説明

ワイピング用布帛およびワイピング製品

【課題】拭き取り性に優れかつ発塵が少なく、しかもハンドリング性(手での把持性)に極めて優れたワイピング用布帛およびワイピング製品を提供する。
【解決手段】艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなる単繊維径50〜1500nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aを用いて、嵩高性が1.5cm/g以上のワイピング用布帛およびワイピング製品を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拭き取り性に優れかつ発塵が少なく、しかもハンドリング性(手での把持性)に極めて優れたワイピング用布帛およびワイピング製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワイピングクロスやワイピングテープなどのワイピング製品は、清掃用布帛、眼鏡やレンズ拭きなどの用途に使用されてきた。そして、その多くは吸水性が良好な繊維素材として木綿繊維などの天然繊維や、布帛内の繊維表面積を大きくすることにより、吸着力が高まることを期待した極細繊維が使用されてきた。今日、ワイピング製品はICや半導体の製造工場やクリーンルームなど、産業分野でも幅広く展開している。産業分野用のワイピング製品には、今までの微小な塵、埃、油、水などの拭き取り性および捕塵性はもちろんのこと、発塵しないことが要求される。
【0003】
しかし、例えば、特許文献1に記載されているように、天然繊維を布帛の表面に多量に位置するようなワイピング製品は、拭き取り対象物の表面に毛羽が落ち、発塵するという問題点がある。また、例えば特許文献2に記載されているように、3次元的な交絡が少ない不織布によるワイピング製品は、強度が弱く、切れた繊維が拭取り対象物の表面に落ち、発塵するという問題がある。さらに、例えば特許文献3や特許文献4に記載されているように、ポリエステルフィラメントを用いてワイピング製品が提案されているが、一般的にポリエステルには艶消しを目的とした酸化チタンなどの無機微粒子が含まれることが多く、この無機微粒子が拭き取り対象物の表面に落ち、この無機微粒子自体が塵埃になり、さらには拭取り対象物の表面にキズを付けるという問題があった。
【0004】
かかる背景のもと本出願人は、特願2007−300389号において、艶消し剤の含有量が少ないポリエステル繊維からなるワイピング用織物を提案したが、拭き取り性能は良好なものの、手で拭き取りを行う場合に把持し難いという問題があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭61−228821号公報
【特許文献2】特開2005−160721号公報
【特許文献3】特開平11−152644号公報
【特許文献4】特開2006−336118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、拭き取り性に優れかつ発塵が少なく、しかもハンドリング性(手での把持性)に極めて優れたワイピング用布帛およびワイピング製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、艶消し剤の含有量が小さいポリエステルからなる、超極細のポリエステルマルチフィラメント糸Aを用い、嵩高性が大きいワイピング用布帛を得ると、該布帛は、拭き取り性に優れかつ発塵が少なく、しかもハンドリング性(手での把持性)に極めて優れることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば「ワイピング用布帛であって、該布帛が、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなる単繊維径50〜1500nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aを含み、かつ布帛の嵩高性が1.5cm/g以上であることを特徴とするワイピング用布帛。」が提供される。
【0009】
その際、前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aのフィラメント数が1000本以上であることが好ましい。また、前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、他糸条として、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなる単繊維径3μm以上のポリエステルマルチフィラメント糸Bが布帛に含まれることが好ましい。また、布帛が、編密度が30〜160コース/2.54cmかつ20〜130ウエール/2.54cmの編物であることが好ましい。また、布帛の厚みが、0.1〜5.0mmの範囲内であることが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、前記のワイピング用布帛を用いてなる、携帯電話、眼鏡、レンズ、液晶材料、大規模集積回路、電子情報材料、電子機器類、医薬品、医療用器具、食品、真珠、宝石、家具、および自動車部品からなる群より選択されるいずれかの用途に使用されるワイピング製品が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微小な塵、埃、油、水などに対して優れた拭き取り性を有しかつ発塵が少なく、しかもハンドリング性(手での把持性)に極めて優れたワイピング用布帛およびワイピング製品が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
