説明

ワイヤーハーネス

【課題】テープ巻等の手間のかかる結束材を使用せずに電線を束ねることが可能であり、車両等への取り付けが容易であるワイヤーハーネスを提供する。
【解決手段】少なくとも絶縁体3が強磁性体からなる強磁性絶縁電線1と、磁石からなる結束材5を用い、複数本の前記強磁性絶縁電線1が前記結束材5に吸引されて前記強磁性絶縁電線1が結束されて、ワイヤーハーネスが構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に用いられるワイヤーハーネス100は、図8に示すように、複数の電線101を組み合わせて、電線101を束ねて構成されている。このワイヤーハーネス100に用いられる電線101は、一般に、銅線やアルミニウム線等の導体102の周囲が、樹脂皮膜等の絶縁体103により被覆されているものである。
【0003】
上記ワイヤーハーネス100の電線を束ねるためには、例えばテープ等の結束材104を用いて、電線101の周囲を巻回している(例えば特許文献1参照)。
【0004】
またワイヤーハーネス100を車両等の所定の位置に組み付ける場合、図9(a)に示すように、クランプ110等の取り付け部材を使用してワイヤーハーネス100を車両111に固定している(例えば特許文献2参照)。
【0005】
またワイヤーハーネス100は、図9(b)に示すように、ホットメルト接着剤112を使用して、車両111に接着して固定する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−217357号公報
【特許文献2】特開平10−201058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来、ワイヤーハーネス100を製造する場合、製造工程では電線を束ねるために、テープ等の結束材(拘束部材ということもある)104が必要となる。また、ワイヤーハーネス製造工程では、テープ等を巻く作業が必要であり、作業に手間がかかるという問題があった。
【0008】
また従来、ワイヤーハーネス100を車両111に組み付ける工程では、クランプ110やホットメルト接着剤112等の、ワイヤーハーネス100以外の取り付け部材が必要となる。また、クランプ110を使用する場合は、クランプ110の車両111等への取り付け作業が必要であり、取り付けに手間がかかるという問題があった。また、ホットメルト接着剤112を使用する場合は、ホットメルト接着剤を塗る作業が必要であり、作業に手間がかかり、ホットメルト接着剤塗布装置等が必要となるという問題があった。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決しようとするものであり、テープ巻等の手間のかかる結束材を使用せずに電線を束ねることが可能であり、車両等への取り付けが容易であるワイヤーハーネスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明のワイヤーハーネスは、少なくとも絶縁体が強磁性体からなる強磁性絶縁電線と、磁石からなる結束材を用い、複数本の前記強磁性絶縁電線が前記結束材に吸引されて前記強磁性絶縁電線が結束していることを要旨とするものである。
【0011】
上記ワイヤーハーネスにおいて、前記結束材の外側に前記複数本の前記強磁性絶縁電線が配置されているように構成することができる。
【0012】
上記ワイヤーハーネスにおいて、前記複数本の強磁性絶縁電線の外側に結束材が配置されているように構成することができる。
【0013】
上記ワイヤーハーネスにおいて、前記結束材が、最大エネルギー積〔(BH)max〕が2kJ/m以上の永久磁石からなることが好ましい。
【0014】
上記ワイヤーハーネスにおいて、前記強磁性体が、比透磁率(μ)が2以上の高透磁率材料からなることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のワイヤーハーネスは、少なくとも絶縁体が強磁性体からなる強磁性絶縁電線と、磁石からなる結束材を用い、複数本の前記強磁性絶縁電線が前記結束材に吸引されて前記強磁性絶縁電線が結束していることにより、複数の強磁性電線が磁石に吸引されるので、容易に束ねることができる。強磁性電線を磁石に吸引させる作業は、従来のテープ巻き等に比較して作業が容易である。
【0016】
また本発明のワイヤーハーネスは、車両等に配索して取り付ける場合、磁力により固定されるので、従来のワイヤーハーネスのように、クランプ、接着剤、ホットメルト接着剤塗布装置等が不要であり、部品点数を削減することができる。
【0017】
