説明

ロールネック用軸受装置

【課題】ロールネック用軸受装置において、非接触交信型のICタグによる部品管理を実現する。
【解決手段】ハウジングに着脱可能に固定される軸受ケースCに、ロールネックを支持するように転がり軸受10が組み込まれたロールネック用軸受装置において、前記転がり軸受10を構成する金属体Mからなる軸受部品に非接触交信型のICタグ20を取付けた。ICタグ20は、そのICタグ20が備えるタグ側アンテナ24と、外部のリーダライタ装置40が備えるリーダライタ側アンテナ44との間で磁気閉回路を形成することで外部からの情報の交信が可能である。ICタグ20は金属体Mの表面に開口する孔11内に収容されて、タグ側アンテナ24が備える複数の突出部が孔11の開口側へ臨みその各突出部から伸びる磁束が、孔11の開口の縁よりも内側を通ってリーダライタ装置40との間に前記磁気閉回路を形成する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧延機等に用いられるロールネック用軸受装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧延機等におけるワークロールや中間ロール等、各種ロールのロールネック部を支持するために、ロールネック用軸受装置が用いられる。
このロールネック用軸受装置としては、例えば、鉄鋼圧延機等においては、大荷重に対応した4列円すいころ軸受や複列円すいころ軸受等が用いられる。また、これらの転がり軸受は、例えば、図12に示すように、その軸受の両端部にシールを設けた密封型転がり軸受となっている。
【0003】
密封型転がり軸受は、図12に示すように、ハウジングに着脱可能に固定される軸受ケースCに、水平ロールRのロールネック(軸)Aを支持するように転がり軸受10が組み込まれている。また、その転がり軸受10の転動体3が配列された内外輪2,1の間の軸受空間にグリース等の潤滑剤を封入している。その軸受空間の軸方向両端をシール部材7で密封することで、封入した潤滑剤の外部への漏れや、水やダスト等の軸受空間への侵入を防止するようにしている。なお、図中の符号4は、転動体3を保持する保持器を示し、符号9は、シール部材7が圧入される外間座を示している。
【0004】
また、特に、鉄鋼圧延機等に用いられるロールネック用軸受装置は、ロール冷却水や圧延潤滑油を分散させたエマルション等の水が多量に飛散する環境で使用され、また、軸受内外での温度差の発生により軸受内部が負圧になることがあることから、シール部材7として、弾性体で形成されたシールリップ7bと金属製の芯金7a、及び、ばね部材7cとを有する構成を採用している。すなわち、シールリップ7bによる内輪側摺接面への緊迫圧力を、環状のばね部材7cで補強する構成を採用し、適切な緊迫力を確保している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このように、ロールネック用軸受装置は、過酷な条件で使用されることが多く、そのメンテナンスは頻繁に行う必要がある。メンテナンスは、例えば、ロールRのロールネックAをハウジングから抜き取り、その後、転がり軸受10の点検、修理を行い、そして、点検や修理を終えた又は別のロールR、ロールネックAを、転がり軸受10を介してハウジングに取付ける手法で行われるのが一般的である。また、転がり軸受10をハウジングから取り外した場合には、必要に応じて、その取り外した状態の転がり軸受10を分解し、内外輪2,1や転動体3、保持器4等の軸受部品の点検、修理を行った後、再度、組み立てを行う場合もある。
また、シール部材7への潤滑剤の供給も適宜行われる。このようなメンテナンスを怠ると、シール部材7の摩擦熱による硬化、摩耗、シール性の低下を生じる可能性があるからである。また、シール部材7近傍の潤滑剤が不足すると、シール部材7の摩耗が促進されるからである。
【0006】
ロールネック用軸受装置に対する製品情報、メンテナンスの記録は、従来から、メーカーやユーザーが備える記録用の帳簿やパソコン等によって管理されている。例えば、設備に不具合が生じた場合や、メンテナンスを行う際に、軸受部品に打たれた刻印を確認し、その部品情報に基づいて、帳簿やパソコン等で、部品の識別情報や過去のメンテナンスの履歴を確認している。その履歴とは、例えば、定期点検やオーバーホールの実施日や稼働時間、軸受周辺の歯車やシール部材のメンテナンスに関する情報などである。
【0007】
ところで、近年、非接触通信により情報の交信が可能なRFID(Radio Frequency Identification)技術を用いたICタグの小型化、低廉化が進み、既に、物流関係の分野を中心に広く使用されている。
このICタグの技術は、特に、機械関係の分野においても用いられつつある。例えば、特許文献2,3には、車輪用軸受装置等に用いられる転がり軸受において、その構成部品にICタグを取付けた技術が開示されている。ICタグには、その部品の種類や製造時期、製造ロット、製造履歴などの各種識別情報を記憶させることができる。
【0008】
これらの技術によれば、部品の保管時、流通時、使用前、使用中、使用後等の適宜の時期に、そのICタグに記憶された情報を読み取れば、即座にその部品の識別情報を把握することができる。したがって、例えば、メンテナンス時や故障時等において、従来のように、部品に打たれた刻印を確認し、メーカー等が備えるコンピュータや帳簿で、部品の識別情報を調べる手間を回避できる。
【0009】
しかし、ロールネック用軸受装置に用いられる軸受部品は、一般的に金属製である。このため、ICタグを金属体に取付けると、そのICタグが備えるアンテナから発信される磁束が金属体の影響を受けることで、タグの感度を大幅に低下させてしまう。タグの感度が大幅に低下すると、外部のリーダライタ装置との間で適正な交信を行うことができない、あるいは、通信距離が大幅に短くなるという問題を生じる。
なお、一般に、導電率の高い素材(例えば、金属材料)や、透磁率の大きい素材(例えば、鉄、ニッケル、コバルトや各種化合物、センダスト、カーボニル鉄、フェライト(磁性材料)等からなる素材)に、ICタグのアンテナから発信される磁束を通過させると、タグの感度を低下させてしまうことが知られている。以下、これらのタグの感度を低下させる素材を「金属体」と総称する。
【0010】
このため、金属体からなる機械部品にICタグを取付ける場合は、ICタグを、例えば、アンテナ全体が金属体の表面から突出するように貼り付けて固定したり、あるいは、シール部材やセンサーケース等の付属の樹脂部材に埋め込んで固定したりしている(例えば、特許文献2,3参照)。
【0011】
また、金属体にICタグを埋め込んで固定するために、例えば、図10に示すように、座繰り穴121を設けた技術もある。座繰り穴121は、その穴の底121a側から、金属体Mの表面への開口121b側に向かうにつれて徐々にその内径が拡がっている。
このため、ICタグ101のアンテナから発信される磁束は、図中の矢印のように、金属体Mを比較的短い距離で通過し、外部のリーダライタ装置のアンテナ(図示せず)へ至りやすいようになっている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−177863号公報
【特許文献2】特開2006−38189号公報
【特許文献3】特開2006−46558号公報
【特許文献4】特開2006−53603号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記図10に記載のICタグ101の固定構造によれば、金属体Mに座繰り穴121を設けているので、ICタグ101の周囲に空間が存在する。このため、ICタグ101とリーダライタ装置との間の感度を維持する上で、ある程度の効果は期待できる。
【0014】
しかし、この技術においても、ICタグ101のアンテナから発信される磁束が、完全に金属体Mを避けて通ることはできない。アンテナから伸びる磁束は、図中に示すように、そのアンテナから金属体Mの表面に対して並行な向き(図中の左右の向き)に発信され、その後、カーブを描いて外部のリーダライタ装置側(図中の上方)に向かうからである。このように、磁束の一部は金属体Mに当たるため、ICタグ101とリーダライタ装置との間の感度の低下は避けられない。
【0015】
また、磁束の金属体Mへの干渉を少なくするために、座繰り穴121の内径をさらに大きくする手段も考えられる。しかし、座繰り穴121の内径を大きくすることは、ICタグ20の固定状態を不安定にする。また、ICタグ101の周囲の空間を大きくすると、ICタグ101が損傷しやすくなるので好ましくない。
【0016】
この磁束の金属体Mへの干渉について、さらに詳しく説明すると、従来からの一般的なRFIDシステムは、例えば、図11に示すような構成を有している。
【0017】