従来、ワイピングクロスやワイピングテープなどワイピング製品の多くは、布帛内の繊維表面積を大きくすることにより、吸着力が高まることを期待した極細繊維が使用されてきた。極細繊維を用いたワイピング製品の特徴としては、繊維間隙の毛細管現象により吸水性や吸油性が高まること、また、極細繊維特有のシャープ・マルチシェービング効果が期待できることがある。ここでシャープ・マルチシェービング効果とは、表面積が大きいことと一定面積における繊維数の多さを利用した効果である。対象物への繊維接触回数がはるかに多くなることにより極細繊維が微細な塵埃や油脂をそぎ取る。本発明は、拭き取り作業をする際のハンドリング性を向上させるために、極細繊維を含んだ嵩高性の高い布帛構造を採用し、極細繊維の効果により塵埃に対する優れた拭き取り性を有し、繊維に含まれる無機微粒子を少なくすることにより発塵を少なくした点に特徴がある。嵩高性の低い布帛では、拭き取り作業をする際に手で布帛を把持しにくく、作業性に問題がある。
【0013】
まず、本発明のワイピング用布帛において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aはその単繊維径(単繊維の直径)が50〜1500nm(好ましくは100〜1000nm、特に好ましくは510〜800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単糸繊度に換算すると、0.00002〜0.022dtexに相当する。ここで、単繊維径が50nm未満の場合には製造が困難となるだけでなく、繊維強度が低くなるため実用上好ましくない。逆に、単繊維径が1500nmを超える場合には、ワイピング用布帛をワイピング製品として使用する際、十分な拭き取り性が得られず好ましくない。なお、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には外接円の直径を単繊維径とする。また、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0014】
かかるポリエステルマルチフィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、1000本以上(より好ましくは2000〜10000本)であることが好ましい。また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜200dtexの範囲内であることが好ましい。かかるポリエステルマルチフィラメント糸Aを形成するポリマーは、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下(より好ましくは0.5重量%以下、最も好ましく0重量%)のポリエステルであることが肝要である。艶消し剤がポリエステル重量対比1.0重量%より多くポリエステル中に含まれていると、該ワイピング用布帛をワイピング製品として使用する際、布帛を構成する繊維中に含まれる艶消し剤の粒子が拭取り対象物と繊維との摩擦により、対象物の表面に落ち、艶消し剤自体が塵埃になり、さらには対象物にキズを付けるおそれがある。該ポリエステル中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が含まれていてもよいが、無機微粒子は含まれていないことが好ましい。また、ポリエステルの種類としては、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0015】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されず、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。また、空気混繊または合撚糸または複合仮撚により他糸条との複合糸として編物に含まれていてもよい。
【0016】
本発明のワイピング用布帛は前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aだけで構成されていてもよいが、嵩高性を1.5cm/g以上とする上で、他糸条として、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなる単繊維径3μm以上のポリエステルマルチフィラメント糸Bが布帛に含まれることが好ましい。ポリエステルマルチフィラメント糸Bの単繊維径が3μmよりも小さいと布帛の嵩高性が低下し、拭き取り性が損われるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0017】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、10〜300本(好ましくは30〜150本)の範囲内であることが好ましい。前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bの単糸繊度は0.25〜10.0dtexの範囲内であることが好ましく、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、10〜200dtexの範囲内であることが好ましい。また、かかるポリエステルマルチフィラメント糸Bの繊維形態は長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0018】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bを形成するポリマー形成するポリマーは、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下(より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0重量%)のポリエステルであることが好ましい。艶消し剤がポリエステル重量対比1.0重量%より多くポリエステル中に含まれていると、該ワイピング用編物をワイピング製品として使用する際、編物を構成する繊維中に含まれる艶消し剤の粒子が拭取り対象物と繊維との摩擦により、対象物の表面に落ち、艶消し剤自体が塵埃になり、さらには対象物にキズを付けるおそれがある。該ポリエステル中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が含まれていてもよいが、無機微粒子は含まれていないことが好ましい。また、ポリエステルの種類としては、ポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。
