説明

ワイヤボンドの接合構造及び接合方法

【課題】接合機との干渉を防止し、半導体モジュールの小型化を図ること。
【解決手段】ワイヤボンドの接合構造は、バスバ11,13を多段構造に構成し、バスバ11,13にワイヤ15,16を接合する。詳しくは、上段バスバ13及びそれを支持する上段支持部14を含む上段バスバ部材6が、下段バスバ11及びそれを支持する下段支持部12を含む下段バスバ部材5と別体に構成される。下段バスバ11と下段ワイヤ15とが接合され、上段バスバ部材6が下段バスバ部材5に固定され、その後に、上段バスバ13と上段ワイヤ16とが接合される。下段バスバ部材5の上面であって、下段バスバ11と下段ワイヤ15との接合部15aの近傍を除く領域に、上段バスバ部材6が固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体モジュール用ハウジングにてワイヤを接合するワイヤボンドの接合構造及び接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術として、例えば、下記の特許文献1に記載の半導体モジュールが知られている。この半導体モジュールでは、小型化のために、バスバと絶縁層をラミネート構造としていた。すなわち、半導体モジュールは、金属ベースと、金属ベース上に配置された絶縁基板と、絶縁基板上に配置された金属パターンと、金属パターン上に配置された複数の半導体素子と、金属ベース上に配置されたケーシングと、ケーシングに固定された出力端子と、ケーシングに固定された正極端子として機能する正極バスバと、ケーシングに固定され負極端子として機能する負極バスバとを備える。ここで、半導体モジュールは、正極バスバと負極バスバが絶縁層を挟んだラミネート構造を有し、かつ、ラミネート構造は半導体素子の上側に配置される。また、正極バスバと金属半導体パターンは金属ワイヤによって接続される。更に、負極バスバと半導体素子は、金属ワイヤによって接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−200306号公報
【特許文献2】特開2008−177292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の半導体モジュールでは、バスバや半導体素子と金属ワイヤとの接続部につき、特に小型化を図ることは考えられていなかった。
【0005】
ここで、インバータを小型化するためには、中に組み込まれる半導体モジュールを小型化する必要がある。半導体モジュールを小型化するためには、例えば、図14に示す半導体モジュール51において、ハウジング52に設けられる隣接するバスバ53,54を高さを変えて多段に配置し、それらに対して下段ワイヤ56と上段ワイヤ57を上下に配置して接合することで、省スペース化を図ることが考えられる。下段バスバ53は下段支持部55aに支持され、上段バスバ54は上段支持部55bに支持される。下段支持部55aと上段支持部55bは、階段状に一体に形成される。しかし、上段バスバ54が、下段バスバ53と下段ワイヤ56との接合部56aに接近して配置されると、接合機を使用して下段ワイヤ56を下段バスバ53に接合するときに、接合機が上段支持部55bと干渉するおそれがある。このため、上段バスバ54を下段ワイヤ56の接合部56aに近付けることができない。この結果、図14に示すように、上段支持部55bの前端(紙面左側)を、下段ワイヤ56の接合部56aから充分な間隔D1だけ離さなければならない。
【0006】
図15〜20には、接合機61を使用したワイヤボンドの接合プロセスを側面図により示す。先ず、図15に示すように、ワイヤ62をガイド63で斜めに保持しながらワイヤ62の先端の第1接合部62aをツール64により配線層65上に接合する。次に、図16に示すように、ガイド63をワイヤ62に沿わせながら、接合機61を第2接合部62b(図17参照)へ向けて斜め上方へ移動させる。このとき、第1接合部62aを起点にして第1接合部62aと第2接合部62b(図17参照)との中間くらいが最高点となるようにループを描く。その後、図17に示すように、ワイヤ62の一部をガイド63で斜めに保持しながらツール64により第2接合部62bを配線層65の上に接合する。次に、図18に示すように、接合機61を所定距離D2だけ後退させてカッタ66を切断点まで移動させる。すなわち、カッタ66の先端が第2接合部62bより後方になるまで後退させる。次に、図19に示すように、カッタ66によりワイヤ62を切断する。このとき、後方の障害物67がガイド63に干渉しないようにする必要がある。その後、図20に示すように、次の接合点へ向けて接合機61を移動させる。このとき、後方の障害物67が接合機61の軌跡を邪魔しないようにする必要がある。
【0007】
