説明

ワイヤロープの伸び検査装置及びワイヤロープの伸び検査方法

【課題】 簡易な構成で、既設のワイヤロープの伸び検査に適用できるようにすると共に、経年使用による劣化に伴う伸びを正確に測定する。
【解決手段】 本発明のワイヤロープの伸び検査装置1は、着磁手段10、磁気検出手段20を備え、伸びを検査する前に着磁手段20により着磁部位を所定距離毎に形成する。従って、予め所定のマーキングが施されていない既設のエレベータ等に用いられているワイヤロープ130の伸びを検査することができる。磁気検出手段20が、磁気検出手段用支持レール30に支持されてワイヤロープ130の長手方向に移動可能で、ワイヤロープ130を静止させた状態で着磁部位間の距離を測定する構成であるため、極めて正確にワイヤロープ130の伸びを測ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤロープの使用に伴う経時的劣化による伸びを検査する技術に関し、特に、所定の耐荷重性能が要求される重量物等の吊り下げに用いられるワイヤロープの伸びを検査する伸び検査装置及び伸び検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ロープ式エレベータや鋼板の製造ラインに設置される竪型ルーパ等に使用される所定の耐荷重性能が要求されるワイヤロープについては、使用中に切断すると重大事故に繋がることから、その交換時期を逸しないために劣化状態を正確に把握する必要がある。ワイヤロープ中に素線切れが生じ、切れた部分が外方に突出していれば、点検時に比較的容易にこのような劣化は確認できるが、ワイヤロープの中心部付近で生じている素線切れは容易には確認できない。また、より安全な運用のためには、このような素線切れが生じる前に、ワイヤロープの劣化を把握することが望まれる。そこで、特許文献1〜3には、ワイヤロープの経時変化による伸びを測定することで、ワイヤロープの劣化を早期に把握する技術が開示されている。
【0003】
特許文献1は、予め定めた一定距離内におけるワイヤロープ外面の山部と谷部のピッチ数を数え、そのピッチ数の経時的変化を測定して伸びを観測する技術である。特許文献2は、エレベータ吊り上げ用のベルトの外面に、レーザ等を用いて等間隔にマーキングを施し、そのマーキング間の距離の経時的変化を測定してベルトの伸びを観測する技術である。特許文献3は、エレベータ巻上用ロープの内部に、透磁性ターゲットを等間隔に設置し、そのターゲット間の距離の経時的変化を測定することにより、ロープの伸びを観測する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−318741号公報
【特許文献2】特表2005−512921号公報
【特許文献3】特開平10−182036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明は、ワイヤロープ外面の山部と谷部のピッチ数をイメージセンサを使用して数えるものであり、基本的にこの山部と谷部が明確に観察できるワイヤロープでなければ適用することは困難である。また、ワイヤロープの長期使用により、その外形が、圧潰されたり磨耗したりすることにより変形した場合には、山部と谷部のピッチ数の正確な測定が困難になるという問題がある。また、山部と谷部のピッチ数を捉えるものであるため、算出される伸び量は正確性の点で懸念が残る。
【0006】
特許文献2の発明は、ベルトの長期使用により、その外面が磨耗あるいは汚損することにより、マーキングが消滅し、あるいは不鮮明になった場合には、マーキング間の距離の測定が困難になる。
【0007】
特許文献3の発明は、ロープ内部に予め透磁性ターゲットを設置した特殊なロープを使用するものであり、既設のワイヤロープの伸びの計測に適用できる技術ではない。特許文献3に開示された特殊なロープを予め用いた場合のみ、伸びを計測可能となる技術であり、適用範囲が狭く、しかも高コストである。