説明

ワイヤロープ

【課題】環境への影響を考慮した低環境負荷型のワイヤロープを提供することにある。
【解決手段】この発明のワイヤロープ1、100は、芯ストランド2、200と、複数本の外ストランド3、300と、潤滑剤と、を備える。潤滑剤は、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含むものである。この結果、この発明のワイヤロープ1、100は、工業用潤滑剤と同程度の防錆性、耐水性、撥水性、付着性を有しながら、食品機械用潤滑剤と同等の安全性を備える潤滑剤を用いるので、使用に際して、潤滑剤が落ちたとしても、この潤滑剤により、環境に影響を与えるようなことがなく、環境に対して負荷を与えるようなことがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、潤滑剤が付着されているワイヤロープに関するものである。特に、この発明は、環境への影響を考慮した低環境負荷型のワイヤロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
防錆、潤滑などを目的として、グリースなどの潤滑剤が付着されている(設けられている)ワイヤロープは、従来からある(たとえば、特許文献1、特許文献2)。
【0003】
かかるワイヤロープにおいては、使用に際して、グリースなどの潤滑剤が落ち、自然界へ流出する。このために、かかるワイヤロープは、環境への影響を考慮した低環境負荷型のグリースなどの潤滑剤を用いる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−228893号公報
【特許文献2】特開平11−182785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明が解決しようとする課題は、環境への影響を考慮した低環境負荷型のワイヤロープを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明(請求項1にかかる発明)は、複数本の素線を撚り合わせてなる芯ストランドと、複数本の素線を撚り合わせてなり、かつ、芯ストランドの外周に撚り合わせてなる複数本の外ストランドと、芯ストランド、複数本の外ストランドのうち少なくともいずれか一方に設けられている潤滑剤と、を備え、潤滑剤が、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含む、ことを特徴とする。
【0007】
この発明(請求項2にかかる発明)は、芯ストランドが植物繊維もしくは合成樹脂繊維の複数本の素線を撚り合わせてなり、複数本の外ストランドが金属製の複数本の素線を撚り合わせてなり、芯ストランドには潤滑剤が含浸されている、ことを特徴とする。
【0008】
この発明(請求項3にかかる発明)は、芯ストランドが金属製の複数本の素線を撚り合わせてなり、複数本の外ストランドが金属製の複数本の素線を撚り合わせてなり、芯ストランド、複数本の外ストランドのうち少なくともいずれか一方には潤滑剤が塗布されている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明(請求項1にかかる発明)のワイヤロープは、潤滑剤として、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含む潤滑剤であって、工業用潤滑剤と同程度の防錆性、耐水性、撥水性、付着性を有しながら、食品機械用潤滑剤と同等の安全性を備える潤滑剤を用いる。このために、この発明(請求項1にかかる発明)のワイヤロープは、使用に際して、潤滑剤が落ちたとしても、この潤滑剤により、環境に影響を与えるようなことがなく、環境に対して負荷を与えるようなことがない。
【0010】
この発明(請求項2にかかる発明)のワイヤロープは、植物繊維もしくは合成樹脂繊維の複数本の素線を撚り合わせてなる芯ストランドに潤滑剤を含浸させるものであるから、前記の発明(請求項1にかかる発明)のワイヤロープと同様に、使用に際して、潤滑剤が落ちたとしても、この潤滑剤により、環境に影響を与えるようなことがなく、環境に対して負荷を与えるようなことがない。
【0011】
この発明(請求項3にかかる発明)のワイヤロープは、金属製の複数本の素線を撚り合わせてなる芯ストランド、複数本の外ストランドが金属製の複数本の素線を撚り合わせてなる複数本の外ストランドのうち少なくともいずれか一方に潤滑剤を塗布するものであるから、前記の発明(請求項1にかかる発明)のワイヤロープと同様に、使用に際して、潤滑剤が落ちたとしても、この潤滑剤により、環境に影響を与えるようなことがなく、環境に対して負荷を与えるようなことがない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、この発明にかかるワイヤロープの実施例1を示す側面図(一部を解いた状態の側面図)である。
【図2】図2は、この発明にかかるワイヤロープの実施例2を示す側面図(一部を解いた状態の側面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明にかかるワイヤロープの実施例のうちの2例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
