説明

ロール回転速度検出装置

【課題】浴中ロールの回転速度を高精度に検出することが可能なロール回転速度検出装置を提供する。
【解決手段】本発明のロール回転速度検出装置は、溶融金属内に設置されたロールに設けられ、ロールとともに回転する永久磁石と、永久磁石により形成される磁界を検出する検出部と、溶融金属に浸食されない非磁性体から形成され、検出部を包囲する保護部と、を備え、ロールの径方向における永久磁石と検出部との距離は5〜20mmに設定される。検出部は、溶融金属から遮断した状態で、永久磁石との距離が5〜20mmの位置に配置されるので、永久磁石の磁界を高レベルに検出することができ、ロールの回転速度を高精度に測定することができる。また、検出部が溶融金属から遮断されるため、検出部の寿命を長くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属浴内に設置されたロールの回転速度を測定するロール回転速度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属帯(例えば鋼帯)の連続溶融めっき装置は、亜鉛などの溶融金属を満たしためっき浴中に、鋼帯の進行方向を転換するためのシンクロールと、シンクロールから鉛直方向に引き上げられる鋼帯を挟み込む上下サポートロールとが配設され、めっき浴外にワイピングノズルが設けられている。この連続溶融めっき装置では、めっき浴内に斜め下方に向けて導入された鋼帯は、シンクロールによりその進行方向を鉛直方向上方に転換された後に、上下サポートロールの間に挟み込まれながら通過してめっき浴外に引き上げられ、ワイピングノズルにより、表面に付着した溶融金属が払拭されて所定の目付量に制御される。
【0003】
このような溶融金属めっき鋼帯の製造ラインでは、ロールの軸受に起因する振動やロールと鋼帯との間で生ずるスリップ等によって、鋼帯にめっきが不均一に付着したり疵が発生したりすることが問題となっている。このため、ロールの回転速度を検出して、スリップの発生を監視することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、金属浴中ロールに永久磁石を配置し、浴外に備えた検出センサによって永久磁石の磁力を検出して、浴中ロールの回転速度を検出する浴中ロール回転速度検出装置が開示されている。浴中ロールの回転速度を検出する検出センサを浴外に設けることにより、検出センサが高温の浴中に浸漬されることを防止して、検出センサの製品寿命の低下を防止している。また、特許文献2には、金属浴中ロールに永久磁石を配置し、浴外に備えた検出センサと永久磁石との間に、永久磁石の磁力を検出センサへ伝達する伝達手段を設けた浴中ロール回転速度検出装置が開示されている。このような伝達手段を設けることにより、永久磁石と検出センサとを離間して配置した場合でも、浴中ロールの回転速度を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−291431号公報
【特許文献2】特開2009−97019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1では、浴外に検出センサが設置されるため、浴中ロールに設けられた永久磁石と検出センサとの距離が大きい。このため、検出センサによる検出位置において、永久磁石の磁力を十分に検出できるか疑義がある。また、上記特許文献2では、伝達手段によって永久磁石の磁力を検出位置まで伝達するため、特許文献1における課題は改善されると考えられる。しかし、検出センサの検出信号のレベルは永久磁石の磁力に依存する。永久磁石の磁力を強くすると隣接する永久磁石の間隔を狭めることができず、分解能が低くなる。結果として、検出センサによって浴中ロールの回転速度を高精度に検出することが困難になる。また、特許文献2のように浴外で磁気検出を行う構成であっても、浴中ロールに設置した永久磁石の磁場以外の磁力(例えば、電磁制振装置、周辺モータ類等)の影響を受ける可能性もある。この場合、検出センサによる浴中ロールの回転速度の検出に悪影響を及ぼすことも考えられる。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、浴中ロールの回転速度を高精度に検出することが可能な、新規かつ改良されたロール回転速度検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、溶融金属内に設置されたロールに設けられ、ロールとともに回転する永久磁石と、永久磁石により形成される磁界を検出する検出部と、溶融金属に浸食されない非磁性体から形成され、検出部を包囲する保護部と、を備え、ロールの径方向における永久磁石と検出部との距離は、5〜20mmであることを特徴とする、ロール回転速度検出装置が提供される。
