説明

ワイピングクロス

【課題】拭き取り性および捕塵性に極めて優れるワイピングクロスを提供することにある。
【解決手段】下記要件を満足する極細繊維を含むワイピングクロス。
a)主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル極細繊維であって、平均単糸繊維径が50〜2000nm、平均単糸繊維径のCV%が0〜25%、強度が1.5〜6.0cN/dtexであること。
b)ポリトリメチレンテレフタレートを島成分とし、熱水可溶性ポリエステルを海成分とする海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる極細繊維であること。
c)熱水可溶性ポリエステルが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸をポリエステル全酸成分に対して5モル%以上、ポリエチレングリコール化合物をポリエステル全重量に対して5%以上共重合されたポリエステルであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と強度を有し、発塵の少ない、ふき取り性に優れたソフトな風合いのワイピングクロスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ワイピングクロスは清掃用布帛、眼鏡やレンズ拭きなどの用途に使用されてきた。そして、その多くは、吸水性良好な繊維素材として木綿繊維などの天然繊維や、布帛内の繊維表面積を大きくすることにより、吸着力が高まることを期待した極細繊維が使用されてきた。今日、ワイピングクロスはICや半導体の製造工場やクリーンルームなど、産業分野でも幅広く展開している。産業分野用のワイピングクロスには、今までの油、水などの拭取り性、捕塵力はもちろんのこと、発塵しないことが要求される。
【0003】
しかし、例えば特許文献1に記載されているように、天然繊維を布帛の表面に多量に位置するようなワイピングクロスは、拭き取り対象物の表面に毛羽が落ち、発塵するという問題点がある。また、例えば特許文献2に記載されているように、0.2 dtex以下の超極細糸と0.5〜10dtexの繊維からなる糸を主体とした高密度な交絡織編物では、超極細糸がワイピングクロスの表面部に出るために発塵するといった問題点があった。
【0004】
一方、極細繊維の素材としては、汎用的にはナイロン6やナイロン66などのポリアミドや、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルが用いられている。しかし、ポリアミドからなる極細繊維は、この素材固有の特性から耐候性が悪く、黄変などの欠点がある他耐酸性が低い欠点があり、他方ポリエチレンテレフタレートからなる極細繊維は、優れた耐候性を有するものの、ナイロン6の様な柔軟性はなく、ワイピングクロスとしたとき捕塵力が不十分であるという問題があった。
【0005】
かかる問題を解決する為に、ポリトリメチレンテレフタレートからなる極細マルチフィラメント(特許文献3(特許第3199669号公報))を用いることができるが、この方法は、直接製糸による方法であり、得られる繊度に限界があり、生産性や工程性にも問題がある。
【0006】
他方、ポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の製造方法として、例えば、特許文献4(特開2006−265786号公報)には海島型繊維から海成分を溶出してなるポリトリメチレンテレフタレート極細糸が開示されている。しかし、この場合も繊度が0.01〜0.5dtexと太く、ワイピングクロスとして用いるには柔軟性や緻密性の点で拭き取り性および捕塵性が不十分であった。
【0007】
また、特許文献5(WO2005/095686号公報)には、ポリエステル極細繊維を得る方法として海島繊維1フィラメント当たり100島以上の島数を有する海島複合繊維とすることが提案されている。確かに本方法によりポリトリメチレンテレフタレート極細を得ることができるが、ワイピングクロス用としては不十分で、島成分の形成が不良で拭き取り性および捕塵性が不十分で、又ポリトリメチレンテレフタレートはポリエチレンテレフタレートに対して配向結晶化し難く強度が低く破れやすいという問題があった。
【0008】
そのため、ワイピングクロス用としてポリトリメチレンテレフタレートを島成分とする海島繊維の場合、海成分は溶解性除去性と、得られた極細繊維の強度、および製糸性を全て両立させることが必要でかなり制限されたものを選択する必要があった。
このように、従来の方法ではポリトリメチレンテレフタレートの極細化をさらに進めた場合の工程性や繊維強度の確保についての問題が依然残されており、この点の解決が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−228821号公報
【特許文献2】特開昭63−211364号公報
【特許文献3】特許第3199669号公報
【特許文献4】特開2006−265786号公報
【特許文献5】WO2005/095686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、製糸性、溶出時の島成分形成性に優れた海島型複合繊維から形成される、高強度で均一性のあるポリトリメチレンテレフタレート極細繊維を含む拭き取り性および捕塵性に極めて優れるワイピングクロスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、このような問題を解決するため検討した結果、ポリトリメチレンテレフタレートを島成分とする海島型複合繊維において特定の共重合ポリエステルポリマーを海成分に用いることにより、島成分からなる極細繊維を均一且つ高物性化することができ目的を達成した。
