説明

ワイヤーロープ固定具

【課題】交差するワイヤーロープをその交差部で固定する際、受け金具と押さえ金具とを強い力で締め付けなくても、回転や滑りの虞なく所定の固定力で固定できるワイヤーロープ固定具を提供する。
【解決手段】受け金具10と押さえ金具20とによりワイヤーロープの交差部を固定するものであり、両金具の対向面側に、一方のワイヤーロープR1、又は他方のワイヤーロープR2が嵌る第1のロープ受け溝13,23を対向時に交差方向をなすように形成し、この溝の両端部分に凸部16,26を設け、両金具の対向面における相対する他方側の金具の第1のロープ受け溝23,13の両端部分と対向する領域の外方部に、他方側に向かって突出する突起部14,24を設け、この突起部に、他方のワイヤーロープR2、又は一方のワイヤーロープR1が嵌る第2のロープ受け溝15,25を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として斜面保護のために交差して張設されるワイヤーロープを、その交差部で締結し固定するのに用いるワイヤーロープ固定具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、浮き石が点在する法面等の斜面の安定を図り、斜面の崩落や浮き石の落下を防ぐための斜面安定化工法として、傾斜地に多数本のワイヤーロープを縦横に交差して張り巡らす工法が知られている。
【0003】
このようなワイヤーロープを用いた斜面安定化工法は、ワイヤーロープの端部を地面に固定するとともに、ワイヤーロープの交差部を相互に結合して固定する必要があり、そのため交差している両ワイヤーロープを同時に締め付け固定できるワイヤーロープ固定具が利用されている。
【0004】
このようなワイヤーロープ固定具としては種々の提案がなされており、例えば、下記の特許文献1および特許文献2には、平面的にほぼ等しい形状で上下で対をなす受け金具と押さえ金具とからなり、該受け金具と押さえ金具の対向面側には、それぞれ交差した2本のワイヤーロープが嵌る第1と第2のロープ受け溝が交差方向をなして、かつ両金具の対向状態において対向位置するように設けられたワイヤーロープ固定具が提案されている。前記第2のロープ受け溝は、他方側の金具の第1のロープ受け溝と対向して突出形成された突起部に設けられており、これによって、第1のロープ受け溝に嵌るワイヤーロープを締め付けて固定できるようになっている。
【0005】
そして、特許文献1の場合は、固定する2本のワイヤーロープの回転や滑りを防止する目的で、第1のロープ受け溝の中央部の1個所に、前記突起部により溝側面から内方に張り出して溝幅を狭める凸部を設けておき、両金具の締め付けにより交差するワイヤーロープを狭小部に押し込むことで係合状態にして固定するようにしている。また、特許文献2の場合は、前記突起部と対向する第1のロープ受け溝の内面に複数の突出部を設けておき、両金具の締め付けによりワイヤーロープに対して複数個所でくい込ませるようにしている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の場合は、中央部の1個所でワイヤーロープを押し込み変形させて係合させるだけであるため、回転および滑り防止の効果が弱く、両金具の締付け力(トルク)をかなり強くする必要があり、そのため締付け固定等の施工作業に手数がかかるといった問題がある。
【0007】
また、特許文献2の場合は、第1のロープ受け溝内の突出部が複数個所でワイヤーロープに対してくい込むことになるため、ワイヤーロープが損傷するおそれがあり、耐久性が損なわれる虞もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−30039号公報