【0009】
本発明によれば、検出部を溶融金属に浸食されない材質からなる保護部により包囲して、検出部と永久磁石とを対向して配置する。すなわち、検出部は、溶融金属から遮断した状態で、永久磁石との距離が5〜20mmの位置に配置される。このように、検出部と永久磁石との距離を近接させることができるので、検出部は永久磁石の磁界を高レベルに検出することができ、ロールの回転速度を高精度に測定することができる。また、検出部が溶融金属から遮断されるため、検出部の寿命を長くすることができる。
【0010】
ここで、保護部は、検出部を冷却する冷却剤が外部から流入される挿入部と、保護部の内部空間から冷却剤を排出する排出部と、を備えることもできる。挿入部から流入された冷却剤は、保護部の内部空間を巡回して排出部から排出される。このように冷却剤によって検出部の配置された空間を冷却することにより、検出部はより高レベルに永久磁石の磁界を検出することができる。
【0011】
また、保護部の材質は、モリブデン添加材料、セラミック、またはコバルト系金属のうちいずれか1つを用いるのがよい。これらの材質を用いることにより、保護部が溶融金属に浸食されるのを防止することができ、検出部を確実に溶融金属から遮断することができる。
【0012】
さらに、検出部は、磁性体の軸芯に巻回されたコイルからなり、永久磁石により形成される磁界によって変化するコイルのインダクタンスを検出値として出力するように構成してもよい。ロールの回転にともなって永久磁石が回転すると、コイルのインダクタンスは変化する。ロール回転速度検出装置は、コイルのインダクタンス変化に基づいて、永久磁石、すなわちロールの回転速度を取得することができる。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、溶融金属内に設置されたロールに設けられ、ロールとともに回転する永久磁石と、永久磁石により形成される磁界を検出する検出部と、溶融金属に浸食されない非磁性体から形成され、検出部を包囲する保護部と、を備え、ロールの径方向における永久磁石と検出部との距離は、永久磁石と検出部とが接触しない最小の距離以上かつ検出部により所定以上の磁界を検出可能な最大の距離以下であることを特徴とする、ロール回転速度検出装置が提供される。
【0014】
本発明によれば、検出部を溶融金属に浸食されない材質からなる保護部により包囲して、検出部と永久磁石とを対向して配置する。すなわち、検出部は、溶融金属から遮断した状態で、永久磁石との距離が、永久磁石と検出部とが接触しない最小の距離以上かつ検出部により所定以上の磁界を検出可能な最大の距離以下の位置に配置される。永久磁石と検出部とが接触すると、ロールの回転速度を検出することができない。また、検出部により所定以上の磁界を検出することができない場合、すなわち、十分な信号/ノイズ比を得ることができない場合には、高精度にロールの回転速度を検出することができない。これより、検出部と永久磁石との距離の上限値をこのように設定することにより、ロールの回転速度の検出が可能となる。本発明のロール回転速度検出装置では、検出部と永久磁石との距離を近接させることができるので、検出部は永久磁石の磁界を高レベルに検出することができ、ロールの回転速度を高精度に測定することができる。また、検出部が溶融金属から遮断されるため、検出部の寿命を長くすることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、浴中ロールの回転速度を高精度に検出することが可能なロール回転速度検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態にかかる連続溶融めっき装置を示す模式図である。
【図2】同実施形態にかかる浴中ロールのロール回転速度検出装置の配置状態を示す側面図である。
【図3】同実施形態にかかる浴中ロールのロール回転速度検出装置の配置状態を示す、図2の背面図である。
【図4】ロール回転速度検出装置のマグネット部とセンサ部との位置関係を示す説明図である。
【図5】同実施形態にかかるロール回転速度検出装置の構成を示す一部切欠断面図である。
【図6】同実施形態にかかるロール回転速度検出装置の構成を示す平面図である。
【図7】図6の切断線A−Aにおける断面図である。
【図8】センサ/磁石間隔dを10mmに固定した場合における、ロールの回転速度およびセンサ温度を変化させたときの、センサ部のセンサ出力を示すシミュレーション結果である。
