説明

ワイヤハーネス用のバンドクリップ

【課題】ワイヤハーネスのバンドクリップにおいて保持力を高める。
【解決手段】締結バンドを設けたワイヤハーネス取付部から突設する一対の支柱部の突出端を連結する架橋部に、幅方向の両側で且つ長さ方向に位相させて一対の羽根部を前記ワイヤハーネス取付部側の基部側に向けて折り返し状に突設し、各羽根部の外面に係止爪を設け、該係止爪を車体の取付穴の周縁に係止するバンドクリップにおいて、前記一対の羽根部の係止爪を前記隣接する支柱部側の外向きで且つ前記基部側に向けて傾斜させている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤハーネス用のバンドクリップに関し、詳しくは、自動車等に配索するワイヤハーネスに取り付けられて車体の取付穴にクリップを挿入係止するバンドクリップにおいて、ワイヤハーネスに斜め方向の引っ張り力が作用してクリップに回転モーメントが作用してもクリップが取付穴から離脱しないようにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のワイヤハーネス用のバンドクリップは種々提案されている。例えば、特開2010−151174号公報で本出願人が提案している図8に示すバンドクリップ100は、締結バンド102を本体103から突設したワイヤハーネス取付部101と、該ワイヤハーネス取付部101と一体成形したクリップ105とからなる。該クリップ105は本体103の外面に突設した皿部110から左右一対の支柱部111A、111Bを突設し、該一対の支柱部111Aと111Bの突出端を連結する架橋部112に、短手方向(幅方向)Yの両側で且つ長手方向Xで左右に位相させて一対の羽根部113A、113Bを基部側の皿部110に向けて折り返し状に突設し、各羽根部113A、113Bの外面にそれぞれ係止爪114A、114Bを設けている。また、羽根部113Aと113Bの隣接する内側端同士を連結する中央連結部116を設けている。
【0003】
前記バンドクリップ100は締結バンド102を図8(C)に示すようにワイヤハーネス120の電線群に巻き付けた後、本体103のバンド貫通穴103aに通し、締結バンド102に設けた係止溝102aにバンド貫通穴103aに突設した係止片を係止してワイヤハーネス120に締結している。ワイヤハーネス120を自動車の車体に沿って配索し、車体Pに予め設けている長円状の取付穴Hにクリップ105を挿入し、羽根部113A、113Bを取付穴Hに撓ませて押し込み、係止爪114A、114Bを取付穴Hの長手方向Xの周縁に係止して、取付穴Hに固定している。
【0004】
前記バンドクリップ100は羽根部113Aと113Bとを中央連結部116で連結しているため、ワイヤハーネス120に短手方向Yの引張力が作用し、羽根部113A、113Bが短手方向の一方側に傾く力が作用しても、中央連結部116による戻し方向の引張力で羽根部の傾きが抑制され、羽根部の係止爪による取付穴への係止力を保持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−151174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記バンドクリップ100に対して、図9に示すように、クリップ105の取付穴Hの鉛直方向Zに対して傾斜した引張力が作用すると、一対の羽根部113A、113Bの係止爪114A、114Bの取付穴Hに対する係止力のみで保持することになる。よって、ワイヤハーネス側からクリップ105に対して鉛直方向の強い引張力が作用すると、羽根部113A、113Bが互いに中心に向かって撓み、係止爪114A、114Bが取付穴Hの周縁から外れてクリップ105が取付穴Hから抜ける恐れがある。
【0007】
本発明は前記した問題に鑑みてなされたもので、バンドクリップに対して鉛直方向の引張力が負荷された場合に、クリップの取付穴に対する係止力を高め、取付穴からの離脱を防止することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明は、締結バンドを設けたワイヤハーネス取付部から突設する一対の支柱部の突出端を連結する架橋部に、短手方向の両側で且つ長手方向の左右に位相させて一対の羽根部を前記ワイヤハーネス取付部側の基部側に向けて折り返し状に突設し、各羽根部の外面に係止爪を設け、該係止爪を車体の取付穴の周縁に係止するバンドクリップにおいて、
