説明

ワイヤガイド

【課題】溶接ワイヤスプール又はパックワイヤと溶接ワイヤ送給装置との間のワイヤ送給通路に配置されて、送給抵抗の増大を防止することができるワイヤガイドを提供する。
【解決手段】ワイヤ供給源2から送出された溶接ワイヤ3が入る溝12aを外周部に備えたガイドロール12を、送給に伴って従動回転可能にガイド本体11の基端側で保持する。ガイド本体11の先端側に、溶接ワイヤ3が送出される送出穴13が形成された挿通部材14を取り付け、挿通部材14の外周を送出穴13と平行な軸回りに回転可能に保持する保持部材16を設ける。ガイドロール12への溶接ワイヤ3の挿入角度が変化した場合に、挿入角度の変化に追従して、ガイド本体11が送出穴13と平行な軸回りに回転し、送給抵抗の増大を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤスプール又はパックワイヤと溶接ワイヤ送給装置との間に配置されるワイヤガイドの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
消耗電極式アーク溶接においては、溶接ワイヤスプールやパックワイヤ(以下、ワイヤ供給源とする)から、溶接ワイヤがワイヤガイドを通って溶接ワイヤ送給装置によって導出され、溶接トーチに送り込まれる。(例えば、特許文献1参照。)図6は、従来のワイヤガイドの部分断面図である。図6において、溶接ワイヤ送給装置1の内部に、モータ等によって回転する送給ロール1aと、送給ロール1aと対向して加圧ロール1bが配置されている。ワイヤ供給源2と溶接ワイヤ送給装置1との間に、ワイヤガイド50が取り付けられている。ワイヤガイド50は円筒状部材であり、内径部に送出穴53が形成され、送出穴53のワイヤ供給源側には、テーパ51が形成されている。溶接ワイヤ3は、ワイヤ供給源2から引き出され、ワイヤガイド50の送出穴53を通って、送給ロール1aと加圧ロール1bとで挟まれて加圧され図の左方向から右方向に送給されて、図示しない溶接トーチに導出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−30077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶接ワイヤ3がワイヤ供給源2から引き出されて送出穴53に挿入されるとき、ワイヤ供給源2において、ワイヤの巻始めから巻き終わりに至る巻径方向の変化や巻幅方向の変化によって、送出穴53への溶接ワイヤ3の挿入角度が変化する。このため、送出穴53のワイヤ供給源2側にはテーパ51が形成されている。しかし、溶接ワイヤ3がテーパ51及び送出穴53を通過するときに、送出穴53部で曲げやこすれが起こるため、送給抵抗が大きいという問題があった。また、ワイヤガイド50の送出穴53が溶接ワイヤ3によって摩耗して表面粗さが粗くなると、送給抵抗がさらに増大する。送出穴53での曲げやこすれにより、ワイヤガイド50の摩耗分や、溶接ワイヤ3の摩耗分が発生する。この摩耗粉が送出穴53に堆積すると、送出穴53の内径が小さくなり、送給抵抗がさらに増大する。このような送給抵抗の増大により、溶接ワイヤの送給が不安定となる問題があった。
【0005】
本発明は、ワイヤ供給源と溶接ワイヤ送給装置との間に設けられたワイヤガイドにおける送給抵抗の増大を防止することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、溶接ワイヤスプール又はパックワイヤと溶接ワイヤ送給装置との間のワイヤ送給通路に配置されたワイヤガイドにおいて、前記溶接ワイヤスプール又は前記パックワイヤから送出された溶接ワイヤが外接する溝を外周部に備えたガイドロールと、
基端側で、溶接ワイヤの送給に伴って回転可能に前記ガイドロールを保持するガイド本体と、
前記溶接ワイヤが前記ガイドロールに外接した後送出される送出穴が形成され、前記ガイド本体の先端側を前記送出穴と平行な軸回りに回転可能に保持する回転機構と、を備え、