【図9】センサ/磁石間隔dを20mmに固定した場合における、ロールの回転速度およびセンサ温度を変化させたときの、センサ部のセンサ出力を示すシミュレーション結果である。
【図10】センサ/磁石間隔dを10mmに固定した場合のセンサ温度とセンサ出力振幅との関係を示すグラフである。
【図11】センサ/磁石間隔dとセンサ出力との関係を示すシミュレーション結果である。
【図12】センサ/磁石間隔dとセンサ出力振幅との関係を示すシミュレーション結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[連続溶融めっき装置の構成]
まず、図1を参照して、本発明の一実施形態に係る連続溶融めっき装置について説明する。図1は、本実施形態にかかる連続溶融めっき装置1を示す模式図である。
【0019】
図1に示すように、連続溶融めっき装置1は、鋼帯2を、溶融金属を満たしためっき浴3に浸漬することにより、鋼帯2の表面に溶融金属を連続的に付着させるための装置である。連続溶融めっき装置1は、浴槽4と、スナウト5と、シンクロール6と、上下一対のサポートロール7、8と、ガスワイピングノズル9と、一対のタッチロール10、11とを備える。
【0020】
鋼帯2は、溶融金属によるめっき対象となる金属帯の一例である。本実施形態では鋼帯2の例を上げて説明するが、本発明の金属帯は、めっき対象となる帯状の金属材料であれば、その材質は問わない。また、溶融金属は、亜鉛、鉛−錫、アルミニウムなどの耐食性金属が一般的であるが、めっき金属として使用されるその他の金属であってもよい。溶融金属で鋼帯2をめっきして得られる溶融めっき鋼帯としては、亜鉛めっき鋼帯、合金化亜鉛めっき鋼帯等が代表的であるが、その他の種類のめっき鋼帯であってもよい。
【0021】
浴槽4は、上記溶融金属からなるめっき浴3を貯留する。スナウト5は、その一端をめっき浴3内に浸漬されるように傾斜配設される。
【0022】
シンクロール6は、めっき浴3中の最下方に配設され、サポートロール7、8よりもロール径が大きい。このシンクロール6は、スナウト5を通ってめっき浴3内に斜め下方に向けて導入された鋼帯2を、鉛直方向上方に方向転換する。
【0023】
サポートロール7、8は、めっき浴3中のシンクロール6の上方に配置され、シンクロール6から鉛直方向に引き上げられた鋼帯2を左右両側から挟み込むようにして配設される。サポートロール7、8は、不図示の軸受(例えば、すべり軸受、転がり軸受等)により回転自在に支持される。本実施形態にかかるサポートロール7、8は無駆動式であり、高速通板される鋼帯2に従動して回転する。なお、サポートロール7、8はモータ等により回転駆動される駆動式であってもよい。
【0024】
ガスワイピングノズル9は、めっき浴3外に配設けられ、めっき浴3から鉛直方向に引き上げられた鋼帯2の表面に気体を吹き付けて余剰な溶融金属を払拭する。これにより、鋼帯2に対する溶融金属の目付量を適正量に制御できる。タッチロール10、11は、ガスワイピングノズル9の上方に配設され、鋼帯2を両側より挟み込んで支持する。なお、連続溶融めっき装置1を、タッチロール10、11を設けない構成とすることもできる。
【0025】
ここで、上記構成の連続溶融めっき装置1の動作について説明する。連続溶融めっき装置1は、不図示の駆動源により鋼帯2を長手方向に移動させて、装置内の各部を通板させる。この鋼帯2は、スナウト5を通じてめっき浴3中に斜め下方に導入され、シンクロール6を周回して、その進行方向が鉛直方向上方に変換される。次いで、鋼帯2は、サポートロール7、8の間に挟み込まれながら上昇して、めっき浴3外に引き上げられる。このとき、鋼帯2は、サポートロール7、8により形状矯正されて、幅方向の反りが抑制される。その後、めっき浴3外に引き上げられた鋼帯2は、ガスワイピングノズル9により余剰な溶融金属を払拭されて所定の目付量に制御され、タッチロール10、11に至る。このようにして、連続溶融めっき装置1は、鋼帯2をめっき浴3中に連続的に浸漬して、溶融金属でめっきする。
【0026】
[ロール回転速度検出装置の構成]
次に、図2〜図7に基づいて、本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100の構成について説明する。以下では、本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100は、連続溶融めっき装置1のサポートロール8の回転速度を検出するために設けられているとして説明するが、他方のサポートロール7やシンクロール6等、めっき浴3中に浸漬した浴中ロールの回転速度を測定するものとして設置することも可能である。非駆動式のロールの回転速度を測定する場合には、測定されたロールの回転速度より、ロールのスリップの発生を発見することができる。また、駆動式のロールの回転速度を測定する場合には、測定されたロールの回転速度より、その回転が鋼帯2の移動速度に同期しているか否かを判定することができる。