更に本発明のワイヤーハーネスは、接着剤やクランプ等の取り付け作業が不要となるので、ハーネス配索作業の工数を低減することができ、車体等への取り付け作業も容易である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のワイヤーハーネスの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のワイヤーハーネスの他の例を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA−A線縦断面を示す断面図である。
【図3】図1のワイヤーハーネスに用いられる強磁性絶縁電線を示す断面図である。
【図4】本発明のワイヤーハーネスに用いられる強磁性絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図5】(a)、(b)は本発明のワイヤーハーネスに用いられる強磁性絶縁電線の態様を示す断面図である。
【図6】図1のワイヤーハーネスの使用例を示す断面図である。
【図7】図2のワイヤーハーネスの使用例を示す断面図である。
【図8】従来のワイヤーハーネスを示す断面図である。
【図9】(a)、(b)は従来のワイヤーハーネスの使用例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明のワイヤーハーネスの一例を示す断面図である。図1に示すワイヤーハーネス10は、導体2が強磁性体からなる絶縁体3により被覆されている強磁性絶縁電線1を複数本(21本)と、磁石からなる結束材5とを用いたものである。ワイヤーハーネス10は、結束材5の外側周囲に複数本の強磁性絶縁電線1が配置されて結束されている。
【0020】
結束材5は、断面形状が楕円形の線材として形成されている。図1のワイヤーハーネス10は、結束材5の周囲に配置されている複数本の強磁性絶縁電線1が、中心の磁石からなる結束材5に吸引されることで、電線全体が結束されて、ワイヤーハーネス10として形成されている。
【0021】
図2(a)、(b)は本発明のワイヤーハーネスの他の例を示し、(a)は斜視図であり、(b)は(a)のA−A線縦断面を示す断面図である。図2(a)、(b)に示すワイヤーハーネス10は、複数本の強磁性絶縁電線1の外側に、磁石からなる結束材5が配置されて、結束されているものである。図2(a)、(b)に示すように、磁石からなる結束材5は、断面が円弧の一部となる凹状に形成された二つの磁石部材5a、5bから構成されている。ワイヤーハーネス10は、磁石部材5a、5bの凹部が対向するように配置し、磁石部材5a、5bの間に、複数本の強磁性絶縁電線1を配置して結束している。
【0022】
図2(a)、(b)に示す二つに分割形成された磁石部材5a、5bからなる結束材5は、電線長手方向の長さは特に限定されず、適宜の長さに形成することができる。結束材5は、強磁性絶縁電線の長手方向の所定の長さ毎に配置して、複数本の強磁性絶縁電線1を結束することができる。
【0023】
また本発明のワイヤーハーネスは、特に図示しないが、結束材5が3つ以上の磁石部材の組み合わせとしてもよい。また、ワイヤーハーネス10は、強磁性絶縁電線の本数についても特に限定されず2本以上であればよい。
【0024】
図3は図1のワイヤーハーネスに用いられる強磁性絶縁電線を示す断面図である。図1に示すワイヤーハーネス10の強磁性絶縁電線1は、図3に示すように、非強磁性体からなる導体2の周囲が強磁性体からなる絶縁体3により被覆されている。図1の強磁性絶縁電線は、導体2が単線から構成されている。
【0025】
強磁性絶縁電線1は、磁石からなる結束材5に吸引される強磁性絶縁電線として形成されている。絶縁体3に用いられる強磁性体は、磁石からなる結束材5に吸引される材料であればよい。具体的には図1の絶縁体3は、高透磁率材料を用い形成されている。
【0026】
絶縁体3に用いる高透磁率材料は、強磁性絶縁電線1が磁石からなる結束材5に吸引されて確実に結束できるという点から、比透磁率(μ)が2以上であることが好ましい。更に好ましい絶縁体3の高透磁率材料は、比透磁率(μ)が10以上である。尚、比透磁率μは、下記式(1)で表わされる、材料の透磁率μと真空の透磁率μとの比である。
μ=μ/μ ・・・(1)
【0027】
絶縁体3は、比透磁率(μ)が2以上の高透磁率材料の粉末をゴム、プラスチック等のバインダー樹脂中に練り込んで分散したものを用いることができる。上記バインダー樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、PPS樹脂、合成ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA、EMA、EEA、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、PET、PBT、PVC、PVDF、PVDC、塩素化ポリエチレン、ポリオレフィンエラストマー、スチレン系エラストマー等が挙げられる。
