説明

ワイヤソー装置及び切断加工方法

【課題】揺動切断の際に発生するワイヤの局所的な張力変動を抑制する。
【解決手段】往復走行しながら揺動する切断用ワイヤ3に被加工物Wを押し付けて切断するワイヤソー装置1である。揺動するワイヤガイド支持部4や、ワイヤガイド支持部4に配置された一対のワイヤガイド2、2、切断用ワイヤ3を一対のワイヤガイド2、2に巻き付けることにより、これらワイヤガイド2、2の間に形成されるワイヤ群3a、切断用ワイヤ3の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ供給装置6とワイヤ巻取装置7、変位して被加工物Wをワイヤ群3aに押し付けるワーク保持部50、制御装置8を備える。制御装置8が、切断用ワイヤ3の走行速度を制御する走行速度制御手段8aと、切断用ワイヤ3の走行速度の増減に応じてワイヤガイド支持部4の揺動速度を増減制御する揺動速度制御手段8bとを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、シリコンインゴット等から薄板状の基板を切り出すのに用いられるワイヤソー装置及び切断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のワイヤソー装置では、離れて配置されたロール状のワイヤガイドの周囲に切断用ワイヤ(単にワイヤともいう)が螺旋状に巻き付けられている。そうすることで、ワイヤガイド間には略平行に並ぶワイヤ群が形成される。ワイヤは、前進と後退とを繰り返しながら往復走行する。走行するワイヤ群にシリコンインゴット等の被加工物(ワークともいう)を押し当てることにより、ワークから複数の基板を同時に切り出すことができる。
【0003】
ところが、切削が進むと、切削負荷が大きくなって切り粉も排出され難くなるため、ワイヤを揺動させながら切断する方法(揺動切断)が提案されている(特許文献1)。ワイヤを揺動させた場合、ワークとワイヤとの接触量が全体的に小さくなるため、切断速度が増大し、切り粉も排出され易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平01−171753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、揺動切断では、例えば、ワイヤの走行方向が逆転する際など、ワイヤの走行速度が増減する場合や、ワイヤの走行が一時的に停止する場合などに問題がある。
【0006】
すなわち、ワイヤにワークが押し付けられた状態で、ワイヤの走行速度が減少したり停止したりすると、揺動状態によっては、ワイヤに過度な張力が作用する、ワイヤが損傷する、ワークがワイヤに引っ掛かる等、ワイヤに異常が生じる虞がある。ワイヤに異常が生じると、切断不良が発生し易いし、最悪の場合にはワイヤが断線してしまう可能性もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、揺動切断の実行中にワイヤの走行速度が増減しても、ワイヤに異常が生じるのを抑制できるワイヤソー装置及び切断加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のワイヤソー装置は、往復走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断するワイヤソー装置である。前記被加工物が押し付けられる方向に対して略垂直な基準位置から所定の角度の範囲で揺動軸を中心に揺動するワイヤガイド支持部と、前記ワイヤガイド支持部に配置され、各々が互いに離れて前記揺動軸と平行な回転軸を中心に回転する一対のワイヤガイドと、1本の前記切断用ワイヤの中間部分を前記一対のワイヤガイドの周囲に螺旋状に巻き付けることにより、これらワイヤガイドの間に形成される略平行なワイヤ群と、前記切断用ワイヤの一方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ供給装置と、前記切断用ワイヤの他方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ巻取装置と、前記被加工物を支持し、変位して当該被加工物を前記ワイヤ群に押し付けるワーク保持部と、制御装置と、を備える。
