説明

ワイピングノズル

【課題】搬送される帯鋼が振動して接触しても、ワイピング性能の低下を防止することができるワイピングノズルを提供する。
【解決手段】ワイピングノズル24の帯鋼Sと対向する鉛直面32に、帯鋼Sに向けてワイピングガスGを噴射する上スリット33a及び下スリット33bと、当該上スリット33a及び下スリット33bの開口部先端よりも帯鋼S側に突出する突出部34とを設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイピングガスを噴射することにより、帯鋼の表面に余剰に付着した溶融めっき金属を除去して、所定のめっき付着量に調整するワイピングノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、めっき鋼板を製造するめっき鋼板製造ラインには、圧延工程、酸洗工程、焼鈍工程等の後に、帯鋼にめっきを施すめっき工程が設けられている。このめっき工程においては、搬送された帯鋼を溶融金属めっき浴内に連続的に浸漬させた後、当該溶融金属めっき浴から上方に引き上げて、この上昇過程においてワイピングノズルからワイピングガスを帯鋼に向けて噴射している。これにより、帯鋼の表面に余剰に付着した溶融めっき金属はそぎ落とされ、当該帯鋼には所定量の膜厚のめっきが施される。
【0003】
このような、めっき鋼板製造ラインのめっき工程において使用されるワイピングノズルは、例えば、特許文献1に開示されている。
【0004】
【特許文献1】特公昭63−50422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶融金属めっき浴から引き上げられた帯鋼がその板厚方向において振動すると、帯鋼がワイピングノズルに接触してしまう。このような接触が起こると、ワイピングノズルのガス噴射口近傍が損傷し、ワイピング性能の低下を招いてしまうおそれがある。
【0006】
従って、本発明は上記課題を解決するものであって、搬送される帯鋼が振動して接触しても、ワイピング性能の低下を防止することができるワイピングノズルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する第1の発明に係るワイピングノズルは、
溶融金属めっき浴から引き上げられた帯板に付着する余剰な溶融金属を除去するワイピングノズルにおいて、
前記帯板と対向する対向面に、
前記帯板に向けてワイピングガスを噴射するガス噴射口と、
前記ガス噴射口の開口部先端よりも前記帯板側に突出する突出部とを設ける
ことを特徴とする。
【0008】
上記課題を解決する第2の発明に係るワイピングノズルは、
第1の発明に係るワイピングノズルにおいて、
少なくとも前記ガス噴射口及び前記突出部をカーボン材またはセラミックスからなる溶融金属付着防止物質で形成する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明に係るワイピングノズルによれば、溶融金属めっき浴から引き上げられた帯板に付着する余剰な溶融金属を除去するワイピングノズルにおいて、前記帯板と対向する対向面に、前記帯板に向けてワイピングガスを噴射するガス噴射口と、前記ガス噴射口の開口部先端よりも前記帯板側に突出する突出部とを設けることにより、振動した前記帯板が接触しても、前記帯板は前記突出部だけに接触するので、前記ガス噴射口は損傷することがなく、ワイピング性能の低下を防止することができる。
【0010】
第2の発明に係るワイピングノズルによれば、第1の発明に係るワイピングノズルにおいて、少なくとも前記ガス噴射口及び前記突出部をカーボン材またはセラミックスからなる溶融金属付着防止物質で形成することにより、前記ガス噴射口の内面に溶融金属が堆積することがないので、前記帯板の板幅方向におけるめっき付着量の不均一化を防止することができると共に、前記突出部に前記帯板が接触しても、前記突出部は前記帯板よりも柔らかいので、前記帯板の損傷も防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係るワイピングノズルを図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の一実施例に係るワイピングノズルを備えためっき装置の概略図、図2は本発明の一実施例に係るワイピングノズルの先端拡大図、図3は帯鋼がワイピングノズルの突出部に接触したときの様子を示した図、図4は本発明の他の実施例に係るワイピングノズルの先端拡大図である。
【0012】
図1に示すめっき装置1は、めっき鋼板を製造する図示しないめっき鋼板製造ラインに設けられるものである。このめっき鋼板製造ラインには、図示しないクリーニング装置、焼鈍炉等が順に配置されており、めっき装置1は焼鈍炉の下流側に配置されている。即ち、帯鋼Sをめっき鋼板製造ラインにおける、クリーニング装置、焼鈍炉、めっき装置1に順次通板させることにより、めっき鋼板が製造される。
【0013】
なお、クリーニング装置及び焼鈍炉の構成については既に周知であるので、その説明は省略する。また、クリーニング装置及び焼鈍炉がどのような型式であっても、本発明に係るめっき装置1に適用することができる。
【0014】
図1に示すように、めっき装置1には、焼鈍炉の排出通路11から排出された帯鋼Sが連続的に供給されている。
【0015】