【特許文献2】特開2008−8093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなしたものであり、交差する2本のワイヤーロープをその交差部で固定する際、ワイヤーロープの交差部位置からやや離れた2個所で互い違いのかみ合わせ形態を利用した屈曲形状にして係合させることにより、受け金具と押さえ金具とを過度に強い力で締め付けなくても、回転や滑りの虞なく所定の固定力で容易に固定できるワイヤーロープ固定具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決する本発明は、ボルト締結手段により締結可能な上下で対をなす受け金具と押さえ金具とからなり、交差した2本のワイヤーロープをその交差部において前記受け金具と押さえ金具により両側から挟み付けて固定するワイヤーロープ固定具であって、前記受け金具と押さえ金具の互いの対向面側には、それぞれ交差した2本のワイヤーロープのうちの一方のワイヤーロープ、又は他方のワイヤーロープが嵌る第1のロープ受け溝が対向状態において交差方向をなすように形成されるとともに、該第1のロープ受け溝の両端部分に溝内に突出する凸部が設けられ、前記受け金具と押さえ金具の対向面におけるそれぞれ相対する他方側の金具の第1のロープ受け溝の両端部分と対向する領域の外方部には、他方側に向かって突出する突起部が設けられ、交差した2本のワイヤーロープのうちの他方のワイヤーロープ、又は一方のワイヤーロープが嵌る第2のロープ受け溝が該突起部に設けられてなることを特徴とする。
【0011】
このワイヤーロープ固定具は、交差した2本のワイヤーロープの交差部の下側に受け金具を、上側に押さえ金具をそれぞれ配して、交差したワイヤーロープの一方と他方をそれぞれ受け金具と押さえ金具の第1のロープ受け溝の位置に合わせて上下から挟み、地中に打ち込んだアンカーボルトや締結ボルト等のボルト締結手段により両金具を締結し固定する。このとき、交差した2本のワイヤーロープは、それぞれ前記受け金具と押さえ金具の第1のロープ受け溝と、これに相対する他方側の金具である押さえ金具と受け金具の外方に有する突起部に形成された第2のロープ受け溝とに嵌り込んで締め付けられることで、交差状態に固定される。
【0012】
すなわち、前記の締付けにより、第1のロープ受け溝に嵌り込んだ2本のワイヤーロープは、それぞれ該第1のロープ受け溝の長手方向の中央部においてワイヤーロープ同士が交差した状態でそれぞれ第1のロープ受け溝の溝底に強く圧接されるとともに、第1のロープ受け溝の両端部分の凸部を乗り越えて外方に延出した部分が相対する他方側の金具の突起部により互い違いのかみ合わせ形態をなすように押さえられて屈曲し、第1のロープ受け溝の両側開口端とその外方の突起部の内側端にそれぞれ係合した状態になる。
【0013】
特に、前記第1のロープ受け溝に嵌り込んだ2本のワイヤーロープは、該第1のロープ受け溝の両端部分に有する凸部に乗り上げることにより、その内方部分が交差部位置を中心にして屈曲し、さらに該凸部を乗り越えた部分において、前記のように他方側の突起部により互い違いのかみ合わせ形態をなすように押さえられて反対方向に屈曲することで、全体としてはM字形状又は逆M字形状に屈曲した状態となる。そのため、ワイヤーロープ同士が屈曲した中央の交差部で係合することに加えて、交差部位置からやや離れた金具側面の2個所でも反対方向に大きく屈曲して、第1のロープ受け溝の両側開口端とその外方の突起部の内側端に対して確実に係合できることになり、以てワイヤーロープの長手方向の荷重に対し必要な固定力を容易に得ることができ、2本のワイヤーロープを回転や滑りの虞なく確実に固定できる。
【0014】
前記のワイヤーロープ固定具は、第1のロープ受け溝が断面円弧状をなすとともに、前記凸部が金具側面の開口端に沿って第1のロープ受け溝に対し斜め方向の円弧状をなしているものとすることができる。これにより、第1のロープ受け溝に嵌るワイヤーロープを所定位置に安定性よく保持できる。前記凸部が、頂部を面取り形成した断面三角形状をなしているものが好ましく、これにより、ワイヤーロープを損傷することなく強く押圧して屈曲させることができる。
【0015】