【0009】
そして、前記制御装置が、前記切断用ワイヤの走行速度を制御する走行速度制御手段と、前記切断用ワイヤの走行速度の増減に応じて前記ワイヤガイド支持部の揺動速度を増減制御する揺動速度制御手段と、を有している。
【0010】
このような構成のワイヤソー装置によれば、ワイヤの走行速度の増減に応じてその揺動速度も増減するので、ワイヤの走行速度が低下している時にワイヤが大きく揺動変位することが抑制されるため、ワイヤの張力異常や、ワークへのワイヤの引っ掛かり等を効果的に防ぐことができる。
【0011】
特に、前記切断用ワイヤの走行方向が逆転する時の前記走行速度の増減に応じて前記揺動速度が増減するようにするとよい。
【0012】
切断処理中にはワイヤの前進と後退とが繰り返し行われるため、ワイヤの走行方向が逆転する工程が複数回発生する。その際、ワイヤの走行がいったん停止する時があり、また、その前後の前進走行及び後退走行のそれぞれにおいてワイヤの走行速度が増減するため、ワイヤに異常が生じ易い。従って、ワイヤの走行方向が逆転する時に、その走行速度の増減に応じて揺動速度が増減するようにすることで、ワークの切断処理中に発生し得るワイヤの異常を効果的に抑制できる。
【0013】
前記切断用ワイヤの走行が停止しているときには、前記ワイヤガイド支持部の揺動も停止するようにするのが好ましい。
【0014】
そうすれば、ワイヤが走行せず、切削が行われない状態でワイヤが揺動変位すること無くなるので、ワイヤの異常発生をよりいっそう安定して抑制できる。
【0015】
また、前記切断用ワイヤの走行が停止しているときには、前記ワイヤガイド支持部が前記基準位置に位置するのが好ましい。
【0016】
そうすれば、走行が停止したワイヤへのワークの押し付け状態が安定するため、ワイヤに偏った負荷が作用するのを回避できる。
【0017】
切断加工方法としては、往復走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断する切断加工方法であって、前記切断用ワイヤの走行速度の増減に応じて前記切断用ワイヤの揺動速度が増減するように自動制御する揺動速度制御工程を含むのが好ましい。そうすれば、簡単な操作で、ワイヤに異常が生じるのを安定して抑制することができるので、加工精度や生産性に優れる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のワイヤソー装置等によれば、揺動切断に起因して生じ得るワイヤの異常が効果的に抑制できるようになるので、高精度な切断加工を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態に係るワイヤソー装置の要部の全体構成を示す概略図である。
【図2】ワイヤソー装置の主要部の概略図である。
【図3】(a)、(b)は、往復走行を説明するための図である。
【図4】(a)はワイヤの走行速度の制御パターン、(b)は(a)に対応したワイヤガイド支持部等の揺動角度の制御パターン、(c)は(a)に対応したワイヤガイド支持部等の揺動速度の制御パターンを示す概略図である。
【図5】変形例のワイヤソー装置における制御パターンを示す概略図である。(a)はワイヤの走行速度の制御パターン、(b)は(a)に対応したワイヤガイド支持部等の揺動速度の制御パターンである。
【図6】変形例のワイヤソー装置における制御パターンを示す概略図である。(a)はワイヤの走行速度の制御パターン、(b)は(a)に対応したワイヤガイド支持部等の揺動速度の制御パターンである。
【図7】変形例のワイヤソー装置における制御パターンを示す概略図である。(a)はワイヤの走行速度の制御パターン、(b)は(a)に対応したワイヤガイド支持部等の揺動角度の制御パターン、(c)は(a)に対応したワイヤガイド支持部等の揺動速度の制御パターンである。