ここで、上記した第2接合部62bが、上記した下段バスバ53と下段ワイヤ56との接合部56aに相当する。第2接合部62bに接合した後、図18に示すように、接合機61が後退し、カッタ66の当接点が第2接合部62bより手前になるように一旦後退する。そして、ワイヤ62を切断後、図20に示すように、接合機61は、次の接合点へ向けて斜め上方へ後退する。このとき、第2接合部62bの後方には、図18に示すように、ワイヤ62の切断のために接合機61が後退できるスペースと、図19に示すように、切断点で接合機61のガイド63に高さのある障害物67が干渉しないようにしなければならない。更に、図20に示すように、次の接合点に向かうために後退軌跡を確保できるように高さのある障害物67が接合機61と干渉しないようなクリアランスを確保しなければならない。
【0008】
この発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、半導体素子とバスバを多段構造に接合し、前記バスバにワイヤを接合するワイヤボンドにつき、接合機との干渉を防止することを可能としたワイヤボンドの接合構造及び接合方法を提供することにある。また、この発明の別の目的は、上記目的に加え、半導体モジュールの小型化を図ることを可能としたワイヤボンドの接合構造及び接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、バスバを多段構造に構成し、バスバにワイヤを接合するワイヤボンドの接合構造において、上段バスバ及びそれを支持する上段支持部を含む上段バスバ部材が、下段バスバ及びそれを支持する下段支持部を含む下段バスバ部材と別体に構成され、下段バスバと下段ワイヤとが接合され、前記上段バスバ部材が前記下段バスバ部材に固定され、前記上段バスバと上段ワイヤとが接合されたことを趣旨とする。
【0010】
上記発明の構成によれば、下段バスバと下段ワイヤとを接合した後に、上段バスバ部材を下段バスバ部材に固定し、その後に、上段バスバと上段ワイヤとを接合することにより、先に、下段ワイヤを下段バスバに接合するときに、上段バスバ部材が存在しなくなる。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、下段バスバ部材の上面であって、下段バスバと下段ワイヤとの接合部の近傍を除く領域に、上段バスバ部材が固定されたことを趣旨とする。
【0012】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、先に下段バスバに接合した下段ワイヤとの接合部に近寄らせて、上段バスバ部材を下段バスバ部材に固定することが可能となる。
【0013】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、下段バスバ部材の上面に上段バスバ部材が固定されると共に、上段支持部の一部であって、下段バスバ部材との密着面に、下段ワイヤとの干渉を避けるための凹部が形成されたことを趣旨とする。
【0014】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、下段バスバと下段ワイヤとの接合部に凹部を整合させて覆うように、別体の上段バスバ部材を下段バスバ部材に固定することが可能となる。
【0015】
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、上段支持部の凹部の中に、少なくとも一つの脚部が設けられたことを趣旨とする。
【0016】
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、脚部が下段バスバ部材の上面に当接して上段支持部の凹部の上壁が支持される。
【0017】
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、下段ワイヤの代わりに、下段バスバの一部を延長した延長バスバが設けられたことを趣旨とする。
【0018】
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、ほぼ完全に下段バスバを覆うように、別体の上段バスバ部材を下段バスバ部材の上面に固定することが可能となる。
【0019】
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、バスバを多段構造に構成し、バスバにワイヤを接合するワイヤボンドの接合方法において、上段バスバ及びそれを支持する上段支持部を含む上段バスバ部材を、下段バスバ及びそれを支持する下段支持部を含む下段バスバ部材と別体に構成し、下段バスバと下段ワイヤとを接合した後に、上段バスバ部材を下段バスバ部材に固定し、その後に、上段バスバと上段ワイヤとを接合することを趣旨とする。
【0020】