【0019】
なお、本発明のワイピング用布帛はポリエステルマルチフィラメント糸Aとポリエステルマルチフィラメント糸Bだけで構成されることが好ましいが、布帛重量に対して40重量%以下であれば、他の繊維が含まれていてもさしつかえない。
【0020】
本発明のワイピング用布帛において、嵩高性が1.5cm/g以上(より好ましくは1.5〜10.0cm/g、特に好ましくは2.0〜5.0cm/g)であることが肝要である。該嵩高性が1.5cm/gより小さいとハンドリング性が低下し好ましくない。なお、嵩高性が1.5cm/g以上とするには、前記のように、ポリエステルマルチフィラメント糸Bを併用したり、布帛組織を適宜選定するとよい。ここで、嵩高性とは下記式により定義される。
嵩高性[cm/g]=(布帛の厚み[mm]÷10)÷(布帛の単位面積当たりの質量[g/m2]÷10000)
ただし、布帛の厚み[mm]JIS L 1018 8.5により測定し、布帛の単位面積当たりの質量[g/m2]はJIS L 1018 8.4により測定するものとする。
【0021】
また、布帛の厚みが、0.1〜5.0mm(より好ましくは0.2〜3.5mm)の範囲内であることが好ましい。該厚みが0.1mmよりも小さいと布帛の嵩高性が低くなり作業性が損われるおそれがある。逆に厚みが5.0mmよりも大きいと布帛の剛性が高くなりすぎ拭き取り性が低下するおそれがある。
【0022】
前記布帛の布帛組織は特に限定されず、編物、織物、不織布いずれでもよいが、前記の嵩高性を得る上で編物が好ましい。かかる編物の種類は、よこ編物であってもよいし、たて編物であってもよい。編物組織は特に限定されず、例えば、よこ編組織としては、平編、天竺、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が好ましく例示される。たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、裏毛編、ジャガード編等が好ましく例示される。なお、製編は、丸編機、横編機、トリコット編機、ラッシェル編機等など通常の編機を用いて通常の方法により製編することができる。層数も特に限定されず単層でもよいし2層以上の多層構造を有する編物でもよい。
【0023】
特に、前記の嵩高性を得る上で、編密度が30〜160コース/2.54cmかつ20〜130ウエール/2.54cm(より好ましくは40〜140コース/2.54cmかつ30〜110ウエール/2.54cm)の編物が好ましい。
【0024】
本発明のワイピング用布帛は、以下の製造方法により製造することができる。すなわち、ポリエステルマルチフィラメント糸A用として、島成分が艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなりかつ島成分の径が50〜1500nmである海島型複合繊維を用い、必要に応じて、ポリエステルマルチフィラメント糸B用として、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなる単糸繊度が0.25〜10.0dtexのポリエステルマルチフィラメント糸を用いて布帛を織編成した後、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、前記のワイピング用布帛を製造することができる。
【0025】
ここで、前記の海島型複合繊維において、該繊維を構成するポリマーは、海成分ポリマーが島成分ポリマーよりも溶解性が高い組合せであれば任意であるが、特に溶解速度比(海/島)が200以上であることが好ましい。かかる溶解速度比が200未満の場合には、繊維断面中央部の海成分を溶解させている間に繊維断面表層部の島成分の一部も溶解されるため、海成分を完全に溶解除去するためには、島成分の何割かも減量されてしまうことになり、島成分の太さ斑や溶剤浸食による強度劣化が発生して、毛羽やピリングなどの品位に問題が生じやすくなる。
【0026】
海成分ポリマーは、好ましくは島成分との溶解速度比が200以上であればいかなるポリマーであってもよいが、特に繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。また、ナイロン6は、ギ酸溶解性があり、ポリスチレン・ポリエチレンはトルエンなど有機溶剤に非常によく溶ける。なかでも、アルカリ易溶解性と海島断面形成性とを両立させるため、ポリエステル系のポリマーとしては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。ここで、5−ナトリウムイソフタル酸は親水性と溶融粘度向上に寄与し、ポリエチレングリコール(PEG)は親水性を向上させる。なお、PEGは分子量が大きいほど、その高次構造に起因すると考えられる親水性増加効果が大きくなるが、反応性が悪くなってブレンド系になるため、耐熱性・紡糸安定性などの点から好ましくなくなる。また、共重合量が10重量%以上になると、本来溶融粘度低下作用があるので、本発明の目的を達成することが困難になる。したがって、上記の範囲で、両成分を共重合することが好ましい。
【0027】
一方、島成分ポリマーは、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルでありかつ海成分との溶解速度差があればいかなるポリエステルポリマーであってもよいが、前記のように繊維形成性のポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じてカチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0028】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる本発明の海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。かかる関係にある場合には、海成分の複合重量比率が40%未満と少なくなっても、島同士が接合したり、島成分の大部分が接合して海島型複合繊維とは異なるものになり難い。
