説明

ワイヤリール支持装置

【課題】本発明は、溶接ワイヤを安定して送給することができる溶接ワイヤ送給装置のワイヤリール支持装置32を提供する。
【解決手段】本発明のワイヤリール支持装置32は、固定軸21が支柱板1に固定され、回転軸22が固定軸21に回転自在に支持されて、回転軸22の周囲にワイヤリール13が取り付けられる。2つのオイルシール25、26が固定軸21と回転軸22との間に取り付けられ、2つのオイルシール25、26と固定軸21と回転軸22とで密閉空間が形成され、この密閉空間に制動力発生媒体29を封入する。回転軸22の内面にブレーキ部材30が設けられて、ブレーキ部材30が制動力発生媒体29内を通過することによって摩擦力を発生する。この結果、溶接ワイヤを安定して送給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消耗電極ガスシールドアーク溶接に使用される溶接ワイヤ送給装置のワイヤリール支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、消耗電極ガスシールドアーク溶接に使用される溶接ワイヤ送給機には、溶接ワイヤがワイヤリールから安定して引き出されるように、ワイヤリールの回転を制動するための回転制動機構が備えられている。(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図3は、従来技術の溶接ワイヤ送給機にワイヤリールを取り付ける方法を説明するための図であり、図4は、従来技術のワイヤリール支持装置の断面図であり、図5は、従来技術のワイヤリール支持装置の主要部品の分解斜視図である。図3において、溶接ワイヤ送給機15の支柱板1に図4に示す固定軸2が固定され、この固定軸2に回転軸3が回転自在に支持されている。回転軸3内には、後述する回転軸3の回転制動機構が設けられている。また、この回転軸3には、回り止めピン3bが設けられていて、溶接ワイヤが巻かれたワイヤリール13に設けられている回り止め穴13aに、この回り止めピン3bが挿入されるように、ワイヤリール13が回転軸3に取り付けられている。そして、固定キャップ12が、回転軸3の先端部3aにねじ込められて、ワイヤリール13が回転軸3に固定される。
【0004】
ワイヤ送給駆動部9が、溶接ワイヤ送給機15内に設けられていて、このワイヤ送給駆動部9は、図示を省略した送給用モータによって駆動される送給ロールと加圧ロールとが設けられていて、ワイヤリール13から引き出された溶接ワイヤが、これらの送給ロールと加圧ロールとの間に挟まれて送給されて、ワイヤ送給口17から溶接トーチ(図示を省略)に送給される。
【0005】
次に、図4及び図5を参照して回転軸3の回転制動機構を説明する。支柱板1に固定軸2が固定され、この固定軸2の内部にナット4が嵌められ、固定軸2の軸部に回転軸3が取り付けられ、この回転軸3内の突壁3c側に、ばね受け6の突起部6aが摩擦板5を介して固定軸2の先端部2aに嵌め込まれる。先端部2aと突起部6aとに回り止めがついている。このために、ばね受け6は固定軸2に固定され、樹脂で形成された摩擦板5が、回転軸3内の突壁3cとばね受け6との間で接触してすり動いている。また、ボルト8の頭部8a側に座金18を介してばね7を挿通したボルト8が、上記の摩擦板5及びばね受け6を挿通して、固定軸2に挿入されたナット4にねじ込まれている。
【0006】
これらのナット4、摩擦板5、ばね受け6、ばね7、座金18及びボルト8によって回転軸3の回転制動機構が構成されており、ボルト8のねじ込み量で決まるばね7の圧力で、ばね受け6が摩擦板5を介して回転軸3内の突壁3cに押し付けられるとともに、回転軸3のフランジ内面が固定軸2のフランジ面に押し付けられて、回転軸3の回転に制動が与えられている。
【0007】
この結果、溶接中は、ワイヤ送給駆動部9によってワイヤリール13の溶接ワイヤが引っ張られて、固定軸2を中心として、回転軸3とワイヤリール13とが一体に回転し、溶接が終了すると、これらが一体に停止する。また、ボルト8のねじ込み量で決まるばね7の圧力で、回転軸3の回転に制動が与えられ、ワイヤリール13から溶接ワイヤが安定して引き出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−52882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述した従来技術の溶接ワイヤ送給機15は、回転軸3の回転制動機構のブレーキ力として、摩擦板5が回転軸3内の突壁3cとばね受け6との間で接触してすり動いて発生する摩擦力が利用されている。そのために、摩擦板5の加工精度や、摩擦板5が部分的に摩耗することによって、回転軸3が1回転する間でも、ブレーキ力に細かな変動が生じる不具合があった。また、溶接ワイヤ送給機15を長期に亘って使用すると、摩擦板5が極度に摩耗したり、熱膨張によって焼き付きが生じたりして、ブレーキ力が適正なブレーキ力よりも増大するという不具合があった。これらの不具合によって、溶接ワイヤを安定して送給することができない場合があった。
【0010】
本発明は、溶接ワイヤを安定して送給することができる溶接ワイヤ送給装置のワイヤリール支持装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
支柱板と、
前記支柱板に固定された固定軸と、