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、予めワイヤロープにマーキングが施されていない既設のワイヤロープの伸び検査に適用できると共に、簡易な構成で、ワイヤロープの経年使用による劣化に伴う伸びを正確に測定できるワイヤロープの伸び検査装置及び伸び検査方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明のワイヤロープの伸び検査装置は、ワイヤロープに対して磁気を印加して複数の着磁部位を形成する着磁手段と、前記着磁手段によって印加された前記ワイヤロープの前記各着磁部位を検出する磁気検出手段と、前記磁気検出手段を、前記ワイヤロープの長手方向に沿って移動可能に支持する磁気検出手段用支持レールと、前記磁気検出手段が前記磁気検出手段用支持レールに沿って移動して前記各着磁部位を検出すると、各着磁部位の検出毎に、前記磁気検出手段の位置を測定する磁気検出手段用位置測定手段と、前記ワイヤロープの温度を測定する温度測定手段と、検査時において、前記磁気検出手段用位置測定手段により順次測定された前記磁気検出手段の位置データをもとに算出される前記各着磁部位間の実測距離データを、前記温度測定手段により測定したワイヤロープの温度に基づいて補正し、その補正距離データを、前記着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離である基準距離データと比較して前記ワイヤロープの伸びを算出する演算制御手段とを備えることを特徴とする。
前記着磁手段は、所定時間毎に、前記ワイヤロープに対して磁気を印加する構成とすることができる。
前記磁気検出手段は、前記磁気検出手段用支持レール上、前記着磁手段に対して所定距離離れた位置に固定可能であり、前記着磁手段は、前記ワイヤロープに形成された直前の着磁部位が、前記磁気検出手段用支持レール上の所定の位置に固定された前記磁気検出手段によって検出されると、前記ワイヤロープに対して磁気を印加して次の着磁部位を形成する構成とすることができる。
さらに、前記着磁手段を前記ワイヤロープの長手方向に沿って移動可能に支持する着磁手段用支持レールと、前記着磁手段用支持レールに支持された前記着磁手段の位置を測定する着磁手段用位置測定手段を有し、前記着磁手段用位置測定手段が測定した前記着磁手段の位置データが所定の位置を示した値となる毎に、前記ワイヤロープに対して磁気を印加する構成とすることができる。
前記着磁手段による着磁前に、前記ワイヤロープの磁気を消去する消磁手段をさらに備える構成とすることが好ましい。
前記演算制御手段は、前記着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離を前記基準距離データとして記憶した基準距離データ記憶部と、検査時における前記ワイヤロープの各着磁部位間の実測距離データを、検査時における前記ワイヤロープの温度を用いて温度補正して補正距離データを求める温度補正手段と、前記基準距離データ記憶部から各着磁部位間の基準距離データを読み出し、その基準距離データと前記温度補正手段による求められた補正距離データとを比較して前記ワイヤロープの伸びを算出する伸び算出手段とを備えてなることが好ましい。
前記演算制御手段は、前記伸び算出手段により、前記ワイヤロープの伸びが所定値以上であるか否かを判定する判定手段と、前記判定手段により、前記ワイヤロープの伸びが所定値以上と判定された場合に任意の警告手段を作動させる警告制御手段とをさらに備えることが好ましい。
【0010】
また、本発明のワイヤロープの検査方法は、ワイヤロープの伸びを検査するワイヤロープの伸び検査方法であって、前記ワイヤロープに磁気を印加して複数の着磁部位を予め形成し、検査時において、前記ワイヤロープの前記複数の着磁部位を磁気検出手段により順次検出し、検出する毎に前記磁気検出手段の位置を測定して、該磁気検出手段の位置データをもとに前記ワイヤロープの各着磁部位間の実測距離データを測定すると共に、検査時における前記ワイヤロープの温度を測定し、検査時において得られる、前記ワイヤロープの各着磁部位間の実測距離データを、前記ワイヤロープの温度に基づいて補正し、その補正距離データを、前記着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離である基準距離データと比較して前記ワイヤロープの伸びを算出することを特徴とする。
前記ワイヤロープに着磁部位を形成する工程では、前記ワイヤロープを走行させながら、前記着磁部位を形成する着磁手段を所定時間毎に動作させて着磁することができる。
前記ワイヤロープに着磁部位を形成する工程では、前記着磁部位を形成する着磁手段と前記磁気検出手段とを予め所定距離で固定配置しておき、ワイヤロープに形成された着磁部位を検出すると、前記着磁手段が前記ワイヤロープに磁気を印加して次の着磁部位を形成することを繰り返して着磁することができる。