【0027】
なお、図2は、本実施形態にかかる浴中ロールのロール回転速度検出装置100の配置状態を示す側面図である。図3は、本実施形態にかかる浴中ロールのロール回転速度検出装置100の配置状態を示す、図2の背面図である。図4は、ロール回転速度検出装置100のマグネット部110とセンサ部120との位置関係を示す説明図である。図5は、本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100の構成を示す一部切欠断面図である。図6は、本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100の構成を示す平面図である。図7は、図6の切断線A−Aにおける断面図である。ここで、図2は、図3に示すサポートロール8を取り除いた状態を示している。また、図2、図3および図5では、ケーブル124a、124bおよびシース線125をまとめて配線として符号127として示している。
【0028】
本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100は、図2〜図4に示すように、サポートロール8の回転軸8aの一端に設けられたマグネット部110と、マグネット部110の回転速度を検出するセンサ部120と、センサ部120を包囲する保護部130とから構成される。本実施形態にかかるセンサ部120は、保護部130に包囲された状態でめっき浴3中に配設されるため、溶融金属に浸漬されない。また、本実施形態にかかるセンサ部120は、高温の溶融亜鉛と接触する保護部130の本体部131との接触を避けるため、蓋部132から懸架するように設けられている。
【0029】
マグネット部110は、ロールとともに回転するようにロールの回転軸に設けられた環状の基台部112と、基台部112の周側面に設けられた複数の永久磁石114とからなる。本実施形態では、永久磁石114は、基台部112の円周方向に等間隔に8つ設けられているが、本発明はかかる例に限定されず、少なくとも1つの永久磁石114が設けられていればよい。
【0030】
センサ部120は、マグネット部110の周側面と対向して設けられる検出部である。センサ部120は、サポートロール8とともに回転するマグネット部110の磁力を検出することにより、サポートロール8の回転速度を検出する磁界変化を検出可能な磁力センサである。センサ部120は、保護部130によって包囲されているため溶融金属に浸漬されない。これにより、センサ部120の製品寿命を長くすることができる。
【0031】
本実施形態にかかるセンサ部120は、図7に示すように、コイル121と、磁性コア122と、ボビン123と、センサケーブル124と、シース熱電対125とから構成される。コイル121は、耐熱性のマグネットワイヤーであり、ボビン123に支持された磁性体の軸芯である磁性コア122に巻回されている。マグネット部110の永久磁石114の磁界に応じて、コイル121のインダクタンスは変化する。コイル121は、センサケーブル124と接続されている。センサケーブル124は、コイル121の両端に接続されたケーブル124a、124bからなり、保護部130の外部へ引き出されたケーブル124a、124bから出力されるコイル121のインダクタンスがロールの回転速度を算出するための検出信号となる。
【0032】
センサ部120は、検出信号(インダクタンスに比例する電圧)変化に基づき、ロールの回転速度を算出する。より詳細には、ロールの回転速度は、コイル121の外部磁場を印加したときのコイルコア材(磁性体)の磁気特性によるインダクタンス変化を検出し、算出される。検出信号(電圧)は、コイル121がマグネット部110の永久磁石114と対向していないときは小さく、コイル121が永久磁石114と対向しているときは大きくなる。また、コイルコア材として使用している磁性体は、外部磁場が強くなるほど透磁率が指数関数的に低くなる特性を持っている。
【0033】
センサ部120は、コイル121のインダクタンスがコイルコア材の透磁率に比例する関係に基づき、コイル121に対向するマグネット部110の永久磁石114の有無より変化するセンサ出力信号を得る。センサ出力信号は、外部磁場が強くなるほど指数関数的に小さくなる特性を有する。そして、マグネット部110が回転すると、コイル121のインダクタンスの変化に応じて、センサ出力信号は正弦波状に変化する。