【0012】
すなわち、本発明によれば、
下記要件を満足することを特徴とする極細繊維を含むワイピングクロス、
a)主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル極細繊維であって、平均単糸繊維径が50〜2000nm、平均単糸繊維径のCV%が0〜25%、強度が1.5〜6.0cN/dtexであること。
b)ポリトリメチレンテレフタレートを島成分とし、熱水可溶性ポリエステルを海成分とする海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる極細繊維であること。
c)海成分がポリエチレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸との共重合ポリエステルで、ポリエチレングリコール系化合物がポリエステル全重量に対して5〜12重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸がポリエステル全酸成分に対して5〜8モル%共重合されているポリエステルであること。
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワイピングクロスは、平均単糸繊維径が50〜2000nmと極細で且つ均一であり、また高強度であるトリメチレンテレフタレートを含むので、柔軟性、ふき取り性捕塵性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のワイピングクロスについて詳述する。
本発明のワイピングクロスは、極細繊維を少なくとも一部に含み、該極細繊維は主たる繰り返し単位がポリトリメチレンテレフタレートからなる。ポリトリメチレンテレフタレートとはテレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ここでいう、主たる、とは80モル%以上含有していることを指し、本発明の効果を損なわない範囲で、20モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物は、酸成分として、例えばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などのジカルボン酸類、グリコール成分としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0015】
また、必要に応じて各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、滑剤、着色顔料、消泡剤などを共重合または混合しても良い。
本発明に用いるポリトリメチレンテレフタレートは、公知の方法により重合することができる。
【0016】
本発明のワイピングクロスを構成するポリトリメチレンテレフタレート極細繊維は極限粘度が0.8〜2.0であることが好ましい。極限粘度が0.8未満の場合、強度など機械的物性が低下するとともに、耐摩耗性が劣るものとなり、2.0を超えると、極細繊維を安定して製造することができない。より好ましい極限粘度は0.9〜1.5である。
【0017】
また、ポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の平均直径は50〜2000nmであることが必要である。50nm未満では繊維トータルでの強力が低下し、産業資材用途として使用困難であり、2000nmを超えると十分な柔軟性や極細糸としての性能発現が低下しワイピングクロスとしての拭き取り性に劣るものとなる。好ましい範囲は300〜1500nmである。
【0018】
さらに、ポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の平均単糸繊維径のCV%は、0〜25%である。CV%が25%を超えると、直径ばらつきが大きく拭き取り性能の低下が著しくなり、より好ましくは0〜20%、さらに好ましくは0〜15%である。本発明の極細繊維はCV%が小さく直径のばらつきが少ないことから、繊維の表面積の分布も小さくなり、優れた拭き取り性能を付与することが可能となる。また海島複合繊維の延伸時に極細繊維の断糸が少なくワイピングクロスの発塵性も向上する。
【0019】
ポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の強度は、極細繊維を繊維束として測定した際の引張強度として、1.5〜6.0cN/dtexであることが必要である。引張り時の強度が1.5cN/dtexとなると拭き取り時の発塵の原因となり、実用に供することが困難となる。また、6.0cN/dtexを超える繊維は、生産工程上伸度とのバランスを考慮すると好ましくない。より好ましい範囲は1.8〜5.5cN/dtである。また、その破断時の伸び率は10〜80%、沸水中における収縮率は5〜20%であることが好ましい。
【0020】
ポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の製造方法としては従来公知の多島構造の海島複合繊維から海成分を除去して製造することが必要である。その際の海成分ポリマーとしては島成分ポリマーよりも溶解性が高い組合せである限り、適宜選定できるが、特に溶解速度比(海/島)が200以上であることが好ましい。この溶解速度比が200未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解させている間に繊維断面表層部の島成分の一部も溶解されるため、海成分を完全に溶解除去するためには、島成分の何割かも減量されてしまうことになり、島成分の太さ斑や溶剤浸食による強度劣化が発生して、発塵の原因となり好ましくない。
