説明

ワイヤーソー装置および該装置に用いられるワークプレート

【課題】切込み末期のみならず切込み初期における切断面のうねり成分をも低減し、結果として切断終了後のウェーハの表面のうねり成分を十分に低減することが可能なワイヤーソー装置を提供する。
【解決手段】本発明のワイヤーソー装置10のワーク保持機構18は、スライス台22と、ワークプレート24と、ワークプレート保持部26と、を有する。ワークプレート24は、本体部28の側面からワイヤー延在方向Zの両側に突出し、両側それぞれに開口部32A,32Bを有する一対の突出プレート30A,30Bを有し、突出プレート30A,30Bの両外側のうち、少なくともノズル20が位置する側に溝部材34A,34Bを有し、ワイヤー群16からワークプレート保持部26に向けて舞い上がるスラリーを、開口部32A,32Bを通過させて34A,34B溝部材で捕集可能としたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン、化合物半導体等のインゴットから多数のウェーハを切り出すワイヤーソー装置、および該装置に用いられるワークプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板となるウェーハは、シリコンや化合物半導体等からなるインゴットをスライスして製造される。近年、インゴットの切断方法は、ワイヤーソー装置により同時に多数枚のウェーハを切り出す方法が主流になっている。なお、これらインゴットを含め、ワイヤーソー装置による切断処理を受ける対象物を本明細書では「ワーク」という。
【0003】
ここで、図5を用いて従来のワイヤーソー装置を説明する。ワイヤーソー装置は、ワイヤー12を複数のローラ(不図示)間に並列かつ往復走行可能に張り渡したワイヤー群16と、ワークWを保持するワーク保持機構18と、ワイヤー群16のうちワークWが押し込まれる領域Eのワイヤー延在方向両側に位置し、ワイヤー群にスラリーを供給するノズル20と、を有する。ノズル20から遊離砥粒スラリーを供給しながら、ワイヤー群16をその延在方向Zに沿って高速で往復走行させる。これと同時に、ワーク保持機構18により、ワイヤー群16に対しワークWを押し込む方向に移動させる。このときの砥粒の切削作用により、ワークWを多数枚のウェーハに同時に切り出すことができる。
【0004】
ワイヤー走行方向Yの上流側(図中左側)にあるノズル20からワイヤー群16上に供給されたスラリーは、ワークWの内に引き込まれて切断に寄与するものと、切断に寄与しないものとに分かれる。通常、切断に寄与しないスラリーはワイヤー群16の下方に排出される。しかし、ワークWの切込みが進行した切込み末期においては、図5の破線矢印に示すように、切断に寄与しないスラリーの一部がワイヤー群16からワークWの上面に乗り上げてワークプレート保持部26に向けて舞い上がり、再びワイヤー群16またはワークW上面に落下する。その結果、ワイヤー群16やワークWに対するスラリーの過剰供給が生じる。なお、ワイヤー走行方向が逆の場合、反対側(図中右側)で同様の現象が起こる。
【0005】
この場合、切込み末期でワークWの上部が過冷却されることに起因して、ナノトポグラフィ(Nanotopography)やワープ(Warp)といった切断面のうねり形状の指標を損なう問題があった。切断面のうねり成分の増加は、その後に実施する研削、研磨などの平坦化工程で完全に矯正することは困難であり、最終製品のウェーハ品質にも影響する。また、切込み末期にはワークWの切込み済みの空隙部分に過剰のスラリーが供給されることになるため、ワークの長手方向(切断面垂直方向)の両端部が外側に押し広げられ、ウェーハの一部が欠けたり、割れて落下する問題もあった。
【0006】
これらの問題を解決する技術として、特許文献1には、ワイヤー群の上方に配置され、ノズルから供給されて飛散するスラリーを捕集する捕集部材を有するワイヤーソー装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−273711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術によれば、上記のように舞い上がったスラリーが捕集部材に捕集される結果、これがワイヤー群またはワーク上面に再供給されることを抑制できる。その結果、切込み末期におけるうねり成分の増加やウェーハの一部の欠け・割れを抑制することができる。
【0009】