【図8】変形例のワイヤソー装置における制御パターンを示す概略図である。(a)、(b)はそれぞれ別の揺動角度の制御パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(ワイヤソー装置)
図1に、本実施形態のワイヤソー装置1を示す。このワイヤソー装置1は、例えば、半導体装置や太陽電池等の製造に用いられるシリコンインゴット等の柱状の被加工物(ワークWと称する)を、複数の薄板状の基板に切断するために使用される。ワイヤソー装置1には、ワイヤガイド2や切断用ワイヤ3、ワイヤガイド支持部4、ワイヤ供給装置6、ワイヤ巻取装置7、制御装置8、側壁プレート10、張力保持機構11、ワーク保持部50などが備えられている。
【0021】
側壁プレート10は、ワイヤソー装置1の加工領域を区画する壁体の一部であり、加工領域に面するその側面に円形に開口する貫通孔12を有している。貫通孔12の内側には、揺動円板91が配置されている。揺動円板91は、貫通孔12の中心を通る揺動軸A1回りに揺動変位する。
【0022】
揺動円板91の一方の側面(加工領域側)には、ワイヤガイド支持部4が固定されている。ワイヤガイド支持部4も揺動軸A1を中心に揺動変位する。ワイヤガイド支持部4は、揺動軸A1の方向に離れて対向する一対の支持壁4a,4aや、これら支持壁4aの一端に連なる連結壁4bなどで構成されている。ワイヤガイド支持部4における連結壁4bの反対側(ワークW側)に、一対のワイヤガイド2、2が配置されている。
【0023】
ワイヤガイド2は、円柱形状をしている。ワイヤガイド2の端部は両支持壁部4aに支持されていて、各ワイヤガイド2は互いに離れて並列している。ワイヤガイド2は、互いに同期して、揺動軸A1と平行な回転軸A2を中心に回転する。これら2つの回転軸A2を結ぶ線分の中点に揺動軸A1が位置している(図2参照)。
【0024】
揺動円板91の他方の側面(裏面側)には、ワイヤガイド駆動モータ20や揺動駆動モータ92が取り付けられている。揺動駆動モータ92の駆動によって揺動円板91は揺動し、ワイヤガイド駆動モータ20の駆動によってワイヤガイド2は回転する。揺動駆動モータ92及びワイヤガイド駆動モータ20は、制御装置8によって駆動制御されている。
【0025】
本実施形態では、切断用ワイヤ3(ワイヤ3ともいう)に、ワイヤ3の表面にダイヤモンド等の微細な砥粒が固着されている固定砥粒ワイヤが用いられている。1つのワイヤソー装置1に対し、例えば100m以上の長さの1本のワイヤ3が用いられる。一対のワイヤガイド2、2の間に略平行な複数のワイヤ3の列(ワイヤ群3aともいう)が形成されるように、ワイヤ3は一対のワイヤガイド2、2に螺旋状に巻き付けられている。
【0026】
具体的には、図2にも示すように、ワイヤ3の中間部分が、一対のワイヤガイド2、2の全体の周囲に繰り返し巻き掛けられ、両ワイヤガイド2の間に張り渡されている。ワイヤ3は、一方のワイヤガイド2(供給側ワイヤガイド2a)のワークW側を通って他方のワイヤガイド2(巻取側ワイヤガイド2b)まで張り渡され、巻取側ワイヤガイド2bに巻き掛けられている。巻取側ワイヤガイド2bに巻き掛けられたワイヤ3は、連結壁4b側を通って供給側ワイヤガイド2aまで張り渡され、供給側ワイヤガイド2aに巻き掛けられている。この状態が回転軸A2の方向に所定のピッチで繰り返し行われ、最後に巻取側ワイヤガイド2bのワークW側からワイヤ3が引き出されている。
【0027】
供給側ワイヤガイド2aから外方に引き出されたワイヤ3は、複数のプーリPに案内されて向きを変えながらワイヤ供給装置6まで延びている。巻取側ワイヤガイド2bから外方に引き出されたワイヤ3は、複数のプーリPに案内されて向きを変えながらワイヤ巻取装置7まで延びている。
【0028】
ワイヤ供給装置6には、供給側ボビン61や供給側アシストモータ62などが備えられている。ワイヤ供給装置6には、最初に、ワイヤ3の新線が巻装された供給側ボビン61が装着される。供給側アシストモータ62は、制御装置8と協働して供給側ボビン61を回転駆動し、ワイヤ3を巻き出したり巻き取ったりする。