前記ガイドロールへの前記溶接ワイヤの挿入角度が変化した場合に、前記挿入角度の変化に追従して前記ガイド本体が前記送出穴と平行な軸回りに回転することを特徴とするワイヤガイドである。
【0007】
第2の発明は、前記ガイド本体の基端側に、前記溶接ワイヤに対して前記ガイドロールと対向する位置に補助ガイドロールを備えたことを特徴とする、第1の発明に記載のワイヤガイドである。
【発明の効果】
【0008】
溶接ワイヤのガイドロールへの挿入角度が変化した場合に、挿入角度の変化に追従してガイドロール部が送出穴と平行な軸回りに回転するため、送給抵抗の増大を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1のワイヤガイドの使用状態図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1のワイヤガイドの部分断面図である。
【図3】図3は、図2のA−A断面部分拡大図であり、本発明の実施の形態1のワイヤガイドの動作を示す。
【図4】図4は、本発明の実施の形態2のワイヤガイドの部分断面図である。
【図5】図5は、本発明の実施の形態3のワイヤガイドの部分断面図である。
【図6】図6は、従来のワイヤガイドの部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施の形態1]
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図2は、本発明の実施の形態1のワイヤガイドの部分断面図である。図2において溶接ワイヤ送給装置1に備えられている送給ロール1a及び加圧ロール1bによって、溶接ワイヤ3が溶接トーチ(図示しない)側に送出される方向をX1方向、その逆をX2方向とする。X1方向に対して、直角上方向をZ1方向、直角下方向をZ2方向とする。
【0011】
溶接ワイヤ送給装置1とワイヤ供給源2との間に、保持部材16が備えられており、保持部材16の内径部には、ベアリング15を介して挿通部材14が取り付けられている。挿通部材14の内径部には、溶接ワイヤ3が挿通する送出穴13が備えられている。送出穴13の内径は、溶接ワイヤ3が接触しない大きさに設定されている。ガイド本体11の先端側に挿通部材14が一体に形成されており、ガイド本体11の基端側には、円筒状部材であるガイドロール12が回転可能に取り付けられている。ガイドロール12の外周には溶接ワイヤ3が入る溝12aが形成されている。
【0012】
ベアリング15の回転軸は、送出穴13の軸心と平行に設けられているため、ガイド本体11、挿通部材14及びガイドロール12が送出穴13の軸心と平行な軸回りに回転可能になっている。保持部材16、ベアリング15及び送出穴13が形成された挿通部材14によって回転機構10aが構成されている。
【0013】
ベアリング15の回転軸は、送出穴13の内径を通り、溝12aから離間した位置に設けることが望ましい。
【0014】
以下、動作を説明する。
図2に示すように、ワイヤ供給源2から引き出された溶接ワイヤ3は、ガイドロール12の溝12aに入って従動回転可能なガイドロール12に外接し、送出穴13を通って、溶接ワイヤ送給装置1に備えられた送給ロール1aと加圧ロール1bとで挟まれて送給され、溶接トーチ(図示しない)に送られる。送出穴13の内径は溶接ワイヤ3が接触しない大きさに設定されているので、ワイヤ供給源2から引き出された溶接ワイヤ3は、送出穴13にこすれることなく送給される。
【0015】
溶接ワイヤ3がワイヤ供給源2からから巻ほぐされてワイヤ残量が減ると、図2の二点鎖線で示すように、溶接ワイヤ3の引き出し位置がZ1方向に移動する。この場合でも、ワイヤ供給源2から引き出された溶接ワイヤ3は、ガイドロール12に外接して送出穴13を通って溶接ワイヤ送給装置1に送られるため、送出穴13にこすれることなく送給される。
【0016】