近年、切断面のうねり成分をさらに低減したウェーハが求められている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1のように捕集部材によってワイヤー群またはワーク上面へのスラリーの再供給を抑制するのみでは、ウェーハの切断面のうねり成分を十分に低減することができないことが判明した。特に、切込み初期における切断面のうねり成分が大きく、結果として切断終了後のウェーハの表面のうねり成分を十分に低減できないという問題があった。
【0010】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、切込み末期のみならず切込み初期における切断面のうねり成分をも低減し、結果として切断終了後のウェーハの表面のうねり成分を十分に低減することが可能なワイヤーソー装置および該装置に用いるワークプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)ワイヤーを複数のローラ間に並列かつ走行可能に張り渡したワイヤー群と、ワークを保持し、前記ワイヤー群に対し前記ワークを押し込む方向に移動させるワーク保持機構と、前記ワイヤー群のうち前記ワークが押し込まれる領域の少なくともワイヤー走行方向上流側から、前記ワイヤー群にスラリーを供給するノズルと、を有し、
前記ワーク保持機構は、前記ワークを直接吊下げ保持するスライス台と、該スライス台を下面で保持するワークプレートと、該ワークプレートを吊下げ保持するワークプレート保持部と、を有するワイヤーソー装置であって、
前記ワークプレートは、ワイヤー延在方向の両側に向かって前記スライス台よりも突出し、前記ワークプレート保持部の下面と離間し、両側それぞれに開口部を有する一対の突出プレートを有し、
該突出プレートの前記ワイヤー延在方向両外側のうち、少なくとも前記ノズルが位置する側に溝部材を有し、
前記ワイヤー群から前記ワークプレート保持部に向けて舞い上がるスラリーを、前記開口部を通過させて前記溝部材で捕集可能としたことを特徴とするワイヤーソー装置。
【0012】
(2)前記溝部材が、前記突出プレートに着脱可能に取り付けられ、または前記突出プレートと一体化している上記(1)に記載のワイヤーソー装置。
【0013】
(3)前記ワイヤー延在方向における前記ワークプレートの幅が、円柱状の前記ワークの直径をRとして0.4R以上である上記(1)または(2)に記載のワイヤーソー装置。
【0014】
(4)ワイヤーソー装置に用いられるワークプレートであって、ワークを直接吊下げ保持するスライス台を下面が保持し、上部が前記ワイヤーソー装置のワークプレート保持部に保持される、前記ワークの長手方向に延在する本体部と、該本体部の側面から両側に突出し、両側それぞれに開口部を有する一対の突出プレートと、該突出プレートの両外側のうち少なくとも一方に連結された溝部材と、を有することを特徴とするワークプレート。
【発明の効果】
【0015】
本発明のワイヤーソー装置およびワークプレートによれば、突出プレートを設けてワークプレートの剛性を高めた。さらに突出プレートには開口部を設けるとともに、突出プレートの外側に溝部材を設け、舞い上がるスラリーを、開口部を通過させて溝部材で捕集可能とした。その結果、切込み末期のみならず切込み初期における切断面のうねり成分をも低減し、結果として切断終了後のウェーハの表面のうねり成分を十分に低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に従うワイヤーソー装置10を示す模式図である。
【図2】本発明に従うワイヤーソー装置10におけるワーク保持機構18の、ワイヤー延在方向の断面図であり、(A)は切込み開始時を、(B)は切込み末期を示す。
【図3】本発明に従うワイヤーソー装置10におけるワークプレート24の(A)正面図、(B)上面図、および(C)斜視図である。
【図4】実施例および比較例におけるナノトポグラフィの測定結果を示すグラフである。
【図5】従来のワイヤーソー装置におけるワーク保持機構の、切込み末期におけるワイヤー延在方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明することにより、本発明をより詳細に説明する。
【0018】
