説明

ワイヤハーネス

【課題】クリップが片面粘着シートに対して容易に回転せず、クリップ回転による電線と他部品との干渉が防止できるワイヤハーネスを提供する。
【解決手段】シート穴21が形成され、折返し部25で折り返されることで特殊粘着剤層23同士が粘着固定される片面自己粘着シート28と、折返し部25に沿って特殊粘着剤層23同士の間に挟まれ、両端部が片面自己粘着シート28から導出される電線15と、シート穴21に挿通される弾性係止脚43が垂設された基板部37に規制辺部45が形成され、規制辺部45が折返し部25に沿わせられて片面自己粘着シート28に挟み込まれるクリップ17と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、テープ巻き作業を不要にし、所望のオフセット量に調整でき、作業効率の向上、製品品質の安定化、製品コストの低減、作業時間の短縮化を図ることができるワイヤハーネス用固定構造が提案されている(特許文献1参照)。
このワイヤハーネス用固定構造は、図6に示すように、車体パネルなどの被固定部材501に弾性係止脚503を係止する係止部材(クリップ)505と、係止部材505を保持し、熱収縮フィルムによって作られた固定用フィルム507とを有する。固定用フィルム507同士は、図7に示すように、互いに重ね合わされて固定され、電線であるワイヤハーネス509に熱収縮した状態で固定されている。このワイヤハーネス用固定構造によれば、係止部材505のワイヤハーネス509への固定作業と、ワイヤハーネス509と係止部材505との間のオフセット量の調整作業との2つの作業を一緒に行うことができるので、作業時間の短縮化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−259604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来のワイヤハーネス用固定構造は、係止部材505を固定用フィルム507へ取り付けた後、係止部材505が、固定用フィルム507に開けられた挿入孔の中で不所望に回転する可能性がある。そして、係止部材505が所定位置に対して回転した状態のワイヤハーネス509を被固定部材501へ取り付けた場合、ワイヤハーネス509が所定の取付角度以外で配索されてしまい、車体に取り付けられている他の部品と干渉し、ワイヤハーネス509に損傷を与える虞がある。
【0005】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、その目的は、クリップが片面粘着シートに対して容易に回転せず、クリップ回転による電線と他部品との干渉が防止できるワイヤハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
(1) シート穴が形成され、折返し部で折り返されることで粘着面同士が粘着固定される片面粘着シートと、前記折返し部に沿って前記粘着面同士の間に挟まれ、両端部が前記粘着シートから導出される電線と、前記シート穴に挿通される弾性係止脚が垂設された基板部に規制辺部が形成され、前記規制辺部が前記折返し部に沿わせられて前記片面粘着シートに挟み込まれるクリップと、を備えることを特徴とするワイヤハーネス。
【0007】
上記(1)の構成のワイヤハーネスによれば、シート穴に弾性係止脚が挿通された状態で、片面粘着シートが折返し部で折り返され、クリップの基板部に形成された規制辺部が折返し部に沿って配置される。すると、所定長さを有する規制辺部が、片面粘着シートの直線状の折返し部に沿って当接する。そこで、弾性係止脚を回転中心とした基板部の回転が規制され、クリップはシート穴の中で回転できない。クリップが片面粘着シートに対して回転しないことで、クリップを介して被固定部材に固定されたワイヤハーネスは、電線が車体の決められた位置に配置される。
【0008】
(2) 上記(1)の構成のワイヤハーネスであって、前記基板部には少なくとも一対の前記規制辺部が形成され、前記折返し部と反対側の前記規制辺部が、前記片面粘着シートを前記基板部の厚み分折り曲げて形成した段部に当接させられることを特徴とするワイヤハーネス。
【0009】
上記(2)の構成のワイヤハーネスによれば、一方の規制辺部が折返し部に当接させられた基板部における他方の規制辺部が、折返し部と反対側に折り曲げ形成された片面粘着シートの段部に当接させられる。これにより、クリップは、基板部の一対の規制辺部が貼り合わされた片面粘着シートの折返し部と段部とによって挟まれ、シート穴の中での回転が一層強固に規制される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るワイヤハーネスによれば、クリップが片面粘着シートに対して容易に回転しない状態で車体の所定位置に配索されるので、電線と、車体に組み付いている他部品との干渉を防止できる。
【0011】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るワイヤハーネスの平面図である。
【図2】図1に示したワイヤハーネスのII−II断面図である。
【図3】図1に示したワイヤハーネスのIII−III断面図である。
【図4】図1に示した片面粘着シートの取付形態を表した斜視図である。
【図5】図4に示したワイヤハーネスの変形例を表す斜視図である。
【図6】固定用フィルムが電線に固定される前の従来のワイヤハーネス用固定構造を表す斜視図である。