前記固定軸に回転自在に支持されて、ワイヤリールが取り付けられる回転軸と、
前記固定軸と前記回転軸との間に形成された密閉空間に封入された制動力発生媒体と、
前記回転軸の内面に設けられて、前記制動力発生媒体内を通過することによって摩擦力を発生するブレーキ部材と、
を備えたことを特徴とするワイヤリール支持装置である。
【0012】
請求項2の発明は、
前記固定軸と前記回転軸との間に取り付けられた2つのオイルシールを備え、
前記2つのオイルシールと前記固定軸と前記回転軸とで形成された前記密閉空間に前記制動力発生媒体を封入することを特徴とする請求項1記載のワイヤリール支持装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワイヤリール支持装置は、従来技術の溶接ワイヤ送給機のように、回転軸の回転制動機構のブレーキ力として、摩擦板が回転軸内の突壁とばね受けとの間で接触してすり動いて発生する摩擦力を利用していないために、回転軸が1回転するあいだに回転軸のブレーキ力に変動が生じることがない。また、溶接ワイヤ送給機を長期に亘って使用しても、回転軸のブレーキ力が適正なブレーキ力よりも増大することがなく、適正なブレーキ力を保持することができる。従って、溶接ワイヤを安定して送給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のワイヤリール支持装置の断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】従来技術の溶接ワイヤ送給機にワイヤリールを取り付ける方法を説明するための図である。
【図4】従来技術のワイヤリール支持装置の断面図である。
【図5】従来技術のワイヤリール支持装置の主要部品の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。図1は、本発明のワイヤリール支持装置の断面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。図1において、溶接ワイヤ送給機の底板33に、ワイヤリール支持装置32の支柱板1が固定されている。固定軸21は樹脂で形成されて、フランジ部21bと軸部21cとから成り、固定軸のフランジ部21bが支柱板1に固定されている。回転軸22は樹脂で形成され、固定軸の軸部21cに2つのベアリング23、24によって回転自在に支持されている。
【0016】
2つのベアリング23、24は、固定軸21と回転軸22との間で、固定軸のフランジ部21b側(X1方向)と固定軸の先端部21a側(X2方向)にそれぞれ設けられている。また、2つのオイルシール25、26が、固定軸21と回転軸22との間で、2つのベアリング23、24の内側にそれぞれ設けられている。回転軸22の内面には、第1の段部22c及び第2の段部22dが形成されていて、第1の段部22c及び第2の段部22dの間に、後述するブレーキ部材が設けられる制動力発生媒体接触部22eが形成されている。
【0017】
この制動力発生媒体接触部22eの内径は、回転軸22の内面の他の部分、即ち、2つのオイルシール25、26及び2つのベアリング23、24が設けられる内面の内径よりも小さい。ベアリング固定キャップ27が固定軸の先端部21aにねじ込まれることによって、第2のベアリング24及び第2のオイルシール26を介して、回転軸の第2の段部22dが固定軸のフランジ部21b側(X1方向)へ押されて、回転軸の第1の段部22cが、第1のオイルシール25及び第1のベアリング23を固定軸のフランジ部21bに押し付けて固定する。
【0018】
このとき、回転軸の第1の段部22cが、第1のオイルシール25及び第1のベアリング23を固定軸のフランジ部21bに押し付けるために、固定軸の第1の段部22cの端面から固定軸のフランジ部21bまでの長さは、第1のオイルシール25の幅と第1のベアリング23の幅とを足した長さよりも短く形成されている。この結果、回転軸の第1の段部22cが、第1のオイルシール25及び第1のベアリング23を固定軸のフランジ部21bに押し付けたとき、回転軸の基端部22bと固定軸のフランジ部21bとの間には隙間28が形成される。また、ベアリング固定キャップ27が固定軸の先端部21aにねじ込まれることによって、第2のベアリング24及び第2のオイルシール26を回転軸の第2の段部22dに押し付けて固定している。従って、2つのオイルシール25、26と2つのベアリング23、24とが固定軸の軸部21cに固定される。
【0019】
2つのオイルシール25、26と固定軸の軸部21cと回転軸の制動力発生媒体接触部22eとで密閉された空間に、制動力発生媒体29が封入されている。この制動力発生媒体29としては、例えば液体やグリスが使用される。制動力発生媒体の封入方法は、例えば、固定軸21を支柱板1に取り付ける前に、固定軸の中心軸21cが鉛直方向になるように固定軸21を置いて、第1のベアリング23と第1のオイルシール25とを固定軸の軸部21cに取り付けて、回転軸22を固定軸の軸部21cに挿入した後に制動力発生媒体29を注ぎ込む。その後、第2のオイルシール26と第2のベアリング24とを固定軸の軸部21cに取り付けて、固定軸の軸部の先端部21aにベアリング固定キャップ27をねじ込んで、2つのオイルシール25、26と2つのベアリング23、24を固定する。
【0020】