図中に示すように、離れた位置から、そして広い範囲にある、多くのICタグ(RFIDタグ)101を同時に読むという要求を満たすために、リーダライタ装置110のリーダライタに接続されたアンテナ(以下、「リーダライタ側アンテナ」と称する)114は、ある程度大きく作られている。そして、この構造のリーダライタ側アンテナ114から、読み取りに必要な13.56MHzの磁界が自由空間に広い範囲に亘って放出される。
読取り可能範囲にICタグ101が存在すると、リーダライタ側アンテナ114からの磁界をICタグ101のアンテナ(以下、「タグ側アンテナ」と称する)104が受け取り、ICチップ103の駆動電力を得るとともに、必要な処理を行い、結果のデータを、受け取った磁界を変調することにより返送する。
このシステムが有効に機能するよう、リーダライタ装置110のアンテナ回路とICタグ101のアンテナ回路とを動作周波数である13.56MHzに正しく同調し、同時に整合させる回路113,115が組み込まれている。
【0018】
このシステムの近傍に金属体(前記導電物質や前記磁性体等)がある場合に、ICタグ101の性能が低下する原因は幾つか存在する。
【0019】
第一に、近傍の金属体がリーダライタ側アンテナ114とタグ側アンテナ104に対してショートサーキットを形成してしまい、リーダライタ側アンテナ114の磁界を減ずるように働き、ICタグ101への伝送エネルギが減ってしまい、感度が低下することである。
すなわち、リーダライタ側アンテナ114から発射された磁束ループが金属体を横切ることによって渦電流を発生し、それが金属体のショートサーキット内で熱として消費される。この結果、RFIDタグに伝達されるエネルギーが減少する。また、RFIDタグからリーダライタ側アンテナ114への返答も、同様にエネルギーが減少するので、通信距離が短くなったり、全く通信できない状態になる。
【0020】
この現象を防止するには、このショートサーキットを通る磁束の数を減らすことが効果的である。磁気シールドシートをICタグ101と金属体との間に挟む等の対策は、このような理由による。
【0021】
第二に、共振回路の近傍に金属体(導電体)が存在すると、共振周波数がずれてしまうという問題が挙げられる。
【0022】
電磁気学の法則から、導電物質に磁束が通ると、LC共振回路を構成するコイルのインダクタンスが実質的に小さくなり、共振周波数が高くなってしまう。反対にコイルの近傍に磁性体があると、透磁率に比例してコイルを通過する磁束は増えるため、実質的なインダクタンスが大きくなり、共振周波数は低くなってしまう。
一般的に、ICタグ101の通信距離を延ばすために、共振周波数でのQ(品質係数)は適度に大きく設定されているので、周波数が一致している時には、伝送効率が高くなっているが、周波数がずれてしまうと、極端に効率が低くなり、ICタグ101の感度が低下する。
この対策としては、共振周波数の変化を前もって補正するよう、共振回路の共振周波数を調整することが有効である。また、金属体との間に磁性体シートを挟み金属体の影響を小さくする方法がある。上記第一の問題に対する対策で有効であった磁性体シートを挟む手法により、インダクタンスを増加方向に調整することが可能であるので、すべての影響を考慮した上で共振周波数を調整する必要がある。
【0023】
しかし、上記の各対策をとっても、従来の技術では、金属体の影響を完全に無くすことは難しく、ICタグ101を金属体に取付ける限り、一般的に感度は低下する。また、対策を取っても、アンテナのサイズが極端に小さかったり、金属体や磁性体との距離を十分に取れない場合は、確実に動作するRFIDシステムを作ることは不可能であった。
【0024】
そこで、この発明は、圧延機等に用いられるロールネック用軸受装置において、非接触交信型のICタグによる部品管理を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記の課題を解決するために、この発明は、ハウジングに着脱可能に固定される軸受ケースに、ロールネックを支持するように転がり軸受が組み込まれ、その転がり軸受の転動体が配列された内外輪の間の軸受空間に潤滑剤を封入させたロールネック用軸受装置において、前記転がり軸受を構成する金属体からなる軸受部品に非接触交信型のICタグを取付け、前記ICタグは、そのICタグが備えるタグ側アンテナと、外部のリーダライタ装置が備えるリーダライタ側アンテナとの間で磁気閉回路を形成することで外部からの情報の交信が可能であり、前記ICタグは、前記金属体の表面に開口する孔内に収容されて、前記タグ側アンテナは少なくとも複数の突出部を有してその各突出部が前記孔の開口側へ臨み、前記各突出部から伸びる磁束が、前記孔の開口の縁よりも内側を通って前記孔の外部へ至ることで、前記ICタグと前記リーダライタ装置との情報の交信が可能となる前記磁気閉回路を形成できる構成を採用した。
【0026】
ここで、金属体からなる軸受部品としては、例えば、転がり軸受を構成する軸受部品、すなわち、内輪、外輪、軸方向に隣り合う外輪間に配置される内間座、軸受の軸方向外側に配置される外間座、シール部材が備える金属性の芯金等とすることができる。また、ハウジングを構成する金属体に、同様なICタグを取付けることもできる。
【0027】
このICタグに記憶させる情報としては、例えば、ロールネック用軸受装置に対する製品情報(型式、製造番号等)やメンテナンス情報が挙げられる。メンテナンス情報としては、例えば、ロールネック用軸受装置を構成する各種部品の識別情報や、その部品毎の過去のメンテナンスの履歴がある。
【0028】
その履歴とは、例えば、ロールネック用軸受装置の定期点検やオーバーホールの実施日や、その後の稼働時間、あるいは、トータルの稼働時間、修理・点検・交換履歴等、さらには、各構成部品毎の定期点検やオーバーホール後の稼働時間、あるいは、トータルの稼働時間、修理・点検・交換履歴等がある。さらには、軸受周辺の歯車、付属部品や、シール部材のメンテナンスに関する情報などが挙げられる。
シール部材のメンテナンスに関する情報については、ロールネック用軸受装置であるという特殊な事情を鑑み、そのシール部材への潤滑剤の供給時期や供給量を、ICタグに入力すべき情報として扱うことが、シール部材の管理上便利である。
【0029】
なお、この構成において、ICタグ付き軸受装置が備えるICタグと情報の交信を行うためには、そのICタグ付き軸受装置とは別の(外部の)リーダライタ装置を用いる必要がある。
このリーダライタ装置は、前記ICタグのタグ側アンテナと情報の送受信が可能なリーダライタ側アンテナを備えたものである。すなわち、前記タグ側アンテナの突出部から伸びる磁束が、金属体に設けた孔の開口の縁よりも内側を通って、そのリーダライタ側アンテナとの間で磁気閉回路を構成できるものである。リーダライタ装置及びリーダライタ側アンテナは、その磁気閉回路を通じて情報の交信ができる限りにおいて、種々の構成を採用できる。
例えば、リーダライタ側アンテナの構成として、タグ側アンテナと同様に、少なくとも複数の突出部を有して、その各突出部が、タグ側アンテナの各突出部に対向する構成とすることができる。
【0030】
すなわち、上記の構成は、情報の送受信を行うための磁束を、金属体に通さない方法を採用したものである。
リーダライタ装置が備えるリーダライタ側アンテナと、ICタグが備えるタグ側アンテナとを繋ぐ磁束を、その両アンテナ内に閉じ込めてしまい、周囲に漏らさないような形が取れれば、その磁気閉回路が周囲の金属体の影響を受けないようにできる。
【0031】
また、ICタグを取付けるべき金属体からなる軸受部品を、転がり軸受の内輪とする場合において、前記孔は前記内輪の内径面に開口して設けられ、前記孔は、前記ロールネックをハウジングから取り外した際に、ハウジング外から差し入れたリーダライタ装置のリーダライタ側アンテナが対向できる位置にある構成を採用することができる。
【0032】
ロールネック用軸受装置のメンテナンスは、前述のように、例えば、ロールのロールネックをハウジングから抜き取り、その後、転がり軸受の点検、修理を行い、そして、点検や修理を終えた又は別のロール、ロールネックを、転がり軸受を介してハウジングに取付ける手法で行われるのが一般的である。また、転がり軸受をハウジングから取り外した場合には、必要に応じて、その取り外した状態の転がり軸受を分解し、内外輪や転動体、保持器等の軸受部品の点検、修理を行った後、再度、組み立てを行う場合もある。
このとき、リーダライタ装置によってICタグと情報の交信を行うためには、通常は、転がり軸受を分解した後、その分解により取り外した各部品にリーダライタ装置を近づけて情報の読み取りを行うこととなる。転がり軸受の端面は、シールケース等によって塞がれているのが通常であり、転がり軸受を分解しなければリーダライタ装置をICタグに近づけることができないからである。