【図7】固定フィルムの固定された電線が係止部材で被固定部材に固定された従来のワイヤハーネス用固定構造を表す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて本発明の一実施形態に係るワイヤハーネスを詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るワイヤハーネス11は、片面自己粘着シート28と、電線15と、クリップ17と、を主要な部材として構成される。
【0014】
本実施形態で用いられる片面粘着シートとしての片面自己粘着シート28は、図2及び図3に示すように、自身の粘着面(裏面)同士を合わせることによってのみ貼り合わすことができる自己粘着シートである。つまり、糊や結束テープを不要にして粘着面(裏面)同士を合わせるだけで簡単に貼ることが可能となる。更に、片面自己粘着シート28は、特殊粘着剤層が電線15や作業者の手指などに貼り付くことがなく、組立作業性を低下させることがない。片面自己粘着シート28は、PP(ポリプロピレン)発泡材からなるシート基材26の表面に表面材24が積層され、裏面に特殊粘着剤層23が積層される。表面材24にはクラフト紙、ライナーボード、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、PPフィルム、不織布等が使用可能となる。引張強さは、タテ方向が49N/cm幅、ヨコ方向が23N/cm幅(JIS K−6767準拠)、引裂強さは、タテ方向が7.8N、ヨコ方向が6.8N(JIS K−6767準拠)、水蒸気透過率は0.0052g/cm・24hrs(FS−101B)、初期粘着力は2.5N/cm幅(T型剥離試験)等の特性を有する。この片面自己粘着シート28としては例えば米国クロウェル社製のCro−nel(登録商標)等を用いることができる。尚、本発明に係る片面粘着シートとしては、上記片面自己粘着シート28に限らず、シート基材の裏面に粘着剤層を積層した公知の粘着シートを用いることもできる。
【0015】
片面自己粘着シート28は、所定の大きさに切断され、図2に示すシート穴21を有し、片面19が特殊粘着剤層23となる。片面自己粘着シート28は、図3に示す折返し部25で折り返されることで、粘着面同士が粘着固定される。尚、本発明に係る片面粘着シートとしては、上記片面自己粘着シート28に限らず、シート基材の裏面に粘着剤層を積層した公知の粘着シートを用いることもできる。
【0016】
電線15には、導体を絶縁被覆した被覆電線が用いられる。電線15は、所定の本数が束ねられた状態で、電線一端部27及び電線他端部29(両端部)が片面自己粘着シート28から導出され、折返し部25で折り返されて貼り合わされた片面自己粘着シート28の粘着面同士の間に挟まれて固定される。この際、片面自己粘着シート28は、図3に示すように、束ねられた電線15の外周に沿うように隙間なく密着する。
【0017】
そこで、片面自己粘着シート28が用いられた場合、図3に示すシート中間貼合せ部31とシート端貼合せ部33とが接着固定されることで、電線15に密着して隙間なく固定される。また、一般的な片面粘着シートが用いられた場合には、粘着面が電線15の絶縁被覆にも接着して隙間なく接着固定される。
これら電線15の端末には不図示の車体に搭載された補機等と接続されるコネクタが取り付けられている。
【0018】
図1乃至図3に示すように、クリップ17は、長手方向両端に凸片35を有した長円形状の基板部37を有する。この他、基板部37は矩形状であってもよい。基板部37の一方の面には図2に示す一対の支軸39が立設され、その先端には一対の弾性係止爪41が形成される。そして、支軸39と弾性係止爪41とで構成され、基板部37の一方の面に垂設された弾性係止脚43は、片面自己粘着シート28のシート穴21に挿通される。
【0019】
図1に示すように、基板部37には規制辺部45が形成されている。規制辺部45は、長円形状の基板部37における長軸と平行な直線状の辺で形成される。尚、本実施形態では規制辺部45が直線状部であるが、規制辺部45は凹状曲線部であってもよい。例えば規制辺部45が凹状曲線部であった場合には、凹状曲線部の両端がこの規制辺部45に相当することとなる。クリップ17は、図1乃至図3に示すように、片面自己粘着シート28の折返し部25に規制辺部45を沿わせられて基板部37が片面自己粘着シート28に挟み込まれる。
【0020】
クリップ17は、基板部37に少なくとも一対の規制辺部45,46が形成されていることが好ましい。この場合、クリップ17は、図3に示すように、折返し部25と反対側の規制辺部46が、片面自己粘着シート28を基板部37の厚み分折り曲げて形成した段部47に当接させられる。折返し部25と反対側の規制辺部46を固定する片面自己粘着シート28は、段部47が規制辺部46に当接し、特殊粘着剤層23同士がシート中間貼合せ部31で接着固定されることになる。
【0021】
シート穴21に挿通される弾性係止脚43の支軸39は、ピッチ調整可能にシート穴21の穴径より小さいことが好ましい。この場合、シート穴21は、ピッチ調整の方向(電線15の長手方向)に長い長穴とすることができる。シート穴21に対してクリップ17が移動可能となることで、クリップピッチの微調整等が可能となる。但し、シート穴21の基本的な位置は、片面自己粘着シート28の外形成形時に、プレス加工等によって一体的に位置決めされる。これにより、従来の手作業によるクリップの取り付けに比べ極めて高い精度でクリップ位置が位置決めされるようになっている。
【0022】
次に、上記構成を有するワイヤハーネス11の作用を説明する。