前記ワイヤロープに着磁部位を形成する工程では、前記ワイヤロープを静止状態として、前記着磁部位を形成する着磁手段を移動させながら所定位置に着磁することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ワイヤロープの伸び検査装置が、着磁手段、磁気検出手段を備え、伸びを検査する前に着磁手段により着磁部位を所定距離毎に形成し、磁気検出手段によりこの着磁部位を検出して伸びを検査する構成である。従って、予め所定のマーキングが施されていない既設のエレベータ等に用いられているワイヤロープの伸びを検査することができる。特に、本発明は、磁気検出手段の位置を測定することで着磁部位間の距離を測定する構成であるため、ワイヤロープが揺れていたり、走行が不安定な状態であったりしても、着磁部位間の距離を正確に測定できる。また、ワイヤロープの温度測定手段を備え、磁気検出手段用位置測定手段よって測定した各着磁部位間の実測距離データを温度補正できるため、経年使用に伴う劣化による伸びを高い精度で得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係るワイヤロープの伸び検査装置の概略構成を示した図である。
【図2】図2は、上記実施形態の演算制御手段の構成を模式的に示した図である。
【図3】図3は、本発明に係る実施形態におけるワイヤロープの伸び検査装置を用いてワイヤロープの伸びを検査する工程を説明するための図である。
【図4】図4は、本発明の第2の実施形態に係るワイヤロープの伸び検査装置の概略構成を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係るワイヤロープの伸び検査装置1を示したものであり、ロープ式のエレベータシステム100におけるエレベータかご110及びウエイト120を支持するワイヤロープ130の伸びの検査に適用した場合を示している。
【0014】
図1に示したように、本実施形態に係るワイヤロープの伸び検査装置1は、着磁手段10、磁気検出手段20、磁気検出手段用支持レール30、磁気検出手段用位置測定手段40、消磁手段50、温度測定手段60、演算制御手段70等を有して構成される。
【0015】
着磁手段10は、着磁ヘッド11を備えた着磁機から構成され、ワイヤロープ130の所定部位に対して磁気を印加して着磁する。着磁手段10は、例えば、ワイヤロープ130を長手方向に一定速度で走行させておき、予め設定した所定時間(例えば、1秒)が経過する毎に駆動して磁気を印加するように設定される。ワイヤロープ130が一定速度で走行しているため、所定時間毎に駆動することにより、該ワイヤロープ130に所定間隔毎に着磁部位を形成することができる。
【0016】
着磁手段10は、取付部である昇降路の壁面140に取り付けられ、該壁面140から取り外し可能になっている。着磁手段10は、ワイヤロープ130に着磁部位の形成後は、例えば、減磁により磁力が弱まって再着磁しなければならないタイミングまでは使用しない。従って、取付部から取り外し可能としておくことが好ましい。着磁後、この着磁手段10を取り外して、異なる現場(建物)に設置される伸び検査装置1の着磁手段10として兼用することができ、伸び検査装置1のコストの低減に資する。
【0017】
なお、ワイヤロープ130と壁面140との距離は、エレベータかご110の大きさ、昇降路の大きさ等によっても種々のケースがあるため、着磁ヘッド11はワイヤロープ130との間の離隔距離が適切な距離となるように伸縮可能であることが好ましい。
【0018】
磁気検出手段20は、着磁手段10によって形成された着磁部位の磁気を検出する磁気センサが用いられ、該磁気を検出可能であれば、その種類等は限定されるものではない。但し、着磁部位から磁気検出手段20に作用する磁場の中で検出点を一定位置にしないと、着磁部位間の正確な距離測定ができない。そこで、磁気検出手段20は、3つの磁気検出ヘッド21,22,23が、後述する磁気検出手段支持レール30上における磁気検出手段20の移動方向(ワイヤロープ130の走行方向)に沿って連設されたものを用いることが好ましい。これにより、中央の磁気ヘッド22の出力が所定の設定レベルを越えている範囲の中で、両端の磁気ヘッド21,23の出力差分が零電位となる位置を検出点として特定できる。その結果、磁気検出手段20による各着磁部位における検出点が常に一定になる。
【0019】
磁気検出手段20は、磁気検出手段用支持レール30に沿って走行可能に支持される。磁気検出手段用支持レール30は、ワイヤロープ130の長手方向に沿って、ワイヤロープ130と略平行に昇降路の壁面140に取り付けられる。磁気検出手段20を磁気検出手段用支持レール30に沿って移動させれば、ワイヤロープ130を静止させた状態で磁気の検出を行うことができる。
【0020】