図1は、この発明にかかるワイヤロープの実施例1を示す側面図(一部を解いた状態の側面図)である。図1中における符号「1」は、この実施例1にかかるワイヤロープである。
【0015】
前記ワイヤロープ1は、芯ストランド2と、複数本の外ストランド3と、潤滑剤(図示せず)と、を備えるものである。前記ワイヤロープ1は、たとえば、港湾設備、橋梁、漁業関係、クレーン、水門などに使用される。
【0016】
前記芯ストランド2は、植物繊維(たとえば、麻など)もしくは合成樹脂繊維(たとえば、ピリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレンなど)の複数本の素線21を撚り合わせてなる。前記芯ストランド2には、前記潤滑剤が含浸されている。前記芯ストランド2に前記潤滑剤を含浸させる工程としては、たとえば、前記複数本の素線21を撚り合わせる際に、前記潤滑剤を含浸させる。または、前記複数本の素線21を撚り合わせた後に、液状の前記潤滑剤を含浸させる。
【0017】
前記複数本の外ストランド3は、金属製(たとえば、鋼など)の複数本の素線31を撚り合わせてなる。前記複数本の外ストランド3は、前記芯ストランド2の外周に撚り合わせられている。前記複数本の外ストランド3には、前記潤滑剤が塗布されている。前記複数本の外ストランド3に前記潤滑剤を塗布する工程としては、たとえば、前記複数本の素線31を撚り合わせる際に、半固形状の前記潤滑剤を加圧もしくは加熱もしくは加圧加熱して塗布する。または、前記複数本の素線31を撚り合わせた後に、半固形状の前記潤滑剤を加圧もしくは加熱もしくは加圧加熱して塗布する。
【0018】
前記潤滑剤(特開2006−182856号公報参照)は、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含むものである。前記潤滑剤の各成分の配合量は、アルミニウム複合石けん1〜10重量%、ポリイソブチレン1〜15重量%、モノオレイン酸ソルビタン1〜7.5重量%、および、残部が流動パラフィンである。また、ポリイソブチレンの平均分子量が35,000〜140,000の範囲であり、モノオレイン酸ソルビタンのけん化価が145〜160およびヒドロキシル価が193〜210である。前記潤滑剤は、粘度を高くした(グリース化した)ものを使用する。
【0019】
この実施例1におけるワイヤロープ1は、以上のごとき構成からなるので、潤滑剤として、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含む潤滑剤であって、工業用潤滑剤と同程度の防錆性、耐水性、撥水性、付着性を有しながら、食品機械用潤滑剤と同等の安全性を備える潤滑剤を用いる。このために、この実施例1におけるワイヤロープ1は、使用に際して、潤滑剤が落ちたとしても、この潤滑剤により、環境に影響を与えるようなことがなく、環境に対して負荷を与えるようなことがない。
【0020】
この実施例1におけるワイヤロープ1に用いる潤滑剤は、生分解性が低いので、潤滑剤の耐候性がある。すなわち、この実施例1におけるワイヤロープ1に用いられる潤滑剤は、既存の潤滑剤(いわゆる、赤ロープ油)と比較してほぼ同等の潤滑性、耐久性、耐候性がある。また、この実施例1におけるワイヤロープ1に用いられる潤滑剤は、植物油系のグリースと違い、既存の潤滑剤(いわゆる、赤ロープ油)を重ねて塗布しても、環境性能は低下するが、防錆性、潤滑性の性能が劣化することがない。さらに、この実施例1におけるワイヤロープ1は、前記の潤滑剤を用いてもワイヤロープ1自体が変わらないので、強度的にも変わらない。
【実施例2】
【0021】
図2は、この発明にかかるワイヤロープの実施例2を示す側面図(一部を解いた状態の側面図)である。図2中における符号「100」は、この実施例2にかかるワイヤロープである。
【0022】
前記ワイヤロープ100は、芯ストランド200と、複数本の外ストランド300と、潤滑剤(図示せず)と、を備えるものである。前記ワイヤロープ100は、たとえば、港湾設備、橋梁、漁業関係、クレーン、水門などに使用される。
【0023】
前記芯ストランド200は、金属製(たとえば、鋼など)の複数本の素線210を撚り合わせてなる。前記芯ストランド200には、前記潤滑剤が塗布されている。前記芯ストランド200に前記潤滑剤を塗布する工程としては、たとえば、前記複数本の素線210を撚り合わせる際に、半固形状の前記潤滑剤を加圧もしくは加熱もしくは加圧加熱して塗布する。または、前記複数本の素線210を撚り合わせた後に、半固形状の前記潤滑剤を加圧もしくは加熱もしくは加圧加熱して塗布する。
【0024】
前記複数本の外ストランド300は、金属製(たとえば、鋼など)の複数本の素線310を撚り合わせてなる。前記複数本の外ストランド300は、前記芯ストランド200の外周に撚り合わせられている。前記複数本の外ストランド300には、前記潤滑剤が塗布されている。前記複数本の外ストランド300に前記潤滑剤を塗布する工程としては、たとえば、前記複数本の素線310を撚り合わせる際に、半固形状の前記潤滑剤を加圧もしくは加熱もしくは加圧加熱して塗布する。または、前記複数本の素線310を撚り合わせた後に、半固形状の前記潤滑剤を加圧もしくは加熱もしくは加圧加熱して塗布する。