【0034】
シース熱電対125は、ロールの回転速度を検出するセンサ部120の存在する空間の温度を測定するために設けられている。センサ部120を高温環境におくと、センサケーブル124等の配線などが酸化してしまい、センサ部120の寿命が短くなるとともに、磁界の検出精度も低下してしまう。本実施形態にかかるセンサ部120では、センサ部120が高温環境におかれることがないように、シース熱電対125により温度監視している。なお、保護部130内の温度は、保護部130内部に冷却剤を流入することによって調節される。センサ部120を冷却する冷却構造については後述する。シース熱電対125による検出値は、保護部130の外部へ引き出されるシース線125aを介して取得される。
【0035】
保護部130は、センサ部120を溶融金属から遮断するガード部材である。保護部130は、例えば溶融亜鉛等の溶融金属に浸食されない非磁性体から形成される。このような材料としては、例えば、モリブデンを添加して耐食性、耐孔食性が向上されたSUS316、SUS317、SUH38、SUH661等のステンレス鋼あるいは耐熱鋼や、サイアロン等のセラミック、トリバロイ(登録商標)、ステライト(登録商標)等のコバルト系金属などがある。保護部130は、図2、3に示すように、その一部がめっき浴3中に浸漬しているが、上記の材質から形成されているため溶融金属に浸食されない。これにより、保護部130の内部に収容されたセンサ部120を溶融金属から確実に遮断することができる。
【0036】
保護部130は、例えば円筒状に形成され、図5に示すように、その内部にセンサ部120を収容している。保護部130は、センサ部120がロールの回転軸に設けられたマグネット部110と所定の距離を有して対向するように、保持部140によって保持されている。このとき、保護部130は、保護部130の長手方向に延びる円筒の中心線と、マグネット部110の基台部112の外周の接線方向と略直交するように設けられる。保持部140は、連続溶融めっき装置1に固定されたロール支持部150によって支持されている。
【0037】
より詳細にみると、保護部130は、図7に示すように、一端が封鎖された筒状の本体部131と、本体部131の他端を封鎖する蓋部132とを備える。本体部131の他端と蓋部132とは、平座金を介してボルト133により密接して固定される。これにより、保護部130の内部空間は溶融金属から遮断され、内部に溶融金属が侵入するのを防止することができる。蓋部132は、センサ部120を収容する蓋円筒部132aが形成されている。蓋円筒部132aは、蓋部132と一体に形成されており、蓋部132の中心部分から本体部131の長手方向に延びている。蓋円筒部132aのマグネット部110と対向する一端側は、本体部131と同様、封鎖されている。一方、蓋円筒部132aの他端側は、センサ部120の配線等を引き出すための排出管136が設けられ、外部と連通している。蓋円筒部132aの周側面には、冷却剤を移動させるための通過孔132bが形成されている。
【0038】
また、蓋部132には、センサ部120を冷却する冷却剤を保護部130内部へ流入するための挿入管134が、蓋部132の径方向に蓋円筒部132aと隣接して設けられる。挿入管134は、両端が開口する管状部材である。外部から挿入管134より流入された冷却剤は、図7の破線矢印で示すように、本体部131の内部空間を移動して、通過孔132bから蓋円筒部132aの内部空間へ入り込み、排出管136から外部へ排出される。ここで、冷却剤としては、例えば、空気、チッ素ガス等の不活性ガスを用いることができる。なお、保護部130の本体部131や蓋円筒部132a等の部材を円筒形状とすることで、冷却流体の流路を明確にすることができ、センサ部120を確実に冷却することができる。
【0039】
本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100は、センサ部120を保護部130によって保護し、マグネット部110とセンサ部120との距離を近接させることによって、センサ部120のセンサ出力振幅を大きくすることができる。図4に示す、基台部112の外周の接線方向におけるマグネット部110とセンサ部120との距離(「センサ/磁石間隔」ともいう。)dは、約5〜20mmに設定される。距離dを5mm未満とすると、マグネット部110とセンサ部120を包囲する保護部130とが接触する恐れがある。一方、距離dを20mmより大きくすると、センサ部120によるセンサ出力振幅が低下してしまい、高精度にロールの回転速度を検出することができなくなってしまう。
【0040】