図1に本発明の一実施形態であるワイヤーソー装置10を、図2に該装置のワーク保持機構周辺を示す。ワイヤーソー装置10は、ワイヤー12を複数のローラ14間に並列かつ往復走行可能に張り渡したワイヤー群16と、ワークWを保持し、ワイヤー群16に対しワークWを押し込む方向に移動させるワーク保持機構18と、ワイヤー群16のうちワークWが押し込まれる領域Eのワイヤー延在方向Z両外側から、ワイヤー群16にスラリーを供給する一対のノズル20と、を有する。
【0019】
ワイヤー12は、駆動モータ36により回転する一組のワイヤーリール38に巻き付けられている。駆動モータ36を駆動することで、ワイヤー12はワイヤーリール38から繰り出され、トラバーサを介してパウダクラッチやダンサローラ等からなる張力付与手段を経て、ワイヤー12に張力が付与されつつも、ワイヤー12が走行することとなる。ワイヤー12は、複数のローラ14を跨って計300〜400回程度螺旋巻回することにより、ローラ14間でローラ軸方向Xに直行する方向に並列に並ぶワイヤー群16を構成している。また、ローラ14は鋼製円筒の周囲にポリウレタン樹脂を圧入し、その表面に一定のピッチで溝を切ったローラである。この溝にワイヤー12をはめ込むことでワイヤー群16が安定して走行可能となる。駆動モータ36の回転方向を制御することにより、ワイヤー12の走行方向も制御することができ、ワイヤー12を一方向に走行させることも、必要に応じて往復走行させることも可能である。なお、ワイヤー群16は、例えば、2.0〜3.0Nの張力を付与して、400〜900m/minの平均速度で走行させることができる。
【0020】
スラリーは、スラリータンク40に貯蔵されており、スラリータンク40からスラリーを調温するスラリーチラー42を介してノズル20へと送り込まれる。
【0021】
ワーク保持機構18は、図2に示すように、ワークWを直接吊下げ保持するスライス台22と、このスライス台22を下面28Aで保持するワークプレート24と、このワークプレート24を吊下げ保持するワークプレート保持部26と、を有する。スライス台22は典型的にはカーボンからなる。ワークWは、例えばエポキシ系接着剤によりスライス台22に接着、固定されている。ワークプレート24は典型的にはステンレス鋼、炭素鋼などから構成され、スライス台22とエポキシ系接着剤などにより接着されている。ワークプレート保持部26は典型的にはステンレス鋼、炭素鋼などから構成され、ワークプレート24を例えばクランプ機構によって吊下げ保持するものである。図2および後述の図3において、クランプ機構の詳細は図示していないが、ワークプレート24の本体部28の上部28Bには、凹部などの係合部(不図示)が設けられ、ワークプレート保持部26は、この係合部と係合するクランプ機構を有する。
【0022】
図2(A)および図2(B)を参照して、上記のような構成のワイヤーソー装置10におけるワークWの切断を説明する。ノズル20から遊離砥粒スラリーを供給しながら、ワイヤー群16をその延在方向Zに沿って高速で往復走行させる。これと同時に、ワーク保持機構18により、ワイヤー群16に対しワークWを押し込む方向に移動させる。このときの砥粒の切削作用により、ワークWを多数枚のウェーハに同時に切り出すことができる。
【0023】
ここで、図2および図3を参照して、本発明の特徴的構成を作用効果とともに説明する。ワークプレート24は、ワイヤー延在方向Zの両側に向かってスライス台22よりも突出し、ワークプレート保持部26の下面26Aと離間し、両側それぞれに開口部32A,32Bを有する一対の突出プレート30A,30Bを有する。また、突出プレート30A,30Bのワイヤー延在方向Z両外側のうち、少なくともノズル20が位置する側、本実施形態では両外側に溝部材34A,34Bを有する。
【0024】
本実施形態で用いるワークプレート24は、本体部28および一対の突出プレート30A,30Bを有する。本体部28はワークWの長手方向に延在し、ワークWを直接吊下げ保持するスライス台22を下面28Aが保持し、上部28B(図3(A),(C)中の二点鎖線より上の部分)がワイヤーソー装置のワークプレート保持部26に保持される。一対の突出プレート30A,30Bは、本体部の側面28C,28Dから両側に突出し、両側それぞれに開口部32A,32Bを有する。さらに、ワークプレート24は、この突出プレート30A,30Bの両外側に連結された溝部材34A,34Bを有する。
【0025】
