パイ等のサクサクとした食感を有する層状小麦粉膨化食品の製造に用いられるロールイン用マーガリンとして好ましく使用できる。
【0062】
本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、炭素数12〜14の飽和脂肪酸を20〜60質量%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を40〜80質量%含有するエステル交換油脂A、炭素数16の飽和脂肪酸を25〜38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5〜6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40〜60質量%含有する油脂B、及び液状油である油脂Cを構成成分として含有することにより、伸展性がよく作業性に優れたものとなる。
また、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物を使用して製造した層状小麦粉膨化食品は、製造後長時間にわたってサクサクとした食感を維持でき、且つ口溶けが良好である。
【0063】
更に、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物を使用して製造した層状小麦粉膨化食品は、ジャムやクリーム等のフィリングを使用した場合にも、そのサクサクとした食感が長時間失われにくい。従って、本発明のロールイン用可塑性油脂組成物は、フィリングを使用する層状小麦粉膨化食品にも好適に使用することができる。
【0064】
特に、油脂Bとしてヨウ素価が58〜75であるパーム分別油軟質部を用いた場合には、得られたロールイン用可塑性油脂組成物は、特に得られる層状小麦粉膨化食品の水分移行抑制効果に優れたものとなる点で好ましい。そして、該ロールイン用可塑性油脂組成物を用いて製造した層状小麦粉膨化食品は、サクサクとした良好な食感のものなる。
【0065】
また、油脂Bとして、液状植物油とパーム系油脂との混合油脂をエステル交換して得られたエステル交換油脂を用いた場合には、得られたロールイン用可塑性油脂組成物は、長期間保存した際にも良好な伸展性を維持することができる。このような特性を有する点から、油脂Bとして上記エステル交換油脂を用いたロールイン用可塑性油脂組成物は、ロールイン用として適した作業性を数ヶ月間という長期間安定して得られ、また、該ロールイン用可塑性油脂組成物を用いて製造した層状小麦粉膨化食品は、サクサクとした良好な食感のものとすることができる。
【実施例】
【0066】
次に、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例になんら制限されるものではない。
【0067】
〔油脂A−1の調製〕
パーム油(ヨウ素価52)10kgとパーム核油(ヨウ素価18、ラウリン酸含量46質量%)10kgとを混合し、触媒としてリパーゼ(商品名:リパーゼQLM、名糖産業株式会社製)を60g添加し、50〜70℃にて約12時間攪拌し、エステル交換反応を進行させた。次いで、ろ過によってリパーゼを除去し、ニッケル触媒を用いて160〜200℃にて水素添加を行い、ヨウ素価を2以下に調整した。ヨウ素価が2以下になったのを確認した後、温度を100℃以下に下げ、ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭を行って油脂A−1を得た。
油脂A−1は、全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を31.4%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を64.9%含有し、融点48℃、ヨウ素価は1.1であった。
【0068】
〔油脂A−2の調製〕
パーム核ステアリン(ヨウ素価7、ラウリン酸含量55質量%)20kgとハードステアリン(パーム油を2回分別した硬質部、ヨウ素価13)30kgを混合し、触媒としてリパーゼ(商品名:リパーゼQLM、名糖産業株式会社製)を150g添加し、50〜70℃にて約12時間攪拌し、エステル交換反応を進行させた。次いで、ろ過によってリパーゼを除去し、脱色、脱臭を行って油脂A−2を得た。
油脂A−2は、全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を32.2%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を55.3%含有し、融点44℃、ヨウ素価は10.6であった。
【0069】
〔油脂A−3の調製〕
パームステアリン(ヨウ素価33)10kgとパーム核オレイン(ヨウ素価25、ラウリン酸41質量%)10kgとを混合して減圧下115−120℃で過熱乾燥した後、触媒としてナトリウムメトキシド20gを添加し、30分間減圧下で攪拌しながらエステル交換反応を進行させた。次いで、水洗、脱色した後、ニッケル触媒を用いて160〜200℃にて水素添加を行い、ヨウ素価を2以下に調整した。ヨウ素価が2以下になったのを確認した後、温度を100℃以下に下げ、ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭を行って油脂A−3を得た。