なお、磁気検出手段20を磁気検出手段用支持レール30に沿って移動させる方法は任意であるが、例えば、磁気検出手段20にモータ等の駆動部を備えさせて該駆動部にピニオン(図示せず)を取付けると共に、磁気検出手段用支持レール30自体を該ピニオンと噛み合うラックから構成して移動可能とすることができる。
【0021】
なお、磁気検出手段20は、ワイヤロープ130への着磁時には使用されない。従って、磁気検出手段20を磁気検出手段用支持レール30に常時取り付けておく必要はなく、取り外し可能としておくことが好ましい。このような構造としておくことで、磁気検出時以外では、磁気検出手段20を取り外して、異なる現場(建物)に設置される伸び検査装置1の磁気検出手段20として兼用することができ、伸び検査装置1のコストの低減に資する。
【0022】
磁気検出手段用位置測定手段40は、磁気検出手段用支持レール30に沿って移動する磁気検出手段20の位置を測定するものであり、磁気検出手段20からの磁気検出信号を受信した時点の位置を測定する。磁気検出手段用位置測定手段40は、移動する磁気検出手段20の位置を測定できるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、光波測距儀を用いることができる。磁気検出手段20に反射板24を設けると共に、該光波測距儀を磁気検出手段用支持レール30の下端に配置しておけば、光波測距儀から該反射板24までの距離を測定できる。磁気検出手段用位置測定手段40としては、レーザ距離計などを用いることもできる。
【0023】
消磁手段50は、着磁対象のワイヤロープ130に不要な磁気が残存していることを考慮して、該磁気を消磁するために設けられる。ワイヤロープ130に不要な磁気が残存していない場合には消磁する必要はないが、特に再着磁する場合には、以前の磁気が残存している可能性が高いことから、該消磁手段50を設けておくことが好ましい。なお、本実施形態では、着磁手段10として、その基台部分に着磁ヘッド11と共に消磁手段50が支持されたものを用いているが、着磁手段10と消磁手段50とが別体のものであってもよいことはもちろんである。消磁手段50は、いずれの場合も外し可能に設けておくことが好ましい。消磁手段50も、ワイヤロープ130の消磁を行った後の検査時においては使用する必要がないため、取り外し可能とすることで他の伸び検査装置1に適用することが可能となる。
【0024】
また、着磁手段10、磁気検出手段用支持レール30、磁気検出手段用位置測定手段40等は、それぞれ個別に壁面(取付部)140に取り付けてもよいが、予めこれらを支持するベース部材(図示せず)の所定位置に配置してユニット化しておき、これらを一体で壁面(取付部)140に取り付けられるようにしておくと、取付作業の簡易化に資する。
【0025】
温度測定手段60は、ワイヤロープ130の温度を測定するものである。エレベータシステム100で用いられるワイヤロープ130は、例えば、鋼製の素線を撚り合わせてなるストランドを、繊維心の周囲に撚り合わせて構成されており、温度によって伸縮する。このため、ワイヤロープ130の正確な実測距離を測定するには温度補正する必要がある。温度測定手段60は、ワイヤロープ130の温度を非接触で測定できる赤外線温度計などを用いることもできるが、より低コストで測定できる方法として、ワイヤロープ130と同じ環境下(昇降路内)に数十cm程度のサンプルワイヤロープ(図示せず)を配置し、このサンプルワイヤロープの温度を安価な接触型の温度計で測定してワイヤロープ130の温度とする手段を用いることもできる。温度の計測は、ワイヤロープ130が走行する昇降路内において、高さの異なる複数箇所で測定することが好ましい。複数箇所で測定した場合には、例えば、それらの平均値を温度補正に用いることができる。
【0026】
演算制御手段70は、着磁手段10、磁気検出手段20、磁気検出手段用位置測定手段40、消磁手段50及び温度測定手段60のそれぞれと有線又は無線からなる通信網80により結ばれており、各手段から出力されるデータあるいは信号を受信すると共に、各手段を駆動させるデータあるいは信号を送信可能に設けられている。
【0027】
また、演算制御手段70は、着磁手段10、磁気検出手段20、磁気検出手段用位置測定手段40、消磁手段50及び温度測定手段60から得られるデータを保存、加工等するため、図2に示したように、基準距離データ記憶部71と、温度補正手段72と、伸び算出手段73等を備えて構成される。
【0028】