めっき装置1には、亜鉛またはアルミニウム等の溶融金属が貯溜される溶融金属めっき浴21が設けられている。溶融金属めっき浴21内には、焼鈍炉の排出通路11から排出された帯鋼Sを略鉛直上方に向けて搬送するシンクロール22と、このシンクロール22から搬送される帯鋼Sを挟むように配置される一対のガイドロール23とが回転可能に支持されている。
【0016】
また、溶融金属めっき浴21の浴面21a上には、ガイドロール23間から搬送される帯鋼Sを挟むように対向配置される一対のワイピングノズル24が設けられている。このワイピングノズル24には、ガス供給路25を介してガス供給装置26が接続されている。
【0017】
図1,2に示すように、ワイピングノズル24は中空構造をなしており、その内部には帯鋼Sの板幅方向に延設するチャンバ31が形成されている。このチャンバ31内には上述したガス供給路25が連通している。ワイピングノズル24の帯鋼Sと対向する内側には、帯鋼Sの搬送方向と平行をなす鉛直面32が形成されている。
【0018】
鉛直面32の上部及び下部には、当該鉛直面32と略直交するように、即ち、帯鋼Sの搬送方向に対し略直交するように、上スリット(ガス噴射口)33a及び下スリット(ガス噴射口)33bが開口されている。上スリット33a及び下スリット33bは、帯板Sの板幅以上に延設してチャンバ31内に連通しており、その開口部先端は帯鋼Sの搬送方向に対する直交方向において鉛直面32と同じ位置に開口されている。そして、鉛直面32には上スリット33a及び下スリット33bの開口部先端よりも帯鋼S側に突出する突出部34が形成されている。この突出部34も、帯鋼Sの板幅方向において当該帯鋼Sの板幅以上に形成されている。
【0019】
なお、ワイピングノズル24は、カーボン材の中でも比較的柔らかい黒鉛等の溶融金属付着防止物質で形成されている。
【0020】
従って、焼鈍炉に搬送された帯鋼Sは、所定の熱処理が施された後、排出通路11を介して溶融金属めっき浴21内に連続的に浸漬される。そして、溶融金属めっき浴21内に浸漬された帯鋼Sは、シンクロール22により略鉛直上向きに方向転換されて、ガイドロール23を介して溶融金属めっき浴21の浴面21aの上方に引き上げられる。次いで、引き上げられた帯鋼Sがワイピングノズル24間に搬送されると、ワイピングノズル24の上スリット33a及び下スリット33bから帯鋼Sに向けて圧縮した空気または窒素等のワイピングガスGが噴射される。これにより、帯鋼Sの表面に余剰に付着した溶融金属がそぎ落とされ、帯鋼Sの表面に所定量の膜厚のめっきが施される。このように、帯鋼Sはめっきが施されることにより、最終製品のめっき鋼板となり、次工程へと搬送される。
【0021】
ここで、上述したワイピング時においては、噴射されたワイピングガスGの圧力によりそぎ落とされた溶融金属の一部が、ワイピングノズル24の周囲にスプラッシュとなって飛散する。このように飛散した溶融金属はワイピングノズル24の表面のみならず、上スリット33a及び下スリット33bの内面まで付着するおそれがある。
【0022】
しかしながら、ワイピングノズル24は黒鉛で形成されており、共有結合のカーボン材の黒鉛と金属結合の溶融金属とは結合しにくいことから、飛散した溶融金属がワイピングノズル24の上スリット33a及び下スリット33bの内面に付着しても、直ぐに剥がれることとなり、堆積することはない。この結果、上スリット33a及び下スリット33bからワイピングガスGが乱れることなく噴射されるので、帯鋼Sの板幅方向におけるめっき付着量の不均一化が防止される。
【0023】
また、ワイピング時においては、帯鋼Sがその板厚方向に振動してワイピングノズル24に接触するおそれがある。このようにワイピングノズル24に帯鋼Sが接触すると、上スリット33a及び下スリット33bの開口部先端が損傷してしまい、ワイピング性能に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0024】
しかしながら、ワイピングノズル24の鉛直面32に、上スリット33a及び下スリット33bの開口部先端よりも帯鋼S側に突出した突出部34を設けているので、仮に、帯鋼Sがその板厚方向に振動してワイピングノズル24と接触しても、図3の2点鎖線に示すように、振動した帯鋼Sは突出部34と最初に接触することとなり、突出部34だけが損傷する。この結果、上スリット33a及び下スリット33bの損傷を防止できるので、ワイピング性能が低下されることはない。更に、帯鋼Sが接触しても、突出部34はカーボン材の中でも比較的柔らかい黒鉛で形成されているので、帯鋼Sに傷が付くことがない。
【0025】
そして、ワイピングノズル24の上スリット33a及び下スリット33bから噴射されたワイピングガスGによる帯鋼Sへの圧力分布Pは、図2に示すようになっている。この圧力分布Pにおいては、上スリット33a及び下スリット33bから噴射されたワイピングガスGが帯鋼Sに衝突する部分が最も高い圧力となっており、鉛直面32と対向する帯鋼Sの部分がそれよりも低い圧力となっている。
【0026】
また、上スリット33aから噴射されて帯鋼Sに衝突して下方に流れたワイピングガスGと、下スリット33bから噴射されて帯鋼Sに衝突して上方に流れたワイピングガスGトとの衝突により、鉛直面32と帯鋼Sとの間にワイピングガスGが滞留する。これにより、鉛直面32と帯鋼Sとの間では、ワイピングガスGの流速が小さくなり、この結果、よどみ部が形成されて、大気圧よりも高圧な静圧が発生する。
