説明

ワイヤハーネス保持クリップ、ワイヤハーネス、およびワイヤハーネスの製造方法

【課題】電線をいったんワイヤハーネス挿入空間に挿入したら簡単に飛び出さないようにしたワイヤハーネス保持クリップを提供する。
【解決手段】車体等に固定するためのアンカー突起2aを基部に備え、該アンカー突起の上部にワイヤハーネス保持部2cを有するワイヤハーネス保持クリップ2において、ワイヤハーネス保持部2cが、ワイヤハーネス挿入空間2gを画成すると共に、上からワイヤハーネスWを押し付けることで外側に撓み変形してワイヤハーネス挿入空間への入口を開き、それによりワイヤハーネス挿入空間へのワイヤハーネスの挿入を可能とし、ワイヤハーネスの挿入後は、先端2er、2fr同士が重なり合うことで前記入口を閉鎖する内側に湾曲した一対の側壁2e、2fを有するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスを車体などに固定することのできるワイヤハーネス保持クリップ、そのワイヤハーネス保持クリップを一体に備えた樹脂保護層付きのワイヤハーネス、および、該ワイヤハーネスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車に配索するワイヤハーネスを製造する場合、例えば、図11〜図14に示すように、配索治具板10上で配索冶具12に沿って電線群やサブワイヤハーネスW1、W2を順番に布線し、その後、布線された電線群やサブワイヤハーネスW1、W2をテープ巻きして結束したり、所要区間にプロテクタ101、103を取り付けたりして、一体のワイヤハーネスWH2を得ている。このように製造したワイヤハーネスを車体に固定する場合、簡単にワイヤハーネスを装着することのできるワイヤハーネス保持クリップを使うことがある。
【0003】
図15は特許文献1に記載された従来のワイヤハーネス保持クリップの構成を示している。このワイヤハーネス保持クリップ110は、基部にアンカー突起111を有し、そのアンカー突起111の上部に、ワイヤハーネス挿入空間117の底部を規定する2段の底壁112、113が設けられ、それら底壁112、113の幅方向両端から上に向かってワイヤハーネス挿入空間117の左右側部を規定する一対の側壁114が起立され、両側壁114の先端に、内側に折れ曲がって互いの先端間にワイヤハーネス挿入空間117への入口となる隙間を確保した接触保持片115が連設されている。そして、一対の接触保持片115は入口となる隙間に向かって下り傾斜しており、その隙間に向けてワイヤハーネスWを接触保持片115に押し付けることにより、接触保持片115の撓みを利用してワイヤハーネス挿入空間117にワイヤハーネスWを挿入することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−303412号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載された従来のワイヤハーネス保持クリップ110は、図15に示すように、ある程度の太さを有するワイヤハーネスWを挿入した場合は特に問題がないが、ワイヤハーネスの製造時に電線を1本1本挿入して、そのまま出来上がったワイヤハーネス上にワイヤハーネス保持クリップ110を残すような使い方をした場合に不具合を来す可能性があった。即ち、ワイヤハーネスの製造に際して、例えば、電線を1本1本ワイヤハーネス挿入空間117に挿入して行った場合、接触保持片115の先端間に隙間が開いているので、作業中、先に挿入した電線が外に飛び出してしまう可能性があり、生産性が悪くなるおそれがあった。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、電線をいったんワイヤハーネス挿入空間に挿入したら簡単に飛び出さないようにしたワイヤハーネス保持クリップ、そのワイヤハーネス保持クリップを一体に備えた樹脂保護層付きのワイヤハーネス、および、該ワイヤハーネスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 車体等に固定するためのアンカー突起を基部に備え、該アンカー突起の上部にワイヤハーネス保持部を有するワイヤハーネス保持クリップにおいて、
前記ワイヤハーネス保持部が、