前記一対の羽根部の係止爪を前記隣接する支柱部側の外向きで且つ前記基部側に向けて傾斜させていることを特徴とするワイヤハーネス用のバンドクリップを提供している。
【0009】
前記した羽根部の外面に設ける係止爪は、羽根部の外面にV形状の切込を設けて三角形状の係止爪としている。
前記のように、一対の羽根部の各係止爪を、隣接する支柱部側が基部側に向かうように傾斜(言わば、外下向き傾斜)させると、一対の羽根部の係止爪は同一方向に向けて傾斜する方向となる。係止爪を前記のように傾斜させると、鉛直方向の引張負荷がかかると、クリップに回転モーメントが発生し、羽根部は傾斜させた方向に倒れ隣接する外側の支柱部に押し当てられる。このように、クリップが引き抜かれる方向の鉛直方向の負荷が作用すると、羽根部が支柱部に向かって倒れ、支柱部に押し当てられるようにしているため、取付穴から抜き出るのを抑止でき、取付穴へのクリップの保持力を高めることができる。
【0010】
前記係止爪の傾斜角度は3゜〜10゜の範囲としていることが好ましい。
前記傾斜角度を3゜未満と傾斜角度を小さくすると、鉛直方向に引抜力が作用した時に羽根部に生じる回転モーメントは小さくなり支柱部へと倒れ込まなくなる。一方、傾斜角度を10゜以上とすると、通常の鉛直方向の係止状態で係止爪が取付穴の周縁に接触する面積が小さくなり、通常の係止力が小さくなるか、係止爪の支柱部側の外側部の挿入力が過大となる。
【0011】
前記各羽根部に上下複数段の前記係止爪を設け、これら複数段の係止爪は平行に傾斜させていることが好ましい。
このように、係止爪を複数段とすることで、取付穴を設けた車体の板厚に対応させることができる。
【0012】
前記ワイヤハーネス取付部は前記締結バンドを突設した本体部の外面に皿部を突設し、該皿部の底面より前記一対の支柱部を突設し、かつ、前記一対の羽根部は互いに近接内側端で且つ前記皿部側端を中央連結部で連結していることが好ましい。
前記した中央連結部を設けると、クリップに短軸方向の引張力が作用した時にクリップを取付穴から抜き出にくくできる。
【0013】
さらに、前記傾斜させる係止爪は、前記取付穴の周縁の裏面側に引っ掛かる突出量を支柱部側の外側を小さくすると共に内側に向けて漸次大としていることが好ましい。
これは、図10に示すように、バンドクリップ100の長手方向Xの引張力が負荷された時、クリップ105は長手方向Xに傾き、傾いた側の羽根部113Bの係止爪114Bがダレて内側縁Eが破損し、保持力が小さくなる問題がある。
この問題を解決するために、前記のように、破損し易い内側部分の突出量を予め大きくしておくことで、保持力を維持することができる。
【発明の効果】
【0014】
前記のように、本発明に係わるバンドクリップは羽根部に設ける係止爪を皿側の基部側へと外下向きに傾斜させているため、バンドクリップに鉛直方向の引抜力が作用した時に、羽根部に回転モーメントが発生し、羽根部を隣接する支柱部に押し当てるように倒すことができる。よって、係止爪が車体の取付穴の周縁から外れて、クリップが取付穴から抜けることを防止でき、クリップの保持力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態のバンドクリップの正面図である。
【図2】図1のバンドクリップのクリップを示し、(A)は拡大正面図、(B)は斜視図である。
【図3】図2(A)のIII−III線断面図である。
【図4】(A)は前記バンドクリップをワイヤハーネスに取り付けた状態の正面図、(B)は側面図、(C)は車体の取付穴へのクリップの係止状態を示す図面である。
【図5】(A)〜(C)は前記バンドクリップの鉛直方向の引張力が負荷された時の作用を示す図面である。
【図6】第2実施形態のバンドクリップの要部断面図である。
【図7】第2実施形態の作用を示す図面
【図8】(A)〜(C)は従来例を示す図面である。
【図9】従来例の問題点を示す図面である。
【図10】(A)(B)は他の従来例の問題点を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態のバンドクリップを図面を参照して説明する。
図1乃至図5に第1実施形態を示す。
