説明

ワイヤーハーネスの掛け留め構造

【課題】着座者に異物感を生じさせることなく、シート状に形成された織物にワイヤーハーネスを掛け留める構造を提供すること。
【解決手段】シート状に形成された織物34の一部には、ワイヤーハーネスWの少なくとも一部を挿入可能な多重織部34a(34b)が形成されている。そして、この多重織部34a(34b)にワイヤーハーネスWを挿入し、この挿入したワイヤーハーネスWを織物34に掛け留めている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスの掛け留め構造に関し、詳しくは、シート状に形成された織物にワイヤーハーネスを掛け留める構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図5〜6に示すように、シートクッション102のクッションパッド120の沈み込みを防止するパッド支持体130を備えたフロントシート101が既に知られている。ここで、下記特許文献1には、パッド支持体130が複数のSバネ134から成るものが開示されている。これにより、ワイヤーハーネスwを樹脂製の取付部材140を介してSバネ134に掛け留めることができるため、着座者に異物感を与えることなくシートクッション102の内部にワイヤーハーネスwを配線できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−125121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1の技術では、例えば、軽量化およびシートクッション102下の空間確保の目的から、シートクッション102のクッションパッド120を肉薄にする(厚みを薄くする)ことが求められることがあった。このようにクッションパッド120を肉薄にすると、Sバネ134が着座者に異物感を生じさせるという問題が発生していた。この問題を解決するために、Sバネ134に代わり張設したネットを用いることも考案された。しかしながら、この考案では、張設したネットにワイヤーハーネスwを配線する場合、このワイヤーハーネスwをネットに掛け留めるための取付部材が着座者に異物感を生じさせるという新たな問題が発生していた。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、着座者に異物感を生じさせることなく、シート状に形成された織物にワイヤーハーネスを掛け留める構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、シート状に形成された織物にワイヤーハーネスを掛け留める構造であって、織物の一部には、ワイヤーハーネスの少なくとも一部を挿入可能な多重織部が形成されており、この多重織部にワイヤーハーネスを挿入し、この挿入したワイヤーハーネスを織物に掛け留めることを特徴とする構造である。
この構造によれば、取付部材を必要とすることなく、織物にワイヤーハーネスを配線できる。したがって、着座者に異物感を生じさせることなく、ワイヤーハーネスを配線できる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、請求項2に記載のワイヤーハーネスの掛け留め構造であって、織物は、車両用シートのクッションパッドを支持するネットであることを特徴とする構造である。
この構造によれば、例えば、車両用シートのシートクッション内部であっても、簡便にワイヤーハーネスを配線できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の実施例に係るフロントシートのシートクッションの分解斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II線断面図である。
【図3】図3は、図1を組み付けてパッド支持体のネットにワイヤーハーネスを掛け留めた状態を示す図である。
【図4】図4は、図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図5は、従来技術に係るフロントシートのシートクッションの分解斜視図である。
【図6】図6は、図5のパッド支持体を裏側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜4を用いて説明する。なお、以下の説明にあたって、上、下、前、後、左、右とは、上述した図に記載した、上、下、前、後、左、右の方向、すなわち、フロントシート1を基準にしたときの上、下、前、後、左、右の方向を示している。
【0010】
まず、図1〜2を参照して、本発明の実施例に係るフロントシート1の全体構成を説明する。このフロントシート1(例えば、運転席、助手席)は、主として、シートクッション2と、シートバック(図示しない)とから構成されている。以下に、このシートクッション2の詳細な構成について説明する。なお、シートバック(図示しない)は、公知のものでよいため、その詳細な説明は省略することとする。
【0011】
シートクッション2は、クッションフレーム10と、このクッションフレーム10に対して包着状に組み付けられるクッションパッド20と、この組み付けたクッションパッド20の沈み込みを防止する(クッションパッド20を支持する)パッド支持体30と、このクッションパッド20の表面をカバーリングする表皮(図示しない)とから構成されている。
【0012】
このクッションフレーム10は、左のサイドフレーム12と、右のサイドフレーム14と、フロントパネル16と、ロアロッド18とから構成されている。そして、これら左のサイドフレーム12と、右のサイドフレーム14と、フロントパネル16と、ロアロッド18とは、略矩形枠状を成すように溶接によって接合されている。
【0013】