また、マグネット部110が設けられているロールは、径方向に数mm程度のぶれを生じる場合がある。これを考慮すると、マグネット部110とセンサ部120との接触を回避するとともに高精度にロールの回転速度を検出するためには、マグネット部110とセンサ部120との距離dは、約15〜20mmに設定するのが望ましい。
【0041】
なお、距離dの上限値は、マグネット部110の永久磁石114のセンサ部120により所定以上の磁界を検出可能な最大の距離に設定するようにしてもよい。センサ部120により所定以上の磁界を検出できない場合、すなわち、十分な信号/ノイズ比を得ることができない場合には、高精度にロールの回転速度を検出することができないためである。なお、センサ部120により検出される信号/ノイズ比は、永久磁石114の磁場強度、隣接する永久磁石114との距離およびセンサ感度、温度等に依存する。このため、距離dの上限値は、これらの条件に基づいて適宜設定される。また、距離dを大きくすることによってセンサ部120によるセンサ出力振幅が低下し、ノイズの影響を受ける可能性もある。この場合には、後述するセンサ部120のコイルの巻き数を増加すること等により、センサ出力振幅を高くすることができる。
【0042】
また、上述したように、本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100は、センサ部120を冷却する冷却構造を有する。めっき浴3の浴中温度は、通常約450〜460℃との高温となっている。このような環境ではセンサ部120の検出性能が低下してしまうため、冷却剤によりセンサ部120が配置される空間の温度を浴中温度より低下させる。これにより、センサ部120のセンサ出力振幅を高く維持することができる。
【0043】
[シミュレーション結果]
<1.センサ/磁石間隔dを固定した場合における、ロールの回転速度およびセンサ温度を変化させたときの、センサ部のセンサ出力振幅の検証>
本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100の効果を検証すべく、シミュレーションを行った。まず、マグネット部110とセンサ部120との距離(センサ/磁石間隔)dを固定して、マグネット部110が設けられたロールの回転速度およびセンサ部120の配置空間の温度(センサ温度)を変化させたときの、センサ部120のセンサ出力振幅を検証した。その結果を図8〜図10に示す。図8は、マグネット部110とセンサ部120との距離dを10mmに固定した場合のシミュレーション結果であり、図9は、マグネット部110とセンサ部120との距離dを20mmに固定した場合のシミュレーション結果である。図10は、マグネット部110とセンサ部120との距離dを10mmに固定した場合のセンサ温度とセンサ出力振幅との関係を示すグラフである。
【0044】
本シミュレーションにおいては、約460℃の浴中に保護部130にガードされたセンサ部120を配置した場合を想定する。マグネット部110には8つの永久磁石114が周方向に等間隔に設けられているとする。ロールの回転速度は、50rpm、100rpm、150rpm、200rpmの4つの場合について測定した。これらのうち最も回転速度の大きい200rpmは、実機において検出したい最高速度である。また、センサ温度は、大気中(約18℃)および浴中(約215℃、約280℃、約355℃、約420℃)の5つの場合について測定した。最も高いセンサ温度(約420℃)のときには、センサ部120は冷却されていない状態である。
【0045】
センサ部120が出力するセンサ出力信号は、図8および図9に示すように、正弦波のような波形を示す。この波形の1つの山がマグネット部110の1つの永久磁石114に対応する。マグネット部110が回転して永久磁石114がセンサ部120に接近するとセンサ部120の出力するセンサ出力信号は次第に小さくなり、永久磁石114がセンサ部120に最も接近したときにセンサ出力信号は最小となる。そして、マグネット部110が回転して永久磁石114がセンサ部120から離隔されるとセンサ部120の出力するセンサ出力信号は次第に大きくなる。すなわち、ロールとともにマグネット部110が回転することにより、センサ部120が検出する永久磁石114の磁界の強さが変化する。このセンサ出力信号の波形の周期より、ロールが永久磁石114の隣接間隔の距離だけ回転するのに要する時間を取得することができ、ロールの回転速度を算出することができる。
【0046】