ワイヤハーネス挿入空間を画成すると共に、上からワイヤハーネスを押し付けることで外側に撓み変形して前記ワイヤハーネス挿入空間への入口を開き、それにより該ワイヤハーネス挿入空間へのワイヤハーネスの挿入を可能とし、ワイヤハーネスの挿入後は、先端同士が重なり合うことで前記入口を閉鎖する内側に湾曲した一対の側壁を有するものであることを特徴とするワイヤハーネス保持クリップ。
【0008】
(2) 前記ワイヤハーネス保持部のワイヤハーネス貫通方向における少なくとも一端側に、前記一対の側壁から延長するように補助保持部が設けられており、
該補助保持部が、
前記両側壁から延びた該側壁と同一断面形状の延長壁に、ワイヤハーネス貫通方向に沿った切り込みを先端から基端に向けて入れることで、複数の短冊状の細幅片を形成すると共に、隣接する細幅片間にワイヤハーネスの太さに応じた幅のスリットを形成した簾状のものとして形成されていることを特徴とする上記(1)に記載のワイヤハーネス保持クリップ。
【0009】
(3) 電線束の外周に全周を覆うように樹脂保護層が設けられたワイヤハーネスにおいて、
前記樹脂保護層の中にインサート成形により、上記(1)又は(2)に記載のワイヤハーネス保持クリップの前記ワイヤハーネス保持部が埋設されることで、前記アンカー突起を外部に突出させた状態で前記ワイヤハーネス保持クリップが前記樹脂保護層と一体に設けられており、そのワイヤハーネス保持クリップの前記ワイヤハーネス保持部に支持されることにより、前記樹脂保護層の横断面の中心部に前記電線束が配置されていることを特徴とするワイヤハーネス。
【0010】
(4) 前記樹脂保護層が発泡体により構成されていることを特徴とする上記(3)に記載のワイヤハーネス。
【0011】
(5) 電線束の外周に全周を覆うように樹脂保護層が設けられたワイヤハーネスの製造方法において、
前記樹脂保護層を成形するための成形型のキャビティの内壁に保持穴を設け、その保持穴に、上記(1)又は(2)に記載のワイヤハーネス保持クリップの前記アンカー突起を嵌め込むことで、前記ワイヤハーネス保持クリップを支持すると共に、該ワイヤハーネス保持クリップの前記ワイヤハーネス保持部を前記キャビティの内部に臨ませ、そのワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス保持部に前記電線束を保持させることで、該電線束の外周と前記キャビティの内壁との間に該電線束の全周にわたる樹脂の充填隙間を確保し、その状態で前記成形型のキャビティの内部に樹脂を充填して前記樹脂保護層を成形することにより、前記アンカー突起を前記樹脂保護層から外部に突出させた状態のワイヤハーネス保持クリップが該樹脂保護層と一体化されたワイヤハーネスを得ることを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。
【0012】
上記(1)の構成のワイヤハーネス保持クリップによれば、内側に湾曲した一対の側壁の先端同士の重ね合わせ部分にワイヤハーネスを上から押し付けることで、両側壁を外側に撓ませてワイヤハーネス挿入空間への入口を開くことができ、そのままワイヤハーネスをワイヤハーネス挿入空間に挿入することができる。そして、ワイヤハーネスの挿入後は、外側に撓んだ側壁が内側に復元することでワイヤハーネス挿入空間の入口が閉鎖されるので、ワイヤハーネスの挿入作業中に、先にワイヤハーネス挿入空間に挿入してあるワイヤハーネスが外に飛び出してしまうのを防ぐことができる。従って、電線を1本1本ワイヤハーネス挿入空間に挿入してワイヤハーネスを製造する場合にも、挿入作業中の先に挿入した電線の飛び出しを防ぐことができ、ワイヤハーネスの生産性を高めることができる。
【0013】
上記(2)の構成のワイヤハーネス保持クリップによれば、電線を1本1本ワイヤハーネス挿入空間に挿入した場合、抜け出ようとする電線が補助保持部のスリットに引っ掛かることで、より抜け出しづらくなり、いったん挿入した電線の保持性を高めることができる。
【0014】