しかし、上記のように、ICタグを収容する孔を、内輪の内径面に開口して設けることで、ロールネックをハウジングから抜き取った段階で、少なくとも内輪に設けられた孔及びICタグが、そのロールネックを抜き取った後の空間に露出する。このため、転がり軸受を分解することなく、内輪に取付けられたICタグと情報の交信を行うことができる。
【0033】
このように、ICタグを収容する孔を内輪の内径面に開口して設けるとき、前記孔は、前記内輪の転走面の軸方向一端を通り前記転がり軸受の軸心に直交する面と、その転走面の軸方向他端を通り前記転がり軸受の軸心に直交する面とに挟まれる範囲を避けて設けられる構成を採用することができる。
すなわち、ICタグを収容する孔を、転動体からの荷重が大きく作用する転走面の裏面を避けて設けることにより、その孔内のICタグに対する外力の作用を低く抑えることができる。
【0034】
これらの各構成において、前記少なくとも複数の突出部は透磁率の大きい素材から成るコアに設けられて、その複数の突出部は基部で連結されており、前記ICタグは、前記基部又は前記突出部に導体から成る線材を巻回して前記タグ側アンテナを構成するとともに、ICチップを前記線材の両端部に接続したものである構成を採用することができる。また、そのコアとして、例えば、トロイダルコアを周方向に沿って複数に分割した形状である構成を採用することができる。
【0035】
また、他の構成として、前記少なくとも複数の突出部は透磁率の大きい素材から成るコアに設けられて、その複数の突出部は基部で連結されて一の突出部が他の突出部に囲まれており、前記ICタグは、前記一の突出部に導体から成る線材を巻回して前記タグ側アンテナを構成するとともに、ICチップを前記線材の両端部に接続したものである構成を採用することができる。
【0036】
これらの構成について説明すると、一般に、電力や信号の高効率な伝達手段として、トランスやコイルが広く知られている。これらは一次側のコイルにより発生した磁束を効率よく二次側コイルに導くために、磁束が通りやすい、つまり透磁率が空気に比べて大きい珪素鋼板やフェライトコアを使って磁束を閉じ込め、効率良く伝達する仕組みである。
この発明は、これらの仕組みを応用し、リーダライタ側アンテナとタグ側アンテナとで2つのコイルを用いたものであり、すなわち、その2つのコイル(導体から成る線材)を、それぞれ、磁気閉回路を構成する透磁率の大きい素材から成るコアに巻いた構造のタグシステムを構成するようにしたものである。
【0037】
リーダライタ側アンテナから発生した磁束は、コアの素材として透磁率の大きい素材、すなわち、強磁性体等を使うことによって、通常の空気中で使うアンテナに比べて大きな磁束密度となり、結合係数も大きくなる。また、この磁束は、透磁率が空気に比べて大きい磁性体のコア内部に大部分が閉じこめられるため、外部への漏れ磁束が小さくなる。
このことは、既に説明した、近傍に金属体(前記導電物質や前記磁性体等)がある場合のICタグの性能が低下する理由である、漏れ磁束の悪影響をほぼ完全に取り除く効果がある。
【0038】
同様のことがタグ側アンテナにも言える。リーダライタ側アンテナ(導体から成る線材を巻回したコア)とタグ側アンテナ(導体からなる線材を巻回したコア)とを対向させた構造にしたとしても、相互に接触している場合はもちろん、若干のギャップがあった場合でも、結合係数が下がり、共振周波数もずれるが、十分に動作可能となる。
なお、透磁率の大きい磁性材料で出来た一組のコアにコイルを巻くと、コイルのインダクタンスが増加するが、その増加する割合は、RFIDタグのコアとアンテナのコアが密着した状態で一番大きく、両者のギャップが大きくなるに従い小さくなる。この係数はインダクタンス係数(AL)と呼ばれている。
このように、両コアのギャップの大きさによりコイルのインダクタンスが変化するので、通信距離が最大となる位置で、最適なインダクタンスが得られるように、コイルの巻き数を調整することが望ましい。
この状態でも、コアの一端から出た磁束が空気に比べて透磁率が大きい素材の端面(前記突出部の端面)に吸い込まれるイメージとなり、漏れ磁束は十分に小さく、周囲の金属体の影響を受けないRFIDシステムとなる。
【0039】
次に、タグの小型化について説明する。
電池等の電源を内蔵しないパッシブタイプのRFIDタグでは、タグのICチップを駆動するエネルギとして、リーダのアンテナから放射される磁界からの電磁誘導によってRFIDタグのコイルに発生する誘導電気をその動力源としている。
磁束密度が決まると、コイルの巻き数nとコイルの断面積Sによって、発生する電圧が決まる。
使用するICチップの特性から、動作に必要な最低端子電圧が決っているので、タグを小型にしていくとコイルの断面積Sが小さくなり電圧が足りなくなってしまう。
コイル両端に発生する電圧Vは、次式で表される。
【数1】

【0040】
よって、コイルが置かれた場の磁束密度が分かると動作可能な最小のコイル径が決まり、さらにコイルを小型にしようとすると、磁束密度を上げる必要がある。
本発明では、タグ側アンテナとリーダ側アンテナに、透磁率の高い材料を使った磁気閉回路を採用したことで、小型のアンテナでリーダ側アンテナに加える電力が小さくとも、タグ側アンテナにICチップが動作可能な電圧を得ることができる。
同様に、小型のアンテナサイズでもタグ側からの応答信号も効率よく伝送することが可能である。
以上の原理により、今まで実現不可能であった小型のRFIDタグを実現することができた。
【0041】
なお、前記コアとしては、例えば、磁性体の粉末を焼結又は成型したものを用いることができる。このとき、トロイダルコアを用いる場合は、磁性体の粉末を環状(リング状)に焼結又は成型する。それを複数に分割することで、基部で連結された2つの突出部を有する側面視C字状のコアとしてもよい。また、環状を成すトロイダルコアに代えて、例えば、ロ字状のコアを用い、それを複数に分割することで、基部で連結された2つの突出部を有する側面視コ字状のコアとしてもよい。
【0042】
また、コアの製法は上記分割の手法には限定されず、基部で連結された少なくとも複数の突出部を有する形状となるように、磁性体の粉末を焼結又は成型してもよい。例えば、基部で連結された2つの突出部を有する側面視コ字状又はC字状等のコアとしてもよいし、また、基部で連結された3つの突出部を有する側面視E字状のコアとしてもよい。さらに、基部で連結されて同方向に突出する複数の突出部を有し、一の突出部が弧状又は環状、その他形状を成す他の突出部に囲まれているように形成された、ポット状のコアを採用することもできる。
【0043】
磁性体の粉末としては、例えば、フェライト、カーボニル鉄、鉄、ニッケル、コバルト、又はこれらの化合物等の磁性材料を使用し、これらを、焼結又は成型させたものが好ましい。また、コアは、焼結材以外にも透磁率の高い材料、例えば、珪素鋼板、パーマロイ材、スーパーパーマロイ材等が利用でき、また渦電流による損失が問題にならないなら、積層材ではなくムクの材料を使っても実現可能である。
なお、コアの透磁率としては、1〜2000であるのが好ましいが、実際的には2〜100であれば問題はない。
【0044】
また、リーダライタ側アンテナのコア及び線材の構成を、タグ側アンテナの構成と同様とし得るが、両者の形状や材質を変えることにより最適化することも可能である。
ここで、ICタグのアンテナとリーダライタのアンテナとの間隔を0〜5mmに設定し、コアの外形を幅2〜6mm、肉厚を1〜4mmに設定して、確実に動作するRFIDシステムを実現することができた。
【0045】
これらの各構成において、前記ICタグの前記タグ側アンテナ及び前記ICチップが、ケーシング内に収容されている構成を採用することができる。
このとき、例えば、前記タグ側アンテナ及び前記ICチップが、筒状を成すケーシング内に収容されて構成され、前記各突出部の端面が前記ケーシングの筒軸方向一方の開口側へ臨む構成を採用することができる。
あるいは、前記タグ側アンテナ及び前記ICチップが、ケーシングに設けた凹部内に収容されて構成され、前記各突出部の端面が前記凹部の開口側へ臨む構成を採用することができる。
【0046】
ICタグのタグ側アンテナ及びICチップが、ケーシング内に収容されることにより、仮に、金属体に外力を作用した場合においても、その外力がタグ側アンテナやICチップに加わることを抑制し得る。また、そのケーシングによって、タグ側アンテナ及びICチップに異物が当たって損傷することも防止し得る。
なお、このケーシングは、金属製であっても樹脂製であってもよいが、前記タグ側アンテナの突出部が臨む側を閉じたケーシングを用いる場合には、少なくともその閉じる側の素材は、感度を低下させない素材、例えば、樹脂製であることが望ましい。
【0047】
また、前記タグ側アンテナ及び前記ICチップと、前記ケーシングの内面との間の空間に、充填材を配置した構成を採用することができる。