【0029】
好ましい溶融粘度比(海/島)は、1.1〜2.0、特に1.3〜1.5の範囲である。この比が1.1倍未満の場合には溶融紡糸時に島成分が接合しやすくなり、一方2.0倍を越える場合には、粘度差が大きすぎるために紡糸調子が低下しやすい。
【0030】
次に島数は、多いほど海成分を溶解除去して極細繊維を製造する場合の生産性が高くなり、しかも得られる極細繊維の細さも顕著となって拭き取り性能が向上するので100以上(より好ましくは300〜1000)であることが好ましい。なお、島数があまりに多くなりすぎると紡糸口金の製造コストが高くなるだけでなく、加工精度自体も低下しやすくなるので10000以下とするのが好ましい。
【0031】
次に、島成分の径は、50〜1500nmの範囲とする必要がある。また、海島複合繊維断面内の各島は、その径が均一であるほど海成分を除去して得られる極細マルチフィラメント糸からなる編物の品位や耐久性が向上するので好ましい。
【0032】
前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。かかる範囲であれば、島間の海成分の厚みを薄くすることができ、海成分の溶解除去が容易となり、島成分の極細繊維への転換が容易になるので好ましい。ここで海成分の割合が40%を越える場合には海成分の厚みが厚くなりすぎ、一方5%未満の場合には海成分の量が少なくなりすぎて、島間に接合が発生しやすくなる。
【0033】
前記の海島型複合繊維において、その島間の海成分厚みが500nm以下、特に20〜200nmの範囲が適当であり、該厚みが500nmを越える場合には、該厚い海成分を溶解除去する間に島成分の溶解が進むため、島成分間の均質性が低下するだけでなく、毛羽やピリングなどの欠陥も発生しやすくなる。
【0034】
前記の海島型複合繊維は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、まず溶融粘度が高く且つ易溶解性であるポリマーと溶融粘度が低く且つ難溶解性のポリマーとを、前者が海成分で後者が島成分となるように溶融紡糸する。ここで、海成分と島成分の溶融粘度の関係は重要で、海成分の比率が小さくなって島間の厚みが小さくなると、海成分の溶融粘度が小さい場合には島間の一部の流路を海成分が高速流動するようになり、島間に接合が起こりやすくなるので好ましくない。
【0035】
溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。例えば中空ピンや微細孔より押し出された島成分とその間を埋める形で流路を設計されている海成分流とを合流し、これを圧縮することにより海島断面形成がなされるいかなる紡糸口金でもよい。
【0036】
吐出された海島型断面複合繊維は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。
【0037】
ここで、特に微細な島径を有する海島型複合繊維を高効率で製造するために、通常のいわゆる配向結晶化を伴うネック延伸(配向結晶化延伸)に先立って、繊維構造は変化させないで繊維径のみを極細化する流動延伸工程を採用することが好ましい。流動延伸を容易とするため、熱容量の大きい水媒体を用いて繊維を均一に予熱し、低速で延伸することが好ましい。このようにすることにより延伸時に流動状態を形成しやすくなり、繊維の微細構造の発達を伴わずに容易に延伸することができる。このプロセスでは、特に海成分および島成分が共にガラス転移温度100℃以下のポリマーであることが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリトリメチレンテレフタレート等のポリエステルに好適である。具体的には60〜100℃、好ましくは60〜80℃の範囲の温水バスに浸漬して均一加熱を施し、延伸倍率は10〜30倍、供給速度は1〜10m/分、巻取り速度は300m/分以下、特に10〜300m/分の範囲で実施することが好ましい。予熱温度不足および延伸速度が速すぎる場合には、目的とする高倍率延伸を達成することができなくなる。
【0038】
得られた流動状態で延伸された延伸糸は、その強伸度などの機械的特性を向上させるため、定法にしたがって60〜220℃の温度で配向結晶化延伸する。該延伸条件がこの範囲外の温度では、得られる繊維の物性が不十分なものとなる。なお、この延伸倍率は、溶融紡糸条件、流動延伸条件、配向結晶化延伸条件などによって変わってくるが、該配向結晶化延伸条件で延伸可能な最大延伸倍率の0.6〜0.95倍で延伸すればよい。
【0039】
以上に説明した海島型複合繊維と、必要に応じて前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bとを用いて布帛を織編成した後、前記の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、本発明の布帛が得られる。なお、前記のアルカリ水溶液による海成分の溶解除去処理の前および/または後に染色加工や親水加工など各種加工を付加適用してもよい。
【0040】
かくして得られた布帛は、前記のポリエステルマルチフィラメント糸Aに含まれる極細繊維により優れた拭取り性を呈する。その際、適度な厚みと嵩高性により、ハンドリング性(手での把持性)が良く、作業性がよい。また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aを形成するポリエステルと、ポリエステルマルチフィラメント糸Bを形成するポリエステルには、艶消し剤があまり含まれていないので、艶消し剤が拭き取り対象物の表面に落ち、この艶消し剤自体が塵埃になるおそれがない。さらには拭取り対象物の表面にキズを付けるおそれもない。
