説明

ワイパー

【課題】二酸化塩素水溶液を含浸させるワイパーとして、二酸化塩素の殺菌・消毒効果の低減が生じ難いものを提供することを目的とする。
【解決手段】二酸化塩素の溶液が含浸されるワイパーであって、該ワイパーの素材が、綿やレーヨンといったセルロース系繊維を主体とする(50質量%超含有する)ものである。これによれば、長期間二酸化塩素濃度を高く保持できる。またワイパー自身の劣化もあまり進行しない。この様なワイパーは例えば清拭用品用として利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手指、医療機器、その他の環境表面等を消毒する際に用いるワイパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化塩素は殺菌剤の1つであり、人体に対して安全で、水道水の殺菌剤として用いたり、食品を取り扱う際の表面殺菌・消毒剤として用い得ることが知られている。また次亜塩素酸ではノロウイルスに対して殺菌力を示さないが、二酸化塩素は殺菌力を示し、有効な殺菌剤である。加えて二酸化塩素は、トリハロメタン等を生じない点でも有利とされている。
【0003】
ところで特許文献1には、塩素系消毒剤を含浸させる不織布の繊維として、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル−ポリエチレン芯鞘繊維、ポリプロピレン−ポリエチレン芯鞘繊維が挙げられている。そして繊維に付着の界面活性剤をなくする、或いは半減させることで、消毒剤濃度の漸減が防止される旨記載されている。
【0004】
加えて特許文献1において、不織布に消毒液を含浸させた場合に消毒剤濃度が漸減する原因は、不織布を構成する繊維に吸液性繊維を用いていることによると推定されている。
【0005】
他方、特許文献2には、次亜塩素酸を用いる場合についてではあるが、次亜塩素酸水溶液を含浸させる不織布に、表面が塩化ビニル樹脂、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート、メチルペンテン樹脂、ポリウレタン等の酸化されにくい素材を用いることが示されている。
【0006】
そして不織布の素材が天然繊維やポリアミド、ポリエステルでは、次亜塩素酸が消費されて殺菌力が低下することが示されている。
【0007】
特許文献3には、二酸化塩素の液剤を高吸水性樹脂と混合してゲル状組成物とすることが紹介されており、上記高吸水性樹脂としてデンプン系吸水性樹脂、セルロース系吸水性樹脂、合成ポリマー系吸水性樹脂が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−13309号公報
【特許文献2】特開平9−173427号公報
【特許文献3】特許第3110724号公報(例えば段落[0035]、[0036])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の様に二酸化塩素は様々な利点を有することから、本発明者らは個包装の清拭用品(例えばお手拭き)に使用することを思い至った。
【0010】
そこで本発明者らは、特許文献1,2を参考にいくつかの合成樹脂製不織布を選択し、これに二酸化塩素水溶液を含浸させて経過観察したところ、二酸化塩素の分解が進み、殺菌・消毒効果が低下する結果となった。また特許文献3では、二酸化塩素液剤と混合する高吸水性樹脂の素材について網羅的に記載されており、これを参考にしても適切な不織布素材を見出し得るものではなかった。
【0011】
そこで本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、二酸化塩素水溶液を含浸させるワイパーとして、二酸化塩素の殺菌・消毒効果の低減が生じ難いものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の様に特許文献1には、不織布を構成する繊維に吸液性繊維を用いると、塩素系消毒剤濃度が漸減することが示され、特許文献2には、不織布の素材が天然繊維であると、次亜塩素酸の殺菌力が低下することが示されている。
【0013】
吸液性繊維で且つ天然繊維の代表例として綿が挙げられるが、本発明者らが実験を行ったところ、二酸化塩素水溶液においては、上記に反し、これを含浸させる不織布が綿の場合に、長期経過後においても二酸化塩素水溶液の殺菌・消毒効果にあまり低減が見られないことが分かった。むしろ、不織布の素材として特許文献1,2で示されたものに、二酸化塩素の濃度低下を生じるものが散見された。
【0014】
加えて不織布によっては、二酸化塩素水溶液に浸漬することで強度低下を引き起こし、脆くなってワイパーとしては利用できない素材があることが実験により分かった。
【0015】
本発明は上記の様な種々の実験結果に基づいてなされたものであり、本発明に係るワイパーは、二酸化塩素の水溶液が含浸されるワイパーであって、該ワイパーの素材が、セルロース系繊維を主体とするものであることを特徴とする。なお上記「主体とする」とは、ワイパー中の割合が50質量%超であることを言う。
【0016】
つまり本発明においてワイパーの50質量%超をセルロース系繊維が占めることが好ましい。好ましくは80質量%以上であり、最も好ましくはセルロース繊維のみでワイパーが構成されているものである。
【0017】
またワイパーの形態としては、不織布の他、織物や編物、ワタ等であっても良い。