充填材を用いれば、タグ側アンテナ及びICチップがケーシングに対してしっかりと固定されるので、ICタグの耐久性がより高まる。また、その充填材によって、ケーシング内への異物の侵入をより確実に防止できる。なお、この充填材の素材としては、例えば、樹脂又はゴム等を採用することができる。
【0048】
また、前記ICタグは、前記孔内に接着剤で固定されている構成を採用することができる。また、前記ケーシングを用いる場合は、そのケーシングが、前記孔内に接着剤で固定されている構成を採用することができる。このとき、ケーシングは、接着剤によって直接孔内面に固定されていてもよいし、ケーシングと一体に固化した充填材が接着剤によって孔内面に固定されることで、ケーシングが間接的に孔内面に固定されていてもよい。
【0049】
また、前記孔の底に凹状の接着剤溜まりを設け、その接着剤溜まり内に接着剤を配置した構成を採用すれば、ICタグやケーシングの孔内面への接着強度をより高めることができる。
【0050】
さらに、前記ケーシングの外周に雄ネジ部を設け、その雄ネジ部によって、前記ケーシングを前記孔にねじ込み固定する構成を採用することができる。
ケーシングが金属体の孔に対してねじ込み固定であれば、ICタグの金属体への取付けが容易である。また、そのケーシングのねじ込み量(孔の深さ方向に対するねじ込み量)を増減することにより、ICタグのタグ側アンテナの位置(深さ)を、金属体の表面に対して調整することができる。このため、タグの感度調整も容易になる。
【0051】
なお、このケーシングは、金属体に設けた孔内に完全に入り込む構成とすることが望ましい。ケーシングが完全に孔内に入り込めば、ケーシングに異物が当たることによる損傷等をより確実に防止できる。
【0052】
また、そのケーシングとして、例えば、前記雄ネジ部が形成された部分(以下、「ねじ形成部」と称する)よりも太い頭部を有して、そのねじ形成部が孔の底側に、頭部が孔の開口側に位置するようにねじ込む構成とすることができる。このとき、金属体に形成される孔は、座繰り穴とすることが望ましい。
ICタグの収容スペースとしては、例えば、その頭部に凹部を形成しておき、ICタグのタグ側アンテナやICチップを、その頭部の凹部に収納することができる。あるいは、そのねじ形成部と頭部とを前記ねじ込み方向に貫通する孔を形成しておき、ICタグのタグ側アンテナやICチップを、その孔内に収容することができる。
【0053】
ケーシングの他の構成としては、前記頭部を有さない、円柱状や円筒状のいわゆるイモネジ式のケーシングとしてもよい。このとき、ICタグの収容スペースとしては、例えば、そのケーシングの端面(金属体の表面に向く側の端面)に凹部を形成しておき、ICタグのタグ側アンテナやICチップを、その凹部に収納することができる。あるいは、そのケーシングに、前記ねじ込み方向全長を貫通する孔を形成しておき、ICタグのタグ側アンテナやICチップを、その孔内に収容することができる。
【0054】
さらに、これらのケーシングに雄ネジ部を設けた構成において、前記雄ネジ部と前記孔の内面との間に接着剤を配置し、その接着剤によって、緩み止めの効果を発揮させることもできる。
【発明の効果】
【0055】
この発明は、情報の送受信を行うための磁束を、金属体に通さない方法を採用したので、リーダライタ装置が備えるリーダライタ側アンテナと、ICタグが備えるタグ側アンテナとを繋ぐ磁束を、その両アンテナ内に閉じ込めてしまい、周囲に漏らさないような形を取ることができる。このため、その磁気閉回路が周囲の金属体の影響を受けないようにでき、転がり軸受の金属体が備えるICタグと外部のリーダライタ装置との間の情報の交信が確実にできるようになる。
【0056】
すなわち、ICタグのタグ側アンテナの一の突出部から出た磁束は、対向するリーダライタ装置のリーダライタ側アンテナの一の突出部に殆ど吸収され、そのリーダライタ側アンテナの他の突出部から出た磁束は、対向するタグ側アンテナの他の突出部に殆ど吸収される。このため、ICタグが金属体に埋め込まれても、周囲の金属体の影響を受け難く、リーダライタ装置と確実に交信を行うことができる。
【0057】
したがって、圧延機等に用いられるロールネック用軸受装置において、そのロールネック用軸受装置を構成する軸受部品が金属体である場合においても、非接触交信型のICタグによる部品管理を実現することが可能となる。
【0058】
また、このリーダライタ装置のアンテナモジュールと、タグ側アンテナやICチップ等からなるICタグモジュールは、耐熱性、耐薬品性、及び耐水性の高い素材を選ぶことによって、耐久性の高いRFIDシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】この発明の一実施形態を示すICタグ付き軸受装置の要部拡大断面図
【図2】(a)〜(c)は、図1の変形例を示す要部拡大断面図
【図3】ICタグとリーダライタ装置との作用を示し、(a)はICタグとリーダライタ装置とを接近させた状態を示す部分断面図、(b)は、ICタグを埋め込んだ金属体側の底面図
【図4】図2の変形例を示し、(a)はICタグとリーダライタ装置とを接近させた状態を示す部分断面図、(b)は、ICタグを埋め込んだ金属体側の底面図
【図5】図2のさらなる変形例を示し、(a)はICタグとリーダライタ装置とを接近させた状態を示す部分断面図、(b)はICタグを埋め込んだ金属体側の底面図
【図6】この発明の他の実施形態を示し、(a)はICタグとリーダライタ装置とを接近させた状態を示す部分断面図、(b)はICタグとリーダライタ装置とを接近させた状態を示す斜視図、(c)はICタグの底面図
【図7】(a)(b)(c)は、それぞれ、ICタグの金属体への設置構造を示す断面図
【図8】ケーシングの詳細を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は断面図、(d)は斜視図
【図9】ICタグとリーダライタ装置とを接近させた状態を示す模式図
【図10】従来例の断面図
【図11】従来例のICタグとリーダライタ装置とを接近させた状態を示す説明図
【図12】ロールネック用軸受装置の使用状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0060】
この発明の一実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態は、図1に示すように、外輪1と内輪2の間に転動体3を介在させた転がり軸受10が備える金属体Mに、非接触交信型のICタグ20を取付けたロールネック用軸受装置である。
【0061】
また、このロールネック用軸受装置が備えるICタグ20と情報の交信を行うためには、そのロールネック用軸受装置とは別の(外部の)リーダライタ装置40が用いられる(図2〜図4参照)。
【0062】
転がり軸受10は、圧延機におけるワークロールや中間ロール等、各種ロールのロールネック部を支持するために、ハウジングに着脱可能に固定される軸受ケースCと、水平ロールRのロールネックAとの間に配置される(図12参照)。
この実施形態では、4列円すいころ軸受を採用しているが、他の構成からなる転がり軸受を採用してもよい。
【0063】
転がり軸受10は、図1に示すように、内外輪2,1間に形成される環状の軸受空間に、複数の転動体3が周方向に沿って複数配置されている。転動体3は、保持器4によって周方向に保持されている。
転動体3が配列された軸受空間内に、グリース等の潤滑剤が封入されている。また、その軸受空間の軸方向両端をシール部材7で密封することで、封入した潤滑剤の外部への漏れや、水やダスト等の軸受空間への侵入が防止される密閉型転がり軸受となっている。
【0064】
ICタグ20は、図1に示すように、金属体Mである外輪1、内輪2、及び、軸受の軸方向外側に配置される外間座(シールケース)9の軸方向端面に開口する孔11内に収容されている。
なお、ICタグ20を取付ける部品は、これらの外輪1や内輪2以外の他の部品の金属体Mであってもよい。例えば、軸方向に隣り合う外輪1,1間に配置される内間座8、外間座9に圧入されるシール部材7の芯金7a等とすることができる。
【0065】
ICタグ20の各部品に対する取付位置は自由に設定できるが、この図1のように、各部品の軸方向端面にICタグ20を埋め込めば、転がり軸受10に作用するラジアル荷重が、そのICタグ20に与える影響を少なくすることができる。ICタグ20に作用する外力は、できる限り少ないことが望ましい。なお、外力の影響に関し問題が生じない場合は、ICタグ20の各部品に対する取付位置を、その部品の内径面側や外径面側等とすることもできる。
【0066】