【0025】
前記潤滑剤(特開2006−182856号公報参照)は、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含むものである。前記潤滑剤の各成分の配合量は、アルミニウム複合石けん1〜10重量%、ポリイソブチレン1〜15重量%、モノオレイン酸ソルビタン1〜7.5重量%、および、残部が流動パラフィンである。また、ポリイソブチレンの平均分子量が35,000〜140,000の範囲であり、モノオレイン酸ソルビタンのけん化価が145〜160およびヒドロキシル価が193〜210である。
【0026】
この実施例2におけるワイヤロープ100は、以上のごとき構成からなるので、潤滑剤として、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含む潤滑剤であって、工業用潤滑剤と同程度の防錆性、耐水性、撥水性、付着性を有しながら、食品機械用潤滑剤と同等の安全性を備える潤滑剤を用いる。このために、この実施例2におけるワイヤロープ100は、使用に際して、潤滑剤が落ちたとしても、この潤滑剤により、環境に影響を与えるようなことがなく、環境に対して負荷を与えるようなことがない。
【0027】
この実施例2におけるワイヤロープ100に用いる潤滑剤は、生分解性が低いので、潤滑剤の耐候性がある。すなわち、この実施例2におけるワイヤロープ100に用いられる潤滑剤は、既存の潤滑剤(いわゆる、赤ロープ油)と比較してほぼ同等の潤滑性、耐久性、耐候性がある。また、この実施例2におけるワイヤロープ100に用いられる潤滑剤は、植物油系のグリースと違い、既存の潤滑剤(いわゆる、赤ロープ油)を重ねて塗布しても、防錆性、潤滑性の性能が劣化することがない。さらに、この実施例2におけるワイヤロープ100は、前記の潤滑剤を用いてもワイヤロープ100自体が変わらないので、強度的にも変わらない。
【0028】
「実施例1、2以外の例の説明」
なお、前記の実施例1においては、複数本の外ストランド3に潤滑剤を塗布したものである。ところが、この発明においては、複数本の外ストランド3に潤滑剤を塗布しなくても良い。
【0029】
また、前記の実施例2においては、芯ストランド200および複数本の外ストランド300に潤滑剤を塗布したものである。ところが、この発明においては、芯ストランド200にのみ潤滑剤を塗布したものであっても良いし、複数本の外ストランド300にのみ潤滑剤を塗布したものであっても良い。
【符号の説明】
【0030】
1 ワイヤロープ
2 芯ストランド
21 植物繊維もしくは合成樹脂繊維の素線
3 外ストランド
31 金属製の素線
100 ワイヤロープ
200 芯ストランド
210 金属製の素線
300 外ストランド
310 金属製の素線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤が付着されているワイヤロープにおいて、
複数本の素線を撚り合わせてなる芯ストランドと、
複数本の素線を撚り合わせてなり、かつ、前記芯ストランドの外周に撚り合わせてなる複数本の外ストランドと、
前記芯ストランド、前記複数本の外ストランドのうち少なくともいずれか一方に設けられている潤滑剤と、
を備え、
前記潤滑剤は、流動パラフィンを基油とし、アルミニウム複合石けんを増稠剤として、ポリイソブチレンおよびモノオレイン酸ソルビタンを含む、
ことを特徴とするワイヤロープ。
【請求項2】
前記芯ストランドは、植物繊維もしくは合成樹脂繊維の複数本の素線を撚り合わせてなり、
前記複数本の外ストランドは、金属製の複数本の素線を撚り合わせてなり、
前記芯ストランドには、前記潤滑剤が含浸されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤロープ。
【請求項3】
前記芯ストランドは、金属製の複数本の素線を撚り合わせてなり、
前記複数本の外ストランドは、金属製の複数本の素線を撚り合わせてなり、
前記芯ストランド、前記複数本の外ストランドのうち少なくともいずれか一方には、前記潤滑剤が塗布されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のワイヤロープ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−219401(P2012−219401A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85663(P2011−85663)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(506122246)三菱重工鉄構エンジニアリング株式会社 (111)
【出願人】(311007660)株式会社セレソン (1)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】