前記のワイヤーロープ固定具において、前記受け金具及び押さえ金具の突起部が、両金具の対向面領域より5mm程度外方に設けられており、前記受け金具と押さえ金具を対向させて締結したときに、該突起部が第1のロープ受け溝の凸部と互い違いになってワイヤーロープを屈曲変形させて挟み込むように設けられてなるものが好ましい。これにより、交差したワイヤーロープは、受け金具及び押さえ金具の外側で互い違いに屈曲した状態にになって、係合状態に良好に保持される。
【0016】
前記のワイヤーロープ固定具において、受け金具及び押さえ金具には、長手方向の両側部分にそれぞれボルト締結手段による締結用孔が形成され、一方側部分の両金具の締結用孔はアンカーボルトによる締結用の貫通孔であり、他方側部分の受け金具の締結用孔はネジ孔であり、押さえ金具の締結用孔を通した締結ボルトを下方向きに螺合できるように形成されてなるものとすることができる。これにより、受け金具と押さえ金具のアンカーボルトへの固定、両金具の締結操作を容易に行える。
【発明の効果】
【0017】
本発明のワイヤー固定具によれば、交差する2本のワイヤーロープをその交差部で固定する際、2本のワイヤーロープの交差部位置からやや離れた2個所で互い違いのかみ合わせ形態によって、受け金具と押さえ金具とを過度に強い力で締め付けて締結しなくても、ワイヤーロープの長手方向の荷重に対し必要な固定力を容易に得ることができ、2本のワイヤーロープを回転や滑りの虞なく安定性よく強固に固定することができ、長期にわたって緩みの虞のない固定状態を保持できる。
【0018】
さらに、前記のように過度に強い締め付け力(トルク)は必要でないため、締付け固定等の施工作業が容易になり、作業性を向上でき、またワイヤーロープに対して過度にくい込むことがないため、ワイヤーロープが損傷するおそれもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のワイヤーロープ固定具の1実施例を示す受け金具と押さえ金具を分離した斜視図である。
【図2】同上の受け金具の平面図である。
【図3】前図のIII−III線の拡大断面図である。
【図4】同上の押さえ金具の下方から見た平面図である。
【図5】同上のワイヤーロープ固定状態の略示斜視図である。
【図6】同上のワイヤーロープ固定具部分の平面図である。
【図7】図6のVII−VII線の断面図である。
【図8】図6のVIII−VIII線の断面図である。
【図9】図6のIX−IX線の断面図である。
【図10】他の実施例の使用状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に本発明の実施の形態を図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0021】
図において、Aは本発明の実施例に係るワイヤーロープ固定具であり、例えば傾斜地等の斜面に多数本のワイヤーロープを縦横に交差して張り巡らす斜面安定化工法において、縦横に交差した2本のワイヤーロープR1,R2を、その交差部において固定するものであり、図のように上下に交差する2本のワイヤーロープR1,R2の交差部を、上下に対向して対をなす受け金具10と押さえ金具20とよりなる。
【0022】
前記受け金具10及び押さえ金具20は、それぞれ平面的に同形の長円形に形成され、その長手方向の両側部分に、締結用孔11a,11bおよび21a,21bがそれぞれ設けられ、該締結用孔11a,11bおよび21a,21bを利用して適宜のボルト締結手段により例えば図のように該締結用孔11a,21aに貫挿できる干せると締結手段としてのアンカーボルト31や締結ボルト32等により締結可能に構成されており、該締結手段による両金具の締め付け締結により、後述のようにして交差する2本のワイヤーロープR1,R2の交差部を挟圧して固定できるようになっている。
【0023】
図の場合、前記受け金具10の一方の締結用孔11bは、内周にネジが切られたネジ孔として形成されており、締結ボルト32を相手側の押さえ金具20の締結用孔21bを通して下方向きに螺合して両金具を締結できるように形成されている。
【0024】