【0028】
上記の比透磁率(μ)が2以上の高透磁率材料としては、電磁軟鉄、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Co−V、Fe−Si−Al等の鉄及び鉄系合金、Fe−Ni、Fe−Ni−Mn、Fe−Ni−Mo、Fe−Ni−Cr−Cu、Fe−Ni−Nb等のパーマロイ系合金、Mn−Zn系、Ni−Zn系、Cu−Zn系等のフェライト化合物、Fe−B−Si−C、Fe−B−Si等のアモルファス化合物等が挙げられる。
【0029】
磁石からなる結束材5は、最大エネルギー積〔(BH)max〕が、2kJ/m以上である永久磁石を用いることが好ましい。結束材5として上記永久磁石を用いることにより、確実に複数本の強磁性絶縁電線1を結束してワイヤーハーネスを構成することができる。
【0030】
更に好ましい永久磁石の最大エネルギー積は3kJ/m以上である。
【0031】
このような最大エネルギー積が〔(BH)max〕が、2kJ/m以上の高保持力材料としては、マルテンサイト鋼、Fe−Cr−Co、アルニコ、ストロンチウムフェライト(SrO・6Fe)、バリウムフェライト(BaO・6Fe)等のフェライト、サマリウムコバルト(SmCo17)等の希土類コバルト、ネオジウム鉄、サマリウム鉄窒素等の希土類鉄等が挙げられる。
【0032】
また上記磁石としては、ボンド磁石、プラスチック磁石、ゴム磁石等を用いることができる。これらは、最大エネルギー積〔(BH)max〕が、2kJ/m以上である上記の高保持力材料の磁性粉末を、ゴム又はプラスチック等のバインダー樹脂中に分散したものである。上記バインダー樹脂としては、例えば、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、PPS樹脂、合成ゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、EVA、EMA、EEA、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、PET、PBT、PVC、PVDF、PVDC、塩素化ポリエチレン、ポリオレフィンエラストマー、スチレン系エラストマー等が挙げられる。
【0033】
図1に示すワイヤーハーネスの強磁性絶縁電線1は、導体2が単線からなるものであるが、導体2は複数の素線の集合体により構成されていてもよい。図4は強磁性電線の他の態様を示す断面図である。図4の強磁性絶縁電線1は、導体2が複数(7本)の素線21から構成されていて、絶縁体3により被覆されている。
【0034】
又、導体2を複数本の素線の集合体から構成する場合、素線21は強磁性体を用いても良いし、非強磁性体を用いてもよく、又強磁性体の素線と非強磁性体の素線を混在させてもよい。
【0035】
また図4に示すように導体2が複数の素線から構成される場合、複数の素線の本数は特に限定されない。また導体2が素線の集合体から構成される場合、単なる集合体、あるいは撚り線からなる集合体のいずれでもよい。
【0036】
導体2(21)を非強磁性体から構成する場合、常磁性体、反磁性体等の強磁性体以外の導体であれば、用いることができる。
【0037】
また導体2(21)を強磁性体から構成する場合、比透磁率(μ)が2以上の高透磁率材料を用いることが好ましい。比透磁率(μ)が2以上の高透磁率材料は、絶縁体の材料で例示したものを用いることができる。
【0038】
また導体2は、比抵抗が、1μΩm以下であることが好ましい。更に好ましい導体2の比抵抗は、0.5μΩmである。
【0039】
図5(a)、(b)は、本発明のワイヤーハーネスに用いる強磁性絶縁電線の他の態様を示す断面図である。強磁性絶縁電線1は、図5(a)、(b)に示すように、導体2と補助線材4を絶縁体3により被覆して構成してもよい。補助線材4は、図5(a)に示すように、導体2とは並列に配置して絶縁体3に被覆されるように形成することができる。
【0040】
また強磁性絶縁電線1の補助線材4は、図5(b)に示すように、導体2を複数本から構成する場合、補助線材4を導体2の中心に配置して、複数の導体2が該補助線材4の周囲を囲むように配置してもよい。
【0041】
補助線材4としては、例えば、SUS線等からなる電線補強用のテンションメンバや、強磁性体を用いて電線に強磁性を付与するための強磁性線材等を用いることができる。補助線材4を強磁性体から構成する場合、比透磁率が2以上のものを用いることが好ましい。
【0042】
補助線材4を強磁性体により構成する場合、補助線材4の材料は、比透磁率(μ)が2以上の高透磁率材料を用いることが好ましい。