本シミュレーションでは、ロールの回転速度またはセンサ温度を変化させたときの、センサ部120のセンサ出力であるセンサ出力振幅の大きさの変化を検証した。まず、図8に示すマグネット部110とセンサ部120との距離dを10mmに固定した場合についてみると、センサ温度を一定にしてロールの回転速度を変化させても、センサ出力振幅の大きさはほとんど変化しなかった。これより、本実施形態にかかるロール回転速度検出装置100によれば、ロールの回転速度によらず、センサ部120により安定した検出信号が出力されることがわかる。
【0047】
また、センサ温度を変化させた場合には、図8および図10に示すように、室温から約215℃までは、センサ温度が高くなるにつれてセンサ出力振幅は大きくなるが、センサ温度が約215℃より高くなるとセンサ出力振幅は小さくなっている。すなわち、センサ部120を浴中に配置するとき、センサ部120を十分に冷却した方がセンサ部120の出力するセンサ出力振幅は大きくなり、高精度にロールの回転速度を測定することが可能となる。また、保護部130内部でセンサ部120を冷却することでセンサ出力振幅が大きくなることにより、信号/ノイズ比を改善することができるという効果もある。
【0048】
次に、図9に示すマグネット部110とセンサ部120との距離dを20mmに固定した場合についてみると、図8と同様の結果が得られている。すなわち、センサ温度を一定にしてロールの回転速度を変化させてもセンサ出力振幅の大きさはほとんど変化していないことから、ロールの回転速度によらずセンサ部120により安定した検出信号が出力されることがわかる。また、センサ温度を変化させた場合には、センサ温度が高くなるにつれてセンサ出力振幅は大きくなるが、センサ温度が約215℃より高くなるとセンサ出力振幅は小さくなっている。これより、センサ部120を十分に冷却した方がセンサ部120の出力するセンサ出力振幅は大きくなり、高精度にロールの回転速度を測定することが可能となることがわかる。また、保護部130内部でセンサ部120を冷却することでセンサ出力振幅が大きくなることにより、信号/ノイズ比を改善することができるという効果もある。
【0049】
ここで、図8と図9の検出信号の波形を比較すると、マグネット部110とセンサ部120との距離dが10mmの場合の方が20mmの場合よりもセンサ出力振幅が大きいことがわかる。これより、マグネット部110とセンサ部120とをなるべく近接させて配置することによってセンサ部120の出力するセンサ出力振幅は大きくなり、高精度にロールの回転速度を測定することが可能となる。
【0050】
<2.センサ/磁石間隔dとセンサ出力振幅との関係>
マグネット部110とセンサ部120との距離(センサ/磁石間隔)dとセンサ出力振幅との関係についてより詳細に検証すべく、センサ温度を一定にして、ロールの回転速度または距離dを変化させたときのセンサ出力振幅の大きさを測定した。かかる実験結果を図11および図12に示す。なお、図11は、センサ/磁石間隔dとセンサ出力振幅との関係を示すシミュレーション結果である。図12は、センサ/磁石間隔dとセンサ出力振幅との関係を示すシミュレーション結果である。なお、図11および図12に示すセンサ出力振幅の値は一例である。
【0051】
本シミュレーションにおいては、センサ部120の冷却は行わず、約460℃の浴中に保護部130にガードされたセンサ部120を配置した場合を想定する。マグネット部110には8つの永久磁石114が周方向に等間隔に設けられているとする。このとき、ロールの回転速度を50rpm、100rpm、150rpm、200rpmと変化させるとともに、マグネット部110とセンサ部120との距離dを5mm、10mm、15mm、20mm、25mmと変化させたときの、センサ部120の出力する検出信号をシミュレーションにより取得した。
【0052】
図11に示すように、マグネット部110とセンサ部120との距離dが5mmのときには最もセンサ出力振幅が最も大きく、距離dが大きくなるにつれてセンサ出力振幅は小さくなっていった。本シミュレーションでは、距離dが20mmを超えるとセンサ出力振幅が10mVより小さくなっている。この場合には、ロールの回転速度を高精度に検出できない可能性があるため、コイルの巻き数を増加してセンサ出力振幅を大きくして、センサ出力振幅を10mV以上とするのが望ましい。これにより、距離dの上限値をマグネット部110の永久磁石114の配置間隔(円弧長)と同程度に設定した場合にも、十分なセンサ出力振幅を取得することができる。
【0053】
上記2つのシミュレーションより、マグネット部110とセンサ部120との距離dをなるべく小さくすることにより、センサ部120のセンサ出力振幅を大きくすることができることがわかった。また、浴中に配置されたセンサ部120を冷却することにより、よりセンサ部120のセンサ出力振幅を大きくすることができ、高精度にロールの回転速度を検出することが可能となることがわかった。