本発明者らは、既述の切込み初期における切断面のうねり成分が大きい原因を鋭意検討したところ、以下の知見を得た。すなわち、切込み初期ではワイヤー走行時に発生する切削抵抗が特に大きくなるため、ワークWの長手方向に延在するワークプレート24に対しワイヤー延在方向Zの負荷がかかる。そのため、切込み初期にワークプレート24がワイヤー延在方向Zに変形する結果、切断精度が劣るものと思われた。そこで、本体部に一対の突出プレート30A,30Bを設けてワークプレート24の剛性を高めることを想起し、確認した結果、切込み初期におけるワークプレート24の変形に起因する切断面のうねり成分の増加を抑制することができることが明らかとなった。
【0026】
一方、図2(B)に破線矢印で示す切込み末期に舞い上がったスラリーが突出プレート30A,30Bに衝突してしまうと、スラリーがワイヤー群16またはワークW上面に再供給されてしまい、切込み末期の切断のうねり成分が増加してしまう。そこで、突出プレート30A,30Bに開口部32A,32Bを設けるとともに、突出プレート30A,30Bの両外側に溝部材34A,34Bを設けた。ここで、突出プレート30A,30Bはワークプレート保持部の下面26Aと離間しており、両者間に空間が存在する。そのため、ワイヤー群16からワークプレート保持部26に向けて舞い上がるスラリーを、開口部32A,32Bを通過させて溝部材34A,34Bで捕集可能としている。その結果、切込み末期に舞い上がったスラリーがワイヤー群16またはワークW上面に再供給させることを抑制でき、切込み末期における切断面のうねり成分を増加させることがない。また、切込み末期にワークWの切込み済みの空隙部分に過剰のスラリーが供給されることもないため、ウェーハへの欠けや割れの発生も抑制することができる。
【0027】
本発明ではこのように、切込み末期の切断面のうねり成分と切込み初期における切断面のうねり成分を両立させ、結果として切断終了後のウェーハの表面のうねり成分を十分に低減することが可能となった。
【0028】
なお、図2ではワイヤー走行方向Yが左から右であり、一方の溝部材34Aによりスラリーを捕集する例を示したが、ワイヤー走行方向が逆の場合、反対側の溝部材34Bでスラリーを捕集することになるのは勿論である。
【0029】
ここで、本発明では、突出プレートおよび開口部はワイヤー延在方向の両側に設け、これによりワークプレート24の剛性バランスを維持することができる。
【0030】
一方、ノズル20および溝部材34はワイヤー走行方向に応じて、舞い上がったスラリーを捕集するのに最低限必要なように、両側または片側に設ければよい。ワイヤー群16が一方向にのみ走行するワイヤー装置においては、ノズル20は、ワイヤー群16のうちワークWが押し込まれる領域Eの少なくともワイヤー走行方向上流側に設ければよい。その場合、溝部材34も突出プレートのワイヤー延在方向両外側のうち、少なくともノズルが位置する側に設ければよい。
【0031】
溝部材34A,34Bは典型的にはアルミニウム、ステンレス鋼、炭素鋼などの材料で構成することができる。溝部材34A,34Bは、突出プレート30A,30Bの外側に位置していれば、どのように固定されてもよい。例えば、ワークプレート保持部26に組みつけられていてもよい。
【0032】
本実施形態では、溝部材34A,34Bは、例えばネジなどによって突出プレート30A,30Bに着脱可能に取り付けられている。あるいは、溝部材34A,34Bを突出プレート30A,30Bと一体化させて構成してもよい。これらの構成では、溝部材をワークプレート保持部26から吊下げる必要がなく、突出プレート30A,30Bを利用して、溝部材を容易に設置することができる。
【0033】
溝部材34A,34Bは、その延在方向に適切な傾斜がつけられている。そのため、捕集したスラリーは溝部材中を流れて、図3(B)中に矢印で示すように溝部材の両端から、あるいは溝部材の片方の端部から流れ落ち、ワイヤー群16の外側に排出される。
【0034】
突出プレート30A,30Bは、本体部28と別体で、例えばネジなどによって本体部28と着脱可能に取り付けられていてもよいし、あるいは本体部28と一体化していてもよい。ワークプレート24の剛性確保の観点からは、一体化していることが好ましい。
【0035】
ここで、ワイヤー延在方向Zにおけるワークプレート24の幅Aが、円柱状のワークWの直径をRとして0.4R以上であることが好ましい。A≧0.4Rとすることにより、ワークプレートの剛性をより確実に高めることができるからである。なお、「ワイヤー延在方向におけるワークプレートの幅A」は、図2(A)に示すように、一対の突出プレート30A,30Bの端部間距離を示すが、溝部材34A,34Bがワークプレート24と一体化している場合には、溝部材34A,34Bの端部間距離を意味する。