上記(3)の構成のワイヤハーネスによれば、樹脂保護層を成形する段階でワイヤハーネス保持クリップが樹脂保護層と一体化されているので、ワイヤハーネス保持クリップを後付けする必要がなく、生産性の向上が図れる。また、ワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス保持部で電線束を支持することにより、電線束が樹脂保護層の横断面の中心部に成形段階で外れないように配置されているので、樹脂保護層の成形時に電線束の全周に隈無く樹脂を行き渡らせることができ、電線束の露出部分を無くすことができる。従って、外部部品との干渉から電線束を確実に保護することができ、保護性能の向上が図れる。また、ワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス保持部が樹脂保護層に埋設されているだけで、その部分で樹脂保護層が途切れて隙間が開くわけではないので、樹脂保護層の連続化によるワイヤハーネスの剛性強化が図れ、クランプする箇所を減らすことができて、ワイヤハーネスを車体などに組み付ける際の組付性の向上が図れる。
【0015】
上記(4)の構成のワイヤハーネスによれば、電線束の外側を緩衝性を持つ樹脂保護層としての発泡体で覆うので、周辺部品との干渉や電線間の干渉による摩耗・異音の発生も無くせる。また、例えば、硬質の樹脂保護層で電線束を覆うようにした場合は、樹脂材と電線との間の固着力が大きくなるため、成形後の養生時に電線と樹脂材との膨張率差に起因して、樹脂材や電線に余計な応力が加わり、最悪の場合は、樹脂材が破損したり電線が断線したりするおそれがあるが、発泡体を電線束の外側にモールド成形した場合は、電線と発泡体との間に滑りを発生させて固着力を低く抑えることができるため、養生時に材料間に発生する膨張差を吸収することができ、熱膨張差による成形体の破損や電線の断線等の不具合の発生を防ぐことができる。
【0016】
上記(5)の構成のワイヤハーネスの製造方法によれば、成形型のキャビティの内壁に設けた保持穴に、ワイヤハーネス保持クリップのアンカー突起を嵌め込み、キャビティの内部に臨んだワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス保持部に電線束を保持させ、その状態で、成形型のキャビティの内部に樹脂を充填して樹脂保護層を成形することにより、アンカー突起を樹脂保護層から外部に突出させた状態のワイヤハーネス保持クリップを、電線束の外周を覆う樹脂保護層と一体的に有したワイヤハーネスを簡単に得ることができる。従って、ワイヤハーネス保持クリップを後付けする必要がなく、生産性の向上が図れる。また、ワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス保持部で電線束を支持することにより、電線束を樹脂保護層の横断面の中心部に配置することができるので、電線束の全周に隈無く樹脂を行き渡らせることができ、電線束の露出部分を無くすことができる。従って、外部部品との干渉から電線束を確実に保護することができ、保護性能の向上が図れる。また、ワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス保持部が埋設されているだけで、その部分で樹脂保護層が途切れて隙間が開くわけではないので、樹脂保護層の連続化によるワイヤハーネスの剛性強化が図れ、クランプする箇所を減らすことができて、ワイヤハーネスを車体に組み付ける際の組付性の向上が図れる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単にワイヤハーネスをワイヤハーネス挿入空間に挿入することができる。しかも、いったん挿入したワイヤハーネスを容易に飛び出さないように保持することができる。従って、電線を1本1本ワイヤハーネス挿入空間に挿入してワイヤハーネスを製造する場合にも、挿入作業中の先に挿入した電線の飛び出しを防ぐことができ、ワイヤハーネスの生産性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態のワイヤハーネス保持クリップの使用時の状態を示す正面図およびその拡大図である。
【図2】同ワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス挿入空間にワイヤハーネスを挿入する際の作用説明図で、(a)は挿入前の状態を示す図、(b)は挿入途中の状態を示す図、(c)は挿入後の状態を示す図である。
【図3】樹脂保護層を所要区間に設けたワイヤハーネスを製造する場合の製造工程の説明図である。
【図4】図3の次の工程の説明図である。
【図5】図4の次の工程の説明図である。
【図6】図5の次の工程の説明図である。
【図7】図6の次の工程の説明図である。
【図8】図7の次の工程の説明図である。