この各金属体Mに取付けられたICタグ20に記憶された情報を読み取る場合には、例えば、圧延機のハウジングから、ロールR、ロールネックAとともに転がり軸受10を取り外し、ICタグ20を露出させた後、そのICタグ20にリーダライタ装置40を接近させることとなる。このとき、そのICタグ20にリーダライタ装置40を接近できる程度にまで、転がり軸受10やその周辺の部材を分解した後、行う場合もある。
もちろん、部品の分解を伴わずに、ICタグ20にリーダライタ装置40を接近できる場合には、その分解は不要である。
【0067】
例えば、ロールネック用軸受装置が備える転がり軸受10の内輪2にICタグ20を取付ける場合においては、特に、ICタグ20を収容する孔11を、その内輪2の内径面に開口して設けた構成とすることが有効である。
【0068】
すなわち、例えば、図2(a)(b)(c)に示すように、孔11を、内輪2の内径面に開口して設けることによって、その孔11が、ロールネックAをハウジングから取り外した際に、ハウジング外から差し入れたリーダライタ装置40のリーダライタ側アンテナ44が対向できる位置にある構成を採用することができる。ここで、リーダライタ側アンテナ44が対向できる位置とは、そのリーダライタ装置40が、孔11内のICタグ20と情報の送受信が可能な状態を意味する。すなわち、タグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44とが対向することにより、そのタグ側アンテナ24の突出部22a,22cから伸びる磁束が、内輪2に設けた孔11の開口の縁よりも内側を通って、そのリーダライタ側アンテナ44との間で磁気閉回路を構成できる位置関係である。
【0069】
ICタグ20を収容する孔11を、内輪2の内径面に開口して設けることで、ロールネックAをハウジングから抜き取った段階で、ICタグ20を収容する孔11が、そのロールネックAを抜き取った後の空間に露出するので、その空間にリーダライタ装置40を差し入れることで、転がり軸受10を分解することなくそのICタグ20と情報の交信を行うことができる。
【0070】
このように、ICタグ20を収容する孔11を内輪2の内径面に開口して設けるとき、その孔11は、内輪2の転走面2cの軸方向一端を通りその転がり軸受10の軸心に直交する面2aと、その同じ転走面2cの軸方向他端を通りその転がり軸受10の軸心に直交する面2bとに挟まれる範囲を避けて設けられる構成を採用することができる。
図2(a)(b)(c)は、いずれも、図1と同様の4列の円すいころ軸受けの要部拡大図であり、その4列のうち、軸方向他端寄り(図中右寄り)の2列の転走面2cを備える内輪2にICタグ20を取付けたものを示している。なお、もう一方の内輪2、すなわち、軸方向一端寄り(図中左寄り)の2列の転走面2cを備える内輪2にも、同様な構成でICタグ20が取付けることができる。
【0071】
図2(a)は、その軸方向他端寄り(図中右寄り)の内輪2に対し、軸方向外側の小鍔側の端部に、孔11及びICタグ20を設けたものである。すなわち、その内輪2の2列の転走面2cのうち、他端側(図中右側)の転走面2cの軸方向他端(右側端)を通りその転がり軸受10の軸心に直交する面2bよりもさらに軸方向他端側(図中右側)に、ICタグ20を取付けている。この例では、ICタグ20を収容する孔11は、シール部材7や外間座(シールケース)9の内径側に位置する部分に設けられている。
【0072】
図2(b)は、同じくその内輪2に対し、大鍔の内径側に孔11及びICタグを設けたものである。すなわち、その内輪2の2列の転走面2cのうち、一端側(図中左側)の転走面2cの軸方向他端(右側端)を通りその転がり軸受10の軸心に直交する面2bよりも軸方向他端側(図中右側)で、且つ、他端側(図中右側)の転走面2cの軸方向一端(左側端)を通りその転がり軸受10の軸心に直交する面2aよりも軸方向一端側(図中左側)にICタグ20を取付けている。
【0073】
図2(c)は、同じくその内輪2に対し、軸方向内側の小鍔側の端部に、孔11及びICタグ20を設けたものである。すなわち、その内輪2の2列の転走面2cのうち、一端側(図中左側)の転走面2cの軸方向一端(左側端)を通りその転がり軸受10の軸心に直交する面2aよりもさらに軸方向一端側(図中左側)に、ICタグ20を取付けている。
【0074】
このように、ICタグ20を収容する孔11を、転動体3からの荷重が大きく作用する転走面2cの裏面を避けて設けることにより、その孔11内のICタグ20に対する外力の作用を低く抑えることができる。
【0075】
このICタグ20に記憶させる情報としては、例えば、ロールネック用軸受装置に対する製品情報(型式、製造番号等)やメンテナンス情報が挙げられる。メンテナンス情報としては、例えば、ロールネック用軸受装置を構成する各種部品の識別情報や、その部品毎の過去のメンテナンスの履歴がある。
【0076】
その履歴とは、例えば、ロールネック用軸受装置の定期点検やオーバーホールの実施日や、その後の稼働時間、あるいは、トータルの稼働時間、修理・点検・交換履歴等、さらには、各構成部品毎の定期点検やオーバーホール後の稼働時間、あるいは、トータルの稼働時間、修理・点検・交換履歴等がある。さらには、軸受周辺の歯車、付属部品や、シール部材7のメンテナンスに関する情報などが挙げられる。
シール部材7のメンテナンスに関する情報については、ロールネック用軸受装置であるという特殊な事情を鑑み、そのシール部材7への潤滑剤の供給時期や供給量を、ICタグ20に入力すべき情報として扱うことが、シール部材7の管理上便利である。
【0077】
ICタグ20の構成について説明する。ICタグ20は、透磁率の大きい素材から成るコア22に、導体から成る線材21を巻回してタグ側アンテナ24を構成している。ここで、透磁率の大きい素材とは、すなわち強磁性体等であり、例えば、鉄、ニッケル、コバルトや各種化合物、センダスト、カーボニル鉄、フェライト等からなる素材が挙げられる。
【0078】
コア22は、図3に示すように、同方向に突出する円弧状の対の突出部22a,22cを有し、その突出部22a,22c同士が円弧状の基部22bで連結されて、全体として側面視C字状を成している。すなわち、タグ側アンテナ24の突出部22a,22cは、側面視C字状を成すコア22の両端部である。
【0079】
この実施形態では、コア22は、環状を成すトロイダルコアを周方向に沿って2つに分割したものを採用している。トロイダルコアとは、磁性体の粉体を環状に焼結したものである。磁性体の粉体としては、カーボニル鉄、フェライト等の各種磁性材料を使用することができる。なお、このような分割を伴わずに、前記磁性体を側面視C字状に焼結したものであってもよい。
【0080】
また、この実施形態では、その対の突出部22a,22cの端面22dは、それぞれフラット面に形成されている。磁束を安定させるために、突出部22a,22cの端面22dは、このようにフラット面とすることが望ましい。
また、そのフラット面同士は同一面内にあることが望ましいが、必ずしも同一面内にある構成には限定されず、タグの感度が許容される限りにおいて、フラット面同士の位置関係(前記突出方向や、突出部22a,22c同士を結ぶ方向等への位置関係)や向きは自由に設定できる。
【0081】
ICチップ23は、そのコア22に巻回された線材21の両端部に接続されている。ICチップ23は、後述のリーダライタ側アンテナ44からの磁界を、タグ側アンテナ24が受け取ることで、その駆動電力を得るとともに必要な処理を行い、結果のデータを、受け取った磁界を変調することにより返送する機能を有する。
【0082】
図3に示すように、タグ側アンテナ24の対の突出部22a,22cは、金属体Mの孔11内において、その孔11の開口側へ臨んでいる。つまり、対の突出部22a,22cの端面は、孔11の開口側へ向いている。
【0083】
リーダライタ装置40の構成を説明する。リーダライタ装置40は、ICタグ20と同様に、透磁率の大きい素材から成るコア42に、導体から成る線材41を巻回してリーダライタ側アンテナ44を構成している。その素材については、タグ側アンテナ24のコア22の場合と同様である。
【0084】
リーダライタ側アンテナ44のコア42の形状は、タグ側アンテナ24のコア22と同様であり、図3に示すように、同方向に突出する円弧状の対の突出部42a,42cを有し、その突出部42a,42c同士が円弧状の基部42bで連結されて、全体として側面視C字状を成している。すなわち、リーダライタ側アンテナ44の突出部42a,42cは、側面視C字状を成すコア42の両端部である。コア42は、環状を成すトロイダルコアを周方向に沿って2つに分割したものを採用している。
【0085】
また、このコア42に巻回された線材41の両端は、リーダライタ装置40が備えるリーダライタ43のマッチング回路45へと接続されている。
通常、リーダライタのアンテナ端子はインピーダンス50Ωで設計されているので、アンテナコイルのインダクタンスをマッチング回路の働きで50Ωに整合することで、リーダライタの出力を効率よくアンテナに伝送し、またタグからの信号を減衰することなくリーダライタに入力することが可能となる。