基準距離データ記憶部71は、着磁手段10による着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離を基準距離データとして記憶している。「着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離(基準距離データ)」とは、上記した着磁手段10による磁気の印加を実施した時点で設定した着磁部位間の距離であってもよいし、ワイヤロープ130への着磁工程を全て行った後に、磁気検出手段用位置測定手段40により改めて測定して得られた各着磁部位間の距離であってもよい。なお、この基準距離データを求める際も、温度測定手段60によって温度を測定し、後述の温度補正手段72により、温度補正した距離を基準距離データとして記憶させておくことが好ましいことはもちろんである。
【0029】
温度補正手段72は、磁気検出手段用位置測定手段40によって測定されたワイヤロープ130の着磁部位間の実測距離データを該磁気検出手段用位置測定手段40から受信すると共に、温度測定手段60によって測定されたワイヤロープ130の温度データを受信し、実測距離データを温度補正して補正距離データを求めるコンピュータプログラムである。温度の影響による伸縮量は、鋼鉄製の素線が使用されている場合、次式:
伸縮量=単位温度当たりの伸縮量11.5×10−6mm/℃)×温度差:℃)×ワイヤロープの長さ(mm))
により求められる。
【0030】
伸び算出手段73は、基準距離データ記憶部71から読み出した各着磁部位間の基準距離データと、上記温度補正手段72により求められた各着磁部位間の補正距離データとを比較してワイヤロープ130の伸びを算出するコンピュータプログラムである。基準距離データと補正距離データは各着磁部位間毎に求められるため、伸び量は各着磁部位間毎に求められることになる。また、各着磁部位間の伸び量を積算して、ワイヤロープ130全体の伸び量を求めることももちろん可能である。
【0031】
演算制御手段70は、さらに、判定手段74及び警告制御手段75を備えることが好ましい。判定手段74は、伸び算出手段73により得られたワイヤロープ130の各着磁部位間の伸びが予め設定した所定値以上であるか否かを判定するコンピュータプログラムである。警告制御手段75は、判定手段74により、ワイヤロープ130の各着磁部位間毎の伸びが所定値以上と判定された場合に、任意の警告手段(図示せず)を作動させる命令を出力するコンピュータプログラムである。警告手段は、ワイヤロープ130の伸びが所定値以上に至ったという異常事態をエレベータシステム100の保守管理者に報知できる手段であれば何であってもよく、音、警告灯などを挙げることができる。また、保守管理者が遠隔地にいる場合には、その保守管理者の手元のコンピュータ、携帯端末などに警告画面を表示させて異常事態を知らせることもできる。
【0032】
次に、本実施形態の伸び検査装置1を用いてワイヤロープ130の伸びを検査する方法を説明する。
【0033】
まず、着磁前に、ワイヤロープ130を走行させながら、消磁手段50を駆動してワイヤロープ130に残存する余分な磁気を消磁する。次いで、一定速度で走行するワイヤロープ130に、予め設定した所定時間毎に着磁手段10から磁気を印加して着磁する。
【0034】
次に、演算制御手段70の基準距離データ記憶部71に各着磁部位間の基準距離データを記憶させる。例えば、上記所定時間を1秒と設定した場合、ワイヤロープ130を1m/秒で走行させれば、着磁部位が1m毎に形成されるため、各着磁部位間の基準距離データをそのまま1000.00mmとして記憶させることができる。しかしながら、着磁中のワイヤロープ130の揺動等により着磁部位間で僅かな差が生じる可能性もある。そこで、着磁工程後、後述する検査工程と同様の方法で、磁気検出手段用位置測定手段40により各着磁部位間の距離を改めて測定し、さらに温度補正を行ったデータを、基準距離データとして記憶させることが好ましい。そのようにすることで、各着磁部位間の基準距離データの精度が高まる。
【0035】
このようにして着磁工程を実施し、基準距離データを記憶させた後、所定期間経過後(例えば、数週間後、数ヶ月後)検査を実施する。図3に基づき説明する。
【0036】