前記受け金具10および押さえ金具20には、両金具の互いの対向面側に、それぞれ交差した2本のワイヤーロープR1,R2のうちの下側になる一方のワイヤーロープR1又は上側になる他方のワイヤーロープR2が嵌る第1のロープ受け溝13及び23が、該両金具の対向状態において互いに中央部で主として直角の交差方向をなすようにそれぞれ形成されている。
【0025】
さらに、前記受け金具10及び押さえ金具20の対向面側には、相対する他方側の金具、例えば受け金具10の場合は押さえ金具20、押さえ金具20の場合は受け金具10のそれぞれの前記第1のロープ受け溝23及び13の両端部分と対向する領域のやや外方部に、他方側に向かって突出する突起部14及び24が設けられており、該突起部14及び24の突出側端面に、前記受け金具10及び押さえ金具20の両金具の対向状態において他方側の金具の前記第1のロープ受け溝23又は13の延長上において上側になる他方のワイヤーロープR2、又は下側になる一方のワイヤーロープR1が嵌る第2のロープ受け溝15及び25がそれぞれ設けられている。
【0026】
すなわち、前記受け金具10には、一方のワイヤーロープR1が嵌る第1のロープ受け溝13が形成されるとともに、該溝と交差する方向の外方部に突起部14及び他方のワイヤーロープR2が嵌る第2のロープ受け溝15が形成され、また、前記押さえ金具20には、他方のワイヤーロープR2が嵌る第1のロープ受け溝23が形成されるとともに、該溝と交差する方向の外方部の突起部24及び一方のワイヤーロープR1が嵌る第2のロープ受け溝25が形成されている。
【0027】
前記第1のロープ受け溝13,23及び第2のロープ受け溝15,25は、いずれも使用するワイヤーロープR1,R2が余裕を持って嵌り込み得る幅を持って、かつワイヤーロープR1,R2の半径より大きい半径の断面円弧状をなしている。必ずしも断面円弧状である必要はないが、該溝に嵌り込むワイヤーロープの位置決めや保持状態での安定性等の点から図のような断面円弧状にしておくのが好ましい。通常、第2のロープ受け溝15,25は第1のロープ受け溝13,23より浅く形成される。
【0028】
前記受け金具10と押さえ金具20のそれぞれの第1のロープ受け溝13,23の両端部分には、溝内に突出する凸部16,26が設けられている。この凸部16,26の形状及び高さ等は特に限定されないが、実施上は、図のように金具側面での第1のロープ受け溝13,23の開口端に沿って第1のロープ受け溝13,23に対し斜め方向の円弧状をなしているものが好ましい。前記の凸部16,26の形状は、図4に凸部16のみを拡大して示しているように、その頂部16aを僅かに丸みのある形状もしくは平面をなすように面取り形成した断面三角形状をなしているのが、ワイヤーロープR1,R2に対し傷をつけることなく屈曲させることができ、特に好ましい。もちろん、第1のロープ受け溝13,23に嵌るワイヤーロープを乗り越えさせて屈曲させることができる種々の断面形状による実施が可能である。
【0029】
前記凸部16,26の高さは、前記第1のロープ受け溝13,23の最深部で溝深さの1/3〜2/3、好ましく1/2程度とし、第1のロープ受け溝に嵌り込んだワイヤーロープが溝から離脱することなく乗り越えることができる程度に設定される。
【0030】
前記受け金具10及び押さえ金具20の突起部14,24は、両金具を対向させて締結した使用状態において、他方側の第1のロープ受け溝23,13の開口端との間に使用されるワイヤーロープR1,R2が屈曲して通る間隙を保有できるように形成され、使用するワイヤーロープR1,R2の径によっても異なるが、通常、両金具の対向面領域より3〜10mm程度、好ましく5〜8mm程度外方に設けられ、前記受け金具10と押さえ金具20を対向させて締結したときに、該突起部14,24が第1のロープ受け溝13,232の凸部16,26と互い違いになってワイヤーロープR1,R2を屈曲変形させて挟み込めるように形成される。
【0031】