【0036】
ワイヤー延在方向Zにおけるスライス台22の幅およびワークプレートの本体部28の幅は、図2(A)中のBで示されるが、0.25R〜0.5Rとすることが望ましく、両者の幅を略同一サイズとすることが望ましい。すなわち、スライス台22の幅が狭すぎる場合には、ワークWを安定的に保持することが困難であり、幅が広すぎる場合は、ワークWとスライス台22と接触面積が大きくなるため、ワークWの切断後半において、ワイヤー群16によりワークWとスライス台22とが一緒に切断が行われる際、スライス台22からの切削抵抗負荷が大きくなり、切断面のうねり成分が増加するおそれがある。また、各部品そのものが大重量化しハンドリングが困難で、製作コストの上昇を招くおそれもある。一方、ワークプレートの本体部28の幅が狭すぎる場合は、スライス台22を安定的に保持することが困難となり、本体部28の幅がスライス台22の幅よりも広すぎる場合は、ワークプレートの本体部28の下面にワークWの上面を乗り上げて飛散するスラリーが衝突して、ワイヤー群16やワークW上面にスラリーを再供給してしまうおそれがある。このため、ワークプレート本体部28の幅はスライス台22の幅を超えないように設定することが有効となる。
【0037】
そして、突出プレート30A,30Bのそれぞれの突出幅は、図2(A)中のCで示されるが、0.1R〜0.3Rとすることが望ましい。突出幅が狭すぎると、ワークプレート24の剛性を十分に高めることができなくなるおそれがある。また、突出幅が広すぎると、ノズル20と接触干渉避けるべく、ノズル20をワークWからより遠ざけた位置に設置しなければならず、スラリーの安定供給を行えなくなるおそれがある。
【0038】
開口部32A,32Bは、舞い上がるスラリーが十分に通過できる寸法および位置にあれば特に限定されない。図3(B)および図3(C)に示す本実施形態のように、開口部32A,32Bは突出プレート30A,30BにおけるワークWの長手方向のほぼ全域にわたって設けられることが好ましい。
【実施例】
【0039】
(実施例)
図1〜図3に示す本発明に従うワイヤーソー装置を用いて、以下の表1に示す切断条件にて、シリコン単結晶インゴット(直径300mm、ブロック長さ400mm)の切断を実施した。切り出されるウェーハの厚さは、約0.7〜1.0mmとした。スライス台はカーボン製とした。ワークプレートは炭素鋼製、溝部材はアルミニウム製とし、両者をネジで連結した。ワークプレートの本体部と突出プレートは一体化形成したものを用いた。幅Aは250mm、幅Bは100mmとした。
【0040】
(比較例1)
図5に示す従来のワイヤーソー装置を用いて、実施例と同様の試験を実施した。このワイヤーソー装置のワーク保持機構18は、カーボン製のスライス台24、SUS製のワークプレート24、ワークプレート保持部26からなるが、ワークプレートには突出プレートを設けない。スライス台22の幅およびワークプレート24の幅は、ともに100mmとした。このワイヤーソー装置には溝部材を設けていない。
【0041】
(比較例2)
図5に示すワイヤーソー装置に対して、一対の溝部材のみ付加したワイヤーソー装置を用いて、実施例と同様の試験を実施した。溝部材は実施例と同様アルミニウム製とし、ワークプレート保持部に固定することにより実施例と同じ場所に位置するようにした。
【0042】
【表1】

【0043】
(ナノトポグラフィ)
ナノトポグラフィは、ウェーハの表面のうねり成分を現す指標の一つであり、数10mmの空間波長領域における微小な凹凸の大小を示す指標であるPeak Valley値を示す。数値が大きいほどうねりが大きく、表面のうねり形状が急峻であることを示す。実施例および比較例1,2により得られたウェーハに対し、KLA Tencor製のNanomapperを使用して、ウェーハ表面のナノトポグラフィを評価した。その結果を図4に示す。
【0044】
図4の上段のグラフは、実施例、比較例1,2それぞれについて、切断終了後のワークWの長手方向から等間隔で抜き取ったウェーハのナノトポグラフィを評価したときの結果である。各実験例ともウェーハ評価枚数は10枚である。実施例では比較例1,2よりも低いナノトポグラフィの値が得られた。なお、図4上段のグラフ中のボックスは、各試験におけるデータの50%が占める範囲であり、ボックス内のバーは全体の平均値を示す。
【0045】