【0086】
ICタグ20とリーダライタ装置40との間で情報の送受信を行う際には、そのリーダライタ装置40の電源を入れて送受信を可能とした状態で、図3に示すように、タグ側アンテナ24の突出部22a,22cに、リーダライタ側アンテナ44の突出部42a,42cの位置が合致するように対向させる。
【0087】
この状態で、図3に矢印で示すように、タグ側アンテナ24の各突出部22a,22cから伸びる磁束(各突出部から出る磁束と各突出部に入る磁束の両方を含む)の殆どが、金属体Mの孔11の開口の縁よりも内側を通ってその孔11の外部へ至ることとなる。これにより、ICタグ20とリーダライタ装置40との間の情報の交信が可能となる感度で、磁気閉回路を形成することができる。
【0088】
このとき、コア22,42を形成した分割前のトロイダルコアは環状であり、しかも透磁率が大きい素材である。このコアに、導体からなる線材を巻き回してコイル状とすると、導線コイルから発生した磁束の大部分がコア内に留まり、磁束が殆どコア外に洩れることがない。この作用によって、ICタグ20が金属体Mに埋め込まれていても、磁束は周囲の金属体Mの影響を受けにくくなる。また、同一構造のタグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44とが向き合うことで、両アンテナ24,44は、トロイダルコアと同形状の環状を成すことによって、確実に交信を行うことができる。
すなわち、例えば、ICタグ20のタグ側アンテナ24の一の突出部22aから出た磁束は、対向するリーダライタ装置40のリーダライタ側アンテナ44の一の突出部42aに殆ど吸収され、そのリーダライタ側アンテナ44の他の突出部42cから出た磁束は、対向するタグ側アンテナ24の他の突出部22cに殆ど吸収される。このため、ICタグ20が金属体Mに埋め込まれても、周囲の金属体Mの影響を受け難く、リーダライタ装置40と確実に交信を行うことができる。
また、本RFIDタグシステムで採用した閉磁気回路技術(Closed Magnetic Loop Technology)のさらなる利点として、アンテナから放射する磁束をコア内部に閉じ込める効果が大きく、その結果、アンテナ端から自由空間に放射される電磁気エネルギが小さいことが挙げられる。このことは、本システムが他の電子機器に与える影響が非常に小さいことを意味する。
【0089】
この実施形態では、ICタグ20のタグ側アンテナ24及びICチップ23が、ケーシング30内に収容されている。また、各突出部22a,22cの端面22dがケーシング30の筒軸方向一方の開口側へ臨む構成となっている。
【0090】
ICタグ20のタグ側アンテナ24及びICチップ23が、ケーシング30内に収容されることにより、仮に、金属体Mに外力が作用した場合においても、その外力がタグ側アンテナ24やICチップ23に加わることを抑制し得る。また、そのケーシング30によって、タグ側アンテナ24及びICチップ23に異物が当たって損傷することも防止し得る。
【0091】
さらに、この実施形態では、タグ側アンテナ24及びICチップ23と、ケーシング30の内面35との間の空間に充填材aを配置している。
充填材aを用いれば、タグ側アンテナ24及びICチップ23がケーシング30に対してしっかりと固定されるので、ICタグ20の耐久性がより高まる。また、その充填材aによって、ケーシング30内への異物の侵入をより確実に防止できる。なお、この充填材aの素材としては、例えば、樹脂又はゴム等を採用することができる。また、このケーシング30内への充填材aの素材を、接着剤とすることもできる。
【0092】
このICタグ20を収容したケーシング30は、金属体Mの孔11内に直接嵌め込み固定等とすることができる。しかし、ケーシング30をよりしっかりと固定するためには、図3に示すように、ケーシング30と金属体Mの孔11の内面との間に充填材bを配置することが望ましい。この充填材bの素材としては、例えば、樹脂又はゴム等を採用することができるが、特に、接着剤とすることが望ましい。充填材bは、その弾性によって、ICタグ20を振動やケーシング30の変形から保護する効果も発揮する。
【0093】
なお、ケーシング30を用いない場合、ICタグ20を金属体Mの孔11内に直接嵌め込み固定等とすることができる。しかし、ICタグ20をよりしっかりと固定するためには、前記充填材bを用いることが望ましい。
【0094】
この発明のICタグ20の変形例を、図4に示す。この変形例のICタグ20は、前述の側面視C字状のコア22,42に代えて、側面視コ字状のコア22,42を採用したものである。
【0095】
各コア22,42は、図4に示すように、同方向に向かって直線状に突出する対の突出部22a,22c;42a,42cを有し、その突出部22a,22c;42a,42c同士が,直線状の基部22b,42bで連結されている。すなわち、タグ側アンテナ24、リーダライタ側の各突出部22a,22c;42a,42cは、それぞれ側面視コ字状を成すコア22,42の両端部である。
【0096】
この変形例において、コア22,42は、例えば、ロ字状を成すコアを2つに分割したものを採用することができる。その素材については、トロイダルコアの場合と同様である。また、このような分割を伴わずに、磁性体を側面視コ字状に焼結したものであってもよい。
【0097】
この発明のICタグ20のさらなる変形例を、図5に示す。この変形例のICタグ20は、図中に示すように、前述の側面視C字状のコア22,42に代えて、側面視E字状のコア22,42を採用したものである。
各コア22,42に巻回される線材21,41は、同方向に向かって直線状に突出する3本の突出部22a,22c;42a,42cのうち、それぞれ中央の突出部22a,42aに巻回される。
【0098】
磁束は、例えば、ICタグ20のタグ側アンテナ24の中央の突出部22aから、対向するリーダライタ側アンテナ44の中央の突出部42aに殆ど吸収され、また、そのリーダライタ側アンテナ44の両端の突出部42c,42cから出た磁束は、対向するタグ側アンテナ24の両端の突出部22c,22cに殆ど吸収される形態となる。
【0099】
他の実施形態を、図6に示す。この実施形態は、ポット形状のコア22を採用したものである。コア22の形状は、中心部に位置する円柱状の突出部(一の突出部)22aが、周囲に位置する弧状を成す突出部(他の突出部)22cに囲まれたものとなっている。弧状を成す突出部22cは、中央の突出部22aを挟んで両側にそれぞれ設けられて環状の周壁部を形成している。
また、中央に位置する円柱状の一の突出部22aと、両側の弧状の突出部22cとは、円盤状を成す基部22bで連結されている。
【0100】
このICタグ20では、中央の一の突出部22aの外周面に導体から成る線材21を巻回してタグ側アンテナ24を構成し、ICチップ23をその線材21の両端部に接続したものである。コア22の一の突出部22aに巻回される線材21は、弧状を成す他の突出部22c,22cの間の切欠部22eからコア22外へ引き出されてICチップ23に至っている。
【0101】
また、リーダライタ側アンテナ44についても、タグ側アンテナ24と同様の構成であり、ポット形状のコア42を採用したものである。コア42の形状は、中心部に位置する円柱状の突出部(一の突出部)42aが、周囲に位置する弧状を成す突出部(他の突出部)42cに囲まれたものとなっている。弧状を成す突出部42cは、中央の突出部42aを挟んで両側にそれぞれ設けられて環状の周壁部を形成している。
また、中央に位置する円柱状の一の突出部42aと、両側の弧状の突出部42cとは、円盤状を成す基部42bで連結されている。
【0102】
また、このコア42の一の突出部42aの外周面に巻回された線材41の両端は、リーダライタ装置40が備えるリーダライタ43のマッチング回路45へと接続されている。コア42の一の突出部42aに巻回される線材41は、弧状を成す他の突出部42c,42cの間の切欠部42eからコア42外へ引き出されてリーダライタ43のマッチング回路45へと至っている。
通常、リーダライタのアンテナ端子はインピーダンス50Ωで設計されているので、アンテナコイルのインダクタンスをマッチング回路の働きで50Ωに整合することで、リーダライタの出力を効率よくアンテナに伝送し、またタグからの信号を減衰することなくリーダライタに入力することが可能となる点は同様である。
【0103】
なお、各コア22,42において、中央の一の突出部22a,42aと周壁部を成す他の突出部22c,42cの各端面22d,42dは、それぞれフラット面に形成されている。磁束を安定させるために、両突出部22a,22c;42a,42cの端面22d,42dは、このようにフラット面とすることが望ましい。