【0054】
以上、本発明の実施形態にかかるロール回転速度検出装置100について説明した。かかるロール回転速度検出装置100によれば、ロールの回転速度を検出するために、ロールとともに回転するマグネット部110を設け、マグネット部110の永久磁石114が形成する磁界を検知するセンサ部120をマグネット部110に近接させて浴中に配置する。これにより、センサ部120の出力する検出信号の振幅を大きくすることができ、高精度にロールの回転速度を測定することができる。このとき、センサ部120は、保護部130にガードされて溶融金属から遮断されるため、溶融金属に浸食されることによる寿命の低下を防止することができる。
【0055】
また、本実施形態のロール回転速度検出装置100は、センサ部120を冷却する冷却構造を備える。これにより、センサ部120の出力する検出信号のレベルを向上させることができるので、より高精度にロールの回転速度を測定することができる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0057】
例えば、上記実施形態では、保護部130の形状は円筒状としたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、保護部130の長手方向に対して直交する方向に切断したときの本体部131の形状が四角形等の多角形状であってもよい。また、上記実施形態では、排出管136を配線の引き出し口および冷却剤の排出口として用いたが、本発明は係る例に限定されず、配線の引き出し口と冷却剤の排出口とをそれぞれ設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
1 連続溶融めっき装置
2 鋼帯
3 めっき浴
4 浴槽
5 スナウト
6 シンクロール
7、8 サポートロール
8a ロール軸
9 ガスワイピングノズル
10、11 タッチロール
100 ロール回転速度検出装置
110 マグネット部
112 基台部
114 永久磁石
120 センサ部
121 コイル
122 磁性コア
123 ボビン
124 センサケーブル
125 シース熱電対
127 配線
130 保護部
131 本体部
132 蓋部
132a 蓋円筒部
134 挿入管
136 排出管
140 保持部
150 ロール支持部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属内に設置されたロールに設けられ、前記ロールとともに回転する永久磁石と、
前記永久磁石により形成される磁界を検出する検出部と、
溶融金属に浸食されない非磁性体から形成され、前記検出部を包囲する保護部と、
を備え、
前記ロールの径方向における前記永久磁石と前記検出部との距離は、5〜20mmであることを特徴とする、ロール回転速度検出装置。
【請求項2】
前記保護部は、
前記検出部を冷却する冷却剤が外部から流入される挿入部と、
前記保護部の内部空間から前記冷却剤を排出する排出部と、
を備えることを特徴とする、請求項1に記載のロール回転速度検出装置。
【請求項3】
前記保護部の材質は、モリブデン添加材料、セラミック、またはコバルト系金属のうちいずれか1つであることを特徴とする、請求項1または2に記載のロール回転速度検出装置。
【請求項4】
前記検出部は、磁性体の軸芯に巻回されたコイルからなり、
前記永久磁石により形成される磁界によって変化する前記コイルのインダクタンスを検出値として出力することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載のロール回転速度検出装置。
【請求項5】
溶融金属内に設置されたロールに設けられ、前記ロールとともに回転する永久磁石と、
前記永久磁石により形成される磁界を検出する検出部と、
溶融金属に浸食されない非磁性体から形成され、前記検出部を包囲する保護部と、
を備え、
前記ロールの径方向における前記永久磁石と前記検出部との距離は、前記永久磁石と前記検出部とが接触しない最小の距離以上かつ前記検出部により所定以上の磁界を検出可能な最大の距離以下であることを特徴とする、ロール回転速度検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−202223(P2011−202223A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69659(P2010−69659)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】