【図9】本発明の第2実施形態のワイヤハーネス保持クリップの外観斜視図である。
【図10】本発明の第3実施形態のワイヤハーネス保持クリップの外観斜視図である。
【図11】従来のワイヤハーネスの製造工程の説明図である。
【図12】図11の次の工程の説明図である。
【図13】図12の次の工程の説明図である。
【図14】図13の次の工程の説明図である。
【図15】従来のワイヤハーネス保持クリップの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1は実施形態のワイヤハーネス保持クリップの使用時の状態を示す正面図およびその拡大図である。
【0020】
このワイヤハーネス保持クリップ2は、車体等に固定するためのアンカー突起2aを基部に備えると共に、アンカー突起2aの上部にワイヤハーネス保持部2cを有している。アンカー突起2aとワイヤハーネス保持部2cとの間には、ワイヤハーネス保持部2cの高さを確保するための足部2bが設けられている。
【0021】
この場合のワイヤハーネス保持部2cは、足部2bの上に直接固定された底壁2dと、底壁2dの幅方向両端から上に向かって延設された一対の側壁2e、2fとからなる。一対の側壁2e、2fは、底壁2dと共にワイヤハーネス挿入空間2gを画成すると共に、図2(a)〜(c)に順に示すように、上からワイヤハーネス(電線、電線束)Wを押し付けることで外側に撓み変形してワイヤハーネス挿入空間2gへの入口を開き、それによりワイヤハーネス挿入空間2gへのワイヤハーネスWの挿入を可能とする。また、ワイヤハーネスWの挿入後は、先端2er、2fr同士が重なり合うことで、ワイヤハーネス挿入空間2gへの入口を閉鎖するように先端に行くほど内側に湾曲している。
【0022】
即ち、両側壁2e、2fは、湾曲部2ec、2fcより先端側の部分が内側に向けて突出しており、先端2er、2fr同士が僅かに重なり合っている。そして、重なり合っている部分の上側に、ワイヤハーネスWが上から押し付けられたときに、両側壁2e、2fを確実に外側に撓ませるための窪み2h(図1参照)が確保されている。
【0023】
このワイヤハーネス保持クリップ2によれば、内側に湾曲した一対の側壁2e、2fの先端2er、2fr同士の重ね合わせ部分にワイヤハーネスWを上から押し付けることで、両側壁2e、2fを外側に撓ませてワイヤハーネス挿入空間2gへの入口を開くことができ、そのままワイヤハーネスWをワイヤハーネス挿入空間2gに挿入することができる。そして、ワイヤハーネスWの挿入後は、外側に撓んだ側壁2e、2fが内側に復元することでワイヤハーネス挿入空間2gの入口が閉鎖されるので、ワイヤハーネスWの挿入作業中に、先にワイヤハーネス挿入空間2gに挿入してあるワイヤハーネスWが外に飛び出してしまうのを防ぐことができる。従って、電線を1本1本ワイヤハーネス挿入空間2gに挿入してワイヤハーネスを製造する場合にも、挿入作業中の先に挿入した電線の飛び出しを防ぐことができ、ワイヤハーネスの生産性を高めることができる。
【0024】
次に、このワイヤハーネス保持クリップ2を使用した実施形態のワイヤハーネスについて説明する。
【0025】
本実施形態のワイヤハーネスWH(図8)は、電線束(多数の被覆電線の束)の外周に電線束の全周を覆うように樹脂保護層1(図8)が設けられたものであり、更にはワイヤハーネスWHを車体パネルに固定するためのワイヤハーネス保持クリップ2が、樹脂保護層1と一体に形成されたものである。具体的には、樹脂保護層1の中に、インサート成形により、ワイヤハーネス保持クリップ2の足部2bとワイヤハーネス保持部2cとが埋設され、ワイヤハーネス保持クリップ2の基部のアンカー突起2aが、樹脂保護層1の外部に突出している。そして、そのワイヤハーネス保持クリップ2のワイヤハーネス保持部2cに電線束が保持されることにより、樹脂保護層1の横断面の中心部に電線束が配置されている。
【0026】
また、この場合の樹脂保護層1は、電線束の外側を全周にわたって覆うようにモールド成形された発泡体(以下、発泡体を符号1で示すこともある)によって構成されている。特に、この発泡体1は、ビーズ法により発泡成形されたものであり、例えば、ビーズ法ポリスチレンフォームよりなる。ビーズ法ポリスチレンフォームは、ポリスチレン樹脂と炭化水素系の発泡剤からなる原料ビーズを予備発泡させた後に、金型に充填し加熱することによって作られている。また、ビーズ法ポリスチレンフォーム以外に、ビーズ法ポリウレタンフォームやビーズ法ポリプロピレンフォーム等で代替することもできる。