油脂A−3は、全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を26.2%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を69.2%含有し、融点48℃、ヨウ素価は0.8であった。
【0070】
〔油脂aの調製〕
パーム油(ヨウ素価52)に水素添加を行ってパーム硬化油aを得た。このパーム硬化油aを、以下の比較例2において油脂Aに代えて用いた。得られたパーム硬化油は、該パーム硬化油を構成する全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を1.6質量%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を52.9質量%含有するものであった。また、その融点は47℃、ヨウ素価は39であった。
【0071】
〔油脂B−1及びb−1〕
油脂B−1及びb−1として、パーム油(ヨウ素価52)を分別して得られたパーム油分別軟質部を用いた。
用いたパーム油分別軟質部B−1は、全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を36.1質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.1質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を46.2質量%含有し、ヨウ素価61、PO2含有量29.6質量%、P2O含有量25.9質量%、P2O/PO2=0.88のものであった。
また、パーム油分別軟質部b−1は、全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を39.8質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.4質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を42.6質量%含有し、ヨウ素価56、PO2含有量25.7質量%、P2O含有量32.6質量%、P2O/PO2=1.27のものであった。この油脂b−1を、以下の比較例3において、油脂Bに代えて用いた。
【0072】
〔油脂B−2の調製〕
パーム油(ヨウ素価52)65kgと菜種油(ヨウ素価116、オレイン酸含量60質量%)35kgとを混合し、触媒としてリパーゼ(商品名:リパーゼPL、名糖産業株式会社製)を100g添加し、50〜70℃にて約12時間攪拌し、エステル交換反応を進行させた。次いで、ろ過によってリパーゼを除去し、脱色、脱臭を行って油脂B−2を得た。
油脂B−2は、全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を30.4質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を3.6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を47.3質量%含有し、ヨウ素価73.3、PO2含有量21.7質量%、P2O含有量18.4質量%、P2O/PO2=0.85のものであった。
【0073】
〔油脂b−2の調製〕
パーム油20kgを、115−120℃で減圧乾燥し、ナトリウムメトキシド20gを添加し、30分間減圧下で攪拌し、エステル交換反応を進行させた。ついで、水洗、脱色、脱臭を行い、以下の比較例4にて油脂Bに代えて用いた油脂b−2を得た。
油脂b−2は、全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を43.8質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を4.4質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を39.7質量%含有し、ヨウ素価52、PO2含有量21.3質量%、P2O含有量25.2質量%、P2O/PO2=1.18のものであった。
【0074】
〔油脂C−1、C−2、C−3及びC−4〕
以下の実施例及び比較例においては油脂C−1として大豆油(商品名:日清大豆サラダ油、日清オイリオグループ株式会社製)、C−2として菜種油(商品名:日清菜種サラダ油、日清オイリオグループ株式会社製)、油脂C−3として構成脂肪酸がn−オクタン酸とn−デカン酸とからなる中鎖脂肪酸トリグリセリド(商品名:ODO、日清オイリオグループ株式会社製、グリセリン骨格に少なくとも1つの中鎖脂肪酸が結合したトリグリセリド含量100質量%)、油脂C−4として上記菜種油と上記ODOとを86:14の質量比で混合した混合油をエステル交換して得られたエステル交換油(日清オイリオグループ株式会社社内製、グリセリン骨格に少なくとも1つの中鎖脂肪酸が結合したトリグリセリド含量50質量%)を用いた。