上記発明の構成によれば、下段バスバと下段ワイヤとを接合した後に、上段バスバ部材を下段バスバ部材に固定し、その後に、上段バスバと上段ワイヤとを接合することにより、先に、下段ワイヤを下段バスバに接合するときに、上段バスバ部材が存在しなくなる。また、先に下段バスバに接合した下段ワイヤとの接合部に近寄らせて、上段バスバ部材を下段バスバ部材に固定することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、バスバを多段構造に構成し、バスバにワイヤを接合するワイヤボンドにつき、下段ワイヤを下段バスバに接合するときに、接合機の上段バスバ部材との干渉を防止することができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、上段バスバ部材と下段バスバ部材をコンパクトに合体させることができ、半導体モジュールを小型化することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に対し、上段バスバ部材と下段バスバ部材をよりコンパクトに合体させることができ、これにより省スペース化を図ることができ、半導体モジュールを更に小型化することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に対し、上段バスバ部材に上から荷重がかかったときに、凹部の上壁の強度を高めることができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に対し、上段バスバ部材と下段バスバ部材をよりコンパクトに合体させることができ、これにより省スペース化を図ることができ、半導体モジュールを更に小型化することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明によれば、バスバを多段構造に構成し、バスバにワイヤを接合するワイヤボンドにつき、下段ワイヤを下段バスバに接合するときに、接合機との干渉を防止することができ、半導体モジュールの小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態に係り、ワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュールを一部破断して示す斜視図。
【図2】同実施形態に係り、ワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュールを一部破断して示す分解斜視図。
【図3】第2実施形態に係り、ワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュールを一部破断して示す斜視図。
【図4】同実施形態に係り、ワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュールを一部破断して示す分解斜視図。
【図5】第3実施形態に係り、ワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュールを一部破断して示す斜視図。
【図6】同実施形態に係り、ワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュールを一部破断して示す分解斜視図。
【図7】第2実施形態に係り、ワイヤボンドの接合構造の一部を示す断面図。
【図8】第3実施形態に係り、ワイヤボンドの接合構造の一部を示す断面図。
【図9】第4実施形態に係り、ワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュールを一部破断して示す斜視図。
【図10】同実施形態に係り、ワイヤボンドの接合構造の一部を示す断面図。
【図11】同実施形態に係り、ワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュールを一部破断して示す分解斜視図。
【図12】同実施形態に係り、ワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュールを一部破断して示す分解斜視図。
【図13】別の実施形態に係り、ワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュールを一部破断して示す分解斜視図。
【図14】従来例に係り、ワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュールを一部破断して示す斜視図。
【図15】従来例に係り、接合機を使用したワイヤの接合のための一工程を示す側面図。
【図16】従来例に係り、接合機を使用したワイヤの接合のための一工程を示す側面図。
【図17】従来例に係り、接合機を使用したワイヤの接合のための一工程を示す側面図。
【図18】従来例に係り、接合機を使用したワイヤの接合のための一工程を示す側面図。