上記のような構成のワイヤーロープ固定具Aの使用状態について説明する。例えば、図5のように斜面の崩落や浮き石の落下を防ぐために、傾斜地に多数本のワイヤーロープを縦横に交差して張り巡らす斜面安定化工法において、交差した2本のワイヤーロープR1,R2の交差部の下側に受け金具10を、上側に押さえ金具20をそれぞれ配して、交差した2本の4ワイヤーロープR1,R2の一方と他方をそれぞれ受け金具10と押さえ金具20の第1のロープ受け溝13、23の位置に合わせて上下から挟み、地中に打ち込み埋設したアンカーボルト31のボルト部31aを、両金具の締結用孔11a,21aに通して受けナット33と締付けナット34により締結し、さらに締結ボルト32を押さえ金具20の締結用孔21bに通して受け金具10のねじ孔よりなる締結用孔11bに螺合して締結して固定する。
【0032】
このとき、交差した2本のワイヤーロープR1,R2は、それぞれ前記受け金具10と押さえ金具20の第1のロープ受け溝13,23と、これに相対する他方側の金具である押さえ金具20と受け金具10の外方に有する突起部24、14に形成された第2のロープ受け溝15、25とに嵌り込んで締め付けられることで、交差状態に固定される(図6〜図9)。
【0033】
特に、前記の締付けにより、第1のロープ受け溝13,23に嵌り込んだ2本のワイヤーロープR1,R2は、それぞれ第1のロープ受け溝13,23の長手方向の中央部においてワイヤーロープR1,R2同士が交差した状態でそれぞれ第1のロープ受け溝13,23の溝底に強く圧接されるとともに、該第1のロープ受け溝13,23の両端部分の凸部16,26を乗り越えて外方に延出した部分が、相対する他方側の金具、すなわち受け金具10から見て押さえ金具20及び押さえ金具20から見て受け金具10の各突起部24,14により互い違いのかみ合わせ形態をなすように押さえられて屈曲し、交差部位置から両側に離れた2個所で前記第1のロープ受け溝13,23の両側開口端とその外方の突起部24,14にむの内側端にそれぞれ係合した状態になる。
【0034】
特に、前記第1のロープ受け溝13,23に嵌り込んだワイヤーロープR1,R2が、それぞれ前記第1のロープ受け溝13,23の両端部分に有する凸部16,26に乗り上げることにより、その内方部分が図8及び図9のように、交差部位置を中心にして屈曲、すなわち下側のワイヤーロープR1は上向きに略V字形に、上側のワイヤーロープR2は下向きに逆V字形に屈曲し、さらに、凸部16,26を乗り越えた部分において、前記のように他方側の突起部24,14により押さえられてそれぞれ反対方向に屈曲することで、全体としてM字形状又は逆M字形状に屈曲した状態になり、そのため、ワイヤーロープR1,R2同士が屈曲した中央の交差部で係合することに加えて、交差部位置からやや離れた金具側面の2個所でも反対方向に大きく屈曲して、第1のロープ受け溝13,23の両側開口端とその外方の他方側の突起部24,14の内側端に対して確実に係合できることになり、以て、ワイヤーロープR1,R2の長手方向の荷重に対し必要な固定力を容易に得ることができ、交差した2本のワイヤーロープR1,R2を回転や滑りの虞なく確実に固定できる。
【0035】
しかも、前記第1のロープ受け溝13,23の両端部分の凸部16,26は、頂部を面取り形成した断面三角状を成していることで、ワイヤーロープR1,R2に対して過度にくい込んだりして傷つけることなく屈曲でき、係合状態を良好に保持できる。
【0036】
これにより、2本のワイヤーロープR1,R2の交差部位置からやや離れた2個所での第1のロープ受け溝13,23の両端部分の凸部16,26と、他方側の突起部24,14との互い違いのかみ合わせ形態によって、受け金具10と押さえ金具20とを過度に強い力で締め付けなくても、ワイヤーロープの長手方向の荷重に対し必要な固定力を容易に得ることができ、ひいては、ワイヤーロープを縦横に交差して張り巡らす斜面安定化工法において、ワイヤーロープの交差部を固定するためのワイヤーロープ固定具Aの締結操作を容易に作業性よく行えることにもなる。
【0037】