【0029】
ワイヤ巻取装置7には、巻取側ボビン71や巻取側アシストモータ72などが備えられている。ワイヤ巻取装置7には、最初に、ワイヤ3が巻装されていない空の状態の巻取側ボビン71が装着される。巻取側アシストモータ72は、制御装置8と協働して巻取側ボビン71を回転駆動し、ワイヤ3を巻き取ったり巻き出したりする。
【0030】
本実施形態では、ワイヤ群3aがワイヤガイド2から離れないように、ワイヤガイド2から引き出されたワイヤ3が最初に巻き掛けられるプーリPは、軸方向から見て、ワークW側とは逆の方向に両ワイヤガイド2から離れて配置されている。
【0031】
ワイヤ3の張力を一定に保持制御するために、供給側ワイヤガイド2aとワイヤ供給装置6との間、及び巻取ワイヤガイド2bとワイヤ巻取装置7との間には、張力保持機構11が配設されている。張力保持機構11は、テンションアーム11aやテンションモータ11bなどで構成されている。
【0032】
テンションアーム11aは、その先端側にプーリPが回転自在に支持されており、その基端側がテンションモータ11bのシャフトに固定されている。テンションモータ11bは、ワイヤ3の張力に応じてテンションアーム11aを揺動変位させる。つまり、ワイヤ3の張力が変動すれば、それに応じてプーリPが変位し、ワイヤ3の張力は一定に保持される。
【0033】
このワイヤソー装置1では、回転方向を交互に変えてワイヤガイド駆動モータ20及び両アシストモータ62,72を駆動させることにより、ワイヤ供給装置6及びワイヤ巻取装置7のそれぞれにおいてワイヤ3の巻き出しとワイヤ3の巻き取りとが交互に繰り返し行われる。それにより、ワイヤ3は前進走行と後退走行とを繰り返す(往復走行)。
【0034】
図3に、往復走行を行っている状態を示す。同図の(a)が前進走行、(b)が後退走行である。
【0035】
前進走行では、供給側ボビン61から所定長さのワイヤ3が巻き出されて巻取側ボビン71に巻き取られる。本実施形態では、前進走行の期間中、ワイヤ3は一定の速度で走行するように制御されている。そして、所定長さのワイヤ3が移送されると、連続して後退走行が行われ、所定長さよりも短い長さ分だけ、巻取側ボビン71からワイヤ3が巻き出されて供給側ボビン61に再度巻き取られる。後退走行の期間中もワイヤは一定の速度で走行するように制御されている。この処理を交互に繰り返し行うことにより、ワイヤ3の新線部分は供給側ボビン61から順次繰り出され、ワイヤ3は、供給側ボビン61から巻取側ボビン71へと順次巻き取られていく。
【0036】
ワーク保持部50は、ワーク保持部材51やワーク昇降モータ52などで構成されていて、ワイヤガイド支持部4のワークW側に離れて配設されている。詳しくは、図2に示したように、軸方向から見て、揺動軸A1を通り、揺動角度が0の時の2つの回転軸A2を結ぶ線分に対して略垂直な延長線L上にワーク保持部材51が位置している。ワーク保持部材51の一端(テーブル51aともいう)はワイヤ群3aと対向していて、そのテーブル51aにワークWが着脱可能に支持されている。
【0037】
ワーク保持部材51の他端側に、ワーク昇降モータ52が配置されている。ワーク昇降モータ52は、制御装置8と協働し、ボールネジ機構(不図示)によってワーク保持部材51を延長線Lに沿って変位させる。
【0038】
制御装置8は、CPUやメモリ等のハードウエアと、メモリに実装された制御プログラム等のソフトウエアとで構成されている。制御装置8には、ワイヤガイド駆動モータ20やワーク昇降モータ52、供給側アシストモータ62,巻取側アシストモータ72、揺動駆動モータ92等が接続されていて、制御装置8はこれらを駆動制御している。
【0039】
図1に示したように、制御装置8には、速度制御プログラム8a(走行速度制御手段)や揺動制御プログラム8b(揺動速度制御手段)、変位制御プログラム8cが組み込まれている。