【図19】従来例に係り、接合機を使用したワイヤの接合のための一工程を示す側面図。
【図20】従来例に係り、接合機を使用したワイヤの接合のための一工程を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態>
以下、本発明におけるワイヤボンドの接合構造及び接合方法を具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0029】
図1に、この実施形態のワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュール1を一部破断して斜視図により示す。図2に、この実施形態のワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュール1を一部破断して分解斜視図により示す。図1に示すように、この実施形態におけるワイヤボンドの接合構造は、放熱板2の上に絶縁材料よりなるハウジング3が固定される。ハウジング3と放熱板2は、シリコーン接着剤又はエポキシ接着剤により接合される。ハウジング3と放熱板2は、接着材の他に、ネジなどの締め付けにより接合することもできる。ハウジング3は、熱可塑性樹脂等の樹脂より形成され、絶縁性を有する。
【0030】
図1に示すように、ハウジング3は、外枠部4と、その内側に外枠部4と直交する方向に伸びる下段バスバ部材5と、下段バスバ部材5とは別体に構成され、下段バスバ部材5の上に固定される上段バスバ部材6とを備える。下段バスバ部材5の高さは、外枠部4の高さの半分程度となっている。下段バスバ部材5は、下段バスバ11及びそれを支持する下段支持部12を含む。下段バスバ11は、下段支持部12の上面と面一になるようにインサート成形される。上段バスバ部材6は、上段バスバ13及びそれを支持する上段支持部14を含む。上段バスバ13は、上段支持部14の上面と面一になるようにインサート成形される。上段バスバ13の一端部は、階段形状に折り曲げられて接続端子13aとなっている。この接続端子13aは、外枠部4の上面に凹み形成された端子台4a(図2参照)に嵌め込まれ、固定される。この接続端子13aは、端子台4aに対し、ネジにより固定されるようになっている。この接続端子13aを、ネジの他に、嵌合により、又は接着により固定することもできる。この端子台4aに隣接して外枠部4には、別の端子台4bが設けられる。各端子台4a,4bには、ナット(図示略)が埋め込まれ、外部のバスバと孔を使ってネジで締結されるようになっている。下段バスバ11及び上段バスバ13は、導電性の良いアルミ又は銅、或いはアルミ及び銅の合金により形成される。腐食防止のために、各バスバ11,13に、ニッケル等のメッキを施すこともできる。
【0031】
図1に示すように、下段バスバ部材5に隣接して、放熱板2の上には、積層体7が固定される。この積層体7は、下から順に積層された接合層21、金属接合層22、絶縁層23、配線層24、接合層25及び半導体素子26により構成される。半導体素子26は、配線層24の上面の前側(図1紙面左側)に接合層25を介して接合される。
【0032】
配線層24の上面の後側(図1紙面右側)の部分と下段バスバ11には、一対の下段ワイヤ15の両端部がそれぞれ接合される。すなわち、2本の下段ワイヤ15の一端部が配線層24の上面に接合され、その他端部が下段バスバ11の上面に接合される。更に、半導体素子26の上面と上段バスバ13には、一対の下段ワイヤ15を覆うように、一対の上段ワイヤ16の両端部がそれぞれ接合される。すなわち、2本の上段ワイヤ16の一端部が半導体素子26の上面に接合され、その他端部が上段バスバ13の上面に接合される。各ワイヤ15,16の接合には、超音波接合を使ったワイヤボンド、リボンボンド、テープボンド、或いは、レーザ用着が採用される。この実施形態では、下段バスバ11と下段ワイヤ15とが接合され、上段バスバ部材6が下段バスバ部材5に固定され、上段バスバ13と上段ワイヤ16とが接合される。
【0033】
この実施形態では、下段バスバ部材6の上面であって、下段バスバ11と下段ワイヤ15との接合部15aの近傍を除く領域に、上段バスバ部材6が固定される。詳しくは、下段バスバ部材5の上面であって、下段バスバ11と下段ワイヤ15との接合部15aよりも後側(図1紙面右側)だけに、上段バスバ部材6が固定される。これにより、下段バスバ部材5と上段バスバ部材6とが、階段状に組み合わされる。この固定状態では、下段バスバ11の一部に上段バスバ部材6が重なり、その上段支持部14の上面に上段バスバ13が位置する。
【0034】
ここで、図2により、ワイヤボンドの接合方法について説明する。この実施形態では、配置高さの異なる下段ワイヤ15と上段ワイヤ16との接合において、上段バスバ部材6を下段バスバ部材5と別体に構成し、下段バスバ11と下段ワイヤ15とを接合した後に、上段バスバ部材6を下段バスバ部材5の上面に固定し、その後に、上段バスバ13と上段ワイヤ16とを接合するようにしている。