図4の下段のグラフは、各試験例で得られた任意の1枚のウェーハについて、切断開始の位置から切断終了の位置までのナノトポグラフィの値の変化を示すグラフである。通常、ワークWの両端側でナノトポグラフィの値が悪くなる傾向があるため、評価したウェーハは各実験とも、ワークWの最外端に位置するウェーハとした。比較例1では、切込み初期と切込み末期の位置でいずれも大きなうねりが発生し、表面のうねり形状が損なわれていた。比較例2では、溝部材によって舞い上がったスラリーを捕集した結果、切込み末期の位置でのうねりが改善した。しかし、切込み初期の位置では依然として大きなうねりが発生し、十分ではなかった。一方、実施例では、切込み初期と切込み末期の両方の位置でうねりが改善され、ウェーハ表面全体として十分にうねり成分を低減することができた。
【0046】
(ウェーハの割れ)
各試験例での割れ発生率を調べた。割れ発生率は、各試験例において、1回のインゴット切断で加工したウェーハ数に占める割れたウェーハの数である。すると、比較例1では3.2%、比較例2では1.4%であったのに対し、実施例では0.1%であった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のワイヤーソー装置およびワークプレートによれば、切込み末期のみならず切込み初期における切断面のうねり成分をも低減し、結果として切断終了後のウェーハの表面のうねり成分を十分に低減することが可能となった。
【符号の説明】
【0048】
10 ワイヤーソー装置
12 ワイヤー
14 ローラ
16 ワイヤー群
18 ワーク保持機構
20 ノズル
22 スライス台
24 ワークプレート
26 ワークプレート保持部
26A ワークプレート保持部の下面
28 ワークプレートの本体部
28A ワークプレートの下面
28B ワークプレートの上部
28C,28D 本体部の側面
30A,30B 突出プレート
32A,32B 開口部
34A,34B 溝部材
W ワーク
Y ワイヤー走行方向
Z ワイヤー延在方向


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーを複数のローラ間に並列かつ走行可能に張り渡したワイヤー群と、
ワークを保持し、前記ワイヤー群に対し前記ワークを押し込む方向に移動させるワーク保持機構と、
前記ワイヤー群のうち前記ワークが押し込まれる領域の少なくともワイヤー走行方向上流側から、前記ワイヤー群にスラリーを供給するノズルと、
を有し、
前記ワーク保持機構は、前記ワークを直接吊下げ保持するスライス台と、該スライス台を下面で保持するワークプレートと、該ワークプレートを吊下げ保持するワークプレート保持部と、を有するワイヤーソー装置であって、
前記ワークプレートは、ワイヤー延在方向の両側に向かって前記スライス台よりも突出し、前記ワークプレート保持部の下面と離間し、両側それぞれに開口部を有する一対の突出プレートを有し、
該突出プレートの前記ワイヤー延在方向両外側のうち、少なくとも前記ノズルが位置する側に溝部材を有し、
前記ワイヤー群から前記ワークプレート保持部に向けて舞い上がるスラリーを、前記開口部を通過させて前記溝部材で捕集可能としたことを特徴とするワイヤーソー装置。
【請求項2】
前記溝部材が、前記突出プレートに着脱可能に取り付けられ、または前記突出プレートと一体化している請求項1に記載のワイヤーソー装置。
【請求項3】
前記ワイヤー延在方向における前記ワークプレートの幅が、円柱状の前記ワークの直径をRとして0.4R以上である請求項1または2に記載のワイヤーソー装置。
【請求項4】
ワイヤーソー装置に用いられるワークプレートであって、
ワークを直接吊下げ保持するスライス台を下面が保持し、上部が前記ワイヤーソー装置のワークプレート保持部に保持される、前記ワークの長手方向に延在する本体部と、
該本体部の側面から両側に突出し、両側それぞれに開口部を有する一対の突出プレートと、
該突出プレートの両外側のうち少なくとも一方に連結された溝部材と、
を有することを特徴とするワークプレート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−86233(P2013−86233A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230854(P2011−230854)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】