バンドクリップ1は樹脂成形品からなり、ワイヤハーネス取付部2とクリップ3とを一体形成している。
【0017】
ワイヤハーネス取付部2は、バンド貫通穴5aを設けた四角筒状の本体5と、バンド貫通穴5aの出口側の本体5の下部から突設した締結バンド6を備え、締結バンド6の一面に係止溝6aを鋸歯状に設けている。図4に示すように、ワイヤハーネスW/Hを構成する電線群Wに巻き付けてバンド貫通穴5aの入口から挿入して貫通させ、バンド貫通穴5aの内面より突設した係止片5bを係止溝6aに係止してワイヤハーネスW/Hに固定するようにしている。
【0018】
クリップ3は前記本体5の外面に外周を湾曲させて突設した皿部10と、該皿部10の底面から突設した左右一対の支柱部11、12と、支柱部11と12の突出端を連結した架橋部13と、該架橋部13の短手方向(幅方向)Yの両側で且つ長手方向Xの左右に位相させて一対の羽根部14、15を皿部10側の基部側に向けて折り返し状に突設している。各羽根部14、15の外面に上下3段に係止爪16(16−1〜16−3)、17(17−1〜17−3)をそれぞれ設けている。
【0019】
前記各係止爪16、17は羽根部14、15の傾斜した外面をV状に切り欠いて三角形状の係止爪とし、係止爪16(17)の下面を車体Pの長円形状の取付穴Hの対向する長辺側の周縁の裏面に係止する引掛面としている。
【0020】
前記左右一対の支柱部11、12は長円形状の取付穴H内において、短辺側にそれぞれ内嵌する断面半円形状としている。該左右一対の支柱部11、12の対向する平坦面からなる内面11a、12aの間に、前記羽根部14、15を配置している。
羽根部14、15は、前記のように、長手方向Xで左右に位相させていると共に、近接する内側縁の間に隙間をあけ、一方の羽根部14は一方の支柱部11に近接させ、他方の羽根部15は他方の支柱部12に近接させている。また、羽根部14、15の内側縁の突出端側の基部側は幅方向の中央連結部18で連結している。
【0021】
羽根部14、15の各係止爪16、17を隣接する支柱部11、12側の外向きで且つ前記ワイヤハーネス取付部2の基部側に向けて傾斜させている。
詳細には、羽根部14の係止爪16の長手方向Xを水平方向とせず、隣接する支柱部11側が基部側に向くように傾斜させている(以下、この傾斜方向を外下向きと称す)。
同様に、羽根部15の係止爪17も長手方向Xを水平方向とせず、隣接する支柱部12側が基部側に向くように傾斜させている(以下、この傾斜方向を外下向きと称す)。
この一対の羽根部14の係止爪16、羽根部15の係止爪17を前記のように傾斜させると、図3に示すように、係止爪16、17の傾斜方向は同一方向となる。
【0022】
前記係止爪16、17の傾斜角度θは3゜〜10゜の範囲とし、本実施形態では5゜としている。また、羽根部14と支柱部11の隙間寸法および羽根部15と支柱部12の隙間寸法は同寸で0.3mm〜1mmで、本実施形態では0.6mmとしている。
【0023】
前記構成としたバンドクリップ1は図4に示すように、締結バンド6をワイヤハーネスW/Hを構成する電線群Wに巻き付け、本体5のバンド貫通穴5aに通し、バンド貫通穴5a内で係止溝6aに係止片を係止してワイヤハーネスW/Hに固定している。
該ワイヤハーネスW/Hを車体の配索経路に沿って配索し、車体Pに設けた長円形状の取付穴Hに前記バンドクリップ1のクリップ3を架橋部13側から押し込み、羽根部14、15の係止爪16、17を取付穴Hの内周縁に係止して固定している。
【0024】
詳細には、本実施形態では、最下段の係止爪16(16−1)が取付穴Hの対向する一方の長辺haの左側に係止し、最下段の係止爪17(17−1)が取付穴Hの対向する他方の長辺hbの右側に係止している。また、取付穴Hの左右の短辺側の円弧部の内面に沿って支柱部11、12が内嵌している。係止爪16、17はいずれも外下方向に傾斜させているため、係止爪16は支柱部11に隣接する外側部16uが取付穴Hの周縁に最も強い力で係止され、同様に係止爪17は支柱部12に隣接する外側部17uが取付穴の周縁に最も強い力で係止される。なお、係止爪16、17の傾斜角度は5゜程度とゆるやかにしているため、内側部16i、17iも取付穴Hの周縁にしっかりと係止される。
【0025】