また、そのフラット面同士は同一面内にあることが望ましいが、必ずしも同一面内にある構成には限定されず、タグの感度が許容される限りにおいて、フラット面同士の位置関係や向きは自由に設定できる。
【0104】
この実施形態において、ICタグ20とリーダライタ装置40との間で情報の送受信を行う際には、そのリーダライタ装置40の電源を入れて送受信を可能とした状態で、図6(a)に示すように、タグ側アンテナ24の一の突出部22aの位置に、リーダライタ側アンテナ44の一の突出部42aの位置が、また、タグ側アンテナ24の他の突出部22cの位置に、リーダライタ側アンテナ44の他の突出部42cの位置が合致するように、両アンテナ24,44同士を対向させる。
【0105】
この状態で、図6(a)に矢印で示すように、タグ側アンテナ24の突出部22a,22cから伸びる磁束(各突出部から出る磁束と各突出部に入る磁束の両方を含む)の殆どが、金属体Mの孔11の開口の縁よりも内側を通ってその孔11の外部へ至ることとなる。これにより、ICタグ20とリーダライタ装置40との間の情報の交信が可能となる感度で、磁気閉回路を形成することができる。
【0106】
すなわち、磁束は、図6(a)に示すように、ICタグ20のタグ側アンテナ24の中央に位置する一の突出部22aから、対向するリーダライタ側アンテナ44の中央に位置する一の突出部42aに殆ど吸収され、また、そのリーダライタ側アンテナ44の外縁に位置する他の突出部42c,42cから出た磁束は、対向するタグ側アンテナ24の外縁に位置する他の突出部22c,22cに殆ど吸収される形態となる。
【0107】
このとき、タグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44とは同一の形状、同一の大きさであり、且つ、それぞれ、一の突出部22a,42aを囲むように、平面視円形の他の突出部22c,42cが配置されたものとなっている。このため、一の突出部22a,42aの位置(一の突出部22a,42aの中心軸同士の位置)を合致させておけば、ICタグ20とリーダライタ装置40とが、その中心軸周りいかなる相対方位にあっても、他の突出部22c,42c同士の位置は受送信可能な状態に合致する。
すなわち、このポット型のコア22,42を採用したICタグ20、及びリーダライタ装置40は、全方位タグとして機能し得るものであり、タグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44とのアンテナ中心を合わせれば十分であり、双方の中心軸周りに関しては無指向性で角度合わせが不要となるので、読み取り作業が容易で、かつ確実になる。
【0108】
このように、タグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44とが、双方の中心軸周りに関して無指向性であれば、ロールネック用軸受装置において、転がり軸受10を分解せずに行うICタグ20との情報の交信の際に有利である。
【0109】
すなわち、ロールネック用軸受装置では、前述のように、内輪2の内径面に開口する孔11を設けてICタグ20を収容することで、ロールネックAをハウジングから抜き取った段階で、そのロールネックAを抜き取った後の空間にリーダライタ装置40を差し入れることで、転がり軸受10を分解することなくそのICタグ20と情報の交信を行うことができる。
このとき、タグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44とが、その中心軸周りに無指向性であることにより、手狭な転がり軸受10内の空間(内輪2の内側の空間)において、アンテナ24,44同士の位置合わせを容易に行うことができる。
【0110】
なお、この実施形態では、タグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44は、それぞれ中心部に位置する円柱状の突出部(一の突出部)22a,42aが、周囲に位置する弧状を成す突出部(他の突出部)22c,42cに囲まれたものを採用したが、一の突出部22aは円柱状のものに限定されず、例えば、角柱状のものや円錐台状、角錐台状のものなど各種形状を採用し得る。また、他の突出部22cは、一の突出部22a,42aの外周に連続的又は断続的な周壁部を形成するものであればよく、導線21,41の引き出し箇所を確保できる限り、例えば、全周に亘る環状の突出部22c等としてもよい。
なお、タグ側アンテナ24とリーダライタ側アンテナ44とは同一の形状、同一の大きさが一般的であるが、例えばリーダライタ側アンテナ44をタグ側アンテナ24に比べて大きくしたり、又はその逆の組み合わせでも十分機能することが可能である。
【0111】
さらに、他の実施形態を図7(a)に示す。この実施形態は、ICタグ20のタグ側アンテナ24及びICチップ23が、ケーシング30に設けた凹部31内に収容されたものである。この凹部31が、金属体Mの孔11の開口側に向くように、ケーシング30は金属体Mに固定される。
【0112】
ケーシング30の凹部31内において、タグ側アンテナ24の各突出部22a,22aの端面は、その凹部31の開口側へ、すなわち、金属体Mの孔11の開口側へ臨んでいる。なお、ICタグ20やそれに対応するリーダライタ装置40の構成は、前述のいずれの実施形態のものでも採用可能である。
【0113】
また、ケーシング30の外周には雄ネジ部32が設けられている。ケーシング30は、その雄ネジ部32によって、金属体Mの孔11にねじ込み固定される。このとき、孔11の内面には、予めその雄ネジ部32に対応する雌ネジ部が形成されていることが望ましいが、雄ネジ部32のねじ込みによって、孔11の内面に雌ネジ部が形成されるいわゆるタッピングビスの形態としてもよい。
【0114】
ケーシング30が金属体Mの孔11に対してねじ込み固定であれば、ICタグ20の金属体Mへの取付け、及びその取り外しが容易である。また、ICタグ20の再利用も容易に可能となる。
【0115】
また、そのケーシング30の孔11へのねじ込み量(孔11の深さ方向に対するねじ込み量)を増減することにより、ICタグ20のタグ側アンテナ24の位置(深さ)を、金属体Mの表面に対して調整することができる。このため、タグの感度調整が容易になる。なお、前述の筒状のケーシング30等、他の形状からなるケーシング30を採用した場合にも、このような雄ネジ部32を設けた構成とすることができる。
【0116】
なお、このケーシング30は、図7に示すように、金属体に設けた孔内に完全に入り込む構成とすることが望ましい。特に、ねじの頭部を有さない、円柱状や円筒状のいわゆるイモネジ式のケーシング30とするとよい。このように、ケーシング30が完全に孔11内に入り込めば、ICタグ20やケーシング30に異物が当たることによる損傷等をより確実に防止できる。また、ICタグ20を取付けた後の金属体Mの表層の加工も可能となる。
【0117】
この図7(a)に示す実施形態では、金属体Mの孔11の底の形態を、その深さを増すにつれて徐々に縮径するテーパー状(すり鉢状)としている。また、ケーシング30の底の形態を、その孔11の底にぴったりと面接触するテーパー形状している。
このため、ケーシング30をねじ込んで、そのケーシング30の底を孔11の底にぴったりと面接触させれば、その接触面間の摩擦力によって、ケーシング30の緩み止めに寄与し得る。
【0118】
また、他の形態として、例えば、図7(b)(c)に示すように、前記孔11の底に凹状の接着剤溜まり34を設けることもできる。この接着剤溜まり34には、充填材cを配置することができる。この充填材cとして接着剤を採用すれば、ICタグ20やケーシング30の孔11内面への接着強度をより高めることができる。
【0119】
さらに、ケーシング30の雄ネジ部32と孔11の内面との間に接着剤を配置し、その接着剤によって、緩み止めの効果を発揮させることもできる。
【0120】
ケーシング30は、孔11の開口側に向く面に設けた操作部33に、操作用の治具等を差し入れることによって、ねじ込み及びその逆方向の回転操作が可能である。この操作部33は、例えば、平面視六角形の操作用孔として、その操作用孔内に一般的な六角レンチを差し入れる構成とできる。この操作用孔の形状、位置は自由に決定できるので、操作部33は、例えば、マイナスドライバ、プラスドライバーやトルクスドライバー等に対応した形状の凹部等としてもよい。
【0121】
また、図8に示すように、筒状を成すイモネジ式のケーシング30を採用する場合は、図中に示すように、その筒軸方向一方の端部において、すりわり溝からなる操作部36を設けることができる。
【0122】