この検査工程では、ワイヤロープ130を静止させた状態とし、磁気検出手段20が磁気検出手段用支持レール30に沿って、すなわち、ワイヤロープ130の長手方向に沿って移動して、順次着磁部位を検出していく。その際、磁気検出手段用位置測定手段40が、磁気検出手段20からの磁気検出信号を受信して、磁気を検出した時点での磁気検出手段20の位置を順次測定する。これにより、各着磁部位間の実測距離データが得られる(S101)。例えば、ある一つの着磁部位を検出した時点と次の着磁部位を検出した時点における磁気検出手段20の磁気検出手段用支持レール30上の各位置データが、磁気検出手段用位置測定手段40からの離間距離で、それぞれ1500.00mm、2515.00mmであったとすると、この2つの着磁部位間の実測距離は1015.00mmとなる。
【0037】
また、検査工程においては、温度測定手段60によりサンプルワイヤロープの温度を測定するなどして、これを検査時におけるワイヤロープ130の温度データとして演算制御手段70に送信する(S102)。
【0038】
演算制御手段70の温度補正手段72は、得られた各着磁部位間の実測距離データについて、温度測定手段60から得られた温度を参照して、上記式により補正し、補正距離データを求める(S103)。
【0039】
次に、伸び算出手段73が基準距離データ記憶部71から基準距離データを読み出し(S104)、該基準距離データと補正距離データとを比較してワイヤロープ130の伸びを算出する(S105)。例えば、ある2つの着磁部位間の基本距離データが1000.00mmで、実測距離データが1015.00mm、補正距離データが1012.00mmとする。すると、この着磁部位間の使用による伸びは、12.00mmとなる。
【0040】
得られた伸び量(例えば、12.00mm)については、エレベータシステムの保守管理者の端末装置に通信回線等を介して通知することができ、保守管理者は、その結果を見てワイヤロープ130の交換が必要か否かを判断できる。
【0041】
なお、判定手段74を設けた場合、例えば、各着磁部位間の伸びの判定閾値を10.00mmに設定している場合、上記12.00mmという伸びは、判定手段74により所定値以上と判定され(S106において「YES」の場合)、警告制御手段75が警告手段を作動させ、例えば警告音が鳴ることになる(S107)。これにより、検査時において保守管理者が検査現場から離れていても、異常事態を知らせることができる。従って、本実施形態の伸び検査装置1による検査を、定期的にかつ自動的に行うようにすることも可能である。
【0042】
ここで、上記説明においては、ワイヤロープ130を長手方向に一定速度で走行させておき、予め設定した所定時間(例えば、1秒)が経過する毎に着磁手段10を駆動させて磁気を印加するようにしているが、正確な位置に着磁を行うためには、ワイヤロープ130の走行速度が安定していることが前提となり、走行速度が何らかの原因で変化したりする場合には正確な位置に着磁できない。もちろん、上記のように着磁後、各着磁部位間の距離を測定し、それを基準距離データとして記憶させれば問題ないが、正確な位置に着磁を行うことができれば、着磁直後に改めて各着磁部位間の距離を測定する必要がなくなる。
【0043】
そこで、正確な位置に着磁を行うために、磁気検出手段20を磁気検出手段用支持レール30上の適宜位置、例えば、着磁手段10から1000.00mm離れた位置に固定可能に設けられていることが好ましい。なお、磁気検出手段20は、ワイヤロープ130の走行方向に対して着磁手段10よりも走行方向前方(エレベータ昇降路下方側)に位置するように設置する。そしてまず、走行するワイヤロープ130の適宜の位置に着磁手段10によって第1の着磁部位を形成する。ワイヤロープ130が着磁手段10及び磁気検出手段20間の間隔に相当する距離を走行すると、磁気検出手段20が上記第1の着磁部位を検出する。この検出信号が出力されると、着磁手段10は直ちに第2の着磁部位を形成するべく磁気を印加する。次いで、磁気検出手段20が第2の着磁部位を検出すると着磁手段10が第3の着磁部位を形成するように駆動する。この結果、ワイヤロープ130の走行速度が一定でなくても、ワイヤロープ130には、着磁手段10と磁気検出手段20との間隔に相当する所定距離(例えば、1000.00mm)毎に着磁部位が形成されることになる。なお、磁気検出手段20による検出信号は、通信網80を介して、直接着磁手段10に送信されるようにしてもよいし、演算制御手段70を経由して着磁手段10に送信されるようにしてもよい。
【0044】
このように着磁手段10と磁気検出手段20とを一定距離に設定して着磁を行った場合には、この着磁時における着時部位間の距離(例えば、1000.00mm)を基準距離データとしてそのまま記憶させることができる。但し、この場合も、着磁中のワイヤロープ130の揺動等により各着磁部位間の実測距離との僅かな誤差が生ずる可能性もあるため、念のため、着磁工程終了後、改めて磁気検出手段20を移動させて各着磁部位間の距離を測定し基準距離データとして記憶させてもよい。