【0021】
アルカリ溶出による海成分除去を行なう場合、海成分ポリマーは、例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとして、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸をポリエステル全酸成分に対して5モル%以上、好ましくは5〜8モル%を共重合させることが必要である。さらに数平均分子量4000〜12000のポリエチレングリコールをポリエステル全重量に対して5重量%以上、好ましくは5〜12重量%共重合させたものであることが必要である。海成分の固有粘度は0.4〜0.6であることが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は、得られる共重合体の親水性と溶融粘度の向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は得られる共重合体の親水性を向上させる。
【0022】
これらの共重合量の規定は本発明のワイピングクロスを構成するポリトリメチレンテレフタレート極細繊維を得る為には重要であり、5−ナトリウムイソフタル酸はポリエステルを構成する全酸成分に対して5〜8モル%、好ましくは6〜8モル%であることが必要である。10モル%を超える場合は、著しく製糸性が低下し、安定生産が困難となり、所定の強度のものを得ることはできず、5モル%未満ではポリトリメチレンテレフタレートとの溶解速度差が十分ではなくなり、海成分のみの溶出が不可能となる。
【0023】
一方、ポリエチレングリコールは全海成分ポリエステル重量に対して5〜12重量%、好ましくは6〜10重量%であることが必要である。ポリエチレングリコールの共重合量が12重量%を超えると、ポリエチレングリコールには本来溶融粘度低下作用、可塑化作用があるので、繊維断面形成性が困難となり、5重量%未満となると製糸工程の安定性、特に延伸性が低下し、強度確保が困難となる他、海成分のみの溶出が困難となる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0024】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも高いことが好ましい。このような関係がある場合には、海成分の複合質量比率が40%未満のように低くなっても、島同士が互いに接合したり、或は島成分の大部分が互いに接合した海島型海島型とは異なる断面形状のものを形成することがない。好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0であり1.3〜1.5の範囲内にあることがより好ましい。この比が1.1倍未満の場合には、工程の安定性溶融紡糸時に島成分が互いに接合しやすくなり、一方それが2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸工程の安定性が低下しやすい。
【0025】
次に島成分数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなり、しかも得られる極細繊維も顕著に細くなって、超微細繊維特有の柔らかさ、滑らかさ、光沢感などを発現することができるので、島成分数は100以上であることが重要であり好ましくは500以上である。ここで島成分数が100未満の場合には、海成分を溶解除去しても極細単繊維からなるハイマルチフィラメント糸を得ることができず、本発明の目的を達成することができない。なお、島成分数があまりに多くなりすぎると、紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、紡糸口金の加工精度自体も低下しやすくなるので、島成分数を1000以下とすることが好ましい。
【0026】
さらに、本発明の海島型複合繊維は、その海島複合質量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲内にあることが好ましく、特に30:70〜10:90の範囲内にあることが好ましい。上記範囲内にあれば、島成分間の海成分の厚さを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になる。ここで海成分の割合が40%を越える場合には、海成分の厚さが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に相互接合が発生しやすくなる。
【0027】
海成分、島成分は別々に溶融し、口金内で海島型に複合し、吐出される。その後、冷却風などによって固化させた後、好ましくは400〜6000m/分の速度、より好ましくは1000〜3000m/分で未延伸繊維として引き取る。紡糸速度は低い方が得られる繊維強度が高くなり好ましいが、400m/分以下では生産性が不十分であり、また、6000m/分以上では紡糸安定性が不良になる。
【0028】
得られた海島型複合繊維の未延伸繊維は、一旦巻き取った後、あるいは、巻き取ることなく引き続いて延伸工程を通した後に巻き取る方法のいずれかの方法で延伸される。延伸温度は60〜90℃、好ましくは70℃〜80℃の予熱ローラー上で予熱し、延伸倍率1.1〜6.0倍、好ましくは1.2〜5.0倍で延伸し、糸温度として120〜180℃、好ましくは130〜160℃で熱セットを実施することが好ましい。スリット型ヒーターであれば180〜220℃が好ましく用いられる。予熱温度不足の場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなり、セット温度が低すぎると、得られる延伸繊維の収縮率が高すぎるため好ましくない。また、セット温度が高すぎると、得られる延伸繊維の物性が著しく低下するため好ましくない。