【0040】
変位制御プログラム8cは、ワーク昇降モータ52を駆動制御している。それにより、ワーク保持部材51やワークWはワイヤ群3aに向かって変位し、ワークWは切断されるまでワイヤ3に押し付けられる。
【0041】
速度制御プログラム8aは、ワイヤガイド駆動モータ20や供給側アシストモータ62,巻取側アシストモータ72を駆動制御している。それにより、ワイヤ3の前進走行と後退走行が交互に繰り返し行われ、ワイヤ3は次第に供給側ボビン61から巻取側ボビン71に巻き取られる。
【0042】
揺動制御プログラム8bは、揺動駆動モータ92を駆動制御している。それにより、揺動円板91が揺動し、揺動円板91とともにワイヤガイド支持部4やワイヤガイド2、ワイヤ群3aが揺動する。具体的には、図2に示したように、延長線Lに垂直な揺動角度0の基準位置から、時計回り及び反時計回りに所定の角度(θ)の範囲で、ワイヤガイド支持部4等は揺動軸A1を中心に揺動変位する。
【0043】
(切断加工方法)
このワイヤソー装置1では、ワークWをセットし、例えば、操作スイッチを操作してワイヤソー装置1を作動させることで、ワイヤガイド駆動モータ20等と制御装置8との協働により、ワークWの切断が完了するまでの一連の処理が自動的に実行される。
【0044】
まず最初に、テーブル51aにワークWがセットされる(ワーク支持工程)。具体的には、ワークWはその切断方向がワイヤ群3aと平行になるようにテーブル51aに取り付けられる。そうして、ワイヤソー装置1を作動させると、速度制御プログラム8aが実行される。その結果、ワイヤ供給装置6及びワイヤ巻取装置7においてワイヤ3の引き出し処理や巻き取り処理が行われ、これら処理に連動してワイヤガイド2も回転し、ワイヤ3は前進走行と後退走行を繰り返す(ワイヤ走行工程)。
【0045】
ワイヤ3の走行に連動して、ワイヤガイド支持部4等は、揺動制御プログラム8bによって自動的に揺動制御される(揺動制御工程)。
【0046】
そして、変位制御プログラム8cによってワーク昇降モータ52が自動的に駆動制御され、ワーク保持部材51及びワークWは、ワイヤ群3aに向かって変位する(変位制御工程)。走行するワイヤ群3aにワークWが接すると、一定の変位量でワークWはワイヤ群3aに押し付けられ、その摩擦抵抗によってワークWは切削される。切削時には、オイル供給装置(不図示)よりワークWの切削部位にオイルが供給される。ワークWが分断されるまで、ワイヤ3の走行制御やワイヤガイド支持部4等の揺動制御、ワークWの変位制御が自動的に実行される。
【0047】
ワークWが分断されるまでの間に、走行方向は複数回切り替わる。走行方向が切り替わる時には、ワイヤ3の走行方向が逆転するため、ワイヤ3の走行がいったん停止し、その前後の前進走行及び後退走行のそれぞれにおいてワイヤ3の走行速度が増減する。その際、ワイヤガイド支持部4等の揺動状態によっては、ワイヤ3に過度な張力が作用するなど、ワイヤ3に異常が生じる虞がある。
【0048】
そこで、このワイヤソー装置1では、ワイヤ3に異常が生じないように、ワイヤ3の走行速度の増減に応じてワイヤガイド支持部4等の揺動速度が増減するように制御されており、ワイヤ3に加わる負荷が低減されるようになっている。
【0049】
図4に、ワイヤ3の走行速度等の制御パターンの一例を示す。(a)はワイヤ3の走行速度の制御パターンであり、(b)は(a)のワイヤ3の走行速度に対応したワイヤガイド支持部4等の揺動角度の制御パターンであり、(c)は(a)のワイヤ3の走行速度に対応したワイヤガイド支持部4等の揺動速度の制御パターンである。なお、ワイヤ3の走行速度は、前進走行の方向を+の値、後退走行の方向を−の値で示してある(図2参照)。
【0050】
ワイヤソー装置1が作動すると、所定の走行速度になるまで一定の増速率で走行速度が増加する(増速制御)。そして、所定の走行速度になると、所定長さのワイヤ3が移送されるまでその走行速度が保持される(等速制御)。
【0051】