尚、今回使用した油脂C−1〜C−4は、いずれも25℃及び5℃において液状で、透明性を有するものであった。
【0075】
〔実施例1〜11及び比較例1〜4〕
(ロールイン用マーガリンの調製)
以下の表1に示す配合で各成分を含有した油相及び水相を調製し、これらを混合して予備乳化を行った。得られた予備乳化物を、コンビネーターを用いて急冷可塑化し、各実施例及び比較例のロールイン用マーガリンを製造した。冷却速度は、−30℃/分であった。得られたロールイン用マーガリンを、レスティングチューブを通してシート状に成型した。シート状のロールイン用マーガリンの大きさは、幅220mm、長さ300mm、厚さ10mmであった。
得られた各実施例及び比較例のロールイン用マーガリンの油相中のトランス脂肪酸含有量を測定した。結果を以下の表1に示した。
【0076】
【表1】

【0077】
実施例1〜11及び比較例1〜4で得られたロールイン用マーガリンを用いて、下記配合と製法により、クロワッサン及びパイを製造した。クロワッサンの製造におけるロールイン時の作業性(マーガリンの伸展性)、焼成したクロワッサンの口溶け及び1日経過後のサクサク感を下記評価基準により比較評価した。また、焼成したパイの浮き及び焼成したパイにフィリングとしてジャムをのせ、フィリング使用時のパイのサクサク感についても比較評価した。評価は、10名のパネラーに以下の評価基準で絶対評価をしてもらい、その評点の平均値で求めた。結果を以下の表2に示した。
【0078】
<クロワッサン生地の配合>
強力粉 70 質量部
中力粉 30 質量部
液糖 18 質量部
全卵 10 質量部
乳製品 3 質量部
食塩 1.5質量部
ショートニング 6 質量部
生イースト 5 質量部
乳化剤 0.5質量部
水 47 質量部
【0079】
<クロワッサンの製法>
上記の配合で生地を調製し、得られた生地3kgにシート状に成型したロールイン用マーガリン750gをのせ、常法に従い折り込み、成型の後、焼成してクロワッサンを製造した。
【0080】
<ロールイン時のマーガリンの伸展性(作業性)の評価基準>
◎ :コシがあり、非常に良好
○ :良好
△ :若干油脂切れが起こるか、生地に練りこまれる傾向があり、やや不良である
× :油脂切れが起こるか、生地に練りこまれ、不良である
【0081】
<クロワッサンの口溶けの評価基準>
◎ :非常に良好
○ :良好
△ :若干ワキシー感あり
× :ワキシー感あり
【0082】
<クロワッサンの1日経過後のサクサク感の評価基準>
◎ :サクサク感をしっかり感じる
○ :サクサク感を感じる
△ :あまりサクサク感を感じない
× :ほとんどサクサク感を感じない
【0083】
<パイ生地の配合>
強力粉 50質量部
薄力粉 50質量部
マーガリン 5質量部
食塩 1質量部
水 50質量部
【0084】
<パイの製法>
上記の配合で生地を調製し、得られた生地1kgにシート状に成型したロールイン用マーガリン500gをのせ、常法に従い折り込み、成型の後、焼成してパイを製造した。
【0085】
<パイの浮きの評価基準>
焼成後のパイの厚みを焼成前の生地厚で除した値について、焼成品10個の平均値を算出し、下記の4段階で評価した。
◎ :12以上
○ :11以上12未満
△ :10以上11未満
× :10未満
【0086】
<パイのフィリング使用時におけるサクサク感の評価基準>
焼成後のパイにフィリングとしてジャムをのせ、3時間経過後のパイのサクサク感を評価した。
◎ :サクサク感をしっかり感じる
○ :サクサク感を感じる
△ :あまりサクサク感を感じない
× :ほとんどサクサク感を感じない
【0087】
【表2】

【0088】
表1及び表2の結果から、各実施例のロールイン用マーガリンは、作業性(ロールイン時のマーガリンの伸展性)に優れていることがわかった。また、各実施例のクロワッサンは、口溶けに優れると共に、長時間にわたってサクサク感を維持していることがわかった。更に各実施例のパイは、浮きがよくボリュームに優れると共に、フィリング使用時にもサクサク感が失われていないことがわかった。特に、油脂C(液状油)として、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂を使用した実施例10及び実施例11のクロワッサン及びパイは、他のものと比べ、サクサクした食感だけではなく、軽くてソフトな食感も加わり、非常に優れた食感を有するものであった。
【0089】
それに対し、油脂Bを含有しない比較例1のロールイン用マーガリンは、作業性(ロールイン時のマーガリンの伸展性)には優れるものの、該ロールイン用マーガリンを用いて製造したクロワッサンは、口溶けが悪く、サクサク感が失われやすいことがわかった。また、該ロールイン用マーガリンを用いて製造したパイは、浮き及びサクサク感共に劣るものであった。
油脂Aに代えて、油脂を構成する全脂肪酸中における炭素数12〜14の飽和脂肪酸の含有量が20質量%未満である油脂aを用いた比較例2のロールイン用マーガリンは、該ロールイン用マーガリンを用いて製造したクロワッサン及びパイのサクサク感に劣ることがわかった。特に、フィリング使用時におけるサクサク感の喪失が顕著であることがわかった。