【0027】
更に、上スリット33a及び下スリット33bに対向した帯鋼Sの表面においては、ワイピングが行われるが、鉛直面32と対向する帯鋼Sの表面においては、殆どワイピングが行われない。従って、よどみ部が形成され静圧が発生することにより、帯鋼Sが突出部34に接触しにくくなるだけでなく、鉛直面32に突出部34を設けてもワイピング性能が低下することはない。
【0028】
なお、上述した実施形態では、ワイピングノズル24を上スリット33a及び下スリット33bの2段スリット構造にしたが、3段スリット以上の構造にしても構わない。この場合、スリット間に形成される少なくとも1つの鉛直面に突出部を設けることで、上述した作用効果を得ることができる。そして、鉛直面に設けられる突出部の数量は複数であってもよく、その形状も突出していればどのような形状に設定しても構わない。
【0029】
また、図4に示すように、鉛直面32を上スリット33a及び下スリット33bの開口部先端よりも帯鋼S側に突出した突出面36としても構わない。
【0030】
更に、突出部34または突出面36を含むワイピングノズル24の全体を、カーボン材の黒鉛で形成しているが、カーボン材の替わりに溶融金属付着防止物質としてセラミックスを用いて、ワイピングノズルを形成させても構わない。
【0031】
また、ワイピングノズル24を金属材料で形成し、その表面に、セラミックス溶射、窒化、浸炭等の溶融金属付着防止物質で皮膜35(図2乃至図4参照)を形成させても構わない。その皮膜35の形成範囲は、少なくとも、上スリット33a及び下スリット33b、突出部34または突出面36が覆われていればよい。
【0032】
従って、本発明に係るワイピングノズルによれば、ワイピングノズル24の帯鋼Sと対向する鉛直面32に、帯鋼Sに向けてワイピングガスGを噴射する上スリット33a及び下スリット33bと、当該上スリット33a及び下スリット33bの開口部先端よりも帯鋼S側に突出する突出部34とを設けることにより、搬送される帯鋼Sが振動してワイピングノズル24に接触しても、帯鋼Sは突出部34だけに接触し、この突出部34だけが損傷することになる。この結果、上スリット33a及び下スリット33bは損傷することがないので、帯鋼Sが接触してもワイピング性能の低下を防止することができる。
【0033】
また、ワイピングノズル24に上スリット33a及び下スリット33bを帯鋼Sの搬送方向に沿って設けることにより、ガス噴射時においてワイピングノズル24と帯鋼Sとの間に、よどみ部が形成され静圧が発生するので、鉛直面32に突出部34を設けても、ワイピング性能に悪影響を及ぼすことがない。
【0034】
更に、少なくとも上スリット33a及び下スリット33bをカーボン材またはセラミックスからなる溶融金属付着防止物質で形成することにより、上スリット33a及び下スリット33bの内面に溶融金属が堆積することがないので、帯鋼Sの板幅方向におけるめっき付着量の不均一化を防止することができると共に、突出部34に帯鋼Sが接触しても、突出部34は帯鋼Sよりも柔らかいので、当該帯鋼Sの損傷も防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
飛散した溶融金属による帯板へのめっき付着量の不均一化を防止するワイピングノズルに適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施例に係るワイピングノズルを備えためっき装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施例に係るワイピングノズルの先端拡大図である。
【図3】帯鋼がワイピングノズルの突出部に接触したときの様子を示した図である。
【図4】本発明の他の実施例に係るワイピングノズルの先端拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
1 めっき装置
11 排出通路
21 溶融金属めっき浴
22 シンクロール
23 ガイドロール
24 ワイピングノズル
25 ガス供給路
26 ガス供給装置
31 チャンバ
32 鉛直面
33a,33b スリット
34 突出部
35 皮膜
36 突出面
G ワイピングガス
P 圧力分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属めっき浴から引き上げられた帯板に付着する余剰な溶融金属を除去するワイピングノズルにおいて、
前記帯板と対向する対向面に、
前記帯板に向けてワイピングガスを噴射するガス噴射口と、
前記ガス噴射口の開口部先端よりも前記帯板側に突出する突出部とを設ける
ことを特徴とするワイピングノズル。
【請求項2】
請求項1に記載のワイピングノズルにおいて、
少なくとも前記ガス噴射口及び前記突出部をカーボン材またはセラミックスからなる溶融金属付着防止物質で形成する
ことを特徴とするワイピングノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−190001(P2008−190001A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−26291(P2007−26291)
【出願日】平成19年2月6日(2007.2.6)
【出願人】(502251784)三菱日立製鉄機械株式会社 (130)
【Fターム(参考)】