【0035】
従って、この実施形態によれば、先に、下段ワイヤ15を下段バスバ11に接合するときに、上段バスバ部材6が存在しなくなる。この結果、下段ワイヤ15を下段バスバ11に接合するときに、接合機(図示略)の上段バスバ部材6との干渉を防止することができる。また、先に下段バスバ11に接合した下段ワイヤ15の接合部15aに近寄らせて、上段バスバ部材6を下段バスバ部材5の上面に固定することが可能となる。この結果、上段バスバ部材6と下段バスバ部材5をコンパクトに合体させることができ、半導体モジュール1を小型化することができる。
【0036】
また、この実施形態では、接合部15aに近寄らせて上段バスバ部材6を下段バスバ部材5に固定できるので、上段バスバ部材6を半導体素子26に近付けることができる。このため、上段ワイヤ16の両端の接合部16a,16bが互いに近くなり、上段ワイヤ16を比較的短くすることができる。この結果、上段ワイヤ16のコストを低減させることができる。また、半導体モジュール1を小型化できるので、ハウジング3の使用材料、放熱板2の材料、半導体素子26を封止する封止材等の使用量を減らすことができ、その意味で製品の低コスト化を図ることができる。更に、上段ワイヤ16を短くできる分だけ、その抵抗が低減し、上段ワイヤ16の発熱が減り、上段ワイヤ16の信頼性を向上させることができる。また、上段ワイヤ16が短くなるので、上段ワイヤ16からの電磁ノイズの発生を減少させることができる。更に、電流の通電方向が反対に流れる同士の2本の下段バスバ11と上段バスバ13との距離が近くなるので、相互インダクタンスを低減することができる。すなわち、半導体素子26のスイッチングによるサージ、電圧上昇を低減することができ、半導体素子26の破壊を防ぐことができる。
【0037】
<第2実施形態>
次に、本発明におけるワイヤボンドの接合構造及び接合方法を具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0038】
なお、以下の説明において第1実施形態と同等の構成については、同一の符号を付して説明を省略し、異なった点を中心に説明する。
【0039】
図3に、この実施形態のワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュール1を一部破断して斜視図により示す。図4に、この実施形態のワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュール1を一部破断して分解斜視図により示す。
【0040】
この実施形態では、上段バスバ部材6の点で第1実施形態と構成が異なる。すなわち、図3,4に示すように、下段バスバ部材5の上面をほぼ覆うように上段バスバ部材6が固定される。すなわち、上段バスバ部材6の投影面と、下段バスバ部材5の投影面とがほぼ重なるように両者5,6が積層される。また、上段支持部14の一部であって、下段バスバ部材5との密着面に、下段ワイヤ15との干渉を避けるための凹部17が形成される。そして、上段支持部14の、この凹部17以外の部分が、下段バスバ部材5の上面と密着して固定される。
【0041】
ここで、図4により、ワイヤボンドの接合方法について説明する。この実施形態でも、上段バスバ部材6が下段バスバ部材5と別体に構成される。そして、図4に示すように、下段バスバ11と下段ワイヤ15とを接合した後に、上段バスバ部材6を下段バスバ部材5に固定し、その後、上段バスバ13と上段ワイヤ16とを接合するようにしている。
【0042】
従って、この実施形態では、下段バスバ11と下段ワイヤ15との接合部15aに凹部17を整合させて覆うように、別体の上段バスバ部材6を下段バスバ部材5に固定することが可能となる。このため、第1実施形態に対し、上段バスバ部材6と下段バスバ部材5をよりコンパクトに合体させることができ、これにより省スペース化を図ることができ、半導体モジュール1を更に小型化することができる。
【0043】
<第3実施形態>
次に、本発明におけるワイヤボンドの接合構造及び接合方法を具体化した第3実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0044】
図5に、この実施形態のワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュール1を一部破断して斜視図により示す。図6に、この実施形態のワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュール1を一部破断して分解斜視図により示す。
【0045】