油脂Bに代えて、油脂を構成する全脂肪酸中における炭素数16の飽和脂肪酸の含有量が38質量%を超え、P2O/PO2比が1を超える油脂b−1を用いた比較例3のロールイン用マーガリン、及び油脂Bに代えて、油脂を構成する全脂肪酸中における炭素数16の飽和脂肪酸の含有量が38質量%を超え、且つ炭素数18のモノ不飽和脂肪酸の含有量が40質量%未満であり、P2O/PO2比が1を超える油脂b−2を用いた比較例4のロールイン用マーガリンは、これらのロールイン用マーガリンを用いて製造したクロワッサン及びパイのサクサク感に劣ることがわかった。特に、フィリング使用時におけるサクサク感の喪失が顕著であることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油相中に油脂A、油脂B及び油脂Cを含有するロールイン用可塑性油脂組成物であって、
前記油脂Aは、該油脂Aを構成する全脂肪酸中に炭素数12〜14の飽和脂肪酸を20〜60質量%、炭素数16〜18の飽和脂肪酸を40〜80質量%含有したエステル交換油脂であり、
前記油脂Bは、該油脂Bを構成する全脂肪酸中に炭素数16の飽和脂肪酸を25〜38質量%、炭素数18の飽和脂肪酸を0.5〜6質量%、炭素数18のモノ不飽和脂肪酸を40〜60質量%含有し、
前記油脂Cは、液状油であることを特徴とするロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項2】
前記油脂Cは、液状植物油であることを特徴とする請求項1記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項3】
前記油脂Aは、ラウリン系油脂とパーム系油脂との混合油をエステル交換及び水素添加して得られた油脂であり、該油脂Aのヨウ素価が0〜2であることを特徴とする請求項1又は2記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項4】
前記油脂Aは、ヨウ素価10以下のラウリン系油脂とヨウ素価20以下のパーム系油脂との混合油をエステル交換して得られた油脂であり、該油脂Aのヨウ素価が17以下であり、非水素添加油であることを特徴とする請求項1又は2記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項5】
前記油脂Bは、1つのパルミチン酸と2つのオレイン酸とを構成成分とするトリアシルグリセロール(PO2)と、2つのパルミチン酸と1つのオレイン酸とを構成成分とするトリアシルグリセロール(P2O)との合計の含有量が35質量%以上であり、PO2に対するP2Oの比(P2O/PO2)が1未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項6】
前記油脂Bは、パーム油から分別工程を経て得られたパーム油分別軟質部であり、且つヨウ素価が58〜75であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項7】
前記油脂Bは、液状植物油30〜55質量%とパーム系油脂45〜70質量%とのエステル交換油であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項8】
前記油脂Cは、構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6又は7のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項9】
前記油脂Cは、液状植物油と構成脂肪酸として中鎖脂肪酸を有するトリグリセリド含有油脂との混合油脂であることを特徴とする請求項1、3、4、5、6又は7のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項10】
前記油脂Cは、5℃において液状であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項11】
前記油相は、前記油脂Aを10〜50質量%、前記油脂Bを10〜50質量%、及び前記油脂Cを10〜50質量%含有していることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項12】
トランス脂肪酸含有量が5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項13】
ロールイン用マーガリンであることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載のロールイン用可塑性油脂組成物を使用した層状小麦粉膨化食品。
【請求項15】
更に、フィリングを含むことを特徴とする請求項14記載の層状小麦粉膨化食品。

【公開番号】特開2009−34089(P2009−34089A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327026(P2007−327026)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】