所定長さのワイヤ3が移送されると、一定の減速率で走行速度が減速する(減速制御)。そして、走行速度が0になって走行が停止すると、ワイヤ3の張力調整等のために所定時間、その状態が保持される(停止制御)。その後、走行方向が逆転して、先と同様に、増速制御、等速制御、減速制御、停止制御の順で走行速度が制御される。その後は、ワークWが切断されるまで、この一連の制御が繰り返し実行される。
【0052】
本実施形態のワイヤガイド支持部4等は、+θ〜−θの範囲を一定の周期で揺動するように制御されている。そして、停止制御される時には、ワイヤガイド支持部4等が基準位置で停止するように制御されている。
【0053】
具体的には、揺動制御プログラム8bには、走行が停止する時にワイヤガイド支持部4等が基準位置に戻るように、揺動の途中でも強制的に本来の揺動動作を止めて基準位置に戻す復帰プログラムが含まれている。停止時にワイヤガイド支持部4等を基準位置に戻すことで、走行が停止して切削できない状態にあるワイヤ群3aへのワークWの押し付け状態が安定するため、ワイヤ3に偏った負荷が作用するのを回避できる。
【0054】
揺動速度は、走行速度の増減に応じて増減するように制御されている。すなわち、走行速度の増速制御、等速制御、減速制御、停止制御の各々に同期して、揺動速度も増速制御、等速制御、減速制御、停止制御されている。具体的には、走行速度が低下すればそれに同調して揺動速度は低下する。そして、走行が停止すれば揺動速度も停止し、走行速度が増加すればそれに同調して揺動速度も増加する。そうすることで、ワイヤ3の走行速度が低下している時にワイヤ3が大きく揺動変位することが抑制されるため、ワイヤ3の張力異常や、ワイヤ3に固着された砥粒の脱落、ワークWへのワイヤ3の引っ掛かり等を効果的に防ぐことができる。
【0055】
(変形例)
ワイヤソー装置1の変形例を示す。本変形例のワイヤソー装置では、図5に示すように、走行速度や揺動速度の制御パターンが異なっている、本変形例では、所定時間走行を停止する停止制御は行われず、瞬間的に走行が停止して走行方向の逆転が連続的に行われる。この場合、揺動制御においては、停止制御を行ってもよいし、同図に示したように停止制御は行わずに、減速制御から増速制御への切り替えを連続的に行ってもよい。
【0056】
図6に、また別のワイヤソー装置1の変形例を示す。本変形例のワイヤソー装置では、走行方向が逆転するときに揺動速度が0にならず、ワイヤ3の走行が停止している時に揺動速度が所定の最低速度となるように制御されている。この制御パターンは、いったん停止すると動き出しに大きな力が必要になる、比較的大きな装置に有利である。なお、同図は停止制御の無い場合を示しているが、停止制御がある場合にも同様に適用できる。
【0057】
ワイヤ3の走行が停止しているときに、ワイヤガイド支持部4等は必ずしも基準位置に位置する必要はない。例えば、図7に示すように、停止制御の期間中、ワイヤガイド支持部4等が基準位置に位置せず、任意の位置で停止するように制御してもよい。すなわち、ワイヤガイド支持部4等は、走行が停止する時に位置した揺動角度で停止し、停止制御の期間が経過した後、その揺動角度から揺動制御が復帰する。
【0058】
本発明は、揺動角度の制御パターンが異なるワイヤソー装置にも適用できる。図8に、そのようなワイヤソー装置の一例を示す。(a)のワイヤソー装置では、前進走行の時には、0〜+θの範囲を一定の周期で揺動するように制御され、後退走行の時には、0〜−θの範囲を一定の周期で揺動するように制御されている。(b)のワイヤソー装置では、前進走行の時には、等速制御の期間中は+θの角度で保持されるように制御され、後退走行の時には、等速制御の期間中は−θの角度で保持されるように制御されている。
【0059】
本発明にかかるワイヤソー装置等は、上述した実施形態等に限定されず、それ以外の種々の構成をも包含する。例えば、本発明が適用可能なワイヤソー装置は、図1に示すワイヤソー装置に限られない。往復走行しながら揺動するワイヤにワークを押し当てて切断加工を行うタイプのワイヤソー装置に本発明は広く適用可能である。ワイヤガイドも3つ以上であってもよい。