【0029】
なお、本発明において、特に微細な島成分径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを微細化する流動延伸工程を採用することも可能である。具体的には、引き取られた複合繊維を60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施しながら延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で予備流動延伸を実施することが好ましい。
【0030】
本発明のワイピングクロスを構成するポリトリメチレンテレフタレート極細繊維の繊維形態は特に限定されず、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。また、空気混繊または合撚糸または複合仮撚により他のポリエステルマルチフィラメント糸との複合糸として本発明のワイピングクロスに含まれていても良い。
【0031】
合糸に使用するポリエステルマルチフィラメント糸において、フィラメント数は特に限定されないが、10〜300本(好ましくは30〜150本)の範囲内であることが好ましい。また、かかるポリエステルマルチフィラメント糸の繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0032】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸を形成するポリマーは、ポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、極細繊維と同等の種類であっても良い。その他のポリマーとしてはポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0033】
本発明のワイピングクロスは織物、編物いずれの形態でも良い。製造方法は従来の方法を用いればよく、例えば織物の場合、海島型複合繊維を少なくとも一部に用いて所定のカバーファクターおよび厚みを有する織物を織成した後、前記海島型複合繊維の海成分を公知のアルカリ減量装置を用いてアルカリ水溶液で溶解除去することにより、単繊維径が10〜2000nmの極細繊維を含む該ワイピングクロスを製造することができる。
【0034】
海成分を除去するには、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムのようなアルカリ金属化合物水溶液で処理することが好ましく、なかでも水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが特に好ましく用いられる。アルカリ水溶液の濃度、処理温度、処理時間は、使用するアルカリ化合物の種類により異なるが、濃度は10〜300g/L、温度は40℃〜180℃、処理時間は2分〜20時間の範囲で行うが好ましい。
【0035】
前記アルカリ水溶液による溶解除去の前および/または後に、あるいは、前記熱セットの前および/または後に該布帛に染色加工を施してもよい。また、カレンダー加工(加熱加圧加工)やエンボス加工を施してもよい。さらに、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
かくして得られたワイピングクロスは拭き取り性が高いだけでなく、素材発塵の発生が少ないものとなる。
【実施例】
【0036】
本発明を下記実施例によりさらに説明する。
下記実施例及び比較例において、下記の測定及び評価を行った。
【0037】
(1)平均単糸繊維径
海成分溶解除去後の微細繊維の30000倍のTEM観察により、繊維径を求めた。ここで繊維径は膠着していない単糸の繊維径を測定した。ランダムに選択した100本の微細繊維の繊維径データにおいて、平均単糸繊維径rを算出した。
【0038】
(2)平均単糸繊維径のばらつきCV%
(1)の平均単糸繊維径を求めるに際し、その標準偏差σを算出し、以下で定義する繊維径変動係数CV%を算出した。
CV%=標準偏差σ/平均単糸繊維径r×100 (%)
【0039】
(3)強伸度
海島複合繊維から筒編みを作成し、アルカリ溶液にて海成分を溶出して極細繊維束を作成した。この極細繊維束を20℃、65%RHの雰囲気下で、引張試験機により、試料長20cm、速度20cm/分の条件で破断時の強力、および伸度を測定した。測定数は10とし、強力の平均値を平均単糸繊維径から求めた繊度を用いて算出し、強度(cN/dtex)とした。
【0040】
(4)工程安定性
紡糸性、延伸性、減量性について次の通り評価した。
紡糸性;48時間紡糸を行い、断糸やトラブルが0〜1回のものを○、数回程度のものを△、数時間で巻き取り不可となるものを×とした。
延伸性;紡糸で得られた複合繊維を延伸、熱セットし、毛羽の発生や断糸が殆どみられないものを○、数回の断糸が見られるものを△、工程が不安定で不可のものを×とした。
減量性;アルカリ溶液中で処理し、繊維の断面をSEMで観察し、海成分のみの除去が可能なものを○、海成分のみの除去が可能な減量条件を見つけられなかったものを×とした。
【0041】
(5)拭き取り性
着色液(Suminol Fast Blue 4GL:0.2%、水:20.0%、エチレングリコール(重合度300):79.8%)を、30cm×20cmの大きさアクリル板上に、スクリーンプリント用ステージで均一に塗布した後、該アクリル板上に、200gの荷重がのった8cm×6cmの試料を2000mm/分で滑らせ、アクリル板上に残った着色液の割合を、写真に撮影した後測定し、その結果を以下のように示した。