【0045】
次に、本発明に係る第2の実施形態について図4に基づき説明する。本実施形態は、磁気検出手段20だけでなく、着磁手段10もワイヤロープ130の長手方向に沿って移動可能な構成としている。着磁手段10を移動可能にするため、昇降路の壁面140に、上記した磁気検出手段用支持レール30に隣接して着磁手段用支持レール(図示せず)を新たに設置するようにしてもよいが、本実施形態では、図4に示したように、着磁手段10を、磁気検出手段20と共に、磁気検出手段用支持レール30上で走行可能に支持させている。すなわち、本実施形態は、磁気検出手段用支持レール30を着磁手段用支持レールとしても兼用させた構成であり、以下における「磁気検出手段用支持レール30」は着磁手段10が走行する際には、「着磁手段用支持レール」として機能することを意味する。また、着磁手段10の磁気検出手段用支持レール30における位置を測定するため、磁気検出手段用支持レール30の上端に、上記の磁気検出手段用位置測定手段40と同様の構成の着磁手段用位置測定手段41を配置している。
【0046】
本実施形態によれば、着磁手段10が、磁気検出手段用支持レール30に支持されて、ワイヤロープ130の長手方向に沿って移動可能な構成であることから、ワイヤロープ130を静止させて着磁を行うことができる。つまり、ワイヤロープ130を静止させた状態とし、着磁手段10を磁気検出手段用支持レール30に沿って移動させ、着磁手段用位置測定手段41によって着磁手段10の位置を測定し、所定の位置に至ったならば着磁ヘッド11から着磁を行うことにより、ワイヤロープ130に所定距離毎に着磁部位を形成することができる。本実施形態では、着磁手段10の位置を測定するため、着磁手段10に、着磁手段用位置測定手段41に対面するように反射板12を設けているが、例えば、着磁時において、磁気検出手段20を磁気検出手段用支持レール30から取り外し、磁気検出手段用位置測定手段40に対面するように反射板12を設けておけば、磁気検出手段用位置測定手段40によって着磁手段10の位置を測定することができ、この場合には、着磁手段用位置測定手段41を配置する必要がなくなる。
【0047】
本実施形態によれば、ワイヤロープ130を走行させながら着磁する必要がないため、上記実施形態のようにワイヤロープ130の走行の不安定さが着磁位置の精度に影響を及ぼすことがなくなる。
【0048】
また、着磁工程では、着磁手段用位置測定手段41によって着磁手段10の位置を測定しながら行うのではなく、着磁手段10を磁気検出手段用支持レール30に沿って一定速度で移動させながら、一定時間おきに(例えば、1秒毎に)着磁するようにしてもよい。この場合も、ワイヤロープ130が静止しているため、正確な位置に着磁をすることが可能である。
【0049】
なお、検査工程において、ワイヤロープ130を静止させた状態で、磁気検出手段20を磁気検出手段用支持レール30に沿って移動させて着磁部位間の距離を測定し、ワイヤロープ130の伸びを求めることは、上記第1の実施形態と全く同様である。
【0050】
本発明は上記した各実施形態に限定されるものではない。例えば、上記した各実施形態における着磁手段10又は磁気検出手段20の磁気検出手段用支持レール30上における位置の測定方法としては、着磁手段10や磁気検出手段20の走行用駆動部の回転数(例えば、磁気検出手段用支持レール30をラックから構成し、走行用駆動部として着磁手段10や磁気検出手段20にピニオンを取り付けた場合の該ピニオンの回転数)を回転センサによって測定して位置を求めるようにすることも可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 ワイヤロープの伸び検査装置
10 着磁手段
20 磁気検出手段
30 磁気検出手段用支持レール
40 磁気検出手段用位置測定手段
41 着磁手段用位置測定手段
50 消磁手段
60 温度測定手段
70 演算制御手段
71 基準距離データ記憶部
72 温度補正手段
73 伸び算出手段
74 判定手段
75 警告制御手段
100 エレベータシステム
110 エレベータかご
120 ウエイト
130 ワイヤロープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤロープに対して磁気を印加して複数の着磁部位を形成する着磁手段と、
前記着磁手段によって印加された前記ワイヤロープの前記各着磁部位を検出する磁気検出手段と、