【0027】
次に、実施形態のワイヤハーネスWHの製造方法について、図3〜図8を用いて説明する。
【0028】
まず、図3に示すように、配索治具12が設けられた配索治具板10の上に下型11をセットし、下型11の内部に図示略のワイヤハーネス保持クリップ2を配置する。ワイヤハーネス保持クリップ2の設置に際しては、図1に示すように、予め樹脂保護層(発泡体)1を成形するための下型(成形型)11のキャビティの底壁に、ワイヤハーネス保持クリップ2の基部のアンカー突起2aに対応した形状の保持穴11aを設けておき、その保持穴11aに、ワイヤハーネス保持クリップ2の基部のアンカー突起2aを嵌め込むことで、ワイヤハーネス保持クリップ2を支持すると共に、ワイヤハーネス保持クリップ2のワイヤハーネス保持部2cをキャビティの内部に臨ませる。
【0029】
そして、図4および図5に示すように、そのワイヤハーネス保持クリップ2のワイヤハーネス保持部2c(図4および図5では図示略)の上にサブワイヤハーネスW1、W2(電線束W)を順番に載せながら、樹脂保護層1を設ける範囲を下型11の内部に収容した状態で、配索治具板10上にサブワイヤハーネスW1、W2を配索し、配索したサブワイヤハーネスW1、W2(電線束W)を、図1に示すように、ワイヤハーネス保持部2cに保持させる。この際、図2(a)に示すように、上方から矢印Aのように電線束W(サブワイヤハーネスW1、W2)をワイヤハーネス保持クリップ2の側壁2e、2fの先端2er、2frの重ね合わせ部分に押し付けるだけで、図2(b)の矢印Bのように側壁2e、2fを外側に押し広げることができ、そのままワイヤハーネス挿入空間2gに電線束W(サブワイヤハーネスW1、W2)を挿入することができる。
【0030】
こうすることで、図1に示すように、電線束W(サブワイヤハーネスW1、W2)と下型11のキャビティの底壁との間に一定の隙間Hを確保することができ、それにより、電線束Wの外周とキャビティの内壁との間に、電線束Wの全周にわたる樹脂の充填隙間を確保することができるようになる。つまり、電線束Wをクリップ2によってキャビティ内に浮いた状態に支持することができる。なお、隙間Hの大きさは、ワイヤハーネス保持クリップ2の足部2bの高さを調節することで決定することができる。
【0031】
電線束W(サブワイヤハーネスW1、W2)を配索したら、次に図6に示すように、下型11の上に上型13を被せて、上型13と下型11を型締めする。型締めしたら、図7に示すように、成形材料20を、下型11と上型13で形成されるキャビティ(図示略)に充填する。ここでは、一次発泡させた原料ビーズを充填する。充填したら、必要に応じて、スチームをキャビティに導入し加熱する。加熱して発泡させたら、養生して冷却する。冷却が完了したら、図8に示すように、上型13を取り外し、下型11から、成形された発泡体(樹脂保護層)1を脱型させる。これにより、電線束Wの必要箇所が発泡体(樹脂保護層)1で覆われると共に、ワイヤハーネス保持クリップ2(図1参照)が一体化された実施形態のワイヤハーネスWHが得られる。
【0032】
このようにして製造したワイヤハーネスWHによれば、樹脂保護層1を成形する段階でワイヤハーネス保持クリップ2が樹脂保護層1と一体化されているので、ワイヤハーネス保持クリップ2を後付けする必要がなく、生産性の向上が図れる。
【0033】
また、ワイヤハーネス保持クリップ2のワイヤハーネス保持部2cで電線束Wを支持することにより、電線束Wが樹脂保護層1の横断面の中心部に配置されているので、樹脂保護層1の成形時に電線束Wの全周に隈無く樹脂を行き渡らせることができ、電線束Wの露出部分を無くすことができる。従って、外部部品との干渉から電線束Wを確実に保護することができ、保護性能の向上が図れる。
【0034】
また、ワイヤハーネス保持クリップ2のワイヤハーネス保持部2cが埋設されているだけで、その部分で樹脂保護層1が途切れて隙間が開くわけではないので、樹脂保護層1の連続化によるワイヤハーネスWHの剛性強化(自己形状の保持強度のアップ)が図れ、クランプする箇所を減らすことができて、ワイヤハーネスWHを車体に組み付ける際の組付性の向上が図れる。
【0035】