この実施形態では、第2実施形態の構成に対し、凹部17と下段ワイヤ15を省略し、その代わりに下段バスバ11の一部を延長した舌片状の延長バスバ11aを設け、その延長バスバ11aを隣接する配線層24と超音波接合している。また、下段バスバ部材5の上面(下段バスバ11を含む、)と、上段バスバ部材6の下面をほぼ同じ形状とし、両者を完全に整合させて密着させている。また、上段バスバ13の投影面と下段バスバ11の投影面が重なるように配置される。
【0046】
ここで、図6により、ワイヤボンドの接合方法について説明する。この実施形態でも、上段バスバ部材6が下段バスバ部材5と別体に構成される。そして、図6に示すように、下段バスバ11の延長バスバ11aと配線層24とを接合した後に、上段バスバ部材6を下段バスバ部材5に固定し、その後、上段バスバ13と上段ワイヤ16とを接合するようにしている。
【0047】
従って、この実施形態によれば、ほぼ完全に下段バスバ11を覆うように、別体の上段バスバ部材6を下段バスバ部材5の上面に固定することが可能となる。このため、上段バスバ部材6と下段バスバ部材5をよりコンパクトに合体させることができ、これにより、第2実施形態に対し、より省スペース化を図ることができ、半導体モジュール1を更に小型化することができる。
【0048】
また、図7に断面図により示すように、第2実施形態のように、下段バスバ11との配線が下段ワイヤ15を使用したワイヤボンドの場合は、上段バスバ部材6と下段ワイヤ15とが干渉するおそれがあった。これを回避するために、上段バスバ部材6の高さを大きくして、凹部17を高くするか、上段バスバ部材6の前面(図7紙面左側)を下段バスバ部材5の前面(図7紙面左側)まで前へ出さないようにする必要があった。これに対し、本実施形態では、図8に断面図により示すように、下段バスバ11の一部を延長して延長バスバ11aとすることで、上記問題を回避することができ、上段バスバ部材6の高さを低く抑えたまま上段バスバ部材6の前面(図8紙面左側)を下段バスバ部材5の前面(図8紙面左側)と一致させることができ、或いは、更に前方(紙面左側)に配置することができる。
【0049】
<第4実施形態>
次に、本発明におけるワイヤボンドの接合構造及び接合方法を具体化した第4実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0050】
図9に、この実施形態のワイヤボンドの接合構造を、半導体モジュール1を一部破断して斜視図により示す。図10に、同じく半導体モジュール1を断面図により示す。図11及び図12に、この実施形態のワイヤボンドの接合方法の一工程を、半導体モジュール1を一部破断して分解斜視図により示す。
【0051】
図9,10に示すように、この実施形態では、2つの積層体7,8を、ハウジング3の外枠部4に沿って放熱板2上に配置し、それら積層体7,8の間に、各積層体7,8に対応した上段及び下段のバスバ部材5,6,9,10を設けた点で第3実施形態と構成が異なる。図10において、鎖線四角S1,S2で囲む部分が、第3実施形態と共通する構成を有する部分である。
【0052】
図9,10において、前側(紙面左側)の第1の積層体7に対応して、第1の下段バスバ部材5と第1の上段バスバ部材6が設けられる。また、第1の下段バスバ部材5の下段バスバ11に延長バスバ11aが設けられる。この延長バスバ11aが、第1の積層体7の配線層24に超音波接合される。第1の上段バスバ部材6と第2の下段バスバ部材9は一体に構成される。すなわち、第1の上段支持部14と第2の下段支持部32とが一体に形成され、第1の上段バスバ13と第2の下段バスバ31が一体に形成される。図9,10において、後側(紙面右側)の第2の積層体7に対応して、第2の下段バスバ部材9と第2の上段バスバ部材10が設けられる。第2の下段バスバ部材9の第2の下段バスバ31には、延長バスバ31aが設けられる。この延長バスバ31aが、第2の積層体8の配線層24に超音波接合される。第2の下段バスバ部材9の上には、第2の上段バスバ部材10が固定される。そして、第1の上段バスバ部材6の第1の上段バスバ13と第1の積層体7の半導体素子26に、第1の上段ワイヤ16の両端部が接合される。同様に、第2の上段バスバ部材10の第2の上段バスバ33と第2の積層体8の半導体素子26に、第2の上段ワイヤ36の両端部が接合される。
【0053】
ここで、図11,12により、ワイヤボンドの接合方法について説明する。この実施形態では、図11に示すように、第1の下段バスバ部材5と、第2の上段バスバ部材10と、第1の上段バスバ部材6及び第2の下段バスバ部材9とが互いに別体で構成される。そして、図11に示すように、第1の下段バスバ11の延長バスバ11aと第1の積層体7の配線層24とを接合した後に、第1の上段バスバ部材6及び第2の下段バスバ部材9を第1の下段バスバ部材5に組み付けて固定し、第2の下段バスバ31の延長バスバ31aを第2の積層体8の配線層24に接合する。その後、図12に示すように、第1の積層体7の半導体素子26と、第1の上段バスバ13に、第1の上段ワイヤ16の両端部を接合し、その後、第2の上段バスバ部材10を第2の下段バスバ部材9に組み付けて固定する。その後、第2の積層体8の半導体素子26と、第2の上段バスバ33に、第2の上段ワイヤ36の両端部を接合するようにしている。