○:アクリル板上の残液が、塗布量の20%未満
×:アクリル板上の残液が、塗布量の20%以上
【0042】
(6)発塵性
拭き取り性テストにおいて、アクリル板上に着色液を塗布せずに同様の方法で拭き取り、拭き取った後のアクリル板を観察し、繊維屑の付着の有無にて判断した。
○:アクリル板に繊維屑が付着していない
×:アクリル板に繊維屑が僅かでも付着している
【0043】
[実施例1]
島成分として固有粘度0.96(35℃、オルソクロロフェノール中)のポリトリメチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸6モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール8重量%を共重合した固有粘度0.54のポリエチレンテレフタレートを用い、別々に溶融後、複合口金内で合流させ、重量比で海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度270℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸し、巻き取った。紡糸は48時間行なったが全く断糸はみられなかった。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率3.5倍でローラー延伸し、次いで220℃の非接触型ヒーターで熱セットして巻き取り、海島型複合延伸糸を得た。延伸工程においても毛羽や断糸の発生はなく、全ての未延伸糸は問題なく延伸可能であった。
得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、筒編みを作成し、90℃、3.5g/lのアルカリ溶液中で減量処理したところ、海成分のみが溶出されており、島成分の平均繊維径は710nm、CV%は12%、強度は2.2cN/dtex、伸度は61%であった。
次いで、該海島型複合延伸糸と通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(33dtex/12fil、単糸繊度2.8dtex、沸水収縮率35.0%、帝人ファイバー(株)製)とインターレース加工にて混繊糸を得た。該混繊糸を300回/m(S方向)にて撚糸し、経糸および緯糸に全量配し、経密度215本/2.54cm、緯密度105本/2.54cmの織密度にて、通常の製織方法により5枚サテン組織の織物生機を得た。
そして、該織物を60℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、3.5%NaOH水溶液で、60℃にて28%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行い、ワイピングクロスとして得た。
得られたワイピングクロスの物性を表1に示す。
【0044】
[実施例2、比較例1、比較例2、比較例3]
海成分として、表1に示す様な組成の海ポリマーを用い、実施例1と同様の方法で海島型複合繊維を得た。得られた海島型複合繊維から溶出して得られた極細糸の物性、および実施例1と同様にして得たワイピングクロスの性能と合わせて表1に示す。
表1に示す通り、実施例1、2では紡糸性、延伸性、減量性とも問題なく、また極細繊維としても強度や均一性に優れたものを得ることが出来、ワイピングクロスとして優れた性能を有するものであった。
海ポリマーの組成として、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の共重合量を増やし、ポリエチレングリコールの共重合量を減らした比較例1は紡糸性、延伸性共に悪く、極細繊維としての強度も低く、ワイピングクロスとして発塵が見られた。5−ナトリウムスルホイソフタル酸、およびポリエチレングリコールの共重合量を減らした比較例2、3においては、減量性が悪く、極細繊維を得ることが出来なかった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明のワイピングクロスは、拭き取り性および捕塵性に極めて優れている。従って、携帯電話、眼鏡、レンズ、液晶材料、大規模集積回路、電子情報材料、電子機器類、医薬品、医療用器具、真珠、宝石、家具、および自動車部品などの用途に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記要件を満足することを特徴とする極細繊維を含むワイピングクロス。
a)極細繊維が、主たる繰り返し単位がトリメチレンテレフタレートからなるポリエステル極細繊維であって、平均単糸繊維径が50〜2000nm、平均単糸繊維径のCV%が0〜25%、強度が1.5〜6.0cN/dtexであること。
b)ポリトリメチレンテレフタレートを島成分とし、熱水可溶性ポリエステルを海成分とする海島型複合繊維の海成分を溶出処理することによって得られる極細繊維であること。
c)海成分がポリエチレングリコール系化合物と5-ナトリウムスルホイソフタル酸との共重合ポリエステルで、ポリエチレングリコール系化合物がポリエステル全重量に対して5〜12重量%、5−ナトリウムスルホイソフタル酸がポリエステル全酸成分に対して5〜8モル%共重合されているポリエステルであること。

【公開番号】特開2011−157647(P2011−157647A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−18830(P2010−18830)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】