前記のようにクリップ3が取付穴Hに係止している状態で、バンドクリップ1の締結バンド6で締結されたワイヤハーネスW/Hから図5に示すように、取付穴Hの鉛直方向Zの引張力が負荷され、クリップ3が取付穴Hから引き抜き方向に引っ張られる場合がある。その場合、係止爪16、17を外下向きに傾斜させているため、係止爪16、17に鉛直方向の引き抜き力が作用せず、図5(C)に示すように、傾斜させた方向に羽根部14、15を倒し込み、クリップ全体に回転モーメントが生じ、支柱部11、12は取付穴Hの周縁に押し当てられる。その結果、支柱部11、12と取付穴Hの周縁が干渉し、クリップ3が取付穴Hから外れるのを防止する。
【0026】
図6および図7に第2実施形態のバンドクリップを示す。
第2実施形態のバンドクリップでは、羽根部14、15に設けた係止爪16、17の突出量を長手方向Xの内外方向で均等とせず、内側部16i、17iを大とし、外側部16u、17uが小さくなるように円弧状(または傾斜状)としている。具体的には、係止爪16、17の従来の外形ライン(図中、二点鎖線で示す)に対して、内側部16i、17iは肉盛りして突出量を大とし、外側部16u、17uは削って突出量を小としている。 これにより、係止爪16、17が取付穴Hと係止した時、係止爪16、17の外側部の取付穴周縁との引掛量は少なくなるが、内側部16i、17iの引掛量を大としている。
【0027】
係止爪16、17は第1実施形態と同様に外下向きに傾斜させており、他の構成も第1実施形態と同様としている。
【0028】
前記のように、係止爪16、17の突出量を均等とせずに、支柱部11、12に近接する外側部16u、17uを予め小さくしておくと、バンドクリップ1が長手方向Xに引張られてクリップ3が長手方向Xに傾いた時、係止爪16、17の外側部16u、17uが取付穴Hの周縁で削られるのが防止できる。
【0029】
さらに、本発明のバンドクリップは前記第1、第2実施形態に限定されず、羽根部14、15とを連結する中央連結部を無くしても良いし、羽根部14、15の内外端縁に補強用突起を設けてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 バンドクリップ
2 ワイヤハーネス取付部
3 クリップ
5 本体
6 締結バンド
10 皿部
11、12 支柱部
14、15 羽根部
16、17 係止爪
W/H ワイヤハーネス
P 車体
H 取付穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結バンドを設けたワイヤハーネス取付部から突設する一対の支柱部の突出端を連結する架橋部に、短手方向の両側で且つ長手方向の左右に位相させて一対の羽根部を前記ワイヤハーネス取付部側の基部側に向けて折り返し状に突設し、各羽根部の外面に係止爪を設け、該係止爪を車体の取付穴の周縁に係止するバンドクリップにおいて、
前記一対の羽根部の係止爪を前記隣接する支柱部側の外向きで且つ前記基部側に向けて傾斜させていることを特徴とするワイヤハーネス用のバンドクリップ。
【請求項2】
前記係止爪の傾斜角度は3゜〜10゜の範囲としている請求項1に記載のワイヤハーネス用のバンドクリップ。
【請求項3】
前記ワイヤハーネス取付部は前記締結バンドを突設した本体部の外面に皿部を突設し、該皿部の底面より前記一対の支柱部を突設し、かつ、前記一対の羽根部は互いに近接内側端で且つ前記皿部側端を中央連結部で連結している請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス用のバンドクリップ。
【請求項4】
前記係止爪は、前記取付穴の周縁の裏面側に引っ掛かる突出量を前記支柱部側の外側を小さくすると共に内側に向けて漸次大としている請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のワイヤハーネス用のバンドクリップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−205409(P2012−205409A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68300(P2011−68300)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】