図2に示したブレーキ部材30(30a、30b、30c)が回転軸22の内面に形成されている。このブレーキ部材30は樹脂で形成されていて、回転軸22と一体物の型で形成されている。又は、ブレーキ部材30と回転軸22とを別々に形成して、ブレーキ部材30を回転軸22の内面に取り付けるようにしても良い。ブレーキ部材30が制動力発生媒体29の中を通過することによって摩擦力が発生し、回転軸22のブレーキ力と成る。制動力発生媒体29の粘性を変化させたり、図2(A)〜(C)に示すようにブレーキ部材30の形状を変形させたり、ブレーキ部材30の個数を変更させたりすることによって、回転軸22のブレーキ力を調整することができる。
【0021】
このブレーキ力は、溶接開始時に溶接ワイヤを引き出すときは、ブレーキ力が大きいと、送給ローラがスリップして、溶接ワイヤをスムーズに引き出すことができない。また、送給モータに過負荷がかかる。一方、溶接終了時はブレーキ力が小さいと、送給ローラを停止させて溶接ワイヤの引き出しを終了しても、ワイヤリールが停止せずに慣性力で回転し続けて、溶接ワイヤの巻きほぐれが生じる。これらのことを考慮して最も安定して溶接ワイヤを送給できるブレーキ力が決定される。
【0022】
回転軸22にワイヤリール13が取り付けられ、ワイヤリール固定キャップ31の軸部31cが回転軸の先端部22aにねじ込まれて、ワイヤリール固定キャップのフランジ部31bがワイヤリール13に当接して、ワイヤリール13を回転軸22に固定される。
【0023】
以下、動作を説明する。溶接が開始されると、図3に示したワイヤ送給駆動部9内の送給ロールによってワイヤリール13の溶接ワイヤが引っ張られて、固定軸の軸部21cを中心として回転軸22とワイヤリール13とが一体に回転する。このとき、回転軸22の内面に設けられたブレーキ部材30が制動力発生媒体29内を通過することによって摩擦力が発生し、制動力発生媒体29の粘性とブレーキ部材30の形状によって決定される回転軸22のブレーキ力が発生する。この回転軸22のブレーキ力によって、送給ローラがスリップすることなく、溶接ワイヤをワイヤリール13からスムーズに引き出すことができ、溶接が行われる。溶接を終了するときは、送給ロールの回転を停止して、回転軸22とワイヤリール13とが一体に停止する。このとき、ワイヤリールが停止せずに慣性力で回転し続けて、溶接ワイヤの巻きほぐれが生じることがなく、回転軸22のブレーキ力によって、送給ロールの回転を停止すると、回転軸22とワイヤリール13とが一体に停止する。
【0024】
この結果、従来技術の溶接ワイヤ送給機15のように、回転軸3の回転制動機構のブレーキ力として、摩擦板5が回転軸3内の突壁3cとばね受け6との間で接触してすり動いて発生する摩擦力を利用していないために、回転軸22が1回転するあいだに回転軸のブレーキ力に変動が生じることがない。また、溶接ワイヤ送給機を長期に亘って使用しても、回転軸22のブレーキ力が適正なブレーキ力よりも増大することがなく、適正なブレーキ力を保持することができる。従って、溶接ワイヤを安定して送給することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 支柱板
2 固定軸
2a 固定軸の先端部
3 回転軸
3a 回転軸の先端部
3b 回転軸のピン
3c 回転軸の突壁
4 ナット
5 摩擦板
6 ばね受け
6a 突起部
7 ばね
8 ボルト
8a ボルトの頭部
9 ワイヤ送給駆動部
12 固定キャップ
13 ワイヤリール
13a ワイヤリールの穴
15 溶接ワイヤ送給機
17 ワイヤ送給口
18 座金
21 固定軸
21a 固定軸の先端部
21b 固定軸のフランジ部
21c 固定軸の軸部
22 回転軸
22a 回転軸の先端部
22b 回転軸の基端部
22c 第1の段部
22d 第2の段部
22e 制動力発生媒体接触部
23 第1のベアリング
24 第2のベアリング
25 第1のオイルシール
26 第2のオイルシール
27 ベアリング固定キャップ
28 隙間
29 制動力発生媒体
30 ブレーキ部材
31 ワイヤリール固定キャップ
31b ワイヤリール固定キャップのフランジ部
31c ワイヤリール固定キャップの軸部
32 ワイヤリール支持装置
33 溶接ワイヤ送給機の底板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱板と、
前記支柱板に固定された固定軸と、
前記固定軸に回転自在に支持されて、ワイヤリールが取り付けられる回転軸と、
前記固定軸と前記回転軸との間に形成された密閉空間に封入された制動力発生媒体と、
前記回転軸の内面に設けられて、前記制動力発生媒体内を通過することによって摩擦力を発生するブレーキ部材と、
を備えたことを特徴とするワイヤリール支持装置。
【請求項2】
前記固定軸と前記回転軸との間に取り付けられた2つのオイルシールを備え、
前記2つのオイルシールと前記固定軸と前記回転軸とで形成された前記密閉空間に前記制動力発生媒体を封入することを特徴とする請求項1記載のワイヤリール支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−245557(P2012−245557A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121185(P2011−121185)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)