次に、溶接ワイヤ3の引き出し位置がワイヤ供給源2の幅方向に変化した場合の動作を説明する。図1は、本発明の実施の形態1のワイヤガイドの使用状態図である。図1において、X1−X2方向に直角な方向をY1−Y2方向とし、X1方向に向かって左側をY1方向とする。図1(b)は、溶接ワイヤ3がワイヤ供給源2から引き出されてガイドロール12の溝12aに入っていく方向が、X1−X2方向と平行な状態を示している。図1(a)は、溶接ワイヤ3がワイヤ供給源2のY1側から引き出されている状態、図1(c)は、溶接ワイヤ3がワイヤ供給源2のY2側から引き出されている状態を示す。
【0017】
溶接ワイヤ3のワイヤ供給源2からの引き出し位置が、図1(b)の状態からY1側に向かう場合のワイヤガイドの動作を図3によって説明する。図3は、図2のA−A断面部分拡大図である。図3(a)は、溶接ワイヤ3のワイヤ供給源2からの引き出し位置が図1(b)のときの、溶接ワイヤ3のガイドロール12の溝12aにおける位置を示す。図3において、P2は溶接ワイヤ3と溝12aとの接触点であり、P1はベアリング15(図2)の回転中心である。
【0018】
溶接ワイヤ3のワイヤ供給源2からの引き出し位置が、図1(b)の状態からY1側に向かい始めると、図3(b)に示すように、点P2で溶接ワイヤ3から溝12aにFなる力が作用する。これによって、ガイドロール12は点P1を中心にR1方向に回転し始めて、図3(c)に示すように、溶接ワイヤ3のワイヤ供給源2からの引き出し方向とガイドロール12の傾きが略一致したところでガイドロール12の回転は停止する。
【0019】
溶接ワイヤ3のワイヤ供給源2からの引き出し位置が、図1(b)の状態からY2側に向かう場合も同様に、ガイドロール12が溶接ワイヤ3の引き出し位置の変化に追従して点P1を中心に回転する。
【0020】
この結果、本発明の実施の形態1のワイヤガイドは、ワイヤ供給源2からから引き出された溶接ワイヤ3が、送給に伴って従動回転可能なガイドロール12でガイドされこすれることなく溶接ワイヤ送給装置1に送られる。これによって、送給抵抗の増大を防止することができる。
【0021】
本発明の実施の形態1のワイヤガイドは、ワイヤ供給源2のどの方向から溶接ワイヤが引き出されても、引き出し方向の変化に追従してガイドロール12が、送出穴13と平行な軸心回りに回転するので、溶接ワイヤ3がこすれることなく溶接ワイヤ送給装置1に送られる。これによって、送給抵抗の増大を防止することができる。
【0022】
[実施の形態2]
図4は、本発明の実施の形態2のワイヤガイドを示す部分断面図である。溶接ワイヤ送給装置1とワイヤ供給源2との間に、保持部材16が備えられており、保持部材16の基端側に挿通部材14が一体に形成されている。挿通部材14の内径部には、溶接ワイヤ3が挿通する送出穴13が備えられている。送出穴13の内径は、溶接ワイヤ3が接触しない大きさに設定されている。ガイド本体11の先端側内径部は、ベアリング15を介して挿通部材14の外周部に回転可能に取り付けられている。ガイド本体11の基端側には、円筒状部材であるガイドロール12が回転可能に取り付けられている。ガイドロール12の外周には溶接ワイヤ3が入る溝12aが形成されている。
【0023】
ベアリング15の回転軸は、送出穴13の軸心と平行に設けられているため、ガイド本体11、挿通部材14及びガイドロール12が送出穴13の軸心と平行な軸回りに回転可能になっている。保持部材16、ベアリング15及び送出穴13が形成された挿通部材14によって回転機構10aが構成されている。
【0024】
動作は実施の形態1のワイヤガイドと同様であるので、同機能に同符号を付し、説明を省略する。効果も実施の形態1のワイヤガイドと同様の効果を奏する。
【0025】
[実施の形態3]
図5は、本発明の実施の形態3のワイヤガイドの部分断面図である。実施の形態3は、実施の形態1におけるガイド本体11の基端側の幅をZ1方向に広げて、ガイドロール12と対向する位置に補助ガイドロール22を回転可能に設けたものである。
【0026】
図5では、補助ガイドロール22は、ガイドロール12と対向する位置に設けているが、補助ガイドロール22の外周が、ガイドロール12と送出穴13とを結ぶ直線に接する位置であれば、ガイドロール12の位置に対してX2方向にオフセットした位置に設けてもよい。