【0018】
更に本発明において、前記セルロース系繊維が、天然セルロース及び/または再生セルロースであることが好ましい。天然セルロースとしては綿が挙げられ、再生セルロースとしてはビスコースレーヨン、キュプラ等が挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るワイパーによれば、二酸化塩素水溶液の安定性が良く、殺菌・消毒効果の低下があまり生じず、加えてワイパー自身も二酸化塩素による劣化があまりなく、強度を保ち得ることから、手指、医療機器、その他の環境表面等の清浄に供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】二酸化塩素水溶液に浸漬した場合の、不織布の強度変化を表したグラフであり、(a)は縦方向の強度変化のグラフで、(b)は横方向の強度変化のグラフである。
【図2】イオン交換水に浸漬した場合の、不織布の強度変化を表したグラフであり、(a)は縦方向の強度変化のグラフで、(b)は横方向の強度変化のグラフである。
【図3】不織布素材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフである。
【図4】ワイパー形態の違いによる二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を説明するにあたり、各種行った実験について説明する。
【0022】
1.二酸化塩素水溶液に対するワイパー素材の安定性についての試験
二酸化塩素水溶液をワイパーに含浸させて清拭用品に用いる場合を想定し、不織布製ワイパーが二酸化塩素水溶液により劣化を生じるかどうかについて、下記の如く試験を行った。
【0023】
1−1.実験試料
ポリプロピレン(以下、PPと言うことがある)、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと言うことがある)、ポリアミド、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、綿を素材とした不織布を準備した。なおPP、PET、ポリアミド、キュプラレーヨンについてはスパンボンド法により不織布とし、ビスコースレーヨン、綿については水流交絡法により不織布とした。
【0024】
1−2.強度試験方法
上記試料の不織布を縦方向(製造流れ方向)及び横方向(製造流れ方向と直交する方向)についてそれぞれ2.5cm×20cmに裁断したものを3枚ずつ準備した。この裁断した不織布をガラス製容器に入れ、140ppmの二酸化塩素水溶液を25ml充填して密封し、室温にて遮光保存した。これらの試料について、経過日数毎に引張試験(JIS L 1912(但し試験片は上記の通り2.5cm×20cmとする))を行い、引張強度を測定した。なお引張試験にあたり試料3枚について測定し、この平均を引張強度とした。比較対照として、上記二酸化塩素水溶液に代えてイオン交換水を用い、同様に試験を行った。
【0025】
1−3.試験結果
上記各種不織布についての強度試験の結果は表1,2の通りであり、表1が二酸化塩素水溶液に浸漬した場合の引張強度、表2がイオン交換水に浸漬した場合の引張強度である。これらの結果について、二酸化塩素水溶液やイオン交換水に浸漬する前の試料不織布の強度を100%とし、これに対する強度変化の割合を表したのが、表3,4と図1,2(不織布の強度変化を表したグラフ)である。このうち表3、図1が二酸化塩素水溶液の場合で、表4、図2がイオン交換水の場合である。なお図1,2のそれぞれ(a)は試料不織布の縦方向の強度変化のグラフで、それぞれ(b)は横方向の強度変化のグラフである。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
上記結果から分かるように、PP、PET、ポリアミドはイオン交換水に浸漬した場合に比べて二酸化塩素水溶液に浸漬した場合に強度低下が見られた。特にポリアミドは二酸化塩素水溶液に浸漬した場合の強度低下が大きく、3ヶ月経過後には触るだけで崩れる程に劣化していた。一方ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、綿は二酸化塩素水溶液に浸漬した場合に、PP、PET、ポリアミドに比べて強度低下があまり見られず、レーヨンや綿といったセルロース系繊維は二酸化塩素水溶液に対して安定であることが分かる。なお水流交絡により形成された不織布において、イオン交換水に浸漬した場合に強度低下を生じる原因は、不織布の繊維が膨潤して繊維間の交絡強度が低下することによると考えられる。
【0031】
2.各種ワイパー素材に対する二酸化塩素の安定性についての試験
各種ワイパー素材に二酸化塩素水溶液を含浸させた場合における二酸化塩素の安定性について、下記の如く試験を行った。
【0032】
2−1.実験試料
上記「1.」での試験と同じく、PP、PET、ポリアミド、ビスコースレーヨン、キュプラレーヨン、綿を素材とした不織布を準備した。
【0033】
2−2.二酸化塩素安定性試験方法[1]
上記試料の不織布を2.5cm×20cmに裁断した。この裁断した不織布6枚をガラス製容器に入れ、これに二酸化塩素水溶液を25ml充填して密封し、室温にて遮光保存した。これについて、経過日数毎における二酸化塩素の濃度を測定した。濃度測定は吸光光度法により行った(吸光度測定波長:525nm)。
【0034】