【0043】
補助線材4に高透磁率材料を用いる場合、上記した絶縁体の説明で例示した材料を用いることができる。尚、補助線材4に用いる高透磁率材料は、絶縁体の材料とは異なり、絶縁性のない高透磁率材料でも制限なく使用できる。
【0044】
本発明のワイヤーハーネスに用いられる強磁性絶縁電線1は、少なくとも絶縁体3が強磁性体により形成されていればよく、導体2や補助線材4等の絶縁体以外の構成は、強磁性体でも非強磁性体でも、いずれでもよい。
【0045】
尚、本発明において非強磁性体とは、常磁性体、反磁性体等の強磁性体以外の材料のことである。
【0046】
図6は図1のワイヤーハーネスの使用例を示す断面図である。図6に示すように、ワイヤーハーネス10は、強磁性絶縁電線1の内側に配置された磁石5の磁力により強磁性絶縁電線1が吸引されて結束されている。更にワイヤーハーネス10は、磁石5の磁力により鉄板等の車体20に直接固定することができる。そのため従来のワイヤーハーネスのように、クランプ、ホットメルト接着剤、両面テープ等のワイヤーハーネスを固定するための固定部材が不要である。
【0047】
また、車体20等のワイヤーハーネスを固定するための所定の位置に、磁石を配置して貼り付けておいてもよい。この場合、車体20の所定の位置の磁石に、ワイヤーハーネス10が吸引されるので、正確な位置に固定することが容易である。
【0048】
図7は図2のワイヤーハーネスの使用例を示す断面図である。図7に示すようにワイヤーハーネス10は、強磁性絶縁電線1の外側に配置した磁石5a、5bの磁力により吸引されていて結束されている。更にワイヤーハーネス10は、磁石5a、5bの磁力により、鉄板等の車体20に直接固定することができる。そのため従来のワイヤーハーネスのように、クランプ、ホットメルト接着剤、両面テープ等のワイヤーハーネスを固定するための固定部材が不要である。
【0049】
本発明のワイヤーハーネスは、自動車用ワイヤーハーネスとして好適に用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例、比較例を示す。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
実施例1
強磁性絶縁電線1として、Ni−Znフェライトの磁性粉末をポリエチレンに練り込んだ絶縁体3により導体2を被覆した被覆電線を21本用いた。上記強磁性電線1の比透磁率は10であった。また結束材5として、ネオジウム鉄からなる磁石(φ10mm×30mm)を用いた。図1に示すように結束材5の周囲に上記強磁性絶縁電線1を配置してワイヤーハーネス10を構成した。このワイヤーハーネス10は磁石からなる結束材5により結束されていて、その電線結束性は良好であった。
【0052】
比較例1
実施例1の電線の絶縁体を磁性粉末を練り込まないポリエチレンに代えた絶縁電線を準備した。上記絶縁電線の比透磁率は1であった。この電線を21本用いて実施例1と同様にして磁石線材を用いてワイヤーハーネスを構成しようとしたが、電線を結束することができなった。
【符号の説明】
【0053】
1 強磁性絶縁電線
2 導体
3 強磁性体からなる絶縁体
5 磁石からなる結束材
10 ワイヤーハーネス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも絶縁体が強磁性体からなる強磁性絶縁電線と、磁石からなる結束材を用い、複数本の前記強磁性絶縁電線が前記結束材に吸引されて前記強磁性絶縁電線が結束していることを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記結束材の外側に前記複数本の前記強磁性絶縁電線が配置されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記複数本の強磁性絶縁電線の外側に結束材が配置されていることを特徴とする請求項1記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記結束材が、最大エネルギー積〔(BH)max〕が2kJ/m以上の永久磁石からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記強磁性体が、比透磁率(μ)が2以上の高透磁率材料からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−234640(P2012−234640A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100672(P2011−100672)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】