【0054】
この実施形態では、第1及び第2の下段バスバ11,31のそれぞに延長バスバ11a,31aを設けて、対応する積層体7,8の配線層24に接合するようにしている。このため、第3実施形態と同等の作用効果を得ることができる。また、第1の上段バスバ部材6と第2の下段バスバ部材9を一体に構成している。このため、部品点数を減らすことができ、各バスバ部材5,6,9,10の組み付け工数を減らすことができる。
【0055】
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して実施することができる。
【0056】
例えば、前記第3実施形態では、図4に示すように、上段支持部14に凹部17を形成したが、図13に示すように、上段支持部14の凹部17の中に仕切壁等の脚部17aを設けることもできる。この場合、脚部17aが下段バスバ部材5の上面に当接して上段支持部14の凹部17の上壁14aが支持される。この結果、上段バスバ部材6に上から荷重がかかったときに、凹部17の上壁14aの強度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明は、半導体モジュール用ハウジングにおけるワイヤボンドの接合に利用できる。
【符号の説明】
【0058】
5 下段バスバ部材(第1の)
6 上段バスバ部材(第1の)
9 下段バスバ部材(第2の)
10 上段バスバ部材(第2の)
11 下段バスバ(第1の)
11a 延長バスバ
12 下段支持部(第1の)
13 上段バスバ(第1の)
13a 接続端子
14 上段支持部(第1の)
15 下段ワイヤ(第1の)
15a 接合部
16 上段ワイヤ(第1の)
16a 接合部
16b 接合部
17 凹部
17a 脚部
26 半導体素子
31 下段バスバ(第2の)
31a 延長バスバ
32 下段支持部(第2の)
33 上段バスバ(第2の)
34 上段支持部(第2の)
36 上段ワイヤ(第2の)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バスバを多段構造に構成し、前記バスバにワイヤを接合するワイヤボンドの接合構造において、
上段バスバ及びそれを支持する上段支持部を含む上段バスバ部材が、下段バスバ及びそれを支持する下段支持部を含む下段バスバ部材と別体に構成され、
前記下段バスバと下段ワイヤとが接合され、前記上段バスバ部材が前記下段バスバ部材に固定され、前記上段バスバと上段ワイヤとが接合されたことを特徴とするワイヤボンドの接合構造。
【請求項2】
前記下段バスバ部材の上面であって、前記下段バスバと前記下段ワイヤとの接合部の近傍を除く領域に、前記上段バスバ部材が固定されたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤボンドの接合構造。
【請求項3】
前記下段バスバ部材の上面に前記上段バスバ部材が固定されると共に、前記上段支持部の一部であって、前記下段バスバ部材との密着面に、前記下段ワイヤとの干渉を避けるための凹部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤボンドの接合構造。
【請求項4】
前記上段支持部の前記凹部の中に、少なくとも一つの脚部が設けられたことを特徴とする請求項3に記載のワイヤボンドの接合構造。
【請求項5】
前記下段ワイヤの代わりに、前記下段バスバの一部を延長した延長バスバが設けられたことを特徴とする請求項1に記載のワイヤボンドの接合構造。
【請求項6】
バスバを多段構造に構成し、前記バスバにワイヤを接合するワイヤボンドの接合方法において、
上段バスバ及びそれを支持する上段支持部を含む上段バスバ部材を、下段バスバ及びそれを支持する下段支持部を含む下段バスバ部材と別体に構成し、
前記下段バスバと下段ワイヤとを接合した後に、前記上段バスバ部材を前記下段バスバ部材に固定し、その後に、前記上段バスバと上段ワイヤとを接合することを特徴とするワイヤボンドの接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−89548(P2012−89548A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232351(P2010−232351)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】