2−3.試験結果
各不織布に対する二酸化塩素水溶液の安定性試験の結果は表5の通りであり、これをグラフに表すと図3(不織布素材の影響による二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフ)となる。
【0035】
【表5】

【0036】
上記の結果から分かるように、PPやポリアミドは二酸化塩素濃度が非常に低下するのに対し、PETは濃度低下が少なく、更にビスコースレーヨンやキュプラレーヨン、綿は二酸化塩素の濃度低下が殆ど見られなかった。これらからレーヨンや綿といったセルロース系繊維に対して二酸化塩素は安定で、十分に殺菌・消毒効果を保つことが分かる。
【0037】
3.ワイパーの形態の違いによる二酸化塩素の安定性についての試験
上記「2.」の試験では、二酸化塩素水溶液を含浸させるワイパーの形態として不織布を用いたが、他の形態により二酸化塩素の安定性に差異が生じるかどうかについて、下記の如く試験を行った。
【0038】
3−1.実験試料
試験材料として綿ガーゼと脱脂綿を準備した。
【0039】
3−2.二酸化塩素安定性試験方法[2]
上記綿ガーゼ1gをガラス製容器に入れ、これに二酸化塩素水溶液を10ml充填して密封した。また上記脱脂綿1gをガラス製容器に入れ、これに二酸化塩素水溶液を20ml充填して密封した。これらを室温にて遮光保存した。比較対照として、ガラス製容器に二酸化塩素水溶液20mlのみを充填して密封したものを用いた。これらについて、経過日数毎における二酸化塩素の濃度を測定した。濃度測定は吸光光度法により行った(吸光度測定波長:525nm)。
【0040】
3−3.試験結果
各試料に対する二酸化塩素水溶液の安定性試験の結果は表6の通りであり、これをグラフに表すと図4(ワイパー形態の違いによる二酸化塩素の濃度低下についての試験結果を表すグラフ)となる。
【0041】
【表6】

【0042】
綿ガーゼ、脱脂綿のいずれについても濃度変化はあまり見られなかった。上記「2.」の試験で用いた不織布形態の他、織物やワタの形態であっても、綿素材に対し二酸化塩素は安定で、十分に殺菌・消毒効果を保つことが分かる。
【0043】
4.実施形態
次に本発明の一実施形態について説明する。
【0044】
ポリアミド/PVDCを積層融着し、PVDCの表面に、乳化重合させたラテックスのPVDCをコートし、厚み50μmのフィルムを作製する。このとき上記PVDCのコート層における潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを用いる。尚このPVDCコート層にはエルカミドは含まれていない。上記積層フィルムを用い、PVDCコート層を最内表層としつつ7cm×12cmの袋状に形成する。
【0045】
他方、ワイパーとして、スパンボンド法によりキュプラレーヨン製の不織布を作製し、これを15cm×20cmに切り出し、5cm×10cmのサイズになるように折り畳む(或いは棒状に丸める)。これに100ppm二酸化塩素水溶液を含浸させる(含浸液量10ml)。
【0046】
この二酸化塩素水溶液を含浸したキュプラレーヨン製不織布を、上記袋内に入れてヒートシールにて密封する。なお上記袋の最内層がPVDCであるので、ヒートシールが可能である。
【0047】
得られた包装物を個包装清拭用品用として利用に供する。該包装物に収納したワイパー(不織布)は、3ヶ月後も十分に強度が保たれ、また含浸させた二酸化塩素水溶液の二酸化塩素濃度も140ppm程度以上に保たれており、十分に清拭用品用としての殺菌・消毒効果を発揮しうる。
【0048】
上述の様に、例を挙げて本発明をより具体的に説明したが、本発明はもとより上記例によって制限を受けるものではなく、前記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
例えば上記実施形態では、ワイパーの形態として不織布を示したが、織物や編物であっても良く、また綿球のようなワタ状のものであっても良い。なお上記実施形態では個包装清拭用品用として利用することを示したが、本発明の包装体の利用形態としてはこれに限るものではない。
【0050】
また上記実施形態では、ワイパーの素材としてキュプラレーヨンを示したが、綿等の他のセルロース系繊維であっても良い。
【0051】
上記実施形態では二酸化塩素の水溶液を包装した場合を示したが、この他、消毒用アルコールに二酸化塩素を溶存させたもの等であっても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化塩素の溶液が含浸されるワイパーであって、
該ワイパーの素材が、セルロース系繊維を主体とするものであることを特徴とするワイパー。
【請求項2】
前記セルロース系繊維が、天然セルロース及び/または再生セルロースである請求項1に記載のワイパー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−184043(P2010−184043A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30323(P2009−30323)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(593148804)川本産業株式会社 (22)
【出願人】(391003392)大幸薬品株式会社 (20)
【Fターム(参考)】