【0027】
補助ガイドロール22の外径はガイドロール12の外径と異なってもよい。補助ガイドロール22の質量はガイドロール12の質量とほぼ同じであることが望ましい。
【0028】
以下、動作を説明する。図5の二点鎖線で示すように、溶接ワイヤ3がワイヤ供給源2からから引き出される位置が、ガイドロール12の上端と送出穴13とを結ぶ直線よりZ1方向に移動した場合、溶接ワイヤ3は補助ガイドロール22に外接して、ガイドロール12の溝部12aに入る。
【0029】
実施の形態3では補助ガイドロール22を設けているため、ガイドロール12に対するワイヤ供給源2の位置がどこにあっても、溶接ワイヤ3がガイドロール12の溝部12aに入る。このため、実施の形態1より溶接ワイヤ3の引き出し位置の変化が大きなものにもガイドロール12が追従して、送出穴13と平行な軸回りにガイド本体11が回転するので、溶接ワイヤ3は送出穴13にこすれることなく送給され、送給抵抗の増大を防止できるという効果を奏する。
【0030】
補助ガイドロール22の質量をガイドロール12の質量と同じに形成すると、補助ガイドロール22とガイドロール12との、ベアリング15の回転中心回りの重力が釣り合う。従って、重力の影響を受けることがないため、実施の形態1よりもスムーズに、溶接ワイヤ3の引き出し方向の変化に追従して送出穴13と平行な軸回りにガイド本体11が回転する。このため、溶接ワイヤ3は送出穴13にこすれることなく送給され、送給抵抗の増大を防止できるという効果を奏する。
【0031】
従来、パックワイヤと溶接ワイヤ送給装置との間の送給通路としてコンジットケーブルが主に使われていたが、本発明のワイヤガイドをパックワイヤと溶接ワイヤ送給装置との間の送給通路複数個配置すれば、溶接ワイヤが送出穴にこすれることなくパックワイヤから溶接ワイヤ送給装置に送出でき、送給抵抗の増大を防止することができるという効果を奏する。
【0032】
本発明のワイヤガイドは、TIG溶接用フィラワイヤにも使用することができ、ワイヤをこすることなく送給できるので、送給抵抗の増大を防止することができるという効果を奏する。
【符号の説明】
【0033】
1 溶接ワイヤ送給装置
1a 送給ロール
1b 加圧ロール
2 ワイヤ供給源
3 溶接ワイヤ
11 ガイド本体
12 ガイドロール
12a 溝
12a 溝部
13 送出穴
14 挿通部材
15 ベアリング
16 保持部材
22 補助ガイドロール
50 ワイヤガイド
51 テーパ
53 送出穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤスプール又はパックワイヤと溶接ワイヤ送給装置との間のワイヤ送給通路に配置されたワイヤガイドにおいて、前記溶接ワイヤスプール又は前記パックワイヤから送出された溶接ワイヤが外接する溝を外周部に備えたガイドロールと、
基端側で、溶接ワイヤの送給に伴って回転可能に前記ガイドロールを保持するガイド本体と、
前記溶接ワイヤが前記ガイドロールに外接した後送出される送出穴が形成され、前記ガイド本体の先端側を前記送出穴と平行な軸回りに回転可能に保持する回転機構と、を備え、
前記ガイドロールへの前記溶接ワイヤの挿入角度が変化した場合に、前記挿入角度の変化に追従して前記ガイド本体が前記送出穴と平行な軸回りに回転することを特徴とするワイヤガイド。
【請求項2】
前記ガイド本体の基端側に、前記溶接ワイヤに対して前記ガイドロールと対向する位置に補助ガイドロールを備えたことを特徴とする、請求項1に記載のワイヤガイド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245559(P2012−245559A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121195(P2011−121195)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)