なお、上記した実施例のワイヤーロープ固定具Aにおいては、受け金具10におけるアンカーボルト31に締結固定する締結用孔11aとは別の締結用孔11bをネジ孔として、押さえ金具20の締結用孔21bに通した締結ボルト32を該締結用孔11bに直に螺合することにより、受け金具10と押さえ金具20の両金具を締結する場合を示したが、このほか、例えば図10のように、前記締結用孔11bを締結ボルト32を挿通できるネジなしの貫通孔として、両金具の締結用孔11b,21bに締結ボルト32を通して締付けナット35により締付けて締結固定することもできる。
【0038】
また、本発明のワイヤーロープ固定具Aは、ワイヤーロープを縦横に交差して張り巡らす斜面安定化工法において、アンカーボルトに固定する場合のほか、2本のワイヤーロープの交差部分を単に結合固定するだけの場合にも使用でき、この場合前記アンカーボルトに変えて、締結ボルトを使用して締付けナットにより締め付け固定する。
【符号の説明】
【0039】
A…ワイヤーロープ固定具、R1,R2…ワイヤーロープ、10…受け金具、11a,11b…締結用孔、13…第1のロープ受け溝、14…突起部、15…第2のロープ受け溝、16…凸部、16a…頂部、20…押さえ金具、21a,21b…締結用孔、23…第1のロープ受け溝、24…突起部、25…第2のロープ受け溝、26…凸部、31…アンカーボルト、31a…ボルト部、32…締結ボルト、33…受けナット、34…締付けナット、35…締付けナット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルト締結手段により締結可能な上下で対をなす受け金具と押さえ金具とからなり、交差した2本のワイヤーロープをその交差部において前記受け金具と押さえ金具により両側から挟み付けて固定するワイヤーロープ固定具であって、
前記受け金具と押さえ金具の互いの対向面側には、それぞれ交差した2本のワイヤーロープのうちの一方のワイヤーロープ、又は他方のワイヤーロープが嵌る第1のロープ受け溝が対向状態において交差方向をなすように形成されるとともに、該第1のロープ受け溝の両端部分に溝内に突出する凸部が設けられ、前記受け金具と押さえ金具の対向面におけるそれぞれ相対する他方側の金具の第1のロープ受け溝の両端部分と対向する領域の外方部には、他方側に向かって突出する突起部が設けられ、交差した2本のワイヤーロープのうちの他方のワイヤーロープ、又は一方のワイヤーロープが嵌る第2のロープ受け溝が該突起部に設けられてなることを特徴とするワイヤーロープ固定具。
【請求項2】
前記第1のロープ受け溝が断面円弧状をなすとともに、前記凸部が金具側面の開口端に沿って第1のロープ受け溝に対し斜め方向の円弧状をなしている請求項1に記載のワイヤーロープ固定具。
【請求項3】
前記凸部が、頂部を面取り形成した断面三角形状をなしている請求項1又は2に記載のワイヤーロープ固定具。
【請求項4】
前記受け金具及び押さえ金具の突起部が、両金具の対向面領域より5mm程度外方に設けられており、前記受け金具と押さえ金具を対向させて締結したときに、該突起部が第1のロープ受け溝の凸部と互い違いになってワイヤーロープを屈曲変形させて挟み込むように設けられてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイヤーロープ固定具。
【請求項5】
受け金具及び押さえ金具には、長手方向の両側部分にそれぞれボルト締結手段による締結用孔が形成され、一方側部分の両金具の締結用孔はアンカーボルトによる締結用の貫通孔であり、他方側部分の受け金具の締結用孔はネジ孔であり、押さえ金具の締結用孔を通した締結ボルトを下方向きに螺合できるように形成されてなる請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤーロープ固定具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−21545(P2012−21545A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157906(P2010−157906)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(300003721)株式会社ニッタン (2)
【Fターム(参考)】