一方、このパッド支持体30は、左辺32a、右辺32b、前辺32c、後辺32dから略矩形枠状に形成されたワイヤー32と、このワイヤー32に対して張設されたネット34(ワイヤー32の中を張ったネット34)とから構成されている。このネット34が、特許請求の範囲に記載の「シート状に形成された織物」に相当する。このワイヤー32の左右の辺32a、32bには、上述したクッションフレーム10の左右のサイドフレーム12、14に掛け留め可能なフック38、38が形成されている。
【0014】
また、このネット34の左右方向の中央には、その前後に後述するワイヤーハーネスWを挿入可能な二重織部34a、34aが形成されている。このネット34の左右方向の中央における前後が、特許請求の範囲に記載の「織物の一部」に相当する。この二重織部34aは、図2からも明らかなように、ネット34が二重構造を成すように織り込まれた部位である。この折り込みは、公知の技術で可能となっている。このように織り込むと、ネット34の左右方向の中央における前後の二箇所を袋状に形成できる(以下、この「袋状に形成した」部位を、「差込孔34b」と記す)。
【0015】
また、このワイヤー32の前辺32cは、上述したクッションフレーム10のフロントパネル16に形成されている切り起し片16aに掛け留め可能に形成されている。また、このワイヤー32の後辺32dは、上述したクッションフレーム10のロアロッド18に掛け留め可能となるように、その両縁が折り曲げられている。
【0016】
ここで、このネット34の張設方法について詳述していく。まず、張設装置(図示しない)の下金型(図示しない)にワイヤー32をセットする作業を行う。次に、このセットしたワイヤー32に対してネット34をセットする作業を行う。このネット34には、ワイヤー32の幅方向に対して十分に長くなる余長部(図示しない)が形成されている。
【0017】
そのため、上述したネット34をセットする作業を行うとき、この余長部を把持してネット34が張った状態で作業を行う。最後に、張設装置(図示しない)の上金型(図示しない)を下金型(図示しない)に向けて型締めしていき、このワイヤー32の左右の辺32a、32bとネット34とを接合させるための樹脂(図示しない)を注入する作業を行う。
【0018】
そして、注入した樹脂(図示しない)が固化すると、ネット34が張設されたワイヤー32、すなわち、パッド支持体30が完成する。なお、完成したパッド支持体30において、ネット34の余長部をカットしてもよいし、カットしなくてもどちらでも良い。なお、本実施例では、この余長部をカットしたため、図示していない。
【0019】
このようにして形成されたパッド支持体30は、上述したように、その左右の辺32a、32bの各フック38がクッションフレーム10の左右のサイドフレーム12、14に掛け留めされ、その前辺32cがクッションフレーム10のフロントパネル16の切りお越し片16aに掛け留めされ、その後辺32dがクッションフレーム10のロアロッド18に掛け留めされクッションフレーム10に組み付けられている。
【0020】
このようにパッド支持体30が組み付けられたクッションフレーム10にクッションパッド20が組み付けられ、この組み付けられたクッションパッド20の表面を表皮(図示しない)によってカバーリングすることでシートクッション2が完成する。
【0021】
このようにして完成したシートクッション2内部にワイヤーハーネスWを配線するとき、図3〜4に示すように、この配線するワイヤーハーネスWをネット34の差込孔34b、34bに差し込んで配線できる。フロントシート1は、このように構成されている。
【0022】
本発明の実施例1に係るフロントシート1は、上述したように構成されている。この構成によれば、このネット34の左右方向の中央には、その前後に後述するワイヤーハーネスWを挿入可能な二重織部34a、34aが形成されている。そして、この二重織部34aによって形成される差込孔34bにワイヤーハーネスWを挿入し、この挿入したワイヤーハーネスWをネット34に掛け留めることができる。そのため、取付部材を必要とすることなく、ネット34にワイヤーハーネスWを配線できる。したがって、着座者に異物感を生じさせることなく、ワイヤーハーネスWを配線できる。
【0023】
また、この構成によれば、ネット34は、クッションパッド20を支持するものである。そのため、フロントシート1のシートクッション2内部であっても、簡便にワイヤーハーネスWを配線できる。
【0024】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、『多重織部』として、『二重織部34a』を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、『三重織部』、『四重織部』であっても構わない。その場合、2個、3個の差込孔34bが形成されるため、各差込孔34bに個別にワイヤーハーネスWを配線できる。
【符号の説明】
【0025】
1 フロントシート
20 クッションパッド
34 ネット(織物)
34a 二重織部(多重織部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状に形成された織物にワイヤーハーネスを掛け留める構造であって、
織物の一部には、ワイヤーハーネスの少なくとも一部を挿入可能な多重織部が形成されており、
この多重織部にワイヤーハーネスを挿入し、この挿入したワイヤーハーネスを織物に掛け留めることを特徴とするワイヤーハーネスの掛け留め構造。
【請求項2】
請求項2に記載のワイヤーハーネスの掛け留め構造であって、
織物は、車両用シートのクッションパッドを支持するネットであることを特徴とするワイヤーハーネスの掛け留め構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−249842(P2012−249842A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−125177(P2011−125177)
【出願日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)