この場合、電線束Wの外側を緩衝性を持つ発泡体(樹脂保護層)1で覆うので、周辺部品との干渉や電線間の干渉による摩耗・異音の発生も無くすことができる。また、例えば、硬質の樹脂保護層で電線束を覆うようにした場合は、樹脂材と電線との間の固着力が大きくなるため、成形後の養生時に電線と樹脂材との膨張率差に起因して、樹脂材や電線に余計な応力が加わり、最悪の場合は、樹脂材が破損したり電線が断線したりするおそれがあるが、発泡体1を電線束Wの外側にモールド成形した場合は、電線束Wと発泡体1との間に滑りを発生させて固着力を低く抑えることができるため、養生時に材料間に発生する膨張差を吸収することができ、熱膨張差による成形体の破損や電線の断線等の不具合の発生を防ぐことができる。
【0036】
特に、発泡体1がビーズ法(一次発泡した米粒程度の大きさのビーズを金型内に敷き詰め、それを加熱し、二次発泡させる発泡方法)で発泡成形されている場合は、電線束Wの外表面の複雑で微細な凹凸に発泡体1が入りにくくなり、固着量を更に低く抑えることができる。
【0037】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0038】
例えば、上記実施形態では、成形型である下型11と上型13の材料については特に言及していないが、成形型の材料としては、金型、樹脂型、木型を使用することができる。また、ワイヤハーネス保持クリップ2の材料についても、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリウレタン等を選択することができる。この場合、ワイヤハーネス保持クリップ2は予め先に成形されている必要がある。また、発泡体1のモールド成形法についても、注入成形法の他に、射出成形法や圧縮成形法を選択することができる。
【0039】
次に別の実施形態のワイヤハーネス保持クリップについて説明する。図9は第2実施形態のワイヤハーネス保持クリップの外観斜視図である。
【0040】
このワイヤハーネス保持クリップ20は、車体等に固定するためのアンカー突起21を基部に備えると共に、アンカー突起21の上部にワイヤハーネス保持部23を有している。アンカー突起21とワイヤハーネス保持部23との間には、ワイヤハーネス保持部23の高さを確保するための足部22が設けられている。
【0041】
この場合のワイヤハーネス保持部23は、足部22の上に直接固定された底壁23dと、底壁23dの幅方向両端から上に向かって延設された一対の側壁23e、23fとからなる。一対の側壁23e、23fは、底壁23dと共にワイヤハーネス挿入空間23gを画成すると共に、上からワイヤハーネスを押し付けることで外側に撓み変形してワイヤハーネス挿入空間23gへの入口を開き、それによりワイヤハーネス挿入空間23gへのワイヤハーネスWの挿入を可能とする。また、ワイヤハーネスの挿入後は、先端23er、23fr同士が重なり合うことで、ワイヤハーネス挿入空間23gへの入口を閉鎖するように先端に行くほど内側に湾曲している。
【0042】
即ち、両側壁23e、23fは、湾曲部23ec、23fcより先端側の部分が内側に向けて突出しており、先端23er、23fr同士が僅かに重なり合っている。そして、重なり合っている部分の上側に、ワイヤハーネスが上から押し付けられたときに、両側壁23e、23fを確実に外側に撓ませるための窪み23hが確保されている。
【0043】
また、この実施形態のワイヤハーネス保持クリップ20のワイヤハーネス保持部23の一端側(つまり、ワイヤハーネスが貫通する方向における一端側)には、両側壁23e、23fから延長するように補助保持部25が設けられている。補助保持部25は、側壁23e、23fから延びた側壁23e、23fと同一断面形状の延長壁に、ワイヤハーネスの貫通方向に沿った切り込みを先端から基端に向けて入れることで、複数の短冊状の細幅片25aを形成すると共に、隣接する細幅片25a間に電線の太さに応じた幅のスリット25bを形成した簾状のものである。
【0044】
このように簾状に多数の細幅片25aとスリット25bを交互に配列した場合、各細幅片25aは個別に可撓性を発揮することができるので、電線をワイヤハーネス挿入空間23gに挿入した際に、抜け出ようとする電線がスリット25bに引っ掛かり、外に出て行きづらくなる。従って、補助的な電線保持機能を発揮することができる。
【0045】