前記磁気検出手段を、前記ワイヤロープの長手方向に沿って移動可能に支持する磁気検出手段用支持レールと、
前記磁気検出手段が前記磁気検出手段用支持レールに沿って移動して前記各着磁部位を検出すると、各着磁部位の検出毎に、前記磁気検出手段の位置を測定する磁気検出手段用位置測定手段と、
前記ワイヤロープの温度を測定する温度測定手段と、
検査時において、前記磁気検出手段用位置測定手段により順次測定された前記磁気検出手段の位置データをもとに算出される前記各着磁部位間の実測距離データを、前記温度測定手段により測定したワイヤロープの温度に基づいて補正し、その補正距離データを、前記着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離である基準距離データと比較して前記ワイヤロープの伸びを算出する演算制御手段と
を備えるワイヤロープの伸び検査装置。
【請求項2】
前記着磁手段は、所定時間毎に、前記ワイヤロープに対して磁気を印加する構成である請求項1記載のワイヤロープの伸び検査装置。
【請求項3】
前記磁気検出手段は、前記磁気検出手段用支持レール上、前記着磁手段に対して所定距離離れた位置に固定可能であり、
前記着磁手段は、前記ワイヤロープに形成された直前の着磁部位が、前記磁気検出手段用支持レール上の所定の位置に固定された前記磁気検出手段によって検出されると、前記ワイヤロープに対して磁気を印加して次の着磁部位を形成する構成である請求項1記載のワイヤロープの伸び検査装置。
【請求項4】
さらに、前記着磁手段を前記ワイヤロープの長手方向に沿って移動可能に支持する着磁手段用支持レールと、
前記着磁手段用支持レールに支持された前記着磁手段の位置を測定する着磁手段用位置測定手段を有し、
前記着磁手段用位置測定手段が測定した前記着磁手段の位置データが所定の位置を示した値となる毎に、前記ワイヤロープに対して磁気を印加する構成である請求項1記載のワイヤローブの伸び検査装置。
【請求項5】
前記着磁手段による着磁前に、前記ワイヤロープの磁気を消去する消磁手段をさらに備える請求項1〜4のいずれか1に記載のワイヤロープの伸び検査装置。
【請求項6】
前記演算制御手段は、
前記着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離を前記基準距離データとして記憶した基準距離データ記憶部と、
検査時における前記ワイヤロープの各着磁部位間の実測距離データを、検査時における前記ワイヤロープの温度を用いて温度補正して補正距離データを求める温度補正手段と、
前記基準距離データ記憶部から各着磁部位間の基準距離データを読み出し、その基準距離データと前記温度補正手段による求められた補正距離データとを比較して前記ワイヤロープの伸びを算出する伸び算出手段と
を備えてなる請求項1〜5のいずれか1に記載のワイヤロープの伸び検査装置。
【請求項7】
前記演算制御手段は、
前記伸び算出手段により、前記ワイヤロープの伸びが所定値以上であるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段により、前記ワイヤロープの伸びが所定値以上と判定された場合に任意の警告手段を作動させる警告制御手段と
をさらに備える請求項6記載のワイヤロープの伸び検査装置。
【請求項8】
ワイヤロープの伸びを検査するワイヤロープの伸び検査方法であって、
前記ワイヤロープに磁気を印加して複数の着磁部位を予め形成し、
検査時において、前記ワイヤロープの前記複数の着磁部位を磁気検出手段により順次検出し、検出する毎に前記磁気検出手段の位置を測定して、該磁気検出手段の位置データをもとに前記ワイヤロープの各着磁部位間の実測距離データを測定すると共に、検査時における前記ワイヤロープの温度を測定し、
検査時において得られる、前記ワイヤロープの各着磁部位間の実測距離データを、前記ワイヤロープの温度に基づいて補正し、その補正距離データを、前記着磁部位の形成時における各着磁部位間の距離である基準距離データと比較して前記ワイヤロープの伸びを算出するワイヤロープの伸び検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−128125(P2011−128125A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289812(P2009−289812)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(591160268)北日本電線株式会社 (41)
【Fターム(参考)】