【0060】
揺動速度の増減制御は、ワイヤの走行方向が逆転する時に限らない。前進走行や後退走行の途中でワイヤの走行速度を増減させる場合にも、その増減に応じて揺動速度を増減制御することができる。
【0061】
ワークWの形状(加工前の形状)も特に限定されるものではない。例えば、円柱状や直方体状等の様々な形状を持つワークWに本発明は広く適用可能である。ワークWの材質もシリコン等に限定されるものではない。切断用ワイヤは固定砥粒ワイヤに限らないが、ワークWがサファイアや炭化ケイ素(SiC)等の難削材の場合には固定砥粒ワイヤを用いるのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のワイヤソー装置及び切断加工方法は、シリコンインゴット等の切断に好適である。
【符号の説明】
【0063】
1 ワイヤソー装置
2 ワイヤガイド
3 切断用ワイヤ
4 ワイヤガイド支持部
6 ワイヤ供給装置
7 ワイヤ巻取装置
8 制御装置
8a 速度制御プログラム
8b 揺動制御プログラム
8c 変位制御プログラム
10 側壁プレート
11 張力保持機構
50 ワーク保持部
61 供給側ボビン
71 巻取側ボビン
P プーリ
W ワーク
A1 揺動軸
A2 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断するワイヤソー装置であって、
前記被加工物が押し付けられる方向に対して略垂直な基準位置から所定の角度の範囲で揺動軸を中心に揺動するワイヤガイド支持部と、
前記ワイヤガイド支持部に配置され、各々が互いに離れて前記揺動軸と平行な回転軸を中心に回転する一対のワイヤガイドと、
1本の前記切断用ワイヤの中間部分を前記一対のワイヤガイドの周囲に螺旋状に巻き付けることにより、これらワイヤガイドの間に形成される略平行なワイヤ群と、
前記切断用ワイヤの一方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ供給装置と、
前記切断用ワイヤの他方の端部側の巻き出し及び巻き取りが可能なワイヤ巻取装置と、 前記被加工物を支持し、変位して当該被加工物を前記ワイヤ群に押し付けるワーク保持部と、
制御装置と、
を備え、
前記制御装置が、
前記切断用ワイヤの走行速度を制御する走行速度制御手段と、
前記切断用ワイヤの走行速度の増減に応じて前記ワイヤガイド支持部の揺動速度を増減制御する揺動速度制御手段と、を有しているワイヤソー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
前記切断用ワイヤの走行方向が逆転する時の前記走行速度の増減に応じて前記揺動速度が増減するワイヤソー装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のワイヤソー装置において、
前記切断用ワイヤの走行が停止しているときには、前記ワイヤガイド支持部の揺動が停止するワイヤソー装置。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤソー装置において、
前記切断用ワイヤの走行が停止しているときには、前記ワイヤガイド支持部が前記基準位置に位置するワイヤソー装置。
【請求項5】
往復走行しながら揺動する切断用ワイヤに被加工物を押し付けて当該被加工物を切断する切断加工方法であって、
前記切断用ワイヤの走行速度の増減に応じて前記切断用ワイヤの揺動速度が増減するように自動制御する揺動速度制御工程を含む切断加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−240125(P2012−240125A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109054(P2011−109054)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】