図10に示す第3実施形態のワイヤハーネス保持クリップ30は、ワイヤハーネス保持部23の一端側と他端側の両方(つまり、ワイヤハーネスが貫通する方向における両端)に、両側壁23e、23fから延長するように前記と同様の機能を発揮する補助保持部25が設けられている。
【符号の説明】
【0046】
1 発泡体(樹脂保護層)
2 ワイヤハーネス保持クリップ
2a アンカー突起
2c ワイヤハーネス保持部
2e,2f 側壁
2er,2fr 先端
2g ワイヤハーネス挿入空間
11 下型(成形型)
11a 保持穴
13 上型(成形型)
20 ワイヤハーネス保持クリップ
23 ワイヤハーネス保持部
23e,23f 側壁
23er,23fr 先端
23g ワイヤハーネス挿入空間
25 補助保持部
25a 細幅片
25b スリット
WH ワイヤハーネス
W 電線、電線束、ワイヤハーネス
W1,W2 サブワイヤハーネス(電線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体等に固定するためのアンカー突起を基部に備え、該アンカー突起の上部にワイヤハーネス保持部を有するワイヤハーネス保持クリップにおいて、
前記ワイヤハーネス保持部が、
ワイヤハーネス挿入空間を画成すると共に、上からワイヤハーネスを押し付けることで外側に撓み変形して前記ワイヤハーネス挿入空間への入口を開き、それにより該ワイヤハーネス挿入空間へのワイヤハーネスの挿入を可能とし、ワイヤハーネスの挿入後は、先端同士が重なり合うことで前記入口を閉鎖する内側に湾曲した一対の側壁を有するものであることを特徴とするワイヤハーネス保持クリップ。
【請求項2】
前記ワイヤハーネス保持部のワイヤハーネス貫通方向における少なくとも一端側に、前記一対の側壁から延長するように補助保持部が設けられており、
該補助保持部が、
前記両側壁から延びた該側壁と同一断面形状の延長壁に、ワイヤハーネス貫通方向に沿った切り込みを先端から基端に向けて入れることで、複数の短冊状の細幅片を形成すると共に、隣接する細幅片間にワイヤハーネスの太さに応じた幅のスリットを形成した簾状のものとして形成されていることを特徴とする請求項1に記載のワイヤハーネス保持クリップ。
【請求項3】
電線束の外周に全周を覆うように樹脂保護層が設けられたワイヤハーネスにおいて、
前記樹脂保護層の中にインサート成形により、請求項1又は2に記載のワイヤハーネス保持クリップの前記ワイヤハーネス保持部が埋設されることで、前記アンカー突起を外部に突出させた状態で前記ワイヤハーネス保持クリップが前記樹脂保護層と一体に設けられており、そのワイヤハーネス保持クリップの前記ワイヤハーネス保持部に支持されることにより、前記樹脂保護層の横断面の中心部に前記電線束が配置されていることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項4】
前記樹脂保護層が発泡体により構成されていることを特徴とする請求項3に記載のワイヤハーネス。
【請求項5】
電線束の外周に全周を覆うように樹脂保護層が設けられたワイヤハーネスの製造方法において、
前記樹脂保護層を成形するための成形型のキャビティの内壁に保持穴を設け、その保持穴に、請求項1又は2に記載のワイヤハーネス保持クリップの前記アンカー突起を嵌め込むことで、前記ワイヤハーネス保持クリップを支持すると共に、該ワイヤハーネス保持クリップの前記ワイヤハーネス保持部を前記キャビティの内部に臨ませ、そのワイヤハーネス保持クリップのワイヤハーネス保持部に前記電線束を保持させることで、該電線束の外周と前記キャビティの内壁との間に該電線束の全周にわたる樹脂の充填隙間を確保し、その状態で前記成形型のキャビティの内部に樹脂を充填して前記樹脂保護層を成形することにより、前記アンカー突起を前記樹脂保護層から外部に突出させた状態のワイヤハーネス保持クリップが該樹脂保護層と一体化されたワイヤハーネスを得ることを特徴とするワイヤハーネスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−249427(P2012−249427A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119332(P2011−119332)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】