【0041】
次に、本発明のワイピング製品は、前記のワイピング用布帛を用いてなる、携帯電話、眼鏡、レンズ、液晶材料、大規模集積回路、電子情報材料、電子機器類、医薬品、医療用器具、食品、真珠、宝石、家具、および自動車部品からなる群より選択されるいずれかの用途に使用されるワイピング製品である。かかるワイピング製品は、拭き取り性およびハンドリング性(手での把持性)に極めて優れており、かつ発塵の少ないものである。なお、かかるワイピング製品の形状は特に限定されず、ワイピングクロス、ワイピングテープ、マスコット形状をした携帯ストラップなどいずれでもよい。
【実施例】
【0042】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0043】
<単繊維径>透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定した。n数5で測定しその平均値を求めた。
【0044】
<嵩高性>下記の式により算出した。
嵩高性[cm/g]=(布帛の厚み[mm]÷10)÷(布帛の単位面積当たりの質量[g/m2]÷10000)
【0045】
<布帛の厚み>JIS L 1018 8.5に従って測定した。
【0046】
<布帛の単位面積当たりの質量>JIS L 1018 8.4に従って測定した。
【0047】
<編密度>JIS L 1018 8.8に従って測定した。
【0048】
<拭き取り性能>ガラス板に定量の人工汚れ(カーボンブラックおよび牛脂極度硬化油および流動パラフィンのヘキサン希釈液)を滴下し、常温で1時間以上風乾させてスポット状の汚れを付着させた。その後、ガラス板に対し、ワイピング布で押圧荷重40g/cm、拭き取り速度10cm/minで拭き取り動作を行った。拭き取り後のガラス板について5名のモニターにより官能評価を行った。モニターはガラス板を見た時の状態を次の基準により評価し、20点以上のものは「○」、11点〜19点のものは「△」、10点以下のものは「×」と判定した。
5点:ガラス板に汚れがあったことは全く感じられず、非常にきれいである。
4点:ガラス板に汚れがあったことは感じられず、きれいである。
3点:ガラス板に汚れがあったかもしれないが、まあきれいである。
2点:ガラス板に汚れがあったであろうと推測されるほど、少し汚い。
1点:ガラス板に汚れがあったであろうと確信できるほど、汚い。
【0049】
<発塵性>拭き取り性能の評価方法において、人工汚れを付着させていないガラス板に対し、同条件でワイピング布で拭き取り動作を行った。拭き取り後のガラス板について5名のモニターにより官能評価を行った。モニターはガラス板を見た時の状態を次の基準により評価し、○とした人が4人以上の場合は「○」、4人未満の場合は「×」と判定した。
○:繊維や塵埃がガラス板に付着しておらず、良好である。
×:繊維や塵埃がガラス板に付着しており、不良である。
【0050】
<ハンドリング性>5名のモニターにより、人工汚れを付着させていないガラス板に対し、手に持ったワイピング布を押し付けながら一定方向に10往復させた際の、作業性の状態を次の基準により評価」し、○とした人が4人以上の場合は「○」、4人未満の場合は「×」と判定した。
○:布をしっかりと把持でき、難なく作業できる。
×:布を把持し難く、動作中に布を持ち直したりしなければならず、作業性に劣る
【0051】
[実施例1]
島成分として艶消し剤などの無機微粒子を含まないポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取り、ポリエステルマルチフィラメント糸A用糸条とした。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
その後、該海島型複合延伸糸と、酸化チタンを0.5重量%含有するポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(33dtex/12fil、ポリエステルマルチフィラメント糸B)とインターレース加工にて混繊糸を得た。
【0052】
次いで、36ゲージの通常の丸編機を使用して、前記の海島型複合延伸糸を含む混繊糸を、81コース/2.54cm、40ウエール/2.54cmの編密度にて、両面編組織(スムース)の編物生機を得た。
その後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて25%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの単繊維径は700nm、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの単繊維径は16μm、編物の嵩高性は2.8cm/g、編物の厚さは0.40mm、編密度は70コース/2.54cm、90ウエール/2.54cmであった。得られた編物を用いてワイピング布を得て、ワイピング試験を実施した。拭き取り性能は「○」、発塵性は「○」であり、ハンドリング性においても「○」であった。
【0053】
[実施例2]
実施例1と同様にポリエステルマルチフィラメント糸A用糸条として海島型複合延伸糸56dtex/10filを得た。
次いで、28ゲージの通常の経編機を使用して、前述の海島型複合延伸糸をフロント筬とミドル筬に用い、酸化チタンを0.5重量%含有するポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(56dtex/12fil、ポリエステルマルチフィラメント糸B)をバック筬に用い、サテン組織(バック:10/21、ミドル:10/34、フロント:10/34による編方)により、65コース/2.54cm、48ウエール/2.54cmの編密度にて、サテン組織の編物生機を得た。