ここで、リーダライタ装置40のリーダライタ側アンテナ44単体の動作を考える。図9に示すように、リーダライタ側アンテナ44のコア42の一方の突出部42aから出た磁束は、空気中に放出されコア42の他方の突出部42aに入ることになる。この場合、図中の横方向を水平と考えると、図中のAの位置における磁束は、ほぼ水平に通ることとなり、一般的なICタグ101をこの位置に置くと、垂直(図中上下方向)に置いたときに感度が最大となる。
この点、従来は、一般的なICタグ101を、図のように上下方向を向いたリーダライタ装置のリーダライタ側アンテナと対向して水平に置いたときに、その通信距離は最大となり、垂直に置くと感度はほぼ0となって、通信することができないものであった。
この発明のリーダライタ側アンテナ44を利用することによって、垂直に置かれたICタグ101を最大感度をもって読み書きすることができるRFIDシステムを実現すことが可能となった。
【0123】
なお、これらの各実施形態において、ICタグ20のタグ側アンテナ24とリーダライタ装置40のリーダライタ側アンテナ44との間隔は殆ど0であるが、5mm程度までは十分に交信することができる。そして、間隔が0〜5mm程度であれば、トロイダルコアの外径5mm、肉厚3mm程度の超小型タグであっても、十分に機能する。
【符号の説明】
【0124】
1 外輪
2 内輪
3 転動体
4 保持器
7 シール部材
7a 芯金
7b シールリップ
7c ばね部材
8 内間座
9 外間座
10 転がり軸受
11 孔
20,101 ICタグ
21 線材
22 コア
22a 突出部(一の突出部)
22b 基部
22c 突出部(他の突出部)
22d 端面
22e 切欠部
23,103 ICチップ
24,104 タグ側アンテナ
30 ケーシング
31 凹部
32 雄ネジ部
33,36 操作部
34 接着剤溜まり
35 内面
40,110 リーダライタ装置
41 線材
42 コア
42a 突出部(一の突出部)
42b 基部
42c 突出部(他の突出部)
42d 端面
42e 切欠部
43,113 リーダライタ(回路)
44,114 リーダライタ側アンテナ
45,115 マッチング回路
121 座繰り穴
121a 底
121b 開口
A ロールネック(軸)
M 金属体
a,b 充填材(接着剤)
c 接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに着脱可能に固定される軸受ケース(C)に、ロールネック(A)を支持するように転がり軸受(10)が組み込まれ、その転がり軸受(10)の転動体(3)が配列された内外輪(2,1)の間の軸受空間に潤滑剤を封入させたロールネック用軸受装置において、
前記転がり軸受(10)を構成する金属体(M)からなる軸受部品に非接触交信型のICタグ(20)を取付け、前記ICタグ(20)は、そのICタグ(20)が備えるタグ側アンテナ(24)と、外部のリーダライタ装置が備えるリーダライタ側アンテナとの間で磁気閉回路を形成することで外部からの情報の交信が可能であり、
前記ICタグ(20)は、前記金属体(M)の表面に開口する孔(11)内に収容されて、前記タグ側アンテナ(24)は少なくとも複数の突出部(22a,22c)を有してその各突出部(22a,22c)が前記孔(11)の開口側へ臨み、前記各突出部(22a,22c)から伸びる磁束が、前記孔(11)の開口の縁よりも内側を通って前記孔(11)の外部へ至ることで、前記ICタグ(20)と前記リーダライタ装置との情報の交信が可能となる前記磁気閉回路を形成できることを特徴とするロールネック用軸受装置。
【請求項2】
前記金属体(M)からなる軸受部品は、前記転がり軸受(10)の内輪(2)、外輪(1)、間座(8,9)、シール部材(7)が備える金属製の芯金(7a)の中から選択される単一の又は複数の軸受部品であることを特徴とする請求項1に記載のロールネック用軸受装置。
【請求項3】
前記金属体(M)からなる軸受部品は、前記転がり軸受(10)の内輪(2)であり、
前記孔(11)は前記内輪(2)の内径面に開口して設けられ、前記孔(11)は、前記ロールネック(A)をハウジングから取り外した際に、ハウジング外から差し入れたリーダライタ装置のリーダライタ側アンテナが対向できる位置にあることを特徴とする請求項1に記載のロールネック用軸受装置。
【請求項4】
前記孔(11)は、前記内輪(2)の転走面の軸方向一端を通り前記転がり軸受(10)の軸心に直交する面と、その転走面の軸方向他端を通り前記転がり軸受(10)の軸心に直交する面とに挟まれる範囲を避けて設けられることを特徴とする請求項3に記載のロールネック用軸受装置。
【請求項5】
前記少なくとも複数の突出部(22a,22c)は透磁率の大きい素材から成るコア(22)に設けられて、その複数の突出部(22a,22c)は基部(22b)で連結されており、前記ICタグ(20)は、前記基部(22b)又は前記突出部(22a,22c)に導体から成る線材(21)を巻回して前記タグ側アンテナ(24)を構成するとともに、ICチップ(23)を前記線材(21)の両端部に接続したものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のロールネック用軸受装置。
【請求項6】
前記コア(22)は、トロイダルコアを周方向に沿って複数に分割した形状であることを特徴とする請求項5に記載のロールネック用軸受装置。
【請求項7】
前記少なくとも複数の突出部(22a,22c)は透磁率の大きい素材から成るコア(22)に設けられて、その複数の突出部(22a,22c)は基部(22b)で連結されて一の突出部(22a)が他の突出部(22c)に囲まれており、前記ICタグ(20)は、前記一の突出部(22a)に導体から成る線材(21)を巻回して前記タグ側アンテナ(24)を構成するとともに、ICチップ(23)を前記線材(21)の両端部に接続したものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一つに記載のロールネック用軸受装置。
【請求項8】
前記ICタグ(20)は、前記タグ側アンテナ(24)及び前記ICチップ(23)が筒状を成すケーシング(30)内に収容されて構成され、前記突出部(22a)の端面(22d)が前記ケーシング(30)の筒軸方向一方の開口側へ臨むことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一つに記載のロールネック用軸受装置。
【請求項9】
前記ICタグ(20)は、前記タグ側アンテナ(24)及び前記ICチップ(23)が、ケーシング(30)に設けた凹部(31)内に収容されて構成され、前記各突出部(22a,22c)の端面(22d)が前記凹部(31)の開口側へ臨むことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一つに記載のロールネック用軸受装置。
【請求項10】
前記タグ側アンテナ(24)及び前記ICチップ(23)と、前記ケーシング(30)の内面との間の空間に充填材(a)を配置したことを特徴とする請求項8又は9に記載のロールネック用軸受装置。
【請求項11】
前記充填材(a)は、樹脂又はゴムであることを特徴とする請求項10に記載のロールネック用軸受装置。
【請求項12】
前記ICタグ(20)は、前記孔(11)内に接着剤(b,c)で固定されていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一つに記載のロールネック用軸受装置。
【請求項13】
前記ケーシング(30)は、前記孔(11)内に接着剤(b,c)で固定されていることを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一つに記載のロールネック用軸受装置。
【請求項14】
前記孔(11)の底に凹状の接着剤溜まり(34)を設け、前記接着剤(c)は、その接着剤溜まり(34)内に配置されることを特徴とする請求項12又は13に記載のロールネック用軸受装置。
【請求項15】
前記ケーシング(30)の外周に雄ネジ部(32)を設け、前記ケーシング(30)は、その雄ネジ部(32)によって前記孔(11)にねじ込み固定されることを特徴とする請求項8乃至11、13のいずれか一つに記載のロールネック用軸受装置。
【請求項16】
前記雄ネジ部(32)と前記孔(11)の内面との間に接着剤(c)を配置したことを特徴とする請求項15に記載のロールネック用軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−47879(P2013−47879A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185836(P2011−185836)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.トルクス
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】