シート穴21にクリップ17を取り付けた後、特殊粘着剤層23同士の間に電線15を挟んで片面自己粘着シート28を折返し部25で折り返す。すると、クリップ17の基板部37に形成された規制辺部45が、折返し部25に沿って配置される。そこで、折返し部25に沿って所定長さを有する規制辺部45は、片面自己粘着シート28の直線状の折返し部25に沿って当接する。そこで、クリップ17はシート穴21の中で図1中矢印方向へ回転できない状態となる。
【0023】
また、折返し部25と反対側の規制辺部46も、折返し部25と反対側に折り曲げ形成された片面自己粘着シート28の段部47に当接させられる。これにより、クリップ17は、基板部37の一対の規制辺部45,46が貼り合わされた片面自己粘着シート28の折返し部25と段部47とによって挟まれ、シート穴21の中での回転が一層強固に規制される。この際、段部47は粘着面同士が接合するシート中間貼合せ部31で強固に固定されている。また、これら一対の規制辺部45,46以外のクリップ17の周囲においても、特殊粘着剤層23同士が隙間なく密着しており、クリップ17は容易に回転できない状態になっている。
【0024】
更に、シート中間貼合せ部31のクリップ17と反対側には電線15が配置され、電線15は周囲が片面自己粘着シート28の特殊粘着剤層23同士で挟まれ、容易に動かない状態となっている。
このように、本実施形態に係るワイヤハーネス11では、シート穴21に弾性係止脚43が挿通された状態で、片面自己粘着シート28が折返し部25で折り返されると、クリップ17の基板部37に形成された規制辺部45が折返し部25に沿って配置される。すると、所定長さを有する規制辺部45が、片面自己粘着シート28の折返し部25に沿って当接する。そこで、弾性係止脚43を回転中心とした基板部37の回転が規制され、クリップ17はシート穴21の中で回転できない。クリップ17が片面自己粘着シート28に対して回転しないことで、クリップ17を介して被固定部材に固定されたワイヤハーネス11は、電線15が車体の決められた位置に配置される。
【0025】
また、本実施形態のワイヤハーネス11では、一方の規制辺部45が折返し部25に当接した基板部37における他方の規制辺部46が、折返し部25と反対側に折り曲げ形成された片面自己粘着シート28の段部47に当接させられる。これにより、クリップ17は、基板部37の一対の規制辺部45,46が貼り合わされた片面自己粘着シート28の折返し部25と段部47とによって挟まれ、シート穴21の中での回転が一層強固に規制される。
【0026】
図4は上述したワイヤハーネス11における片面自己粘着シート28の取付形態を表した斜視図である。
上述したワイヤハーネス11は、図4に示すように、電線15が所定間隔に配設された複数の片面自己粘着シート28で集束保持され、各片面自己粘着シート28にクリップ17が取り付けられている。この様に、クリップ17が電線15の中心軸線からオフセットされた位置に取り付けられた場合であっても、クリップ17は不所望に回転する虞がない。そこで、クリップ17を介して被固定部材に固定されたワイヤハーネス11は、車体の決められた位置に電線15を適正に配置することができる。このような取付形態は、特に片面自己粘着シート28が高価で使用量に制限がある場合に有効となる。
【0027】
また、図5に示すように、大きなサイズの片面自己粘着シート28に複数のクリップ17を取り付けることもできる。また、電線15の保持に直接関与しない部分を除去部49として切除して軽量化を図ることもできる。
【0028】
従って、本実施形態に係るワイヤハーネス11によれば、クリップ17が片面自己粘着シート28に対して容易に回転しない状態で車体の所定位置に配索されるので、電線15と、車体に組み付いている他部品との干渉を防止できる。
以上、本発明のワイヤハーネスを詳細にまた特定の実施形態を参照して説明したが、前述した各実施形態に限定されるものではなく、この他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。
【符号の説明】
【0029】
11…ワイヤハーネス
15…電線
17…クリップ
19…片面
21…シート穴
23…特殊粘着剤層(粘着面)
25…折返し部
27…電線一端部(両端部)
28…片面自己粘着シート(片面粘着シート)
29…電線他端部(両端部)
37…基板部
43…弾性係止脚
45…規制辺部
46…規制辺部
47…段部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート穴が形成され、折返し部で折り返されることで粘着面同士が粘着固定される片面粘着シートと、
前記折返し部に沿って前記粘着面同士の間に挟まれ、両端部が前記粘着シートから導出される電線と、
前記シート穴に挿通される弾性係止脚が垂設された基板部に規制辺部が形成され、前記規制辺部が前記折返し部に沿わせられて前記片面粘着シートに挟み込まれるクリップと、
を備えることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤハーネスであって、
前記基板部には少なくとも一対の前記規制辺部が形成され、前記折返し部と反対側の前記規制辺部が、前記片面粘着シートを前記基板部の厚み分折り曲げて形成した段部に当接させられることを特徴とするワイヤハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−38995(P2013−38995A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175129(P2011−175129)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】