その後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて25%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの単繊維径は700nm、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの単繊維径は21μm、編物の嵩高性は2.6cm/g、編物の厚さは0.47mm、編密度は52コース/2.54cm、52ウエール/2.54cmであった。得られた編物を用いてワイピング布を得て、ワイピング試験を実施した。拭き取り性能は「○」、発塵性は「○」であり、ハンドリング性においても「○」であった。
【0054】
[比較例1]
実施例1と同様にポリエステルマルチフィラメント糸A用糸条として海島型複合延伸糸56dtex/10filを得た。
次いで、36ゲージの通常の丸編機を使用して、前記の海島型複合延伸糸のみを用いを、90コース/2.54cm、70ウエール/2.54cmの編密度にて、平編組織(天竺)の編物生機を得た。
その後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて31%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの単繊維径は700nm、編物の嵩高性は1.4cm/g、編物の厚さは0.18mm、編密度は83コース/2.54cm、80ウエール/2.54cmであった。得られた編物を用いてワイピング布を得て、ワイピング試験を実施した。拭き取り性能は「○」、発塵性は「○」であったが、ハンドリング性は「×」と不良であった。
【0055】
[比較例2]
島成分として酸化チタンを2.5重量%含有するポリエチレンテレフタレートを用いる以外は実施例1と同様にして、ポリエステルマルチフィラメント糸A用糸条として海島型複合延伸糸56dtex/10filを得た。得られた海島型複合延伸糸は透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
その後、該海島型複合延伸糸と、酸化チタンを2.5重量%含有するポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(33dtex/12fil、ポリエステルマルチフィラメント糸B)とインターレース加工にて混繊糸を得た。
【0056】
次いで、36ゲージの通常の丸編機を使用して、前記の海島型複合延伸糸を含む混繊糸を、80コース/2.54cm、41ウエール/2.54cmの編密度にて、両面編組織(スムース)の編物生機を得た。
その後、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて25%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
得られた編物において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの単繊維径は700nm、ポリエステルマルチフィラメント糸Bの単繊維径は16μm、編物の嵩高性は2.7cm/g、編物の厚さは0.39mm、編密度は69コース/2.54cm、92ウエール/2.54cmであった。得られた編物を用いてワイピング布を得て、ワイピング試験を実施した。拭き取り性能は「○」、ハンドリング性は「○」であったが、一方、発塵性は「×」と不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によれば、拭き取り性に優れかつ発塵が少なく、しかもハンドリング性(手での把持性)に極めて優れたワイピング用布帛およびワイピング製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイピング用布帛であって、該布帛が、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなる単繊維径50〜1500nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aを含み、かつ布帛の嵩高性が1.5cm/g以上であることを特徴とするワイピング用布帛。
【請求項2】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aのフィラメント数が1000本以上である、請求項1に記載のワイピング用布帛。
【請求項3】
前記ポリエステルフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1または請求項2に記載のワイピング用布帛。
【請求項4】
他糸条として、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下のポリエステルからなる単繊維径3μm以上のポリエステルマルチフィラメント糸Bが布帛に含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載のワイピング用布帛。
【請求項5】
布帛が、編密度が30〜160コース/2.54cmかつ20〜130ウエール/2.54cmの編物である、請求項1〜4のいずれかに記載のワイピング用布帛。
【請求項6】
布帛の厚みが、0.1〜5.0mmの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載のワイピング用布帛。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のワイピング用布帛を用いてなる、携帯電話、眼鏡、レンズ、液晶材料、大規模集積回路、電子情報材料、電子機器類、医薬品、医療用器具、食品、真珠、宝石、家具、および自動車部品からなる群より選択されるいずれかの用途に使用されるワイピング製品。

【公開番号】特開2010−209499(P2010−209499A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59453(P2009−59453)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】